【壊神】ティルタニス小砦攻防戦

マスター:草なぎ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/04/27 22:00
完成日
2016/04/30 12:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国西方リベルタース、ハルトフォート砦。
 司令官のドワーフ戦士、ラーズスヴァンは赤熊亭でエールを飲んでいた。赤熊亭のマスター、シュベルタスはその様子を見やりながら、無言で手元のグラスなどを整理していた。今日の客はドワーフ一人。看板娘のレミアンはピアノを弾いていた。
「…………」
 ラーズスヴァンはソーセージを食べるとエールをあおった。先日の激戦から数日、敵の要塞は姿を見せていなかった。
「それはそうだろうな……」
 ラーズスヴァンはひとりごちた。シヴァも少しは肝が冷えたのではないか。
 と、チュンチュンと、赤熊亭の入り口から、黒い小鳥が入って来た。
 ドワーフはちらりと小鳥を見やり、また吐息してエールを飲んだ。
『ラーズスヴァン司令』
 一瞬、室内の全員が辺りを見渡した。
『ハルトフォート司令官』
 その男の声が、小鳥から発せられていると知覚した時には、ラーズスヴァンは拳銃を抜いた。が、それよりも早くシュベルタスがライフルをズドン! と撃っていた。――しかし。銃弾は小鳥の手前でシールドに弾かれた。
『バーテンダーも武装しているのか』
「何だてめえは」
 ドワーフの怒号に、小鳥の「向こう」の歪虚は答えた。
『シヴァ、と言えば分かるかな』
「ほう。小鳥ちゃんになってきたか。使い魔か?」
『お前を確認するのに手間取った。司令官』
「そいつは御挨拶いたみいる。何の用だ。シヴァ。ホロウレイドの昔話でもしようってのか」
『いや。先日の礼をしておこうと思ってな』
「何の話だ」
『統制がとれなくなった雑魔を片付けてくれたようで助かった。礼を言う』
「今度ほったらかしたらぶっ潰す。……いや、それが言いたかったのか」
『いや。実はハルトフォートの司令官の顔が見たかっただけだ』
「わしにはお前が見えないが」
『そうだな』
 すると、小鳥の口から青い陽炎が立ち上り、金髪の男の姿を映し出した。幻影であろう。陽炎は揺らめくだけである。
 ラーズスヴァンは鼻を鳴らした。
「また随分と小奇麗な姿をしているな。傲慢が」
『実体を伴えば、握手でも交わしたいところだが、そうもいくまい』
 ドガアアアアアアアアアアア――!
 小鳥を剣撃が粉々に破壊した。
 ラーズスヴァンは視線を上げた。銀髪の女性騎士がいた。リンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)上級騎士卿である。
「司令官、御無事ですか」
「リンス。もう少し奴と話したかったんだが」
「シヴァの使い魔ですよ。今度から黒い小鳥を見たら撃ち殺すように指示を出しておきます」
 リンスファーサは吐息して店内に入ってくると、シュベルタスにジンを注文した。
 レミアンのピアノがまた流れ出す。
「……敵の要塞は消えましたね」
「その割に、今の感じだとシヴァは余裕そうだな」
「どうなんでしょうか」
「分からんよ。とは言え、さしたる反動も今のところなさそうだ。というと語弊があるが、今更ワイルドカードなんてありゃせんからな。上級歪虚が出てくるか……」
 ラーズスヴァンはエールをあおった。
 リンスファーサはジンに口をつけると、しばらく司令官と話をした。

 翌日。リンスファーサはいつものように兵士達の訓練場に出勤した。そこへラーズスヴァンからの命令が舞いこんで来る。リベルタース北部、ティルタニス小砦に歪虚の群れが接近。ハンターとともにこれを迎撃せよ、と。リンスファーサは剣を置いた。
「よし、行くぞ。みな支度を整えろ」
 リンスファーサはてきぱきと指示を下し始めた。

 ティルタニス小砦。
 小砦は十人に満たない騎士と兵士達の詰め所である。石造りではあるが、大した防備は無い。物見台から見える歪虚に、騎士は望遠鏡で敵状を確認していた。

 黒衣の歪虚が漆黒の軍馬に乗っていた。歪虚の名はジェーリンガム。先日の雑魔掃討作戦で報告された歪虚であった。ジェーリンガムの他には黒甲冑のアイテルカイト騎士たち。ざっと五十騎はいる。
「…………」
 ジェーリンガムは黒い瞳で砦を見やり、思案していた。小砦は簡単に落とせるだろう。問題は……。
「どこで人間たちと遭遇するか……だが」
 ジェーリンガムはヴァジュラを持ち上げると、念を込めた。魔具の両端から刃が伸びる。
「まずは……」
 ジェーリンガムは小砦の攻略から開始することにした。

リプレイ本文

 ハルトフォートに到着したハンター達。リンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)上級騎士卿と会う。
 ザレム・アズール(ka0878) は、リンスから許可を得ると、まずはティルタニス砦と通信機で連絡を取った。
「こちらハルトフォート、ティルタニス応答せよ」
 ややあって――。
「こ、こちらティルタニス!」
 ザレムは小砦に篭城するよう言った。
「了解しました!」
「今出ても落とされるだけだからだな。素撃ちで良いから、銃眼から撃ち続けてくれ。我々も直ちに向かう。合図したら、砦から出て加勢してくれ」
 ザレムはそれからリンスにまた言った。
「現着手前で部隊を二つに分けるよう出来ないだろうか? 敵を左右から挟む形だ。正面激突では単なる数の消耗戦になるので、避けたいんだ。正面はハンター……砦と挟撃の形かな」
「そうだな。不意打ちは良いかも知れん。戦力が拮抗していれば奇策を用いるのは用兵の常道だ」
 続いて言ったのはイーディス・ノースハイド(ka2106)。
「リンスファーサ卿、いいだろうか」
「ああ……サー・イーディスか。知っている。ノースハイド家は由緒ある騎士の名だ。何か?」
「私の案は単純さ。敵が騎兵だけなら側面を突けばいい。その方法だけれど、まず部隊を主力と奇襲部隊に分ける。主力は敵正面から小砦に堂々と援軍として接近する、奇襲部隊は小砦の影を利用して接近。主力部隊が敵の戦列に相対し敵が突撃を開始したらその側面を奇襲部隊で突き、敵の陣形を混乱させてから主力部隊が突撃する。敵の大型と指揮官は奇襲部隊が相手をするよ。部隊編成は私達が奇襲側を担おう。ある程度こちらにも兵を回して貰えるとありがたいけど奇襲部隊は危険だ。無理にとは言わないよ、元とはいえ従騎士が正騎士に指示を出すというのも変な話だしね」
「いや、構わんよ」
 リンスは笑って軽く手を振った。
「この際従だの正だの言ってられんからな。ザレムの策と合わせると、良い形になりそうだな。奇襲部隊の指揮はイーディスに任せよう。兵は回す」
「小砦とはいえ、味方がいるうえに、ここを突破されると近隣にどんな被害が出るか分からない以上、何としてでも守らないといけないですね」
 マギステルのエルフ少女、エルバッハ・リオン(ka2434)は自分を鼓舞するように呟いていた。
「なんだか強そうな歪虚さんがいるみたいですが……き、きっと、大丈夫。こっちも、強い人ばかりですし!」
 同じくマギステルの少女アシェ-ル(ka2983)は、拳を軽く握ってエルバッハに笑みを向けた。エルバッハはにこりと笑った。
「そうですね。大丈夫ですよアシェールさん。この面子で……負けるわけにはいきません」
 J(ka3142)ことジェーンは、二人の少女を優しく見やり、リンスに言った。
「ザレム様とイーディス様の案でOKですね。後は……友軍には終戦雑魚と砦防衛、ギルド側は歪虚指揮官との分担を提案します。同時に私たちが指揮官との交戦に入りましたら、その混乱を突き、敵戦力の漸減をお願い致します」
「了解した」
 リンスは頷いた。
「突入時機は私たちも協調を徹底しなくては。歪虚にそこまでの戦術が取れるかどうかはともかく、こちらの分断防止を図るようなら……その辺りも留め置きませんと」
 ジェーンは思案顔。
「接敵前には敵指揮官を識別し、位置特定を徹底しませんと……。突入路選定に活用し、最短での接敵を念頭に置きませんとね……」
「地縛符なんですけどぉ。そうですねぇ、歪虚は落下ダメージは受けないかもしれませんけどぉ、立ち上がりに一手番使うなら意味はあるかもですぅ。十分消えないんで使い方は考えなきゃですけどぉ」
 星野 ハナ(ka5852)も思案していた。リンスが「足止め術か?」と問うた。
「そうなんですよぅ。三、四メートル四方で十一発ですからぁ……単純計算でも三、四十メートルのトラップを仕掛けることが出来ますのでぇ……」
「その辺りは任せよう」
 万歳丸(ka5665)は拳を打ち合わせ、わしわしと自分の影に隠れるアシェールの頭を撫でた。
「アッシェール! 大丈夫かおい? また心配ばっかかけんじゃねえぞお~」
「うう……大丈夫ですよう万歳丸さん。万歳丸さんこそ無茶したら駄目ですよ」
「カッカッカッカ! 戦わずして何のための鬼かよ!」
 鞍馬 真(ka5819)はそんなやり取りを見やりつつ、リンスファーサに声を掛けた。
「会うのは久しぶりだなリンス卿」
「鞍馬か。また宜しく頼むぞ。しばしば力を貸してもらっているようだ。ゴートノットでは世話になった。腕を上げたか」
「いや……またその内に手合わせでも頼もうか」
 鞍馬は軽く肩をすくめた。
 そして軍とハンター達はハルトフォート砦を出立した。

 ティルタニス小砦――。
「友軍が到着するまで持ち堪えるのだ! そのための我々ぞ!」
 指揮官のリックは兵士たちを鼓舞していた。兵士たちは小銃で歪虚を牽制していた。
 歪虚指揮官のジェーリンガムは、砦があるから攻める必要がある、などと考えてはいなかったが、無差別にただ人里を攻撃するのも傲慢のプライドが許さないタイプであった。小砦であっても拠点を攻撃すれば敵軍の対応も見ることが出来よう。部隊を預かった以上、そんな風にじっくりと構えていた。部下達には威嚇的な布陣を敷かせて停止していた。
「あれは……?」
 ジェーリンガムは迫り来る敵軍を確認する。

 リンスファーサは四十騎の兵を率いて歪虚の前に現れた。ジェーリンガムはその主力部隊に配下を向ける。
 一方、別方向から砦の後背を迂回して、接近していたイーディスら奇襲部隊は、友軍が歪虚に接近するのを確認していた。
 両軍はいったん睨み合った。ジェーリンガムは部下達を制していたが、歪虚騎士たちはかなり興奮している様子で、ゆっくりとリンスの方へ動き出していた。ジェーリンガムはそれでも突撃の合図は出さず、リンスの動きを見ていた……。

「どうやらあれが敵の指揮官のようですね」
 ジェーンは指揮を執っていると思しき歪虚騎士を確認した。そして――。
 リンスファーサは突撃を命じ、ハルトフォート軍は一斉に動き出した。それに呼応して、歪虚達も動き出す。ジェーリンガムは突撃を命じた。
 そこで奇襲部隊が出る。ティルタニス砦からもそれを確認して全軍が出撃した。歪虚の側面を突くように、絶妙のタイミングと効果的な演出で、ハンターたちは歪虚の側方から突進した。

 加速を始めた歪虚軍は今更止められない。
「に……!?」
 虚をつかれた形のジェーリンガムは、舌打ちしてうなった。
「したたかな奴がいる」
 ジェーリンガムは咆哮して、部隊の一部を強引に反転させようとしたが、これは却って歪虚達の混乱を招いた。

「まーちゃん、今日も頼みますよぅ。歪虚は例え馬でもまとめてブッコロですぅ」
 戦馬の手綱に力を入れ、星野は混乱する敵へ突貫した。アムニスと六合から符を装填し、地縛符を敷設していく。歪虚が反転してくるが逃げる。
 ザレムは長射程三十スクエアのデルタレイで歪虚の馬を次々と撃ち抜いて行く。歪虚達は落馬していく。
「落馬した騎士なら長柄武器の攻撃にも移動にも難儀する……歩兵で十分勝てるぞ。敵は強いから必ず一対多数でな。鎧は切っても効果が薄い。喉の継目を貫くか、打撃武器で衝撃を叩き込め!」
 ザレムは兵たちを叱咤した。
「それでは私たちも始めましょうか。撃てるうちに撃っておきましょう」
 エルバッハはファイアボールを連射した。火炎弾が炸裂し、歪虚たちを薙ぎ倒す。
「あ、あんな、強そうな歪虚さん、本当に倒せるのか不安です……」
 アシェールは万歳丸の後ろに隠れていたが、その桃色の瞳はしっかりと敵を視認していた。
 ジェーンは機杖をかざすと、バイクで駆け抜けながら三散と獄炎を敵側面にばらまいた。
「アシェール、援護よろしく頼むぜ。間もなく宴の始まりだ」
 万歳丸は、高ぶる気を押さえて、アシェールの桃色の頭を撫でてやる。アシェールは吐息して、また視線をぐっと上げた。
 鞍馬は弓に矢を番えると、特に大きい巨大黒騎士めがけて撃ち放った。歪虚はまだ混乱しており、矢を連射する。巨大黒騎士は怒りの矛先をハンターたちに向け始める。
「行くぞ! 我に続け!」
 イーディスは兵士たちと突進した。ディバインランスを構え、鐙に巧みに力を入れ、加速する。地縛符の敷設箇所とは別方向から突進する。歪虚の戦列がぐんぐん迫ってくる。
「おおおおおおおおおおおおお!」
 激突!
 イーディスらはダメージを受けた歪虚軍の戦列を側面から突き破った。そのまま駆け抜けるイーディス。
 ジェーリンガムは苛立たしげにうなったが、止めることは出来なかった。
 イーディスらは突き抜けた。
 ジェーリンガムはひとまず小砦側にも兵を回した。すでにザレムに多数馬を撃ち抜かれており、歩兵になっていたが、ティルタニスのハンターたちに兵を差し向ける。が……。
 そこで星野が仕掛けた地縛符が次々と発動する。動きを封じられる歪虚兵。
「にゃふ~♪ 死ぬと応用力悪くなるんでしょぉかぁ? 脳味噌使ってますぅ?」
 星野はタロットで五色光符陣四連打。歪虚を焼く。
「まーちゃん移動ですぅ」
 斜め横に戦場から多少離れるように騎乗移動しながらタロットを装備に入れ替えて行く。

「しゃあ!」
 万歳丸は気勢を発した。
「均衡した戦場を打ち崩すのは良い駒だ。大型騎士に……大将首。ソイツらを優先して相手しにいくぜ!」
 万歳丸は突撃した。
「青龍翔咬波あ!」
 マテリアルの閃光が歪虚を貫通する。周囲の歪虚兵を天地開闢で投げ飛ばして行く。そのままジェーリンガムに突進。敵将と向き合う。
「てめェが大将首だなァ!! 俺ァ万歳丸! 礼儀知らずのその首、頂くぜ……!!」
 そこで、万歳丸はデジャヴを覚えた。
「ンン……?」
 なーンか見た覚えのある雰囲気……だが……はっ!
「ははァ、てめェ、あの妖怪女の同類か!」
 ゴンゴンと篭手盾と聖拳を打ち鳴らしながらテンアゲマックス!
「妖怪女……?」
 ジェーリンガムは怪訝に万歳丸を見やる。
「最初に攻めてきたシヴァの戦士だよ! お仲間だ!」
「カーラネミか……」
 ジェーリンガムは馬から降りると、ヴァジュラ剣を構えた。
「行くぜえ!」
 万歳丸は撃ちかかって行った。
 凄まじい格闘戦であった。万歳丸は篭手盾と聖拳を繰り出し、ジェーリンガムはヴァジュラ剣を目まぐるしく操りそれらを弾いて行った。約十数合、二人は打ち合った。ジェーリンガムは息一つ乱れていない。万歳丸も同様であった。黒衣の歪虚と金焔の鬼は睨み合った。
「やああああああああああああああああ!」
 そこへイーディスらが再突入してくる。この時すでにリンスファーサの部隊も本格参戦しており、戦線は混乱と膠着が交錯していた。

「もっとこっちを追いかけてくるかと思ったのにぃ……予想より釣りが悪いですぅ」
 そんなことは無かったが……星野は歪虚を五色光で焼き払いつつ突貫していた。残りの地縛符をティルタニス側にばらまいて行き、五色光符陣を連打していく。混戦に突入し、敵の大型騎士を狙う。
 鞍馬が大型騎士と戦っていた。
 ダークMASAMUNEで歪虚の大剣を受け止めると、足に強打を叩き込む。歪虚は咆哮して大剣を振り回した。鞍馬は転がるように逃げる。歪虚騎士に星野の五色光が炸裂する。鞍馬は反転すると、駆け抜けた。強打一撃クリティカル。大型歪虚騎士を真っ二つに切り裂いた。歪虚騎士は闇へと還元していく。鞍馬はさらにもう一体、大型歪虚を屠った。
「さて……残るは……と」
 闇狩人のお兄さんは淡々と仕事をこなして行く。

「どんなに強い歪虚でも、どこかにきっと隙があるはずです」
 アシェールは万歳丸とジェーリンガムの壮絶な激突を見ていた。彼に近づく歪虚兵を氷凍榴弾で「えい!」「やあ!」と凍結薙ぎ払う。
「これで、多少は動きを抑えられればいいのですが」
 歪虚達はわめきながら凍りついてじたばたしていた。
 エルバッハは合流を果たしてアイスボルトの連射に取りかかった。
「さすがの万歳丸さんでも、一人にはしておけませんから……」
 氷矢を連射する。ジェーリンガムは回避もしたが、全弾は無理だ。魔法は当たる。しかしアイスボルトの行動阻害は効果を発揮していない様子だった。
「仕方ありませんね……」
 エルバッハはウィンドスラッシュに切り替えて攻撃を開始する。
 アシェールはカウンターマジックを持ってきていた。上級歪虚ともなればハンタースキルを超越した必殺技を備えていることが多い。やや規格外なのが難だが、カウンターマジックで撃ち消すことも出来るものがあったから。アシェールはだからよくジェーリンガムを観察していた。格闘戦スキルをそれほど使っている様子ではなかったが……。
「いつどこで、何かが来るとも限りません――えい! 氷凍榴弾!」
「邪魔です!」
 エルバッハは、動きを封じられた歪虚兵をファイアボールで薙ぎ払う。それからジェーリンガムを見やる。ジェーリンガムはなかなかの食わせ物か、想像以上にしぶとい。この傲慢の戦士は傲慢らしく、本気を出せないでいた。本気を出すのは傲慢が傲慢を捨てた時……なのかもしれない。
 エルバッハは戦況を確認した。ジェーンやザレム、イーディスらが軍と共闘して歪虚を駆逐していく。

 ジェーンはアサルトライフルに持ち替えると、戦場を駆け回り、司令塔となっていた。混戦の中を移動して、兵士達一人一人、全員は無理だが、戦況を観察し、声を掛け、戦線を維持した。それは地道な作業であるが、兵士たちを確実に優位にした。ジェーンは現場にいながらにして戦況全体を俯瞰する能力を持っていた。それは現場を頭の中でロジカルにパズルのピースを埋めるような作業だが、ジェーンはそれが出来る稀有な人物であった。なので、その指示は的確を極めた。数人単位の兵士を具体的にどこそこへ動くように指示を出し、戦域全体の微調整を行っていたのだ。
 そしてザレム。車乗攻撃で高速移動しながら歪虚を切り倒し、最後の機会を窺っていた。ここは殲滅に持ち込みたい。さらに別方向から戦線を移動していたティルタニス砦の兵士たちと合流すると、ジェーリンガムの包囲に取りかかった。
「ザレム殿!」
「リック、総仕上げと行こう。よく持ちこたえたな!」
 ザレムはジェーリンガムに向かって動き出した。
 すでにイーディスもリンスファーサとともに集団戦に加わっており、歪虚軍は押されてばらばらになっていた。勝った、とイーディスも確信はしていたが。

「ううむ……」
 ジェーリンガムは冷静だった。万歳丸の打撃をヴァジュラで押し返すと、軍馬を呼んでふわりと飛び乗った。そして、暴風が一瞬で過ぎ去るように、舞い散る木の葉を残すように、全軍に撤退の号令を出して引き上げて行ったのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/04/25 19:09:45
アイコン 相談卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/04/27 19:30:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/26 22:09:38