• 龍奏

【龍奏】『蒼』の強襲

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/05 19:00
完成日
2016/05/14 03:29

みんなの思い出

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オープニング

 剣閃と槍撃が入り乱れ、敵の体に新たな傷を刻んでいく。カム・ラディ遺跡の周辺で警備を担当していた軍人達は、敵の襲撃を受けて戦闘に突入。安全確保のため、武器を振るっていた。
 敵が単独なのに対し、軍人の数は3人。力量は相手の方が僅かに上だが、連携攻撃を駆使して戦闘を優位に運んでいる。
 1発の銃弾が敵の眉間に直撃し、追撃の槍が『鱗』に突き刺さる。更に、斬撃が敵の『翼』ごと背面を大きく斬り裂き、それが止めとなって力尽きた。
 3人が戦っていた相手は、人間ではない。人型の異形……鋭い爪と牙を生やし、コウモリのような翼を備え、全身を『蒼い鱗』に包まれた存在……。
「これって……青龍の眷属、なんでしょうか」
 槍を地面に刺し、軍人の1人が弱々しく口を開いた。青龍との協調が実現し、共闘の準備が進んでいる事は、関係者なら誰もが知っている。その眷属が、『強欲』の歪虚と似た姿をしている上、『青い鱗』の龍種だという事も。
 襲って来た敵は、鱗の蒼いワイバーン。特徴を見る限り、青龍の眷属と同じである。
 それが分かっているからこそ、彼らは龍を倒さず、話し合いで解決しようと思っていた。だが、相手にその気は無かったらしく、強烈な殺意を放ち続けていた。龍を倒さなければ、こちらが命を奪われていただろう。
「さぁね。俺は直接会った事がないし、断定は出来ないな」
「はぁ!? 馬鹿か、テメェは! こんな姿をしてるヤツ、他に誰が居るってんだよ!」
 落ち着いて剣を納める兵士に、もう1人の兵士が吠える。拳銃片手に舌打ちしつつ、空いている手で後頭部をガジガジと掻いた。
「裏切ったんだよ、アイツらが! 最初っから、協力する気なんて無かったんじゃねぇの?」
 吐き捨てるような、嫌悪感を込めた一言。彼のように、龍種に対して反感を抱いている者は少なくない。これまでの関係や歴史を考えると、それも仕方のない事かもしれないが。
 彼の言葉に、槍使いの軍人は悲痛な表情を浮べている。剣使いの軍人は腕を組み、数秒間だけ思考を巡らせてから龍の死体を指差した。
「確かに、ソイツは青龍の眷属に似てるけどさ。確証もないのに決めつけるのは良くないんじゃないか?」
 穏やかで落ち着いた口調。彼の指摘は一理あるし、正論だろう。
 が……その余裕のある言動が気に障ったのか、銃使いの軍人が鋭い視線を向けた。正確には、ガンを飛ばしていると言った方が良いかもしれない。鬼のような形相で睨みつけ、今にも掴み掛かりそうなイキオイである。
「あ! 2人共、見て下さい!」
 緊迫した空気を打ち破ったのは、意外にも槍使いの軍人だった。その切迫した口調に反応し、2人が素早く視線を向ける。次の瞬間、彼らの表情が驚愕に変わった。
 力尽きた龍の亡骸が、音も無く崩れ始めている。銃創や負傷が広がっているワケではなく、全身が光や塵と化して手足の端から消滅。ほんの数秒で、龍の姿は完全に消え去った。
「光になって……」
「消え、ちまったな……」
 睨み合っていた事も忘れ、茫然と呟く2人。彼らとは対照的に、槍使いの脳裏には『ある仮説』が浮かんでいた。
 全身が光や塵と化して消滅していく……これと同じ光景を、彼は何度か目にしている。自身が参加した討伐任務や、ハンターと共闘した大規模作戦の際に。
 そうやって消滅したのは……人類の天敵、歪虚。
「もしかして、さっきの龍は歪虚なんじゃないですか!? 眷属の姿を借りて、ボク達を混乱させる作戦だったとか!」
 確証は無いが、有り得ない事でもない。『強欲』にとって、青龍も覚醒者も目障りな存在である。その2つが協力したら、歪虚側にとって大きな障害となるだろう。だとしたら、何らかの妨害工作を働いても不思議ではない。
「なるほどなぁ……だから、さっきの奴は背中に『赤い鱗』が混ざってたのか」
 槍使いの仮説に、納得して何度も頷く剣使い。彼の口から零れた爆弾発言に、仲間達の動きが完全に止まった。若干の間を置いて、銃使いが荒々しく胸倉を掴む。
「テメェ! 何でそんな重要な事、教えねぇんだよ!」
「いやぁ……気付いたの、止めを刺す直前だったし。それに、誰にも聞かれなかったからさ」
 若干天然ボケな言葉を返しつつ、柔らかく微笑む剣使い。その言動に呆れたのか、銃使いは舌打ちしながら手を離した。
 『青龍の眷属に似た歪虚が出現した』。そう報告し、3人は警備任務に戻った。
 これが、事件の『序章』にすぎないと知らずに。
 数日後、『蒼い鱗』の歪虚が再び現れた。今度は単独ではなく、4体も。それが四方から迫り、軍は戦力の分散を余儀なくされた。
 不運が更に重なり、敵は前回の雑兵よりも手強い。訓練された軍人達でも、足止めするのが精一杯という状況である。
 この最悪とも言える境遇でも、彼らは信じていた。歪虚を倒す『人類の希望』が、必ず駆け付けてくれると。

リプレイ本文


 鱗が蒼く、龍の姿をした『雑魔』。その存在に、現場では大小様々な混乱が起きた。外見が『青龍の眷属』に似ているため、疑心暗鬼になったり不安が募るのも当然ではあるが。
 人類側に混乱が広がったのは、歪虚にとって狙い通りの状況だろう。たった1つの、致命的な誤算を除いては。
 出現した雑魔は、全員共通して『赤い鱗』が背面に生えている。それが雑魔と眷属の大きな違いであり、判別するための目印になっていた。
「少しは頭を使ったようですが……あっさりバレているあたり、まぬけというか何というか」
 戦馬を駆りながら、エルバッハ・リオン(ka2434)が呟く。銀色の長髪が風に流れ、幼さが残る横顔には苦笑いが浮かんでいる。
「強欲の中にも小者……頭の切れる者が居るのですね。正体を隠しきれていない辺り、片手落ちな感が否めませんが」
 ゴースロンで並走するヴァルナ=エリゴス(ka2651)も、呆れ気味に溜息を吐いた。彼女の指摘通り、『赤い鱗』はミスとしか思えないが、そのお陰で敵との見分けが付くため、ハンター側にとっては不幸中の幸いだろう。
「とはいえ、襲撃そのものは見過ごせませんから、ここで返り討ちにしないといけませんね」
 静かだが力強い、エルバッハの決意。今回の襲撃は、雑魔がカム・ラディ遺跡の4方向から迫っている。それぞれを同時に対応するため、ハンター達は4組に分かれて行動。エルバッハとヴァルナは、南側に移動していた。
 出発してから1分も経たないうちに、雑魔の姿が視界に映る。体長2mを超えるトカゲ人間……手には剣と盾を持ち、10人近い軍人達を翻弄している。ヴァルナは手綱から両手を離し、自身の身長よりも大きな剣を構えた。
 ほぼ同時に、エルバッハは杖にマテリアルを集中。周囲の精霊に干渉して鋭い風を生み出し、それを雑魔目掛けて放った。刃のような疾風が、空中を奔り抜けて敵の体を浅く切り裂く。
 風刃でハンター達の接近に気付いたのか、接敵していた軍人達が雑魔から離れた。入れ替わるように、ヴァルナが加速しつつ敵の正面から突撃。移動の勢いを大剣に上乗せし、騎乗したまま全力で突き出した。
 鋭い剣閃が空を切り、雑魔の肩口を斬り裂く。そのまま数メートル移動して半回転し、雑魔と対峙した。
「皆さんは下がって下さい。私は未熟な身ではありますが、足止めぐらいはしてみせます」
 金色の視線を敵に向けたまま、ヴァルナが指示を飛ばす。その言葉に従い、軍人達は後退。戦場には、少女2人と雑魔だけが残された。
「後方支援は任せて下さい。尤も、ヴァルナさんの実力なら手助けは不要かもしれませんが」
 敵の動きに注視しつつ、仲間に声を掛けるエルバッハ。その言葉が終わるか終らないかのうちに、雑魔は素早い踏み込みから剣を薙いだ。狙いは、正面に居るヴァルナ。
 切先が届くより早く、彼女は手綱と足で馬を操作し、斬撃を回避。攻撃を空振りした雑魔に、馬上から大剣を振り下ろした。紅白の刀身が盾を持つ腕に直撃し、新たな傷を深々と刻み込む。
 次いで、エルバッハは素早く氷の矢を放った。氷撃が雑魔の背中に突き刺さり、衝撃が全身を駆け抜ける。
 攻撃が外れた上、手痛い反撃を喰らった雑魔は、低い唸り声を上げながら剣を振り回し始めた。斬撃の鋭さは増しているが、怒りで我を忘れているのか攻撃自体は単調になっている。剣の軌道を読み、ヴァルナは大剣で敵の斬撃を受け止めた。
 そのまま、ヴァルナは一瞬だけエルバッハに視線を送った。間髪入れず、敵の剣を弾いて自身の武器を雑魔の脇に滑り込ませる。下から掬い上げるように大剣を振り上げると、敵の体が天高く舞い上がった。
 彼女の狙いに気付いたエルバッハは、マテリアルを集中。燃え盛る火球を生み出し、虚空の雑魔に向かって撃ち放った。炎が敵に触れた瞬間、火球が炸裂して衝撃が押し寄せる。炎が薔薇のように広がり、雑魔を一瞬で飲み込んだ。その炎が消えた時、雑魔の姿も燃え散っていた。
「私達の担当分は終了ですね。他の班に連絡してみましょうか」
 雑魔の消滅を確認し、ヴァルナがトランシーバーを取り出す。ボタンを操作し、他の班に連絡を送った。


 南部と同じように、遺跡の北部に向かって戦馬とゴースロンが駆ける。乗っているのは、もちろんハンター。戦場がドンドン近付き、雑魔の姿が肉眼でも見えてきた。
「真田さん、前衛はよろしくお願いします」
 言いながら、夜桜 奏音(ka5754)が符を投げる。細い指から放たれた符が雑魔の足元に命中し、一瞬で結界を生成。着弾周辺の地面に作用し、雑魔の足元だけが泥状の地面と化した。
 敵の動きが鈍っている間に、真田 天斗(ka0014)は馬を急加速。数メートルまで接近して馬上から飛び降り、両の拳を握ってファイティングポーズを取った。
「後の事は我々に任せて、動けない怪我人は後方に! 動ける者は夜桜さんの護衛を!」
 鋭い指示が飛び、周囲の空気が引き締まる。元軍属という事もあり、彼の言葉は的確で分かり易い。軍人達が後退した頃合いを見計らい、天斗は小刻みにステップを踏んだ。
「噂は聞いております。それでは、高機動戦を始めましょうか」
 言い終わるのと同時に、脚部からマテリアルを開放して加速。円を描くような動きで敵の側面から近付き、剣を持った腕にジャブを放った。その一連の動きは、疾風のように素早く鋭い。
 あまりの速度に雑魔の反応が追い付かず、天斗の拳が直撃した。が……ダメージは皆無に等しい。天斗は本気で打ち込まず、軽快なステップで移動しながら様子見するようにジャブを繰り出している。
 天斗の連続攻撃を目で追いつつ、雑魔は盾を構えて防御を固めた。拳撃に合わせて盾を突き出し、攻撃の威力を無効化。反撃するように、素早く剣を突き出した。
 咄嗟に、天斗は地面を蹴って後に下がる。切先が頬を掠め、薄っすらと赤い線が描かれた。
 奏音は攻撃直後の隙を狙い、符にマテリアルを込めて投げる。それが空中で発火し、赤々と燃える炎が出現。炎撃が剣を持つ雑魔の腕を直撃し、鱗を焦がした。
(こんな姿の歪虚が居るとは……一つ間違えば、別の戦闘が起きそうですね)
 胸を渦巻く、一抹の不安。口には出さなかったが、奏音は雑魔と眷属が勘違いされ、戦いが起きる事を心配していた。今回は判別が簡単だが……本当にソックリな雑魔が現れない、とも限らない。
 そんな彼女の気持ちも知らず、雑魔は燃える炎を消すように素早く腕を振った。その動きが斬撃となり、天斗に再び迫る。
「イクシード!」
 吠えるような天斗の掛け声に呼応し、全身が活性化。敵の攻撃を裏拳で払い落とし、大きく踏み込んだ。その勢いを利用し、刈るような右フックを雑魔の頭部に叩き込む。鋭い衝撃が押し寄せ、敵の体が大きく揺れた。
 追撃するように、奏音が両手で符を投げる。2枚の符が空中で燃え上がり、敵の両腕に貼り付いた。それが一気に発火し、業火と化して腕全体を飲み込む。熱量と衝撃に耐えきれず、雑魔は剣と盾を落した。
「これも仕事ですので、悪く思わないで下さい」
 謝罪の言葉を口にし、黒い残像と共に天斗が敵の懐に潜り込む。拳に渾身の力を込め、地面を踏み締めながら全力で振り上げた。拳撃がアゴを正確に打ち抜き、衝撃で雑魔の体が舞い上がる。
 2人の攻撃でダメージが限界に達したのか、雑魔の全身が光や塵と化し、徐々に崩れていく。その体が地面に落ちるより早く、敵の姿が完全に消滅。雑魔の撃破を目撃した軍人達から、歓声が湧き上がった。


 西側担当の無限 馨(ka0544)は、1人でバイクを走らせていた。アクセル全開で移動し、雑魔と軍人の居る位置まで急行。敵の姿を肉眼で確認し、身長と同じくらいの長さの魔導槍を構えた。
 軍人達と雑魔の間に割って入るように、側面から突撃して槍を薙ぐ。黒い刃が空中を滑り、敵の胸板を斬り裂いた。そのまま素早く半回転し、バイクを停めて雑魔と向き合う。
「お互い色気のない組み合わせっすけど、少々ダンスに付き合って貰えないすかね?」
 金髪碧眼も相まって、口調やノリが軽く感じられるが、全ては敵の注意を引くための作戦である。彼の狙い通り、雑魔のターゲットが軍人達から馨に変わり、剣で斬り掛かってきた。
 迫り来る切先に対し、馨は槍を構えたまま踊るようにステップを踏む。一見すると遊んでいるようにも見えるが、これは回避と防御に特化した動き。敵の斬撃を機敏に回避し、時には槍で受け止めている。
「あ、軍人さん達! 余裕があったらで良いんで、銃とか射撃武器で敵を牽制して欲しいっす!」
 敵を足止めしつつ、協力を要請する馨。彼の言葉に応えるように、軍人達から援護射撃が放たれた。ダメージは期待できないが、牽制には充分だろう。
 軍人からの援護を受け、尚も雑魔と刃を交える馨。雑魔の大振りに対し、槍を合わせて完全に受け止めた。
 次の瞬間、軍人達とは違う銃声が雑魔の横合いから響く。放たれた弾丸は敵の脇腹を貫通し、小さな穴を穿った。予想外の銃撃に、軍人と雑魔の視線が集まる。
「遅れて……ごめん、なさい」
 開口一番、南條 真水(ka2377)は謝罪の言葉を述べた。グルグル眼鏡で表情は良く見えないが、かなり疲れているらしく、肩を大きく上下させている。
 彼女は紛れもなくハンターなのだが……虚弱体質で暑さにも寒さにも弱く、乗り物酔いも酷い。この世界に存在する全ての乗り物で酔うため、バイクや馬を使えなかったのだ。
 仕方なく走って移動してきたが、運動音痴な上に体力もない。ここに来るまでの数百メートル……彼女にとっては、苦しい道のりだっただろう。
「待ってたっすよ、南條さん。やっぱ、ヒーローは遅れてやってくるもんすね」
 視線は敵に向けたまま、嬉しそうに語る馨。彼は真水の事情を理解し、合流する時をずっと待っていたのだ。
「いやいや。南條さんは単なる『か弱い乙女』だから。そういう役は無限さんに任せるよ」
 自身の事を『南條さん』と呼び、真水は苦笑いを浮かべた。本人曰く、素の自分が嫌いだから『南條さん』と呼ぶらしい。
 新たなハンターの登場に、怒りの雄叫びを上げる雑魔。それを微塵も気にせず、真水は魔導拳銃にマテリアルを込めた。
 銃口に仄かな光が集まり、敵の足元に『時計盤を模した魔法陣』を展開。時針、分針、秒針の3本が時を刻む中、秒針が雑魔に向かって伸びていく。閃光のような光が、敵の膝を貫いた。
「その秒針は、君を夢の世界に導いてくれるよ。どうか、『甘くて幸せな悪い夢を』……」
 真水の言葉に呼応するように、秒針が再び襲いかかる。今度の狙いは、盾を持つ腕。タイミングを合わせ、馨も槍を突き出した。
 流石の雑魔でも、同時に二ヵ所を攻撃されたら防ぐ事は難しい。一瞬の迷いが致命的な隙を生み、2人の攻撃が直撃。真水の秒針が盾ごと腕を貫通し、馨の刺突が敵の胸に深々と突き刺さった。
 一瞬、雑魔の全身が大きく痙攣した。それでも反撃の斬撃を繰り出そうと剣を構えたが……限界に達した肉体が崩壊。蒼鱗のリザードマンは、音も無く塵と化した。


「見えてきやがったな……星野、強化を頼む!」
 戦馬に乗って東方に移動していたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、並走している星野 ハナ(ka5852)に救援を求める。ハナは明るい笑みを浮かべながら、符を1枚取り出した。
「そーれ地脈鳴動ぉ! 頑張ってくださいエヴァンスさん~」
 にこやかな笑顔を浮かべ、彼女はノリノリで強化を実行。符に『大地のマテリアル』を流して放つ事で、エヴァンスの戦闘力を上昇させた。
 エヴァンスは軽く礼を述べ、戦馬を加速。手綱から両手を離し、巨大なグレートソードに持ち替えた。そのまま間合いを一気に詰め、全力で刃を薙ぐ。
 彼の接近に気付いた雑魔は、盾を構えて防御を固めた。青みがかった緑色の刀身が空気を切り裂き、強烈な一撃が盾を弾き飛ばす。それだけでは勢いが止まらず、盾を持っていた腕まで斬り落とした。
「今のうちに、おまえらは下がれ! これ以上ケガしたくなかったらな!」
 吠えるように叫び、エヴァンスが軍人達に避難を促す。口調は荒々しいが、彼なりに怪我人を心配しているようだ。燃えるような赤い瞳で雑魔を睨み、エヴァンスは両手大剣を握り直した。
「さぁて、実力を見せてみろよトカゲ野郎。あっけなく終わるんじゃねぇぞ?」
 口元に不敵な笑みを浮かべ、人馬一体の動きで攻める。大規模合戦で強大な龍種と戦ってきたエヴァンスにとって、今回の雑魔は霞んで見えるのかもしれない。とは言え、気を抜いたりしていないが。
 加えて、雑魔も無抵抗で倒される気は無いようだ。失った盾の代わりに剣で攻撃を防ぎ、一進一退の攻防を繰り広げている。
 接敵するエヴァンスの後ろで、軍人を誘導するハナ。全員の安全が確保された事を確認し、両手で呪符を構えた。
「トカゲは『ブッコロ』ですぅ! 五色光符陣五色光符陣五色光符陣……!」
 少々物騒な事を口走りつつ、複数の符を組み合わせて結界を生成。その範囲内に敵が脚を踏み入れた瞬間、強烈な光が入り乱れて雑魔の全身を焼き焦がした。
 敵の動きを捉えたハナは、符を連続で投げ放つ。眩い光が何度も雑魔を焦がし、圧倒的な光量で目がくらんだのか、動作が鈍っていく。
 この致命的な隙を、エヴァンスが見逃すワケがない。大剣にマテリアルを込め、敵の頭上を目掛けて全力で振り下ろした。
 迷いの一切ない斬撃が、雑魔の体を斬り裂いていく。エヴァンスは全体重を乗せて最後まで振り抜き、敵を両断。その切先が大地に突き刺さった時、雑魔の姿は地上から消滅していた。


『こちら、星野ハナで~す♪ 東は終わりましたけど、そっちはどうですぅ?』
 トランシーバー越しに聞こえる、ハナの明るい声。雑魔を倒した後、ハンター達は互いの状況を連絡。もし苦戦している所があれば救援に向かうつもりだったが、その必要は無いようだ。
 全員の無事と雑魔の殲滅を確認し、喜び合う8人。彼らと同じか、それ以上に軍人達が喜びの声を上げている。
「どうやら、全方面の敵は倒し終えたみたいですね。私は『ヤボ用』があるので、皆さんは先に帰還して下さい」
 奏音は仲間達に事情を伝え、通信を切った。トランシーバーを片付け、代わりに取り出したのは……救急箱。彼女の『ヤボ用』は、軍人達の手当てなのだ。
 依頼内容は『雑魔の撃破』だったが、傷付いた者達を少しでも治療したかったのだろう。救急箱を開け、応急処置を施す奏音。彼女の優しさに触れ、軍人達は再び感謝の言葉を口にした。

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MVP一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗ka0014
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/04 05:57:36
アイコン 相談卓
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/05/05 16:57:31
アイコン 質問卓
夜桜 奏音(ka5754
エルフ|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/05/03 22:09:06