夜襲 ~ガルカヌンク~ Side月影の旗

マスター:DoLLer

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/27 07:30
完成日
2016/07/05 14:19

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「お久しぶりです、おじさま」
 革命によって途絶えた帝国皇族の血を引くクリームヒルトは、書斎の主に対してそう挨拶を述べながら、ディアンドルの裾をつまみ、そして僅かに膝を落とした。そんな挨拶に書斎の主、フランツ・フォスターはしばしその穏やかな双眸を見開くばかりであった。
「クリームヒルト様……」
「いつぞやはお手紙ありがとう。おじさまの言葉でもう少し頑張ってみようと言う気になりました」
 その言葉に何かしらの確信を得たのであろう。フランツ伯は眼鏡を胸のポケットにしまい目を細めながら、前に進み出て彼女を出迎えた。
「手紙ではこんなに成長し美しくなられているとは窺い知ることもできませんでしたな ……お父上もさぞお喜びでしょう」
「ありがとう。チェスをしながら父、先帝ブンドルフの話も聞かせてもらいたいところなんだけど、今日は急ぎなの。いいかしら?」
 クリームヒルトの眼の鋭さにフランツ伯はおどけたような表情を見せた。
 だけど、知っている。本当は自分が突如到来したことも薄々感づいている事を。
 なんといっても彼は、旧帝国の情報戦の要。諜報機関最高責任者たる存在なのだから。


 時は遡って。
 一人の少女がクリームヒルトの居る屋敷に佇んでいた。
 彼女はヴルツァライヒによって暗殺者として育てられた。名前はテミス。
 心を閉ざした暗殺者。だが、ハンターによって心は解放され暗殺者でいられなくなった少女。
「もう大丈夫だからね。聖導士さんをお願いしておいているの。もう準備してもらっているから、しっかり治療するのよ」
「あの……」
「その姿で過ごされても困るもの。ちゃんと治した分だけの働きをしてくれるって信じているわ。ね?」
 逡巡する包帯だらけの少女の肩を、クリームヒルトは軽く抱きしめて笑顔で階上へと送り出した。
 傷だらけの少女が扉の向こうへと消えた後、クリームヒルトもまた笑顔が消えていた。
「暗殺者に仕立てるなんてこと、まだしているなんて思わなかった……ヴルツァライヒは本当にしつこいのね。アミィ?」
 アミィ、と声をかけられた女は、その言葉に天を仰いだ。
「あのねー。あたしもヴルツァライヒだけどさ。全部知ってるワケないじゃん。メンバーが知ってるのは親方と呼ばれる上司と、徒弟と呼ばれる親方によって誘われたメンバーだけ。横のつながりもないんだってば」
 アミィは分かりやすく、口をチャックする仕草をして笑った。
「そういうワケで何も知りませーん」
「別にそんな裏事情なんて知りたくもないわ。貴女に教えてほしいのは、過激派ヴルツァライヒを黙らせる方法よ」
「あらン。お姫様、ご立腹?」
 アミィの口元が不敵に吊り上がる。クリームヒルトの憤慨をまるで楽しんでいるかのようだったが。
 次の瞬間、脚が彼女の真横をかすめて壁を激しく打ち鳴らすと、さすがに笑顔が消えた。
「あれ……お姫様ってば愛とか平和好きじゃなかった?」
「もちろん好きよ?」
 クリームヒルトの笑顔にアミィは沈黙すると、帝都バルトアンデルスで起こったとある騒動に目を光らせる人物の名を上げた。
 それがフランツ・フォスターであった。


 話を聞いたフランツ伯はしばらく報告書の束をめくり続ける中、クリームヒルトは言葉を重ねた。
「テミスの村は何者かによって村ごと壊滅……その後カール・ヴァイトマンという契約者の運営する施設で、テミスは暗殺者として育てられました。
 カールはもうこの世にはいない。しかしテミスは暗殺者として送り込まれた。どこかに彼女を預かり、そして現政権派の富裕層に向けて差し向けた張本人がいるはずなんです。複数の暗殺者を隠匿して、必要な時に差し向けるというなら、それなりの場所と人間が必要だと思うの」
「……私の方でも、アダムという医師が歪虚と共に、人間を血のようなスライムへ変えるという胸の痛む事件が起きました。アダムは無事逮捕され、現在取り調べが始まりましたが……その彼が逃亡した際、逃亡先として選ばれた一つにガルガヌンクという場所があります。ズェーベン・ユーベルヴァルン州東端……シュレーベンラントのすぐ隣、という方が正しいですかな」
 その言葉に、クリームヒルトは眉をひそめた。
「歴史書に乗ってた地名ね。錬金術が始まる前まで帝国のエネルギーを担った最初期の採掘場よね。でももう地図にすらない名前よ」
「……さすがですな。再利用している動きがあるのでしょう。複雑な坑道は何かを隠すには最適です。名義はファバルという人物が買い取っているようですが、実体は不確定です」
「町が再興されるって相当なことよ? 働く場所とか。道路とか。地方は今困窮して過疎化するばかりなのに……」
 そこまでいってクリームヒルトは気づいた。
 一般的な地方の町は維持できない。だが、一般的でなければ? フランツ伯はそれを町とは呼んでいない。
 人が集まる。不自然に。
 お金が集まる。ありえない速さで。
「丸ごとヴルツァライヒの拠点……なのね。ありがとう」
「お待ちください。アダムを操っていたとされる歪虚の行き先はまだ杳として知れません。もしかしたら、歪虚の襲撃に遭って万が一のことがあれば先帝に申し訳が……」
「心づかい感謝します。おじさま。でも非道は止めなきゃならないの。時には無茶してでも」
 クリームヒルトの言葉に、フランツ伯は根負けしたのか、苦笑いを浮かべて「勝てませんなぁ」と呟いたのであった。


 ガルガヌンクは山を抉って作られていた。数百年の昔のままで打ち捨てられた建物は遺跡と言っても過言ではない。
 それを遺跡と呼べないのはところどころ今日日にある壁材で補修がなされ、そこここに明かりがちらちら見えるからだ。生活の息吹がする。
 息づく建物は全てが中央の大きな建物、暗殺者などを飼う『市場』に囲うようにできていた。
「町の人間120人は下調べの結果、全員奴隷市場の関係者であることは判明しています。無理やり働かされていた事実はありません。この秘匿された地にいること自体が証左です」
 月明かりの元、軍服姿のクリームヒルトはハンターの前でそう宣言した。
「あっちの道の封鎖は?」
 自分たちが集まるのに使った道がある。こちらは自分たちが押さえればいいことだが、それ以外にも森に向かって踏み固められた道がちらりと見えてハンターが声を上げた。
「フランツ伯に協力いただき、封鎖をしていただいています。私達の目標は町の壊滅。および市場の主ファバルという人物を捕まえることです。住人ともども生死不問。例外は商品扱いされた人だけです」
 町規模の土地と人間をまるまる制圧をかける。
 それは大変苦労の伴うことは容易に想像できる話であった。
 それでも。いつの間にか鼓動しはじめた帝国の病巣を取り除かなくてはならない。
「モンドシャッテの名にかけて。これ以上悲しい人間を増やさないために制圧しますっ!!」

リプレイ本文

「はあ、仕事の後の酒はうまいもんだ」
 などと、酔いどれた男の視界に、きらりと月明かりに照らされる輝きが見えた。
 ぼんやりとそちらを見上げれば、月光に反射しているのは眼鏡の上端だ。分厚い眼鏡以外に月影を背にするそれについて視認できたのは女性らしいフォルムと、化け猫のようにニィと釣り上げた口元からのぞく白く綺麗な歯。
「こんばんは、素敵な夜だね」
「敵襲だ!!」
 その一言で男は酔いを吹き飛ばして叫び、そして近くの建物に身を隠そうと走った。さすがは筋金入りの犯罪者。狩りの匂いには敏感らしい。
「そしておやすみなさい。良い、悪い夢を」
 南條 真水(ka2377)が担ぐ月輪が巨大な時計に変貌し、それぞれの時計の針が真夜中に向かって飛び出し、男とそれを迎え入れた仲間をまとめて刺し貫いた。
「時刻はちょうど、夢見頃さ」
 陰で上がった断末魔。それが開戦の合図となった。

「あいつ、調子づいてるなぁ」
 土壁で作った建物の上を走りながら、浮かび上がる時計型の魔法陣を見てヒース・R・ウォーカー(ka0145)はぼそりと呟いた。
 次々と灯りのついた建物から非常ベルが鳴り響き、次々と人間が武器を持って出てくる。
「どっちだ! 敵の数を確認しろ」
「その必要はないさぁ。耳に届いたところで、その口は何もしゃべれないからねぇ」
 素早く周囲に指揮を執る男の周りに赤い蝙蝠の群体が地面から沸き起こったかと思うと、真後ろにヒースが姿を現した。そして男の首根元から白い刃が突き出る。
「覚醒者か!」
「へえ、意外と頭の回る奴が多いねぇ」
 ヒースは遺体を盾にしながらそのまま建物の陰に消えた。が、マジックアローが追撃し腕を焼く。
「相手も覚醒者か」
 応戦に手裏剣一つ投げ返し、呻きを聴く前にもうヒースは遺体をスケープゴートにしてそのまま建物の裏側に消えていた。

 月夜にはにわかに雲が沸きはじめていた。そんな夜空に梟が舞う。
「市場から20人、東側40、西側40。数がまだ足りないわ。どこかに潜んでいるのかも」
 高瀬 未悠(ka3199)が梟の瞳を通じて、まるで土筆のように乱立する建物の隙間から出てくる人間の数を天央 観智(ka0896) 報告する。
「市場には……人間が少ないようです。仕事場であって……寝泊まりする施設ではないようですね……制圧班が引きつければ……保護は十分に狙えるかもしれません」
 観智の言葉に保護班から返事が届き、続いて制圧班からは左右に分かれようかという質問や、地道に全部潰していこう。などとのやり取りが届く。
「ところで、アミィ。クリームヒルトさんなんか怖いんすけど、相当頭にキてるっす?」
 神楽の声が短伝話越しに届く、一瞬の間の後、アミィのくすくす笑う声が聞こえた。
「父親の腐敗帝ブンドルフは苛烈な性格だったっていうし、『血』じゃないのー? 革命によって逃げ延びる間雑草食ってでも生きた女だよ。胆の太さはヴィルヘルミナより上かもよ」
「そこ、へーかを……馬鹿にするな」
 笑うアミィに今度は火消しの風シェリル・マイヤーズ(ka0509)の声が割り込んだ。
「なんか制圧戦の緊張感ないわね」
 未悠はファミリアズアイのリンクを切って笑った。今回の戦いは人間との戦い。歪虚のように割り切れるものではない。未悠は変わらない仲間達のやり取りに安心感を覚えたのであった。
 が。そんな気のゆるみをつくように、観智や未悠と共に入り口待機する魔導トラックからぐしゃりという破断する音が聞こえた
「入り口に敵襲!」
「ちっ、頭を狙いに来やがった」
 ショウコ=ヒナタ(ka4653)はすかさずトラックに向かって走った。トラックの下に溜まる闇に滑り込むと、同化していた黒い影を蹴り出した。人間だ。
 黒い衣を着た人間は隙間から出てくるショウコを蹴り飛ばし、僅かな隙に今度はトラックの上に登り、観智に手裏剣を飛ばして、伝話を持つ腕を射抜いた。
「くっ……」
 そのまま今度はドア窓を蹴破って、待機していたクリームヒルトを。
「させるかよ」
 真反対の窓からショウコの刀が迎え撃つように刺しこまれ、クリームヒルトの目の前でその腹部を切り裂いていた。
 うめく疾影士にクリームヒルトはすかさずデリンジャーを撃ち込み、路上に落ちたところを未悠が刀を振りかざした。
 疾影士の目と一瞬あう。歪虚の様な恐ろしさもない。狂気に染まっている訳でもない。普通の人間の目だ。
「やらなければ、やられる……」
 闘心高揚を使って、人の命を奪う恐怖を押し込め、未悠は刀を振り下ろした。

「制圧班、指令塔にボロボロ来てる。隠し通路を探して。高瀬のファミリアズアイは梟から猫に変える。ついでに移動もする」
 ショウコの言葉と同時に、頭骨の砕ける音と男の小さな悲鳴が伝話越しに響く。
「おい、大丈夫か?」
「掃除と管制を同時にすンのかったるい。もうちょっと押さえといてくんない?」
「とは言ってもな!」
 ヴァイス(ka0364) は通路を流れる銃弾の雨を遮蔽を使って躱しながら言った。
「覚醒者ばかりだが敵の数は少な目だぞ。囲んで潰せ!」
「意外と目端が利くのが多いみたいだな。よく見てる」
 制圧射撃で動きを止めながら、こちらの数や動きを読むのはさすがだ。どうすべきか考えあぐねるヴァイスの真上、建物の上から時音 ざくろ(ka1250)が夜風に髪をなびかせながら立ちはだかった。
「ここで止めようったってそうはいかないよ。ざくろ、非道は絶対ゆるせないもん!」
 そして取り出したるはスーパー光線銃。見た目からしてオモチャだ。
 その武器を見て鼻で笑った犯罪者は次の瞬間、見た目に騙されてはいけないことを身をもって知った。ざくろの光線銃からデルタレイが飛び交い、しなやかな弧を描いてその胸を貫く。
「みたか!」
 堂々と胸を張るざくろに視線が集まる。その瞬間を見計らってヴァイスは壁から飛び出し、一気に通路を駆け抜けながら、刀を下段に構える。
 銃弾が、胸を腕を、頬をかすめていくが、それらを愛用の防具が守ってくれることを信じて、ヴァイスは歩を緩めなかった。
「大人しくしてもらうぜ」
 刀を返して、峰でそのまま犯罪者を切り伏せた。
 倒れこむ犯罪者のその真横から、大男を頭として何人かが物陰からヴァイスに襲い掛かる。
「んがぁぁぁぁあ!!!!」
「ざくろっ」
「言われなくてもわかってるよ」
 跳躍したざくろが空中で、光線銃のダイヤルをチェンジして大男に差し向ける。
「アデュー。スーパー光線銃熱線モード!」
 ヴァイスが大男を蹴り飛ばしほんの僅か距離を取る。その隙間を埋めるように、ファイアスローワーの爆炎の波が男どもを飲み込んだ。

「もうすぐ市場付近にたどり着くが、左右に分散するのか?」
「ノン プレオクパルティ! ボク達、人数はそんなに多くないからね。完全に道を分かつのは危険だ。今のままで行こう」
 ジルボ(ka1732) の問いかけに歌うようにイルム=ローレ・エーレ(ka5113)は答え、発煙手りゅう弾の安全ピンを引き抜いた。
「それよりももっと効果的な方法があるさ」
 敵はどこだ。と騒ぐ声の聞こえる通路にむかって、イルムは手りゅう弾を投げ込んだ後、ジルボに向き直り、指を3つ立てた。
 3・2・1
「!!!」
 派手な煙で混乱の声が上がった瞬間、イルムはレイピアを引き抜いて、一気に煙幕の中に駆け込んだ。
「ぎゃっ」
「うぐ」
「敵だ、に、げ」
 悲鳴の上がる煙幕が晴れた時には、立っていた人間は半分以下になっていた。
「おーおー、帝国の人間は相変わらず派手にやるな。イルム、その上等な服着ている奴は覚醒者だ」
 ジルボはすぐさま直感視を使って見分けて告げる、そのまま制圧射撃を使って混乱からの立ち直りを遅らせる中、イルムがそのまま闇の中で白刃を煌めかせる。
「ワオ! 覚醒者ながらにこんなつまらないことしてるなんて、精霊はなんと悲しんでいるだろうね!」
 上等の服を着ている男はイルムの一撃をまともに受け止めるとセイクリッドフラッシュで、二人の目を焼いた。
「どうせ暗闇に目を慣らしてるんだろ。ざまぁみろ!!」
「めんどくせぇヤツだな」
 笑う男の背後に回ってその口を抑えるジルボはぼそりとつぶやくと、そのままダガーを首に走らせた。
「目がやかれなかったのかい?」
「だいたい夜戦してると視界を奪うやつが多いからな。片方の目だけ闇に慣らすんだよ」
 ジルボは片目だけ覆っていたバンダナをぐいと上げて、元の位置に戻した。
「おい、保護班よ。こっちの道は空いたぜ。さっさと通らねぇと、このまま坑道まで通り過ぎるぞ」
「はっはー。そっちを楽しみにしてるよ!」
 伝話するジルボの真横についてイルムは保護班の人間に声をかけた。
「自分の使えよ」
「いいじゃないか。仲良くなるチャンスだし」

「わりぃな。行かせてもらうぜ」
 二人の切り開いた道をリュー・グランフェスト(ka2419)が駆け抜けると、迷路のような町の中でひときわ大きな広場と建物がある場所へと踏み込んだ。
 あの建物が、市場か。
「来たぞ。ハンターだ!!」
 どうやら目的はある程度絞られていたらしい。広場に踏み込んだリューにいきなりデルタレイとファイアボールの粛清が出迎える。
「るせぇ! こっちはムカついてんだ。容赦しねぇぞ」
 リューはシールドで全部受け止めた後、刀を水平に構えて突撃した。
 刀を叩きこんで目の前の雑魚を薙ぎ倒し、向かって来た刀使いの胸倉を掴んで、逃がさないようにするとそのまま頭突きを入れて、黙らせる。もはや戦いというよりケンカのそれだった。
「早くくたばりやがれ」
 全身鎧で固めるリューに雨あられと弾丸や魔法が降り注ぐのをじっと耐えしのぎつつ、ゆっくりと脚を進めて次の敵を狙う。
「あぁ、いい匂いがする。いっぱいに広がって、満たされていく……」
 その目の前で、血風が舞ったかと思うと、リューが狙っていた機導士の首がごとりと落ちていた。砕け落ちる首無し遺体の後ろから月に照らされるのは恍惚の笑みを浮かべるブラウ(ka4809)の姿であった。
「もっと、もっと」
 ブラウはマジックアローを正面から受け止めながら、そう呟くと一気に走り、魔術師の腹部に刀を突き刺した。刀に仕込まれた振動が内臓を刺激し、傷口から血を吹きださせる。
「まだ生に満ちているこの香りがね、少しずつ少しずつ腐ってくる瞬間が、たまらない」
 そんなブラウの真後ろから銃弾が次々と叩きこまれ、小さな彼女の体は何度か跳ねた。
「増援、早くこい。バケモノだらけだぞ。市場に入られる!!」
 銃弾を止ませることなく、誰かが叫んだ。
 だが、新手が来る様子などどこにも見当たらない。
「増援! 増援!!」
 叫ぶ男にゆっくりとリューが歩み寄る。
「群れねぇと何もできない奴が、うるせぇ」
 大上段からの一撃で、男は絶命した。

「ちくしょう、市場ももうダメか」
 伝話の声を聞いて慌てふためく集団がいた。そんな彼らの顔に一瞬影が走る。月の光が遮られたのだ。
 代わりに届くのは、手裏剣の雨だった。
「どこももう……ダメ……。笑顔を奪うような奴らに……居場所は、ない……」
 シェリルは屋根の上に着地して、悲鳴を上げる男達を振り返った。
 そんな彼女の耳に、空気の震える音がする。
「!!」
 ターン。
 音より先に、シェリルの腕に血しぶきが飛んだ。
「スナイパー……?」
 相当先だ。この夜闇に紛れるシェリルの姿を確実に捕らえていたのだとしたら、かなりの手練れだろう。
 撃たれた腕を抑えながら、その方向に遮蔽を取るようにしたシェリルは静かに耳を澄ませた。
「ハンターは25人。10数人で掃討活動をしている。市場の制圧が中心だろうが、一部は坑道まで至っている。気取らせないように散発的な攻撃をしているのは、数名だ」
 先ほどゲリラ的に倒した人間が持っていた伝話から声が響いてくる。
「上から……俯瞰されているね……さっきのスナイパー」
 シェリルは声から性別や年齢をおおよそ思い描きながら、自分の持つ伝話の回線を開いた。
「ヒース。スナイパーが私達の戦力状況を……読み取ったよ……北東方角にいる」
「それは早めにやっておかないといけないなぁ。了解。一緒に行くとするかぁ」
 その言葉を聞いて、暗がりの中シェリルはにやりと口元を緩ませた。
「赤髪コンビ……大暴れの時間」

「中央まで制圧はほぼ完了。こっちの動きや数が完全に察知されたっぽい。以降、制圧には注意すること。特に保護班と……坑道班」
 ショウコは月が山に差し掛かる様子を見ながら、連絡を飛ばしていた。
「敵の伝話のチャンネルが切り替わったっぽいね。傍受できなくなったけど、どうも包囲網を抜けて脱出の機会を探るみたいだよ」
 イルムからの言葉を聴くとショウコは不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にさせた。
「音羽。カウントは?」
「40くらいかしら?」
 伝話の先で音羽 美沙樹(ka4757)の声が聞こえた。カウントとはもちろん敵の倒した人数だ。
 まだ半分も言っていない。対して、こちらも傷を受けているとしてもまだほとんどが大きな怪我は負ってはいない。奇襲でかなり差は縮めたはずだが、構成が互いに知れた状態で80を25で応対するのは難しい。
「どうすっかなぁ」
 ショウコは髪をがりがりと掻いたが、ここはもう仲間達に任せるしかない。
 そんな背後で未悠はアミィのトラックに乗り込んだクリームヒルトに問いかけた。
「ねえ、さっきデリンジャーを使ってたけど……そういう体験、何度も、したの?」
「初めてです。でも私を守るためにみんなが命を賭けて戦ってくれたことは何度もあるわ」
 彼女は笑いもせず、だけども緊張も興奮もなく答えた。人を殺したことに彼女は動揺する素振りはみて取れない。
 対しての未悠は、まだ心が震えていた。指先がぬくもりを奪った感触がまだ残る。あの視線が網膜に焼き付く。
「強いのね……」
「私が動揺したらみんな迷うもの。生死不問と私は伝えた。相手はそれ以上のことを狙ってくるってこと。しかも今日だけじゃない。未来永劫、想いが残る限り、彼らは私を、皆さんを恨み続ける。だけど、それを乗り越えてでもやらなくちゃならないことだから。一人の命で終わらない出来事をしているから」
 人を殺す恐怖を乗り越えている。彼女は一体何を見て来たんだろう。未悠は小さな姫が見て来たものに気になった。
 と、その瞬間。伝話から爆発音が響いた。
「どこ!!」

「こちら坑道班……えーと、坑道って呼ぶのはイメージと大違いになりますわ」
 チョココ(ka2449)は伝話に向かってそうぼやいた。
「傷は大丈夫?」
 轟音と粉塵がまだ冷めやらぬ中、十色 乃梛(ka5902)は懸命にGacrux(ka2726)にヒールを施していた。
「剣機の仕業か……?」
 Gacruxは粉々になった横たわる自らの頭の横に残った人間の残骸を見て、吐き捨てるようにいった。
 爆発したそれは誰ともしらぬ人間のものだった。バルトアンデルスにて人間がスライムになるという事件の関与でここに来たのだが。
 目の前に広がる空間はまた違った狂気の一面を見せつけられていた。
「坑道内300m地点、分岐はRLL。入り口は坑道でしたけれど、中は……死体置き場です」
 腐敗防止の為にマテリアル鉱の棺と油漬けにされているのは腕、腕腕腕腕腕腕。壁一面から腕が見える。
 少し先には頭ばかりが並んでいるではないか。
「ここは……何かしらの、いえ、ゾンビの工房のようです。その警備兵的なゾンビを攻撃した所、すぐに自爆しました」
 セレスティア(ka2691)は気分が悪くなるような光景に声のトーンを落として伝話に伝えた。
「動くのかしら……」
「そんなことより、ここのゾンビを外に出さない事の方が肝要です。ここの研究も気になるところではありますが、まずは出入りするものを止めるべきでしょう」
 腕をつんつんと触るチョココに、レイレリア・リナークシス(ka3872)が鋭く注意した。
 レイレリアには坑道の奥から、足音が聞こえていた。
「次が来たか」
 Gacruxは起き上がると、槍を構え深淵に向かって武器を構えた。ゾンビだ。
 そして物言わぬ兵士が不意に口を開けた。中に銃口が光っているそれが戦いの合図であった。
「六大の一、ゆらめく炎に命ずる。焼き放てっ!!」
 銃弾が飛び出るよりも早く、レイレリアの周囲に浮かぶ6つの水晶の内、一つが赤く反応すると同時に爆炎がゾンビの口にねじ込まれ、そのまま勢いで吹き飛ばした。
「聖なる歌よ、響け。邪を退ける力となり給え!」
 セレスティアが同時に桜の幻影をはためかせると、桜吹雪の中にまじる光から鎮魂の音色が響き渡ると、まるで幻影に見惚れるようにして、ゾンビの動きがゆるやかになる。
 その瞬間を見計らい、Gacruxは腰を落として一気に飛び跳ねると、持った槍を大きく振りかぶりながらそのマテリアルを槍に凝縮する。
「貫け、『一角』!!」
 凝縮したマテリアルは槍の頂点からほとばしり、間近のゾンビの胸を刺し貫くと同時に膨れ上がり、巨大な角となってゾンビを上下に分断し、そのまま奥までまとめて数体のゾンビを消し飛ばした。
「やった!」
 乃梛が大きく飛び跳ねて喝采を送った。先ほどは不意を撃たれたけれど、このメンバーが息を合わせれば無傷で葬ることだってできる。
 そんな喜ぶ乃梛の身体をチョココが飛びつく。
「ひゃわぁぁああ!?」
 何が起こったのか、変な声を上げて倒れこむ乃梛の後ろで坑道の外で弾丸の雨が降り注いでいるのが見えた。
 外を映す入り口の輪郭が崩れ、震える大地。
 そうだ。犯罪に染まった町に誰かが攻め込んで来れば、暗殺者養成された人間はある程度騙しとおせたとしてもゾンビは存在自体がブラックだ。歪虚とのつながりがあるとばらしているようなものなのだから。
 だとしたら。
「しまった、これって証拠隠滅……」
 立ってられないほどの衝撃の中でゾンビたちが迫って来る。
 胸に赤いランプを明滅させながら。
「!!!!!」

 地響きを伴って山で派手な爆音が響いたのは誰もが確認できた。
「坑道班!! セレスティア、チョココ!!」
 柊 真司(ka0705)が演習作戦で一緒になった仲間に向けて伝話に何度も呼びかける。
「坑道班……レイレリアです。敵の手により、および内部のゾンビの爆発から入り口が崩落しましたが、全員無事です。セレスティアさんのヒーリングスフィアで回復していますが……こほっ」
 咳き込む声に湿ったものと、石が転がる音が混じる。
「坑道班の救助に向かう!」
「馬鹿。制圧班が動いたらそもそもも目的がパーになる。攪乱班に頼む」
「……了解。もう……そっち向かってる」
 シェリルからの応答が返ってくるが、柊は直接助けに行ってやれない事に苛立ちを覚えながら走れば、壁が切れた横の路地から剣を持った男が駆け込んできていた。
 回避が間に合わない。
 マシーナリーモノクルをかけた顔に刃か打ち付けられ、血をしぶかせる柊は真っ赤に染まるモノクルから鋭い眼光を輝かせて睨みつけた。
「どいてろ」
 そのまま男の胸に押し付けた状態でディファレンスエンジンを吹かせると男は派手に吹き飛んだ。
 その後ろから男の仲間が束になって襲い掛かって来る。
「数で来ても、結果は変わらないわ」
 男達は空中で次々血をしぶかせて、柊の前に倒れ伏した。
 後ろを見れば二丁拳銃を構えたままのリアリュール(ka2003)がいた。
「悪い、助かった」
「崩落した入り口をどけようとしたら、背中ががら空きになってしまうもの」
 リアリュールは雲が沸き上がり、月灯りを半分ほど隠す空を眺めた。今日は星の配置は狂い気味だ。嵐の前……そんな予感をさせる。
「ゾンビに、反政府組織。羊飼いの村でも同じことがあった」
 あの時の星の配置と似ている。
「あの羊飼いの少年は、どうしているかしら」

 リアリュールの声に、静かな低い声で返したのはユリアン(ka1664)だった。
「……残念ながら帰らぬ人となったよ」
 リアリュールの気にしていた事件をずっと追っていたユリアンはその結末を知っていた。羊飼いの村がゾンビに襲われた事件。結果、村は消失し……少年も、彼が探し求めていた父親も。探し求める心を核に、アンデッドとなった。
 そうだ、あの時ゾンビがいた。ヴルツァライヒが関わっていた。
「坑道に隠されていた遺体……まさかとは思うけど」
「ユリアン。感傷してる暇はないぜ。そっち雪崩れるぞ」
 リューの伝話に、ユリアンは答えると、足元。人間達が右往左往する部屋に意識を集中させた。
「保護対象者は正面入り口から右手の部屋に階段がある。その下に囚われている。敵15名は入り口前に。多分全員覚醒者だ」
「了解」
 直後、リュー、ブラウ、ヴァイス、ざくろ、柊、リアリュール、美沙樹、ルナ・レンフィールド(ka1565)が一気に建物内になだれ込んだ。
 開幕にブリザードが吹き荒れる中、紅蓮の炎を纏ったリューがそれを切り裂いて血路を開く中をざくろと敵のデルタレイ、そしてリアリュールの弾丸が飛び交う。
「穏やかなる雲よ、眠りをもたらせ。ラルガメンテ……」
 ルナは静かに詠唱すると、スリープクラウドが敵方に湧き上がる。2人ほどが意識を失い崩れ落ちる瞬間、美沙樹の翠眼がキラリと光った。
「天津風よ、疾く!!」
 弾幕の間を駆け抜けて、美沙樹は刃を構えて飛び込み闘狩人の喉を貫き通した後、ユナイテッドドライブの可変装置を起動させた。
 分解する刃、乱舞する美沙樹の衣が敵陣の中で舞踊る。
「青嵐よっ!!!」
「すごいな、一気に畳みかけるぞ!」
 ヴァイスが続いて飛び込み、敵の隊列を乱しての戦いが始まる。
「ごめんなさい、先を行かせてもらいますね」
 戦禍を見に受けながらもルナは構わず走り牢獄へと走り抜けた。
 中にはまだ年端も行かないような子供から、成年まで様々な人間が閉じ込められていた。外で抵抗する人間と違うのは、ボロの衣をまとっていることと、そしてその瞳はことごとく泥の様であったことだ。
「誰……?」
「助けに来ました」
 ルナはそう言うと、牢の扉を引いた。だが、しっかりと鍵がかかっていてびくともしない。
「鍵が……」
 ルナが振り向いた瞬間、斧を手にする男がいた。
 まずい。即座にワンドを向けるものの一撃を受けるしかない。
 だが、男はゆっくりとルナの真ん前で、倒れ伏した。その背後にいたのは、刃をしまうユリアンだった。
「大丈夫? 今開けるよ」
 ユリアンは刃の代わりにシーヴズツールを取り出し、その牢の前に座り込んだかと思うと、あっという間にそれを開錠した。
「すごい……ありがとうございます。さあ、皆さん。はやくこちらへ。できるだけ一か所に集まっていてください。絶対に守って見せますから」
 ……その言葉にも彼らにはどこか他人事の様だった。扉を開けられても喜びすらしない。
 それが変わったのは階段を転げ落ちるようにして降りて来た男の一言だった。
「そいつらを殺せ!!」
 目が、恐怖に輝きだす。
 ユリアンは即座ルナをかばった。途端に囚人から畳針のようなダガーが二人を襲う。
「いやだ、いやだ。ごめんな、ごめんよ。でも、仕方ないんだ」
 囚人たちの手に捕まれていた。死の恐怖に人間達の誇りを塗りつぶされた人間はあっという間にユリアンとルナに無数の傷穴を作った。

「♪ああ、可愛い我が子達よ。ぬくもりを共に、夜を越しましょう。私がいるわ」
 髪を、腕を、つかまれながらも、ルナは優しい声が響いた。
 その瞬間、あれだけ恐怖に突き動かされていた人間がピタリと止まる。
「♪おやすみなさい。腕の中で。夢を共に見ましょうか。幸せな一時を」
 子守唄だ。
 それは伸びやかで、悲しげで。あそこまで伸びやかに歌う彼女の姿はユリアンは初めてだった。
「ルナさん……歌ってる?」
 ユリアンの問いかけに、ほんの少しだけ顔を動かしたルナはぽつりといった。
「私は歌を忘れたカナリヤ……」

「だーっ。そんな湿っぽい話は余所でやるっす! 市場制圧したならさっさと戻ってくるっすよ!!」
 神楽は叫びながら、波の様にやってくる敵方の戦線離脱者を入り口で捌きながら悲鳴を上げた。
 戦況は坑道封鎖辺りで確定的となった。そうすれば自然と敵も逃亡に傾く者が増え、逃がすなという命令の元に活動していた神楽はそれを一人で受け持つことになった。三下とは自称しているが、過重労働を一人でやらされているのは納得がいかない。後ろでアミィとクリームヒルトがいなければ一緒に逃げたのに。
 バイクの照らしたライトに人影が映る。神楽は踏みつけた人間を放り出して、走り込むとそのままドロップキックで逃亡者を蹴り倒す。
 その横から別の何人かがそのまま入り口のゲートを抜けていく。アミィやクリームヒルトもそこそこに足止めをしているが、神楽のようにはいかず、次々と取りこぼしていく。
「ローラー作戦にしてはやっぱ数が少なすぎたっす! へるぷみーっ!!」
 両腕にそれぞれ敵を掴んで、更に脚で一人と合計3人をキープした神楽は叫んだ。目の前でまた別の一人が走って逃げていく。
 その瞬間、黒い影が神楽の目の前にふりおち、その一人を踏み潰した。葛音 水月(ka1895)だ。
「あはっ。町ほっとんど潰しちゃったぁ。今度はボーナスゲームだねー」
 そう言うと、葛音はグラムを大きく振り回して踏みつけた男の足首目がけて叩きつけた。悲鳴が上がる。
「さっきから見てたよー。君、何人かに指揮してたよねー? あなたがファルバー?」
「ファバルの間違いだと思うっす」
 神楽のツッコミは聞き流されたが、
「聞き流さないでほしいっす!!」
 男は大きく首を振って助命を嘆願した。自分がファバルではないと。その言葉に葛音はつまらなさそうな顔をした。
「ええー、そうなのー? 狙ってたのに」
 葛音はそのまま蹴り飛ばして気絶させるとグラムを大きく振り回して、これから向かってくる敵に顔を向けた。
「じゃあ次はできるだけいいヤツ当てないとねー?」
 そう言うや否や、葛音はライトに映り込む人影に駆けだした。

「ファバル……ファルバ……ゾンビ……工房……ヴルツァライヒ……施設」
 ユリアンの呟きが聞こえる中、ヒースとシェリルは岸壁へと走っていた。
 坑道を潰した主。シェリルを遥か遠方から狙いすました一撃を与えた相手を捉える。
「ファバルは、お前かぁ?」
 迎撃の一撃を赤い蝙蝠の幻影で分散したヒースの一撃を篭手で受け止めた男を見て問いかけた。
「ファバル? ああ、町長を探してんのか。帝国の情報網も案外適当だな」
 黒いフードの下から、赤い瞳が輝いた瞬間、ヒースの腹目がけて蹴りが飛ぶ。それを下がって回避したヒースに冷たいリボルバーの銃口が光った。
「人形に踊らされてんだよ」
「とことん、救いのない場所だねぇ」
 その一言と共に赤髪が散った。
「それだけ聞ければ……十分……」
 否、シェリルが足の踏み場にして、ヒースを弾道から外していた。
 そしてシェリルはスナイパーの真上に跳んでいた。
「ファバルの居場所は掴めなくても……ゾンビは封じた。笑顔は……守れた。後は、お前を……倒すだけ」
「何も解決しやしねぇさ。お前が血を流して守った分だけ、また血は生まれる!!」
 剣閃と発砲音が重なった。
 そして倒れたのはスナイパーの方だった。
「赤髪コンビは……最強」


「死体は71、投降者36。合計で107……逃げたのは13人。随分逃げられましたわね」
 美沙樹は全員の報告を聞いて、腕に付けたバツ印を報告した。
「それだけで済ました俺をもっと褒めていいっすよ!」
 泥と血にまみれる神楽は地面にへたり込みながらそうアピールするのを撫でて褒めたのはアミィだ。
「そだね、おかげで計画はうまくいったよ。よしよし」
「せめてその胸で癒してほしいっす!」
 そんな神楽を抱きしめるアミィを横目に、クリームヒルトは集合してきた仲間を迎え入れた。
「無事でしたか!」
 坑道班に向かっていたメンバーだ。全員土に塗れ酷い傷を負いつつ、それぞれ仲間の背を借りながら、ゆっくり戻って来る。
「すまない。あそこの悪夢は……全部闇に葬られた」
「十色様を抱きかかえていたから怖くはなかったですけれど、目の前にずっと埋まった腕を見続けるのは辛いものがありましたの……」
 Gacruxが悔しそうにする中で、チョココはずっとげんなりとしていた。
「でも、本当に良かった……無理をお願いして、本当にごめんなさい」
 そんな彼らに頭を下げ、汚れるのも気にせずクリームヒルトは抱きしめた。
「とりあえず、残りは森に展開している部隊に任せるとして。しっかり終わりの合図をしてくれないかな」
 真水は汗で座りの悪くなった眼鏡をなおしながら、クリームヒルトにそう話しかけた。
 夢はいつか終わる。今日彼女が命を奪った感覚も……夢の扉の向こうにしまっておきたかった。でなければ早鐘のように打つ胸の鼓動を止められない。

 今日、多くのハンターが、人の命を奪うことになったのだ。それを何とも思わない人間もいれば、重くのしかかる人間もいた。
 そんな中でクリームヒルトは皆の前に立った。
「皆様、ありがとうございます。今日は多くの命が散りました。たくさんの血が流れました。これが正道だとも思いません。ですが、帝国の夜闇に巣食う病魔を払い、人々に平穏な夜を与えるのだとすれば、皆様が行ったことは間違いではありません。皆様の手で見えない多くの人を助けることができました。これからも戦いは続きます。覚醒すらできない身なれど、今日の皆様のお力を忘れず、帝国の人々の為に先陣を切りましょう。
 ゾンネン(太陽)シュトラールの夜に、闇が潜まぬようモンドシャッテ(月)が照らします!」

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MVP一覧


  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895
  • よき羊飼い
    リアリュールka2003
  • 大悪党
    神楽ka2032

  • ショウコ=ヒナタka4653
  • 背徳の馨香
    ブラウka4809
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 疾風の癒し手
    十色 乃梛(ka5902
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 町制圧&奴隷救出作戦卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/06/27 06:15:31
アイコン 教えてクリームヒルト様!
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/06/26 21:00:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/26 19:37:27