• 幻魂

【幻魂】火焔の虎

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/22 07:30
完成日
2016/05/04 20:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ――大幻獣『フェンリル』の死。
 突如訪れた別離は、スコール族のファリフ・スコール(kz0009)に大きな変化を与えていた。
 試練を乗り越え、霊闘士の新たなる力が覚醒。
 フェンリルを祖霊としたファリフは、幻獣の森へ侵攻せんとする歪虚を前に立ち塞がる。
 一方、歪虚の青木燕太郎(kz0166)はある目的の前に――暗躍を開始する。

 様々な思惑が入り交じる中、連合軍と歪虚は再び刃を交えようとしていた。



 幻獣の森、南方方面防衛部隊は敵浸透から始まった大攻勢からの第一次防衛戦を、からくも死守。戦線を僅かに後退させてラインを急遽、再構築。いずれ来たる再攻勢に備えた対応に追われることとなった。

「そンで俺達が増援ってわけか。焼け石に水にも程があるンじゃないか? じィさん……じゃねぇ……族長代行?」
 若者がこぼすのも無理はない。
 小さな部族のさらに分派。そこから供出可能な戦力の精一杯。
 それが老人と若輩者、たった2名のハンターである。
 そう毒づくな。と老人──佐々木寅次は孫を諌め、部族にも関係あることだと続ける。
「この森の何処かに『虎』が居る」
 誰だ? と訝しげに眉を寄せる。
「70年前、辺境東北部から歪虚に追われ、わが部族は現居住地に行き着いた。その折に失われた守護幻獣は、勿論知ってるな?」
 黄金の火焔を纏う虎──確か、逃避行中の部族を背に庇い、絶望的な撤退戦の殿となってそのまま消息を絶った、のだったか? 頷く若者に寅次は続ける。
「その撤退戦の直前に、70年前の大陸戦線から転移した大日本帝国少年兵、つまりこの俺はその『虎』に拾われ部族の保護をうけたのだ。つまりは、俺は2回、『虎』に命を救われたことになる。もう消えてしまった。そう思っていた」

 ──その『虎』が居た、のだ。

 はっきりと姿を確認した者はいない。
 ただ、第一次防衛戦の只中、敵大攻勢の浸透の中で結界外に取り残された幻獣の退路をきりひらき森の中へ避難させた、らしい。
 遠目に疾走する黄金の影を目撃した哨戒兵の報告と、幻獣達の伝聞のその又聞き。
「『虎』が居るのか。あの彼なのか。不確かな話でも構わんのだ。70年前、俺を庇って殿にたった恩に報いるのは、いま、このときしかない。そう覚悟を決めたのよ」

 森の中に待機する幻獣有志。迫る歪虚の猛攻の中、傷病者を担ぐのだと聞くが、簡単にはゆくまいと寅次はふむ。
 数刻前──
 哨戒兵が敵勢力の集結を確認した。
 不気味なのは巨大な車列らしき構造物と、そこから立ち昇る煙、である。
「で、火計を警戒せよ、って来てみりゃぁ何だ? このトラック装備で延焼を食い止めろってことか……」
 若者が振返り見る先には、この森には貴重な戦略兵器、武装トラック2台が鎮座する。
 銃座を撤去し、替わりに牽引するのは幾つも連結された牛鋤。魔導エンジンの補助駆動輪が急拵えで後付けされ、リアルブルーの農家が見れば耕運装置付きトラクターと評するだろう。第一次防衛戦で火計を受けた連合軍が、急遽、トラックを改造したものだ。替わりに救命を担うのが幻獣有志、である。

 突然けたたましく鳴る警笛。
 哨戒兵が南方方面本隊の会敵を告げ、幻獣有志と衛生部隊が飛び出してゆく。
 続く第二報──
 巨大な車列が猛煙をあげて突進を始めた、と。
「手隙となった森本体を叩き、結界を壊して我らの退路を断つつもりか。……彪。俺達があれを止めるぞ」
「俺の名はティゲル。いきなり日本名で呼ぶンじゃねェよ。この間っから変だぞ、じィさん」



 双眼鏡を下ろし、寅次が不敵に笑う。
 周囲の枯野に延焼を起こしながら爆走し、自身を質量兵器に仕立て上げてゆく車列。
「まるで、満州鉄道特急「亜細亜號」の亡霊、だな」
 因縁──か。重なるものだ。

 流線型の機関車両にも似た先頭車両はライトをモノアイが如くに光らせ、煙突から黒煙を上げ刻々とその勢いを増してゆく。地面に火花を散らし延焼を広げるのは蒸気ドレンか。続く連結車両は6両ほど。客車と一線を隔するのは側面の窓が大きく開き、轟々と自身を囲む熱気をさらに揺らしていることだろう。
 ──なにより。
 運転室から憎々しげに、飛び出していった幻獣を睨む白骨の歪虚。
 救急部隊リーリーの帰還第一便を眼窩で追うと、その先が後方陣地を見て軌道を変えた。

「ここからしばらく先に大岩が幾つか転がる地点がある。ぶつけて止めるならあそこだが……誘引が要るな」
(囮の道連れにしたなら済まん)
 寅次が小声で騎乗するリーリーにかけた言葉を、彼の孫は聞き逃さなかった。
「ちょっと待て、このクソじじィッ!」


 次の瞬間。
 単独先行する寅次を、ハンター達の乗騎と耕運トラックが追った。

リプレイ本文


 ハンター達の中で一際抜き出て、寅次を追うリーリーがいた。
「ツンデレリア充の寅次さぁん、計画っ変更っ! 皆でカチコミかけるんで、ロートルの葬儀準備する暇ないんですぅ!」
 煩い、と忌々しげに振り返る寅次に、してやったりと星野 ハナ(ka5852)は言葉を繋ぐ。
「人間一度は死ぬものですけど、特攻なんて前世紀の遺物ブチかますのは両世界で曾孫さんの顔を拝んでからでも遅くないですし?」
「あのドンくさい孫を待っていたら干からびるわ」
 クソ爺は俺のいう事なんざ聞きゃしねぇ。と彼の孫は言っていたが、頑固な世話焼き爺にも接し方はあるものだ。
「とにかく。制御奪取作戦なんですぅ。挑発だけで方向転換なんて無理スジより高難度なんで、老体に強襲させて歪虚と大乱闘とか余裕ないですぅ!」
 ザレム・アズール(ka0878)のバイク「バルバムーシュ」が追いついた。
(寅爺、カチコミに興味津々ですぅ)
 あとは連携の調整頼みます、と、ハナの耳打ち。
「敵も機械である以上、制御は可能。それが人間の強みだが……肝心の己自身が替えの効かない代物だ。寅次、幻獣も貴方もだ」
 ああ、わかってる、とザレムは続ける。
「そして俺の機械知識にもサポートが要る。寅次、援護を頼む」
「……フン」
 もとより──寅次の挑発相手は運転室の白骨歪虚である。因縁の列車であるならば、より積極的は勝負を賭けたい。ハナとザレムはその心の隙をつく。


 少し──
 ほんの少しだけ作戦に瑕疵が生じた。
 寅次への説得力が強力すぎた、といったら皮肉すぎるだろうか?


 ──接近。肉眼に列車プレートが熱気で揺らぐさまが見える。
 寅次が遠目でも識別する特異なフォルム。プレートには『惡死惡666』。
「暴走連結車両ですか。悪趣味なカリカチュアですね。側面の車輪を曝して……」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は列車の姿を冷ややかに眺めて呟く。歪虚が異世界の旧世紀車両をモチーフとする経緯などわかりたくもないが、その形状に理由があるならば弱点も等しく継いでいるはずであった。
 側面に回る前に迎撃装置の警戒と破壊をしておいたほうが良いだろうか?



 耕運トラックが枯草と土の天地を返して進む。
「屑鉄め。カラクリの図体をでかくしたところで、末路に変わりはないわ」
 列車だろうが揚陸戦車だろうが──いやもっと巨大な戦艦であっても、破壊という運命からは逃れられないことをコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は知っている。
(防御機構は当然、あるか。ロングレンジで同航……いやこの場合は同耕か?)
 より多くの射撃を叩き込む。敵が歪虚であるならば、なお──
 コーネリアと併走するミオレスカ(ka3496)のトラックが、そろそろ展開タイミングだと合図を送る。
「現状見たかぎりレール? って見当たらないので、両側に併走するにも敵侵攻角と延焼装置の様子を窺いながらになりますね。コントロールは先頭車が行っていると見ますが……無軌道な暴走ってやつにも困ったものです」
 ……ふぅ。
 傍らに彪のリーリーを呼ぶ。
「併走前の方向転換時に迎撃装置を警戒、なのです。リーリーか車体が大きいトラックかが標的です、たぶん……」
 CAMより操縦は楽だったので互いに援護しあえます。と、ミオレスカの片手に魔導拳銃「エア・スティーラー」。

 列車が迫る。
 先頭車ドレンから吹き出る火焔放射が地面を焼き、瞬時に燃え広がる。延焼原因は速度が生み出す風と、『惡死惡號』そのものの熱気、であろうか。
「よくもまあ、ここまで出鱈目な代物を走らせてくれる」
 柳瀬・結(ka4050)が熱気に怯えるリーリーを宥め、自らも閉口した嘆きをあげる。運転室にいる歪虚が白骨の理由も見当が付いた。──灼熱の機体。焔を纏う悪魔の槍。
 これではとても乗り移るのは困難だ。が、どのみち初撃で迎撃装置相当を始末しなければならない。
 味方に大きく頷く結の超聴力が温度変化を追う。
「左右に散開、すれ違いざまに先頭車迎撃装置または火焔放射装置に攻撃。回避機動をとりながら反転し、併走に移りますよ」
 ミオレスカの管制。だが──
(……しかし、遅かったかもしれません。近づくに困難なこの熱量、もうすこし早く進路を先読みして延焼を妨害していれば……っ!)
 杞憂、ではないだろう。ここから先の作戦で取り戻すしかない痛手である。
 交差直前!
「爆撃消火。バクチ的運用ではありますが……」
 エルバッハの放つ火球──ファイアーボールが先頭車前半部を覆う。

 爆音と衝撃。火属性の魔法が跡形も無く消え去ったあとに、一瞬だけ火焔放射機の放つ焔が宙をむなしく撫でた。
 反転機動を行い、列車左右に併走する一同へエルバッハは問う。
「タイミングと回数が厳しいのですが、火球の衝撃で一瞬、ドレン周辺を空白にします。近づけますか?」
 勿論!
 即座に複数の返答。
「この「RJBS」、こじあけた機会を逃すはずもなし。ドレンは車体下部で死角がある? 跳弾からも防げるとでも?」
 再度の火球にあわせ、コーネリアが黒光りするアサルトライフルを放つ。
 キンッ! と硬質の音を立て、車体下部に並ぶドレン状の火焔放射機の一つが砕け散った。
「了解。こちらからも射撃します。リーリーやトラックが近づけるようになったら、残弾は温存してください」
「先頭車駆動機関、そのものを破壊する手段に備えてくれ」
 反対側のトラックに搭載された無線からミオレスカの呼応。ザレムの要請。
 火焔放射機が幾つか残っても先頭車運転室に移乗できれば制御できる。だがその前に、これの速度を落とさなければ。ザレムが試作振動刀「オートMURAMASA」を抜刀した。
「機導術で車両を我が身の如く駆ったとしても、近接戦を行う以上、支援を必須と考えるのは俺の癖なのでな」
 頼む。と合図。
 トラック無線のこちらとむこう。左舷にザレムとエルバッハ、コーネリアと結。右舷にミオレスカと彪、ハナと寅次。

 爆炎と銃声。
「ザレムくんが先頭車車輪を破壊したら、寅次さん? せーので飛び乗ってくださいね?」
 左右挟撃でカチコめば確実に乗り込めるって、ザレムくんの作戦ですぅ。
 ハナが寅次を促す。
「私が支援しますしぃ、彪くんの射撃も合わせてね?」
 は? と疑問系で返す彪に、やっぱりドンくさいと再認識する。
「次のファイアーボールの後すぐなのです。うまくいけば」
 なんだろう。なにか見落としている気がする。けれどいま自分にできる最適解は、耕運トラックで併走して支援射撃を続けること。これも確信できる。ミオレスカの僅かな不安。これは周知しておいたほうがよいだろうか?
 再度の爆炎といくつもの銃声。
 ──そこに金属同士がぶつかる硬質音とザレムの僅かに驚きの混ざる声。

「ピストン棒を破砕する、それだけでいいはずだった。が、動力は未だ動輪に供給されている」
 通信に白骨歪虚の耳障りな嗤声が重なった。
「駆動音は車軸とピストン棒破砕で雑音が混ざるのみ、動輪が動輪の役を果たしておりません」
 結の聴力報告。ならば、とザレムは陣地構築用に持参した鉄パイプを構える。
 訝しがる結にこれで動輪の穴を物理的に止めると宣言する。
「動輪ではない車輪にも存在理由があるのだろう? アキレス腱を作ってやればいい」
 三度の火球の直後、今度はすさまじい異音をたてて『惡死惡號』が減速した。

「減速も長くは持たないかもぉなので、一気に強襲制圧ですって」
 言うなりハナの綴符から光り輝く「降魔結界」が放たれた。
「ちょうどザレムくんと結さんの接近に骨野郎がイラついてるから、背後から荒事するのはこっち側の私と寅次さんですね。え? ……結さんが変な傾向に気づいたです?」
 五色光符陣の連発!
 左舷側の無線に呼応してミオレスカが車両位置を後方にさげ、彪が二人のリーリーを回収する。
 すでにハナと寅次は騎乗にはいなかった。

「クッ……! 結、悪い予想が当たってしまったようだ」
 白骨歪虚をハナと寅次に任せ、コントロールに飛びついたザレムが呻く。
 幾つかの誤算が表面化した。ひとつひとつは軽微な、だが重なれば致命的なミス。
 リカバリには既に動いている。──だが、もう既に運転室制御のみでこの列車の目標を回避する手段は失われていた。
「えっと、どゆこと?」
「この先頭車両に駆動輪はなく、推進装置は後部連結車であり……その停止機構は存在しない。ということです」
 白骨歪虚を始末したハナの問いに結の答え。


 『惡死惡號』のフォルムと運転室の白骨歪虚。それは質量兵器としての機能以上に、推進機関の位置と集中コントロールを誤認させる悪意を意図した設計、であった。実際は先頭車が持つ制御は火焔放射と方向制御のみ。制圧が遅れるほど、既に進路を決めて加速する『惡死惡號』の停止はおろか方向転換さえリスク無しでは不可能となる。
「度重なるファイアーボールと耕運トラック併走で、駆動音の変化に気がついたのです。が、遅かった」



「哨戒兵さんの報告、あれはこの推進装置の余熱だったのですか……」
 ミオレスカは見落としを痛感していた。いや、意識下では気がついていたのかもしれない。延焼への危機感の正体。車体が熱気を帯びるごとに増していく速度。──ほら、いままさに!
 ザレムが先頭車車輪を縫いとめた鉄パイプが砕け散ったのだろう。彼はいま火焔放射を止め方向転換の舵を切るため、持てる知識をすべて注いでいるはずだ。
「コーネリアだ。左舷側、連結切り離しは最後尾陸号客車でいいのだな?」
「あ……はい、右舷はその一つ前、伍号客車を。どうか……くれぐれも手順に気をつけてくださいです」
 コーネリアとエルバッハの技量なら難なくやってのけるだろう。
 ミオレスカは併走する彪に連結部への集中射撃を依頼する。先頭の火焔放射が止まっても、熱気で燻る枯野を列車に限界まで密着するようにトラックを走らせ刈っていく。
「シバさまの奥義であればこの車列ごと……いえ、私自身ができることをやるだけ、です」
 祈るよう一瞬の瞑目。次の瞬間、冷気を纏った弾丸が驟雨のように、熱風を吸い込む客車車窓を抜けた先、外燃機関部へと襲い掛かった。

「残弾、アイスボルトが残っています。手分けしますか? それとも集中攻撃?」
 エルバッハは車両内部の機関を値踏みする。あれは1個体でできているのか、複合体か。
「優先は減速停止。一気にアレを叩き潰すべき」
 コーネリアが言うより早く、強弾を乗せた弾丸を叩き込む。窓から入ったそれは天井で跳ね、機関上部正中線を貫く。
 彼女達が破壊するのは後続車ではなく連結推進機である。厄介なのは未だ稼動する機関部と慣性による前進。つまり──先頭車両直近の連結器破壊では暴走は止まらず、逆に方向制御を失い進路上の森に直撃する。迂闊に切り離しても前方車両を押すように接着したまま進む列車に対処するには、機関停止と自重による減速を強い、しかるべき機に分断し方向転換を確実にすることであった。
 無作為に切り離すには遅すぎたのだ。だが──
「デカい図体を動かすために脇がガラ空きというわけか。全てのハンターが先頭車に向かわなくて残念だったな!」
 コーネリアの跳弾がまた機関を貫く。続いてエルバッハの氷が吸引機構の回転翼を凍結させる。右舷側による伍号客車無力化も相まって、ガクリと全体の速度が落ちる。
「動かぬ的を撃つのも飽きた。岩にぶつける前にさようなら、だ」


 ──同刻すこし前。

「大岩まで500無い。急カーブでいけるか……」
「あ、それ賛成っ! 私、後続を横転させるから遠心力とか凄いことになって制御大変だけど、ザレムくんなら大丈夫でしょぉ?」
 いそいそと加護符を自分とザレムに貼り付け、ハナが禹歩で後続連結部へ体をのり出す。
 うーん。まだ速度あるかなぁ……
 小首を傾げたハナの肩を、寅次が叩く。
「因縁ついでだ。俺も推進機関を止めてくる」
「ちょ、待って」
 慌てて寅次へ加護符が貼り付けられ、ザレムの檄が飛ぶ。
「寅次、これは多段推進式質量兵器だ。囚われるな」
「『ロケット列車』だろう? 因縁がそこに転がるとは面白いものだ」
 まるで大型の猫──いや虎のように寅次は後続車両へ消える。
「死なせたくはないな……」
 後詰めは僕が。背中で語って追う結に、「んもぅ」とハナが加護符を投げた。



 70年という歳月を経てなおも、老人を突き動かすのは義理か因縁か──
(それだけではないのだろうね……)
 結が寅次を追った先、未だ稼働中の灼熱の機関に皮膚が炙られ肺が焼ける。
 小柄な老人に見合わぬ大振りの斧を渾身の力で振りぬき、返す刃でまた一撃。
「狙いは駆動機関と吸引装置の接続部です。手伝います」
 駆け寄って息を呑む。白骨歪虚との戦闘でだろう、寅次の脇腹に深い刺傷。ふらりと揺らめく。
「先にゆけ。1両でも多く悪意を止めろ」
 一瞬、寅次の姿が輝き二重写しに見えたのは熱のせいではなく。
(……奥義、か!)

(僕と同じだ……)
 応じて結は後続車へと向かう。
(人にない力を得たときから僕の覚悟は決まっている。そうさ……この力はこの命は、未だ見ぬ誰かの為に!)
 この列車が破壊するのは境界だけではない。幾多の幻獣、無数の人の命──
「そんなことは我慢ならない! なるものか!」
 穏やかな物腰をかなぐり捨てて迸ったその叫びを発した結、彼に眩しい正のマテリアルが揺らぎ、後に居たのは紅い瞳と灰色の鬣の龍、であった。
 ナックル「セルモクラスィア」が機関の接続部を切り裂き、そのまま噛み付き引きちぎる。噴出する熱気の中を次の後続車両へ突進し、今度は吸引装置を押しつぶす。車体が大岩に近づいたのだろう。激しい軋みを伴うカーブで傾く。
「結さん、脱出するのです」
 併走するミオレスカが窓の外から促す。
 最後の仕上げとばかりに結は連結器を一撃し捻りあげ……直後、列車は横転し鞭のように撓って大岩と結界境界を打ったあと、脆く崩壊した。


 衝撃に揺らぎ境界を曝した結界は、しかし破られることはなかった。
 もともと質量兵器をもって強襲せねば触れることすらできない雑兵しか、この方面には配備されていなかったためである。


 追撃する連合軍と入れ違いに、乗り捨てたバイクを回収したザレムがハナに小突かれている。
「私が抱えて飛び出すまで制御装置にかかりきりだったですぅ」
「手が空いたらトラック修理を頼む。あらかた消えたが念のためだ」
「魔法弾切れなので、ごめんなさい」
 コーネリアとエルバッハにミオレスカの激しい肯首。
「今作戦だけの改造なんて勿体無い、幸運トラックなのですもの」
 わかったと苦笑してザレムは寅次を探す。

「居ない。だが俺は見たんだ。崩壊した残骸の中から爺を担ぎ上げ、森に消える獣の姿を──」
 答える彪が再度呟く。『虎』を見たんだ、と──

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MVP一覧

  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカka3496

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士

  • 柳瀬・結(ka4050
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】暴走列車を撃破せよ!
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/04/21 23:11:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/19 22:31:21