一念発起の用心棒

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/06 12:00
完成日
2014/09/13 07:26

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ダンチョー! シュシュを帝国軍に入れてくんろ!」
 面会希望にやってきたシュシュ・アルミラ。色々内密に忙しいオズワルドであったが、縁あって応じてみれば第一声がこれであった。
 バルトアンデルス城では今日もあまり変わり映えのない日常が過ぎ去っていく。だが変化がないわけではない。これもそんな事件の一つだと言えるだろう。
 シュシュは嘗て帝国軍の軍事作戦を故意に妨害した罪で第一師団の下働きをしていたハンターだ。その出自は辺境部族の物で、帝国に移民してきてからという物、帝国嫌いを頑なに通してきた少女なのだが……。
「この類の唐突な展開には悲しい事に慣れっこだが……そいつはどういう心変わりだ?」
「シュシュ、こないだ開拓地に行って思っただよ。不平不満をただ溜め込んでくさっていてもなんも良い事なんかない。だからあの人たちは自ら行動して、現実を変えようと努力していただ。シュシュはただ文句を言ってるだけで、自分ではなんにもしてなかっただよ……」
 しょぼくれた様子を腕組み見下ろすオズワルド。それとなく椅子にかけるように促すと、いつものように茶と菓子を出してやる。
 オズワルドのお茶は美味しい、シュシュはそれを知っていた。それに毒なんか入っている筈もない、この老人は決して悪人ではない。そういった信頼がるからこそ、安心してお菓子に飛びつく事が出来る。口の周りを焼き菓子の粉で汚しながらシュシュは神妙な面持ちで告げた。
「多分、この世の中にはいろんな不幸があるだ。辛い事、悲しい事、我慢している人がいっぱいいるだよ。そしてそれを変えようと頑張っている人がいる」
 開拓地の仕事は決して容易くはない。とても辛くて苦しい日々が続く。しかし彼らはそれに望んで挑んでいく。
 誰かにやれと言われたから、それもあるだろう。だが本質はそうではない。自分自身の意志で何かを変えようと願うからこそ、困難な道を切り開く事が出来る。
「帝国軍は志願さえすれば誰でも兵士になれると聞いただ。なら、シュシュだって兵士になれるべ?」
「兵士になってどーすンだ。ハンターの方が自由気ままでおまえさんには合ってると思うがね」
「武勲さえあげれば、帝国では誰でも偉くなるチャンスがあると聞いただよ。なら、シュシュもダンチョーみたいに偉くなれる筈だべ」
「偉くなってどーすンだ」
「シュシュ、偉くなって、ダンチョーになる。ダンチョーになって、自分の町欲しい。シダンチョーになれば自分の町もらえるんだべ? そしたらシュシュ、移民してきた人達が仲良く暮らせる、新しい故郷を作りたい」
 不安を押し殺すようにぐっと拳を握り締め、少女は顔を上げた。オズワルドはその幼い眼差しを険しい表情で見つめ返す。
「本気で言ってんのか? ただのガキに叶えられる程小さい夢じゃねェぞ」
「嫌な事や苦しい事をただ我慢して嘆いていても何も変わらないだよ。どうせ同じように苦しむのなら、何かを変える為に苦しみたいから……」
 へにょっと眉毛を垂らし、困ったような様子で少女は首を傾げる。
「……ダンチョー、むりか? シュシュじゃむりか?」
「あー、まあ無理だな」
 一刀両断され唖然とするシュシュ。細かく振動しながら落ち込んでいると、オズワルドは葉巻を取り出し低く笑う。
「今のままじゃ無理だ。兵士ってのは辛ェぞ? 望まない仕事をしなきゃならん時もある。ちっとも立派でもなんでもねェ。皆生身の人間で、そのままで組織を作る。どいつもこいつも一癖も二癖もある、体温のある人間だ。そいつらの中で自分を通し、尊重し、成長し、理想を叶える……とても生半可な覚悟でやれる事じゃねェよ」
「やっぱり難しいか……シュシュじゃだめか……」
「だがまあ……そうだな。何かを変えようと、帝国を変えようと、帝国軍の中で上を目指す奴らは確かに居る。うちの副師団長のシグルドとかな。そして良くも悪くもヴィルヘルミナはそういうアホに寛容だ。おまえさんにも、チャンスはあるかもしれねェな?」
 ニっと笑い、オズワルドは机から羊皮紙を持ってくる。古びた形式の契約書類で、第一師団の門を叩く者に手渡される物だ。
「兵士、やってみるか?」
「ダンチョー……」
「なんだ?」
「これ、どうやって書けばいいのかさっぱりわかんないだよ……」
 苦笑を浮かべ、冷や汗を流すシュシュの頭をポンポンと撫でるオズワルド。こうしてシュシュは帝国兵に――。


 ――なっていなかった。数日後、シュシュは帝国軍の下級兵士が着用する黒い軍服を纏い、バルトアンデルス城下町を歩いていた。
「えーと、帝国軍の兵士は四種類。威力偵察を得意とする“猟兵”、重鎧で防御と突破の要となる“突撃兵”……銃の扱いに特化した“銃衛兵”、魔導デバイスを使う“錬魔兵”……」
 オズワルドから貰った基本的な教練本を読みつつ、シュシュはふらふらと道端を歩いていた。その装備は猟兵と呼ばれるタイプの兵士に支給されるもので、軽装で首回りや上着の裾などに毛皮があしらってある、辺境部族らしさを残した軍服だ。これは結構違和感なく着られたのだが、実はまだ正式に兵士になったわけではなかった。
 帝国軍は十の師団の統合体。そして一つ一つの師団が別個の個性を持つ。兵士の採用方法に至っても師団ごとに基準は異なる。
 第一師団は帝都防衛と首都機能の維持を主任務とする、言わば治安維持部隊だ。その採用には幾つかの試験がある。
 まず筆記試験。これはあっさり落ちた。だが戦闘能力さえ示せれば、下っ端からでも入団の希望は残されている。アホでも腕っぷしが強ければいいのだ。
 そんなシュシュに与えられた試験は、ハンターと協力して歪虚を倒すという物だった。オズワルドが何を考えて部外者であるハンターを巻き込んだのかシュシュにはよくわからなかったが、ハンターとはこれまでも結構仲良くやってきたので異論はない。
「そういえばダンチョー、なんで盾をくれたんだべ?」
 シュシュの右腕には小型の盾、バックラーが装備されていた。
 帝国軍の兵士は皆盾を持つ文化がある。例え機導師だろうがなんだろうが盾は必須だ。これは兵士に生き延びて欲しいという願いが籠っているのだが、シュシュにはちょっと邪魔だった。
「まあいいべ、ちゃちゃっと任務に当たるべ! えっと、待ち合わせ場所は地図通りに行けばいいからぁ……んっとぉ……」
 そうやって地図を見ている間にふらふらと進路変更し、街頭に頭をぶつける。どうせならヘルメットを支給してくれればいいのにと、早速不満を漏らすシュシュであった。

リプレイ本文

「いや~、それにしても暇っすねぇ」
「ホントだね。歪虚が出るなんて信じられないくらいだよ」
 神楽(ka2032)とオキクルミ(ka1947)の言う通り、街道は実に平和だ。帝都から第二師団都市を経て辺境ノアーラ・クンタウまで続く街道は帝国領内で最も手が行き届いている物の一つ。人通りも多く、定期的に見張りの兵士の姿を見る事も出来た。
「お仕事ごくろうさまで~す。ほら、シュシュ君も挨拶しないと。兵士になるんだったら先輩さんでしょ?」
 兵士に手を振るオキクルミだが、シュシュはその陰で縮こまっていた。
「ダメっすね~、ダメダメっす。強きに従い弱きを虐げる賢い生き方をする為には、もっとこう遜らないと!」
「シュシュそんな事しないだよ」
 神楽の言葉にほっぺたを膨らませるシュシュ。エルダナール・ヘルヤンウェ(ka2517)。口元に手をやり小さく微笑む。
「これが依頼という形でなければ、もっと気楽だったでしょうにね」
「……俺の目には既に十分気楽に見えるがな」
 片目を瞑りシュシュ達のやりとりを眺めるルイ・シュヴァリエ(ka1106)。今回の依頼は帝国軍の採用試験も兼ねていると聞いていたのだが。
「この仕事はシュシュ様の採用試験でもあった筈です。あまり気を緩めるのは感心しませんよ」
 ルイの気持ちを代弁するようにユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が切り出すが、シュシュはジト目で唇を尖らせる。
「だって誰も何も困ってる感じないだよ。敵もいないし。平和そのものだべ」
「現状は確かにそうですが……」
 そう、本当に街道はのどかなのだ。歪虚の目撃地点までまだ距離がある……それも理由の一つだろうが。
「みなさ~ん! そろそろ休憩どうっすか~?」
 馬車の外から聞こえる声に全員が顔を上げた。見れば自前の馬に跨り並走するエステラ・クルース(ka1104)が笑顔で手を振っていた。
 街道の途中、道外れの草原に馬車を停め一行は休憩に入る事にした。ここまで数時間馬車に縮こまっていたせいで、何もしていなくても疲れはある。
「走りやすい道でよかったね、ソフィア。少しここでいい子で待っててね」
 愛馬を木陰に残し、エステラは仲間達へと歩み寄る。取り出したランチボックスにはサンドイッチが詰められていた。
「サンドイッチ作ってみたっすよ、どうっすか?」
「そうか、なら頂こう」
「今回は自信作だよ、兄貴! 皆さんもお一つ如何っすか~?」
 最初にルイに渡した後、集まってきた仲間にサンドイッチを配るエステラ。皆思い思いに休息を楽しんでいる。
「……ん、美味い。腕を上げたか」
「はあ……これで命の水があれば最高なのですが……」
「何ですか、その謎の道具は?」
「まだ日も高いので内緒ですわ!」
 頬に手を当て溜息を零すエルダナール。何か不健全な気配を感じ取ったのか、ユーリがじっとりした視線を向ける。
「なんかもう完全にピクニックの様相を成しつつあるね~」
「そういえば試験……なんすよね? 帝国兵さんかぁ。この国……好きっすか?」
 幸せそうにサンドイッチを頬張るオキクルミの隣に腰掛けエステラが問うと、シュシュは微妙な表情を浮かべ。
「あんま好きくないだよ。けどシュシュ、シダンチョーになって、自分の町欲しいだ」
 次の瞬間、神楽は口に含んでいたパンを吹き出しながら目を見開き。
「正気っすか!? 師団って十個しかないんすよ! お前みたいなアホがなれるわけねーっす! つーか帝国が嫌いなんじゃないんすか!?」
「帝国は嫌いだけんど、文句言ってても始まらないべ。嫌な事は自分で変える、この間そう学んだだよ」
「いやいや、無理無理無理無理絶対む……ぐほっ!?」
 オキクルミの手刀が神楽の後頭部を打ち、目玉が飛び出る。エステラは苦笑を浮かべつつ何度も頷き。
「嫌な事は自分で変える……うん、良い目標っすね。確かに、立ち止まっていても良い事はなかったっす」
 腕を組んだまま、視線だけをエステラへ向けるルイ。
「でも、おっきな事をしたいなら、一人じゃダメっすよ?」
「ただ兵士になるだけならばともかく、師団長を目指すというのなら道は険しい物になるでしょう。高い志には高い障害がつきものですから」
 ユーリの話をきょとんとした顔で聞いているシュシュ。ちゃんとわかっているのか少し不安になる。
「シュシュ様に必要なのは志を成し遂げるという強い意志と……後は人望でしょうね」
「ジンボー? どうすればいいだ?」
「言葉で相手の信頼を得る方法もありますが……シュシュ様の場合、行動で示すのが良いでしょう。だからこそ、目の前の仕事を誠実にこなさなければなりません」
 師団長になるのなら、当然仲間の信頼を得なければならない。ユーリの言う通り、賢くないシュシュは行動で示して行くしかないだろう。
「その為には、自分が変わっていく事も必要ですよ」
 話が難しかったのか首を傾げるシュシュ。この少女に何かを教えるには手間暇がかかりそうだ。
「……成程。どうやら単なる街道護衛と採用試験、ではなさそうだな」
 ふっと笑みを浮かべるルイ。そうしてアホ面のシュシュに歩み寄り腰を落とした。
「その盾はどうした?」
「う? ダンチョーがずっとつけとけって」
「不満か?」
「ふまんっていうか、よく意味がわかんないだ」
「折角休憩中なんだし、ルイ兄に稽古つけてもらったらどうっすか?」
 にこりと笑うエステラ。オキクルミも立ち上がり挙手する。
「そういう事なら盾の使い方講座しよっか! ボクとシュシュ君、戦闘スタイル似てるし、力になれると思うよ!」
 こうしてルイとオキクルミによる簡単な戦闘講座が始まった。神楽は頭の後ろで手を組み、草原に寝転ぶ。
「無駄な努力っすねぇ~……」
「無駄になるかどうかはまだわかりませんわね。良くも悪くも……ですけれども」
 複雑な視線でシュシュを捉えるエルダナール。瞳に映るシュシュは無邪気に一生懸命に教えを身に着けようとしている。
「……ルイ兄、私も混ぜて!」
「エステラ……?」
「何か見てたら私も身体動かしたい気分になってきたの!」
「確かに食後の運動には丁度良いかもしれませんね。ついでに有事の動き方も打ち合わせておきましょうか」
 エステラに続き立ち上がったユーリが刀を抜く。それぞれの動き方や合図等を決めつつ、模擬戦で軽く汗を流すのであった。

「お仕事お疲れさまっす! ……ほら、シュシュさんも!」
「君ってボク達ハンター以外には随分引っ込み思案なんだね?」
 再び走り出した馬車は帝国兵ともすれ違うが、シュシュが挨拶をする様子はない。エステラとオキクルミの影に隠れ、ひょっこり顔だけ覗かせている。
「あんまり溶け込めてないっすか?」
「そんな調子では師団長として信頼を集める事など出来ませんよ」
 苦笑を浮かべるエステラ。ユーリはため息交じりに呟き……と、そこへ静かに琴の音が響き渡った。エルダナールの演奏だ。
「穏やかな街道の時間に即興の詩は如何でしょう? 今なら……そうですわね。街道を警護する兵隊さんの詩がなうでやんぐな感じね」
 浅黒くしかししなやかな指先が奏でる音色。平和で、そしてどこか物悲しい詩の響き。
「誰に褒められるわけでもなくそこに立ち、人々を守る……そんな忍耐の居る兵隊さん。それってそんなに良い物なのかしらね?」
「シュシュ、我慢できなそう……」
「吟遊詩人が紡ぐ英雄的な兵隊さんなんてほんの一握りで、それ以外の兵隊さんは皆詩にも残らず消え行くばかり……。そんな兵隊さんと親しくなればなる程、信頼を深めれば深める程、痛みも悲しみも深まっていく……。いつか消えゆく命、自分はその中の一つではないと、そう言えるのですか?」
 兵士とはそういう物だ。多くは英雄にもなれずふとした拍子に命を落とす。大きな夢も理想も、その殆どはまるで手も届かず消えて行くさだめにある。
「シュシュ様は年若く、無限の可能性に満ち溢れています。あなた様の選んだその道は、本当に唯一無二の正解なのでしょうか?」
 目を丸くし、思案し、シュシュが答えを返そうとしたその時だった。
「奥の方が騒がしい……人が逃げてきてる!」
 馬に跨ったエステラの声が響いた。見れば確かに進行方向から走ってくる人々の姿が見えた。話を聞くまでもなく、歪虚が現れたのは明白だった。



 狼ゾンビは五体確認出来た。どうやら人々を逃がす為、最寄りの兵士が残って戦っているようだった。
 しかし四人の兵士はいずれも非覚醒者であり、一人は深手を負って動けない。最も迅速に駆けつける事が出来たエステラが降り立った時には既に街道は血に染まっていた。
「ソフィアはここで待ってて! 大丈夫……絶対守るからね」
 馬を撫で、剣を抜いて走り出す。兵士に襲い掛かろうとしていた敵を切り裂き、素早く身を翻した。
「あたしが相手っすよ!」
 新たな脅威に狼達が狙いを定める。次々に飛びかかる牙をかわすエステラだが、同時に仕掛けられ全てに対処する事は出来ない。
 噛みつかれた……そう思った次の瞬間、光を帯びた矢が狼を貫いた。命中を確認するエルダナールを追い抜き、ユーリとルイが前に出る。
「……遅い!」
 抜刀と同時に鋭く太刀を振り抜き狼を切り裂くユーリ。ルイも振り上げた大剣を一気に叩き下ろし、狼の首を両断した。
「……敵発見。対応する」
「さっすが兄貴!」
「まだいる可能性もある、用心しろ」
 ルイの言う通り周囲からは新たに四体の狼が接近しつつあった。その内二体は帝国兵達を狙っている。
「やらせないよ! シュシュ君!」
 オキクルミと並んで盾を構えるシュシュ。二人は襲い掛かる狼から兵士を守って攻撃を受ける。
「少し前で受けて半歩下がりながら流した後、押して崩す感じに!」
 盾にぶつかって怯んだ狼に斧を振り下ろす二人。その動きは見事にシンクロしている。
「シュシュ君、戦闘に関しては物覚えがいいね」
 その後も二人は盾を活用し有利に戦いを進める。その様子にルイも満足そうに頷いた。
「後は自分に合った使い方は、自分で見つけるといい」
「ルイ兄!」
 エステラの声に振り返りながら大剣で犬を薙ぎ払うルイ。吹っ飛んだ所をエステラが追撃、剣を突き刺して止めとした。
 一旦距離を取る様子を確認しユーリは弓に持ち替え攻撃。更に神楽も銃を構え引き金を引いた。
「遠ざかってくれる分には大歓迎っすよ」
 エルダナールは銃を握り、敵の回避方向を予測して牽制を行う。これによりユーリと神楽の攻撃は直撃、あっという間に二体の狼が消滅した。
「こんなものか……」
 頭上でくるりと大剣を回し背に戻すルイ。狼歪虚はやはり大した相手ではなく、ハンター達は特に被害を受ける事もなく殲滅に成功するのであった。



 帝国兵は礼を言うと負傷した仲間を担いで撤退する。応急処置は施したが、きちんとした治療が必要だった。
「何も声をかけなくて良かったのですか?」
 ユーリの言葉にばつの悪そうな様子のシュシュ。ユーリは首を横に振り。
「確かに言葉より行動でとは言いましたが、やはり言葉があった方が良い事もあります。心配だったのでしょう?」
「それは……」
 エルダナールはそんなシュシュに歩み寄り、困ったように笑う。
「わたくしは馬車でシュシュ様に問いましたわね。兵隊さんなんて楽しいものじゃない、辛い事の方が多いでしょう。彼もどうなるか……いいえ。どうあれわたくしにとってそれは死と同義。夢見て死ぬのはただのおバカさんですわあ」
「バカ……なのかな。何かを守りたいって願って、死んでいく人達は……」
「バカっすね」
 頭の後ろで手を組んだ神楽が呟く。
「上に立つって事は切り捨てられる側から切り捨てる側に回る事っす。十人瀕死の病人がいて五人分しか薬がなかったらお前が殺す五人を選ぶっす。嫌いな奴二人と自分の恋人のどっちかしか助けられない時嫌いな奴を選ばなきゃいけねっす。あんな見知らぬ兵士一人に同情してたらキリねぇっすよ」
 むっとした表情のシュシュ。しかし神楽は逆に笑って見せる。
「死ぬ程努力して嫌いな奴の靴の裏を舐めて自分の町を手に入れても今度は治めて守らなきゃいけない。頑張って辛い事を乗り越えても新しい辛い事が来るっす! なら最初から辛いから逃げた方が楽で賢いっす!」
「確かにそうかもしれない。だけんど、辛いのは今も同じだ。逃げたって辛いんだ。だったら後悔したくない。自分で選んだ事なら、辛くても受け入れられると思うから……」
「決して容易い道ではありませんよ?」
 ユーリの声に頷くシュシュ。エステラは優しく微笑み、シュシュの頭を軽く撫でた。
「ならまず自分に素直にならないとね。帝国の人でも、良い人も居たんすよね? ……初めから相手を悪い人だと警戒しちゃ駄目っすよ」
「まぁ、軍隊ってのは嫌われ者だよね! でもボクは好きだ。彼らが頑張ってるのを知ってる。助けてもらったこともある。政治とかは知ったこっちゃないけど、何処かの誰かの為に命がけで一番戦っているのが彼らなのは間違いないんだからさ」
 白い歯を見せ笑うオキクルミ。シュシュは頷き、掌を見つめる。
「これが正しいのか、シュシュにはわからないだよ。夢半ばで死ぬかもしんない。それでも、やっと自分で見つけた道だから」
 目を瞑りエルダナールは口元を扇子で隠すと小さく頷いた。
「貴女様の“萌え”……しかと魅せて頂きましたわ」
「まずは笑顔っす、むっすり駄目っす! 幸せにしたい人達が居るなら、まず自分を不幸にしちゃいけないっすよ!」
 シュシュの頬を手動で持ち上げ笑わせるエステル。そんな風に人を導く立場になった妹分をルイは感慨深そうに見つめていた。
「盾と軍って言うのは似てるよね。重いし、嵩張るし、身軽に動ける人なら邪魔にしかならない。けど逃げられないなら、後ろに誰かが居るならこれほど頼りになるものも無いんだよ?」
 オキクルミはシュシュの盾を指差し、自らの盾も掲げて見せる。
「自分ひとりなら走って逃げてもいい。でも、これからはそうじゃないんでしょ?」
「……うん!」
 ようやく笑顔を作ったシュシュ。神楽は背を向けながら溜息を一つ。
「しょうがないから応援はしてやるっすよ。タダだし。それに気が向いたら手伝ってやってもいいっすよ」
 全員が驚いた様子で視線を集中させる。神楽は慌てて跳び退き。
「先の見えないアホは嫌いっすけど、壁があるのを知っててそれでも挑むバカは嫌いじゃねっす」
「急にどうしただ? サンドイッチに毒が入ってたの?」
「「 失礼っすね!? 」」
 似た口調の二人の声が重なる。エルダナールは楽しげに頷きつつ、酒瓶を取り出し言った。
「それでは帰りましょうか。もうお仕事も終わりですから、皆様もご一緒に如何?」
「まさか命の水って……」
 冷や汗を流すユーリ。こうして街道の安全は守られ、シュシュはまた一歩夢に向かって前進するのであった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 答の継承者
    オキクルミka1947
  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人

  • エステラ・クルース(ka1104
    人間(紅)|17才|女性|疾影士

  • ルイ・シュヴァリエ(ka1106
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 豊楽の詩人
    エルダナール・ヘルヤンウェ(ka2517
    エルフ|31才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 街道警邏相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/09/02 22:16:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/01 23:18:17