狂いしモノの苦悶の叫び

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/06 09:00
完成日
2016/06/11 21:05

みんなの思い出

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オープニング

●――の声
 狭イ、ジャマ――
 …………
 苦シイ、イキ――
 …………
 力、ウバワレシ――
 …………
 黒イ波動、オカサレル――
 …………
 意識、モウ――
 …………
 コレガ、終ワリ――

●古き戦場跡
 辺境の北部を取り戻す為の戦いから早1年が経とうとしていた。
 多くの痛みを伴う戦いであったが、その傷も徐々に癒えて辺境の民は活気を取り戻しつつあった。
 そんな折に辺境北部への調査隊が派遣されることとなる。目的は歪虚との戦いの激戦区となった戦場を訪れ、そこで散っていった戦士達の亡骸と遺品を回収する為だ。
 本来であればすぐにでも故郷と呼べる地へと戻り、同胞部族自らで葬ってやりたいとの声もあったのだが、辺境北部は未だに歪虚の出現が多発している。
 覚醒者や戦士達だけの少数ならまだしも、非戦闘員が向かうには危険すぎるのだ。故に、今回の調査隊が編成されたのである。
 開拓地『ホープ』を出発して馬の背や馬車の荷台で揺られること数日、調査隊は多くの辺境の戦士達が散ったと呼ばれる平原へとやってきた。
 そこには背の低い緑色の草の絨毯が広がっていた。ただ一見しただけではここが元戦場とは思えない場所だった。
「本当にここが?」
「間違いないよ。足元を見てごらん」
 調査隊の1人の疑問に、長い黒髪を揺らす女性がそう返した。
 そう言われて視線を足元に向ければ、そこには緑色の草の隙間から白い棒状のものが転がっているのが見えた。
「戦士の亡骸だよ。丁重に扱いな」
 黒髪の女性――ラナ・ブリギットはそう告げながら広大な平原を見渡す。
 緑一色かと思えた平原には、ところどころに草の生えていない場所や、地面が不自然にへこんでいる場所が見受けられる。
「さあ、探すよ。ハンターの連中にもそう伝えてきな」
 ラナはそう支持をだし、自分は馬をゆっくりと前進させて平原の中を進んでいく。
 そもそも何故彼女がこの調査隊に参加しているのか? 彼女は覚醒者ではあるが、武器を振るう戦士ではなく物作りをする職人なのだ。
 それでも彼女がこの場にいるのは、自らで志願したからである。この調査に同行すると。部族会議もそれに反対することはなくすんなりと許可をくれた。
 他の部族達は物作りにしか興味のないヴァルカン族が珍しいと思いつつも、人手があって困る物ではなくやはり反対するものはいなかった。
 そして今、ラナはいつものどこか子供っぽい笑みもなく、自信ありげな態度も見せない。ただ黙って視線を動かし、広い平原の中で何かを探している。
「……ここにも、ないか」
 ラナがぽつりとそう呟いた。そこに乗る感情は目的の物が見つからず残念といったものなのか、それとも安堵のものなのか。それは図りかねた。
「おーい、こっちに何かあったぞー!」
 そこで調査隊のメンバーが何かを見つけたようだった。ラナは馬を操り、そちらへと向かってみる。

●過去が残したモノ
 調査隊のメンバーが発見したのは、半ば土に埋もれた木片や布切れといった残骸だ。
 恐らく前哨基地か何かであったテントや柵などがここにあったのだろう。今はその見る影もない。
 木片や布切れをどかしてみれば、そこからは1人分の白骨化した遺体が出てきた。テントごと薙ぎ倒されてそのまま息絶えたのだろうか。
「んっ、これは……?」
 その遺体の手元に何かが転がっていた。それは剣の柄であろうか。肝心の刃の部分は見当たらないが、その柄に施された丁寧な装飾は見事なものだった。
「これは数打ちものじゃないな。こいつ、もしかしたら名のある戦士だったのかもしれないな」
 歪虚との戦いに明け暮れていた当時、武具に装飾を施すなどの手間は殆ど省かれていた。その省いた時間で、より多くの武器を作る必要があったからだ。
 にも関わらず見事な装飾が施された柄を持つ剣が作られたのだとしたら、特別な力を持った剣だったのであろう。そしてそれを振るっていたのも名のある戦士だったに違いない。
 ともかくこの遺体の回収と、そしてこの柄も遺品の1つとして持ち帰ることにする。
 と、そこに馬に乗る黒髪の女性が近づいてくるのが見えた。ヴァルカン族の族長だ。
 そこでもしかすれば彼女ならこの剣の柄を見れば、どんな一品だったのか分かるかもしれないなという考えが浮かぶ。
「おーい、族長ラナ! ちょっとこれを見てくれないかー!」
 柄を手にしていた男はそれを頭上に掲げながらラナを呼んだ。
「ああ、どうし――」
 そしてラナがこちらに視線を向けてきたところで突然言葉を止めた。目を大きく見開き、明らかな驚愕の表情を浮かべている。
 その様子を不思議に思っていると、ラナは次の瞬間には険しい顔つきになり大きな声で叫んだ。
「おい、今すぐそれから手を離せ!」
「はっ? えっ?」
 ラナの突然の言葉に、柄を手にしている男は突然どうしたんだと不思議がりながら首を傾げる。
「いいから! 早く!」
「いや、だから一体どういう――」
 その時である。男の手元でビシリと何かが割れるような音がした。視線を向ければ、剣の柄に大きな罅が走っていた。
『マダ、奪イ、侵スカ――』
 男にはそんな声が聞こえた。
「――――!」
 こちらに必死な表情で駆け寄ってくるラナの姿が見える。何かを口にしているようだが、その言葉が聞き取れない。いや、理解できない。
 男の意識は、まるで大きな鐘の音のように響く不思議な声にのみ集中させられる。
『使エバイイ、コワセバイイ――』
 瞬間、男は無意識のうちに覚醒していた。霊闘士の彼の祖霊は白い牛の精霊。額に角が突き出し、細長く先端に毛を纏う尾が生える。
 だが、覚醒による変化はそれだけに留まらなかった。その背には紅蓮に燃える鳥の翼が生え、周囲に炎を灯した羽が撒き散らされる。
 そして気づけば男の手には剣が握られていた。ひび割れた柄の先から火山の噴火とも思わせる炎を噴き出す、灼熱の刃を持った剣を。
『戦エ、タオセ、スベテヲオワラセロ――』
「アアアァァァァァ!!」
 男はその声に従い、炎の剣を振りかぶった。

リプレイ本文

●譲れないモノ
 かつて大量の血が流れた古き戦場跡に、今新たな血が零れ落ちていく。
「皆さん、離れてください!」
 クリスティア・オルトワール(ka0131)は大声でそう叫ぶ。
「はああぁぁぁっ!」
 その視線の先では突如覚醒して調査隊の仲間を切り伏せたラクに、魔導ガントレットを展開したラナが殴りかかっていた。
 しかしラナの拳がラクに届くかと思った瞬間、ラクの手にした炎剣から火炎放射の如く炎が噴き出してラナを呑み込んだ。
「ブリギット様!? くっ、あなたの相手はこちらです!」
 ラナが炎に呑み込まれるのを見て、クリスティアは即座に手にした白い魔杖をラクへと向ける。
 杖先に形成される魔法陣が意味するのは『水』。完成と同時に、複数の水球が魔法陣から放たれてラクへと迫る。
 ラクはそれに機敏に反応すると、炎の剣を振るってその水球を斬り払った。殆どの水球が蒸発する音と共に消滅するが、その剣戟をすり抜けた1発がラクの体を捉えて衝撃を与える。
 その瞬間、ラクの目が険しくなりクリスティアを睨みつける。明らかに標的を定めたという目だ。
 ラクはその場で姿勢を低くすると、大地を蹴って一気にクリスティア向かって突撃してくる。
「おっと、そうはさせないよ」
 だが、ラクがクリスティアに近づく前に、その間にテノール(ka5676)が割って入る。
 ラクはそれを見ても一切速度を落とさず、そのまま剣を振りかぶりテノール目掛けて剣を振るった。
 それに対してテノールはそれを受け止める為に真紅の盾を構えて迎えうつ。
 激しい衝撃と熱波が盾を構えるテノールに襲い掛かる。腕に痛みが走るが、堪えられないほどではない。
「テノール様、ありがとうございます」
「礼は終わってからでいいよっ!」
 クリスティアへの返事をしつつ、テノールはラクの一撃を完全に止めたところで、そこで一歩前に出て受け止めた剣ごとラクを押し込む。
 ラクはそれに反応して体勢を崩されまいと力を込めて対抗し、拮抗状態が生み出された。
 そこで一陣の風に足元の草が揺れて何かが駆けた。するとラクの背中に生える翼を大きくはためき、燃える羽根を背後に撒き散らす。
「ふーん、勘の良さは野生の獣並みたいね」
 ラクの後ろを回り込んでいたアルスレーテ・フュラー(ka6148)は、ばら撒かれた羽根に視界を塞がれた為に後ろに跳んで一度距離を取った。
 そこに燃える羽根が一枚、ひらりとアルスレーテの顔の横に落ちてくる。それを鉄扇で払ってみれば羽根の熱さは本物らしく、鉄扇の金属部分が僅かに赤熱化する。
「面白いわね。ちょっぴり興味が湧いてきたわ」
 アルスレーテはそう口にしながら鉄扇を開き口元を隠す。そこから覗く蒼い瞳に僅かに知的な色が浮かび上がってきた。

「牛のアンちゃんあんな剣持ってたっけ? ってか、ラナっさん大丈夫か?」
 炎に呑まれて押し戻されたラナは玉兎 小夜(ka6009)の前に転がり落ちてきた。
 小夜は手を貸そうとするが、ラナはその手を借りることなく自分で立ち上がってラクへと視線を向ける。
 その瞳には明らかに激情が見て取れ、その感情を隠そうともせずに握る拳からギシギシと金属が強く擦れる音が鳴る。
「ラナ、あの剣のことについて何か知っているのか?」
 その只ならぬ様子を見れば何かあると検討を付けることは簡単だった。だがクリスティン・ガフ(ka1090)の問いにラナは苦虫を潰したような表情を浮かべるだけで答えようとしなかった。
「ありゃあどう見ても魔剣、呪刀の類だろう? お前さんの様子を見るに、最初からあれを探しにきてたのか?」
「違うよっ。いや、もしかしたらとは思っていたが……出てきて欲しくはなかったよ」
 続くゼカライン=ニッケル(ka0266)の問いに、ラナはやや語気を荒げながらも今度は答えた。
 どうやらラナがあの炎の剣について知っているのは確からしい。だが、アレが何なのかは答えたくはないようだ。
「それならせめて対処法だけでも教えてくれないか? 何にしても、まずは彼を止めないといけない」
「……分かった。もう察しはついてるだろうが、ラクを暴れさせてるのはあの柄が原因だよ」
 クリスティンの説得にラナは簡単にだがどうすればいいのかを説明した。
 あの剣をラクの手から放してしまえばいい。但し、何とかしてラクを殺さず、柄も壊さずにそれを成さないといけないと言う。
「どちらかを殺すか壊すとどうなる?」
「今より事態が悪くなる、とだけ言っておくよ」
 また厄介な、とゼカラインは顎髭を軽く撫でる。だが何か知っているらしいラナがそう言うのだから、従わないわけにはいかないだろう。
「つまりさっさと取り押さえてさっさと治療しようってことですよねぇっ」
 単純明快ですぅと星野 ハナ(ka5852)がそうまとめる。
「そうか。ならば殺さないように善処しよう。だがこのクリスティン、容赦はせん!」
 方針は決まったとクリスティンは巨剣を手にラクを抑え込む戦いに加勢する。
「よし、それじゃあラナっさんは怪我人の救助を――」
「すまないが救助は任せる。私がアレを止めないといけないんだ」
「えっ、ちょっとラナっさん!?」
 そして小夜が怪我人の救助をラナに依頼しようとしたのだが、ラナはそれを拒否してラクの方へと向かってしまった。
 それに慌てたのはハンター達だ。まさか断られるとは思っておらず、逆に頼まれる側になるとは完全に予想外だ。
「仕方がない。小夜さん、私達で彼らを運びだおう。幸い皆さんが既に彼を引き離してくれている」
「ああもうっ。しょうがないなぁ」
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の言葉を受けて小夜はくしゃくしゃと一度頭を掻いてから倒れている調査員達の下へと走った。

●その声を聞け
 ラクを取り囲んだハンター達は次々に攻撃を仕掛ける。それは確実にラクにダメージを与えているが、彼の暴れる勢いが衰えることはなかった。
「随分とタフだな……これは、まさか傷を癒しているのか」
 クリスティンは自分がラクに負わせた傷が徐々にだが塞がっていく様子が目に入った。そこで霊闘士には再生能力を高めるスキルがあったことを思い出し、そのタフさにも納得がいった。
「それってつまりちまちま削っててもいつまでたっても倒せないってことだよね? どーすんの――さっ!」
 燃える剣戟を小夜の黒い斬魔刀が受け止める。触れてもいないのに火傷しそうな熱さがその白い肌を襲い、小夜は思わず顔をしかめた。
 瞬間、ラクの背中の翼が大きくはためき周囲に燃える羽根を大量にばら撒く。それは既に何度か見た猛攻を仕掛けてくる前準備だとハンター達は気づく。
「玉兎殿、お下がりください!」
「うん、それ無理っ!?」
 クリスティアが声を掛けるも既に遅く、ラクの手にする炎の剣が太く長く巨大化する。
「くっ、羽根が邪魔で割り込めない」
「ただの演出じゃなかったのね、この羽根」
 テノールとアルスレーテはラクの猛攻の前兆に気づいたタイミングでそれを潰しに動こうとしたが、巻き散らかされた羽根が邪魔をしラクに近づけない。
 そしてラクは雄牛の突撃の如く小夜目掛けて突進し、巨大な炎刃を高速で振るう。
「こ、な、くそぉっ!!」
 対する小夜はその赤い瞳を瞬き1つせず全開にしたままその剣筋を読む。そして最適と判断した場所に斬魔刀を『置』いて炎の斬撃を受け流す。
 小夜は2合、3合と防いでいたが剣戟の速度を上げるラクの攻撃に、ついに4合目で防ぐ構えを取るのが遅れる。
「――っ!?」
 斬られると覚悟した小夜の目には大上段に構えられた炎の剣が映っていた。これを振り下ろされれば痛いや熱いだけでは済まないだろう。
 小夜の視界でその斬撃が酷くゆっくりと進んでいく中で、それは唐突に乱入してきた。
 視界の外から飛び込んできたのは光を纏う鳥。その鳥はまっすぐに炎の剣へと突っ込み、そして弾けると共に僅かに剣を後ろへと押し戻した。
 そのほんの数瞬の時間稼ぎで生まれたチャンスを小夜は逃さず掴み取った。自分と炎剣の間に斬魔刀を滑りこませ、その一撃を防いでみせる。
「あぶなかったー。さんきゅー」
「いえいえ♪ それより今度こそ離れてくださいねぇ」
 自分の投げた符が1枚消滅したのを確認してハナは新たにもう1枚の符を投げる。
 その符はラクの側まで飛ぶと、淡い光となって弾けて周囲に優美な桜吹雪を生み出した。その桜吹雪はラクの周囲を舞ってその視線を塞ぎにかかる。
「こうなれば一気に畳みかけて制圧するのも手だろう。どう思う?」
「それが最善策かもね。ただ、くれぐれもあの柄にだけは触らないようにするんだよ」
 アデリシアの提案にラナは賛同した。ただしつこいくらいにあの炎を噴き出す剣の柄に関して注意を促してくる。
「まずは動きを鈍らせます」
「私もお手伝いしますぅ」
 ラクが桜吹雪の幻影を炎の一振りで消し去ったところに、クリスティアの魔法とハナの符術が同時に放たれる。
 符から放たれる眩い光がラクの視界を眩ませ、さらにその右足に氷の矢が突き刺さった。するとラクの右足が音を立てながら氷ついてゆき、その足を地面に繋ぎ止める。
「オオォォ!!」
「させんよ!」
 ラクはその氷を炎で融かそうとする。だがその剣を振るわせる前にクリスティンがラクの間合いに飛び込み、巨剣を横薙ぎにして振るう。
 ラクはその巨剣を炎剣で受け止めるが、マテリアルのブーストが掛かったその一撃は予想以上に威力があったのか、片足が凍り付いている所為もあって後ろに押しのけられるようにしてバランスを崩した。
「よし、このまま――」
「ブオオォォ!!」
 と、さらにゼカラインが追撃をかけようとした瞬間にラクが咆えた。その目を限界まで開いてゼカラインの瞳を覗き込んだのだ。
『死ネ、コワレロ、チリトカセ――』
 するとゼカラインの頭の中に何者かの言葉が響きだした。それにはどす黒くタールのように粘っこい気色の悪さを感じさせるナニかがある。
「避けろ!」
「な――ぐぅっ!?」
 ほんの一瞬の間。その声に意識を持っていかれ、そして気づいた時にはゼカラインの目の前に炎の壁が迫っていた。クリスティンの忠告も空しく、ゼカラインはその炎に呑まれてしまう。
「くっ、本当に厄介だなその剣は!」
 炎を吐き続ける剣にアデリシアの操るワイヤーが巻き付いた。ワイヤーはあっという間に赤熱し始めるが、焼き切れる様子はない。
 アデリシアはそのまま勢いよくワイヤーを引き、炎を放ち続ける剣の向きを変えてゼカラインを炎の中から救出する。
「そのまま抑えていろ!」
 炎から解放されたゼカラインの横をすり抜け、テノールがラクに向けて走り出す。
 だが、それよりも早くラクに接近したのはアルスレーテだった。ラクの右側へと姿を現した彼女の足元では地面が僅かに削れている。
「そろそろお休みの時間ですよ!」
 その言葉と共にアルスレーテはラクの左腕を掴み、足を払って地面へとうつ伏せに引き倒す。
 さらにその上に倒れ込むようにして掴んでいた左腕を捻じりあげて関節を極めた。
「加勢する!」
 そこにテノールも加わり、さらに右腕を掴んでその動きを封じ込める。
 だが、ラクはそれでも抵抗して暴れ続ける。
「くっ、麗しの乙女が密着してるんだからもう少し相応しい対応があるでしょう!」
 関節を極めているにも関わらず、ラクは足で地面を蹴ってずりずりと地面を這う。
「ちっ、このまま骨を折ったところで止まりそうにないな」
 と、その時ラクの顔に影が差した。そこに立つのは白い兎。そして掲げるは漆黒の刃。
「悪いね。死ぬなよ、アンちゃん!」
 小夜は振り上げた刀をラクの首筋に向けて振り下ろした。

●忌まわしき遺品
「これで大丈夫です。痛みは暫く残りますが命の心配はありません」
 そう言ってアデリシアは傷を負っていた調査員2人の治療を終えた。一先ず彼らは無事に救えたことに安堵する。
「ラクよ。剣になった気分はどうだった?」
「いや、正直……何も覚えていないというか……」
 そしてラクも正気を取り戻していた。とはいえ、彼はハンター達に全力で叩きのめされたので重体の身だ。
 クリスティンの問いにもまだ記憶が混乱しているのか、自分が何故こんな怪我をしているのかも理解できていない様子だ。
「なら私の乙女の柔肌に触れたことも覚えていないのね」
「えっ? あっ、その、申し訳ありません」
 アルスレーテの冗談なのか本気なのか分からない一言にラクはしどろもどろになりながら答えを返している。
 とりあえず、彼のほうもこの様子なら大丈夫そうである。
「で? ラナっさん。なんか知ってたっぽいけど、それ、何?」
 ラク達から少し離れた場所で、小夜はラナが回収した剣の柄を指さしながら訪ねる。
「……これは、忌まわしき遺産だよ」
 ラナは展開したままのガントレット越しに掴んでいる柄を酷く憎々し気に、だがどこか後ろめたさをもった表情で見つめていた。
 そんなラナに対してクリスティアがそっと小さく手を挙げて問いかける。
「その、歪虚の仕業かとも思ったのですけど……それ、大丈夫なんですか?」
「どうだろうね。ここは長期間歪虚の支配地域だった場所だ。その所為で歪虚の力に汚染されてるかもしれないね」
 つまりまだ危険はあるということだ。ただ、ラナの言葉にはどこかひっかかりを覚えるような気がした。
「じゃああの燃えてる翼は精霊ではなく歪虚だったんでしょうかぁ?」
「…………」
 んーっと考えながら自分の意見を口にするハナ。ただラナはそれに対しては口を噤んで何も言わない。
「どっちにしろそいつは駄作だ。きっとろくでもねぇやつが作ったに違いねぇ」
 その柄からの『声』らしきものを聴いたゼカラインは、それがあってはならないモノと感じたようで辛口で柄のことを切り捨てる。
「ともかく、こいつは私が預かるよ」
 ラナは言葉少なにそれだけ言い、柄を何重にも布で包んで懐に仕舞った。
「過ぎ去った不幸を嘆くのは、すぐにまた新しい不幸を招くもと……なんて言葉がリアルブルーにはある」
「……そうかい。だが、これはまだ過ぎ去っていないのさ。そう、まだ続いている不幸なんだよ」
 ラナはそう言ってハンター達に背を向けた。一足先に帰るとだけ言い残し去っていく。
「そう、まだ終わっていないのさ」
 ラナはそう呟き、心の中で何かが燻りだしたのを感じた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 鋼のロマン
    ゼカライン=ニッケル(ka0266
    ドワーフ|42才|男性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/02 07:48:31
アイコン 作戦相談卓
玉兎 小夜(ka6009
人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/06/05 23:17:20