【アルカナ】 不遜なる帝、かの場所に座す

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~2人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/06/12 15:00
完成日
2016/06/20 06:22

みんなの思い出? もっと見る

オープニング



「『アルカナ』は、元人間……この手記によるならば、確かにそう記されています」
 タロッキの集落、エフィーリア・タロッキ(kz0077)は自室にて、先の探索で見つけた手記を読み耽っては一人ごちる。
 ハンター達の協力のお陰で、街にて待ち伏せていたJusticeは撃退でき、タロッキの英雄のものとされる手記を見つけることができた。だが、そこに書かれていた内容は大まかに言うなれば『英雄は自らの手でアルカナという存在を生み出してしまった』ということだ。

 手記にある内容はこうだ。かつての英雄のいた一団は『ファンタズマ』と呼ばれる義勇軍であり、歪虚との戦いで幾度も人々を救った22人の戦士達だった。
 しかし義勇軍は戦いに倒れ、英雄一人が生き延びてしまう。仲間達の死を憂いだ英雄は、とある歪虚の甘言に唆されて、彼らの復活を望んでしまう。その結果として21の戦士達の存在と性質が反転、負のマテリアルによって思想すらも書き換えられてしまった存在、『アルカナ』となってしまったというのだ。

「……何て、哀しい話なのでしょう」

 エフィーリアは声を潜めて呟く。その声には悲しみと寂しさが篭っていた。かつての彼らは人の可能性を信じ、人の未来を守るべく戦った存在だ。だが今の……『アルカナ』と成り果てた彼らはその真逆。人の可能性を否定し、人の未来を奪う事を目的とした存在となってしまっている。
 英雄は伝承の中でこそ神格化されていたが、その心はただの人であったのだ。だからこそ人の死を悲しみ、誘惑を振り切る事は能わなかったのだろう。

「……暫く伏せておいた方が、いいかもしれませんね」

 タロッキ族はかの英雄を英霊と崇める事で成り立ってきた部族だ。この英雄譚はあまりにも悲哀に満ちており、これが明るみに出れば中には信仰心を失う者が出てくる可能性もある。タロッキにとっての英雄はあくまで、『アルカナ』という災厄から人々を守った存在であるからだ。

 エフィーリアは、同封してあった地図を見る。英雄が、未来に生きる者に遺した遺産。そのメッセージ。ここにまた新たな、アルカナたちへの打開策が遺されているというらしいが……。

「……過去を憂いでいても仕方ありませんね。今の私達に出来る事を、精一杯やらなければ……」


 その呟きの直後、トントンと扉をノックする音。エフィーリアは手記を隠しながら『どうぞ』と返答する。
 入ってきたのは族長のローテス・タロッキだ。その顔は険しい。

「エフィーリア、よいか? ……こんなものが送られてきおってな」
「それは……手紙、でしょうか?」

 ローテスが見せたものは手紙だ。それもやたらと高級な便箋に入れられている。エフィーリアが手に取り中を検める。



『久方振りの命を出そう。余の前に新たな貢物を献上する事を許可する。光栄に思うがよい

1つ目は先ず酒だ。以前よりも上物を持ってこい。贅を重ねる事こそ王の特権なるぞ。
2つ目は側室。余の寵愛を受ける事を許可する。善き美貌を持つ者、その身を捧ぐがよい。
3つ目は喜劇だ。余興は必要であろう? 余を笑わせて見るが良い。それを肴に杯を呷るとしよう。
4つ目は武勇譚。自らが成し得た、最高の死闘の戦果を聞かせるがよい。
5つ目は業物の武具だ。鍛え上げた最高級の武具をこの余に献上せよ。
6つ目は使用人を求める。王に仕えるに値する技量を見せるがよい。

 以上。三度日が昇るまでの猶予をくれてやろう。聊か貧相な城ではあるが、待たせる事を赦そう』


「これは……Emperor……? こんな時に……」

 Emperor。過去、エフィーリア達が撃退した『アルカナ』の一体だ。面倒な相手に苦い顔をするエフィーリアだったが、指定された場所を見て衝撃を受ける。

「……!?」
「どうかしたか、エフィーリア」
「……いえ、何でもありません……」


 Emperorの便箋に送られていた、場所を示す地図。


 それは英雄の手記に記されていた『遺された場所』と同じ場所だった。

リプレイ本文

●かの地に居座る暴帝

 陽の光が淡く差し込み、舞い上がる埃がちらちらと煌めく、とある遺跡の一室。そこには錆びついた椅子の上に座す歪虚の姿があった。『皇帝(Emperor)』という名を持つその歪虚は足を組み、どこか遠くを見据えるような目つきをもって来るべき者どもの到来を待っていた。
 その双眸がゆっくりと眼前の扉へと向けられる。こつこつとその先より鳴り響く靴音が、かの王の待つ者の到来を告げていた。
「……ほう、よもやまた貴様と相まみえる事になるとはな」
「久しぶり……ね。皇帝さん」
 開かれた扉より現れたハンター達。その中でも見覚えのある一人のハンターを見つけた『皇帝』はにやりと表情を崩す。十色 エニア(ka0370)は以前もこの歪虚と相対し、そして打ち倒したのだ。『皇帝』もそれが解っているようで、今度はどのように愉しませてくれるのかといった風に挑戦的な笑みを浮かべていた。
「よくぞこの皇帝の前へと参ったぞハンター達よ。謁見を許そう。余の近うに寄るがよい」
 『皇帝』の言葉には力がある。事前に情報を知っているにも関わらず、ハンター達はEmperorに近づかせられる。まるで行動を半ば強制されるような圧力だった。
「さて、わざわざ余が直々に認めた文を送ったのだ。諸君らの持ち寄った『献上品』を早速見せてもらうとしようか」
 『皇帝』はその言葉と同時に指を鳴らす。それと同時に壁一部が破壊され、隙間より差し込む光が大きくなる。まるでスポットライトのように『皇帝』とその前を照らし、まるで品評でも行うのかといわんばかりにお膳立てをされる。

「さあ、愉しませてもらおうか。此度の余を見事満足させてみよ」


●品評開始

「それではまず、わたしから参らせて頂きます。皇帝様?」
 恭しく頭を下げるのはアニス・エリダヌス(ka2491)。ドレスの端をつまみ、礼儀正しい所作にて一礼するその様に『皇帝』は気分を良くしたか、くっくっと笑む。当のアニスは頭を垂れているが、その実、瞳の奥を悟らせないようにわざと深く礼をして表情を隠しているのだった、
(……歪虚に傅くのは、とても不本意ですが)
 彼女は両親やかつての想い人を歪虚によって喪っている。憎むべき敵、憎むべき存在を討つのではなく、機嫌を取る為に頭を下げる事には屈辱しか感じない。
(……しかし、営業も戦いです。わたしはやり遂げる為にここに来たのですから)
 しかしアニスはぐっと私怨を自らの内に押し留め、柔和な笑みを作ったのちに『皇帝』に微笑みかける。彼女は花屋を営んでいるが故に、『売り込む事』の大切さを理解している。自ら達の利に繋がるというのならばいくらでも頭を下げよう。
 自分の帰りを待ってくれている人がいる。共に戦う仲間がいる。その為ならば何だってするという覚悟の元、アニスは持ち寄った盃と酒を取り出してゆく。
「こちらは『エルフハイム』というシードル。そしてこれによく合う付け合せをご用意致しました」
「ほう、『酒』は貴様か。つまみも誂えてくるとは気が利いているではないか」
 アニスが取り出したのはシードルの他、フリッターとクレープだ。皿に取り分け、『皇帝』の前に運び出し、献上する。
「どうぞお召し上がり下さい」
「うむ、頂くとしよう」
 頭を下げ、献上されたトレイを『皇帝』は受け取る。盃の酒を煽り、フリッターを口にする。ゆっくりと咀嚼し、味わい、切り分けられたクレープをつまみ、盃を飲み干す。
「ほう、成程」
 何かに気づいたように『皇帝』はニヤリと笑む。アニスはじっと佇み、評を待った。
「芳醇な酒の付け合せに香ばしい揚げ物は良い取り合わせだが、それだけではないな。これは林檎酒、そしてつまみの方にも林檎を使っている。互いに引き立て合いつつも、深みのある場所で手を取り合うように味わいを感じさせる。見事な趣向ではないか」
「流石は『皇帝』陛下。違いの解るお舌のようで……お目が高いです」
「フハハ、ただいたずらに高い酒を持つだけならば誰でも出来よう。そんな中貴様は工夫を凝らし、余の感心を惹いてみせた。そして……」
 『頭を上げるがよい』という言葉にアニスは命じられた通りに頭を上げる。微笑みは絶やさないままだが、皇帝は満足そうに笑む。
「その瞳の奥には燃え盛るような闘争心を感じる。そのうえで自らを抑え、見事余を満足せしめた手腕。気に入ったぞ。貴様を『献上者』として認めようではないか」
「…………ありがたき幸せです」
 見透かされたような言動に笑顔を崩しそうになるアニスは、それでも我を殺し頭を下げる。この『皇帝』はハンター達が敵対している事を分かった上で、こうして傅かせている。不快に感じながらアニスは礼をし、下がったのだった。
「さて、次は」
「それじゃあわたし達がお相手するわね」
「……よろしく……」
 歩み出たのはエニアと、シェリル・マイヤーズ(ka0509)だ。二人共メイド服を着込んでおり、恭しい態度で礼をする。
「ほう、『使用人』は貴様らか? 良いぞ、近うに寄るがよい。女中の装いで来るとは意気の在る事よ」
「ご主人様、本日は宜しくお願いします……と、メイドになる前に一つ提案なんだけどさ」
「何だ、言ってみるがいい」
 エニアはスカートの端をつまみ、ふわりとターンするように自らの姿を見せつける。シェリルはその所作の意味はわからないといった風に、とりあえず真似をしてくるっと回ってみせた。
「わたし達の姿、どうかしら? もし『皇帝』様が望むのであれば……貴方の望むままの姿に、この身を作り変えてくれても良いのよ?」
「……ほう」
 エニアは『皇帝』の持つ『言葉』の力を以前も体験している。その力を用いて、自分達の姿を変えてもいいという提案をしたのだった。『皇帝』は暫し考えこんだ後に、豪快に笑ってみせる。
「はははははは! この余の力を以ってその身を作り変えてみせよと申すか! 愉快な申し出ではないか、よもやハンターの口からそのような言葉が出るとは夢にも思わなんだぞ!」
 言うなればこれは『相手の能力を全うに受ける』という宣言だ。敵対する筈の陣営からそのような言葉を言われては、『皇帝』も面食らうだろう。ひとしきり笑い終えたのち、『皇帝』は二人を指差す。
「良い、良いぞ。その献身的な姿には参った。『汝ら、望みし姿に成るが良い』。そしてこの余に傅いてみせよ、『使用人』よ」
 大気中のマテリアルが振動し、その『言葉』がエニアとシェリルの脳を揺さぶる。そして
「わ、わっ!?」
「……凄い。足下見えない……」
 次の瞬間、エニアとシェリルの体型が見事に変化していた。エニアの中性的な容姿は、すらりと華奢で艶のある紛うことなき少女の姿に。シェリルの小柄で細身の身体は張りのある豊満な体つきに変貌し、特に大きく膨らんだ胸にシェリル自身が驚いていた。
「その姿で仕えることを許そうぞ。さあ、余の元へ来るがよい」
「ふふ、ノリいいね王様……こほん。それじゃ改めて、何なりとお申し付けください、ご主人様」
 そうしてエニアは従順な態度で『皇帝』に接する。エニア自身は特に抵抗した様子もなく、尽くすように傅いており、裏表のない献身に『皇帝』も蔑ろにはしない扱いで接するのだった。シェリルはそんなエニアのサポートをするため、持ち寄った食品で『皇帝』をもてなした。
「さて、腹は満たされてきたぞ。食欲の次は性欲を貪りたいものだ。『側室』は誰だ?」
「はーい、我輩なのな、『皇帝』サマ♪」
 あえて男性としての性を隠そうともしないギラついたような声色で、女性ばかりのハンター達に無遠慮に投げかけた献上品の催促の言葉。にも関わらず元気よく応えたのは黒の夢(ka0187)だ。
「吾輩は汝のお嫁さん? に、なりに来たのなー。フツツカモノですが、愛していただけますか?」
「フ、嫁とは無遠慮に来たものだ。だが良い、余の寵愛を受けんとする身なればそれくらいに貪欲でなければならぬ。さあ、寄るが良い」
「それじゃ、遠慮なく……」
 その言葉と同時に黒の夢はずいっとその身体を『皇帝』にすり寄らせ、豊満な肢体を王の身体へと絡みつかせた。腕を抱き、腿の内側に足を入れ、その頬にそっと口づけをする。
「んふふふふ♪」
「くっく、積極的ではないか。仮にも余は歪虚だぞ? そこまで身体を委ねてよいのか?」
「我輩、愛することも、愛される事も好きなのな。歪んだままにナニされても……受け入れるのなー」
 扇情的な上目遣いで、ねだるように愛を囁く黒の夢。『皇帝』は無遠慮にその身体に触れ、艶めかしい髪をかきあげるも、蕩けるように熱い視線を送る黒の夢の瞳に、その態度を軟化せざるを得なかった。
「はははは、見事だ。よもやこれほどまでに余を蕩かせようとは。濃密な色香、さすがの余もこれには滾る本能を抑えておくのが難しくなりそうだ。認めよう、貴様もまた『献上者』とな」
「ご満足頂けましたのな?」
 黒の夢はそれでも『皇帝』に絡みつく身体を解かない。妖艶な色気は思わず傍に控えるエニアやシェリルも生唾を飲み込んでしまう程に甘く危うい。
「さて、腹も精も満たされてきた。そろそろ余興を欲する頃合ぞ」
「ならばワシらが愉しませてやろうかの」
 『皇帝』の声に応え、前に出たのは星輝 Amhran(ka0724)。その後ろから更にUisca Amhran(ka0754)とボルディア・コンフラムス(ka0796)も共に踏み出す。3人が一度に前に出た事に『皇帝』は訝しい表情を見せる。
「条件は6つの筈だが、よもや3人で1つの条件を満たそうというのか?」
「勘違いしては困るの『皇帝』とやら。手を抜くつもりなど毛頭ない。2人はわしの『武勇譚』の手伝いをしてもらうのじゃよ」
 ほう? と興味深そうに頬杖をつく『皇帝』。星輝、Uiscaとボルディアが分かれ、二組で対峙するように向かい合う。
「ワシの語るは、かつての歪虚の話。名をナナ・ナインといったか、彼奴との戦いをこの場で演じ、お魅せしようぞ」
 3人は武器をとり、構える。星輝は鋼糸を、Uiscaは杖を。ボルディアは素手で応じる。
「成程、武勇譚と喜劇を演舞として取り入れようというわけか。なかなかに興じさせるではないか」
 ボルディアは動物霊を憑依させ、強靭な身体能力を以って二人へと跳びかかっていく。爪をたてて引き裂くような腕の動きを星輝はかわし、身体をねじり繰り出した蹴りをUiscaはいなす。ボルディアの演舞は常人ではあり得ない程にアクロバティックなものであり、大振りなUiscaの攻撃をバック宙返りで回転しながら回避したり、死角から襲いかかる星輝の動きに対し、まるで見えてるかの如く身体を折り曲げて避けてみせたりと素早く、そして豪快だった。
「ふむ……」
 その動きはまさしく人のものではあったが、歪虚の動きに見紛う程度の完成度はあり、『皇帝』は感心する。放たれた貫手を盾でいなし、手刀を刀の腹で受けたりと、迫力だけで見ても十分見世物になるような演舞だ。
「ナナ・ナインは素早い上に、自在に体を変化させて戦う戦士じゃった。通った後は比喩でもなく血の海になる……謂わば狂戦士」
 演舞をしながら語り部も兼ねる星輝は、戦いの隙を見て『皇帝』へとかの歪虚の脅威を語る。無邪気に死をふりまくかの歪虚は、幾多のハンター達をなぎ倒し、血の海を築き上げたという。戦場を同じくしていたボルディアやUiscaはその脅威が嫌というほど体に染み付いており、その動きは真に迫ったものであった。傍らに控えるエニアもさり気なく口添えする。
「わたしもこの目で見ていました。かの歪虚はわたしとも対峙しましたが……わたしの声に聞く耳ももたず、ただいたずらに殺戮を振りまくような危険な存在でした」
「なるほど、いかにもな狂犬よ」
 ならばいかにしてその歪虚を退けたか? 演舞も終盤に迫った後に星輝は語り出す。
「見ての通り、ワシは非力じゃが素早く器用。故に迫れたとしても決め手に欠ける。イスカは強力な一撃を持つが、生当てというのはコレも難しい」
 ならばどうしたか? 興味を引くような引きを見せ、観客を惹き付けるような立ち回りと言葉で『皇帝』に魅せる。
「答えはこうじゃ。個々の特性を最大限に活かせば、活路はあると考えたのじゃ!」
 星輝は鋼糸でボルディアの手を絡ませ、動きを封じる。そこへUiscaがワンドをもって飛び込むと、そのワンドが光り輝く剣へと変質し、ボルディア……の傍らにあった、この遺跡の支柱の一つを真っ二つにした。
「ほぉ……」
 その動き、そして光り輝く剣に『皇帝』は感心して頷く。Uiscaはその杖を携え、『皇帝』へと近づいた。
「ご覧の通り、この武具は一見、ただの杖。しかして先ほど見せたように、魔を断つ光の聖剣となります。これが私が陛下へと献上する一振りの聖剣。銘を『アマルツィア』。慈悲という意味を冠する聖剣です」
「ほう、魔を断ち切る慈悲ときたか」
「この剣はナナちゃん……先ほどの演舞にて演じた歪虚の腕を切り落とした事もある、誉れ高き逸品です。使いこなすのにコツがいるますが……私如きでも使いこなせる剣を、よもや陛下が使いこなせない、などということはないでしょう?」
 そう言って『業物の武具』なるゴールデン・バウを献上するUisca。『皇帝』はそれを手にとり、じっくりと品定めする。
「成程、良く鍛えてある品だ。そしてよく使い込まれてある。杖の摩耗具合から見ても、かの歪虚を討ったという逸話は真ずるに足るものらしい」
 杖の表面に指を這わせ、軽く振ってその感触を確かめる『皇帝』。その杖に込められた魔力を暫し解放し、黄金色の光を放ち、剣へと変化させる。
「成程、こうするのか。これは良いものだ。よかろう、これも『献上品』として認めよう」
「恐悦至極にございます」
 2,3度振っただけでその使い方を把握した『皇帝』のポテンシャルにやや驚きつつも、Uiscaは目的を達成できたことに満足感を覚え、下がる。そして残るボルディアは、『皇帝』への敵意を隠すことなく正面に佇んでいた。
「残る貴様は『喜劇』を見せてくれるのか? 先程の武勇譚は確かに喜劇足りうる余興であったが、道化を演じただけの貴様を『献上者』として認める訳にはいかんな」
「おう、やっぱこんなもんじゃあ満足しねーわな、傲慢の歪虚さんよ。まあ心配すんな。そんなこともあろうかと、一つ話を用意しといてやったぜ」
 ボルディアの言葉に『話してみせよ』と座す『皇帝』。ボルディアは語り出す。
「題名は『愚かな英雄』だ。そいつは、仲間と一緒に幾多の戦いを乗り越え、数えきれないほどの歪虚を倒した……まさしく、『英雄』だったそうだ。だがある時、ある戦いで仲間が死に、あまりの悲しみにそいつは歪虚に唆されて、仲間を歪虚として蘇らせちまったんだとよ」
 ボルディアの語る言葉に、『皇帝』の表情は変わらない。だが、先程よりも視線の鋭い、冷徹な表情を覗かせた事を、傍らに控えていたエニアや黒の夢は感じていた。
「英雄は、その仲間を封印することしかできなかったらしいぜ。これが一つの、愚かな英雄の話だ」
 そう言ってボルディアは語り終える。表情のない『皇帝』に対し、ボルディアは終わったはずの話を続ける。
「なあ、王よ。人間ってのぁ本当にバカだよな。戦って、死んで、歪虚に利用されて……今もそれに気づいてない。

……わかんねぇか? テメェのことだっつってンだよ、『皇帝』!」

 語り出すような口調から、遂に敵愾心を隠すことなく『皇帝』に突き立てるボルディア。噛みつくように臨戦態勢を取り、武器を取り出す。
「……なるほど、それが貴様の語る喜劇か。だとすれば落胆したぞ」
「ンだと?」
「余が用意せよと言ったのは『喜劇』だ。だが貴様の語る話のどこに幸福がある? どこに笑い話がある? 挙句、その噺を創ったのは貴様ではなく、『私』達ではないか。人の褌で相撲を取るのもいいところだな」
 『皇帝』の言葉は冷たく、そして重い。淡々と冷静に、ボルディアの品評をしている。だが先程までとは違う。その言葉の中に、怒りの感情が見え隠れしているのを、エニアや黒の夢は感じ取っていた。
「……俺の感想は変わんねーよ。人間ってのは、いや、テメェら『アルカナ』は本当にバカだ。テメェらは単に利用されてるだけなんだろうが!」
「『貴様程度が知った風な口を聞くな下郎が!!』」
「がっ!?」
 その怒声が『力』に変わる。ボルディアでは咄嗟に戦斧を横に構えるが、襲い来る衝撃が彼女を遥か後方へと吹き飛ばした。傍らに控えるエニアや黒の夢を一瞥し、椅子から立ち上がる。
「貴様は我々の事を愚かと言ったな? 利用されている事に気づいていないと言ったな? 笑わせる。『真に気づいてないのは貴様ら人間だ』というに」
「なン……だと」
 その言葉を聞いたハンター達は一様に困惑する。『皇帝』は巨大な剣を召喚し、臨戦態勢を取る。
「興が削がれた。ハンター達よ、ならば貴様らの望むがままに、愚かな殺し合いに興じるとしようではないか」


●『皇帝』との戦い

「それでは、今日は杖の代わりに、これでお相手します」
 Uiscaは渡した杖とは別の武器、メイスと盾を取り出して『皇帝』と対峙する。他のハンター達もそれぞれが武器を取り出し、『皇帝』と相対する形となった。
「ボルディアさん、大丈夫ですか?」
 吹き飛ばされたアニスが素早くボルディアへと駆け寄り、傷の治癒を行う。
「あぁ、大したことねぇ……こんなんで負けてらんねぇからな」
 ボルディアは戦斧を構え、『皇帝』に対峙する。
「約束しやがれ、俺等が勝ったら、ここに何があるのかを洗いざらい吐くってな!」
「良いだろう、余に勝ったなら褒美として授けてやろう……余に勝てたらだがな!」
 言葉と同時に大剣を振り下ろす『皇帝』。地面が吹き飛び、瓦礫が辺りに飛び散る。激しい粉塵と衝撃にハンター達の視界は遮られるも、周囲に風を纏うエニアが中心……即ち『皇帝』の眼前へと突っ切り、砂煙を吹き飛ばした。
「ご主人様、お相手します!」
 言葉遣いは丁寧だが、携えた鎌で容赦なく『皇帝』の首を狙うエニア。急所狙いの軌道を許す『皇帝』ではなく、その攻撃も難なくいなされる。
「貴様は魔術師だろう、こんなに近くに来て良いのか?」
「お生憎様、これがわたしの戦い方です、ご主人様」
 『皇帝』がエニアを弾き飛ばすと同時に、燃え盛る火炎球が飛来、『皇帝』に着弾し爆発する。
「我輩の愛の業火に焼かれて、焦がれて欲しいのな」
 放ったのは黒の夢だ。星雲のようなオーラを纏いながら、朗らかに、歌うように呪文を口ずさむ。吐息は火炎球となり、舞い上がるような息吹と共に『皇帝』へと飛来する。
「ははは! 身も心も溶解させようとするとは、つくづく厚顔な側室よな!」
 『皇帝』は強烈に振りぬいた剣の風圧で火炎球を弾き飛ばそうと試みるが、突如としてその挙動が急に緩慢になる。響き渡る二人の少女の歌声が、『皇帝』の動きを縛り付ける。
「彼の者に正しき安息を……!」
「鎮まり下さい……」
 アニス、そしてUiscaの奏でる、鎮魂歌にも似た祈りの力が『皇帝』の動きを制限させ、黒の夢の火炎を打ち払う事ができずに直撃する。
「ちっ、煤で汚れるわ……! 『広がれ、我が翼よ』!」
 『皇帝』の言葉と同時にマントが裂けて巨大な翼に変化する。大きく羽撃いて燃え盛る火炎を吹き飛ばしつつ、宙へと上昇するが……。
「読み通り、だね!」
 エニアが即座に放った冷気の嵐が『皇帝』を包む。エニアは前回の戦いの経験から、『皇帝』が部位を増やすことを予見していた。エニアの範囲攻撃が『皇帝』の体ごと翼を包み込み氷結させると同時に、振るった鞭を足に絡め、上昇を阻害し、跳びかかったボルディアの攻撃する隙を作る事に成功した。
「喰らいやがれ! 【砕火】!」
「貴様の攻撃など……! 『狂犬よ、弾けよ』!」
 『皇帝』がそう言葉を発すると同時に、ボルディアの放つ獣の如き火炎の幻影が霧散する。上下から襲い来る火炎は引き裂かれ、隙の出来たボルディアの胴体に蹴りが叩き込まれる。
「ぐあッ……! なんだそれ、畜生……!」
「『引き裂かれよ』」
 蹴りの重い衝撃がまるで刃物のように鋭利なもの変換されてバラバラに拡散し、ボルディアの全身をズタズタに切り裂いた。
「ボルディアさんっ!」
 鈍い衝撃が一瞬にして無数の斬撃へと変化し切り裂かれたボルディアへ、アニスが素早く回復魔法を飛ばして一命を取り留めさせる。同時にボルディアもまた、その途切れそうになる意識を自らの強い闘争心をもって繋ぎ止めた。
「ちィ……っ、舐めんじゃ、ねェっ!」
「なっ……!」
 持ち直したボルディアから流れる血が赤々と燃え盛り始め、彼女の体へと還ってゆく。業火に包まれたような彼女は不屈の闘志をもって、ダメージを負った体を動かし……。
「だらあァァッ!」
 地を踏みしめて空跳び、轟! と唸るような旋風と共に戦斧を『皇帝』へと叩きつける。
「ぐあぁっ!?」
 そのまま遠心力を活かして中空の『皇帝』を地面へと叩きつけたボルディア。最後の力を振り絞った一撃は確かに『皇帝』を捉え、その体制を大きく崩す事に成功する。
「へ……ッ、ざまあ見やがれってんだ……クソ……!」
 『皇帝』の墜落を確認したボルディアは、ダメージのあまり、その場で気絶した。
「この余を地に這わせるとは……貴様……!」
 立ち上がろうとした『皇帝』に、漆黒の糸が巻き付く。それはまるで荒れ狂う大蛇のようにうねり、『皇帝』の四肢に絡みついて動きを封じる。
「流派禍断――【蛇咬】、じゃ。言い忘れておったの、コレがナナを封じた技よ!」
「道化め……! 斯様な糸如き……!」
 『皇帝』は強大な力で鋼糸を引き千切り、振りほどく事に成功するが、既に攻撃に転じていた星輝と、その一瞬の隙を見逃さずに距離を詰めたUiscaが至近距離へと接近する。
「真の聖剣は、己が心の中に……!」
「ちとやんちゃが過ぎたようじゃのう、『皇帝』とやら!」
 Uiscaは手に携えたメイスを巨大な聖剣へと変化させた一撃で、星輝は鋼糸を放棄して抜き放った刀による抜刀術でそれぞれ『皇帝』を別方向から攻撃。交差する斬撃が『皇帝』に同時に炸裂すると、その斬撃の中心点にあった『皇帝』の大剣が真っ二つに折れた。
「お、のれ……! 『土よ、鉄よ、我が力となり……』」
「そうはいかないのな」
 『皇帝』の『言葉』が妨害される。再び剣を創ろうとした『皇帝』のマテリアルは収束せずに霧散する。黒の夢のカウンターマジックによる妨害だ。
「『言葉』にも、妨害できる奴があるのな♪ 我輩と踊っていただけますか、皇帝サマ」
 そうして武器のなくなった『皇帝』の胸元を、一筋の光が貫いた。
「ぐあ……!!」
「あなたの言葉は、確かに為政者特有の、重いもの……」
 光を放ったのはアニスだ。傍らには治療を施したボルディアがおり、最後に出来た隙を見逃さなかったのだった、
「……ですが、その言葉には『意思』を感じません。……ゆえに、言葉の重みなら、負けるつもりはありません」


●決着、そして


 ダメージが限界にきたのか、ゆっくりと崩れ落ちる『皇帝』。地面に横たわり、身体が少しずつ光の粒となって消えていく。
「……潮時か。此度もまたしてやられたわ、ハンター共」
 潔く負けを認め、やや自嘲気味に嗤う『皇帝』のもとへ、ハンター達が寄る。
「聞かせてくれるかのう、『皇帝』や。この場所に居た理由をのう」
 星輝が『皇帝』へと尋ねる。
「気づいてないのは貴様らだ、とも言ったの? そなたらの目的を教えてくれんかのう」
「……フン、いいだろう。貴様らの大義に免じて答えてやろう。我々アルカナ……いや、ファンタズマの目的は今も変わらない。人の救済だ」
「人の救済……? しかしアルカナは、『人の未来を奪い去る』という目的の筈……現に様々なアルカナが殺戮をもって人類に危害を……」
 Uiscaの回答に『皇帝』は鼻で笑う。
「我々は、人間の未来など今のうちになくなってしまった方が最も幸福だと判断したまでの事よ」
「……それは、どういう」
「啓示だ。我々アルカナは歪虚となった折にそんな啓示を受けた。我々の望みは今もなお、そこに集約しているに過ぎないのさ」
「そんな押し付けがましい救済など御免被るわ!」
 星輝が鋭く言い放つ。この発言を信じるなら『アルカナ』は人の未来を否定し、あまつさえ勝手な判断で未来を奪おうと言うのだ。独善的にも程がある。
「そう思うなら、せいぜい足掻くが良い、人間。我々の啓示を尽く否定してみせよ。貴様らに未来が残されているというのであれば……」
 そう言いながら『皇帝』は、懐より手記を取り出す。
「……その行動によって示すが良い。『私達』はその為に貴様らの前に立ち塞がるだろう」
「……『皇帝』さん、きみ達が回りくどいやり方なのは、もしかして……」
 エニアの言葉に、ふっと自嘲気味に嗤う『皇帝』。半ば、図星を突かれたような表情をしている。
「さてな。そこまで答えてやる義理はない。私以外にも『アルカナ』はまだまだ居る。せいぜい、貴様らの吠える未来とやらが、我々の思い描く未来に食い潰されんように藻掻くが良いさ。……それこそ、余が見たかった『喜劇』のように、な」
 エニアが手記を受け取ると、『皇帝』の身体が消滅していく。そんな『皇帝』へ、エニアは言葉をつぶやく。
「……今度会うなら……戦わないのがいいね、ご主人様」
「……くはは、それは難しい相談だ」
 そんな風に笑う『皇帝』の傍へ、黒の夢が近寄る。訝しく思う『皇帝』の顔に黒の夢の顔が近づき……そして、その唇と唇が繋がる。暫しの熱い口吻を交わし、顔を離した黒の夢は、面食らう『皇帝』へ言葉を贈った。
「汝が我輩の事を愛してくれた事、汝の事……決して忘れないのな。――『またね』」
「……くははっ! どこまでも男を骨抜きにする女よな、貴様は」
 脳髄を蕩かせるように甘く囁く黒の夢の声に、大きく笑ったのちに『皇帝』は消えていった。



「……この手記、かの英雄様のものですね。これを破棄したりせずに持ってたってことは……っやっぱり彼は……」
 エニアの手に持つ手記を見て、アニスが言葉を零す。『皇帝』がこの場所を選んだ理由、そして最後に交わした言葉……ハンター達は、託された想いと、かの王が遺した『言葉』を胸に、その場を去っていくのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌスka2491

重体一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士

サポート一覧

  • シェリル・マイヤーズ(ka0509)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】貢物達の晩餐会
黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/06/11 23:10:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/10 23:23:48
アイコン 補足及び質問卓
エフィーリア・タロッキ(kz0077
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/06/09 23:46:29