ゲスト
(ka0000)
拭い払う先
マスター:鷹羽柊架
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/03 19:00
- 完成日
- 2014/09/10 23:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
要塞都市【ノアーラ・クンタウ】
切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。
その中には多くの人々が生活をし、生計を立てている。
その中で生活をする者の一人、フォニケというとある工房で従事している者がいた。
「フォニケさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、リゲル」
お茶を差し出したフォニケの後輩であるリゲルは中性的な容姿だ。
「うん、平気。もう仕事も終わったし、休暇で気を紛らわすわ」
お茶を一口含み、フォニケは微笑む。
「リゲルも無理しないでちゃんと休むのよ」
「はい」
こっくりとリゲルは頷いた。しかし、その瞳は不安に揺れている。
「大丈夫。ちょっと気にはなるけど、大丈夫だから」
「でも……!」
リゲルへの不安を取り除く為、フォニケが微笑んだのが切欠のようにリゲルは声を上げる。
「シェダルさん、酷いですよ。フォニケさんがこんなにも憔悴しているのに、自分は仕事なんて!」
シェダルというのはフォニケと腐れ縁で、同じ工房で働いているが、チームが違う。今回もシェダルのチームの納期がそろそろなので、工房にこもりっきりだ。
「仕方ないわよ。私達だって納期が大変だったでしょ?」
あははと、笑うフォニケだが、その声はとても乾いている。お茶を飲み終えたフォニケは帰ると言って立ち上がる。
「送ります」
「平気。あとの書類とかお願いね」
「はい……」
心配そうにリゲルがフォニケを送り出した。
今はまだ昼間だからいい。
夜ならたまったものではないとフォニケは思う。
大通りに出たフォニケは足早に家路を急いでいる。
「フォニケちゃん、暗い顔してどうした!」
明るい声でフォニケに声をかけるのは屋台のおじさん。パン生地を揚げたものに砂糖をまぶした菓子を売っているのだ。フォニケもこの菓子が好きで仕事の合間に食べに来ている。
「今日、ようやっと仕事が終わって、休暇なの」
「それはよかったな。今日は奢りだ。これ食べてゆっくり寝な!」
豪快に笑うおじさんはフォニケにお菓子を渡す。
揚げたてのお菓子は温かく、砂糖が少し溶けていた。
「おじさん、ありがとう。またくるわ」
「いつでもこいよ!」
おじさんの優しさにフォニケは鼻の奥がツンとなったが、堪えて家に走る。
それでもフォニケの不安は的中する。
いるのだ。
フォニケの後を追う気配が。
どんどん息が上がっていくのを感じつつ、フォニケは自分の部屋に飛び込んだ。
「はー、はー、はーっ」
脈拍があがり、心臓が体の芯から鼓動打つ。
隠れて窓から見ると、ここ十日ほどフォニケの後を付ける影が建物の影に隠れて見ている。
フォニケを見ている。
どくり……と、フォニケの心臓を叩く。
ずるずるとフォニケは床に崩れ落ちる。
一方、工房の中ではリゲルがシェダルの方を訪れていた。
「お前が気にする事はない」
手を休めず、シェダルはリゲルにいい放つ。
「どうしてですか!フォニケさん、とても心配していましたよ!」
「あいつが怖がる事なんかないが、仕方ないか」
ふーっとため息をつくシェダルにリゲルは当たり前と声を荒げる。
「女性なんですよ!後を追われて気味悪く思わない人なんてあまりいないじゃないですか!」
「手は打ってある。お前は頭を冷せ」
淡々と返すシェダルにリゲルは怒りを収まらない。
「自分で相手を捕まえます!」
「って、お前が危ないんだぞ……?」
シェダルが声を掛けたときにはもうリゲルの姿はなかった。
ハンターオフィスに駆け込んだリゲルは依頼をしようと、受付に声をかける。
丁寧な応対の受付員に焦燥を感じつつも事情を伝えたら、受付員が何かを思い出して書き込み中の用紙を取り出す。
「これでは、依頼が重複してしまいますね」
「え?」
そこでリゲルはシェダルがフォニケの後を追う者を生け捕りにしてほしいという依頼を出していたことが判明した。
「なんで……」
呆然と呟くリゲルに受付員は安堵させるように微笑む。
「依頼人のシェダルさんは、フォニケさんの事を案じておりました。フォニケさんは尾行される事に抵抗があるようでして、けれど、フォニケさんの前で暴力的なところを見せないでほしいと言ってました」
「そうだったんですか……」
「ただ、忙しいのでシェダルさんの方に赴くのはやめてほしいとの事でした」
相変わらずの仕事優先振りにリゲルは肩を落とした。
帰り際、フォニケにこのことを伝えようとし、彼女が下宿している洋品店のほうへと向かう。
曲がり道でばったりと顔を合わせた男にリゲルは記憶にあった。
「貴方は……!」
フォニケを追い回していた男だ。男はリゲルに自分の事を気づかれ、一気に顔を赤くしてしまい、別の方向へ爆走した。
「ま、待て!」
何故顔を赤くしたのだろうと不思議に思ったが、リゲルは慌ててその後を追う。
その走りは霊闘士の【地を駆けるもの】のようではないか。大きな通りに入られて、その姿を失う。
「……絶対に捕まえます」
ぐっと、リゲルは拳を握った。
切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。
その中には多くの人々が生活をし、生計を立てている。
その中で生活をする者の一人、フォニケというとある工房で従事している者がいた。
「フォニケさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、リゲル」
お茶を差し出したフォニケの後輩であるリゲルは中性的な容姿だ。
「うん、平気。もう仕事も終わったし、休暇で気を紛らわすわ」
お茶を一口含み、フォニケは微笑む。
「リゲルも無理しないでちゃんと休むのよ」
「はい」
こっくりとリゲルは頷いた。しかし、その瞳は不安に揺れている。
「大丈夫。ちょっと気にはなるけど、大丈夫だから」
「でも……!」
リゲルへの不安を取り除く為、フォニケが微笑んだのが切欠のようにリゲルは声を上げる。
「シェダルさん、酷いですよ。フォニケさんがこんなにも憔悴しているのに、自分は仕事なんて!」
シェダルというのはフォニケと腐れ縁で、同じ工房で働いているが、チームが違う。今回もシェダルのチームの納期がそろそろなので、工房にこもりっきりだ。
「仕方ないわよ。私達だって納期が大変だったでしょ?」
あははと、笑うフォニケだが、その声はとても乾いている。お茶を飲み終えたフォニケは帰ると言って立ち上がる。
「送ります」
「平気。あとの書類とかお願いね」
「はい……」
心配そうにリゲルがフォニケを送り出した。
今はまだ昼間だからいい。
夜ならたまったものではないとフォニケは思う。
大通りに出たフォニケは足早に家路を急いでいる。
「フォニケちゃん、暗い顔してどうした!」
明るい声でフォニケに声をかけるのは屋台のおじさん。パン生地を揚げたものに砂糖をまぶした菓子を売っているのだ。フォニケもこの菓子が好きで仕事の合間に食べに来ている。
「今日、ようやっと仕事が終わって、休暇なの」
「それはよかったな。今日は奢りだ。これ食べてゆっくり寝な!」
豪快に笑うおじさんはフォニケにお菓子を渡す。
揚げたてのお菓子は温かく、砂糖が少し溶けていた。
「おじさん、ありがとう。またくるわ」
「いつでもこいよ!」
おじさんの優しさにフォニケは鼻の奥がツンとなったが、堪えて家に走る。
それでもフォニケの不安は的中する。
いるのだ。
フォニケの後を追う気配が。
どんどん息が上がっていくのを感じつつ、フォニケは自分の部屋に飛び込んだ。
「はー、はー、はーっ」
脈拍があがり、心臓が体の芯から鼓動打つ。
隠れて窓から見ると、ここ十日ほどフォニケの後を付ける影が建物の影に隠れて見ている。
フォニケを見ている。
どくり……と、フォニケの心臓を叩く。
ずるずるとフォニケは床に崩れ落ちる。
一方、工房の中ではリゲルがシェダルの方を訪れていた。
「お前が気にする事はない」
手を休めず、シェダルはリゲルにいい放つ。
「どうしてですか!フォニケさん、とても心配していましたよ!」
「あいつが怖がる事なんかないが、仕方ないか」
ふーっとため息をつくシェダルにリゲルは当たり前と声を荒げる。
「女性なんですよ!後を追われて気味悪く思わない人なんてあまりいないじゃないですか!」
「手は打ってある。お前は頭を冷せ」
淡々と返すシェダルにリゲルは怒りを収まらない。
「自分で相手を捕まえます!」
「って、お前が危ないんだぞ……?」
シェダルが声を掛けたときにはもうリゲルの姿はなかった。
ハンターオフィスに駆け込んだリゲルは依頼をしようと、受付に声をかける。
丁寧な応対の受付員に焦燥を感じつつも事情を伝えたら、受付員が何かを思い出して書き込み中の用紙を取り出す。
「これでは、依頼が重複してしまいますね」
「え?」
そこでリゲルはシェダルがフォニケの後を追う者を生け捕りにしてほしいという依頼を出していたことが判明した。
「なんで……」
呆然と呟くリゲルに受付員は安堵させるように微笑む。
「依頼人のシェダルさんは、フォニケさんの事を案じておりました。フォニケさんは尾行される事に抵抗があるようでして、けれど、フォニケさんの前で暴力的なところを見せないでほしいと言ってました」
「そうだったんですか……」
「ただ、忙しいのでシェダルさんの方に赴くのはやめてほしいとの事でした」
相変わらずの仕事優先振りにリゲルは肩を落とした。
帰り際、フォニケにこのことを伝えようとし、彼女が下宿している洋品店のほうへと向かう。
曲がり道でばったりと顔を合わせた男にリゲルは記憶にあった。
「貴方は……!」
フォニケを追い回していた男だ。男はリゲルに自分の事を気づかれ、一気に顔を赤くしてしまい、別の方向へ爆走した。
「ま、待て!」
何故顔を赤くしたのだろうと不思議に思ったが、リゲルは慌ててその後を追う。
その走りは霊闘士の【地を駆けるもの】のようではないか。大きな通りに入られて、その姿を失う。
「……絶対に捕まえます」
ぐっと、リゲルは拳を握った。
リプレイ本文
そわそわしつつ、リゲルがハンター達を待ちかまえる。
フォニケの話によれば、リアルブルーのハンターは体躯のいい男や、華奢な美少女まで多岐にわたるという。
見た目と中身の違いはこちらも覚醒者がいるため感覚的には変わらないだろうが、好奇心は止められない。
「君がリゲル?」
芯が通った声音に浮ついたリゲルの思考は戻される。
少し下を向けば、黒髪の少女がまっすぐリゲルを見つめていた。
「は、はい」
「僕は星見香澄さんだよ。よろしく」
「よ、よろしくお願いしますっ」
まだ心の準備ができてなかったのが、星見 香澄(ka0866)の声に反応して慌てるリゲルを制止したのは鋭い目をした長髪の男だ。
「慌てなくても大丈夫です」
声音は静かでどこか落ち着きがもてる。紫条京真(ka0777)と男は名乗った。
「今慌ててもしゃぁないやろ?」
京真と真逆に明るい調子なのはラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)だ。
「え、ええ。そうですね」
「知り合いが危機に遭っているから、気持ちが落ち着かないのは仕方ないよね」
「許されない事ね。必ず捕まえます」
優しい気遣いはイスフェリア(ka2088)の言葉と勇ましい決意を見せてくれたマヘル・ハシバス(ka0440)。二人の可愛らしい少女達にリゲルは頼もしく感じてしまう。
「同感でございます。我々ハンターにお任せあれ」
優雅にドレスのスカートの裾をつまみあげる所作を見せるのはメリル・E・ベッドフォード(ka2399)だ。
ハンターという存在は色んな人達がいるものだとリゲルはしみじみ思った。
フォニケが下宿している洋品店に向かっている最中もハンター達は背後や周囲の警戒も怠らない。
「今のところ……見当たらないようやな」
小声でラィルが呟けば、香澄が前方を見て小さな小さな声で「みたいだね」とだけ呟く。
まだ来ない獲物にちょっと寂しそうに、拗ねたように愛らしい唇をすぼめるメリル。
「これからです」
「そうね」
相手にも時間はある。今はいないだけであり、まだ相手は全てを済ませてはいないからまた来るだろうとマヘルが小さく、しっかりとメリルに囁く。
そう、宴はこれからなのだ。
目的の洋品店に行けば、女主人は大勢の来客に目を見開いたが、リゲルの顔見て笑顔でハンター達を迎え入れてくれた。
「貴方達がウワサのハンターね。フォニケが厄介な事に巻き込まれて悪いんだけど、しっかり頼むわねっ」
明朗な声音で女主人が言えば、上を向いてフォニケの名を呼ぶ。
ドアが開く音がし、ゆっくりと階段を降りる音がする。
ハンター達の前に現れた護衛対象のフォニケは疲れきっているのが見て分るほど。
「フォニケさん、ハンターの皆さんです。シェダルさんが手配してくれてました」
リゲルが言えば、フォニケは安堵の表情となり、ハンター達に微笑みかける。
「皆、来てくれてありがとう……」
「早速だけど、準備をしよう」
椅子の背の頭を軽く叩きつつ、香澄がフォニケを誘う。
「ええ」
疲弊した声であったが、フォニケは香澄の誘いを受けた。
疲れているだろうフォニケは椅子に座らせてハンター達は打ち合わせをフォニケとリゲルに伝える。
「私達はリゲル様を私達と共に行動して頂こうと考えております。フォニケ様とリゲル様には変装をお願いしたく存じます」
メリルが先だって言えば、フォニケが眉を顰める。
「何故、リゲルも?」
影はフォニケを追っていたのだ。フォニケとリゲルは不思議そうに顔を見合わせる。
「リゲルさんはハンターオフィスで依頼を申し立てた帰りに、対象者と遭遇したそうです」
二人の疑問をマヘルが返せば、フォニケは目を瞬いた。
「リゲルに危害はなかったようやし、そもそも犯人は顔を赤くして逃げよった」
言葉を引き継いだラィルが言い終わると、ちらりと緑の瞳をリゲルに向ける。
数名のハンターの考えは目的がフォニケではなく、リゲルに目的があるのではないかと推察する者がいる。ラィルもそう考える一人だ。
実際に見たリゲルはマヘルやイスフェリアより少し高いくらいで、男にしては華奢な体格。髪は短いが、クリムゾンウェストの女性でも髪の短い女性もいるので一概に髪が短いのは男性という結び付けができない。
ラィル自身が纏めた推察が当たれば、犯人の行動に閉口してしまう。
「それって……」
まさかとばかりにフォニケが口を開けば、香澄は次の言葉を遮るように声を出した。
「可能性の一つだし、まだ確定ではない。リゲル君を僕達と一緒に行動させるのは犯人に刺激を与えさせないよう止める為。任せてと言ってもついてきそうだし」
香澄に本意を悟られて、リゲルが少し頬を赤らめる。
「依頼人に怪我をさせるのはもう一人の依頼人としても本意ではないでしょう」
もう一人の依頼人とはシェダルの事だ。京真にそれを匂わせられてフォニケはリゲルを見やる。彼は大丈夫と言うだけだ。
「皆に任せる、本当にお願いね」
そうして準備が始められた。
洋品店内では女性陣で変装用の服や小物を選んでいる。
大きな店ではないが、一折揃っている。
「普段のフォニケさんはどんな格好をしているのかな?」
イスフェリアがフォニケに尋ねると、動きやすい格好と言い、普段着ているシャツやズボンを見せる。
「いつもは工房にいるから、身体にぴったりしたシャツとかが多いわね。一見したらハンターたちと変わらないかも」
「男装姿も考えましたが、スカート姿にしてみては如何でしょう」
京真が声をかけると、マヘルがワンピースを見つけてフォニケにあわせる。
「似合うと思います」
マヘルに誉められてフォニケはまんざらでもない様子だ。
「リゲル様はこちらをお召しください」
メリルがリゲルに手渡したのはリゲルが着ているものと違う系統の服。男性ハンターが着るような服だ。
「は、はい……」
少し緊張した面持ちだが、リゲルは手渡された服を抱える。
ラィルは地図を手に土地勘を掴みに散歩に出る。
人通りが少ないところ、行き止まり、隠れやすいところ。
もう一人の依頼人であるシェダルとしては内々で決着をつけて欲しい考えがあるのかもしれないし、警邏中の役人に見つかるのは本意ではないだろう。
いい所を見つけた時に日が傾き、黄昏時に気づいてラィルは店に戻る。
店に入る前に窓の縁に張り付く人の顔に気づく。京真が何かを隠れて凝視しているようで、視線の先を追うとラィルは影に気づくが気にしない振りをして店内に入る。
「おるようやな」
室内にも緊迫しており、思いつめた表情をするフォニケの傍にイスフェリアが立つ。ラィルは犯人の追い込み先、道をハンター仲間に伝える。
「よう似せたな」
ふと、ラィルが声をかけたのはマヘルの変装姿。
フォニケと体格も似ており、そのまま彼女の服を借りている。髪はつばの広い帽子で隠している。
「この格好で一度つけられたことがあるから、大体いけると思うわ。マヘルちゃん、気をつけて」
「大丈夫です。必ず捕まえます」
心配をするフォニケにマヘルは力強く頷く。
「それでは参りましょうか」
洋品店の店主が口利いてくれた網を手にメリルが声をかける。
●
先に出たのはマヘル。犯人は一度見た格好を覚えていたのか、そのまま尾行した。
「一緒に来てくれるかな……」
イスフェリアがフォニケに声をかけると、彼女は「行くわ」と答え、一緒に犯人を尾行する。
勝手口から出たのはメリルとリゲル。
恋仲の振りをして歩いている。
男性にしては小柄なリゲルだが、彼より十センチほど低いメリルが隣に居れば男性らしく見える。
もし、犯人の目に入り、リゲルが男と理解したときの反応も気になる所だが、犯人はリゲルが店の中にいた事を知ってはいないようで、フォニケに扮したマヘルの方へ集中している。
「リゲル様には、私のような者にお付き合いさせてしまう事……誠に申し訳なく存じます……」
しゅんとするメリルにリゲルは首を振ります。
「僕は、こういう外見だから、あまり頼られたことがなくて。フォニケさんやシェダルさんはこんな僕をとても信じて仕事を頼んでくるんです。フォニケさんが困っているなら、僕も何かやれる事があればって思って」
「立派な志です」
にこやかにメリルが言えば、リゲルは嬉しそうに笑顔となった。
マヘルはフォニケがよく歩く道を歩いており、フォニケがよく行く屋台があった事を思い出してその方向へ歩いていく。
日が傾き、店じまいを始める店もちらほら見え始めてきた。大きな通りであるため、飲食店はこれから飲み屋へと店を変えていく。
残念ながら、屋台は終わってしまったようだ。先に進むと、目的の場所にたどり着くのでそのままマヘルは向かっていった。
犯人追跡班の一つである香澄はメリルとリゲルと合流する。
薄暗い中であるが、リゲルが確認をとった。
「間違いないです。僕が見た人物です」
小声で答えるリゲルに香澄はアメジストのごとくの瞳を犯人に照準を当てる。
現時点で犯人はフォニケに集中しており、自分を追っているなど思いも寄っていないようだった。
周囲を見やると、ハンター達ははぐれる事無く尾行している。
「フォニケさん、大丈夫?」
気遣うのはイスフェリアの声。
「今は追われているわけじゃないから平気。マヘルちゃん、大丈夫かしら」
数時間前までは怯えていたフォニケだが、現在は前を歩くマヘルを心配している。
「現金ですね。ですが、それくらいがいいですよ」
パニック状態に陥られるよりは身体にマシと京真は思う。
「あら、女の子は現金な方が可愛いと思うわよ」
「そうしておきます。ほら、そろそろですよ」
京真が促すと、マヘルがラィルが待ち構えている路地へと入っていった。犯人は驚いたように駆け出した。
そこが狙いだったかといわんばかりにハンター達は駆け出した。
日は地平線の向こうに隠れ、月が顔を出していた。
月光がマヘルを照らし、影が伸びる。
自分の影ではない。
鼓動が一つ大きく高鳴った。
戦闘経験のない覚醒者としての自分はどこまで戦えるのだろうか。
雑魔ではない人間と……。
それは、駆ける足音となってマヘルへ向かっている。
立ち向かわなければと、マヘルが踵を返すと、視界の中に仲間の姿があった。自分の近くで物音がした。きっと、ラィルだろう。
「女性がそんなところに入り込んでは危ないです!」
犯人の男がマヘルにそう叫ぶと、皆その場に立ち尽くした。
いや、お前が危ないんじゃないのかと、その場全員の心が一つになった。
●
ハンター達に囲まれた犯人こと、ユニは何故か裏路地で正座させられていた。
「フォニケさんはとても怖がっていたんだよ。私達に会うまで、ロクに眠っている様子ではないし、足元もたどたどしかったの」
しっかりとフォニケがユニの行動に怯えていたかをイスフェリアが伝えると、ユニは「すみません……」と肩を落として謝罪した。
「何故、こんな事をしたの?」
ユニに危害を加えるようなふしは見れなく、フォニケは尋ねる。
「……俺は……その……」
ふと、ユニがリゲルの方を向くと、頬を染めて俯いてしまう。
「まさか、リゲルに話し掛けようとしても、照れて話し掛けられへんから、フォニケに紹介を頼もうとし……」
ラィルがあっさり核心を突くと、ユニは慌てて立ち上がろうとする。
「い、言わないでくださー……もがっ」
「騒がないで下さい。役人に見られたら、貴方が連れて行かれますよ」
口をメリルの手に押さえられてユニは黙ってしまう。
「君も見ていないで言いたいことがあったら言えばいいじゃないか」
ちらりと香澄がリゲルを見やれば黙っていたリゲルがユニの前に出る。
「僕に用があれば言って下さい。フォニケさんは僕にとって大事な先輩です。怖がらせないで下さい」
「……すみません」
厳しいリゲルの言葉にユニは心底辛そうだった。
好意を抱いているリゲルに怒られたのだから。
マヘルは決定打の情報をユニは理解してないと感じる。恋というのは時として大事なことを忘れがちだ。
「一応言っておきますが、リゲルさんは男性ですよ」
「え」
現在、リゲルは誰が見ても中性的な美青年にしか見えない。だが、恋により盲目となったユニにとってリゲルは女性だと思っている。
「うそでしょう……」
「本当です」
リゲルはユニの手を取り、自身の喉へ当てると、ユニは硬直してしまった。
「恋は時として風邪のようなものです」
「ゆっくり眠るのがええで」
とりあえずは一件落着と認識した京真とラィルが動かないユニに労わりの声をかける。
●
翌日、心配事が消えたフォニケは朝から大好きなお肉を食べ、もりもり回復中だ。
ハンター達とリゲルをランチをご馳走しようと誘い、馴染みの飲食店で食事をしている。
「皆、本当にありがとう! リゲルも本当に逞しかったわ!」
「僕は何も……皆さんのお陰です」
照れるリゲルに思い出したようにメリルが声をかける。
「そういえば、ユニ様の処遇は?」
「何か、意気消沈してたので、フォニケさんも特に何もしないという話になりました」
ユニの好意に一切気づかないリゲルもどうかと思うが、ユニも悪い奴ではなかったので、無罪放免となったようだった。
「誰も怪我なく、終わったのはよかったの」
安心したようにイスフェリアが微笑むと皆も頷く。
「今日はお休みだし、思い切って昼酒しちゃおー! 誰か飲む人いる!」
休暇を楽しむ事を重視したフォニケが宣言すると、香澄がおやっと、反応する。
「飲むなら付き合うよ」
「ボトルよろしくー!」
飲み仲間をゲットできて喜んだフォニケが酒をオーダーする。
「元気になってよかったなぁ」
くつくつ笑うラィルも付き合ってくれるようだった。
飲めない人にはお茶を用意し、グラスを用意してもらって、いざボトルを開けようとした瞬間、店のドアが開いた。
「おら、お前も手伝え。納期が近づいてるんだ」
男がずかずか入り込み、フォニケを捕まえる。
「なんでここが分ったの!」
「あ、シェダルさん!」
リゲルが男に声をかけると、シェダルと呼ばれた男はくるっと振り向いた。徹夜や疲労でろくな状態ではなく、職質されてもおかしくない状態。
「ハンター達か。フォニケとリゲルが世話になった。事を荒立てず、収束した事に感謝する」
本当に感謝しているのか分らないような口ぶりであったが、シェダルはそれだけ述べてフォニケを連れ去った。
「シェダルはフォエニケを探す目印の星だっけ」
ぽつりと香澄が呟いて酒を口にした。
「とにかく、元気が出て何よりです」
京真が乾杯とグラスを軽く掲げた。
フォニケの話によれば、リアルブルーのハンターは体躯のいい男や、華奢な美少女まで多岐にわたるという。
見た目と中身の違いはこちらも覚醒者がいるため感覚的には変わらないだろうが、好奇心は止められない。
「君がリゲル?」
芯が通った声音に浮ついたリゲルの思考は戻される。
少し下を向けば、黒髪の少女がまっすぐリゲルを見つめていた。
「は、はい」
「僕は星見香澄さんだよ。よろしく」
「よ、よろしくお願いしますっ」
まだ心の準備ができてなかったのが、星見 香澄(ka0866)の声に反応して慌てるリゲルを制止したのは鋭い目をした長髪の男だ。
「慌てなくても大丈夫です」
声音は静かでどこか落ち着きがもてる。紫条京真(ka0777)と男は名乗った。
「今慌ててもしゃぁないやろ?」
京真と真逆に明るい調子なのはラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)だ。
「え、ええ。そうですね」
「知り合いが危機に遭っているから、気持ちが落ち着かないのは仕方ないよね」
「許されない事ね。必ず捕まえます」
優しい気遣いはイスフェリア(ka2088)の言葉と勇ましい決意を見せてくれたマヘル・ハシバス(ka0440)。二人の可愛らしい少女達にリゲルは頼もしく感じてしまう。
「同感でございます。我々ハンターにお任せあれ」
優雅にドレスのスカートの裾をつまみあげる所作を見せるのはメリル・E・ベッドフォード(ka2399)だ。
ハンターという存在は色んな人達がいるものだとリゲルはしみじみ思った。
フォニケが下宿している洋品店に向かっている最中もハンター達は背後や周囲の警戒も怠らない。
「今のところ……見当たらないようやな」
小声でラィルが呟けば、香澄が前方を見て小さな小さな声で「みたいだね」とだけ呟く。
まだ来ない獲物にちょっと寂しそうに、拗ねたように愛らしい唇をすぼめるメリル。
「これからです」
「そうね」
相手にも時間はある。今はいないだけであり、まだ相手は全てを済ませてはいないからまた来るだろうとマヘルが小さく、しっかりとメリルに囁く。
そう、宴はこれからなのだ。
目的の洋品店に行けば、女主人は大勢の来客に目を見開いたが、リゲルの顔見て笑顔でハンター達を迎え入れてくれた。
「貴方達がウワサのハンターね。フォニケが厄介な事に巻き込まれて悪いんだけど、しっかり頼むわねっ」
明朗な声音で女主人が言えば、上を向いてフォニケの名を呼ぶ。
ドアが開く音がし、ゆっくりと階段を降りる音がする。
ハンター達の前に現れた護衛対象のフォニケは疲れきっているのが見て分るほど。
「フォニケさん、ハンターの皆さんです。シェダルさんが手配してくれてました」
リゲルが言えば、フォニケは安堵の表情となり、ハンター達に微笑みかける。
「皆、来てくれてありがとう……」
「早速だけど、準備をしよう」
椅子の背の頭を軽く叩きつつ、香澄がフォニケを誘う。
「ええ」
疲弊した声であったが、フォニケは香澄の誘いを受けた。
疲れているだろうフォニケは椅子に座らせてハンター達は打ち合わせをフォニケとリゲルに伝える。
「私達はリゲル様を私達と共に行動して頂こうと考えております。フォニケ様とリゲル様には変装をお願いしたく存じます」
メリルが先だって言えば、フォニケが眉を顰める。
「何故、リゲルも?」
影はフォニケを追っていたのだ。フォニケとリゲルは不思議そうに顔を見合わせる。
「リゲルさんはハンターオフィスで依頼を申し立てた帰りに、対象者と遭遇したそうです」
二人の疑問をマヘルが返せば、フォニケは目を瞬いた。
「リゲルに危害はなかったようやし、そもそも犯人は顔を赤くして逃げよった」
言葉を引き継いだラィルが言い終わると、ちらりと緑の瞳をリゲルに向ける。
数名のハンターの考えは目的がフォニケではなく、リゲルに目的があるのではないかと推察する者がいる。ラィルもそう考える一人だ。
実際に見たリゲルはマヘルやイスフェリアより少し高いくらいで、男にしては華奢な体格。髪は短いが、クリムゾンウェストの女性でも髪の短い女性もいるので一概に髪が短いのは男性という結び付けができない。
ラィル自身が纏めた推察が当たれば、犯人の行動に閉口してしまう。
「それって……」
まさかとばかりにフォニケが口を開けば、香澄は次の言葉を遮るように声を出した。
「可能性の一つだし、まだ確定ではない。リゲル君を僕達と一緒に行動させるのは犯人に刺激を与えさせないよう止める為。任せてと言ってもついてきそうだし」
香澄に本意を悟られて、リゲルが少し頬を赤らめる。
「依頼人に怪我をさせるのはもう一人の依頼人としても本意ではないでしょう」
もう一人の依頼人とはシェダルの事だ。京真にそれを匂わせられてフォニケはリゲルを見やる。彼は大丈夫と言うだけだ。
「皆に任せる、本当にお願いね」
そうして準備が始められた。
洋品店内では女性陣で変装用の服や小物を選んでいる。
大きな店ではないが、一折揃っている。
「普段のフォニケさんはどんな格好をしているのかな?」
イスフェリアがフォニケに尋ねると、動きやすい格好と言い、普段着ているシャツやズボンを見せる。
「いつもは工房にいるから、身体にぴったりしたシャツとかが多いわね。一見したらハンターたちと変わらないかも」
「男装姿も考えましたが、スカート姿にしてみては如何でしょう」
京真が声をかけると、マヘルがワンピースを見つけてフォニケにあわせる。
「似合うと思います」
マヘルに誉められてフォニケはまんざらでもない様子だ。
「リゲル様はこちらをお召しください」
メリルがリゲルに手渡したのはリゲルが着ているものと違う系統の服。男性ハンターが着るような服だ。
「は、はい……」
少し緊張した面持ちだが、リゲルは手渡された服を抱える。
ラィルは地図を手に土地勘を掴みに散歩に出る。
人通りが少ないところ、行き止まり、隠れやすいところ。
もう一人の依頼人であるシェダルとしては内々で決着をつけて欲しい考えがあるのかもしれないし、警邏中の役人に見つかるのは本意ではないだろう。
いい所を見つけた時に日が傾き、黄昏時に気づいてラィルは店に戻る。
店に入る前に窓の縁に張り付く人の顔に気づく。京真が何かを隠れて凝視しているようで、視線の先を追うとラィルは影に気づくが気にしない振りをして店内に入る。
「おるようやな」
室内にも緊迫しており、思いつめた表情をするフォニケの傍にイスフェリアが立つ。ラィルは犯人の追い込み先、道をハンター仲間に伝える。
「よう似せたな」
ふと、ラィルが声をかけたのはマヘルの変装姿。
フォニケと体格も似ており、そのまま彼女の服を借りている。髪はつばの広い帽子で隠している。
「この格好で一度つけられたことがあるから、大体いけると思うわ。マヘルちゃん、気をつけて」
「大丈夫です。必ず捕まえます」
心配をするフォニケにマヘルは力強く頷く。
「それでは参りましょうか」
洋品店の店主が口利いてくれた網を手にメリルが声をかける。
●
先に出たのはマヘル。犯人は一度見た格好を覚えていたのか、そのまま尾行した。
「一緒に来てくれるかな……」
イスフェリアがフォニケに声をかけると、彼女は「行くわ」と答え、一緒に犯人を尾行する。
勝手口から出たのはメリルとリゲル。
恋仲の振りをして歩いている。
男性にしては小柄なリゲルだが、彼より十センチほど低いメリルが隣に居れば男性らしく見える。
もし、犯人の目に入り、リゲルが男と理解したときの反応も気になる所だが、犯人はリゲルが店の中にいた事を知ってはいないようで、フォニケに扮したマヘルの方へ集中している。
「リゲル様には、私のような者にお付き合いさせてしまう事……誠に申し訳なく存じます……」
しゅんとするメリルにリゲルは首を振ります。
「僕は、こういう外見だから、あまり頼られたことがなくて。フォニケさんやシェダルさんはこんな僕をとても信じて仕事を頼んでくるんです。フォニケさんが困っているなら、僕も何かやれる事があればって思って」
「立派な志です」
にこやかにメリルが言えば、リゲルは嬉しそうに笑顔となった。
マヘルはフォニケがよく歩く道を歩いており、フォニケがよく行く屋台があった事を思い出してその方向へ歩いていく。
日が傾き、店じまいを始める店もちらほら見え始めてきた。大きな通りであるため、飲食店はこれから飲み屋へと店を変えていく。
残念ながら、屋台は終わってしまったようだ。先に進むと、目的の場所にたどり着くのでそのままマヘルは向かっていった。
犯人追跡班の一つである香澄はメリルとリゲルと合流する。
薄暗い中であるが、リゲルが確認をとった。
「間違いないです。僕が見た人物です」
小声で答えるリゲルに香澄はアメジストのごとくの瞳を犯人に照準を当てる。
現時点で犯人はフォニケに集中しており、自分を追っているなど思いも寄っていないようだった。
周囲を見やると、ハンター達ははぐれる事無く尾行している。
「フォニケさん、大丈夫?」
気遣うのはイスフェリアの声。
「今は追われているわけじゃないから平気。マヘルちゃん、大丈夫かしら」
数時間前までは怯えていたフォニケだが、現在は前を歩くマヘルを心配している。
「現金ですね。ですが、それくらいがいいですよ」
パニック状態に陥られるよりは身体にマシと京真は思う。
「あら、女の子は現金な方が可愛いと思うわよ」
「そうしておきます。ほら、そろそろですよ」
京真が促すと、マヘルがラィルが待ち構えている路地へと入っていった。犯人は驚いたように駆け出した。
そこが狙いだったかといわんばかりにハンター達は駆け出した。
日は地平線の向こうに隠れ、月が顔を出していた。
月光がマヘルを照らし、影が伸びる。
自分の影ではない。
鼓動が一つ大きく高鳴った。
戦闘経験のない覚醒者としての自分はどこまで戦えるのだろうか。
雑魔ではない人間と……。
それは、駆ける足音となってマヘルへ向かっている。
立ち向かわなければと、マヘルが踵を返すと、視界の中に仲間の姿があった。自分の近くで物音がした。きっと、ラィルだろう。
「女性がそんなところに入り込んでは危ないです!」
犯人の男がマヘルにそう叫ぶと、皆その場に立ち尽くした。
いや、お前が危ないんじゃないのかと、その場全員の心が一つになった。
●
ハンター達に囲まれた犯人こと、ユニは何故か裏路地で正座させられていた。
「フォニケさんはとても怖がっていたんだよ。私達に会うまで、ロクに眠っている様子ではないし、足元もたどたどしかったの」
しっかりとフォニケがユニの行動に怯えていたかをイスフェリアが伝えると、ユニは「すみません……」と肩を落として謝罪した。
「何故、こんな事をしたの?」
ユニに危害を加えるようなふしは見れなく、フォニケは尋ねる。
「……俺は……その……」
ふと、ユニがリゲルの方を向くと、頬を染めて俯いてしまう。
「まさか、リゲルに話し掛けようとしても、照れて話し掛けられへんから、フォニケに紹介を頼もうとし……」
ラィルがあっさり核心を突くと、ユニは慌てて立ち上がろうとする。
「い、言わないでくださー……もがっ」
「騒がないで下さい。役人に見られたら、貴方が連れて行かれますよ」
口をメリルの手に押さえられてユニは黙ってしまう。
「君も見ていないで言いたいことがあったら言えばいいじゃないか」
ちらりと香澄がリゲルを見やれば黙っていたリゲルがユニの前に出る。
「僕に用があれば言って下さい。フォニケさんは僕にとって大事な先輩です。怖がらせないで下さい」
「……すみません」
厳しいリゲルの言葉にユニは心底辛そうだった。
好意を抱いているリゲルに怒られたのだから。
マヘルは決定打の情報をユニは理解してないと感じる。恋というのは時として大事なことを忘れがちだ。
「一応言っておきますが、リゲルさんは男性ですよ」
「え」
現在、リゲルは誰が見ても中性的な美青年にしか見えない。だが、恋により盲目となったユニにとってリゲルは女性だと思っている。
「うそでしょう……」
「本当です」
リゲルはユニの手を取り、自身の喉へ当てると、ユニは硬直してしまった。
「恋は時として風邪のようなものです」
「ゆっくり眠るのがええで」
とりあえずは一件落着と認識した京真とラィルが動かないユニに労わりの声をかける。
●
翌日、心配事が消えたフォニケは朝から大好きなお肉を食べ、もりもり回復中だ。
ハンター達とリゲルをランチをご馳走しようと誘い、馴染みの飲食店で食事をしている。
「皆、本当にありがとう! リゲルも本当に逞しかったわ!」
「僕は何も……皆さんのお陰です」
照れるリゲルに思い出したようにメリルが声をかける。
「そういえば、ユニ様の処遇は?」
「何か、意気消沈してたので、フォニケさんも特に何もしないという話になりました」
ユニの好意に一切気づかないリゲルもどうかと思うが、ユニも悪い奴ではなかったので、無罪放免となったようだった。
「誰も怪我なく、終わったのはよかったの」
安心したようにイスフェリアが微笑むと皆も頷く。
「今日はお休みだし、思い切って昼酒しちゃおー! 誰か飲む人いる!」
休暇を楽しむ事を重視したフォニケが宣言すると、香澄がおやっと、反応する。
「飲むなら付き合うよ」
「ボトルよろしくー!」
飲み仲間をゲットできて喜んだフォニケが酒をオーダーする。
「元気になってよかったなぁ」
くつくつ笑うラィルも付き合ってくれるようだった。
飲めない人にはお茶を用意し、グラスを用意してもらって、いざボトルを開けようとした瞬間、店のドアが開いた。
「おら、お前も手伝え。納期が近づいてるんだ」
男がずかずか入り込み、フォニケを捕まえる。
「なんでここが分ったの!」
「あ、シェダルさん!」
リゲルが男に声をかけると、シェダルと呼ばれた男はくるっと振り向いた。徹夜や疲労でろくな状態ではなく、職質されてもおかしくない状態。
「ハンター達か。フォニケとリゲルが世話になった。事を荒立てず、収束した事に感謝する」
本当に感謝しているのか分らないような口ぶりであったが、シェダルはそれだけ述べてフォニケを連れ去った。
「シェダルはフォエニケを探す目印の星だっけ」
ぽつりと香澄が呟いて酒を口にした。
「とにかく、元気が出て何よりです」
京真が乾杯とグラスを軽く掲げた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 マヘル・ハシバス(ka0440) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/09/03 15:37:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/30 23:34:04 |