• 龍奏

【龍奏】 澱

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/02 09:00
完成日
2016/05/11 05:02

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 『星の傷跡』。そこまでの道のりを明らかにする必要があった。
 何より、封印が完全では無いとされるヴォイドゲートからは今でも歪虚が出現し続けているという状況からも、敵の威力偵察と平行して早急に成される必要性を叫ばれていた。

「しかし、なんだ。まるで蟻の巣だな」
 自然にひび割れて出来たのだろう、足場の悪い洞窟内を一同は進む。
 出てくる枝分かれした道をしらみつぶしに当たりながら、マッピングを行い、行き止まりだった道は目印などをつけたり、その場の岩などで軽く塞ぐなどしていく。

 先行隊の6名は、下がれば下がるほど、進めば進ほど徐々に正のマテリアルが濃くなってきているのを感じていた。
「歪虚が出現し続けてるとか言われてたけど、大したことないな」
 一体のリザードマンを塵へと還しながら、1人が笑う。
「おい、やめろよ、それ絶対フラグってやつだから」
「? なんだそれ」
「油断大敵って事だよ」
 緊張した面持ちで進んでいた一同であったが、出てくる敵を切り伏せる度にその表情には自信と余裕が徐々に戻ってきていた。
「結構奥まで進んだよね……」
「なぁ、そろそろスキル残数も心許ない。一旦帰った方がいいんじゃないか?」
「そうだな。俺もこれで自己回復スキル最後だし」
 一同は頷き合って、元の道を引き返し始める。
 帰りはマッピングの必要も無く、一度通った道だ。誰もが少しだけ気を緩めてしまったのも無理は無い。

「!?」

 先頭を行く1人が踏み出した一歩。それは岩と岩が噛み合って奇跡的に地面に見えていただけの場所だったらしい。
 大きな地響きと共に地面が崩れると、前を歩いていた3人は3m程を落下して全身を強かに打った。
「大丈夫か!?」
 落ちずに済んだ3人は、半分ほどになった道から恐る恐る身を乗り出し、声を掛ける。
「……ったぁ~」
 衝撃に一瞬息が出来なくなっていたが、リーダー格の男は最初に身を起こすと周囲を確認する。一緒に落ちた1人がどうやら足を折ったか、酷く捻ったかしたらしい。痛みに立てずにいる。
「今行く」
 ロープを近くの岩に縛り付け、岩肌を滑るようにして、後続の3人も下へと下りた。
「随分広い空洞だな……」
 マテリアル鉱石を多く含んでいるおかげで、何だかんだで道中は狭いながらも明るかったが、ここは普通の岩肌の方が多く仄暗い空間だった。
 鋭敏視覚持ちの者が目を凝らせば、ようやくぼんやりと向こう側の岩肌が見える、それには理由があった。
 一筋の光りが天井から差し込み、スポットライトを浴びたようにそこだけがハッキリと明るいのだ。光りの筋は空中の埃をキラキラと瞬かせ、幻想的と言えなくも無い。
 見上げればどうやら天井部分の一部が裂けており、そのまま地上へと繋がっているようだが、とても登れる距離では無い。
「ねぇ、なんか変な臭いしない?」
 ぞわりと肌が粟立つ感覚に1人が両腕をさすった。
 持っていたLEDライトで周囲を照らしながら、妙な胸騒ぎにごくりと生唾を飲み込んだ。

 ザザッとトランシーバーが鳴った。後続隊からの無線だ。
『凄い音がしたが大丈夫か?』
「あぁ、地面が崩れたんだ……あぁ、全員無事だ。今から戻……な、なんだ!?」
 応答していたハンターは、自分が『岩肌』だと思っていた一部が竜の鱗であることに気付き戦慄した。

 一同の前で岩が腐食したような鱗を持つ大きな竜が鎌首をもたげていた。
「……やばい、竜だ。しかも、多分、すげぇ、強い」
 周囲を奮わせる程の咆吼と共に放出された負のマテリアルは尋常では無かった。
 トランシーバー越しに仲間の声が聞こえるが、正直それになんと応えたか、それさえ意識の外だ。
 恐怖心に焦る心を抑え、努めて冷静に周囲を見る。細い道状の割れ目がいくつか見える。恐らくこれのどれかは先ほどの崩落した道へと出るだろう。
 とにかく逃げるか、後続隊が来るまでどうにかして耐えるしか無い。
 逡巡したその時、腐竜の口が大きく開いた。
 ――ドラッケンブレス!
 そう思った時には、6人は黒色のブレスに身を焼かれていた。


「大丈夫!? しっかり!!」
 叫び声に目を開ける。……あぁ、後続隊が来てくれたのかとほっとすると同時に懐からマッピングしてきた地図を取り出し、その手に握らせた。
「これを……逃げろ……」
 今日まで、何組もの先行隊たちから受け継ぎ、ここまで築いてきた地図を無駄にしてはいけない。
 例え、後続隊からしたらほんの少し先の情報が書いてあるだけの地図だとしても。
 この地図が、俺達の生きた証だから。
 ――どうか、これを皆の元へ。


 咆吼が空気を震わせる。
 一筋の希望のように降り注ぐ陽の光。
 その向こうで、絶望の色をした瞳が妖しく煌めいた。

リプレイ本文

●救命
 咆吼が空気を震わせる。
「オラ、デカ物! 俺が相手だっ!!」
 ランタンを掲げながらアーサー・ホーガン(ka0471)が腐竜へと走り寄り、シルヴェイラ(ka0726)がやや離れた所から左奥を目指して走り出す。
「必ず助けます」
 地図を渡した事で安堵したのか、意識を失ってしまった男の手を握り締めた後、受け取った地図を懐へと仕舞うと、和泉 澪(ka4070)は横穴へと目を向ける。
「何あの竜。最ッ……悪なんだけど」
 穢らわしい物を見た、というように顔をしかめながらジュード・エアハート(ka0410)が左側の壁沿いに走り出す。
「生きて全員で還る。当然だ」
 エアルドフリス(ka1856)から「頼んだぞ」と火口箱と煙草草を受け取り、ユリアン(ka1664)は神妙な顔で頷くと、1番左端に倒れている人物の下へと駆け寄った。
 エアルドフリスはそのままジュードを追うように更に奥を目指して走って行く。
 腐竜はアーサーの動きに引き寄せられるように顔をそちらへ向け、ドラッケンブレスを放つ。
「私達も大分消耗してるけど、放って何ておけないもの……ジュゲームリリカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が符を放つ。
「光りよりこっち側に結界張っちゃいましたー!」
 視界の悪い中、地面に目印を残すよりわかりやすく知らせた方が早い。ルンルンの声に、アーサーは腐竜から視線を逸らさずに「了解!」と応えた。

「ルンルンさん、手伝って下さい」
 澪がルンルンに声を掛け、呼び寄せる。いくら覚醒者とはいえ、気を失った成人男性を、何の工夫も無く澪一人で運べる物では無い。ぐったりと力を失った手足は長く重い。地面と接していた前胸部は血に濡れ、それが固まりつつあるが、油断すれば手が滑る。
 救助を最優先するのであれば、毛布や寝袋があればそれを用いて1人の怪我人を2人から3人がかりで運んだ方が安全であるし、何より移動が早く行えただろうが、残念ながら誰も手持ちに無かった。
「マントを外して、ソレを敷布代わりに運んで!」
 アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が見かねて声をかけた。
 澪とルンルンは慌てて男のマントを外し、その上に男を横たえさせると、慎重に運び始めた。
 それを横目で確認しながらアルヴィンはユリアンのいる1番左端にいた男性の下へと駆けつける。
 纏めて回復するには場所が離れていため、とりあえずヒールで止血を行ってから、男をユリアンに背負わせてウィップで固定する。こうすることで何とか、ユリアン一人で男を運ぶ事が出来そうではあったが、鎧をつけたままなので安定感が無い。
 状況が状況だけに皆、程度はあれ混乱していたのだろう。重い鎧は脱がしたり、すぐに外れそうな装備は置いて行くなどの対応が出来れば、もう少しスムーズに移送出来たはずだった。
「レオン、手伝って!」
 沢城 葵(ka3114)に名を呼ばれ、歩ける者すらいないという状況に面食らっていたレオン(ka5108)は慌てて葵の下へと駆け寄った。
 そこに倒れていたのは小柄な女性。しかし、傍目にも脚が折れていることが解ってレオンは思わず眉をしかめた。
「困ったわ、頭を打っているみたい、下手に動かせないわね……」
 アルヴィン以外の者が応急処置の心積もりをしていなかった為、的確な止血や骨折への手当、それらを負った者を移動させる注意点などが咄嗟に思い浮かべられなかった事も災いした。
 結局アルヴィン以外の5人が3人の負傷者を1番手前の横穴に置いて帰ってくるまで、予定より倍以上の時間が掛かってしまっていた。
 それでもその間、誘引班が上手く立ち回ってくれているお陰で、腐竜がこちらを気にする様子は全く無かった。
 アルヴィンは残った3人にヒールをかけ、止血を行い、心臓マッサージを行う。
 空気を震わす咆吼と振動、ブレスの音。時折視界の端に見える、炎のオーラ。
(モウ少し、頑張ってネ……アーサー!)
 恐らく、この6人も、今の自分達と同じ方法を取ろうとしたのだろう。闘狩人、霊闘士とみられる4人が左側に、疾影士と思われる2人が右側に倒れていた。
 しかし、引きつけが甘かったのか、それとも引き付け役が先に倒れてそれを助けに戻ったのか――
 ひゅっ、という呼吸音が聞こえ、アルヴィンは手を止め、しっかりと気道を確保すると、首筋にそっと手を当てる。再び動き出した拍動と肺の動きを感じてホッと胸を撫で下ろした。
 今頃は澪とユリアンで道を探し始め、葵とレオンとルンルンが再びこちらへ帰ってくるはずだった。
 軽装の女性なら恐らくレオン1人で運べるだろう。あと1人は自分が固定して運ぶとして、葵とルンルンにはこの最も重傷を負っている彼を運んで貰おう。
 アルヴィンはそう算段すると、すぐに準備へと取りかかった。

●探索
「腐竜がこっちに一歩でも動いたら、発動です!」
 ルンルンが光りの切れ目から横穴側へ地縛符を発動させる。
 葵が念のために、アースウォールで穴を塞ぎ、ブレスが直接当たらないようにして、負傷者達を保護した。

 ユリアンはまず右から2つ目の横穴を確認したが、風の動きが無い事に気付き、3つ目は澪に託して4つ目へと走り込んだ。
「この穴から風を感じます。奥に繋がってるかもしれません!」
 澪は避難先となっている1つ目とは違い、明らかに空気の澱みが無いように感じた。緩やかな上り坂を奥に進めば進む程、徐々に龍鉱石の輝きが増してくる。次第に足も速くなり、そして――
「わぁっ!?」
「きゃっ! ゆ、ユリアンさんっ!?」
 2人はほぼ同時に曲がり角で再会した。
「結局行き止まり、ですか」
「いや、でもこっちから風の動きがある」
 煌めく龍鉱石が折り重なり判りづらいが、確かにパイプの煙はこの龍鉱石の向こうからの風を受けてたなびいている。
「もしかして……」
 澪が大きな龍鉱石の塊をぐっと横に押すと、それは意外にあっけなく横へと転がりずれた。
 そして、その先にはぽっかりと広い通路状の空洞が続いていた。
 ユリアンが慎重にその通路に出ると、導きの光取り出し、澪の持つ地図と照らし合わせる。途中リザードマンと遭遇したが、2人がかりで対応すれば恐れる敵ではなかった。そして、ついに先行隊が付けた等間隔の印の所に辿り着いたのだった。

●死闘
 6人が救命に向かっている間、誘引班の4人はとにかく腐竜の視線を自分達に留めておく事に尽力した。
 アーサーが肉薄する一方で、エアルドフリスがわざと足音を立てつつライトを振り、腐竜の興味を惹く。ジュードが壁に背を付けつつ冷気を纏わせた矢を射、シルヴェイラがナイフを一閃し虚空に三つの光弾を生み出し解き放つ。
「穿て!」
「道は拓くもんだ。竜だろうが腐ってようが、燃やしたり凍らせたりできるんだろう?」
 エアルドフリスが氷の矢を頭部目がけて放つ。
 しかし、それらを受けても何のダメージ無いように悠然と腐竜はその場にいた。長い尾が地面を強く叩き、咆吼により揺れた岩肌から砂埃が落ちてくる。
「……タフだな」
 この逆境をむしろ楽しむようにアーサーは唇の端を持ち上げると、炎のオーラを身に纏った。

 シルヴェイラが何度目かのブレスを盾で受けるが、その度に痛みと同時に全身がおぞましい何かに蝕まれていくような、穢されていくような不快感を感じていた。
 紙一重の所でブレスを回避したアーサーは顎を伝う汗を乱暴に拭って、エッケザックスの柄を握り直す。
「だいぶ手間取っている感じ、か?」
 鋭敏視覚の無いアーサーには救助班が今どんな動きをしているのかは良く見えない。しかし、ヒールを使うアルヴィンの気配は先ほどまで感じていた。
「今、残りの3人が運ばれて行ってる。ユリアンとミオは探索へ移ったみたいだな」
「そろそろ倒れてくれないかなぁっ!」
 氷の矢を放ちつつ、エアルドフリスが答えれば、ジュードも合わせて桃花を射る。
 シルヴェイラの攻性防壁の効果により麻痺状態にあり、そうでなくとも殆どの攻撃を受けている腐竜だが、その動きは対峙したときから変わらない。
「っ! 動いたっ、来るぞ!」
 また、麻痺を受けてもすぐに回復し、攻撃に転じてくる。ぐずり、と腐敗したような竜鱗からはどれほどのダメージを蓄積しているのか察することは出来ず、4人には疲労と傷ばかりが蓄積してく。
「っ! 最ッ悪ッ!!」
 大きく尻尾がうねったと思った次の瞬間には、人の頭ほどの大きさの岩がジュードの左大腿を撃ち、ジュードは岩壁に背もたれながら崩れ落ちた。
「ジュード!!」
 エアルドフリスの周囲に響いていた雨音が勢いを増す。
「くそっ!」
 手の平で顔を拭うようにして汗を払うと、アーサーは再び炎のオーラを纏った。それを見たシルヴェイラは片眉を跳ね上げる。
 一度発動したソウルトーチは自分の意志で消す事は出来ない。そしてずっと腐竜と接近戦を繰り広げていたアーサーが一度その牙に掛かっていたのをシルヴェイラは見ていた。
(あの汗は普通じゃ無い。まさか、毒が回っている……?)
「遅くなってごめん! 後は任せて!」
 レオンが駆け寄り、黎明を構える。その後方には符を構えるルンルンの姿も見えた。
 これで、少しは戦いやすくなる、そうシルヴェイラが思うのと同時に、トランシーバー越しに朗報が舞い込んだ。

●安全地帯へ
『見つけたよ! 右から3番目と4番目。どっちも正規ルートに出られる!』
 トランシーバー越しに聞こえた報告に、葵が喜色を浮かべた。
「なら、早く移動させて、こんな所からオサラバしましょ!」
「ソウだネ、急ごう」
 葵は応急処置用品をテキパキと片付け、軽装だった女性を背負う。
 ここに来た全員、応急処置をする上で邪魔だった鎧や兜などを全て剥ぎ取り、最低限の服だけにしてあった。その為あまり筋力が高くないアルヴィンでも1番小柄な女性ぐらいなら抱えることが出来そうだった。
 土壁と横穴の間から出ると、皆が変わらず腐竜を相手に善戦していた。
 先行隊を見捨てては行けないと思う反面、早く仲間の元へ駆けつけたいという衝動にも駆られる。葵とアルヴィンは黙々と3番目の穴を目指して歩いた。
 途中、帰ってきたユリアンと澪とすれ違いながら、4人は慎重に、出来るだけ素早く先行隊6人を横穴の奥へと運び込んだ。
「ここまでくれば腐竜のブレスも届かないでしょう。ゆっくり休んでください。」
 澪の言葉にユリアンは6人の顔を見る。相変わらず意識は戻らないが、アルヴィンのヒールと応急処置のお陰で幾分か顔色は良くなっているように見える。
「……全員で帰ろう」
 そう、ユリアンが口にした時だった。トランシーバーから緊迫した声が響いた。
『アーサーさんがっ!』
 4人は顔を見合わせ、直ぐ様に腐竜のいる空洞へと戻った。

●竜の顎
「大丈夫だよ、自己治癒できるから」
 イテテ、と言いながらもジュードは駆け寄ってきたエアルドフリスの濡れた頭を撫でて、逆に慰めるように笑った。
 覚醒すると全身が雨に濡れたようにしっとりとするエアルドフリスだが、感情が昂ぶれば昂ぶっただけ降水量も増える。ゆえに今の彼は雨ざらし状態だった。
「エアさんも気をつけて。アイツ、攻撃の一つ一つがワリとシャレにならない」
 ヒーリングを終え、よ、とジュードは立ち上がると、左足首をくるくると回した。
 ジュードが回復に徹しているその間も、アーサーが引き付け、ルンルンが足止めをし、シルヴェイラとレオンが連携攻撃でダメージを稼いでいる。
「さぁ、反撃と行こう、ね。エアさん」
 全身を土埃にまみれさせながらもジュードが不敵に微笑むと、エアルドフリスから聞こえる雨音が少しだけ緩む。
「……あぁ。腐竜には此処で凍ってて頂こう」

 その時だった、レオンの「放せ!」という怒声が響いて、2人は腐竜へと視線を戻す。

(ヒーリングが間に合わない)
 尾からの一撃を剣で受け止め損ない、地面に叩き付けられたアーサーは、舌打ちをしたい気分で脂汗を拭う。
 回避重視にして、避けきれなければ大剣で攻撃を受け流そうとしていたが、腐竜の力の方が圧倒的に上であるためにどう防いでも傷が増える。中でも一度だけ牙が掠めた左前腕は、まるでそこに心臓があるように脈打ちながら痛みを主張する。
 避難完了の報告はまだ無い。
 腐竜は目論見通りソウルトーチが発動している間はアーサーに引き付けられ、ブレス以外の攻撃が他の仲間へ及ぶことはほとんど無かった。しかし、特に誘引班としてずっと闘い続けている4人の消耗は著しい。
(1人矢面に立つ俺が倒れたら、そこから崩れちまう。大事なのは、こいつを倒すこと以上に俺が倒れねぇことだぜ)
 しっかりしろ、とアーサーは自身を叱咤しながら大剣を構えようとして、ズキンと左腕の鈍痛にその動きが遅れた。
「ぐっ!」
「アーサー!?」
 アーサーの目の前には地獄の入口のような竜の口腔が迫っていた。

「アーサーさんを放せっ!!」
 アーサーを鎧ごと噛み砕かんとして、腐竜の注意が顎へと集中したのを見たレオンは、大きく踏み込み刺突一閃を腹部へと叩き込む。続いてシルヴェイラが温存していたジェットブーツで高く飛び上がって、最後のデルタレイを翼と後頭部、そして尾へと狙い撃った。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法三雷神の術! 出でよ、めがね、うくれれ、おいーっす」
 投げ上げられた三枚の符は一つに合わさり稲妻となって腐竜を貫いた。
 結果、衝撃に腐竜はアーサーを口から落とし、駆けつけたエアルドフリスの目の前でアーサーは地面に叩き付けられた。
 直ぐ様エアルドフリスとレオンで腐臭のする唾液まみれのアーサーを担ぎ上げ、腐竜から引き離したが、アーサーの瞼は硬く閉じられたまま、ぴくりとも動かない。
「多分、アーサーは毒に侵されています」
 シルヴェイラが腐竜から視線を逸らさずに告げる。
「エアルドフリスさん、ボクが時間を稼ぎます。アーサーさんをアルヴィンさんの下へ。お願いします」
 腐竜を睨み、レオンが太刀を正眼に構える。エアルドフリスは静かに頷くと、傷を一通り診てジュードを呼んだ。
「ジュード。あまり動かしたくない。手伝ってくれるか」
「わかった」
 2人はアーサーの両脇を抱えながら、壁伝いに横穴を目指す。
 その目標の横穴から救助班の4人が駆けだしてきた。

●撤退
「これはまた、凶悪な毒ダネ」
 アルヴィンがキュアで解毒を試みながら、エアルドフリスとジュードの2人がそのままアーサーを安全地帯まで運ぶこととした。
「みなさん、逃げましょう!」
 澪が立体攻撃で尻尾の付け根を狙う。
「っ! 硬い……!!」
 ぐずぐずとぬめり気を帯びている鱗なのに、その奥は黒曜石のように硬い。
 ユリアンは瞬脚と羽流風で、アーサーの代わりに腐竜を引き付けているレオンの傍へと駆け寄った。
「遅くなった。さぁ、俺達も帰ろう」
「一斉に動けば、腐竜が追います。ボクが最後まで引き付けますから、その間に皆さんは撤退してください」
 レオンは満身創痍になりながらも、少年らしい真っ直ぐな瞳で腐竜と睨み合いながら告げる。
 現にソウルトーチを纏っているレオンが今横穴へ向かえば、腐竜は確実に後を追ってくるだろう。
 ルンルンが、一歩でも腐竜が横穴へと近付けば罠が発動するよう地縛符を投げ、それを避けるように攻撃を終えたシルヴェイラがジェットブーツで着地する。
「下がって頂戴!」
 葵の声に、ユリアンとレオンがバックステップで下がると、ファイヤーボールが腐竜の足元で炸裂した。
 爆風が球状の空洞内を走り抜ける。
「行こう!」
 ユリアンがレオンを見た次の瞬間、土埃を切り裂くように腐竜の尾がレオンの精悍な体躯を打ち飛ばした。
「レオンさんっ!」
 幸いにしてレオンが飛ばされたのはルンルンの仕掛けた地縛符の向こう、横穴に近い方だった。腐竜が一歩、踏み込み、瞬間足元が泥状と化す。
 もがく腐竜にルンルンが追い打ちのように五色光符陣を発動させ、その間にユリアンと澪でレオンを引き摺り距離を取る。
 もがく腐竜は闇雲にブレスを吐く。それに身を焼かれながらも、葵、ユリアンと澪でレオンを庇い、何とか横穴の入口まで来たところで、葵がアースウォールで入口に蓋をして、一同はホッと胸を撫で下ろした。

 が、すぐに咆吼と共に地響きが起こると、土壁が大きく揺れた。
「ヤバイわ。そんなにもたないかも」
 アースウォールは壊されれば新しく出現させることが出来るが、同時に複数枚を出現させることは出来ない。
 先に退避していたルンルンとシルヴェイラの手を借りながら、奥へと逃げ込む。


 少しずつ、咆吼が遠くなる。


 きっと近いうちに再戦のチャンスはある。
 今は手傷を負いながらも1人も欠けること無く地上を目指せる、その事を喜ぼう。
 地図を失わず、仲間を失わず、自分達が掲げた目標は達成出来たのだから。



●腐竜
 周囲の龍鉱石のマテリアルを吸収し終わり、腐竜は頭上を見上げた。
 途中、攻撃してきたヒトから受けたちまちまとした傷も、もうすっかり癒えていた。
 腐竜は大きく咆吼し、翼を広げ天井の切れ間から外へと飛び出すと、空から龍園を睥睨する。

 さぁ、もっともっと汚染を広めよう。滅びを与えよう。

 かつてヒトが自分にしたように。

 もっともっと穢れ腐り落ちるがいい!

依頼結果

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MVP一覧

  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチka2378
  • Centuria
    和泉 澪ka4070
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオンka5108

重体一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオンka5108

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 面倒見のいいお兄さん
    沢城 葵(ka3114
    人間(蒼)|28才|男性|魔術師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオン(ka5108
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/05/02 01:54:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/28 12:43:56