迷える子羊ちゃんのRHAPSODY

マスター:冬野泉水

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/02 15:00
完成日
2014/09/08 23:54

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「司教! 見つけましたよ、ジェラルド司教!」
 たまたま立ち寄った先が王都イルダーナであったことをジルは心底後悔した。子供の頃からの癖か、考え事をしながら歩くと大体気づけば教会――つまり、同業者が集う場所に来てしまう。
 やっちまった……と頭を抱えるジルに、走り寄ってきたのは聖堂戦士団員だった。まだ真面目に働いていた頃からの付き合いで、人生で最も迷惑をかけているであろう一人である。
 二十歳前だろうか、溌剌とした顔の少年は、エミリオという。幼少の頃から聖堂教会に使える助祭で、ジルに日頃から仕事をなすりつけられている少年だ。
「十三日と五時間ぶりの帰還ですね」
「Wait、なんで数えてんだよ」
「嫌味を通りこして、趣味です」
「その趣味、やめとかないとモテないぜ……」
 さっさとずらかろう。そう決めて踵を返したジルの後を少年は当然のようについてくる。
「司教に仕事の指示が来ています。もうすぐここに戻るだろうと」
「誰の指示だ?」
「副団長です」
「……No kidding」
 天を仰いだジルだった。

 ●

 聖堂戦士団の活動範囲は西方一帯に及ぶ。その広大な土地に住む戦士達を束ねるのは聖堂戦士団長だが、なにも一人で動かしているわけではない。
 それぞれの土地に、それぞれの使命に応じて、聖堂戦士団は流動的に組織を改める。
 複数の副団長が存在するのも、戦場に最も近い戦士団を即座に束ねられるようにするためだ。
 グラズヘイム王国内を管轄する副団長は事実上のナンバー2であるが、小柄な少年のような男性である。だが、三十路を超え、経歴はベテランそのものである。勿論、偉大なる王立学校神学科の先輩でもある。
 同時に、ジルが最も関わりたくない男の一人でもあった。


 僕の統計が正しければ、そろそろあの不良が姿を見せるはずです。
 溜まっている仕事をがっつり与えてください。
 刃向かったら? 愚の骨頂のような質問ですね。
 あの男が、この僕に逆らえると?
 それに、これは聖女の願いでもあるのですよ。
 裏切ったら――エクラの光に誓って、あの男の血が絶えるまで絶対に許さない。


「あいつの聖女病、末期じゃねえのか……」
 副団長のありがたい話を助祭から聞いたジルは溜息をつき、歩きながら酒瓶をあおった。直後に、何故かついてきたその助祭――エミリオにそれを取り上げられる。
「つべこべ言わず、仕事して下さい。でないと私が副団長に殺されます」
「大丈夫だって。あいつ、俺以外にはまともだからよ」
 などと言うジルが無理矢理受けることになったのは、とある村々の教会に出向き、葬式の進行を行うというものだ。
 常勤の司祭がいないために生じる仕事なのだが、その数、実に二十近く。分刻みで動くことが前提の、地獄の仕事群である。しかも、そもそも司教位を持つジルの仕事ではない。
「マジ酒でも飲まねえとやってらんねぇ……聖女の下僕のテメーと一緒にすんな!」
 悪態をつきながらも言われるままに行動してしまうジルである。何と言っても相手は副団長だ。個人的にも公的にも逆らいたくはない。
 いくつかの教会を渡り歩き、イスルダ島を望む小さな漁村に辿り着いたジルは、既にへとへとであった。
「あー……Hey、お嬢ちゃん。聖堂教会から派遣された司教だ。聖言(ことば)を伝えにきたぜ」
 ぐったりとした司教の姿にも動じることなく、少女は踵を返して家の中に飛び込んだ。

 ●

「聖光(しゅ)よ。かの魂を導き給え。その道、再び茨に閉ざされ、暗澹の中を征こうとも、その輝光を授け給え」
 軽く十字を切り、教会は静寂に包まれた。
 教典をぱたりと閉じたジルは無性に欠伸したくなるのを必死で堪えていた。脇腹をエミリオにどつかれながら、最後のありがたいはずの言葉を口にする。
 ――はずだった。
「Wait……エミリオ。教会から皆を出すなよ」
「ジル司教?」
「Everybody! 悪ぃが、しばらくここで待っていてくれ。世話は全部こいつがやるからよ」
 ざわつく教会内を静めて、ジルはエミリオに目配せした。
 それだけで、聖堂戦士団員の彼らには通じる。
「お一人で大丈夫ですか?」
「Why? この俺様だぜ?」
 不敵に笑って、ジルは説教壇を降りた。


 もそもそ蠢くのは、小さな羊の群れだった。
 形は羊そのものだが、背中は硬質で、妙に発達した角を逆立てている。
「オーライ。迷える子羊ちゃん達ィ。懺悔の準備はできてっか?」
 雑魔を挑発するように、ジルはいつもどおり背負っている大きな杖を手にしようとして――そして気づいた。背中が軽い。
「げ……」
 戦いが前提の仕事でもない限り、放浪時以外は持ち歩いていないのである。
 とはいえ、彼も聖堂戦士団の一員。有事に備えて武器くらいは持っている。
 そう、通常の聖堂戦士団員ならばだ。
「Oh……shit!」
 ジェラルド・ロックハート、彼はあまり荷物を持たない主義だ。
 すなわち、エクラの聖光より遣わされた唯一の武器は、今まさに使っていた教典のみである。
「マジ……?」
 一応、これも法具の一つだ。無いよりはマシではあるが。
「くっそ……あんのクソ野郎! 聖光の天罰でも喰らいやがれっ!」
 どこかでふんぞり返っている副団長を呪って、ジルは教典を掌に打ち付けた。

リプレイ本文

 音楽には狂詩曲という分類がある。
 自由で民族的と言われる曲を指すらしいが、まさに今相対している敵はそれに近い。
 好き勝手歩きまわる羊に、羊飼いのように――とはいかないが、声を上げて突撃する聖職者の図は、たとえ歪虚退治であったとしても、凝視したくない絵面である。

 ●

 ハンター達が現場に到着した時、既にジルは羊の群れに豪快に飛び込んだ後であった。驚いて身をすくめる羊、泣きそうな顔になって蹲る羊、そして――、
「メェッ!」
 小さな声を上げて、宙を舞う羊。
「なんだ、あれ……」
 思わず呟いたフラヴィ・ボー(ka0698)の反応は、おそらくジルを最初に見た者としては正常なものだった。砕けた感じの司教だと聞いていたが、聖職者としての外見は問題ないが、行動がワイルドすぎる。
「ジル司教―――!!」
 隣で息を吸い、思いっきり叫んだのはセリス・アルマーズ(ka1079)である。この中で唯一、彼と面識のある彼女の声は、平坦な村の中を一気に駆け巡る。
 その声が届いたのか、あるいは休憩か、大柄の男がのそのそとボロボロになっている教典を脇に抱えて戻ってきた。仕事着である黒の制服にあちこち羊毛がくっついている。
「Hey、powerful sister! ここで会うとは奇遇だぜ。久しぶりだな」
 頭上に近いところから声が降ってくる。それはそうだろう、一番背の高いセリスよりも頭一つ分以上大きい男だ。セリスも他のハンター達も首を大きく伸ばして上を見ている。
「あ、あの……」
 おずおずと口を開いた浅黄 小夜(ka3062)は、やや背伸びをしながらぺこりと頭を下げた。
「浅黄小夜、です。よろしゅう……お頼申します……」
「聖堂戦士団のジェラルド・ロックハートだ。ジルで良いぜ、little princess」
 50cm近く上から大きな掌が小夜の頭に降りてくる。わしゃわしゃと撫でられ、頭を押さえる彼女に背を向けてジルは言った。
「何頭がぶっ飛ばしたが、まあ、大した強さじゃねえな。とっととやっちまおうぜ」
「でも、何だかすごく倒しづらい雑魔ね……つぶらな瞳がある意味強敵かも」
「No problemってやつだ。さっき体当たりしてぶん殴ったが、あんまり可愛い目じゃなかったぜ」
「……」
 エイル・メヌエット(ka2807)は返す言葉を失った。
 可愛いかどうかの判断よりも、聖導士なのに『体当たりしてぶん殴った』とはいかに。
「まあ、可愛いけど相手は歪虚だしね。きっちり片付けましょう。あと、ジル司教はこれを使って。教典じゃ鈍器にもならないでしょ」
 そう言ってセリスが差し出したのは一本の杖だ。普段ジルが使っているものの半分程度の長さだが、それでも本で殴るよりはマシだろう。
「ありがたく借りるぜ」
「作戦は、ある程度数を減らしてから残りは包囲するつもりなの。手伝ってくれると感謝、なのよ」
「好きにやってくれて構わないぜ、俺に攻撃が当たらないようにしてくれよ」
 ジルの言葉にリリア・ノヴィドール(ka3056)は頷いた。そして、彼を見上げて目を輝かせる。
「あの……。教典のみ……って事は、きっと上位法術でまとめてやっつけるのよね?」
「いや? 法術系は一切使わないぜ?」
「え? でも、聖導士なのよね?」
「聖導士だが、俺は殴った方が早いと思うし、殴って倒せるしな。OK?」
 OKではないが、何を言えば良いのか。
 あんぐりと口を開けているリリアを尻目に、ボルテージの上がったセリスが叫ぶ。
「さあ、世界の歪みを修正するわよ! エクラの光よ、我らに大いなる加護を!」
 ビシッと羊を指さしたセリスは地を蹴って、もこもこの溢れる敵集団へ、一足早く走りだした。

 ●

「そら、遊んであげるから皆こっちに来るといい」
 前衛を引き受けるフラヴィが光で剣と化した杖を振るう。びくっと震えた羊は、つぶらな瞳で彼女を見上げた。
 潤んだ目が訴えている。斬るの? と。
「うぐ……」
 僅かに手先が震えたフラヴィだが、相手は歪虚だ。容赦はできない。
「ごめんな」
 謝る相手ではないのだが、なんとなく謝っておかないといけない気がする。顔を避けて足を薙いだフラヴィの脇で、もこもこの白い毛を揺らして羊が倒れた。
 ジルの言うとおり、歪虚としての強さはないらしい。
「しかし、このつぶらな瞳には妙な罪悪感を掻き立てられるな」
 溜息をついたフラヴィの傍に、角を押し付けるようにして羊が寄ってくる。角と背中は鱗のようなもので覆われて可愛くないが、それ以外は実に柔らかそうだ。
 これが相手の戦略だとすると、この羊、相当な策士である。
「……ダメだダメだ!」
 撫でたい欲求に手が動きそうになるのを押さえて、フラヴィは羊の顔を剣の柄で殴りつけた。ちょっとした罪悪感が胸を刺したが、ここは鬼になるしかない。
「メェ……」
「……っ。やりにくい相手だなっ」
 今際の際の目を正面から見てしまって、フラヴィは頭に巻いていた布を取って前髪を掻き乱した。
「なかなかいないわね。こんな強敵」
 前方で(色々な意味で)苦戦する仲間の背中を見つめるエイルは長い睫毛を伏せた。あの目を見ていたら攻撃性が鈍る。
「羊が一匹、羊が二匹――ごめんなさいね、空の上でいい夢見てね、羊さん」
 杖を掲げ、前で固まる羊の群れにホーリーライトを叩き込む。聖なる光は一切の慈悲なく、羊を背中から貫いた。
「小夜ちゃん、大丈夫?」
「はい……なるべく、当たらへんように……します……」
 最後方から羊の群れを狙うのは小夜だ。だが、彼女の意図する場所にはまだ味方がいる。
「多分……このままだと、ジェラルドのおにいはんに……」
 最前線で戦う――否、暴れる男が目立つせいで、どうしても小夜の視線がそちらに動いてしまうのだ。味方ごと攻撃するのは簡単だが、それでは怪我をさせてしまう。
「撃っちゃって良いわよ」
 前方からエイルの声が飛んでくる。そんな、と言いかける小夜を遮るように彼女は頷いた。
「当たっても死なないわ、あの人なら。それを承知で吶喊しているのだし」
「……かんにん、してね……」
 羊へ弔いの言葉をつぶやき、小夜は言われる通りに前方へマジックアローを放った。背中から飛んでくる魔法の矢を悟り脇へ躱したジルを掠めて、それは羊の足を貫く。
「当たった……ひゃっ」
 前がよく見えない小夜の言葉が終わる前に、脇から羊が飛び出した。咄嗟に声を上げた小夜の防御は間に合わない。
「小夜ちゃん!」
 羊と小夜の間に割って入ったエイルに、羊の堅い背中が当たる。思ったより痛い。
 そして、時折体に当たる、極上の柔らかな毛。
「あっ……」
 思わず口に出して、はっと我に返ったエイルの行動は早かった。背中を押し付けるように突っ込んでくる羊から小夜を庇い、杖で羊の足を砕いていく。
 蹲った羊にホーリーライトでトドメを刺してから、エイルは息を吐いて肩を落とした。
「凶悪だわ……あのもこもこ……」

 ●

 ハンターオフィス。
 黒い髪の青年は、ふと顔を上げた。
「そういや最近顔を見てないが、元気にしてるだろうか」
 思い浮かんだのは、いつも布教に明け暮れる、明るいシスターの顔だった。


「よいっしょ――――――!!」
 セリスの盾に弾かれた羊がころんと仰向けに転がった。どんどん押し寄せる羊を受け止め続けるセリスは、端からこうやって転がしているのだ。
「後はお願いねっ!」
「まったく、数だけは多いんだから…っ」
 髪と瞳が赤色に変わったリリアが転がった羊に肉薄する。脇腹から足にかけて、スラッシュエッジを乗せた重い斬撃を浴びせられた羊が、小さく鳴いて吹っ飛んだ。
「こんなものかな……包囲開始!」
 大きく数を減らされた羊は、最早両手で数えるほどになっていた。セリスの声に合わせて、ハンター達はぐるりと羊を囲むように距離を詰める。
「ジル司教も、お願いします」
「OK、lady! こういう包囲殲滅戦は嫌いじゃないぜ!」
 ぶんぶんと杖を振り回すジルは、今にも突貫しそうな勢いである。
「やけくそだけど、その心意気はすごいと思うよ、ボクはね」
 戦意喪失という言葉は、おそらくジルの頭に無いのだろう。
 肩を竦めたフラヴィは杖を構える。狙うのは、羊の足と顔だ。
 杖の先に集束した光が灯った。動き回る羊の群れに狙いを定めたフラヴィは片目を閉じて細かなブレを修正する。
「もうひと踏ん張りってところかな」
 一条の光となったそれは、羊の後ろ足を二本貫き、転がった羊は涙を溜めた目でこちらを見るが、もうその手は通用しない。
 というより、相手を間違えている。
「YEAAAAAAAAAAH!! FOOOOOOOOOOOOOO!」
 フラヴィが転がした羊を杖で叩き上げたジルの衰えない声が青空に響く。教会に留まっている村人もおそらく驚いたことだろう。
「うん。やっぱりヤケクソだよね」
 そうでないと、あそこまで無意味に高く打ち上げる必要はない。
 聖職者も大変なんだろうな、と場にそぐわない事を思いつつ、フラヴィはもう一発機動砲を空に舞う羊の腹に撃ち込んだ。
「右方、追撃開始するわ」
 東へ逃げようとする羊を追って、リリアが動いた。羊の退路を塞ぐように立ちはだかると、焦りからか羊は正面から突っ込んでくる。
「また同じ攻撃なの? 単調ね……」
 鮮やかな赤の髪を揺らし、羊の角を躱したリリアは、身を反転させてバタフライナイフを掌で回した。羊が減速して動きを止める一瞬に接近し、懐から大きく斬り上げる。
「最後まで罪悪感は拭えないのね……」
 反動で仰向けにひっくり返った羊の腹を一突きして、無意識に止めていた息を吐いた。
 振り返った西側では、残る羊を仲間たちが食い止めている。
「く……ぅっ」
 羊の角で腕を掠った小夜が目尻に涙を溜めて呻いた。見かけに反して、やはり堅いところは堅いのか。
 だが、二度は喰らわない。再び突っ込んできた羊の背中をワンドで受け止める。もふっとした感触と、ごつっとした痛みがあまりにアンバランスで、思わずその小さな唇が綻んだ。
「痛い……けど、なんや、気持ち良い……かも……」
「駄目よ、小夜ちゃん。一応、歪虚だから、ね?」
 紅い銃身を掌に隠し、小夜に突っ込む羊の足を撃ち抜いたエイルが苦笑して言う。角も背中も、重傷になるような威力ではないが、それ以上にこの羊毛が恐ろしい。
「はい……小夜も……我慢、します……」
「そうね。でも、我慢しすぎも良くないのよ?」
 きゅっと唇を引き結んだ小夜の腕にエイルがヒールをかける。すっと消えた傷口をさすって、破れた袖口を握った小夜は顔を上げた。
 彼女の視線の先には、フラヴィとセリス最後の一頭を追いかけている。
「挟撃で仕留めるしかないわね」
「了解。ボクが先に行こう」
 セリスより足の早いフラヴィが羊の正面に回り込む。急旋回した羊だが、その先にはセリスが待ってましたと言わんばかりに剣を構えて立っていた。
「エクラの光の元に――……成敗っ!!」
 振り上げた剣先を掠めて、羊が逃げる方向を換える。すかさずフラヴィが同じ方向に動き、羊の鼻先に杖を突きつけた。
「鬼ごっこは終わりにしよう。ボクもこの罪悪感からは逃れたいし」
 最後の一言は独白に近い大きさだ。
 手にした杖が淡い光に包まれる。やがてほんの一瞬、フラヴィが振り上げた杖が光の剣に変わると、そのまま羊の堅い背中を破って腹を縦に薙いだ。
 掠れた悲鳴を上げて、羊が地面に倒れる。さらさらと砂のような黒い粒子となって、その場の羊たちが消えていく。
 やがて残ったのは、風に吹かれて揺れる草と、鳥の声が響くのどかな漁村の昼下がりだった。

 ●

「リリア・ノヴィドールと言います。もし縁があったら今後ともよろしく、なの」
 桃色の髪に戻ったリリアがジルに頭を下げた。初めて会う、聖職者としては規格外のこの男は、杖をセリスに返して振り返った。
「ジェラルド・ロックハートだ。ジルで構わないぜ、ピンクちゃん」
 ピンクちゃん、と言われたのは初めてで、ぱちくりとしたリリアは小さく微笑んだ。
「まあ、とりあえずはお疲れ様。それにしても、聖職者はみんなこういう感じなのか?」
 激しい戦闘を見せたジルにフラヴィが怪訝そうに尋ねる。聖職者というのは大人しく祈りを捧げたり、もっと堅いイメージだったので、今回のこの男には驚かされてばかりである。
 一方、ジル本人は飄々としたものだ。
「人によりけりだな。俺は異端寄りだから、そこら辺は詳しくないが……まあ、俺に言わせりゃ聖女――おっと、聖堂戦士団長も結構アレだぜ?」
「アレ……?」
「アレはアレだ。まあ、幸運なら見れるぜ、多分」
 意味深な言葉を更にフラヴィが聞こうとしていると、周囲の警戒に出ていたエイルが戻ってくるのが見えた。
「特に逃した羊もいなさそうね」
 ゴールデン・レトリバーを連れて戻ってきたエイルが安堵したように言った。主人の気持ちを察してか、愛犬は彼女の足に頬ずりし、ゆっくりとその場に伏せる。
「ジル司教。式はもう良いの?」
「Oh……忘れてたぜ。最後の祈りを捧げないとな」
 金の髪を掻いてジルが息を吐いた。気がつけば、教会から恐る恐る村人達がこちらを見ている。
「もう、大丈夫……やから……」
 小夜が不安そうな村人達に声をかける。ほっとする彼らの影で、彼女は自分の震える手を袖で隠した。
 戦闘中は大丈夫だったのに、今になって緊張が体を縛る。
「良いんじゃねえの?」
 はっとして振り返ると、埃を払いながら大きな男が後ろに立っていた。
「そんなもんだぜ、最初の頃ってのはな」
 聖職者らしくない葉巻を口の端に加えてジルが笑った。だが、格好をつける前に中から別の司祭が飛んできてそれを取り上げる。
「早く仕事してください」
「オーライ、オーライ。怒るなよ」
 降参の手を上げたジルは、振り返ってハンター達を見回した。
「Thank you,Everybody! 光の導きがあれば、またどこかで会おうぜ!」
「格好つけてないで早く仕事してくださいーっ!」
 嘆くような司祭の声とともに、教会は最後の儀式を続けるべく、その重い扉をゆっくりと閉ざす。
 想定外に騒がしくなった葬式も、きっともう大丈夫だ。
「ジル司教にも村の人にも、エクラの光の加護がありますように」
 そっと祈るセリスの言葉が風に乗って空へ向かう。
 こうしてハンター達の狂詩曲は、無事最終楽章を終えたのであった。

 了

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参加者一覧


  • フラヴィ・ボー(ka0698
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
フラヴィ・ボー(ka0698
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/09/02 07:37:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/28 20:59:43