• 龍奏

【龍奏】ヒトと龍の宴~親睦を深める為に~

マスター:瑞木雫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/06/24 19:00
完成日
2016/07/07 23:27

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

      
                  *********
         
           西方から遠来した勇者達は、長く続いた北伐に終止符を打つ。
               かつての赤龍、強欲王・メイルストロム。
          ――彼の肉体は光の粒子となり、世界に還っていったのだった――

                  *********

 青龍の眷属たちは人間を認めた。
 それは今後国交が友好的に回復する証でもあり、ヒトと龍が共に在る道の実現を意味する。

 斯くして――巨大な白亜の結晶神殿を中心とする宗教都市“龍園”ヴリトラルカでは今夜、西方から遠来した勇者達を大勢招いて宴を開き、賑わっていた。
 ヒトも龍も肩を並べ楽しそうに笑い合うその中には、 以前龍園に来訪した際、人に敵意を向けていた龍や眷属のヒトの姿もあった。けれどそんな彼らも考えを改め直してくれたのだ。

「……本当に良かった。ヒトと龍が、手を取りあえて」

 ジャンルカ・アルベローニ(kz0164)の弟分・カークが龍園の様子を見渡しながら深く噛み締め実感すると、青のリザードマンが『グォ!』と鳴きながら返事をした。するとカークは、屈託のない笑顔を浮かべる。

「さあ、今日は飲むぞー!」
「ダメよ。アンタは下戸なんだから程々にしなさい」
「……キアラ!? なんだようるせーな。めでたい時ぐらい別に良いじゃんか」
「ダメったらダメ。2杯目からはノンアルコールね」
「はぁ!?」

 同じダウンタウンの精鋭部隊でジャンルカの妹分であるキアラとは、いつもこんな感じだ。
 ずっと一緒に居る幼馴染だからお互いの事をよく理解しているし、キアラは何かとカークの世話を焼きたがる。本人達は友情だと言い張るが、二人から漂う雰囲気はまるで夫妻のようで、青のリザードマンや飛龍達にもそう感じるらしく微笑ましそうに見守っていた。
 そしていつもならこんな時、彼らの兄貴分であるジャンルカが「もう付き合っちゃえよ」と割り込んで冷やかしに来る筈なのだが――。

「あれ、そういえば兄さん何処行ったの? 見当たらないけど……」
「兄さんなら青龍に聞きたい事があるって言って、神殿の中に行っちまったきりだ」
「あぁ……そうだったの」

 キアラが納得する一方、カークはジャンルカを気に掛けるように神殿を見つめていた。
 ジャンルカにとっては未だ全てが終わった訳ではないのだ。

                  *********

 ――白亜の結晶神殿の最奥。
 そこで体を丸めて休んでいる青龍は、言葉を紡いだ。

『――ディストルツィオーネ、か。彼が自身をそう呼称する迄は、確かに私の眷属。誰よりも深い愛をヒトに注ぐ守護龍だった』

 聴いたジャンルカは眉を潜めて息を飲む。
 威力偵察の最中に遭遇した高位の強欲<ガイツ>が言っていた事は実感味を増した。
 300年以上前に、かつて人々が名誉の為に横行していた歴史の一部 “龍狩り”――
 赤龍の守護者だったディストルツィオーネの親友もまた、“龍狩り”によって残酷な死を与えられたというのは現実に起きたことだった。
 そしてディストルツィオーネは何百年もの間<世界>を恨み続けていたというのも、事実なのである。
 龍が生まれ世界に還っていくのを青龍は今迄数え切れぬ程見てきたが、ディストルツィオーネの豹変した脅威は青龍の記憶にも刻まれていた。

『彼に会ったというなら言うまでもないが――彼にはもう、人に対する嘗ての愛情や寛容の心は存在せぬ。在るのは世界に対する憎しみと恨み。
 そうして彼は、大殺戮を繰り返してきた悪竜なのだ。……彼に殺された龍園の者達も、少なくは無い。必ず倒さねばならない』

 そう、倒さねばならない。
 これまでも世界への復讐を掲げながら歪虚として目的を遂行してきた強欲であるだろう。
 しかしこの北伐は――北伐のひとまずの終結は、ディストルツィオーネにとって大きな転機であり刺激となった筈だ。
 殺戮と破壊を好むディストルツィオーネは近い内に次の一手を用意してくるだろう。
 そうしてジャンルカは記憶の片隅に残るディストルツィオーネを想い出しながら、彼が我が王と慕っていたスフィーダの事も思い出す。

(――あの野郎も絶対にぶっ殺す……)

 ディストルツィオーネもスフィーダも、必ずまた、自分の前に現れる気がしていた。
 確証がある訳ではない――けれど、ダウンタウンの狂犬と呼ばれた男の直感が激しく警鐘を鳴らしていたのだった。

                   *********

 その頃……。

「――我が傲慢の軍が撤退した途端にコレか。狂気が突如現れた挙句、無差別に襲うなんて、どうなってやがる……?
 それに彼のメイルストロム王の肉体も、まさか人類にトドメを刺されるとはな……………」

 スフィーダは一見冷静なようにも見えるが、内心ではひどく苛立ちを覚えていた。
 自身の見立てが甘かったことへの苛立ちだ。
 だが“面白い”とも感じている強欲な微笑みを浮かばせる。

「――行くぞ、ディストルツィオーネ。“星の傷跡”へ」
「……!」

 スフィーダ同様、まさか本当に人類軍が勝利するとは思ってもみず――最愛の親友が慕っていた赤龍――メイルストロム王の肉体を傍で守ってやれなかった事を悔いていたディストルツィオーネは顔を上げる。
 そしてスフィーダの背についていくように追い掛けた。ディストルツィオーネが居た場所には、空になったクッキーの包みが広がっていた。

                  *********

                全てはまだ、終わった訳ではない。
             けれど今はヒトと龍の勝利と絆に、乾杯しよう。

                  *********

リプレイ本文


 ハンター達は青龍との謁見を望んだ。
 長い北伐を終えた彼らの胸には、それぞれの想いを秘めていたのだ。

 ――例えば、強欲王のこと。
「初めまして青龍、私はユーリ・ヴァレンティヌスと申します。私は、かの強欲王……いえ、赤龍の肉体を仲間達と共に討ちました」
『星を守る守護者たる六大龍が歪虚となる事。それは私であれば耐えがたい屈辱。赤龍もまた、同じ想いであった筈。その苦しみからよくぞ救ってくれた……感謝している、西方の勇者・ユーリよ』
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、知りたかった。
 彼を討った自分達を青龍はどのように思っているのか、赤龍はどの様な龍だったのか。
『彼は真面目な武人気質で、我ら六大龍の中でも守護者として歪虚と闘う事に熱心な龍だった。その一方で人には積極的な干渉を行わなかった。ひょっとすると赤龍は、人との付き合い方に答えを見出せず、拒絶し、距離を置いていたのかもしれぬな…』
「赤龍は、不器用な方だったのですね」
 そしてどうして、赤龍は強欲王と成り果ててしまったのかを。
『赤龍が強欲王となってしまった理由は――私にも、わからぬ……。
 だがユーリよ。赤龍はヒトを恨む龍ではない。彼は不器用だ。そして、真面目すぎた。
 それゆえ彼はずっと誰より戦い続けてきたのだ。その意味が、理由が、何故だか分かるか?』
 ユーリは息を飲んだ。
 赤龍が戦い続けてきた理由が、分かったような気がしたから。
「私の剣は、赤龍の肉体が歪虚王の一柱ではなく龍の王として誇りある最期を遂げる為、永く続いた悲しみの連鎖を終わらせる為の――力となれたでしょうか」
『無論だ』
 ――世界を救いたかった――
 赤龍は赤龍なりのやり方で世界を守る龍だった事を想い知り、ユーリは。
「この地に散り眠る龍達の魂が少しでも報われ、救われる……私の大切な人達が平穏に過ごせる世界が作れる事に繋がればと思っています。これが私の考えであり、願いです」
『……ああ』
 蒼き刀身の剣を掲げながら、青龍に誓いを立てる。
 世界の平穏の為――
 この剣を再び、振るうと。

 ――そして、
「私も、ディストルツィオーネを滅ぼすと決めたわ」
 コントラルト(ka4753)は決心していた。
 先程謁見していたジャンルカの傍で、悪竜の過去を聴いた。その上で。
「贖罪や彼の為とは言わない。でも、誰かが止めないといけないなら私達がそれを止めるべきだわ。
 私達が彼を狂わせてしまったのだから。その罪を背負っていくべきだと思うわ。
 そして、謝りきれる事ではないけれど……。
 ごめんなさい。
 私達が貴方の大切な眷属を狂わせ、その命を奪う原因を作ってしまったこと」
『気にせずとも構わない。
 龍は云わば世界の為に生まれ、世界の為に死ぬのも宿命だと言えるのだから。
 だが――。
 頼んでも良いのか。
 ディストルツィオーネの事を』
 コントラルトが頷くと、青龍は安心したように目を伏せた。

 ――久延毘 大二郎(ka1771)も、古代から長い時を生きてきたという青龍に訊ねたい事があった。
 それは飽くなき探究者であり、考古学者としての問いである。
「私はこの世界の全てを解き明かす事を本懐としている。だがそれを一人で成し得るのは難しい事も承知している。だから……話して頂けないだろうか?
 王国歴という歴が使われる前――この世界には一体何があったのだ? 文字の森にあった文献で、古代にはクリムゾンウェストからリアルブルーへの転移者も居た、と言う記述を見たが……それは真実なのか?」
『申し訳無いが、わからぬ。
 防衛していたこのリグ・サンガマ内の事であればその時代の事も知っているが、その領域より外の事については精通していなくてな……。ただクリムゾンウェストからリアルブルーへの転移者が居たというのは真実で間違いない』
「断言できるのか?」
『うむ、断言しよう』
 青龍はリグ・サンガマに腰を据えて防衛する精霊である上、人よりも何倍も生きる為、人の文明は一時の夢のように感じていた。ゆえに人の歴史に詳しい訳では無かったが――過去の転移について、大二郎は確証を得るだろう。

 和泉 澪(ka4070)は持参した盃にお酒を注ぎ、共に戦って守ってくれた事への感謝と畏敬の念を抱きながら捧げた。
「私の祖国では、神様にお酒をお供えするんですが、いかがでしょうか……?」
『神、か。私は精霊であってそのような存在とは異なるが、そう呼ばれる事もある――ありがたく頂こう』
 龍園において「龍神」として神格化されていた青龍は、神らしい振る舞いを人々に求められ続けていたらしい。彼らの拠り所となりながら長い年月を生きてきた青龍は、穏やかな眸で澪を見つめていた。

 そしてそんな青龍と会える事がとても楽しみだったから。
 神殿の中で体を休めている青龍を一目見たリラ(ka5679)の胸は嬉しさがこみ上げるけれど、同じ位、痛みも覚えていた。
「私は龍の方々に憧れます。
 強くて、誇り高くて、共に戦ってくれた時には、感動してしまいました」
 数百年も昔に一部の人々によって起こされた“龍狩り”の歴史を責める事なく、寄り添ってくれているから。
 どうして龍狩りが起きてしまったのか、その切欠は青龍もよく分かっていないらしい。
 けれど過去に人類が龍を傷付けてしまった事実には変わりなく――
 だから、リラは固く決心する。
「まだ壁はあると思います、
 だって新しいスタートラインに立ったばかりなのですから。
 ――信じて貰える様に力を尽くしていきたいです」
 そんな彼女に、青龍は優しく告げた。
『お前達は十分我ら龍に示してくれた。しかし喜ばしく思うぞ、ヒトと龍が共に在れるのなら』
「……っ、……はい」
 まごうことなき青龍の愛を、ひしひしと感じる事に。リラは感謝しながら、深く頷く。

 ――それから青龍に、綺麗な花を。
「本当は青い花をご用意できたら良かったのですが……。でも、白い花も似合うかと思ってご用意いたしました。花は心を和らげると言われていますので…少しでも貴方様の御心が安らぎますように」
 シャロン=フェアトラークス(ka5343)は、白花のブーケを青龍に贈った。
『ありがとう』
 花の香りに癒されて、心を落ち着かせる青龍。
 その様子を見て少しでも安らぎになれたなら幸いと――小さく微笑みを浮かべた。

 ――そうして皆がお礼を告げて神殿を後にした、その時に。
「妾は龍が好きでの…メイルストロムも同様に、であった」
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)はぽつりと零しながら語り掛ける。
「――心を腐らせる程の絶望…を、あの者は見たのじゃろうか…。
 だとすれば、それ程の絶望を与えうる我等の想いを、おんし等は受け止めてくれよるのじゃろうか?
 妾達は、心よりおんしら…龍達を、龍の愛子達を、想うて良いのじゃろうか…
 我等人の想いは、おんし等の重荷にはならぬじゃろうか?」
『私は世界の一部たる人を否定はしない。
 重荷と思うこともない』
「なら妾は……。
 おんし等を傷つける者が現れると言うのなれば、妾は許しはせぬよ。
 妾の持てる全てを持って、愛しきおんし等の敵を灰燼と為そうて…のう」
 青龍は蜜鈴の言葉を聴くと『人間は不思議だな』と何処か嬉しそうに、微笑んでいたのだった。



「今後の事とか難しい話は今日は無し。
 飲んで食って騒いで。明日から難しいことを考えるために、今日は頭からっぽにした方がいいのさ!」
 レベッカ・アマデーオ(ka1963)は場の空気を温めながら、周りの人と、龍と、乾杯していた。

 シャロンも祖父から御伽噺と聞いて居た青き龍達を前に、密かに喜びを感じている。

 ――食べて飲んで、歌って、踊って。人と龍の宴は楽しく盛り上がっていた――

「さあさあ、なんだかんだで俺の料理を味わって貰ってなかったからね!」
 爽やかな笑顔を振りまく藤堂研司(ka0569)が真心籠めて作った数々の絶品メニューの中に、不穏な影がひとつ。
「ちょ、ちょっと待ってください研司さん! これってもしや朱鍋なんじゃ……」
「ああ、朱鍋だよ! それも本場をリスペクトした完全再現だぜッ!」
「嘘でしょ!?」
『×××!』
『○×△#%!?』
 ダウンタウン名物(?)の朱鍋とは――打ち上げと言えばコレ、と以前にジャンルカが研司に紹介した美味しい激辛鍋料理のことである。
 斯くして初体験だったリザードマン達は悶絶して小さく円を描きながら走り回っている。
「だ、誰かリザードマンさん達に水を…! って、兄さん何笑ってるんですか!」
 カークは腹を抱えて笑っているジャンルカに、アンタは酷い人だよッと文句を垂れた。
「しょうがないのう」
 すると蜜鈴がころりと笑いつつ、ピュアウォーターで酒を水に変えてみせる。
「ほれ、飲ませてやりよるのじゃろう」
「あっ、すみませんありがとうございます……っ」
 そうして蜜鈴は朱鍋の辛さから飛龍を救出するカークを見届けながら、隣のジャンルカに視線を遣った。
「ジャンは斯様な見目で在ると言うに、随分と慕われて居るのじゃのう…」
「カーク達のことか? 自分で言うのもなんだが、ダウンタウンでは結構恐れられてる筈なんだけどなぁ。あんな風に好き放題言いやがる」
「それもまた慕われている証じゃて。
 研磨されたるは力のみに非ず。輝かしきは心迄…か…ふふ、良き家族と共に育ちし想いじゃの」
「……やめてくれよ、恥ずかしいじゃねえか」
 ジャンルカが少し照れると、蜜鈴はからかうように悪戯っぽく笑った。
 その傍でシャロンが物珍しそうに首を傾げた。
「ダウンタウンではあの辛い鍋が名物なのですね」
「名物っつーか、裏メニューっつーかな?」
「ふふ。同盟のダウンタウン――資料を通してでしか聞いた事が無かったのですが、きっと、賑やかで楽しい街なんでしょうね」
「へぇ…、お嬢さんはダウンタウンに興味があるのか?」
 ジャンルカは、シャロンから漂う上品さで育ちの良さを見抜き、貴族のお嬢様である事を見通していた。
 治安が良いとは呼べないダウンタウンにお嬢様が興味を持つなんて――珍しいなぁ、なんて内心では思いつつ、声には出さなくて。
 だがどんな町かと問われると、嬉しそうに答える。
「みんな元気な街だぜ。毎日楽しくて、いつも小さい事件が何かしら起きてて。
 お嬢さんにオススメできるかっていうとちょっと微妙だが、それでも俺は一番好きだ。ダウンタウンが。
 もし遊びに来るなら、このダウンタウンの狂犬が案内してやるよ」
「狂犬…?」
「そう、俺の異名」
 ジャンルカは少年のような屈託のない笑顔を浮かべていた。
「お酒、良かったらいかがですか?」
「ああ、ありがとな」
 ジャンルカは、リラにお酌をして貰うとぐいっと飲んだ。
「見たまんまだけど酒には慣れてるんだねぇ」
 時雨 凪枯(ka3786)もちびちびと飲みながらほろ酔いになっていると――、気安くボディタッチしようとするダウンタウンの精鋭にじろりと視線を遣った。
「ちょいと、あたしゃコレでも純なんだ。お触りは禁止だよ」
「すっ、すみませ――」
「何!? 触ろうとしたのかお前! 成敗してやる!」
「待ってくださいよ兄貴! 別にえろい目的だった訳じゃ――いててて!!」
 お仕置きだと言って弟分にプロレスの技を掛けているジャンルカの生き生きしている顔ときたら。
「何々? 喧嘩?」
 レベッカが様子を覗くと、凪枯は首を横に振り乍ら軽く微苦笑を漏らしていた。
 そこに飛龍がひょこっとやって来る。
「ん? あんたも楽しんでるかい?」
 凪枯に訊ねられた飛龍は、こくりと頷く。
「ふふ。本でしか見た事ないけど違う所もあるのかねぇ。そうだ。果物あげるから触らせておくれよ」
 許可を貰えば、青い鱗の肌を確かめる様に撫でた。
 飛龍は美味しそうに林檎を頬張っていたが、首の付け根を掻かれると全身がぴーんっとする。
 ……自分では掻けない場所ゆえ、心地良いようだ。
 その近くで。
 大二郎は酒をあまり飲んでおらず、青龍の眷属達から学ぶ事に注力をそそいでいるようだった。
「リグ・サンガマに存在している遺跡について聞きたいのだが…。
 北方全域にはいったいどれ程の数の遺跡があるのだろう? 見に行く事も出来るのだろうか」
 大二郎が青龍の眷属達に聞いて知ったのは、壊れているものを含めれば相当な数があるという事だった。
 勿論見に行く事も出来るのだが、龍園の外はいわば無法地帯みたいなもので、歪虚に襲われる危険性が高いのだという。
「随分熱心な学者さんだね。文献なり古代文字なり、そういうのがあるならあたしも小躍りするんだけどねぇ」
「それなら、龍園の大聖堂にはそういう類のものが納められていると聞いたな」
「ほ、ほんとかい!?」
「凄まじく古い本ばかりで乱暴に扱うと壊れたりするのだとか――そもそも私達ハンターが閲覧できるものではないそうだが、内容としては象形文字のような、絵や図をでかい石板に書いてあるものが多いらしい。
 どうやら龍には文字を読めない者も多く、そういう分かりやすい読み物が流行りだったそうだ」
 大二郎と凪枯が龍園の文献の話で盛り上がってる頃――。
 澪は青龍の眷属達にお酌をしていた。
「龍の皆さんもお酒を呑まれるんですねー。お、もう一杯どうぞっ!」
 案外何でも食べ、何でも飲む事に感心を覚える澪。
「北方の龍の主食は、龍神を信仰する信者たちの祈りだと聞きましたが――本当に美味しそうに食べてくださって、嬉しいですね」
 リラも笑顔を咲かせた。
 ヒトの歴史、王国、帝国、同盟、辺境。
 龍達に自分の知る限りの知識を話しながら、食事を共にしつつ言葉を紡ぐ。
 そしてレベッカも。
 飛龍に食べさせるよう焼き魚の串を持ちながら、今迄の事を振り返っていた。
「背中乗せろとか、CAM運べとか随分無茶聞いてもらったからねぇ…おかげで助かったよ。ありがとね」
 そんなお礼を伝えると、飛龍は頷くように鳴く。
「――美味しい? なら良かった。あっちにもあたしが作った魚介のスープが置いてあるよ」
 指でさす先には、宴席の中央にドカンと置いてあるデカイ寸胴。
 すると飛龍は翼を羽ばたかせ、食べたい、とアピールをした後、飛んでいった。
「飛龍って案外何でも食べるんだねぇ」
 そんな発見をしつつ、にっこりと笑った。
「さ、盛り上がってきたところで歌いまーす。テキトーに合いの手ヨロシクー。龍のみんなもね」
 レベッカが立ち上がって注目を浴びると、拍手が巻き起こり、指笛がぴゅ~っと鳴った。
「今から歌うのは海賊の歌なんだけど、海賊の歌なんて調子っぱずれは当然。好きに声出せってことで」
 そして歌い慣れた陽気な歌を、龍園で歌う。
 その後、蜜鈴は華麗に扇を開きながら繋ぐ。
「之より舞うはヒトと龍に捧げる絆の舞。想いを繋ぐ舞じゃて、楽しみにしよれ?」
 その微笑みは、美しく。
「勝利の宴席は明るく楽しく、ってね♪」
 凪枯は軽やかにステップを踏んだ。
「そうですね。少しでも楽しんで頂けるように」
 シャロンもバレエで培った優美な舞を披露しながら――。
 彼女達の踊りにリラが歌を乗せた。
 昔、歌姫と呼ばれた母に教わった歌声は澄んでいて、龍を讃え、精霊と共に歩んでいこうとする意志を歌詞にした。
 そして澪が龍笛を吹く。
 踊りや歌に、合わせるように。
 レベッカ達の想いが一丸となって、龍園を包んだ。
 そこにはヒトも龍も肩を並べあい、彼女達に拍手を贈る仲睦まじい姿があった。

 ユーリはその光景を見つめながら、蒼き剣の剣柄を撫でる。
 そして静かに、赤龍への想いを馳せていた――。

「飛龍、ジャンさん。探したよ」
「研ちゃん?」
 独り、煙草をふかしていたジャンルカは、携帯灰皿の中に残りを突っ込んだ。
「なんかあったのか?」
「大宴会もいいが、落ち着いて盃を交わしたくてね」
 研司が酒を片手にニッと笑うと、ジャンルカも微笑みを浮かべて目を細めた。
 そして二人と飛龍は、色んな話をした。
 龍狩りのこと。
 ディストルツィオーネのこと。
 今迄のことを。
「歴史はもう、繰り返させねぇ。
 ディストル野郎も、倒す。
 その後…俺達で、いい未来にしたいな」
 研司が呟くと、ジャンルカは頷いた。
「勿論だ。
 もしでっけえ壁にぶつかったとしても、
 俺と研司ならきっと、大丈夫さ。それからお前もな、飛龍」
 そして彼らは友情に、乾杯する。
 同じ意志と目標を抱きながら。

「貴方達にお礼をしたいと思って相談したら、色んな人が手伝ってくれたわ。
 私の姉、元気なお爺さん、小さな女の子、異世界の学生さん。皆が貴方達にありがとうと伝えて欲しいと言っていたわ」
 コントラルトは10人の飛龍に厄除けの御守りを贈り、首にかけた。
 飛龍は名前を持っていないらしいから――とりわけ運命を感じる1人には、彼女が付けた名前を御守りの裏に刺繍して。
「人が貴方達のことを好きだと思っていることを忘れないで欲しいの」
 緋色の眸には慈愛と優しさを秘め、青の鱗を撫でる掌には温もりがあった。

 飛龍は、まっすぐ見つめていた。
 コントラルトの想いが、親愛が、彼らの力となって、瞳に光を抱く。

 そして一声、鳴いた。

 ――ありがとう――

 コントラルトに頭を擦り寄せた飛龍の声は、不思議と心に届く。

 あなたのことが好きだから
 あなたの為なら
 どこへだって 飛んでいける。


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MVP一覧

  • 最強守護者の妹
    コントラルトka4753

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師

  • シャロン=フェアトラークス(ka5343
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
久延毘 大二郎(ka1771
人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/06/23 23:27:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/19 20:44:46