• 龍奏

【龍奏】ヒトと龍が共に在る道

マスター:瑞木雫

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/05/02 22:00
完成日
2016/05/24 19:21

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●人の業
 ――人間とは我欲が強い生き物だ。知らず知らずの内でも何かを傷付け、何かを破壊してしまう。
 それはジャンルカ・アルベローニ(kz0164)にとってもよく知る所だ。
 まだ幼かった頃にダウンタウンに捨てられ、生き抜く上で嫌と言うほど人間の汚い欲深さを目の当たりにしてきた。強欲にまみれた者達から散々苦しめられてきた。
 しかし自分だって同じくらい強欲で、今迄に多くの何かを傷付けてきたというのも、また事実。
 そしてこれからも生きている限り、終わりない事なのだろう。

●ハンターオフィスにて
「星の傷跡は大地に出来た巨大なクレバスで、この星の中心、膨大な量のマテリアルが流れる龍脈の収束点の一つだ。そこに今、歪虚が集まってきている。強欲が他の眷属に援軍を求めてるんだろうってのもあるが、先日の大きな戦を経て人類軍が北にいつの間にか来ていた――……ってのが、他の眷属の間でも知れ渡ったみてぇだからな」
 思い詰めた赤眼はやがてハンターを見つめ、「協力してほしい」と仰いだ。
 ハンターオフィスでは星の遺跡の威力偵察依頼が連日続いているが、その中でもジャンルカ率いるダウンタウン勢力は積極的に威力偵察を実施しているようだった。
「この星の傷跡ってのは、歪虚にとっちゃ大事なもんなんだ。さっき言った龍脈の収束点ってのは世界に幾つかあるらしいが、そんな場所に異世界同士を結び付ける『ゲート』を作る事が出来る。
 昔の話だが、嘗て『強欲王メイルストロム』は星の傷跡のゲートを歪虚を呼び出す為の『ヴォイドゲート』として利用しようとしていた。――だが、当時のリグ・サンガマがそれを全戦力で阻止し、強欲王とゲートの封印に持ち込んだ。…でもな、実は完全に封印できた訳じゃない。
 青龍がずっと単独で封印し続けてきてくれていたが、今でもそのゲートから歪虚が出現し続けていて、強欲以外の眷属にも攻撃を受け続けてきている。その攻撃の手がこれから増えるって事になる。
 ――星の傷跡に人類が介入したとなると、歪虚側も黙っておけねぇだろうからな」
 ジャンルカの呟きに、ハンターが首を傾げる。
「そのヴォイドゲートは、在り方を変えれば人間が利用できる異世界転移門になる」
 回答を聴いて、リアルブルー出身であるらしいハンターは、ぴくっとした。
「……そういうことだ。いつか繋ぐ事が出来るかもしれない。まだ、絶対の確信がある訳ではねぇけどな」
 ジャンルカは改めて、話を本題へと戻す。
「――つまり強欲以外の歪虚の関心も高い場所であると同時に、歪虚に奪われてしまうと『ヴォイドゲート』として利用される可能性が高ぇ。それは 世界にとってかなり厄介だ。青龍に頼ってばっかじゃいけねえ。俺ら人類も、星の傷跡を守るべきだ」
 ハンターに交渉しているジャンルカの背後に立っていた彼の弟分であるカークも、「宜しくお願いします」と深々と頭を下げていた。

●星の傷跡にて
 星の傷跡は巨大なクレバスが印象的で、高密度の正マテリアルに満ち溢れる神秘の場所だった。ハンターとジャンルカ達は直接クレバスから降りて、大きな洞窟に潜り、地下へと進んで行く。
 暗闇である筈なのに灯りは必要無い程、明るく、美しい。洞窟を形成する鉱石が彩りを帯びる輝きを放ちながら、道標となってくれる。その中には龍鉱石も含まれていた。
「――此処は昔、ゲートを巡って強欲と青龍の眷属が長年戦っ ていた場所なんだ。当然龍鉱石もこんなふうに落ちている……」
 以前なら宝の山に見えただろう。しかし今のジャンルカの表情は曇り、黙考していた。龍鉱石は『死して尚迷い続け、自らの運命を呪った龍達の成れの果て』だ。遺跡防衛戦の後に青龍の話を聴き、初めて耳にして以降、自分や人類が燃料として使ってきた物が何だったかを忘れはしない。

 星の傷跡に足を踏み入れた歪虚を撃破及び追い払う為に行われる威力偵察は、普段、それ程困難では無かったという。
 少なくともダウンタウン勢力は高位の歪虚に遭遇していなかった。
 それでもハンターの彼らを頼ったのは、念の為だ。
 ――しかし、念の為である筈が。
 彼らの前にはとんでもない軍勢が立ちはだかる事になる。


●謎の歪虚軍団VSヒトと龍の絆
 数百、いや、数千といる歪虚の数。
 彼らを迎えた敵の軍勢は明らかに多すぎる。
 人類は絶望的な危機に立たされていた。
「帰れ人間。大人しく帰るのなら、今回は見逃してやっても良いぞ」
 いかにも傲慢な高位歪虚は見下したような物言いで、人類に提案した。
 しかし隣に居たいかにも強欲な高位歪虚は突っかかる。
「ハァ!? なんで見逃すんだよッ。甘っちょろい事言ってねーで皆殺しすりゃいいだろ!」
 高位の強欲――筋骨隆々の大柄の竜は、従えていたリザードマンとワイバーンに告ぐ。
「殺せ! 人間を八つ裂きにしてしまえ!!」
 洞窟内に荒々しい声が響いた。
 するとリザードマンとワイバ ーンは雄叫びを吼えた。
 強欲達の殺意の表れだった。


 ジャンルカは歯を食いしばる。
(一旦引くにしても戦うにしても、駄目だ、多すぎる……ッ)
 なんとかこの窮地を乗り切る方法は無いだろうか――
 武器を握り込みながら考えていた、その時だった。
 背後から、龍の声が聴こえた。
 その声の主は、青龍の眷属である10体の飛龍――ジャンルカは目を見開いた。


「飛龍……ッ」


 飛龍達は人の言葉を話す事が出来ない。
 ただ10体の魂の叫びはきっと、ハンター達の心に届いた筈だ。


 ―― 逃げろ ――

 飛龍は歪虚からヒトを守る為、盾となるべく人類の前に降り立つ。


 すると、竜は憤った。
「はぁぁ!? ふざけてんのかテメェら!!!」
 人へ向ける以上に飛龍に対し、嫌悪を向けていただろう。
「人間達に散々裏切られておいて、どうしてわからない!?
 もうテメェらも分かってる筈だ!! 人の心は愚かさと欲深さの塊だとなッ!!」
 しかし飛龍は退かなかった。
 たとえ此処にいる全ての歪虚を敵に回し、八つ裂きにされようとも。
 ハンター達は『守るべきヒト』なのだから。
「バカな奴らめが!!
 なら飛龍、テメェらにこのディストルツィオーネ様の恐ろしさと竜のあるべき姿を思い知らせてやる!!
 そして己の宿命を呪うがいい!!!」


 高位の傲慢は溜息を吐いていた。
「やれやれ……。我らの目的はアイツに任せて、帰りましょうスフィーダ様。少人数の人間相手にこれだけの軍勢で迎えるなんて、私のプライドに障ります」
「……」
 この軍勢を率いる君主――スフィーダはハンター達を見つめながら、密かに微笑んでいた。
「まぁ、しかし。折角ここまで足を運んだのですから、お土産は頂きましょう。此処の龍鉱石は、地上にあるモノよりスゴイ龍鉱石となるでしょう。って、聴いてます?」
「――少し見て行かないか?」
「スフィーダ様っ」
「なに。長居はしない。――ま、奴らが俺様に無礼を働かなければだが?」

リプレイ本文

●龍と竜とヒトと、それぞれの想い

 助けに来た飛龍<青のワイバーン>達はヒトを慈しんでいた。
 ヒトの心には確かに強欲な感情も潜む。
 けれど彼らの心は温かくて、優しい。

 ――だからこそ、愛おしい。



 圧倒的な数を誇るディストルツィオーネの軍は吼える――飛龍を生かすな――『殺せ!』と吐く野蛮な声が洞窟内に響き、無数の矢が降り注いだ。
 猛進する強欲の竜達に吼え返す飛龍達は決して退かなかった。それはヒトを守る為だった。
 その睨みあいを見つめていたフィルメリア・クリスティア(ka3380)はこの状況を“ある過去”と重ね合わせる――飛龍が『逃げろ』と叫ぶのは、これが大勢の歪虚軍からヒトの命を安全に護る事に繋がると考えたからだろう。
 しかしその言葉に従えば、飛龍はどうなる?
 火を見るよりも明らかな末路が見えてしまえば、フィルメリアは居ても立ってもいられなくて飛龍よりも前へと駆けだしていた。
「私には私にとって大切なもの、大切な事があって、その為に此処に居るのよ――“結果として見捨てる”事になるのはもう御免だわ……」
 美しく長い蒼氷の髪はグラデーションのように緩やかに銀色へと帯び、氷の華が舞い、雪と氷の荊が躰の一部を纏っていく。
 そして彼女の中で静かな炎が沸き上がった。
 前線に出れば、リザードマン達の剣や槍による集中攻撃が待ち受けていて、盾で防ぐ。
 ――しかし、敵の数の多さ故、防ぎきれない分もあって身に刺さった。
『……!』
 フィルメリアが血を流す光景を目撃した飛龍は、彼女を傷付けた強欲の竜達に怒りの炎で焼き払い、再び彼女に促す。
 敵は数千の歪虚だ。戦えば、無事に帰れるという絶対の保証はない。
 だから逃げて欲しい、と。
 それでもフィルメリアには自分の目指す先に対して“手を取り合える”相手を見捨てて行く事なんて出来なかった――。
「私は、私の手が届く範囲で守れるモノは全て守り通すと決めた。例えどれだけ罪深くなろうと、その全てを背負うと誓ったのよ、飛龍……」
『……っ』
 想いを貫き通したい、どれだけ“強欲”だと言われようとも。
 噴射した炎の破壊エネルギーは扇状に広がった時――主よ、彼女に貴方の加護を――フィルメリアの無事を願う青年の祈りが力を与えた。そして悪しきリザードマン達を蒼く冷たい熱の焔で焼き尽くし、消滅させた事で、フィルメリアの“意志”を顕す。
「――あぁ!? どういうつもりだッ、人間ッッ」
 驚愕するディストルツィオーネは低く呻りながら睨みつけた。その反応は、人間が龍を助けるとは思わなかったというようなものだった。
「どういうつもりですって? 見て分からないかしら? ――逃げる気なんてない。私は戦い続けるわ」
「なんだとッ!?」
 ディストルツィオーネは戦場を見渡し、更に驚くだろう。人間は誰一人、此処から逃げ去ろうとしていない。飛龍が人間を逃がそうとしているにも関わらず、その上で圧倒的な数で勝る自身の軍に、立ち向かおうとしているとは。
 前線に近いリザードマン達も、呻りながらヒトを睨みつけていた。
「ハッ……いいね、この視線。いいぜ来いよ! テメェ等の殺意毎、俺の炎が喰らってやらぁ!」
 最前線に出たボルディア・コンフラムス(ka0796)が、青白い炎のオーラを沸き立たせる。そして大斧を力一杯振り回した。
 その抜群の威力はリザードマンにとって一溜りもない。ボルディアの斧に薙ぎ払われた竜は撃破されていき、彼女も強欲の竜達の力量を知れば、嗤う様に笑みを深めた。
「なるほどそういう事か……こんな大勢で群れねぇと人間一匹殺せねぇンだよなあ、テメェ等。――おっと、俺を無視して横からすり抜けようとするンじゃねぇぜ? さっさと来やがれ。数に任せて、束になって、俺を嬲り殺しにしてみろよバカ竜があぁぁ!」
 ボルディアが大声で挑発すると、強欲の竜達の注目を掻き集め、敵対心を煽る。
「オイ! 先に竜の恐ろしさを教えるのは飛龍からだッ! 勝手な行動してンじゃねぇ!!」
 するとディストルツィオーネの指示に従わず、飛龍を無視し、ボルディアを狙って攻撃するリザードマンが続出した。
「クソッ……」
 ディストルツィオーネの苛々は募る。手下のリザードマン達は頭に血が昇ったら言う事を聞くような連中じゃないというのは……自分の配下の事だから、よく理解している。故に、統率が乱れても放置するしかない。
 ボルディアに挑む竜達は次々と斬り捨てられていった。
 しかし、ボルディアにとっても束になる相手から全てを防ぎきる事は難しい。
 瞬く間に傷だらけとなってしまうが――、ボルディアは一人で戦っている訳ではない。
「手出しはさせません!」
 前衛へと立ったリラ(ka5679)が助けとなるべく、襲い来るリザードマンを共に撥ね除けた。体内を循環する気を練り力を上昇させ――繰り出す青龍翔咬波。直線上に居る竜達へと一気に放出する。
 浅黄 小夜(ka3062)も仲間を巻き込まないように注意をしつつ、向かってくるリザードマン達を火球の爆発で一掃した。
 仲間の危険を救う為には一手で倒しきる事が最善だと考えたからだ。
「っつーか人間共、なんで逃げねぇ!」
「飛龍を…置いていけません…」
 ディストルツィオーネは、答えた小夜を睨みつける。すると小夜は身を硬直させた。故郷<リアルブルー>への帰り道の手がかりを探す小夜は、帰る前に死ぬのは嫌だった。――そもそも死んでしまうより、生きている方が断然良いに決まっている。
「置いていけない!? 飛龍と一緒にぶっ殺されてぇってことか!?」
 ディストルツィオーネに声を荒げられ、小夜は唇を噛み締めながら首を横に振った。
 粗暴な彼の咆哮には迫力があった――慈悲などない、破滅と滅亡を彷彿する。――けれど。
「違います…。本当は人でも、龍でも、それ以外でも…戦わんで済むなら…その方がええです…今だって…傷付けるのも…傷付くのも…痛いし、怖い…」
「だったら――!!」
「でも…っ。誰かが痛いのは…もっと嫌やから…」
 小夜は自身を奮い立たせながら、頑張ってディストルツィオーネに言い返した。
 皆で生きて“帰りたい”から。
 その為には逃げてはいけないのだと、解っているから。
「怖くても……戦います……」
 そう小夜が言葉を紡いだ時、飛龍が鳴いた。
 共闘を望む小夜の想いに胸が打たれた。と、同時に守らねばと思ったのだ。
「……」
 そしてディストルツィオーネにも少しの奇妙な間があった。なんの間だっただろう。
 確かなのは“震えているように思えるヒトの少女を見て、一瞬の間が生まれた”。
 だが何かの感情を秘めるというよりも――まるで思い出そうとしても抜け落ちてしまっていて、ぽっかりと空いてしまっているかのような。
 しかし、
「――……そうかよ」
 その一瞬が過ぎれば、彼はまた“破壊を続行する”。
 そんな様子を不思議に想いながら見つめていたのが、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)だった。
 パトリシアは飛龍を大事に思う一方で、ディストルツィオーネの事も気に掛けていた。
 どうして怒っているのだろう。何を『欲して』いるのだろう、と。
 けれど今は、強欲の竜達が飛龍達に集中しないよう注力した。
「サヨ! みんなで帰りましょう、飛龍さんとも一緒に!」
 パトリシアは符を投げ上げる。すると空中で稲妻と成り、リザードマンを貫いていく。
 そして藤堂研司(ka0569)も飛龍を狙う強欲の竜を対象に弾幕を張りながら、小夜に語り掛けた。
「大丈夫だ、安心してくれ! 皆が居るし、俺もついてる! 必ず守るぜ。飛龍も小夜さん達も、やらせねぇ――!」
「おねえはん……おにいはん……」
 小夜は二人の約束を胸に、こくりと頷く。
 少し表情が柔らかくなった小夜に、黒猫の紫苑の幻影も寄り添った。
(紫苑…。そっちの…世界に…帰る…為にも……)
 もしかしたら帰る方法が無いのかもしれないと――考えた日もあったけれど。
 しかし遂に、ようやく、異世界に転移できる可能性を掴めたのだ。此処で負ける訳にはいかない。実際に転移できる未来は遠い先かもしれないが……それでも“希望”は見つけた。
(――頑張る…から……)
 小夜は意を決しながら敵陣営にファイアーボールを撃ち落とす。飛龍にも味方にも届く矢を放つ弓兵を中心に巻き込んで、仲間と共に連携していく。

 フィルメリアはリザードマン達の排除に大きく貢献していた。強化したデルタレイは22回撃つ事が出来、一発お見舞いする度に三体同時に仕留める。
 そしてディストルツィオーネの行動にも注意していた。
「飛龍には手を出させないわ」
「この……っ!」
 飛龍を狙うディストルツィオーネへ横槍する為に割り込んだ際――フィルメリアの身を心配する青年の祈りが届いて、鉤爪による攻撃を雷撃纏う光の障壁で強く弾き返す。
 飛龍は戸惑っていた。
 傲慢の歪虚は本当に攻撃を行う様子は無く――腕を組みながら高みの見物を決め込むスフィーダを見て、龍を目の敵にしながら暴れる強欲を見て、そして逃げるのではなく共に戦う事を望んだヒトを見た。
 世界の守護者である龍にとって、世界の一部であるヒトの生命は大切だった。
 守らなければ――。
 そんな飛龍の想いを、コントラルト(ka4753)は感じ取っていた。
「ありがとう。この状況でも、私達を助けに来てくれて……」
 だから伝えようと思った。彼らが心配しないように。
「貴方達が私達人間をずっとこうやって守ってくれてたから、私達も成長する事が出来たわ」
『……』
「守ってもらうだけの存在ではなくて、横に立って、共に戦う事が出来るまでに」
 飛龍は、想いを巡らせていた。
 ――300年以上前、ヒトは龍と共に歩もうとしなかった歴史がある。
 そればかりかヒトは龍に刃を向け、“龍狩り”が積極的に行われていた。何故なら当時、龍を倒した者は“英雄”として称えられたからだ。
 そしてヒトは功名心を目当てに、大勢の龍を傷付けてきた。
 そこから想えば、長い年月だった。
 青龍がヒトと仲良くしなさいと言われながら此処まで来るのに、数えきれない程の龍が傷つき、悩み、苦しみ、命を燃やしてきたけれど。
「……一緒に切り抜けましょう」
 コントラルトの目を細めた優しい微笑みが、飛龍達の胸に沁みる。
 300年前にヒトと龍は融和し、そして、今。
 飛龍達はハッキリと言える。
 ――同志達の苦しみは全て、無駄では無かった。

「………っ」
 そんなコントラルトの言葉は、明らかにディストルツィオーネをも動揺させていた。
「ヒトと……龍が、共に……一緒に切り抜けよう、だと……」
 呟く声も、心なしか震えていた。

「龍とヒト……私達は“共存できる”。対話できる! 決して諦めません! ――生きることを。助けることを」
 リラが深呼吸をしながら、まっすぐ見つめて云った。ヒトと龍が共に生きる道が、お互いを寄り添い合う形で成り立つ筈だと信じながら。
 愛梨(ka5827)も、友人であるリラに続く。
「そうよ! 私達は共存できる。飛龍達は態度で示してくれた……だからこれは、応えないとね!」
 そして符を持ち、金色に輝く眼差しは強欲の竜を見据えた。
 戦闘も、舞も、根本は同じ。
 流れがあってリズムがある――。
「今よ! 此処こそが勝利への道!!」
「ありがとう、愛梨!」
 リラは、戦機を見出す愛梨の禹歩を信じ、飛龍へ近付くリザードマンに飛翔撃をお見舞いした。
 飛び上がって強烈な一撃を放つと吹き飛んで、背後に立っていたリザードマン達をも巻き込み、飛龍達の元から引きはがす。
 すると飛龍達はその隙に大きな翼を広げ、飛び上がった――。
 ヒトを守る為――だが“盾”になるのではなく、今度は共闘する“矛”となるように、強欲の竜達を火炎で焼き払っていく。
 そんな力強い羽ばたきを見つめながら、飛龍に地脈鳴動を施したパトリシアは目を細めていたら……。
「向こうのワイバーンさんが……!」
 敵もまた、力強く羽ばたいた。
 そして両者は空中でぶつかり合い、激しい火炎の戦いが繰り広げ始める。
 その時、フォークス(ka0570)は空戦を視察した。
「ワイバーンの数は……10体か。そう手古摺る程の数ではないし、とっとと片付けちまいたいネ」
「俺達で飛龍を援護しよう! 空戦が片付けば空からの支援も得られる筈だっ!」
「OK...そうと決まれば早いとこやっちまおうか」
 研司が弓を構えると同時に、フォークスも拳銃の銃口を空に向けた。
 フォークスの右目は赤く変色していて、瞳にはクロスヘアのような十字模様が浮かび上がる――そして十字の中心に強欲のワイバーンを捉え、引き金をひいた。射撃は命中した。その弾丸には冷気のマテリアルが纏い、躰の自由を奪っていく。
「Go to hell!」
 動きを完全に止められた強欲のワイバーンは飛翔を維持する事は出来ない。そのまま堕ちて、地面へと叩きつけられた。
 研司も、味方を巻き込まないようにと遠くの方で戦闘している飛龍を援護する。
(きっとあいつは……俺を乗せてくれた龍だ)
 さっき飛龍と目が合った時に気付いていた――彼は遺跡防衛戦の日に共に戦い、背中に乗せてくれた戦友だと。
 彼はまた再び助けてくれた。
 その恩を胸に――。
 飛龍への何よりも強く熱い想いで焦がしながら、息を吸う。そして吐くと共に――。
「飛龍――!!」
 自分に気付いて貰う為に声を掛ければ、呼ばれた飛龍は研司に視線を遣った。
(俺が止める、機会を作る、後は頼む――!)
 目と目が通じ合えば、これ以上の言葉は要らない。
『――!』
 飛龍は強欲のワイバーンから僅かに離れると、その隙に研司は打ち放った。連続射撃による弾幕は敵の行動を制し、そして――。
「……今だぁっ!!!」
 研司の合図と同時に、飛龍は火炎を噴く。
「ヒトと龍が共存できる訳ねぇだろうが!!」
 しかし一方でディストルツィオーネは怒りを表し、叫びだす。
「できる訳がねぇ! 人間が……龍と“共に在る”ことなんて、できる訳がねぇんだよ……ッ」
 大きな蝙蝠羽を広げ、ディストルツィオーネも飛龍を追い掛け飛行しようとした。しかし。
「――させないわ」
 コントラルトがそれを阻止しようと翼を集中的に狙う。
「人間……何処までもオレ様を邪魔してぇかッ!」
「そうね。あなたと私は、決して相容れないようだから――」
 片や、全てを破壊し尽くそうとする強欲の化身。
 片や、物を作り――生み出す事に面白味を見付けた者。
 相反する二人の眼差しはぶつかり合って、火花を散らした。
「ふん、そのようだな……ッ!」
 ディストルツィオーネが呻る。
 そしてそのままコントラルトに突進しようとしたが、前衛のジャンルカが割り込んだ。
「おっと。てめぇの相手は俺がしてやる――少しは愉しませてくれよな、蜥蜴野郎」
「このッ、犬っころめが……ッ」
 ディストルツィオーネは鋭い鉤爪でジャンルカを裂いた。
 ジャンルカは深く抉られ、傷口からは血が噴き出てしまうが――優しい瞳をした者からの祈りが届いて、不思議とダメージは和らぐ。
(――どちらのお嬢さんかは知らねぇが、感謝しねぇとな……)
 やりたい事ができる様に……そして飛龍の無事である様にと、願ってくれる想いを受け取りながら踏み止まり続け、反撃に出る。
 その隙に、コントラルトは空中に三角形を具現化させ、その頂点から光を空へと伸ばした。
 飛龍達の空戦を早期決着する為――飛龍には当てないよう気を付けながら、研司とフォークスと協力しながら強欲のワイバーンを撃っていく。そして。
「finish」
 フォークスが最後の一体を仕留める。
 これで上空の飛龍の邪魔をする者は火炎を噴く竜と弓兵の竜のみとなった。
 と言っても、小夜が遠距離攻撃をする敵を中心に範囲魔法を使用していたおかげで、既に数も少ない。
「ちょろいもんだネ」
 フォークスは不敵に微笑む。
 飛龍達は空から強欲の竜達を一方的に焼き払う事ができ、ハンター達は頼もしい支援を得たのだ。

「よしっ! 空が片付いたら次は地上だッ――やれるだけ、止め尽くす!!」
 研司は速やかに地上へと視点を移すと敵勢力の先頭を制圧射撃した。矢を盛大にぶち撒け、行動を制す射撃は功を奏し、多数のリザードマンを食い止めていた。
 その隙に小夜、コントラルト、金鹿(ka5959)、パトリシアが協力する。
「舞え、金炎の蝶よ――」
 金鹿が楚々とした凛の声で唱えると煌めく光蝶がリザードマン達に飛び掛かった。
 誰もが見惚れてしまう程鮮やかに、華やかに、踊るように、撃破していく。

 その時、愛梨は幻影の弓を引き絞っていた。
 青の龍達とは折り合いが悪いものだと思っていた――けれど彼らはヒトの味方で居てくれた。その感動を力に変えて、
「二の矢。雷獣の舞!」
 射る矢が稲妻と化し、ディストルツィオーネを貫いた。だが悪竜の鱗の肌は非常に逞しい。その肉体は彼にとって自慢であり、防御に特化した強欲<ガイツ>の硬さを思い知る。――しかし。
「何しやがる!! 何オレ様を攻撃してやがんだテメェ……ッ!!」
「はっ! 弱い犬ほどよく吠えるとはこの事ね!」
「ッッ今なんつった……!」
「何よ!」
「よくもオレ様を侮辱したな……ぶっ潰してやる!」
「ふんっ、やれるもんならやってみなさい!」
 愛梨の挑発は上手くいっているようで、ディストルツィオーネの気を引いていた。
 ディストルツィオーネが最も優れているのは防御面だが攻撃の威力面も馬鹿には出来ない――それは彼の炎や爪を喰らえば明白だ。
 飛龍の命を守るのなら、飛龍を目の敵にするディストルツィオーネを食い止める必要があった。
 とはいえ、ディストルツィオーネの攻撃はハンター達にとっても猛威である。
「これでも喰らいやがれッッ!」
 キレたディストルツィオーネが愛梨を狙い、範囲を狭くする代わりに射程距離を伸ばして一直線に黒炎のブレスを噴く。
 そんな窮地の愛梨を守ろうとしたのは金鹿だった。
(決して大きな援護とはなれなくても――私は守りたいですわ――愛梨さんを……!)
「守り給え――邪気に満ちた黒炎から、私の友を……!」
 金鹿の内から溢れ出した眩しい炎の幻影は姿を変えた――それは瑞鳥か、はたまた金炎の蝶か――愛梨を飲み込もうとする恐ろしい黒炎に、凛の光が燦然と煌めき、舞う様に対抗する。
 一人では絶望的でも、信じられる者達と共になら成し遂げられる――この戦場の中でも金鹿がそう思えるように、そう思わせてくれる愛梨を助けたい。お互い、一人で戦っている訳ではないのだから。
 黒炎が愛梨を直撃しようとした――その時――愛梨よりも先に、金鹿の光がぶつかった。
「クソッ! 邪魔しやがって!!」
 愛梨が直撃を免れ、悔しそうに地団太を踏むディストルツィオーネ。
 とはいえ黒炎は愛梨に対し猛威を振るい、焼かれた体は激痛が走っただろう――だが本来のダメージが軽減されたのは確かだ。
「――っっ、金鹿! ありがとねっ」
 愛梨は、金鹿が守ってくれたからこんな火傷なんて何ともないわと彼女にウインクをする。
 その合図を受け取った金鹿も、片目を瞑って愛梨に仕草を返した。そしてディストルツィオーネを見据え、芯の強い落ち着いた声で語り掛ける。
「――私は、高慢ちきに威張り散らすばかりの貴方よりよほど強欲なのやもしれません。他者からの信頼に加えて共に生きる未来だなんて大それたものまで欲しているんですもの。
 共に歩む未来のため……今此処で飛龍達の想いに報いることこそ、今私達が為すべきことですわ。ですから、足掻いてみせますわよ――」
 そう紡ぐ金鹿の言葉を聞いて、愛梨は微笑みを浮かべた。
 それから自身もまた、ディストルツィオーネに告ぐ。
「ええ、そうよ。私たちは強欲。自分達だけじゃなく、他の相手も幸せにできる道がないかって探してる。
 私はそんな人をいっぱい見て来た。
 それは傲慢ですらあるかもしれない。
 でも。私はそれこそを誇りに想う!」
 数々の出会いと、想いを胸に――。
 しかしディストルツィオーネは憤った。
「ふざけるな。ただ龍を利用してぇっていう間違いなんじゃねぇのかぁ!? 龍を裏切り、利用し、ヒトは自分の事だけを考えている生物だッ」
「sigh......あんたと話すと疲れちまいそうだネ。ケド、敢えて言ってやるさ。――利用して何が悪いンだい? 強欲野郎」
「あぁ!?」
 フォークスは不敵に微笑み、ディストルツィオーネを嗤った。
「世の中give and takeだよ、自分の要望の為に要求に応えるのが正しい欲望の使い方なワケ。
 利用する代わりに利用されるのさ。
 でも、giveだけで龍との関係を成り立たせようなんて思っちゃいないってのは本当だよ。ヒトが自分さえ良けりゃあイイと思ってるなんていうのは、おたくの勝手な妄信ってコトさ。――此処までは分かるかい? airhead!」
「なッッ……オレ様をバカにするな!!」
「そうそう、序でにコイツも忠告しておこうカナ? あんたはこれ以上喋らない方がイイよ。上司に無能ヅラ晒しちまう事になるからネ!」
「今なんて言った小娘!? 聞き捨てなんねぇぞッッ」
 むしゃくしゃしている様子で声を張り上げるディストルツィオーネ。
 彼は一言一言真に受けやすいようで、フォークスの軽口に翻弄されている。
「さっきから聞いてりゃあ耳障りにがなりたてやがって……」
 そして研司は眉を潜めながら、ディストルツィオーネに告ぐ。
「青の飛龍が俺達をまた助けてくれたから! 俺達も助け返す! それだけだろうが!! この状況で、戦友見捨てていけっかぁっ!!」
「ありえねぇ……ッ! 人間がそんな義理堅いもんか!!」
 ヒトが龍を助けようとすればする程、ディストルツィオーネは真っ向から猛烈に否定する。それはある意味、異常と呼べる程の――ヒトに対しての固定観念があるようだった。
 きっと、何かあるんだ。
 そう考えたパトリシアは、翡翠色の瞳を逸らさずに訊ねてみた。
「蝙蝠羽さんはドウシテ怒ってるのデス? 怒ってばかりじゃわからない……」
 負のマテリアルを発する沢山の歪虚を前に立っていられるのは、皆と一緒だから。
 飛龍の羽ばたきが力強いから。
 龍鉱石の光が、優しいから。
 パトリシアは勇気を貰いつつ、言葉を紡ぐ。
 すると、
「……!」
 問われたディストルツィオーネは、瞳孔を開く。
 何故ならずっと色褪せない――永遠に忘れられない過去が脳裏に過ったから。

「てめぇら……てめぇら人間が………ッ」

 ディストルツィオーネは怒りに震えていた。
 そして、

「オレの親友を龍狩りで殺した癖に、生きてやがるからだよッッッ!!!!!」


 ――300年以上前。

 誰よりもヒトを愛していた龍が居た。
 深く愛するあまり愛されない現実に悩み、龍の生き方に迷い、それでも青龍の言葉を信じてヒトを愛し続けた龍が……。
 しかしある時、その龍は全てを後悔した。

 最愛の親友が“龍狩り”に遭い、ヒトの手で残酷な死を与えられたから。

 その瞬間から彼の中にあった愛情や寛容は跡形もなく変化した――どろどろと深い憎しみへ。
 心が闇に支配されていくのを“抗いながら、けれど、どうしようもなく”受け容れるしかなかった。

 もう二度と、龍には戻れない所まで……。

●龍の望みと、竜の望み

「オレ様はお前達人間も、青龍達も、世界も許さねぇ……ッ! この世に在る全てを親友と同じ目に遭わせ、破壊し、世界を滅ぼすッッ!! それがオレ様の野望だ!!!」

 ――研司は息を飲んでいた。
「ヒトが龍を狩った……? そんなのおかしい、ヒトと龍は300年前に融和した。それからは龍狩りなんてのは行われなくなった筈……って事は!」
「まさか元は300年以上も前の龍ってワケかい?」
 フォークスは核心を突く。
「300年以上も存在し続けているという事は――かなりの高位、ですわね」
 金鹿も衝撃を受けながら、改めて緊張感を持つ。

 そして今迄ずっと沈黙し続けていた歪虚軍の長――スフィーダも、口を開いた。
 ディストルツィオーネを見つめながら、悠々と。
「面白いものを見せて貰った。本当に少し見るだけの筈だったが、おかげで長居してしまってたみてぇだ。
 ひとまず、我らは離脱する事にした。
 お前も、手勢が随分減ったようだから、共に退却するといい。
 ヴォイドゲートの件は一時保留だ。その上で他所の歪虚軍と合流しない――我々傲慢の軍は、星の傷跡から撤退する」
 その言葉に驚いたのは、ディストルツィオーネだけでは無かった。
 帰るというのは作戦から撤退するという意味のつもりではなかった側近の傲慢と、そしてハンター達もだ。
「傲慢の軍が……撤退?」
 ヴォイドゲートは歪虚にとって大事なものであった筈だ。
 それを目前にして引き下がるなんて――、リラは少し動揺していた。
「……戦いにも貴方達傲慢が手を出さなかった事といい、お礼を言いたいところだけれど。でも、一体どういう事かしら?」
 コントラルトが不審に思いながら訊ねると、スフィーダは視線を遣った。
 傲慢らしく人間の事を良く思っていないというのは何となく察するだろう――しかし、彼の場合は人に対する好奇心があった。言葉を交わす事は可能な歪虚であるらしい。
「元々俺様は要請は受けたが協力してやりに来た訳ではない。メイルストロム王と面識も無ければ、ヴォイドゲートについても興味があっただけで、面白そうだから首を突っ込んだだけのこと。――気が変われば、そっちが優先だ」
「それは一体、どういうふうに変わりましたの?」
 金鹿が問い掛けた。
 するとスフィーダの笑みはあくどく歪む。
「ディストルツィオーネの復讐の方を手伝ってやりたくなった」
「復讐……?」
 その言葉を聞いた時、金鹿は嫌な予感がした。
「哀れな竜よ。
 俺様とお前の手で、お前を苦しめた世界の全てを破壊しよう。
 しかし親友と同じ目に遭わせるというのもいいが、親友を奪われたお前と同じ目に遭わせてやる、というのもいいんじゃねぇか?
 ガイツの目標は強欲であるべきだ。
 その為にも今は力を蓄え、いずれ彼らの大切なモノも壊してやろうじゃないか――」
 そして確信した時、
「――お待ちください、聞き捨てなりませんわ」
 金鹿は眉を潜めながら、スフィーダの話を遮った。
 ――大切なものを壊す、だなんて。
 フィルメリアも思わず続く。
「そうよ。ふざけないで。私達の大切なモノを壊すですって?」
「ああ。物に限らず、家族かもしれないし、友人かもしれないし、縁が合った知人かもしれない。……それにしても君は、“強欲”そうだな? その顔は、“大切で手放せないものが溢れてる”っていう顔だ――そういう者程、壊し甲斐がある」
「……っ ――そんなこと、絶対にさせないわよ」
 フィルメリアは握っていた拳に力が入り、歯を食いしばった。
 すると次の瞬間、ディストルツィオーネが黒炎を噴き出して、人間に殺意を剥き出す。
「ディストルツィオーネよ、撤退命令を出した筈だが?」
「我が王。やっぱりオレ様を理解してくれてんのは、アンタだけだ……。それが嬉しくて、今、どうしようもなく、何かを殺したくて溜まらねぇ! ――あっちの傲慢野郎が龍鉱石を運んでる間ぐらい、いいだろ?」
 ディストルツィオーネの純粋な感謝と喜びは、殺意の衝動へと変換した。
 そんな彼を眺めていたスフィーダは微かに笑う。
「……ご自由に」

 側近の傲慢は撤退すると聞いてからはもう拍子抜けして怠そうにしていた。ヒトと龍の関係――そして竜との争いには関心が無いらしい。手下の歪虚を顎で使い、周辺の龍鉱石を採掘させていた。
 戦闘が再熱して喧しくなったのを見て、溜息を漏らしつつ耳を塞ぎながら。

「……飛龍、そしてヒトよ。オレ様はお前達が愛だの許しだのをほざく度に憎み、生き続ける限り恨み続けるぜ――大人しく殺されるんだなッ!」
「クソッ……バカ竜め!」
 ディストルツィオーネが噴く業火の黒炎にボルディアは焼かれた。
 しかし、どんなに焼き焦げてしまいそうな想いをしても、気合いで耐える。
「俺が……ッ炎で負けるわけにゃ、いかねぇんだ!!」
 ボルディアのプライドは熱く燃え、黒に負けない青白を沸き立たせた。
 そして不屈の心を体現し、傷の再生を存続する――。
「チッ…!」
 ディストルツィオーネは向かってくるボルディアに鉤爪で引き裂く。
 ――しかし、飛び散った血は赤々と燃えた。
「何ッ……!」
 ――そして紅火は自身の躰へと還り傷を癒しつつ、
「俺の炎を喰らいやがれっ!!」
「ッぐ……!」
 全身に青白色の炎を纏わせながら斧で重たい一撃を浴びせる。

「最愛の親友を亡くした悲しみは分かる気がします……。私にも、かけがえのない友人が居ますから」
 リラは拳を握りしめた戦闘態勢のまま構えながら、ディストルツィオーネを見据えていた。
「でも――。
 あなたが全てを破壊するなら、私の友人を傷付けるなら、――私は守りたいです」
 ここに居る友達の愛梨のことも……。
 この点は決して譲る事は出来ない。
 そして同時に、ディストルツィオーネが、世界の守護者たる龍の成れの果てであった事を想い、唇を噛み締めた。
(彼の親友がヒトに殺されずにいたなら……もしかしたら……、共に歩む仲間だったかもしれませんね……)
 龍とヒトは共存できると強く信じているからこそ、悔やんだ。
 それはパトリシアも同じ。
 ――トモダチになれた龍だったかも、しれなかった。
(飛龍さんやみんなと、モット仲良くなりたい……。
 カワイイモノ、甘いモノ、きれいなモノ、温かいキモチ、ミンナの笑顔。
 どれも、ちっとも諦められないカラ……)
 ――だとしたら、やっぱり戦わないといけなくて。
 それでも、龍同士が争うのは悲しかった。
 だけど立ち止まりたくないから――今の気持ちを大切に。偶々持ってきていた包みをきゅっと握る。

 側近の傲慢が周辺の龍鉱石を回収するまでの間――その短時間の内に、一人でも多く殺傷しようとするディストルツィオーネの爪を妨害すべく、研司は懐からYL1を取り出した。
「――弾切れと思ったか? 残念だったな!」
 隠し持っていたのはこの為だと言うように妨害する射撃――『EEE』。
「お前の事情は分かった……だがな! 俺の全部守りたいって気持ちは、変わらねぇ!!」
 そして、フィルメリアがディストルツィオーネに立ち向かおうとした時に、心愛の蒼姫からの強い祈りが届く――大丈夫、フィルは独りじゃない。貫き通したい想いを乗せた一撃、絶対に届かせてみせる。
 そんな姫騎士の想いが、氷の華の幻影は益々美しく輝かせ、フィルメリアに強大な力を与えた。
「確かに、ヒトは欲深いでしょうね。私も“強欲”な自覚はあるもの。
 だけど……私のそれは“護りたい”から。私が『大切にしたいもの』が、貴方が信じれなくなったモノが其処にあるから、私は求めるものがある」
 近距離に詰めてからの銃撃は、ディストルツィオーネの自慢の硬い皮膚を抉った。
「何だと……ッ俺様の皮膚が……!」
 その隙に、リザードマン達を撃破する為に符を使い果たしていた金鹿も拳銃を握って、撃つ。
(実践にはまだ……と思っていたのですけれど)
 備えをしていて、正解だった。
「足掻いてみせると言いましたでしょう?」
「――ッ」

 傲慢雑魔達が周辺の龍鉱石を回収し終えたのを確認した側近の傲慢は、溜息を漏らした。
「――まぁ、こんなもんですかね」
「ご苦労。さて、ディストルツィオーネ。帰るぞ」
「くっ……」
 スフィーダの命令で今度こそ撤退しなければならないディストルツィオーネは悔しがる。
 だが忠実に従い、共に後退した。
 撤退支度を始める歪虚軍を見ながら、ボルディアが眉を潜めて叫ぶ。
「おい……! てめぇ、名前はッ」
「名前……?」
 ――問われた君主は、告げた。
「我が名は、スフィーダ様だ。よく覚えておくといい――」
 闇色の炎を纏わせ、逆さの翼を大きく広げ、高貴たる威厳を放ちながら――微笑む姿さえ畏怖を与えるような。
 ボルディアは歯を食い縛り、睨みつけていると――。
 ふと、ちまっと前にでたパトリシアが何かの包みをディストルツィオーネに投擲した。
「蝙蝠羽さん……っ! これ、受け取ってくだサイ!」
「何だこれは……!」
「パティの大好きなクッキーです! デモ、蝙蝠羽さんにあげマス!」
「はぁ!?」
「パティのキモチ、デスヨー!」

 ――なんの気持ちだ!?

 解せぬ様子で撤退を続けるディストルツィオーネに、スフィーダは控えめに笑む。
「良かったじゃねぇか。おやつが出来て」
「く、クソッ……」
 ディストルツィオーネはぎりぎりと歯軋りしながら振り返って、ハンター達に告げる。

「――このままで済むとおもうなよッ人間! 貴様ら人間と龍は共に歩む事などできやしねえッ……どーせすぐに関係も崩れるに決まってるぜ! そして世界をぶっ壊すのは――オレ様だ!!!」

 そうして嵐のようだった彼らが撤退すれば、星の傷跡に静けさが戻ったのだった――。



「飛龍……お前、泣いてるのか……?」
 飛龍の事を特別に思っていた研司は、彼らの泣声に気付いた。
 パトリシアも微かに目線を落としつつ、
「悲しいのデスネ……」
 優しく、背を擦る。
「そう、よね……アンタ達にとったらアイツは――」
「同志、だったんですよね……きっと」
 愛梨とリラが互いに目を見合わせて、俯く。
「……飛龍」
 小夜は、理解していた。
 飛龍達の気持ち――
 竜の中には嘗ての同志だった龍の成れの果てである者達が居て、――本当は龍園に、昔の彼らが帰って来て欲しいと胸を痛ませている事を。
 でも、一度堕ちてしまった龍を元に戻す事はできないというのは、解っているから――
 金鹿はまっすぐ飛龍を見据えた。
「確かに受け止めましたわ。……貴方がたの気持ち」
 ――倒して欲しい。
 そうしなければ永遠に彼らは強欲な感情に支配され、苦しみ続けるのだから。
 それだけが唯一の救いであるのだから。

 フォークスは紫煙を吐いていた。
 ――そして、先程までは戦場だった美しい洞窟内部を眺め、想いを巡らせる。
 嘗てこの洞窟は龍と歪虚が激戦を繰り広げていた地なのだという。
 そうして守り続けてきた世界の一部――人類が大昔に龍を討伐していたのも変えようのない事実だ。
「それでも、私達と共に歩もうとしてくれるのかしら……?」
 フィルメリアが訊ねると、飛龍はこくりと頷いた。
 それを見たコントラルトは、静かにそっと寄り添う。
「改めて言わせて頂戴。……ありがとう」

 此処まで決して真っすぐだった道では無かったが、
 今、人と龍は想いを繋げ、共に歩み始めようとしている。

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  • 龍盟の戦士
    藤堂研司ka0569
  • 世界より大事なモノ
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    コントラルトka4753
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリスka5996

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参加者一覧

  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • アヴィドの友達
    愛梨(ka5827
    人間(紅)|18才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
コントラルト(ka4753
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/04/29 18:49:58
アイコン 【相談卓】AVARITIA
フォークス(ka0570
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/05/01 21:40:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/29 19:18:28