• 龍奏

【龍奏】陸路開通。30ミリ弾を背に乗せて

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2016/04/19 15:00
完成日
2016/04/21 16:48

みんなの思い出

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オープニング

●数日前
 正のマテリアルが噴出した。
 大地と大気に満ちる負のマテリアルとぶつかり合い反発しあう。
 拮抗し地面と空気がひび割れたように見えたのは一瞬だけ。
 量を減らしながら真っ直ぐに北へと突き進み、しかし150メートルの地点でいきなり速度を増して遙か彼方まで伸びて消えた。
「あれ?」
 聖堂教会から出向中の浄化担当にして聖堂教会司祭のイコニア・カーナボン(kz0040)が、小首をかしげて何度かメイスを振った。
 手応えが変だ。
 浄化を無効化する歪虚でも出現したのだろうか。
『司祭殿、敵襲ですか! 今そちらに向かっています。なんとか持ち堪えて……』
 トランシーバーから友軍の声が聞こえる。
 南から魔導トラック数台分の騒音が急速に迫る。
 どれも飛行竜種に備えて機銃が搭載されていて、全て集まれば2頭程度のワイバーンなら撃退できるはずだった。
「うん」
 イコニアはメイスを握りしめて気合を入れる。
 北での戦いではハンター大活躍で自分は護衛に囲まれているだけで戦士としての出番がなかった。
 浄化が終わればメイスを振るうこともなく王国に帰還するのかとこっそり落胆していたけれど、どうやら今これから歪虚相手に戦えるらしい。
『イニシャライザーは無事か! 糞、今のは何だ。何が起こった』
『分かりません! カム・ラディで撃退した歪虚の残党はここには来ていないはずですが……』
 この場にいないはずの人間の声が、同じトランシーバーから複数聞こえた。
「えっ?」
 数日前カム・ラディの転移門前で別れの挨拶をした、ハンターと各国有志の声だ。
 そんな彼等の声が何故聞こえるのだろうと、イコニアはすっかり混乱してしまっていた。
『でかいのが来るぞ。範囲攻撃持ちの一斉射で吹き飛ばし……って何あれ』
『司祭の嬢ちゃんじゃねーか』
「司祭の嬢ちゃんじゃねーか」
 北から肉声まで聞こえて来た。
「と……止まってくださーいっ! こちら北伐続行中の浄化班です。カム・ラディの偵察班さんっ、友軍です、どっちも止まってくださーいっ!」
 帝国からカム・ラディに続く陸路の開通の瞬間は、そんな喜劇風の光景だった。

●集う力と不可避の混沌
 馬車が1列で北に向かう。
 CAMや魔導アーマー用の巨大剣を荷台に固定した馬車がが時折バランスを崩しそうになり、長時間揺られてきた整備技術持ちが袋に手を伸ばす。
 馬車の車列には極少数ではあるが魔導トラックや幻獣も含まれている。
 車載武器や逞しい体はとても頼もしく、馬はたびたび彼等を見て怯えを振り払っているようだ。
「終わった」
「終わりました」
「長かったですねぇ」
 外見的な共通点が1つもない男女が、道から数メートル離れた場所から車列を見守っている。
 清潔なのに何故か薄汚れた印象がある。
 長期間人里離れて歪虚の襲撃に備えながら戦い続けたので、心身の疲労が骨まで染みているのかもしれい。
「CAMが見えないな」
 左右を見る。
 イェジドやリーリーは複数いるのに、CAMや魔導アーマーは皆無だ。
「もう遺跡に着いてるらしいですよ。それにほら」
 幻獣達の背を示す。
 30ミリ弾や105ミリ弾が詰まっているらしい木箱が、逞しい体にくくりつけられている。
 魔導トラックの場合、大重量で取り扱い注意な木箱が複数荷台に積まれている。
「CAMより輸送に向いてるでしょうから」
「確かに……。歪虚と戦いながらならどうなるか分かりやせんが、安全地帯なら……安全?」
 この中で最も長い戦歴を持つ傭兵が、肝心なことに気づいて顔を青くした。
 疲労と安堵で鈍った頭が熱を持つ。
 イニシャライザーで浄化されているとはいえここは敵地だ。敵襲は十分あり得る。
 なにより問題なのはトラックを含むユニット群が輸送に特化し過ぎていることだ。
 トラック荷台の車載銃が弾薬で埋まっていたりイェジドやリーリーが過重でよろめいていたりで戦闘の役に立ちそうにない。
「司祭様まずいですよこれ。すぐに増援……カム・ラディだけでなくハンターズソサエティに増援要請をっ」
「はい、あの、しますけど増援もういますよ?」
 イコニアがあなた達をちらりと見る。
「幻獣さん達も戦えますし」
 反論はしても通信機の操作は止めない。符丁を言い増援を要請した後、詳しい説明を求めて歴戦の傭兵に向き直った。
「戦うために荷物を下ろしたら弾薬が衝撃を受けやす。暴発するかもしれねぇ弾をCAMに渡す訳にはいかんで」
「歪虚が来たぞー!」
「東、西からもだ。リザードマンだけでなくワイバーンもいるぞっ!」
 美しい直線を描いていた車列が無惨に乱れた。

●依頼
 あなたはユニットの護衛依頼をうけてこの場にいる。
 カム・ラディ周辺の哨戒を請け負ってたまたまこの場にいるのかもしれないし、単に見物のつもりでこの場を訪れたのかもしれない。
 いずれにせよやることは1つだ。
 不意を打たれたユニット群を救うことで、カム・ラディ以北で戦うCAMと友軍のための輸送を成功させなくてはならない。

リプレイ本文


 サーシャ・V・クリューコファ(ka0723)は運転席から飛び降りた。
「悪い、運転代わってくれ……ゆっくり、揺らさないように頼むよ」
 助手席の女性整備士に声をかける。
 落ち着いたサーシャの声を聞き安堵したのだろう。
 運転席に滑り込みほんの少しだけアクセルを踏んだ。
「包囲のど真ん中か……嫌な位置だ」
 西から迫るリザードマンの顔がはっきりと見える。
 距離は10メートル強。サーシャが装備中のスナイパーライフルでは近すぎて当てられない。
 歪虚は作戦に成功しようが失敗しようが全滅確定。その顔には壮絶な笑みを浮かんでいた。
 風もないのに銀の髪が揺れ先端が淡く輝く。
 その数倍の密度と量の光が3つに別れて3体のリザードマンにめり込んだ。
 歪虚が総鉄製棍棒を振りかぶる。逃げ遅れたトラック荷台の弾薬箱に、秒もかからず命中するはずだった。
「薄汚い歪虚どもが。一体残らず浄化してやる」
 地獄の獄卒すら裸足で逃げ出しそうな怒声が大気を震わせた。
 雪の照り返しよりはるかに強い光が歪虚の先頭集団を照らし、端から崩して消滅させていく。
 龍鉱石製の壁が動いている。
 実際には重装備のセリス・アルマーズ(ka1079)が非常識な大きさの盾を軽々扱っているのだが、それを認識するほど余裕のあるのはハンターだけだ。
「狙ったのか偶然か知らないけど、いやらしい配置だよ、敵さん」
 セリスが撃ち漏らした2体に止めを、1体に深手を負わせた時点でトランシーバーが反応する。
『ワイバーン2の牽制を要請っ』
 認識した瞬間、サーシャは至近のリザードマンを無視して反対側に向け長大なライフルを構えた。
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の馬が斜め横に跳ぶ。
 馬の側面とアデリシアの肌をかすめるように炎が伸び、地面の雪を一瞬で蒸発させる。
「神々よ」
 細い足に軽く力を込める。
 戦馬は炎が消えた瞬間ワイバーンに向けて駆ける。
「理に背いたものに裁きを」
 杭が現れる。激しく輝いているはずなのに生き物の目を痛めない。
「裁きを」
 光がアデリシアを追い抜きワイバーンの横っ腹に突き立った。
 杭を中心に鱗にひびが入り血が吹き出る。
 それだけでも大きな戦果だが、杭を構成する力が負マテリアルの流れを乱してワイバーンの足を止める。
「ワイバーン2移動不能。長くはもたない」
 アデリシアは喜びもせず確度の高い推測だけを口にする。
 手綱を操作する時間もない。戦馬は主の意思を先読みして歪虚から離れた。
 ワイバーンが腰を捻る。口が開くのと炎が溢れるのはほぼ同時。
 アデリシアが直撃を半ば覚悟したとき、ワイバーンの頭が不自然に揺れて炎が横に逸れた。
「……意外と当たるんだね」
 40メートルの距離もサーシャにとっては至近も同じ。
 二度目の弾を大型ワイバーンの後頭部に撃ち込んで、アデリシアが後退する時間を稼いだ。
「ロニ、合流できそうか」
「敵が散開中だ。時間がかかる」
 ロニ・カルディス(ka0551)は10近い敵を引きつけるため戦闘開始直後から全力で動き続けている。余裕は全くない。
「セリスは」
「少し時間がかかる」
 怯えた馬車馬がいて馬車の避難が遅れているため、セリスも攻撃に専念できない。
「イコニア、幻獣の相手は任せる」
「えっ、えぇっ!?」
 慌てる司祭を残してザレム・アズール(ka0878)ばアクセルを踏み込んだ。
 高速の魔導バイクにとって生身の戦場は狭い。
 瞬く間にワイバーンに迫り、左右に広がる炎に出迎えられた。
 ザレムが体を倒す。
 炎の端がバイクに当たり、しかしザレムが予め構えていた盾に受け止められる。
 体を地面と垂直に。熱をもった盾が冷たい空気を揺らめかせた。
 分厚い防御と、なによりザレム本人の回避と受けの技によってダメージは微量だ。
「2発直撃で危険域か」
 ザレムは敢えて近づきワイバーンの注意を引きつけ、得物にマテリアルを流す。
 魔導拳銃を起点に三角形、3直線が現れ歪虚の巨体に到達する。
 外見はサーシャの術に近く中身は別物だ。竜種としては小さな巨体を深く焼いて痛みを与える。
 ワイバーンの絶叫が大気を揺らして雪を上下に揺らす。
「幻獣さん下がってください弾薬箱ですりすりしないで~っ」
 イコニア・カーナボン(kz00409)の情けない声が聞こえる。正直全く余裕はなさそうだ。
「他に手がないか。……仕掛ける!」
 アデリシアはブレスが来ないタイミングの攻撃を諦めた。
 法術の射程ではなく白兵武器の間合いまで近づいて、白銀のワイヤーにマテリアルを乗せワイバーンの尻尾に引っかけた。
 ワイヤーが鱗にめり込む。熱したバターとまではいかないが粘土程度に切れそうだ。
 いやいやするように歪虚が体を左右に揺らす。
 イコニアがちらりと見て手に汗握る。そのまま竜種の尻尾を切断できると思ったらしい。
 アデリシアは力を抜いてワイヤーを引き戻す。
 2秒遅れて彼女の手首があった場所を鋭い竜爪が通過。彼女が見た通りに敵は頑丈で、彼女の感じた通りに敵の頭は軽かった。
「ここまでお膳立てされてはな!」
 ザレムは大剣に持ち替える。
 内蔵された魔導機械がマテリアルに反応して動き出す。
 強力なマテリアルが鍛え抜かれた技で威力のある力に変換され、魔導機械がさらに底上げして光として放つ。
 ワイバーンの喉、腹、肩に小さな焦げ目が出来る。奥の筋と脂肪が光に負けて形を失い膨張し、焦げ目ごと内側から破裂した。
「トラックが……」
 消滅していく歪虚を無視して振り返る。
 運転手の技量の割に避難は進んでいるものの、ザレム達の進路を阻む壁になってしまっていた。


 かつてハンターを悩ませた歪虚汚染も、イニシャライザーが貸し出されるようになってからは深刻な脅威ではなくなった。
 ただ、運転専門の非覚醒者や馬車馬にまで行き渡るほどの数はないのも厳然たる事実だった。
「イニシャライザーは任せてよ!」
 戦闘開始直後に日高・明(ka0476)が宣言する。
 それだけで非戦闘の動揺が改善に向かう。
「義を見てせざるは勇なきなり、ってね!」
 特大サイズの龍鉱石に背を向け大型銃器の引き金を引く。
 重い音を伴い弾が撃ち出される。
 こちらに直進してきたリザードマンの腹が凹み、苦痛に悶える前に額に小さな穴を開けられ止めを刺された。
「悪いけど、イニシャライザーには近づけさせないわ」
 白金 綾瀬(ka0774)の手には印象的にも物理的にも重厚なライフルがある。
 覚醒者用の弓に匹敵する射程と竜種の鱗を抜く威力を兼ね備えた逸品だ。
 威力と射程が優れている分至近距離での戦闘は考慮されていない。
「僕がひきつける!」
 明は東方製ライフルを自分の背中に放る。
 細い鎖に誘導されて銃が背中におさまり、腰から引き抜かれた盾と太刀がぎらりと光を反射した。
「さあ! ぼくが相手になってやる。こおいいい!!」
 腹の底から声を出す。
 一歩も引かぬ……歪虚を追えない防御優先移動無視の構えをとっている。
 他のハンターに比べると守りがお粗末とでも誤解したのかもしれない。
 4体が明に向かって鉄棒を突き出す。
 明は太刀で右端の一本を受けてから鉄棒に沿って刃を動かし、リザードマンの左の手首に切れ目をつくる。見事なカウンターだ。
 2体が明を迂回し綾瀬に向かう。
 明はの鉄棒3本のうち2本を盾で受け、1本を着込んだ甲冑に当てられる。
「効いていない?」
 事前に使用したソウルトーチの効果が無いか、薄い気がする。
 リザードマンが雪中に伏せていたときなら視界が使えず敵の全てを引きつけられたかもしれない。
「でもっ」
 連続して盾で防ぎつつ太刀で突く。
 右端の歪虚の脇腹に当たり腹の中心までめり込み、断末魔も許さずその場で消滅させた。
「誰1人、死なせやしないっ!」
 自分が目立つほど敵が集まり避難中の人々が助かる。
 そのためなら痛みにも流血にも耐えられる。
 盾で受けても当たり所によっては痛い鉄棒に耐えに耐え、明は1体1体歪虚の体力を削っていった。
 綾瀬がたった1発でリザードマン1体を滅ぼす。
 その相棒らしいもう1体は、蜥蜴顔に恐怖と一緒に驚喜の感情を浮かべた。
 長距離戦なら100体でかかっても勝てない相手でも近づけば話は別だ。
 リザードマンが一撃で全てを決めるつもりで、綾瀬を無視して特大イニシャライザーに鉄棒を振り下ろす。
 軽い音が一度だけ聞こえ、歪虚の手から落ちた棒が雪に突き刺さる。
「やっと陸路が開通したのに、邪魔しないで欲しいわね」
 綾瀬は蜥蜴顔のこめかみに筒先を当て、拳銃から2発目の弾を飛ばして息の根を止めた。
「拙いわね」
 拳銃からライフルに持ち替える。
 北側のワイバーンが1体、馬車の車列に危険なほど近づいてしまっていた。
 戦場の北西で柊 真司(ka0705)の魔導バイク「ナグルファル」が加速する。
 MURASAMEブレイドが巨大化し恐ろしく強い光を放つ。
 ワイバーンの無事な片翼があっさりと斬り飛ばされて雪原に落下する。
 しかしワイバーンの動きは鈍らない。
 巨体の複数箇所に開いた亀裂から大量の体液を流しながら、前が邪魔で速度を出せない荷馬車に迫る。
「いい加減」
 大型歪虚が一瞬足を止めて炎をまき散らす。
 圧倒的な回避能力を持つ真司から見れば止まっているも同然だ。
 わずかに薄い分を選んで飛び込み、盾で払いのけてかすり傷未満ですます。
「倒れろ!」
 魔導バイクが限界以上の速度で真司を運び、真司は再度巨大化させた刃をワイバーンの腹に突き立てる。
 鱗が砕け肉と脂肪が刀身のレーザーで沸騰する。
 が、真司の攻撃は面での攻撃でも対集団攻撃でもなく対単体攻撃だ。これではどれほど威力があっても巨大歪虚を削りきるには時間がかかる。
「ならこれでどうだ」
 歪虚の真正面、巨体による攻撃を避けようのない場所へ躍り込む。
 ワイバーンは炎をためて車列を狙うか真司を狙うか迷う。
 車列を狙えば1割ほどの弾薬が変形しあるいは爆発して馬車馬が何頭か死んでいた。
 だが現実には、極めて強力な覚醒者を討つ好機に惑わされ真司に体当たりしてしまった。
「さすがに……重いな」
 光の防壁が割れてマテリアルが飛び散る。
 真司は防壁越しでも大きな被害を受けて口から血を吐き、ワイバーンは激しい衝撃を受けて数メートルの後退を強いられる。
 馬車馬が暴れ出す。御者が宥めようとしても効果が無い。
 ブレスチャージが完了し、ワイバーンの口にで炎が輝き解き放たれた。
 それより半秒前に銃弾が届いていた。
 アルコル改を構えた綾瀬が息を吐く。竜種の顎にめり込んだ弾丸から冷気が滲んで動きが鈍り、ブレスが何もない雪原を焼く。
 大型歪虚を短時間で倒せるような術も技も存在しない。だから綾瀬は焦らず逸らず敵の動きの精度を鈍らせ回避を許さず確実に当てていく。
 真司が刻んだ亀裂に弾が飛び込んでも歪虚は止まらない。
 一度押し戻されたのを警戒して真司には反撃せず車列を追い続ける。
「悪いけど、物資をやらせるわけにはいかないのよ」
 発砲。竜種の片眼が潰れて残骸が吹き出す。
 向きが変わって巨大な口が綾瀬を向いた。
「狙い撃つわ!」
 当たる前でも手応えがあった。
 弾が距離を詰め、砕けた瞳を通過し、骨を砕いて竜種の脳に飛び込み不気味な色のジュースに変える。
 ワイバーンは、地面に倒れる前に頭から消滅していった。


 真司に指示されたイコニアと手分けして車列に指示を出した後、ロニは窮地に陥っていた。
 敵は多くハンター以外の味方は頼りない。
 必然的に我が身を半ば囮にする戦いを強いられることになる。
「兎に角、こいつらを足止めせねばなるまい」
 一撃離脱などという上等な戦術は使えない。
 魔導バイクでリザードマンに触れるほど近づき注意を引きつけては他のリザードマンに向かうという、効果と比例して危険な走りを繰り返す。
 リザードマンが苛立ち動きが荒くなる。
 鉄棒がロニの頭をかすめ、突き出された鉄棒がバイクのタイヤを傷つける。
「一所に留まっている訳にもな。……去れ」
 ロニが持つ七色の刃が白一色に染まる。
 白は正負が釣り合った場の気配を正の方向へ傾け、セリスと比べても重く強い光を生みだし広がる。
 まずロニまで数メートルまで迫っていたリザードマンが消し飛び、次に鉄棒を投げようとしていた歪虚の横半分を消す。
「聖導士の若いの……ドワーフ? いや残りは俺達が押さえる、他の援護に向かってくれ!」
 司祭の護衛が道から離れてリザードマンの足止めに向かう。
 強さは様々だが1対1なら1分程度はもちそうだ。
「任せた」
 ロニは無意識に無毛の顎を撫で、散開しながら車列を追う歪虚の群れに突っ込んだ。
「む」
 無意識に命中率と威力を計算する。
 当たる。当たれば倒せる。問題は敵の回避性能。
 大鎌が白く光って歪虚を拒否する力を大きく広げた。
 光の杭より射程は短く範囲は広く、しかし敵が散開を終えているため3体しか巻き込めない。
「押し切れる」
 セリスがつぶやく。
 ワイバーンは全滅、残ったリザードマンは明の相手にしている1体とロニ周辺のが3体。セリスは受け持ちと護衛が足止めしたのを処理し終えている。
「イコニアく~ん。リザ公1匹潰しとく?」
「私の個人の望みより人類の勝利が優先……って逃げるなこのーっ」
 司祭と目があったリザードマンが、心底嫌そうな顔をして進路を変えた。
 一か八か車列の最後尾に向かって走り、人類軍の兵站に一撃を浴びせるつもりだ。
「戦場の駆け引きもまだまだだわ」
 セリスの見たところ戦技はイコニアが上、腕力と体力はリザードマンが上だ。
 勝っても瀕死で良い経験になると思ったのだが、予想よりイコニアの中身が残念だった。
「ならこれ必要ない」
 光弾がリザードマンの米神から反対の米神に抜ける息の根を止める。
 ロニのセイクリッドフラッシュが最後の歪虚集団を消滅させ、車列に被害が無い状態での勝ちが確定した。


 足をくじいた馬車馬がアデリシアのヒールで癒され、エンストしたトラックがザレムに応急修理され北へ向かう。
 イコニアはカム・ラディのある方向を向いて、感慨深げに目を細めた。
「長い間お疲れさん。よく頑張ったなぁ」
 戦塵にまみれた髪を真司が撫でる。
「えへへ……じゃなくてまだ作戦中です」
 少女司祭が真司を見上げる。
 親しい兄貴分に対するものよりは、少しだけ濃い情が籠もっていた。
「はっ!?」
 ワイバーンより強い気配を感じて振り返る。
 歪虚の姿はなく、セリスが静かに紅茶を飲んでいる。淡い感情は強い危機感で完全に吹き飛んでいた。
 トラックが近くに停まり運転席からサーシャが顔を出す。
「後ろ、乗っていくかい? 荷物でごちゃごちゃしてるけどさ」
「はいっ!」
 イコニアは元気に答え、護衛と一緒に揺られながら旅の終着点へ向かっていった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
柊 真司(ka0705
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/17 12:53:53
アイコン 相談卓
柊 真司(ka0705
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/19 02:58:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/16 23:11:11