• 詩天

【詩天】果物狩り、時折歪虚狩り

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/12 09:00
完成日
2016/06/15 22:24

みんなの思い出

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オープニング

「そこな商人。新鮮な山の幸はいかがでございましょうか!」
 カカオの買い付けに東方エトファリカ連邦の都にやってきていた商人ミネアはそんな声に呼び止められた。
 振り返れば東方の人間が着る袖の大きい着物をつけた黒髪の女がいた。薄墨に艶やかな刺繍が施されたその衣を見るに役人か貴族階級の偉い人のように見えなくもないが、誘ってくる文言は山の幸。
「この時季は琵琶が美味しゅうございますよ。コケモモも是非ご賞味くださいますよう。きっとお気に召しますので」
「あ、あの。わたし、今はカカオの買い付けに来ているので……」
「かかお! ははあ、南方の果物でございますね。なればなおさら、詩天の山の幸に興味を持っていただきとうございますよっ。なんといっても詩天は豊かな自然の宝庫でその恵みも数知れず。かかおよりも素晴らしい果物を取り揃えてございます。菓子、料理にも使えて、貴女様も、お得意様にもきっとご満足いただけることでしょう」
 まくしたてるように女はそう言うと、その風貌にはまったく似合わない大八車から籠に詰めた黄色い果物を取り出したかと思うと、川の流れるような流麗な動作でミネアの口にそれを押し込んだ。
「ふが……っ」
「芳醇な香り、西方にはないものでしょう。つまりレア。そうレア物でございます。更にこの琵琶というもの。心を穏やかにし、滑舌良好、病魔退散、健康増進、女子力向上の効果があると言われております。これまたレアな一品。レアにレアが重なってプレミアものの果実でございます。さあ、手に取るなら今がチャンス!」
 もはやどこかの押し売りのような気がしてならない滑舌の良い女の口上にミネアは目を回したが、確かに彼女の言う通り、口に入れられた琵琶という果実は、食品商として料理人として色々なものを口にしてきた中でも違った趣の味わいがあるものであった。
「うーん。プレミアかどうかはともかく、帝国にこうした果物があるといいかな……ジャガイモと羊肉ばっかりだもんね……」
 ミネアは琵琶の実を飲み下すと、果物を買い付けようとした。
 が、女が引いてきた大八車にある果実はほんの僅かだけだ。
「えーと、わたし、たくさん買いたいんですけど……あんまりないならそこの商家で……」
「それには及びませぬ!」
 女は慌ててミネアに指一本を突き付け、そのまま言葉を続けた。
「琵琶の実はあまり日持ちしないのでございます。それに直食用、料理用などで求める品種も異なるのです。これを一つ一つ摘んで都に持って来ては、品質を落とすばかり。目的に合わぬものをお勧めしなければならぬという不孝を働かなければなりませぬ。それは私、人間として心が痛むばかり!」
 本気でそう思っているのか甚だアヤシイ。
 とはミネアは言えなかった。
「そこでっ。たくさん買い付けくださという貴女様に今日は特別でございます。実は私、詩天のお山を一つ持ってございます。その山の幸なれば、1日限定、自由に取り放題というのはいかがでございましょう。あいや、嘘ではございませぬ。私、詩天9代目当主三条真美様にも顔を知られる身でございます。詩天は生まれ育った故郷でもございます故、その名を穢すようなことは誓っていたしませぬ。ささ、この時、この瞬間がまさにちゃんす! もう二度とないかも知れませぬ!」
 段々顔が近づいてくるのを、さりげなーくミネアは下がって逃げの態勢を取ってはいたが、頭の片隅では女の言う山の作物のことを考えていた。
 ミネアは元々同盟の山奥の農家育ち。山の幸は色々あるのは知っているし、採取量が安定しない為になかなか市場に卸せないものが揃っているのも事実である。
「……じゃあ友達と一緒にもいいですか?」
「もちろんでございます。あ、入山料は一人これくらいで……」
 決して悪い価格ではなかった。


――詩天。
 古くから龍脈の研究が行われ、多くの優秀な符術士や舞刀士を排出するほどで、国土は比較的穏やか、温暖湿潤で豊かな風土を擁している。
 緑萌ゆる山はまさしくその豊かな自然を象徴していた。ミネアに誘われた皆は風薫る坂道を……
「うそつきぃぃぃぃ!!!」
 ダッシュしていた。
 後ろからは一抱えもありそうな巨大な歪虚蜘蛛が雲霞の如く押し迫ってきている。
「う、う、嘘ではございません。ご覧なさいませ、あそこにはコケモモの樹が……熟れ具合も良うございます。さあ、どうぞ」
「無理ですって!!」
 女、五条君香と名乗った彼女もミネアと共に走りながら、野生の果樹を指さす。
 だが、そんなものまともに採っている暇があるわけもない。
「歪虚がいるってなんで言ってくれなかったんですか」
「詩天は長年歪虚に侵攻を受けていたエトファリカ連邦でも、特に離れた地域でございますから……野山にも少々歪虚がおりまする。それに詩天では永らくお家騒動が続いておりました故、歪虚退治は二の次になっておりまして……あ、でも、心配ございませんよ。土蜘蛛など弱い歪虚でございます」
 通りで道中に田畑が荒れ放題になっていたわけだ。
 当主とつながりがあると言うレベルの五条ですら天ノ都で話しかけられた時は幽美な着物を纏っていたが、山に入る時の衣装は当て布いっぱいのオンボロ衣で、お金の無さがそこかとなく窺える。エトファリカを包囲していた歪虚との戦い、そしてお家騒動で州全体が貧困にあえいでいるのだろう。
 つまりミネアに新鮮な山の幸を。と誘っていたのは、要するに金に換える品物がそれくらいしかないのだろう。それに山で採取し放題とは聞こえはいいが、果物の採取にかかる時間や手間賃、輸送料など全部ミネア持ち。ついでに邪魔してくる歪虚も退治するとなれば、五条にしてみれば普通に果物を売りさばくよりずっと効率のいい話だ。
 明らかに割に合ってない。
「ごじょーさぁん……」
「いや、その……申し訳ございませぬ……この五条君香。詩天勘定所の一員として、また故郷を愛する一人として、詩天をこのまま寂れさせるわけにはいかなかったのでございます。確かにこの土蜘蛛の数は予想外。ここは責任を取って、必ずやミネア様をお守りいたしましょう!」
 五条はそう言って振り返るや否や、追いすがる蜘蛛の群れに符を投げつけた。
 途端に黒蝶が視界を遮るように乱舞して、土蜘蛛を薙ぎ払った。
「土蜘蛛など怖るるに足らず。さあ、ミネア様。今日いっぱい、たくさんの果物をお集めくださいませ!!」
 いつ襲われるかわからない中での果物狩り……。
 見た目はすごくのんびりした良いところなんだから、もう少し穏やかにやりたかったとぼやいたのであった。

リプレイ本文


ザ……ザザ……
 それまでクリアだったトランシーバーに小さな雑音が入った瞬間、木立の間を抜けるハンター達に黒い影が飛びかかった。
「それで不意打ちのつもり?」
 シャーリーン・クリオール(ka0184)がそう言い終わる頃には、襲い掛かった土蜘蛛に風穴があいていた。
 そのままアサルトライフルを腰に溜めると、一気になだれ込む土蜘蛛に次々と同じ運命を辿らせていく。
 土蜘蛛が叫んだ。枝の上から一気に飛び降りてくる。
 だが、一直線に落下してくる的など里見 茜(ka6182)にとっては地面を這うヤツより断然ラクな的。
「でえやっ!!」
 正拳の一撃で真上から降って来た土蜘蛛はそのままベクトルを変えて、間合いを測っていた別の土蜘蛛に衝突させると、そのまま助走をつけて跳び、まとめて二匹まとめて蹴り潰した。
「まとめて来いなのです! 歪虚はまとめて全部たおしちゃいますよ!」
 ふっと息を吐いて、両の拳を腰に引き構える茜は爛々とした笑顔だ。その髪のように燃えるような闘争心が伝わってくる。
 その要望に応えてか、続いての土蜘蛛の一群は這い登った幹から草むらからと飛びかかって来た。それに対抗すべく、茜は笑顔の口元をさらに口角を釣り上げた。
「激しいマテリアルにもよく反応するようですね。だが、仲間を誰一人傷つけさせたりはしない」
 茜の視界が赤く揺らいだかと思うと、リアン・カーネイ(ka0267)が槍で土蜘蛛の包囲を貫き、茜の前に立ちはだかった。そして緩やかな弧を描くようにして槍を薙ぐ軌道に土蜘蛛はことごとく阻まれた。
「ここは私が全部片付けるところなんだから!」
「無理しないでください。女子供に集団で殴りかかるような真似は、許せないんです!」
 弾き飛ばした槍で一匹一匹確実にトドメを刺すリアンはそう言い。
 後ろからぶん殴られた。
「私は子供じゃありません!!」
 唖然とするリアンの前で、茜は幹に登ろうとする土蜘蛛を肘鉄砲で叩きのめし
「これでも!」
 そして気のこもった足を踏み下ろす震脚で逃げ惑う土蜘蛛を踏み潰し
「立派な!」
 おまけに噛みついてきた土蜘蛛をそのまま引きはがして、地面に叩きつけた。
「戦士なんです!!」
「そんな大声出したら余計な増援が来ますって!」
 その声と戦いの音を聞きつけた土蜘蛛の気配を確認して、リアンは先手必勝、上から槍を連続して突き下ろし、その隙をかいくぐって飛びかかって来た土蜘蛛を石突きで払いのけるとそのまま一閃して塵に還した。
「仲の良い事だね。こういう時は結果オーライ、でよくないかい?」
 二人が睨みあうのをシャーリーンはくすくすと笑って、マージンを交換していた。
 気が付けば周りはすっかり静かな山に戻っていた。
 と、その瞬間、シャーリーンの真上からもう一匹。最後まで狙いすましていた土蜘蛛が糸を吐き出してせめてもの反撃を試みようとしていた。
 タァン。
「弾倉交換の時は、薬室に一発残せ、ってね。みんなも最初から全力でやってたら息が上がってしまうだろう。ほどほどにね」
 弾倉を空にしたままの銃で土蜘蛛を射落としたシャーリーンは二人ににこりと微笑んだ。

●採取班
「ルンルン忍法にかかれば、高い樹だってへっちゃら☆」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784) は軽く屈伸するやいなや、枇杷の樹をすいすいと登り始めた。
「気を付けてねー?」
 下で布を広げるミネアが声をかける頃には、ルンルンはすっかり枝にたどり着き、にぱっと笑ってVサインで返事をした。
「それじゃいっきまーす☆」
 ルンルンはそう言うと、おもむろに扇符を取り出すと枝の上で華麗に舞い、房ごと枇杷が次々と布を張って待ち受ける勢の元に落として届けられていくが、さすがに細い枝の先は折れやしないかと不安なところ。枝にまたがって腕を伸ばすが、もう少し……先が……。
「ううう、もうちょ……」
 と、支えている腕から枝のミシミシという振動が伝わった来た次の瞬間、ルンルンの視界がぶれた。
 枝が折れた。
「無理しなくていい」
 思わず目をぎゅっとつぶるルンルンであったが、思っていた衝撃の代わりに、大きな腕に包まれる感触が伝わってくる。
 目を恐る恐る開けると、明王院 蔵人(ka5737)の顔が眼前に遭って、ルンルンは顔を真っ赤にした。
「枇杷が潰れなくて良かった」
 ナツキ(ka2481)はにべにもなく(悪気もなく)そう言うと、布に集まった枇杷の房から枝葉を取り除いて、実を籠に詰めていく。
 葉っぱはどこか甘く爽やかな香りが、そして枇杷も確かに芳醇な香りが漂い、気になったナツキの水牛が傍によって来る。
「もうお腹空いたの? わかった。しっかり食べて、しっかり働くといい」
 ナツキはそのまま枇杷を掴んで水牛さんの前に出すと、水牛はぱくっとひとのみ。そして満足げに歯をにぱぁっと広げて見せた。喜んでいるらしいその様子にナツキもついでに枇杷をぱくっ。
「こぉら。まだ早いでしょ」
 真後ろからユリア・クレプト(ka6255)の声が飛んできて、ナツキは思わず喉を詰まらせた。
「そっちは売り物になるんだから、食べるならこっちね」
 そう言って、逆さにした帽子に詰め込んだプラムを座り込んでいたナツキの腿に返した。
「プラムよ。ジャムとかにするとおいしいわよ。そのままでも食べられるし」
 その言葉に従って、ナツキはプラムを一つとって顔に寄せた。枇杷よりずっとはっきりした爽やかな香りがする。そして一口。
「!!」
「枇杷の食べた後じゃ酸っぱかったかしら。プラムは、そのままより熱を通す方が美味しいって言われるのよ」
 ものの見事にひっかかり目と口をバツの字にするナツキにユリアは笑いながら、その他に採ってきたグミや木苺やアプリコット(杏子)などを彼女にプレゼントした。
「これは見事ですね」
「いっぱいあったわよ。地図にも場所を書いておいたから、村の人もこれから使えるでしょ」
 ユリアが事細かに果樹スポットを書きこんでいた地図に天央 観智(ka0896)は感心した。
「ふうむ、これは果樹スポットだけでなく……」
 土蜘蛛は歪虚だ。彼らがずっと潜み続けているとその場所は弱り、果実などはできなくなる。つまり、果樹のあるポイントは土蜘蛛の潜伏位置ではないということだ。
 それを鑑みて地図を見れば、少なくとも通って来た土蜘蛛の生息域はおおよそ把握できそうだ。
「どうかしたか?」
 蔵人の尋ねる声に、ふっと我に返った観智は微笑むと、ユリアが作った地図を見せた。
「これは……将来的にも有用な地図だと……思いまして。強かなあのお方なら、その価値もご理解してもらえそう……ですね」

●休憩
「お疲れ様ですっ」
 先行して土蜘蛛退治を行っていたメンバーにミネアが手を振った。
 少し開けた場所に広げた大きなゴザの上に採取班は輪になって座っている。輪の中央には器に盛られた果物の数々。赤、黄、紫と見た目も賑やかだ。横では七輪を扇を上下するナツキ。その上に置いた鉢からは甘い香りがいっぱいにひろがってくる。
「なになに、おいしそう!」
「熱を加えれば美味しいって聞いた。さっきすっぱかったから」
 茜の問いかけに、なんとしてでも美味しく食べてやる。そんなナツキの意地が半眼の瞳から見て取れる。
「疲れた時には甘いモノが一番ですよ。休憩してくださいね」
 汗をぬぐい輪に入り込んだリアンにミネアが皮を丁寧にむいた枇杷が差し出される。
「ありがとうございます。いいペースで退治できてますよ」
 五条にそう言い退治記録を蔵人に渡すと、リアンは枇杷に思いっきりかぶりついた。水分いっぱいの枇杷はかじりついただけで果汁がいっぱいに口から溢れて、思わずリアンはこぼさないようにと顔が前に出る。
「生き返りますねっ。食べやすいです」
「こういうの剥くの得意ですから」
 ミネアはにこにことして、琵琶の皮をさっと向くと縦に包丁を入れて半分に割ると、刃の根本をつかって大きな種をくりぬいた。
「枇杷は好評のようだね。ジャムももういいんじゃないかい?」
 ナツキとユリアが作っていたジャムの様子をちらりと見てシャーリーンは携帯食に入っていたパンを取り出すと、煮詰まったジャムをひと塗り。
「へえ、良い香りがする」
「あ、わかっちゃった? ふふふ、山で採れた山菜もブレンドしているのよ。お茶うけに最高!」
 ユリアは籠につめたいくつかの香草を手に改心の笑みを作った。自生する山菜を見つけて、それを組み合わせて味を調える。一朝一夕ではできないその技にシャーリーンは思わず目を輝かせた。
「この組み合わせかい? それならこっちの……」
「それもいいかも」
 ジャムづくり談義に花咲く下で、ナツキは忘れられた出来立てジャムのパンをこっそり様子を見に来ていたルンルンと二人で半分こ。
「おいしい」
「おいしい! こういう味懐かしくていいなあ」
 思わず目を閉じて呟いたルンルンの言葉にナツキは目をぱちくりとした。
「ルンルンも東方の血が混ざっているの? 私は少し混ざってる。だからこういうところに歪虚が巣食って、人々を困らせているの。他人事じゃない」
「私は最初の転移先がここで……」
 と言ったルンルンを押しつぶすようにして、五条がその上からナツキの手を取っていた。
「東方は獄炎は倒せましたが、まだまだ歪虚の跳梁は目に余る状態でございます。詩天はその中でもお家騒動とも絡み荒れる一方でした。それが先に決着がついたところなのでございます。今から復興の時! 荒れた田畑を元に戻すのも時間がかかります故、今年は歪虚を駆逐し、山の幸を金に換えるしかない状況なのでございます」
「五条さん……」
「なるほど、それで、随分な口上を述べていたのだな。役人として民を思う気持ちはよく分かった」
 蔵人が五条の前に立ち神妙に頷いた。「はやくどいて~」と言える空気がどんどん遠のき、ルンルンは自分の胸で窒息しそうになる。
「だが、こちらも依頼人の利益を損なうわけにはいかぬ。彼女も無辜の民を救うべく活動している身。利用する関係でなく、信頼し合う関係になってもらいたい」
 蔵人はそう言うと、リアンの書いた討伐状況とユリアの採取ポイントをまとめた地図を提示した。
「これらは将来の役にも立つだろう。そしてこれが終われば一日ほど我らでここの歪虚退治を協力を約束しようではないか」
「なんと……!」
 驚いて目を見開く五条の上で、シャーリーンはエア・スティーラーを軽く回してホルダーに収めて笑った。
「数の多さなら猟撃士の本領だね」
「ボロフグイの出番はまだまだありそうだ」
「ん! 歪虚倒すならお安いもんです!」
「困っている時はお互いさまってね」
 リアンは槍を構え、茜は手に着いた果実の汁をなめとりながら。ユリアは本業の通り、美しい舞を一つして、それに応えた。
「皆様、皆様……」
「決まった仕事をするだけが……ハンターではありません……からね」
 観智はくすりとほほ笑んだ。五条の顔は最初に見た時の様な理知に富んだ顔ではなく、今にも泣きだしそうであった。
「わたしも……やる……ょ」
 蚊の鳴くような声でルンルンがそう言って初めて、五条は窒息寸前の彼女から離れたのであった。
「ありがとうございます!!!!!」

●予備日に
「えっへっへ」
 軒並み山に潜んでいたであろう土蜘蛛をぶっ飛ばしきった茜は、いつも快活な笑顔ではあるがそれ以上の笑顔を見せながら、自らの利き手を開いては閉じと感触を確かめているようであった。
「茜がおかしい……蜘蛛の毒にでもかかった?」
「んーん。違うよ。やりきったなぁって」
 大暴れ。その形容に相応しい戦いぶりだった。土蜘蛛に向かって振りかぶる一撃一撃が、フルパワーだったのをナツキはふと思い出した。
 その時の大きな瞳に宿る炎を見たのは、きっと同じくらいの身長のナツキだからこそかもしれない。
「……そっか。茜は頑張った。多分、あれはその結果だと思う」
「あれ?」
 茜は初めて顔を上げて、ナツキの指さす方向を見た。
「これは思ったより、大歓迎の……ようですね」
 果物の詰まった籠を背負い、なれない肉体労働でうつむき加減だった観智もそれを見て思わず笑みがこぼれる。
 山村の人達だ。
 先頭には一足先に戻っていた五条が手を振っている。彼女がハンターが山の為、詩天の為と土蜘蛛退治を買って出てくれたこと。そしてそれが大きな成功を収めた事を伝えたのだろう。
「あんがとよーーっ」
「疲れたろーー。はよ、戻って来ーい。うめぇ飯用意してあっからよーーー」
 里の人々は大きく手を振っていた。
「勝って守り抜く……隊長。できましたよ」
 リアンも激しい戦いの生存者だ。あの時と違うのは、横に仲間達がいることだ。みんなで戦って、みんなでこうして喜び合える。
「えへへ」
 喜びをかみしめあう皆の中で茜もまた笑顔が止まらなかった。
 獄炎の時は。何一つ残らなかった。傭兵として戦い続けて。それでも止まらなくて。でも今日はやりきったんだ。
 手を振る村人の姿を並んで見ながら、ナツキと茜は拳同士を軽く重ねた。
「さぁ、里の人達と喜びを分かち合いましょ。喜びは倍に、悲しみは半分に。これが手を取り合うことの大きな意味なんだから」
 ユリアは颯爽と駆けだして、山を駆け下りたかと思うと、人々の海へと飛び込み華麗に舞った。途端に人々からも口笛やら手拍子やらが聞こえてくる。
「良かった。なんかみんな喜んでくれて」
 他人事のようにニコニコ見つめるミネアであったが、それをシャーリーンはくすりと笑うと思いっきり抱きしめた。
「ミネア殿は本当に不思議な子だね。本当にお人好しで……」
 お人好しだから。人に好かれる。不思議な魅力で引きつけて。考えられないつながりと結果を作っていく。
 本気で人のためになりたいと頑張るからこそ、ついぞ自分たちも頑張ってしまうのだろう。
「皆に慕われる人の良さが発揮されているようだな」
 蔵人もその頭をくしゃくしゃと撫でて微笑んだ。
 当の本人はまだよく理解していないあたりが、なんとも笑いを誘うのだ。
 困惑するミネアにルンルンは枇杷の葉を一枚差し出して、にっこり笑った。
「枇杷の花言葉はですね。温和と治癒。あなたに打ち明ける。なんですよ。きっと枇杷を通じて温かい心でみんなを癒してくれたのだと思います!」
 ルンルンはそう言うと、籠に入れた葉を一つかみ。符を紛れさせながら、ばっと初夏の夕暮れ空に撒いた。
「ジュッゲームリリカルクルクルマジカルっ。 ルンルン忍法煌めいて星の花弁たち☆」
 祝砲代わりに大きな光が飛び交う。
 人々の仲間達もそろってみんなでそれを見上げ、はらはらと香る琵琶に包まれながら歓声を上げた。

 枇杷はたくさん積むことができ、後日ピースホライズンを中心に西方各地にも詩天の地を知る一助となったのであった。

依頼結果

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MVP一覧

  • にゃんこはともだち
    ナツキka2481
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人ka5737
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプトka6255

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 海の戦士
    リアン・カーネイ(ka0267
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • にゃんこはともだち
    ナツキ(ka2481
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人(ka5737
    人間(蒼)|35才|男性|格闘士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 裡に宿せしは≪業炎≫
    里見 茜(ka6182
    鬼|13才|女性|格闘士
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ミネアに質問
ナツキ(ka2481
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/06/11 15:12:54
アイコン 果物狩り・土蜘蛛退治
シャーリーン・クリオール(ka0184
人間(リアルブルー)|22才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/06/12 02:37:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/07 08:12:35