ゲスト
(ka0000)
緋犬の群れは血を好む
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/23 22:00
- 完成日
- 2016/05/28 23:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●緋色の犬達
冒険都市リゼリオの沿岸には多数の小島が存在している。
その大半は何らかの理由で利用されているのだが、中には距離的問題で不便ということで活用されていなかったり、ちょっとした問題が起きた所為で施設が閉鎖されてそのまま放置されているような小島もある。
そんな無数にある小島を完全に管理することは難しく、いくつかの小島は犯罪者のアジトとして使用されているということもしばしばであった。
そんな小島の1つ。昔は何かの倉庫として使われていたが利便性の問題で今は使われていない場所があった。
「なあ、この立ち番って本当に意味あんのか?」
その倉庫が並ぶ島の監視用の櫓の上で1人の男がそんな言葉をぼやいた。
櫓には明かりも灯っておらず、男の服装も軍人や施設の警備員といった制服でもない極一般的な洋服だ。
さらにその肩にハンティングライフルを吊り下げており、どう見てもただの一般人には見えない。
『うるせぇ! 黙って見張ってろ!』
「ちっ! どーせ誰も来ないだろうこの場所にはよ」
無線機から帰ってきた罵声に男は悪態を吐く。
小島という立地もあって船が近づいて来ればすぐに分かる。そうすれば男の別の仲間がお出迎えする手はずになっているので、実際この見張りは念のためという以外の役割はなかった。
手持ち無沙汰な男はなんとなしに首からかけている双眼鏡に手を掛けて覗き込んだ。
「どーせ今日も客なんて……ん?」
双眼鏡で拡大された視界の先で何かが動いた気がした。そこは島の裏手にあたる海岸なのだが、見張りの巡回の時間にはまだ早い。
男は何かの見間違いかと思いつつもう一度先ほど見えたナニカを探そうと視界を巡らせ――
「……櫓の見張りを排除。作戦進行に問題なし」
視界の先の櫓に向けてライフルを構えている全身を黒一色の装備で固めた人物が無線機でそう報告した。
声の高さからして女性だろうか。顔につけているマスクの所為でその素顔は分からない。
『確認した。各隊前進しろ』
「了解……行くぞ」
無線機から帰ってきた指示に、その女性は手を挙げて軽く左右に振る。すると周辺の岩陰に隠れていた3人の黒尽くめの男達が姿を現して島の中央に向けて進み始めた。
背格好以外の外見は全く同じ装備で統一された彼らは、物影に隠れながら音もなく機敏に駆けていく。
『3班、ポイントに到着。待機する』
『2班、見張り2名を排除。ポイントまで30秒』
無線機からはそんな情報が次々に報告されてくる。その情報から現場の状況を頭の中でシミュレートしつつ、彼ら――第1班も指定のポイントに到着した。
目の前にある倉庫の壁に背を預け、4人は周囲に自分達以外の人物がいないことを素早く確認する。
「1班、ポイントに到着」
『全班のポイント到着を確認。10秒後に突入を開始。9、8、7――』
無線でカウントダウンが始まり、彼女らは自分の武装をチェック。ずっしりと重みのあるアサルトライフルには十分な弾丸が用意されている。
「食い散らかすぞ。好き嫌いは許さん」
「「「了解」」」
女性の言葉に男達は声を揃えて返す。その間にも無線のカウントは進んでいき……。
『――2、1、0』
「突入!」
4人が同時に動きだす。倉庫の扉を蹴破り、銃を構えながら突入する。
すぐさまあちこちで響き始める銃撃音。無線からは他の現場の状況が次々に報告されている。
「地球連合軍だ。抵抗せず大人しく死ね」
そしてその女性も無慈悲な宣告の下、その引き金を引いた。
●とある佐官の執務室
「以上が今回の作戦の報告だ」
この世界では珍しい金属製のデスクの前で、1人の女性軍人が報告を終えた。
その報告を聞いていた地球連合軍の佐官、目の前の女性軍人の上司にあたる彼は軽く目頭を押さえている。
「我々の活躍に涙まで流すとは、そこまで喜んで貰えるとは思わなかったぞ」
「馬鹿なことを言うな。これは頭が痛いだけだ」
無礼としか言えない口調と冗句だが、それでも彼はこみ上げてくるものを抑えつつ改めて報告書に目を通す。
今回の作戦は地球連合の物資を横流ししている密売組織の検挙が目的であった。この密売組織は他の犯罪組織に武器まで売りさばいており、可及的速やかに壊滅させる必要があった。
とはいえ、その作戦の結果が密売組織の構成員を1人を残して全員始末してしまうとは思ってもみなかった。
「しかも生き残ったのがただの下っ端とは……」
「ははは、流石に我々もしょんべんを漏らして机の下で震えている丸腰の男を殺したりはしない」
作戦としては成功した。しかし、期待していた次へと繋がる手がかりが皆無というのはとんだ誤算だった。
「もういい。次の命令があるまで待機していろ、ガルテーン大尉」
「了解」
敬礼をした女性は踵を返して執務室の扉へと向かう。だが、扉を開いたところで振り返り上司の彼に向かって一言告げた。
「ああ、そうだ。頭痛がするなら早めに医者にかかるといいぞ。前任者のようになりたくなければな」
ニィと悪辣な笑みを浮かべながら彼女は扉を閉めた。
「緋犬め……また厄介な奴らを押し付けられたな」
男は溜息を吐きながら、次の作戦に関わる報告書へと目を通し始めた。
●ハンターオフィス
リゼリオのハンターオフィスのブリーフィングルームでは、今日も様々な依頼の説明が行われている。
「今回は人質救出作戦となります」
オフィス職員が依頼の概要を説明してくれる。
ある犯罪組織の摘発の為に潜入していた工作員からの報告で、女性が1人と子供が2人誘拐されてきたそうだ。
何でもその女性と子供達はリゼリオにある商人ギルドの重役の男の妻と子供で、彼女らを使って重役の男に要求を飲ませるつもりらしい。
その背景には最近壊滅した密輸組織が絡んでいるそうなのだが、そちらの情報はまとまっておらず現在も調査中なのだそうだ。
ともかく、今回はその犯罪組織のアジトを制圧して人質を救出するのが依頼となる。
「なお、未確認なのですが今回の件は地球連合の軍部が絡んでいるそうで、一応お伝えしておきます」
オフィス職員が不確かな情報を伝えてくるというのは珍しいことだった。それだけ注意したほうがいいということなのだろう。
「それではいってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしております」
オフィス職員に見送られ、ハンター達は戦場へと足を向けた。
冒険都市リゼリオの沿岸には多数の小島が存在している。
その大半は何らかの理由で利用されているのだが、中には距離的問題で不便ということで活用されていなかったり、ちょっとした問題が起きた所為で施設が閉鎖されてそのまま放置されているような小島もある。
そんな無数にある小島を完全に管理することは難しく、いくつかの小島は犯罪者のアジトとして使用されているということもしばしばであった。
そんな小島の1つ。昔は何かの倉庫として使われていたが利便性の問題で今は使われていない場所があった。
「なあ、この立ち番って本当に意味あんのか?」
その倉庫が並ぶ島の監視用の櫓の上で1人の男がそんな言葉をぼやいた。
櫓には明かりも灯っておらず、男の服装も軍人や施設の警備員といった制服でもない極一般的な洋服だ。
さらにその肩にハンティングライフルを吊り下げており、どう見てもただの一般人には見えない。
『うるせぇ! 黙って見張ってろ!』
「ちっ! どーせ誰も来ないだろうこの場所にはよ」
無線機から帰ってきた罵声に男は悪態を吐く。
小島という立地もあって船が近づいて来ればすぐに分かる。そうすれば男の別の仲間がお出迎えする手はずになっているので、実際この見張りは念のためという以外の役割はなかった。
手持ち無沙汰な男はなんとなしに首からかけている双眼鏡に手を掛けて覗き込んだ。
「どーせ今日も客なんて……ん?」
双眼鏡で拡大された視界の先で何かが動いた気がした。そこは島の裏手にあたる海岸なのだが、見張りの巡回の時間にはまだ早い。
男は何かの見間違いかと思いつつもう一度先ほど見えたナニカを探そうと視界を巡らせ――
「……櫓の見張りを排除。作戦進行に問題なし」
視界の先の櫓に向けてライフルを構えている全身を黒一色の装備で固めた人物が無線機でそう報告した。
声の高さからして女性だろうか。顔につけているマスクの所為でその素顔は分からない。
『確認した。各隊前進しろ』
「了解……行くぞ」
無線機から帰ってきた指示に、その女性は手を挙げて軽く左右に振る。すると周辺の岩陰に隠れていた3人の黒尽くめの男達が姿を現して島の中央に向けて進み始めた。
背格好以外の外見は全く同じ装備で統一された彼らは、物影に隠れながら音もなく機敏に駆けていく。
『3班、ポイントに到着。待機する』
『2班、見張り2名を排除。ポイントまで30秒』
無線機からはそんな情報が次々に報告されてくる。その情報から現場の状況を頭の中でシミュレートしつつ、彼ら――第1班も指定のポイントに到着した。
目の前にある倉庫の壁に背を預け、4人は周囲に自分達以外の人物がいないことを素早く確認する。
「1班、ポイントに到着」
『全班のポイント到着を確認。10秒後に突入を開始。9、8、7――』
無線でカウントダウンが始まり、彼女らは自分の武装をチェック。ずっしりと重みのあるアサルトライフルには十分な弾丸が用意されている。
「食い散らかすぞ。好き嫌いは許さん」
「「「了解」」」
女性の言葉に男達は声を揃えて返す。その間にも無線のカウントは進んでいき……。
『――2、1、0』
「突入!」
4人が同時に動きだす。倉庫の扉を蹴破り、銃を構えながら突入する。
すぐさまあちこちで響き始める銃撃音。無線からは他の現場の状況が次々に報告されている。
「地球連合軍だ。抵抗せず大人しく死ね」
そしてその女性も無慈悲な宣告の下、その引き金を引いた。
●とある佐官の執務室
「以上が今回の作戦の報告だ」
この世界では珍しい金属製のデスクの前で、1人の女性軍人が報告を終えた。
その報告を聞いていた地球連合軍の佐官、目の前の女性軍人の上司にあたる彼は軽く目頭を押さえている。
「我々の活躍に涙まで流すとは、そこまで喜んで貰えるとは思わなかったぞ」
「馬鹿なことを言うな。これは頭が痛いだけだ」
無礼としか言えない口調と冗句だが、それでも彼はこみ上げてくるものを抑えつつ改めて報告書に目を通す。
今回の作戦は地球連合の物資を横流ししている密売組織の検挙が目的であった。この密売組織は他の犯罪組織に武器まで売りさばいており、可及的速やかに壊滅させる必要があった。
とはいえ、その作戦の結果が密売組織の構成員を1人を残して全員始末してしまうとは思ってもみなかった。
「しかも生き残ったのがただの下っ端とは……」
「ははは、流石に我々もしょんべんを漏らして机の下で震えている丸腰の男を殺したりはしない」
作戦としては成功した。しかし、期待していた次へと繋がる手がかりが皆無というのはとんだ誤算だった。
「もういい。次の命令があるまで待機していろ、ガルテーン大尉」
「了解」
敬礼をした女性は踵を返して執務室の扉へと向かう。だが、扉を開いたところで振り返り上司の彼に向かって一言告げた。
「ああ、そうだ。頭痛がするなら早めに医者にかかるといいぞ。前任者のようになりたくなければな」
ニィと悪辣な笑みを浮かべながら彼女は扉を閉めた。
「緋犬め……また厄介な奴らを押し付けられたな」
男は溜息を吐きながら、次の作戦に関わる報告書へと目を通し始めた。
●ハンターオフィス
リゼリオのハンターオフィスのブリーフィングルームでは、今日も様々な依頼の説明が行われている。
「今回は人質救出作戦となります」
オフィス職員が依頼の概要を説明してくれる。
ある犯罪組織の摘発の為に潜入していた工作員からの報告で、女性が1人と子供が2人誘拐されてきたそうだ。
何でもその女性と子供達はリゼリオにある商人ギルドの重役の男の妻と子供で、彼女らを使って重役の男に要求を飲ませるつもりらしい。
その背景には最近壊滅した密輸組織が絡んでいるそうなのだが、そちらの情報はまとまっておらず現在も調査中なのだそうだ。
ともかく、今回はその犯罪組織のアジトを制圧して人質を救出するのが依頼となる。
「なお、未確認なのですが今回の件は地球連合の軍部が絡んでいるそうで、一応お伝えしておきます」
オフィス職員が不確かな情報を伝えてくるというのは珍しいことだった。それだけ注意したほうがいいということなのだろう。
「それではいってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしております」
オフィス職員に見送られ、ハンター達は戦場へと足を向けた。
リプレイ本文
●作戦開始
リゼリオの港側にある倉庫街。その一角で数名のハンター達が音を消しながら駆けていた。
ある倉庫の角までくると正面を走っていた近衛 惣助(ka0510)は一度足を止め、壁越しに通りの様子を確認する。
「惣助だ。正面には見張りが2人。裏はどうだ?」
手にしたトランシーバーに向けて小声でこちらの状況を告げる。
『……こちらクローディオ。裏手はどうやら誰もいないようだ』
2~3秒待つと雑音混じりのクローディオ・シャール(ka0030)の返事が返ってきた。
惣助は「聞こえたか?」とばかりに後ろにいる仲間達に視線を向ける。
「見張りの2人は大して警戒している様子もない。忍び寄って背後から襲うのが良さそうだな」
「そうだな。騒がれると面倒だし、さっさと片付けようぜ。何か変な予感もするしよ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の言葉にボルディア・コンフラムス(ka0796)も賛成した。
「変な予感か。例の地球軍の特殊部隊絡みか?」
そこでボルディアの言葉が気になったのか、ステラ・レッドキャップ(ka5434)はハンターオフィスで耳にした噂話の事を口にする。
「オレとしては寧ろ期待してんだけどな。特殊部隊の近接戦闘は一度見てみたかったんだ」
「私は興味はないが、こちらの仕事の邪魔になる可能性もあるしここでの遭遇は遠慮したいところだね」
ニィと頬を釣り上げて笑みを浮かべたステラに、イーディス・ノースハイド(ka2106)は苦言を呈するようにそう言葉を溢す。
「そこは安心しろよ。しっかり給料分は働くからよ。救出の仕事はちゃんとこなすぜ」
肩を竦めたステラはそう応え、改めて見張りの男達に視線を向ける。
「私が右を片付ける」
「じゃあ俺は左の奴だ」
アルトとボルディアは並ぶ倉庫を大きく迂回して、それぞれの目標に定めた見張りの男の背後へと近づいていく。
その場に残った3人はいざという時の為に飛び出して制圧する為、武器を手に身構える。だが、どうやらそれは必要なかったようだ。
アルトは振動刀の切っ先をその首に差し込み、ボルディアの方はチョークスリーパーを仕掛けてそれぞれ見張りの男の意識を刈り取った。
「殺したのか?」
「その方が楽だからな。問題があったか?」
「いいや。殺されても仕方がない自業自得な悪党共だしな」
そんな会話をしていたところで他の仲間達が倉庫の側へとやってきた。
そして惣助は再びトランシーバーを手にして倉庫裏手にいる仲間達に呼びかける。
「惣助だ。正面の見張りは排除した。すぐに突入するから、そちらも準備してくれ」
『…………』
しかし、数秒待っても返事が返ってこない。惣助は僅かに眉を潜めながらもう一度呼びかける。
「こちら惣助。おい、聞こえてるのか?」
『あー、あー! はい、聞こえています。大丈夫です』
てっきりクローディオが返事をすると思っていたが、返事を返してきたのは椿姫・T・ノーチェ(ka1225)だった。
「ちょっとトラブルがあったんですけど、もう片付きました。大丈夫です」
そうトランシーバーに向けて返事を返している椿姫の視線の先には、クローディオに担がれて運ばれる犯罪者の男の姿があった。
「危ないところでしたねぇ。でも大丈夫ですぅ。私の結界術が全部お見通しでしたからぁ。キャハ♪」
顔の下で両手を合わせるポーズをとりながら星野 ハナ(ka5852)は小さく笑ってみせた。
十数秒前、彼女の張り巡らせた生命感知の結界が倉庫裏手の勝手口から人が出てくるのを感知していたのだ。
「待たせたな。こちらの準備も完了だ。いつでもいいぞ」
犯罪者の男を片付けてきたクローディオは自分も無線を手に取り、正面にいる仲間達にそう伝える。
それから数秒後、倉庫の中から派手な銃声と喧噪が響いてきた。
●人質を確保せよ
「派手に暴れてやろうじゃねぇか!」
倉庫の中に飛び込んだステラは、入り口のすぐ側に立っていた男に飛び掛かった。
「何だ! 敵しゅ――」
男は咄嗟に傍に置いてあった銃に手を伸ばすが、その手が届くかと思った瞬間に銃声が鳴り響きすぐそこにあった銃が弾かれた。
硝煙を上げる銃を片手に、ステラは男に接近しその腹部を蹴り飛ばす。蹴られた男は後ろにあるコンテナの壁に背中を打ち付け、痛みに顔を歪める。
そして痛みでつい瞑ってしまった目を再び開けると、そこには赤い頭巾をかぶった『少女』の笑みがあった。
「まず1人っ!」
ステラは躊躇うことなく手にしたナイフを男の首筋に突き立てた。ナイフを抜いた途端に男の首から血が噴き出し返り血を浴びるが、それを全く気にせず倉庫内に視線を配る。
「思った以上にコンテナが多いな。遭遇戦になりそうだ」
「それなら俺の出番だな」
覚醒することによって犬の獣人のような見た目へと変貌したボルディアは、戦斧を手に並べられたコンテナの隙間を縫うように駆ける。
他の犯罪者達が騒ぎに気づき騒ぎだしている。その声は倉庫内で反響してあちらこちらから聞こえてくるように感じる。
だが、ボルディアはそれをしっかりと聞き分けた。音の発生源であるその場所をしっかりと把握し、目の前にあるコンテナを飛び越える。
「なっ!?」
突然頭上から降ってくるようにして現れたボルディアに犯罪者の男が銃口を向ける。だが、その銃口から吹き出る発火炎よりも、より深く赤い炎がその視界を覆いつくした。
倉庫内は完全に戦場と化していた。勿論その事態に2階の事務所にいた男達も気づいた。
「おいっ、あそこだ!」
「ちっ、サブマシンガンか。犯罪者の癖に上等なものを持ってるな」
狙われた惣助はコンテナの影に隠れて銃弾の雨をやり過ごす。そして一呼吸置いて自分の手にしている銃の具合を確かめ、壁から身を乗り出すと共にそのトリガーを引いた。
「ぐあっ!?」
「どのコンテナに人質が閉じ込められてるか分からないんだ。やたらめったら撃つんじゃない」
惣助の銃から放たれた数発の弾丸のうちの1発が、腕だけをだして銃を撃ってきていた男の手を貫いた。
「くそぉっ! 撃て、撃ちまくれぇ!」
だがやはり手を撃ち抜いただけでは致命傷にはほど遠い。他の仲間もよってたかって惣助に向けて銃を撃ちまくる。
「惣助殿。私の後ろに!」
そこでイーディスがカバーに入った。惣助を庇うよう前に立つと、自分の身の丈よりも大きい大盾を掲げる。
数十発の弾丸がその盾に着弾するが、イーディスはその場で踏みとどまり、まるでそこに建つ塔かのようにその堅牢さを見せつける。
その時である。2階の倉庫内を見下ろせる窓から銃を撃ちまくっている男達の背後で、激しい音が響き渡った。
「何だっ!?」
男達が振り返ると、背後にあった外に繋がる勝手口の扉が吹き飛ばされていた。そして開いたその扉から、数枚の紙きれのようなものが部屋の中に入ってくる。
「あっ?」
それを不審に思いつつも男達は反応できなかった。次の瞬間にはその紙切れ――陰陽符は激しい光を放ちながら室内を焼く。
「ぐあああっ!?」
肌に走る痛みに加え眩い光に目も潰され、男達は思わずその場で膝を付いた。
そこにすかさず2つの影が室内に飛び込んだ。
まず扉の近くにいた男に、クローディオの金属製の拳が叩き込まれる。
「誰だ糞野郎っ!?」
そこで1人の男がやたらめったらに銃を乱射しだした。
その様子を紅の瞳に映していた椿姫は鞭を操り男の銃へと巻き付ける。そのまま鞭を軽く引いてやれば、目も見えず不意を突かれた男の手から銃は簡単にすっぽ抜けた。
「シッ!」
そして椿姫は素早く男の下へ駆け寄り、その側頭部目掛けて上段蹴りを喰らわす。
「オールクリア」
事務所内を制圧したことを確認した椿姫は短くその言葉を口にする。
「わぁー、あっと言う間でしたね。最後の一撃もお見事ですぅ」
そして遅れて中に入ってきたハナにそんな感想を言われ、少しむず痒くなった椿姫は少しぎこちない笑みを浮かべた。
●一触即発
倉庫の事務所下のコンテナ前に集まったハンター達は、早速そのコンテナの扉を開く。
「いくぞっ」
クローディオと惣助が閉じている左右の扉を同時に開く。他のハンター達は武器を構えたまま倉庫の中へと視線を巡らし、そしてゆっくりと武器を降ろした。
そこに居たのは少し洒落たドレスを着た妙齢の女性と、その女性の後ろで庇われるようにして隠れている少年と少女だった。
「あ、彼方達は……?」
「無事で何よりだ。我々はハンター、君のご主人に雇われた者だ」
アルトの言葉を聞き、女性は一度身をこわばらせてからそれが真実だと分かったのか表情を緩めた。そこで緊張の糸も切れてしまったのか、その場で座り込んでしまう。
「これはいけない。大きな怪我はないようだが、念のため治療はしておこう」
クローディオはその手に温かな光を灯らせ、その光を女性へと注いでいく。
「彼女達はクローディオに任せるか。その間に俺達は他の被害者の確認と、そいつらから事情聴取だな」
惣助は縛り上げられた犯罪者の男達に視線を向ける。まだ大半が気絶して床に転がったままだが、目が覚めた奴が1人だけいるようだ。
「だ、誰が喋るかっ。ふざけんじゃねぇぞ!」
男は何を聞かれるまでもなく喚き始めた。それを見たボルディアは軽く目を細めて男の前へと立つ。そして、担いでいた戦斧で『軽く』床を叩いた。
「なあ、選べよ。痛い思いするのと、さっさと洗いざらい吐くの。どっちがいいんだ? ん?」
床に走った亀裂を前に男の顔は明らかに引き攣る。その男の顔を見て脅しの効果を確信したボルディアはニィと笑みを浮かべた。
「じゃあ話して貰おうか。そうだな、まずは――」
情報を聞きだそうとしたその時、何故か倉庫の入り口側から何者かが近づいてくる足音が聞こえた。それに気づいたハンター達はほぼ反射的に武器を手に取り戦闘態勢に入る。
だが、その次に聞こえてきたのはこの場には似つかわしくないような、手を叩く軽い音だった。
「見事だな。ハンターの諸君」
そこにいたのはリアルブルー製の黒い装備を身に纏い、その顔にはマスクをかぶっている謎の人物だった。体型と声から女性だと思われるが、それ以外の特徴が全く分からず非常に不気味に思える。
ただ、よく見ればその腕には特徴的な赤い布が巻かれている。それでハンター達はピンときた。
「へえ、アンタが噂の緋犬か」
「ご名答」
ステラの言葉にその女性はあっさりと答えた。所属を隠すつもりはないらしい。
「こちらはハンターです。私はリアルブルー出身」
そう言って椿姫は所持しているIDカードを提示する。
「必要ない。そちらの身分は既に確認済みだ」
「それなら何の用かな。この場は既にこちらが確保済みだよ」
イーディスの言葉に、女性は何故か笑った。
「それは違う。この場は我々が確保しているんだ」
その言葉の意味に気づく前に、ハンター達の視界に赤い光の線が無数に走った。
「ちっ、警戒はしてたつもりなんだがな」
そう言いながらステラは視線を周囲に巡らせる。気づけばコンテナのあちこちの影から、ハンター達目掛けて銃口を向けている黒尽くめの装備の集団が姿を覗かせていた。
「警戒していたのはお前だけだったからな。おかげでここまで近づくのも簡単だった」
どこか挑発的な言葉を目の前に立つ女性は淡々と語る。
「ヤル気か? クソ犬共」
「現状を理解できないのか? 咆えるな、駄犬」
ボルディアの中で何かが切れるような音がした。戦斧を掴む手に力が入り、マテリアルが体内で炎となって燃え上がり始める。
そして前に一歩出ようとしたところで、それをコンテナから出てきたクローディオが手で制した。
「おい、何で止める」
「ここにいるのは私達だけではない。彼女が言うには、他にも数名別のコンテナに閉じ込められているらしい」
ここで今一度戦いになれば今度は巻き込みかねない。ハンター達にとっては非常に不利な状況だ。それは認めなくてはならない。
「先に言っておくが。我々に戦闘の意思はない」
「この状況でその言葉を信じられると思うのか?」
アルトは自分の頭や体に当てられるレーザーサイトの赤い光から緋犬達の位置を割り出す。
一足で2人は斬れる。だが3人目の前に撃たれる。銃撃を避ける自信はあるが、その流れ弾が『誰か』に当たる可能性を考えると今はその機会ではないという答えが出た。
「信じるかどうかはそちらに任せる。こちらも本当ならこんな接触は避けたかったんだがな」
如何にも仕方がないと言わんばかりの言葉。それもハンター達に非があると言わんばかりだ。
「何が言いたい」
「そちらに我々の悪評を流そうとした人物がいるという情報が入っている」
アルトの言葉に女性は冷たい声色でそう口にした。それにハンター達は怪訝な表情を浮かべる、ただ1人心当たりのあるハナを除いて。
ハナがハンターオフィスで噂の流布依頼をしたのは本当だ。ただハンターオフィスとしてそう言ったことは出来ないと断られたので実際にはやっていないのだが、依頼をしたという事を緋犬達は嗅ぎつけたらしい。
「それだけでこの対応なんですかぁ?」
「情報操作は立派な敵対行為だ。その真意が分からない以上、警戒は当然だろう?」
女性は告げる。先に仕掛けて来たのはそちらだと。
「とは言え、どうやら裏はなかったようだな。確認が取れたようだ」
女性は突然そんなことを口にした。不審がるハンター達に、女性はトンと自分の耳を叩く。
「なるほど。今この瞬間もお話中ってわけか」
「その通りだ、ステラ・レッドキャップ」
「……顔も分からない奴にフルネームで呼ばれるなんて、気色悪いな、おい」
ステラは露骨に表情を歪めた。だが、これこそが特殊部隊の扱える力なのかと別の意味で感心する。
そして女性はハンター達の間を悠々と歩き、纏めていた犯罪者の男達の中から1人を選び出して別の緋犬のメンバー達に指示を出す。
「こいつだな。連れて行け」
影から音もなく現れた数名の黒尽くめの男達は、女性の指した男の頭に黒い袋をかぶせると、そのまま引きずる様にして倉庫の外へと運んでいく。
「さて、我々はそろそろ失礼する。ご協力に感謝するよ、ハンターの諸君」
女性はそう言いながら背を向けて倉庫の外へと出て行った。それに続き、他の緋犬達も撤退していく。そして数分後には痕跡すら残さず、緋犬の部隊はその姿を消した。
「あれが緋犬か……なんて言うか、不気味な奴らだったな」
一先ず問題は去ったと分かり、惣助は首元を軽く擦りながらそう零す。彼も同じ軍人であった過去があるが、あの緋犬達には普通の軍人とは違う特異な気配を感じた。
「ともかく、私達は私達の仕事を終わらせよう。他の人達も助けないといけないしね」
イーディスの言葉に他のハンター達も同意して、被害者の確保と犯罪者の監視を再開した。
リゼリオの港側にある倉庫街。その一角で数名のハンター達が音を消しながら駆けていた。
ある倉庫の角までくると正面を走っていた近衛 惣助(ka0510)は一度足を止め、壁越しに通りの様子を確認する。
「惣助だ。正面には見張りが2人。裏はどうだ?」
手にしたトランシーバーに向けて小声でこちらの状況を告げる。
『……こちらクローディオ。裏手はどうやら誰もいないようだ』
2~3秒待つと雑音混じりのクローディオ・シャール(ka0030)の返事が返ってきた。
惣助は「聞こえたか?」とばかりに後ろにいる仲間達に視線を向ける。
「見張りの2人は大して警戒している様子もない。忍び寄って背後から襲うのが良さそうだな」
「そうだな。騒がれると面倒だし、さっさと片付けようぜ。何か変な予感もするしよ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の言葉にボルディア・コンフラムス(ka0796)も賛成した。
「変な予感か。例の地球軍の特殊部隊絡みか?」
そこでボルディアの言葉が気になったのか、ステラ・レッドキャップ(ka5434)はハンターオフィスで耳にした噂話の事を口にする。
「オレとしては寧ろ期待してんだけどな。特殊部隊の近接戦闘は一度見てみたかったんだ」
「私は興味はないが、こちらの仕事の邪魔になる可能性もあるしここでの遭遇は遠慮したいところだね」
ニィと頬を釣り上げて笑みを浮かべたステラに、イーディス・ノースハイド(ka2106)は苦言を呈するようにそう言葉を溢す。
「そこは安心しろよ。しっかり給料分は働くからよ。救出の仕事はちゃんとこなすぜ」
肩を竦めたステラはそう応え、改めて見張りの男達に視線を向ける。
「私が右を片付ける」
「じゃあ俺は左の奴だ」
アルトとボルディアは並ぶ倉庫を大きく迂回して、それぞれの目標に定めた見張りの男の背後へと近づいていく。
その場に残った3人はいざという時の為に飛び出して制圧する為、武器を手に身構える。だが、どうやらそれは必要なかったようだ。
アルトは振動刀の切っ先をその首に差し込み、ボルディアの方はチョークスリーパーを仕掛けてそれぞれ見張りの男の意識を刈り取った。
「殺したのか?」
「その方が楽だからな。問題があったか?」
「いいや。殺されても仕方がない自業自得な悪党共だしな」
そんな会話をしていたところで他の仲間達が倉庫の側へとやってきた。
そして惣助は再びトランシーバーを手にして倉庫裏手にいる仲間達に呼びかける。
「惣助だ。正面の見張りは排除した。すぐに突入するから、そちらも準備してくれ」
『…………』
しかし、数秒待っても返事が返ってこない。惣助は僅かに眉を潜めながらもう一度呼びかける。
「こちら惣助。おい、聞こえてるのか?」
『あー、あー! はい、聞こえています。大丈夫です』
てっきりクローディオが返事をすると思っていたが、返事を返してきたのは椿姫・T・ノーチェ(ka1225)だった。
「ちょっとトラブルがあったんですけど、もう片付きました。大丈夫です」
そうトランシーバーに向けて返事を返している椿姫の視線の先には、クローディオに担がれて運ばれる犯罪者の男の姿があった。
「危ないところでしたねぇ。でも大丈夫ですぅ。私の結界術が全部お見通しでしたからぁ。キャハ♪」
顔の下で両手を合わせるポーズをとりながら星野 ハナ(ka5852)は小さく笑ってみせた。
十数秒前、彼女の張り巡らせた生命感知の結界が倉庫裏手の勝手口から人が出てくるのを感知していたのだ。
「待たせたな。こちらの準備も完了だ。いつでもいいぞ」
犯罪者の男を片付けてきたクローディオは自分も無線を手に取り、正面にいる仲間達にそう伝える。
それから数秒後、倉庫の中から派手な銃声と喧噪が響いてきた。
●人質を確保せよ
「派手に暴れてやろうじゃねぇか!」
倉庫の中に飛び込んだステラは、入り口のすぐ側に立っていた男に飛び掛かった。
「何だ! 敵しゅ――」
男は咄嗟に傍に置いてあった銃に手を伸ばすが、その手が届くかと思った瞬間に銃声が鳴り響きすぐそこにあった銃が弾かれた。
硝煙を上げる銃を片手に、ステラは男に接近しその腹部を蹴り飛ばす。蹴られた男は後ろにあるコンテナの壁に背中を打ち付け、痛みに顔を歪める。
そして痛みでつい瞑ってしまった目を再び開けると、そこには赤い頭巾をかぶった『少女』の笑みがあった。
「まず1人っ!」
ステラは躊躇うことなく手にしたナイフを男の首筋に突き立てた。ナイフを抜いた途端に男の首から血が噴き出し返り血を浴びるが、それを全く気にせず倉庫内に視線を配る。
「思った以上にコンテナが多いな。遭遇戦になりそうだ」
「それなら俺の出番だな」
覚醒することによって犬の獣人のような見た目へと変貌したボルディアは、戦斧を手に並べられたコンテナの隙間を縫うように駆ける。
他の犯罪者達が騒ぎに気づき騒ぎだしている。その声は倉庫内で反響してあちらこちらから聞こえてくるように感じる。
だが、ボルディアはそれをしっかりと聞き分けた。音の発生源であるその場所をしっかりと把握し、目の前にあるコンテナを飛び越える。
「なっ!?」
突然頭上から降ってくるようにして現れたボルディアに犯罪者の男が銃口を向ける。だが、その銃口から吹き出る発火炎よりも、より深く赤い炎がその視界を覆いつくした。
倉庫内は完全に戦場と化していた。勿論その事態に2階の事務所にいた男達も気づいた。
「おいっ、あそこだ!」
「ちっ、サブマシンガンか。犯罪者の癖に上等なものを持ってるな」
狙われた惣助はコンテナの影に隠れて銃弾の雨をやり過ごす。そして一呼吸置いて自分の手にしている銃の具合を確かめ、壁から身を乗り出すと共にそのトリガーを引いた。
「ぐあっ!?」
「どのコンテナに人質が閉じ込められてるか分からないんだ。やたらめったら撃つんじゃない」
惣助の銃から放たれた数発の弾丸のうちの1発が、腕だけをだして銃を撃ってきていた男の手を貫いた。
「くそぉっ! 撃て、撃ちまくれぇ!」
だがやはり手を撃ち抜いただけでは致命傷にはほど遠い。他の仲間もよってたかって惣助に向けて銃を撃ちまくる。
「惣助殿。私の後ろに!」
そこでイーディスがカバーに入った。惣助を庇うよう前に立つと、自分の身の丈よりも大きい大盾を掲げる。
数十発の弾丸がその盾に着弾するが、イーディスはその場で踏みとどまり、まるでそこに建つ塔かのようにその堅牢さを見せつける。
その時である。2階の倉庫内を見下ろせる窓から銃を撃ちまくっている男達の背後で、激しい音が響き渡った。
「何だっ!?」
男達が振り返ると、背後にあった外に繋がる勝手口の扉が吹き飛ばされていた。そして開いたその扉から、数枚の紙きれのようなものが部屋の中に入ってくる。
「あっ?」
それを不審に思いつつも男達は反応できなかった。次の瞬間にはその紙切れ――陰陽符は激しい光を放ちながら室内を焼く。
「ぐあああっ!?」
肌に走る痛みに加え眩い光に目も潰され、男達は思わずその場で膝を付いた。
そこにすかさず2つの影が室内に飛び込んだ。
まず扉の近くにいた男に、クローディオの金属製の拳が叩き込まれる。
「誰だ糞野郎っ!?」
そこで1人の男がやたらめったらに銃を乱射しだした。
その様子を紅の瞳に映していた椿姫は鞭を操り男の銃へと巻き付ける。そのまま鞭を軽く引いてやれば、目も見えず不意を突かれた男の手から銃は簡単にすっぽ抜けた。
「シッ!」
そして椿姫は素早く男の下へ駆け寄り、その側頭部目掛けて上段蹴りを喰らわす。
「オールクリア」
事務所内を制圧したことを確認した椿姫は短くその言葉を口にする。
「わぁー、あっと言う間でしたね。最後の一撃もお見事ですぅ」
そして遅れて中に入ってきたハナにそんな感想を言われ、少しむず痒くなった椿姫は少しぎこちない笑みを浮かべた。
●一触即発
倉庫の事務所下のコンテナ前に集まったハンター達は、早速そのコンテナの扉を開く。
「いくぞっ」
クローディオと惣助が閉じている左右の扉を同時に開く。他のハンター達は武器を構えたまま倉庫の中へと視線を巡らし、そしてゆっくりと武器を降ろした。
そこに居たのは少し洒落たドレスを着た妙齢の女性と、その女性の後ろで庇われるようにして隠れている少年と少女だった。
「あ、彼方達は……?」
「無事で何よりだ。我々はハンター、君のご主人に雇われた者だ」
アルトの言葉を聞き、女性は一度身をこわばらせてからそれが真実だと分かったのか表情を緩めた。そこで緊張の糸も切れてしまったのか、その場で座り込んでしまう。
「これはいけない。大きな怪我はないようだが、念のため治療はしておこう」
クローディオはその手に温かな光を灯らせ、その光を女性へと注いでいく。
「彼女達はクローディオに任せるか。その間に俺達は他の被害者の確認と、そいつらから事情聴取だな」
惣助は縛り上げられた犯罪者の男達に視線を向ける。まだ大半が気絶して床に転がったままだが、目が覚めた奴が1人だけいるようだ。
「だ、誰が喋るかっ。ふざけんじゃねぇぞ!」
男は何を聞かれるまでもなく喚き始めた。それを見たボルディアは軽く目を細めて男の前へと立つ。そして、担いでいた戦斧で『軽く』床を叩いた。
「なあ、選べよ。痛い思いするのと、さっさと洗いざらい吐くの。どっちがいいんだ? ん?」
床に走った亀裂を前に男の顔は明らかに引き攣る。その男の顔を見て脅しの効果を確信したボルディアはニィと笑みを浮かべた。
「じゃあ話して貰おうか。そうだな、まずは――」
情報を聞きだそうとしたその時、何故か倉庫の入り口側から何者かが近づいてくる足音が聞こえた。それに気づいたハンター達はほぼ反射的に武器を手に取り戦闘態勢に入る。
だが、その次に聞こえてきたのはこの場には似つかわしくないような、手を叩く軽い音だった。
「見事だな。ハンターの諸君」
そこにいたのはリアルブルー製の黒い装備を身に纏い、その顔にはマスクをかぶっている謎の人物だった。体型と声から女性だと思われるが、それ以外の特徴が全く分からず非常に不気味に思える。
ただ、よく見ればその腕には特徴的な赤い布が巻かれている。それでハンター達はピンときた。
「へえ、アンタが噂の緋犬か」
「ご名答」
ステラの言葉にその女性はあっさりと答えた。所属を隠すつもりはないらしい。
「こちらはハンターです。私はリアルブルー出身」
そう言って椿姫は所持しているIDカードを提示する。
「必要ない。そちらの身分は既に確認済みだ」
「それなら何の用かな。この場は既にこちらが確保済みだよ」
イーディスの言葉に、女性は何故か笑った。
「それは違う。この場は我々が確保しているんだ」
その言葉の意味に気づく前に、ハンター達の視界に赤い光の線が無数に走った。
「ちっ、警戒はしてたつもりなんだがな」
そう言いながらステラは視線を周囲に巡らせる。気づけばコンテナのあちこちの影から、ハンター達目掛けて銃口を向けている黒尽くめの装備の集団が姿を覗かせていた。
「警戒していたのはお前だけだったからな。おかげでここまで近づくのも簡単だった」
どこか挑発的な言葉を目の前に立つ女性は淡々と語る。
「ヤル気か? クソ犬共」
「現状を理解できないのか? 咆えるな、駄犬」
ボルディアの中で何かが切れるような音がした。戦斧を掴む手に力が入り、マテリアルが体内で炎となって燃え上がり始める。
そして前に一歩出ようとしたところで、それをコンテナから出てきたクローディオが手で制した。
「おい、何で止める」
「ここにいるのは私達だけではない。彼女が言うには、他にも数名別のコンテナに閉じ込められているらしい」
ここで今一度戦いになれば今度は巻き込みかねない。ハンター達にとっては非常に不利な状況だ。それは認めなくてはならない。
「先に言っておくが。我々に戦闘の意思はない」
「この状況でその言葉を信じられると思うのか?」
アルトは自分の頭や体に当てられるレーザーサイトの赤い光から緋犬達の位置を割り出す。
一足で2人は斬れる。だが3人目の前に撃たれる。銃撃を避ける自信はあるが、その流れ弾が『誰か』に当たる可能性を考えると今はその機会ではないという答えが出た。
「信じるかどうかはそちらに任せる。こちらも本当ならこんな接触は避けたかったんだがな」
如何にも仕方がないと言わんばかりの言葉。それもハンター達に非があると言わんばかりだ。
「何が言いたい」
「そちらに我々の悪評を流そうとした人物がいるという情報が入っている」
アルトの言葉に女性は冷たい声色でそう口にした。それにハンター達は怪訝な表情を浮かべる、ただ1人心当たりのあるハナを除いて。
ハナがハンターオフィスで噂の流布依頼をしたのは本当だ。ただハンターオフィスとしてそう言ったことは出来ないと断られたので実際にはやっていないのだが、依頼をしたという事を緋犬達は嗅ぎつけたらしい。
「それだけでこの対応なんですかぁ?」
「情報操作は立派な敵対行為だ。その真意が分からない以上、警戒は当然だろう?」
女性は告げる。先に仕掛けて来たのはそちらだと。
「とは言え、どうやら裏はなかったようだな。確認が取れたようだ」
女性は突然そんなことを口にした。不審がるハンター達に、女性はトンと自分の耳を叩く。
「なるほど。今この瞬間もお話中ってわけか」
「その通りだ、ステラ・レッドキャップ」
「……顔も分からない奴にフルネームで呼ばれるなんて、気色悪いな、おい」
ステラは露骨に表情を歪めた。だが、これこそが特殊部隊の扱える力なのかと別の意味で感心する。
そして女性はハンター達の間を悠々と歩き、纏めていた犯罪者の男達の中から1人を選び出して別の緋犬のメンバー達に指示を出す。
「こいつだな。連れて行け」
影から音もなく現れた数名の黒尽くめの男達は、女性の指した男の頭に黒い袋をかぶせると、そのまま引きずる様にして倉庫の外へと運んでいく。
「さて、我々はそろそろ失礼する。ご協力に感謝するよ、ハンターの諸君」
女性はそう言いながら背を向けて倉庫の外へと出て行った。それに続き、他の緋犬達も撤退していく。そして数分後には痕跡すら残さず、緋犬の部隊はその姿を消した。
「あれが緋犬か……なんて言うか、不気味な奴らだったな」
一先ず問題は去ったと分かり、惣助は首元を軽く擦りながらそう零す。彼も同じ軍人であった過去があるが、あの緋犬達には普通の軍人とは違う特異な気配を感じた。
「ともかく、私達は私達の仕事を終わらせよう。他の人達も助けないといけないしね」
イーディスの言葉に他のハンター達も同意して、被害者の確保と犯罪者の監視を再開した。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 6人 |
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MVP一覧
- Rot Jaeger
ステラ・レッドキャップ(ka5434)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/05/23 21:01:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/19 22:10:41 |