誘う歌声

マスター:水貴透子

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/17 09:00
完成日
2014/06/24 21:59

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


それは、歌声のようだった。

人間の声ではなく、鈴が鳴るような澄んだ音。

その音に誘われ、命を落とした者もいる。

※※※

「動物型の雑魔、ねぇ……」

女性は渡された資料を見ながら、ため息混じりに呟く。

今回現れた雑魔は、動物――犬のような姿をしていると資料には書いてあった。

だけど、鳴き声が獣じみているのではなく、セイレーンのように澄んだ鳴き声をしていると発見情報がある。

「犬みたいな姿で、澄んだ鳴き声ねぇ……想像できないわ。小型みたいだし、苦労しないんじゃない?」

「お前みたいに甘く見てる奴が、情報を持ち帰った奴みたいに怪我をする事になるんだろうな」

男性が呆れながら呟き、その言葉に女性は拗ねたように口を尖らせた。

「色々と情報があるみたいだし、前回の奴らの失敗もまるっきり無駄ってわけじゃないだろうけどさ」

「鳴き声が澄んでるからなんだってのよ。別にそんなの無視して攻撃をすればいいだけでしょ」

「……資料の一番下を見てみろよ、それだけじゃなさそうだぜ」

男性が資料に指を滑らせた場所には『重要』と赤い文字で書かれている。

「鳴き声を聞くと、力が抜ける……?何それ」

「さぁな、こればかりは経験した奴にしか分かんないだろ」

「ほら、資料をよこせよ。そいつの討伐に向かう奴らに渡さなきゃいけないんだからさ」

男性は女性から資料を取り、討伐に向かう者達へとそれを渡したのだった。

リプレイ本文

●雑魔退治のために集まったハンター達

「さ、お仕事お仕事っと。表の事もちゃんとやっとかんとな~」
 レイ=フォルゲノフ(ka0183)は資料を確認しながら、明るい声で呟く。その声に恐怖は感じられず、義賊のような事をしていた彼にとって、今回の戦いは驚くものではないのだろう。
「……」
 だけど、彼の隣にいる天竜寺 舞(ka0377)は違うようだった。天竜寺はジッと資料を見つめ、色々な考えが頭の中を巡っているようにも見える。
(これが初仕事……正直ビビってないと言えば嘘になるけど、あたし自身がやるって決めたんだから、足手まといにだけはならないようにしないとな)
 リアルブルーでは普通の学生であり、武器を持った経験なんてない。恐らく、天竜寺と同じく普通の学生だったのに、戦いに身を投じる事になった者は大勢いるんだろう。
「歌う雑魔、ね。名前など既にあるなら知りたい所だが」
 シルヴェイラ(ka0726)は「ふむ」と口元に手を当てながら呟く。彼も雑魔退治を行うつもりで参加しているが、相手の特性を知る、というのが最大の目的だと言える。雑魔にはそれぞれ考えもつかないような事をするものがある、知識を増やせば、それだけ多くの雑魔に対処する事も出来るだろう。
「鳴き声が危険ってあるね、耳栓必須って所かな?」
 資料にある『重要項目』を読みながら、フィリテ・ノート(ka0810)が呟く。
「耳栓は用意してきた? もしかして忘れたんじゃない? 大丈夫?」
 フィリテは幼馴染でもあるオウガ(ka2124)に問い掛ける。
「大丈夫だって! 必要な物を忘れるほど、うっかりさんじゃねーし!」
 フィリテの問いに、オウガは持参して来た耳栓を見せながら、胸を張って答えている。
「耳栓、か。あまり耳を触るのは好きじゃないんだがな」
 小さなため息と共に呟いたのはアシフ・セレンギル(ka1073)だった。
「力が抜けても術が使えるなら、耳栓などいらんが口も聞けぬとあってはいる意味もないからな……大人しく耳栓をつけるか」
 アシフは再びため息を吐き、手のひらに乗せたナッツを見つめる。
「余裕をかましてるわけじゃないが、危険だと分かっていても、何かこうワクワクするのぅ」
 言葉通り弾んだ声で呟くのはクワッサリー(ka1388)だった。初任務のせいか、それとも本来の好奇心が高いのか、雑魔退治に怯える事もなく、ただ純粋に楽しみにしているようだ。
「こんな所で早々に死ぬわけにはいきません。実績を積むためにも、全力で行かせてもらいましょうか」
 神代 誠一(ka2086)は目を細めて、緩く微笑んだ後に呟いた。
 今回は耳栓を使用しての戦いになるため、ハンター達は予め、戦闘時にはハンドサインを駆使して意思疎通を図るという試みを考えていた。
「どうなるか分かりませんが、とりあえず現地へ向かいましょう」
 心弾ませる者、恐怖を堪える者、様々な心を持つハンター達は依頼された雑魔退治に向かい始めた――……。

●開けた場所に響く、魔の鳴き声

(鳴き声に特殊な効果がなければ、雑魔の唸り声とかで雑魔も見つけやすいだろうけど)
 天竜寺はため息を吐きながら、周りの警戒を強める。耳栓代わりに入れたパンが、妙な違和感があって、天竜寺は肩を竦める。
(しっかりした数も書かれとらんかったしなぁ、大勢でいなければいいんだが……まぁ、複数おった場合は、一匹ずつ確実に仕留めていくんがええやろな)
 レイは心の中で呟き、雑魔が奇襲を仕掛けて来ないように、しっかりと周りを見る。
(出来れば先に見つけて、攻撃をしたいものだが……)
 シルヴェイラは視線だけを動かし、雑魔が狙って来ないかを確認する。雑魔と言えど、相手はケモノの姿、見た目通りとは限らないにしても、自分達よりも五感が劣っているとは考えにくい――……それが、シルヴェイラの考えだった。
「この広い場所から、雑魔を探すって結構大変そうねぇ。相手に見つからず、獲物を探すっていうのは、結構難しいかしら」
 フィリテはため息混じりに呟く。理想と言えば、シルヴェイラやフィリテの言うように『こちらから先制攻撃を仕掛ける』事だろう。
 だが、ここは敵の陣地であり、地理や動き、どれも相手の方が高いと考えて間違いない。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって! こっちは8人もいるんだぜ?」
 少し不安気な表情を見せたフィリテに、オウガが身振り手振りで話しかける。耳栓をしていると言っても、すべての音を遮断するわけではないので、フィリテにもオウガの言葉がしっかりと伝わっている。
「そうじゃのぅ、いくら雑魔が強かろうが、こちらは人数として勝っているはずじゃ……まぁ、雑魔が八匹以上いない事を願うしかないがのぅ」
 クワッサリーの冗談めいた言葉に、ハンター達は引きつった笑みを浮かべる。明確な数が分からない以上、最悪を想定して戦わなければならない。
「そこまでの数はいないと思いますよ、この依頼は俺達の前に出発した人がいて、失敗して帰ってきているんです。多くの雑魔がいたのなら、生きて戻ってくる事は困難でしょう」
 神代は出発前に読んだ資料の内容を思い出しながら呟く。あの資料には戻ってきたハンター達は全員生還と書かれてあり、逃げかえる事になっても『全員が戻られた』のだから。さすがはリアルブルーで教師をしていただけあり、鋭い所に気づいている。
「確かになー、数が多ければそれだけ犠牲も多くなるやろし。今回は単に妙な能力を持った雑魔って事で撤退する事になったんちゃうかな」
 神代の言葉を聞き、レイは腕を組みながらうんうんと頷いて答える。
「雑魔を探すために、散開しなくて大丈夫なのか?」
 天竜寺はハンドサインと言葉を使いながら、他のハンター達に問い掛ける。
「特殊な雑魔だから、散開する方が危険だ。効率は悪くなるが、固まった方がいいだろう」
 天竜寺のサインにアシフは淡々とした口調で答える。
 確かに、耳栓をしているから、今のハンター達は奇襲を受けやすい状況にある。そんな中で個別行動は控えた方が良いだろう。
「……っ!?」
 その時、その場にいたハンター達が異変を感じる。身体から力が抜け、少しよろめく。
「……どうやら来たようじゃのぅ、耳栓をしても能力を完ぺきに殺す事は出来ぬのか」
 クワッサリーはため息を吐きながら、だけど、楽しそうに微笑む。
「この程度でしたら、戦闘に支障はないようですね。耳栓効果、予想以上です」
 シルヴェイラは薄く微笑み『アルケミストデバイス』を手に持つ。
「オウガ、ちゃんとハンドサインは覚えた? ミスしたら皆が大変になるんだからね」
「俺覚えんの苦手なんだよなぁ……でも、多分何とかなる、はず」
 フィリテに言われ、オウガは「うー」と眉をひそめながら唸って答える。
「獲物発見! ほないただくで!」
 ハンター達の前に、今回の標的である雑魔が現れ、レイが大きな声で叫ぶ。
 その叫びを合図に、ハンター達は戦闘モードへと移行したのだった。

●戦闘開始、犬型雑魔 VS ハンター達

「……っ!」
 雑魔が姿を現し、ハンター達はそれぞれがよく見えるように、少し距離を取った。
 そして、犬型雑魔を目の当たりにして、天竜寺は、一瞬だけ躊躇ってしまう。
(……しっかりしろ、あたし! 守る者のために、強くなるって決めただろ!)
 天竜寺はすぐに足に力を込めて、雑魔に向かって走り出す。多少の気だるさは感じるものの、特に不便なく走れるようだった。
「はぁっ……!」
 真紅の瞳を輝かせ、天竜寺は『スラッシュエッジ』で雑魔に攻撃を仕掛ける。
 その前にシルヴェイラが『攻性強化』を使用して、天竜寺の攻撃力を高めており、その効果を発揮して、最初の一撃は雑魔に絶大なダメージを与えた。
「……ふん」
 天竜寺が雑魔から離れる寸前、雑魔の牙が襲うが、アシフの『マジックアロー』のおかげで、雑魔の牙が届く事はなかった。
「ありがとうね」
 一度後ろに下がった後、天竜寺はハンドサインと言葉でアシフにお礼を言う。
「行くわよ、オウガ!」
「オオオオオオッ!」
 フィリテは『集中』で魔法攻撃の威力を高めた後、すぐさま『マジックアロー』を放つ。フィリテの攻撃で雑魔が怯んだ隙に『地を駆けるもの』と『闘心抑揚』を使用して、雑魔に攻撃を仕掛ける……が、鳴き声のせいか、深くまでは入らなかった。
 だが、神代が追撃を行い、ヌンチャクの鈍い攻撃が雑魔へとお見舞いされる。その腕には覚醒を行っているせいか、茨のような光が浮かび上がっている。
「……っと、下がってしまいましたね」
 再び神代が攻撃を仕掛けようとすると、雑魔はハンター達から距離を取る。
 そして、雑魔は後衛から攻撃を仕掛ける者達を狙って、鳴き声を響かせながら駆ける。
「……」
 雑魔が狙ったのは、シルヴェイラ。
 だが、シルヴェイラには慌てる素振りはなく、余裕を感じさせる笑みを浮かべている。
「そう、もっと近づいて下さい」
 雑魔がシルヴェイラに飛びかかった途端、狙っていたかのように『機導砲』を放った。
「所詮はケモノか、私はきみが近づくのを待っていたんだよ。機導砲を撃つためにね」
 冷ややかな笑みを浮かべ、シルヴェイラはザッと後ろに下がる。
 本音として言えば、シルヴェイラはリスクの少ない後衛から『機導砲』を撃ちたい気持ちが強かった、だけどあまりに離れすぎて逃げられても厄介だと思い、あえて自分を囮にするような形で攻撃を仕掛けた。
「……少し、牙が掠ったか」
 僅かに血の滲む腕を見つめながら、大した事ではない、と言葉を付け足して呟く。
「怪我してるじゃない、放っておいたら大変よ」
 ぽたぽた、と血を滴らせていると、フィリテが『マテリアルヒール』を使用して、シルヴェイラの傷を癒す。
「後衛を狙うなんて、ずる賢さだけはあるんやなぁ……胸糞悪いわ」
 レイは低い声で呟いた後に『スラッシュエッジ』で雑魔を叩き伏せる。
「……」
 レイが攻撃を仕掛けた後、アシフは『集中』で高めた『マジックアロー』を雑魔の喉元にめがけて放った。
 雑魔は潰れたような声を出した後、まったく鳴き声を使用してこなくなり、アシフの攻撃で雑魔の能力そのものを封じた事が伺える。
「特殊な能力が無くなれば、ただの可愛いわんこよのぅ」
 クワッサリーは『機導砲』を放ちながら、酷く楽しそうに微笑む。
「だが、人に害すると分かっている以上、放っておくわけにはいかぬしのぅ……まぁ、放る気はさらさらないんじゃがな?」
 目を細めながら呟くその姿に、同行したハンター達は『S』を感じた。
 既に能力は奪われ、雑魔は本能的に適わないと悟ったのか、ハンター達に背中を向けて逃げ出そうとする。
「散々迷惑を掛けておいて、旗色が悪くなったら逃げるなど……見下げ果てる奴じゃのぅ」
 クワッサリーはため息を零し『ダーツ』を逃げる雑魔に向けて投げつける。ひゅん、と風切音を響かせた『ダーツ』は、雑魔の足に命中する。
「そろそろ、落ちて頂きましょうか」
 神代が呟き、ハンター達は残った力をすべて出し切って、犬型雑魔の殲滅に成功した。

●雑魔退治が終わり、そして……

「はぁ」
 雑魔退治を終え、天竜寺は緊張の糸が切れて、その場に座り込んでしまう。
(情けないな、あたし……でも、これで大切な者を守る力、少しはついたかな)
 まだ手が震えているけど、それでも天竜寺の心には達成感があった。
「大した土産話になりそうにないかもしれないね、喉を潰されたら能力がなくなるなんて道理過ぎて、まったく面白くないのだから」
 シルヴェイラは落胆したように、深いため息を吐きながら呟いた。
「無事に初任務を成功させられて良かったね、色々と緊張したけど……」
 フィリテの言葉にオウガも頷いて答える。初任務という事で、戦闘の疲れとは別の意味での疲れをハンター達に与えているようだ。
(……予想よりも早く終わったな、まぁ、面倒事はさっさと片付けるに限る)
 小さなため息を零しながらアシフは任務を終えたハンター達を見つめていた。
「とりあえず、他にいないかを警戒しながら帰還した方が良さそうですね。討ち漏らしがいたら、洒落になりませんし」
「そうじゃのぅ、戦闘中に残りの雑魔が出て来なかった所を見れば、恐らく単体で間違いないと思うが、念には念を重ねないとの」
 クワッサリーは答えながら、ハンター達の人数を数える。
無傷とまではいかなかったが、軽傷で、しかも人数を欠く事なく成功させられたのは良かった――……と心の中で呟いていた。
「ん? 何をしておるのじゃ」
 雑魔の躯の所でしゃがみ込む、レイにクワッサリーが訝しげな視線を向けながら問いかける。
「いやー、持って帰られそうなもんは持って帰ろうと思ってるんよ。肉はうちの食堂で振る舞うか……雑魔だけど、まぁ、犬だし、食えない事はないと思うが……」
 レイの言葉に「や、やめておいた方がいいんじゃないかのぅ」とクワッサリーが慌てて止める。
「牙や爪などを持ち帰るまでは良いじゃろうが、その肉は……食わされる方が可哀想じゃ」
「そうかぁ? 案外うまいかもしれないんやけどなー。まぁ、そう言うなら、牙とか爪だけにする」
 レイは残念そうに呟いた後、雑魔の躯から牙と爪を剥ぐ。
 そして、残った部分はすべて焼却して、雑魔の躯に誰も寄りつかないように処理をした。
「しっかし、ええ声で鳴いてたなぁ。犬にしとくんは勿体なかったな、うまい事やれば金を取れてたんとちゃうか?」
 楽しそうに笑うレイを見ながら(それも悪くないかも)と思うハンターが数名いたとか、いないとか……。

END

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 優しさと懐かしさの揺籠
    レイ=フォルゲノフ(ka0183
    エルフ|30才|男性|疾影士
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 魔弾
    アシフ・セレンギル(ka1073
    エルフ|25才|男性|魔術師

  • クワッサリー(ka1388
    人間(紅)|25才|女性|機導師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/17 00:45:33
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/06/17 07:54:20