• 詩天

【詩天】異邦の時

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/11 19:00
完成日
2016/06/18 07:16

みんなの思い出

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オープニング

●朱夏の願い
 朱夏(kz00116)は、冒険都市リゼリオを訪れていた。
 連合軍の一角としてスメラギ(kz0158)が自ら北伐へ参戦しているが、朱夏もスメラギの留守を預かる形で東方の復興に尽力している。

 壊れた家屋を建て直し、食料に困る民へ食料を運搬する。
 未だに残る歪虚『憤怒』の残党が姿を現せば、退治の為に現地へ急行する。

 そんな多忙を極める朱夏だったが、わざわざこの冒険都市リゼリオにあるハンターズソサエティへ赴いたのには理由があった。
 ――ある依頼をハンターへ打診する為であった。

「お初にお目にかかります。朱夏と申します」
 まだハンターズソサエティへ登録したばかりのハンターの前で、朱夏は深く頭を下げる。
 冒険都市リゼリオから遙か東に存在する『エトファリカ連邦国』よりやってきた舞剣士であり、西方諸国と東方を繋いだ人物である事はハンター達も情報として入手していた。
 その朱夏が、今は目の前で頭を下げている。
「本来であれば、エトファリカ連邦国内で処理するべき事案ではあるのですが……お願い致します。『詩天』へ行っていただけないでしょうか」

 ――詩天。
 ハンター達も聞いた事がない場所だ。
 一体、詩天とはどのような場所なのだろうか。
 東方からわざわざやってきて依頼を打診するという事は、危険な場所ではないのか。

 緊張で息を飲むハンター達。
 その様子を見守っていた朱夏は、首を少し傾げた後でようやく事態を理解する。
「失礼しました。詩天はエトファリカ連邦でも龍尾城から離れ、100年ほど前に連邦へ加盟した州です。詩天は古くから龍脈の研究が行われ、天ノ都にも多くの優秀な符術士や舞剣士を排出して参りました。国土も比較的穏やかで、良い気候と伺っています」
 朱夏は、ハンター達に簡単に詩天の説明をしてくれた。
 大きな地域を持つ州ではないが、古くから龍脈を研究してきた歴史を持つ由緒正しい場所として知られている。
 この州を治めるのは四十八家門四十位の三条家。憤怒が襲撃した際は、符術士や舞剣士が奮闘したものの敗北。詩天も一度は歪虚に呑み込まれ、人々は天ノ都へと撤退していた。
 現在は、ハンター達のおかげで憤怒を退けて復興が進んでいるらしいのだが……。
 ここで朱夏の顔色が曇った事に、ハンター達は気が付いた。
「実は、詩天は三条家でも『詩天』と呼ばれる優秀な符術士が治める事になっております。しかし、先代の八代目詩天は急死。その後、三条家内で大きなお家騒動がありました。
 復興の最中に八代目詩天が死去し、その後お家騒動が勃発。
 良くあると言えば良くある話ですが、不穏な存在が暗躍しているという未確認の情報があります」
 朱夏は『未確認情報』と表現していた。
 八代目「征夷大将軍」立花院紫草(kz0126)も実態を調査しているが、詩天へ大規模な調査を行えば近隣する州から警戒される恐れもある。朱夏の態度を考えれば、天ノ都からの大規模な介入を避けたいのだろう。
 もし、朱夏の言う不穏な存在が暗躍していたとすれば、今回の一件は何者かが描いた筋書きである可能性もある――。
「お家騒動は大きな戦へ発展した後、九代目詩天が決まった事までは分かっています。
 東方で憤怒の軍勢と戦っていなかった新人ハンターの皆様なら、『西方より復興する為にやってきた』と言っていただければ詩天の者も強くは警戒しないでしょう。
 お願いです。詩天へ赴いて現状を調査していただけないでしょうか」
 再び、頭を下げる朱夏。

 北方で連合軍が歪虚との激闘を続ける裏で――詩天を舞台にした新たな物語が始まろうとしていた。


●異邦の時
「ここがエトファリカかぁ」
「やっぱりクリムゾンウェストとは雰囲気が違うわね」
 見慣れぬ光景に、きょろきょろと周囲を見渡すハンター達。
 ――彼らは、朱夏の願いを受けて、詩天の都に向かっている。
 その途中、立ち寄った村を出たところで思わぬ場面に出くわした。
「民を襲い、傷つけているというのはそなた達ですね?」
「………」
「そなた達。このような狼藉が許されると思っているのですか?!」
「………」
「何故黙っているのです? 答える必要もない、と。そういうことですか?」
 人型のソレに、眉根を寄せて説教する少年。
 ハンター達は全員漏れなく絶句した。
 ――自分達は駆け出しのハンターではあったが、それでも分かることがある。
 少年が説教しているのは、どう見ても歪虚にしか見えない。いや間違いなく歪虚だろう。
 人の形はしているが、明らかに知能が低そうだったので。
 この少年は一体何をしているのだろう……?
 ハンター達は少年に恐る恐る声をかける。
「……あのさ。取り込み中のところ悪いけど、そいつには話し通じないと思うよ」
「……? どうしてです? 耳が聞こえないんですか?」
「いやいや。そうじゃなくて……。こいつ、歪虚だよ。知能も低い。耳は聞こえてるかもしれないが、理解できているかどうか」
「は。え……?」
「え? って、見て分からなかったの……?」
「……分かってましたよ! 勿論! ええ分かっていましたとも! 知性があるかどうか試していただけです!!」
 頬を染めて、アワアワと慌てふためく少年に、ハンター達が顔を見合わせる。
 ――こいつ、絶対分かってない。素でやったな……。
 微妙な空気の中で続くやり取り。それを打ち破るように、人型の歪虚は急に腕を振るって襲いかかってきた。
「わ。なんだこいつら。急に動き出したぞ!」
「こやつら、最近この周辺に急に現れるようになって……近くの村を襲い、村のものを破壊し、村人を傷つけているのです」
「何ですって?」
「民達は皆やっとの思いで、先日の災禍から立ち直って来たというのに……。民を傷つけ、努力を踏み躙る行為……到底許せるものではありません」
「先日の災禍って……?」
「憤怒の歪虚王『獄炎』が天の都を襲った事件のことです。その際、ここも甚大な被害を受けました。その後にも詩天で騒動が……」
「あー。その話ハンターズソサエティで聞いたことあるぞ」
「民達にあのような思いを二度とさせてはいけない。私は、民が困っていると聞いてここに来ました」
「何か随分必死だな、お前」
 少年の言葉に考え込むハンター達。
 ふと後ろを振り返り、村との距離を測る。
「……村が近いわ。このまま放っておいたら入り込まれるわね」
「仕方ないな……。ここで応戦しよう」
「え。でも皆さんには関係のないことでは……?」
「そんな話聞いちゃったら放っておけないでしょ。あなた、名前は?」
「あ、えっと……シン。シンと言います」
「シンとか言ったな。見た限りちびっ子だけど戦えるのか?」
「はい。これでも符術師ですから」
「OK。これも乗りかかった船だ。……行くぞ!」
 武器を構え、歪虚達の前に立ち塞がるハンター達。


 ――詩天の調査に行くはずが、何だか波乱の幕開けとなった。

リプレイ本文

「少し調査のはずが行き成り戦闘だなんて……先が思いやられるわね」
「ただでさえこういった本格的な仕事は初めてなですのにね」
「あらっ。初めての世界で初めての戦い! 何だかわくわくするじゃない?」
 肩を竦めるカメリア(ka4869)に、はぁ……とため息をついたラース・フュラー(ka6332)。
 嬉しそうなアンネザリー・B・バルジーニ(ka5566)の横で、エステル・ソル(ka3983)が己の手を握り締める。
「大丈夫です。皆で力を合わせれば、きっと上手くいきます!」
「そうだな。まさかこの俺が、馬に乗って槍を振り回す事になるとは思わなかったが……まあ、やれる事をやろう」
「ボクも自分の実力を試したい。頑張ろう!」
 軽い調子のラジェンドラ(ka6353)と熱っぽく語る龍堂 神火(ka5693)。
 対照的な二人に頷き返した三條 時澄(ka4759)は、さて……と呟き、シンと名乗った少年を見下ろす。
「シン。死にたくなければ、俺達の言う事を聞いて絶対に一人で動くな」
「いえ、でも。危険な事に皆さんを巻き込む訳には……」
「……お前戦った事ないだろ?」
 ズバッと言う時澄に、うぐ、と言葉に詰まるシン。
 歪虚が分からなかった時点で怪しいとは思っていたけれど、やっぱりか……。
 眼鏡を上げながらそんな事を考えるバジル・フィルビー(ka4977)の横で、金鹿(ka5959)が少年の顔を覗き込む。
「シンさんのお考え、とても立派なものだと思います。お邪魔でなければ、どうかそのお手伝いをさせてくださいまし」
「本当にいいんですか?」
「任せといて。僕らは未熟かも知れないけど、専門家だから」
「そうだよー。困ってる人を放っておけないもん」
「お姉さん達が一緒の方が安心でしょ?」
「安心しろ。奴等を村には行かせないさ」
 こくりと頷くバジルに、人懐こい笑みを浮かべるノノトト(ka0553)。
 カメリアと時澄……ハンター達を順番に見つめて、戸惑いに瞳を揺らすシン。
 少し考えた後、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます……」
「お礼は成功してからでいいよ! ほら、来るよ!」
 神火の目線の先には迫る歪虚。泥が集まり、人の形を成したそれはあまり動きこそ早くなかったが、数が多いのが厄介だ。
 時澄は刀を、バジルは宝石が輝くロッドを構える。
「なるべく敵正面に位置するように堅持するぞ」
「行く手を塞いで、村から引き離せるようにしよう」
「私達が壁になりますので、村に向かうものが出たら対処をお願いします」
 2人に頷き、大きな盾を構えるラースに、カメリアがばちんとウィンクを返す。
「分かったわ! 皆、用意はいいかしら?」
「うふふ。いつでもいいわよ! 任せておいて!」
「はいです! 絶対突破させません!」
「万が一の時は俺も対処するから安心してくれ」
「ボクも行けるよー!」
 意気込むアンネザリーとエステルに、馬とバイクに騎乗したラジェンドラと神火のフォローが入り……自然と協力し合う仲間達のやり取りに、金鹿の口角が上がる。
「支援ならおまかせくださいまし。皆さまはどうぞ暴れてくださいな」
「よし。三條の兄ちゃん、頼んだぜ!」
「赤き炎の力よ。あの人の武器に加護を……!」
 時澄に己のマテリアルの力を分け与えるラジェンドラ。エステルの可愛らしい詠唱が、ラースの剣に炎を纏わせる。
 そして、ぱたぱたと走り出したシンを捕まえ、金鹿はぺたりと守護の力を持った符を貼り付けた。
「さあ、シンさんはこちらへ」
「私も前に出て戦わないと……!」
「気持ちは分かるけど、初戦なんでしょ? 間合いを取るのも難しいんじゃないかな」
「でも……! 皆さんに頼りきりという訳にはいきません!」
 更にシンを捕まえ、よいしょと己の後ろに立たせるノノトト。唇を噛む少年をじっと見つめる。
 ――何だか歳も近そうだし、ハンター登録したての時のボクみたい……。
 ボクも初めての時はすごく緊張して、肩に力が入ってたっけ。
 こういう時は頭ごなしにダメって言われると傷つく。だから――。
「シン君、符術師なんだよね。符は出せる?」
「はい。勿論です」
「だったら後ろからでも戦えるよ。前に出るだけが戦いじゃないよ」
「私達はここから出来る事を致しましょう。ね?」
 言い聞かせるようなノノトトと金鹿の声に、渋々と頷く少年。
 この子は使命感に駆られて焦っている。気をつけないと――。
 金鹿はバジルに向かって守護符を飛ばしながら、そんな事を考えて……。
「あっ。金鹿さん支援ありがとう!」
 後方にちらりと目線をやるバジル。次の瞬間、振るわれる泥田坊の腕。咄嗟に盾を差し出して防ぐ。
 重い一撃。腕に痺れを感じて、彼は顔を顰める。
 動きは早くないけれど、この一撃をまともに食らったら後衛の者も村人もただでは済まない。
 ここで絶対に防がないと――!
「大丈夫か!?」
「ああ、大丈……?!」
 刀を閃かせ、泥田坊の腕を落とした時澄。落ちた腕は地面に広がり、泥となってそのまま動かなくなったが……人の形を成したそれがぐにゃりと形を変え、再び腕が現れたのを覚って、バジルが目を見開く。
「腕が……! さすが泥、形を変えるのも簡単って事か」
「本体が動けなくなるまで叩かないとダメって事だね」
「そういう事、だな……!」
 言い終わる前に、歪虚の肩を切り裂く時澄の刀。バジルのロッドも追撃とばかりに泥田坊にめり込み、ぐしゃりと形が崩れてそのまま動かなくなる。
「残り9……! よし、次!」
「皆、なるべく集中砲火で一気に削りきってくれ!」
 バジルの短い叫び。時澄の指示に、アンネザリーがワンドを振って応える。
「分かったわ! 皆、攻撃の隙を狙うわよ!」
「は、はいです……! 頑張るです!」
 戦う依頼は初めてだと言ったエステル。彼女の顔が強張っている。
「……大丈夫よ。あいつら動きが鈍いもの」
「そうよ。絶対撃ち込める時があるわ。冷静に見極めるの」
「よーく見るですのね!」
 敵を見据えたまま言うアンネザリーとカメリアに頷き、大きな目を更に見開くエステル。
 敵と味方が入り乱れていて、今撃ち込んだら味方を巻き込んでしまう。
 こうしている間も必死に応戦している前衛の者達が心配だが、彼らならきっとやってくれる。
 そう信じて……反撃の瞬間をじっと待つ。
「くっ……!」
 歪虚が吐き出した泥を盾で受け止めたラース。
 泥が纏わりついて重みを増して、思うように動けない。
 白銀の全身鎧と大きな盾で武装してきた彼女。元々回避は捨てて文字通り『盾』になるつもりではあったが、このままでは……。
 動けぬ彼女に振るわれる泥田坊の腕。
 回避は諦め、盾で受け止めようとしたその刹那。視界を横切る光。
 ラジェンドラの光の剣が、歪虚の脇を突き刺す。
「これが『機動剣』か。槍の方がリーチはあるが、こっちの方が使いやすいな」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「いやいや。こいつらにスキルの実験台になって貰おうかと思ってな! それにしても覚醒というのも興味深いな! 内側から力が湧き上がって来るようだ」
 明るく笑うラジェンドラ。ラースもそれに釣られてくすっと笑う。
「そういう事なら……私が全ての攻撃を防ぎますから、ラジェンドラさんは実験でも何でも構わないんで敵を叩いて戴けます?」
「おう。お安い御用だ」
 言いながら、光の剣を再び突き立てる彼。その様子をゴーグル越しに神火が見つめる。
「残数6……かな」
 呟く神火。前衛の者達は上手く敵を引き付け、順番に片付けてくれているが、何しろ手数が多い。
 少しでも、敵の数を減らさなくちゃ……!
「来て、ドルガ!」
 符を手に、叫ぶ彼。
 この技は覚えたばかりで、使い慣れていない。符を握る手に汗が滲む程には緊張するけれど……現れた紅い竜の幻影に、自然と顔が綻ぶ。
 ――神火は、クリムゾンウェストに来る前の事を、何も覚えていない。
 けれど、この紅い竜を見る度、懐かしい気がして心が弾む。
「……装火竜ドルガ! 敵モンスターに攻撃だ!」
 その声に応えるように、火炎を吐く竜。それは前衛の者達を飛び越え、泥田坊を焼き尽くして消えて行ったそれを見て、アンネザリーが目を輝かせる。
「わあ! 神火くんやるぅ! 私達も負けてられないわね!」
「大変です! バジルさんの後ろから泥田坊さんが近づいてるです!」
「あらやだ。背後を狙うのは卑怯なんじゃないのー!? アン! エステル! あいつを一斉掃射! 行くわよ!」
 エステルの叫びに、剣呑な目をするカメリア。彼女の声に応えるように、2人は詠唱を始めて――。
「光の矢よ。闇を裂き、往きて敵を撃ち払え!!」
「風の精霊よ。空に詠え……!」
 ほぼ同時に放たれる光の矢と風の刃。それは面白いように歪虚の泥の身体に吸い込まれ、身体が傾いだところにカメリアのマテリアルを込めた銃弾が叩き込まれ……泥田坊はぐしゃりと崩れ落ちて動かなくなる。
「ありがとう。助かったよ!」
「バジル、次来てるぞ!」
「おー。皆のスキルも凄いな」
「ラジェンドラさんも感心してる場合じゃ……!」
 盾で歪虚を押し返しながら礼を言うバジルに、一気に間合いを詰めて敵を貫く時澄。
 ラースにゆっくりと振るわれる腕。刹那、目の前に現れる光り輝く鳥。
 金鹿が放ったそれは攻撃を受け止めると消えて行き……ラジェンドラから放たれた光線と、ラースの剣に貫かれ、歪虚が崩れ去る。
「あー。俺、やっぱり接近戦よりこっちの方が向いてるな」
「確認できて良かったわね。じゃ、早速働いて貰える?」
「おう。嬢ちゃん達に合わせるよ」
「それじゃ、せーの! で行くです」
「せーの……! 行けえ!!」
「ドルガ! 行け!」
 にこやかなアンネザリーに頷く彼。戦場に響くエステルとカメリア、神火の凛とした声。
 攻撃が雨のように叩き込まれ、泥田坊はその数をどんどん減らして行く。
「……私の符、ちゃんと当たるでしょうか」
「大丈夫、ちゃんと敵を見て。僕が必ず君を守るから」
 自信のなさそうなシンの前に壁のように立つノノトト。そこに時澄の声が聞こえて来る。
「聞こえるか! シン! 今、お前は一人じゃない。その事を忘れるな。そうすれば、何かあっても焦る事はない!」
「私も一緒に攻撃致しますわ。さあ、符を構えてくださいまし」
 落ち着かせるような金鹿の声に、少年は頷き、符を構える。
 自分より幾分背の低いノノトトの背も、前線で戦う時澄の背も、広くて大きい。
 符を持つ金鹿の細い腕もとても力強く感じて……。
 ――自分もいつか、こんな風になれるのだろうか。
 そんな事を考えながら、放った符。金鹿の放った符から変化した稲妻と蝶に似た光弾とが絡み合い、泥田坊をなぎ払う。
「当たりました!!」
「うん。良かったねえ」
「素晴らしいですわ」
「おー。えらい! その調子で残りも片付けちゃいましょ」
 ノノトトと金鹿、カメリアに褒められて頬を染めるシン。
 ハンター達は協力し合いながら攻撃の手を緩めず――気づけば敵は消え、街道は静けさを取り戻していた。


「泥田坊、全部倒せたみたいです」
「他にもいないか、周辺と……念の為に怪しい泥も調べてみたけど問題なかったよ」
「そりゃ良かった。村はどうだった?」
「ええ。村には被害は出ていないようよ。村の人からもきちんと聞いてきたわ」
「泥田坊が現れるようになったのは最近らしいわね。時々、思い出したように現れるらしいわ」
「これ、村の人からお礼だって。皆で食べよう」
 エステルとバジルの報告にうんうんと頷くラジェンドラ。
 続いたアンネザリーとカメリアの報告と、ノノトトから差し出された沢山のおにぎりに、ラースが安堵のため息を漏らす。
「そうですか。一安心ですね。ようやくこれが脱げます……」
 そう言って兜を外す彼女。
 重い全身鎧を着込んでの激しい戦闘は暑いし、何より辛かったのだろう。
 汗もびっしょりで、明らかに疲弊している彼女に、シンが手拭を手渡す。
「大変でしたでしょう。これで汗を拭いて下さい」
「ありがとうございます」
 素直に手拭を受け取ったラース。……何だか手拭にしては妙に質が良い気がする。
 本当にこれで拭いてしまって良いものか悩んでいるところに、カメリアがぐいっと彼女の顔を持ち上げた。
「あらっ。ラース、怪我してるじゃない! 玉のお肌に傷が残ったら大変よ! 手当てしましょ」
「はいっ。お手伝いします!」
「他に怪我はない? ……鎧が邪魔ね。もう脱いじゃっても問題ないわよね。エステル手伝って」
「はいっ。頑張るです!」
「えっ。ちょっ。まっ」
 カメリアとエステル、2人がかりで鎧を脱がされ慌てるラース。
 時澄は少年の前に立つと、ぺこりと頭を下げた。
「符術師だというのは本当だったんだな。正直疑っていたよ。すまない」
「謝らないで下さい。仕方ないです。初戦だった訳ですし……」
「初戦か。初戦であの数に1人で立ち向かう気だったのか? それは無理を通り越して無謀だぞ。その姿勢は見事だが、死んでしまっては何の意味もない」
「そうよー。村を守りたい気持ちは分かるけれど、貴方まで怪我したら悲しむ人もいるでしょう」
「カメリアさん、痛いです……」
「我慢してください! スキルに頼り切りもいけません」
 諭しながら包帯を巻くカメリアにぼやくラース。エステルの言葉を聞きながら、シンは考え込む。
「でも私には、民を守る義務が……」
「民達にあのような思いは……なんて言ってたけど。そういう思いをしちゃいけないのは、君も同じだよね」
 バジルの言葉にぽかーんとする少年。
 自分が心配されるなど、予想もしていなかった様子で……。
 手当てを終えたエステルは、輝く瞳でシンを見つめる。
「シンさん、お母様の執事さんと同じ名前です! 一人で旅をしているのですか? すごいです、立派です!」
「いえ。旅をしている訳ではないのですが……」
「シンさんは、民が困っていると聞いてこちらにいらしたんですわよね? どちらからいらしたんですの?」
「……若峰の方から来ました」
「えっ!? 丁度良かった! ボク達若峰に向かおうと思ってたとこだったんだよ。案内してもらってもいい?」
「すみません。一連の事件が解決するまでは、戻る訳にはいかなくて」
 小首を傾げる金鹿に、嬉しそうなノノトト。
 申し訳なさそうに頭を下げる少年に、金鹿は赤みがかった金色の瞳をシンに向ける。
「一連の事件って何ですの? 良かったらお話して下さいませんかしら。若峰に向かう途中ではありますけれど、応援要請くらいはオフィスに届けられるかもしれませんもの」
「ここのところ、泥田坊が現れるようになった、といいましたよね。どうも、首謀者がいるようなんです。それを突き止める為に来たんですが……」
「あー。そういう事か……」
「シンくんも大変なのねえ」
 腕を組んで考え込むバジルに、頬に手を当てるアンネザリー。
 その様子をじっと見ていた神火は、シンに確証じみたものを抱いていた。
 ――この子。多分、普通の家の子じゃないよね……。
 正義感があって、符術師を名乗り、言葉遣いも普通の子供ではないような……。
「……あのさ。シン君ってもしかして、実は結構偉い人……?」
 何気なく口に出た神火の問いにシンはびくっ! と飛び上がる。
 頬を染め、アワアワと慌てる少年に仲間達は顔を見合わせる。
「あ、ごめんね。ちょっと聞いてみたかっただけなんだ」
「言いたくなかったら言わなくていいのよ?」
 気遣うような神火とアンネザリーに、少年は震えながら頭を下げる。
「……すみません。詳しくは言えないんですが……要人である事は確かです。皆さんに大変な思いをして助けて戴いたのに、お話できなくてごめんなさい。この一連の事件が片付いたら、きちんとお話します」
「シンさん、難しい立場にいらっしゃるんですね」
「しかもシンの坊や、嘘つけないだろ? この先そんなんじゃ苦労するぞ」
 同情の眼差しを送るラースに少年の肩を叩くラジェンドラ。時澄は深々とため息をつくとシンの顔を覗き込む。
「……その事件に、これから対処するつもりか?」
「はい。民が困っていますから」
「協力者はいるの?」
 アンネザリーの問いに無言を返す少年。エステルは慌ててシンの手を握る。
「一人じゃダメです! わたくしも一緒にいきます!」
「でも……」
「もし良かったら、君の次の目的地まで一緒に行って構わない? いずれは若峰に行く予定だしね。ちょっと寄り道も悪くないかなと思うし」
「うんうん。申し訳ないって思うなら、今度首都を案内してくれればいいよ!」
 バジルとノノトトの申し出に悩むシン。
 巻き込みたくはないが、1人で立ち向かうのは無謀だというのも理解しているのだろう。
 おずおずと頷く少年に、ラジェンドラがニヤリと笑う。
「よし。決まりだな。調査に行く時は俺達を呼べよ!」
「そうだな。ソサエティを通じて連絡をくれれば、すぐに駆けつける。……と。そうだ。立派な初陣だった。よく頑張ったな」
「うん。お姉さんも褒めちゃうぞ!」
 時澄とカメリアに頭を撫でられて、目を丸くしたシン。
 耳まで赤くなりながら、こくりと頷いた。


 それから、村人から貰ったおにぎりを皆で食べたハンター達。
 仕事を終えて、仲間達と食べる食事は美味しくて……。
 そしてこれから起こるであろう事件に、思いを馳せるのだった。

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MVP一覧

  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄ka4759
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火ka5693
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬ka5959

重体一覧

参加者一覧


  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 美しき花の射手
    カメリア(ka4869
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 優しき蒼の瞳
    アンネザリー・B・バルジーニ(ka5566
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 内助の功
    ラース・フュラー(ka6332
    エルフ|23才|女性|闘狩人
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/06 14:57:56
アイコン 相談卓
龍堂 神火(ka5693
人間(リアルブルー)|16才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/06/11 02:15:12