24  ~ 三毛

マスター:龍河流

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2016/06/24 22:00
完成日
2016/07/05 17:29

みんなの思い出

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オープニング

 それは、数ある港町の一つでのこと。
 軍港はないが、商業港と漁港が隣接して、港全体ではかなりの大きさだ。
 それに付随する町は、大都会とは言えないが人と荷物とで賑わっている。
 市場に行けば、商船が運んでくる様々な荷物と漁港から上がる多くの魚介類、近くの農村から運ばれてくる農作物と、品物に満ち溢れている。
 住む人も多く、建物が密集しているかと思いきや、小さな広場がそこかしこにあって、近隣の犬猫が長閑に日向ぼっこをしたりしている。
 そんな、港町でのことだ。



 しかし。
 細かいことはどうでも良かった。

 自分が、なぜその港町のハンターオフィスにいたのか。
 依頼の報告?
 はたまた依頼探し?
 依頼に出る前の相談中?
 急な雨にたたられての雨宿り?
 誰かとの待ち合わせ?
 単なる暇潰し?

 まあ、細かいことはどうでも良かった。
 今、自分がどうしてここに居たのか。
 その理由は、もう関係ない。

 なにしろ、一大事が起きたのだから。

「うちの三毛猫を探してくれ!
 明日の正午までにだ!」


 只今の時間。
 正午。

リプレイ本文

●午後八時
 エリス・ブーリャ(ka3419)は、思わず叫んでいた。
「これ、戦闘の方が楽じゃなぁいぃ!?」
 叫び返したのは、大伴 鈴太郎(ka6016)だ。
「ったりめーだろ! 猫に力技は禁物だからな」
 愛猫探しを貨物船の船長から請け負って、土砂降りの雨もいとわず捜し歩いたハンターは七人。夕食と各自の捜索範囲の報告を兼ねて集まった彼らは、まだ成果をあげてはいなかった。
 これといった情報もなく、ケイルカ(ka4121)やディーナ・フェルミ(ka5843)の胸はチクチク……どころか、ザクザク刺されたように痛む。
 ふわふわもこもこは正義。
 肉球ぷにぷにも正義。
 お猫さまの行方不明など、すべての事象に優先する緊急課題!
 よって、ディーナは昼過ぎに借りた船長愛用のベストを、また船長の背中にこすりつけていた。ケイルカは、雨の中を持ち歩いてすっかり濡れてしまったミケの似顔絵をすごい勢いで描き直している。
 そんな興奮気味の四人に、ザレム・アズール(ka0878)が温かい飲み物を差し出している。まずは体を暖めなくては。
「あんまり腹に詰め込むと、集中出来なくなるから軽食がいいな。それから、すぐに人数分が出来るやつ」
 てきぱきと食事の手配を店員と相談していたザレムは、星野 ハナ(ka5852)が床に屈んでいるのを見て、目礼をした。ハナの前には、彼女の愛犬ケンちゃんと共に、ザレムのシバもいて、濡れた身体を拭いてもらっている。
 愛犬達はどちらも労働を厭わない犬だったが、流石にこの雨の中では、ミケの匂いを追うのは難しい。それでも、人間の視界には入りにくい高さのいわゆる猫道を見付け出してくれたりと、随分頑張ってくれていた。
 だが、しかし。
「ケンちゃーん、ここでそれしちゃ駄目でしょぉ」
 犬の本能として、拭かれている間にも体を振って水を切りたいのは当たり前。ぶるりと派手にやられて、一番の被害者のハナは、当然ながら悲鳴を上げていた。
 更に、実は犬派でハナの手伝いをしようかと屈みこんでいた央崎 枢(ka5153)も巻き添えに。それでも彼は、船員から回ってきたタオルを、先にハナに回す気遣いは出来ている。
 その頃には、興奮気味だった四人も落ち着きを取り戻し、エリスが最初に用意した地図に、それぞれの回った地域の印をつけ始めている。
「あーもう、合羽を脱いでからだろ。ここで風邪ひいたら、ミケに移るかもよ」
 四人が船長が貸してくれた雨合羽を引っ掛けたままなので、央崎が脱ぐように促して回る。
 その上で、雨合羽から水滴を落とすのまで任されているのには、当の央崎も『何か違う』と言いたげだが、ミケ捜索に夢中の面々に何か言っても耳に入るまい。
 案の定。
「広場にはさぁ、いなさそうなのね。たいてい猫がいるって話だったし」
「でも、繁華街でも目撃者がいないのよね」
「港に近い店も、ここの通りは軒並み収穫なしだな」
「お話を聞いた猫好きの方が、見付けたら連絡してくれるって言ってくれたんですけど~」
 雨合羽のことを忘れ果てた四人は、口々に自分の担当した区域で入手した情報を話し合っていた。
「あ、近くの船は虱潰しに訊いて回りましたけどぉ、いませんでしたからぁ」
 そこに加わったのがハナ。ちゃんと、ミケの行方不明から後に出航した船がないのも確認済みだ。
「……俺の見回った通りは、猫道で結構野良を見たから、ミケは通れなさそうだった」
 高い建物から人が通れない猫専用と化した路地などを見て回った央崎も、エリスが広げた地図に自分の見回った区域を指で差し示していた。
 今のところ分かっているのは、船長が最後に目撃した時間と場所から後、少し離れた街路で三毛猫が近所の飼い猫に威嚇されていた証言を最後に、見慣れない三毛猫を目撃したという人はいない。
 話を聞くだに無類の腰抜、否、箱入り猫のミケが、他の猫の目をかすめられるはずはない。云々。
「ほら、まずは飯を食え。この調子だと、今夜は徹夜もありえるぞ」
 店員を手伝ってスープの深皿を運んできたザレムが、特に目を血走らせているディーナやケイルカに言って聞かせている。続いた言葉が『早食いするな』で、唇を尖らせた二人にじとぉと見上げられたが、返事は焼き肉を挟んだパンだった。
 その様子に、深夜帯の捜索は交代で休憩した方が良いのではないかと考えていた央崎は、とりあえず今は言わずにおく。
 そもそも、彼自身は徹夜覚悟でいるのだから、他人が言われて頷くかと考えたら……無理に決まっていた。


●回想 正午から午後七時くらい
 猫がいなくなったと聞いて、最初に飛んで来たのはディーナだった。
「お猫さまの危機に現われてこその猫好きなの。任せるの」
 船長に胸を張った彼女は、ミケを見付けた時に安心させるため、船長のベストを一枚借りて行った。
 それは濡れないように、布で包んで懐に抱きつつ、ディーナ当人はせっかくの雨合羽のフード部分が落ちても気付かないのか、下ばかり気にして歩き回っていた。
「うーん、ここでもない~」
 ねこじゃらしを片手に、人家の塀の隙間を覗き込んで、そこの住人に驚かれたのは一度では済まなかった。

 三毛猫の雄といったら、幸福の印とされるほどに珍しい。それが転じて、航海の守り神として船乗りに大事にされるとも聞く。が、なんといってもペットは家族。
「出航に間に合わなくても、探して引き取る……なんて言ったら、あの船長に殴られそうだな」
 まずは探しに探して、どうしても駄目ならそれも一方法と呟きつつ、ザレムは雨が当たりにくい人家の庇や木の下を覗いて回っていた。小さな穴があれば、借り出した猫じゃらしを差し入れて、猫が出てこないか様子を見る。だが、出てきたのはぶちや雉虎の別猫ばかり。
 それでもザレムは、雨の中も匂いを探しているシバのおかげで、やる気を減じることはなかった。

 三毛猫の雄はたいそう珍しく、土地によっては高値で取引されるらしい。
 だから、雄猫だとは言わずに聞き込みをしていたケイルカは、まず船長がミケを見失った辺りから捜索の手を広げていた。
「きっと繁華街よね。猫嫌いの人好きなんて、人が多いところに行きそうだもの」
 倉庫街から繁華街に繋がる通りの途中で、ケイルカは点在する商店や事務所などの人達にもミケの似顔絵を見せて回る。繁華街に入ったら、魚料理を扱う飲食店を中心に同じことを繰り返すつもりでいたが、
「え、三毛に間違いありませんでした?」
 ミケかどうかは不明だが、見慣れない三毛猫が地域のボス猫に追い払われていたという情報が入ったのだ。早速トランシーバーを取り出したケイルカに、教えてくれた人は驚いていた。

 ミケの呼び方は、船員によっても色々だったが、ミケは自分の名前なら反応したらしい。
 なんと有難い猫かと感心しながら、ハナはミケが使っていたクッションの一つを抱えて、港を巡っていた。
「すみませぇん、猫を探しているんですけどぉ」
 占いも併用したところ、結果は船長の最後の目撃地点から少し先と出た。よって、ハナはその辺りを重点的に、かつ船を訪ねて回っている。
 ミケが似たような別の船に飛び込んではいないかと、自分の飼っていた鳥の行動から推測した行き先は、どうやらはずれのようだ。
「でも、占いは柱の上って出るのよねぇ。これ、帆柱じゃないのかしら」
 なんだかすごく高いところみたいなんだけどと、ハナはとりあえず占い結果も含めて、皆に報告している。

 自分も猫を飼っているので、行方不明と聞けば他人事ではない。まして、捜すのにも時間制限があるとなったら、不安はいかばかりか。
「雨に猫と来たら、不良に拾われるのが相場って決まってんだ! そう、間違いない」
 威勢よく啖呵を切ったはいいが、リンは三毛猫の一匹も見付けられずに焦っていた。自分に言い聞かせるが、どしゃ降りの中、猫の姿もほとんど見当たらない。
 それでもリンは飲食店を一軒ずつ、地道に覗いていた。船員が迷い猫を探している手伝いなのだと言えば、港に近い界隈のことで誰もが親切だ。
「あのさぁ、もしこの猫が来たら、わりぃけどしばらく置いてやってくれねぇ?」
 そこに甘えたら悪いなぁと思いつつ、リンは雨の中でミケが困らないように、あちこちの店でそう頼んでいた。

 昔だったら、猫探しなんて依頼は目にも入らなかった。が、気分転換にとミケ捜索に加わって六時間。
「船長が、もうちょっと相手の猫を見ててくれたら良かったのよ」
 ミケを追い回していた猫が分かれば、その縄張りが判明して、どこまで追いかけられたのかも自然と分かるのでは。そうエリスは考えたが、あいにくとミケしか目に入れていなかった船長の記憶は『灰色っぽい、割と太っちょ?』と心許なかった。
 雨が降り出したのは、それより少し後だと聞いたエリスは、逃げた先でミケが雨宿りしている可能性を考えて、数ある広場の周りを重点的に探すつもりでいた。考えを変えたのは、近くの住人が『どの広場にも、猫がいる』と教えてくれたからだ。
「この三毛を見たらねぇ、捜している人に教えてほしいのよ」
 その情報提供相手はじめ、行き合う猫好きと思われる人に次々と、エリスは同じことを頼んでいた。


●翌午前三時
 予想はしていたが、やはり徹夜の捜索は集中力が途切れがちだ。
「と言う訳で、この順番で休憩。夜が明けたら、ちゃんと叩き起こすから」
 疲れが目立つ、または捜索用のスキルが切れた人から二時間くらいと区切って、三人ずつ休むことにしたのが午前零時過ぎ。言いだしっぺの央崎は、自分の体力を過信することにして、こっそりと自分だけ人数外にしていた。
 そうして、夜明け前から漁に出るような船が準備している港に、おなかをすかせたミケが戻ってきてはいないかと歩き回っていると、あちこちから猫は見付かったかと声を掛けられた。どうやら、昨夜どこかの酒場でハンターまで雇ってのミケ探しが随分と話題になったらしい。
「まだ。漁具に紛れてたら、ちょっと抱えといてくれよ」
 荒っぽい口調に合わせて、やや伝法に応えた央崎に、それなら夜明けには来ないと漁に出てしまうぞと戻ってきた声は複数あった。


●午前四時
 空が白むにつれて雨も止み、ミケが動き出すかもしれないとミケ捜索がまた大掛かりに始まった。船長は流石に出港準備中だが、船からも人手の都合をつけた数人がやってきている。
 そうして、まずは港に再度駆け付けた央崎が、
「いや、この猫じゃないな。わざわざありがとう」
 漁師からでっぷり太った三毛を渡されて、ちょっとがっくりしていた。でも、わざわざ捕まえておいてくれた礼は、もちろん忘れない。
 そうかと思えば、エリスは全然違う猫を見せられていた。
「灰色ぶーにゃん、ミケはどこって訊いてもねぇ」
 ミケを追い掛けていた猫に尋ねても、もちろん返事は『にゃー』のみ。しかも、餌をやるまでがっちり服に爪を立てられてしまった。
 同じ頃、ザレムは餌の魚を新しく仕入れていた。
「それがさ、まだ見付からないんだよ……って、おじさん、今漁から戻って来たんじゃないのか?」
 昨日から漁に出ていたはずの人にまで、猫探し人員だと言い当てられている。ならば、ミケを見付けたら連絡をと頼んでしまった。
「お願いです~、ミケちゃんを見付けたら、すぐに知らせてほしいのです~。船長さん、すごく待ってますからぁ」
 かたや、ディーナはお願いを超えた懇願態勢で、出会う人に片端から話し掛けていた。更にミケの名前を呼びつつ、昨日も探した界隈を足を棒にして歩き回っていた。
 昨日も今日も、占い結果に強烈に『柱の上』と出る。
「これは、きっとミケがいる場所ですぅ。だけどぉ、どこの柱かが分かりませんよぉ」
 箱入り猫が入り込めそうで、これだけ探して誰もここだと言ってこないのは、やはり倉庫だろうか。ハナはケンちゃんの鼻に期待をかけて倉庫街を巡りつつ、どこかの窓でも開いていないかと上を見上げて歩いていたら、転びかけた。
 そして、ケイルカとリンの二人は、休憩時間に実は寝てなどいなかった。似顔絵を増やして、街に配ろうとこっそり作業していたのだ。
「んじゃ、俺はこっちに回るから」
「私は向こうね。ミケちゃん、必ず探すんだから!」
 気合の入った様子の二人が、港に近い三差路で二手に分かれようとした時。
「お嬢ちゃん達、猫探しだろ?」
 何かの配達と思しきおじさんに、違う猫だけど助けてあげてと傍らの小さな家を指された。迷い猫が梁に登って降りて来ず、住んでいる老婦人が昨日から弱り果てているようだと言われては、二人ともそれがぶちの猫と聞かされても、見捨てられるはずがない。


●午前五時
 その家の近所の人々は、早朝から若い娘の悲鳴じみた歓声に驚かされた。何の騒ぎだと怒られかねないが、大抵の人がすでに起きていたので様子を窺われるだけで済んでいる。
 その少し前、家の中では央崎が壁登りのスキルで通常の二階天井部分に当たる、一階天井の梁まで上がろうとしていた。一階では、ディーナとケイルカ、リンとハナが毛布を広げている。
「俺の方が力はあるけどなぁ」
 毛布を広げる係から弾かれたリンが、家の主の老婦人に事情を説明してから、それは不満そうにぼやいた。しかし、彼女にはこの家の猫を抱えておく大事な仕事がある。
 昨日の雨の中、この猫にも追いかけられたミケは、何を間違えたかその住処に飛び込んでしまった。老婦人が猫の追いかけっこに手を出せずにいた間に、ミケは上の方に逃げ、下では一晩中飼い猫が威嚇していたとか。
 年相応に目が弱っていた老婦人にはぶちに見えたミケだが、最初に救出を頼まれたリンとケイルカが見れば、どう見ても三毛猫。多分、飛び込んだ時には泥水でも被っていたのだろう。あちこちに乾いた泥がこびりついている。
 だが、下で落ちて来ても大丈夫なように毛布を広げている四人にも、登っていく央崎にも、滅茶苦茶怖がりの猫だと見て取れた。どうしても飼い猫が家から出ようとしないので、ひどく怯えているらしい。
「ほらほら、ミケだろ? 船長のところに連れてってやるぞ」
 ようやく近くまで行った央崎が手を伸ばしたが、ミケはじりじりと後退り、動転したのか、ぽーんと梁から飛び降りた。
 そうして、下で受け止めるのだと気合の漲っていた四人が、毛布の真ん中に落ちたミケの姿に甲高い歓声を上げる。リンは、興奮した飼い猫に引っ掻かれつつ、ほっと安堵の息を吐いた。
 同時に、扉がどんと開いて、
「今、悲鳴がしたぞっ!」
「あーもう、ノックくらいしてくれ。すみません、この人が飼い主なんです」
 魔導バイクで船長を迎えに行っていたザレムが、人の家の扉を壊しそうな勢いで飛び込んだ彼に替わって、老婦人に謝っている。
 その頃には、ミケは肉球ぷにぷにしたい人達の間をすり抜けて、船長の懐に飛び込んでいた。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師
  • 紫陽
    ケイルカ(ka4121
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 猫ちゃん探し卓
ケイルカ(ka4121
エルフ|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/06/24 21:48:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/24 19:34:15