【黒鷹】カレン伯の避暑地での一日

マスター:草なぎ

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/07/15 07:30
完成日
2016/07/22 17:46

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国王都、イルダーナ。
 カレン・ブラックホーク(kz0193)は、第一街区で私服でショッピングを楽しんでいた。王国も夏真っ盛り。王女殿下も避暑地へ休息に出かけられたという……。まあ……何かとせわしないご時世。殿下も大変でしょうね……おいたわしい。カレンはカフェに入ると、通りに面したパラソルの下でテーブル席でかき氷を食べた。
「そう言えば……」
 カレンはふと手を止めた。
「少し留守にしていたわね」
 ガンナ・エントラータ方面クオレマリナ地方にある自身の領地に思いをはせる。カレンはしばらくかき氷を食べながら、思いにふけっていた……。

 イルダーナの分樹に赴いたカレンは、ハルトフォートの妹リンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)と連絡を取った。
「リンス、元気?」
「姉上。お久しぶりです」
「このところ大変だったでしょう。戦続きで。ねえ……ちょっと領地に帰ることにしたんだけど、あなたも帰らない? 付き合ってよ」
「仕事がありますから……」
「ラーズスヴァン? ちょっとドワーフに代わりなさい。あなたに休暇を取らせるから」
「いや、そんなことはいいですよ」
 と、そこでラーズスヴァンが画面に割り込んで来た。
「誰と話しとるんだリンス」
「これは……司令」
 リンスがお辞儀する。ドワーフとカレンは会釈した。カレンが事情を説明すると、ラーズスヴァンは髭を撫でて笑った。
「伯爵閣下の仰せとあらばいた仕方ありませんなあ」
「話の分かる方だと思っていたわ、ラーズスヴァン司令」
「ま、そう言うわけだ。わしが許す。ちょっと羽を伸ばして来い」
 ラーズスヴァンの言葉に、リンスファーサは肩をすくめた。
「ありがとうございます……」
 心なしか、リンスファーサの口許が緩んでいた。

 ハンターオフィスのソフィア・メイデルン(kz0177)は、画面の向こうのカレン伯爵にデジャヴを覚えた。ブラックホーク伯爵と聞いて、「ああ……」と得心がいく。よくよく聞いてみれば、リンスファーサの姉であるという。
「妹が世話になったそうね、ソフィアさん」
「いえいえ、私なんて別に、大したことはしてませんから」
 ソフィアはたじたじで、カレン伯にお辞儀した。
「あなたもおいでなさい。招待するわ」
「え?」
 ソフィアの妄想脳内が回り始めた。これは……何かの運命? 予兆?
「ハンターの手配も宜しくね。彼らには、避暑地での護衛と、客人たちのお相手などなど、招待も兼ねてしてもらわなくては」
 そうして、ブラックホーク伯爵領における避暑地での護衛兼何やかやの依頼がハンターオフィスに掲示されるのであった。

リプレイ本文

 カレン・ブラックホーク(kz0193)は、湖のほとりで寝そべって、黒い水着を着て、タブロイド紙を読んでいた。その傍らには、リンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)がいて、白い水着を着て、ジンカクテルを飲みながら、ボート遊びや水遊びに興じている地元住人を眺めていた。そしてソフィア・メイデルン(kz0177)は、赤い水着を着ていて、こちらはソーセージをつまみにビールを飲んでいた。
「ねえリンス」
 カレンが言った。
「はい姉上」
「例の件だけど……あれ、やっちゃった方がいいと思う?」
「あれ……ですか」
「あれって何ですか?」
 ソフィアの好奇心がもたげる。カレンは「ふふ……」と笑った。リンスファーサは、思案顔で呟いた。
「あれは……良く分かりませんが……熟慮の価値はあるのではないかと思います」
「どうしてそう思うの?」
「これは……空想と言うより期待なのですが、もしも、世界が今とは全く違うものになった時、将来ですよ? 近い未来ではありません。その時に、もしも、姉上がやっていなかったら、何か、楽しいことがあるかもしれませんよね? 姉上でもできる、何か」
「何かって何よ」
「それが分かったら苦労はしませんよ。ですが考えてみて下さい。クリムゾンウェストですら、もともと帝国も同盟も存在しなかった。そして、リアルブルーからの異世界転移。現実に、世界は考えられない事態に変わっています。これを予期出来たでしょうか? 世界は、今とは変わっているかもしれません」
「ふーむ、にゃるほどねえ……そういう考え方も、ある、か」
「何の話ですか~?」
「宝探しの話よ」
「え!? お宝があるんですか?」
「ふふ……それを見つけるのは、案外ソフィアさんだったりしてね」
「え~、何ですかあ~? 教えて下さいよ~」
 そこへザレム・アズール(ka0878)が姿を見せた。
「やほ、カレンさん、リンスさん、……そして君誰だっけ?」
「ハンターオフィスのソフィアですっ!(ぐっ」
「ああ……受付の女の子だっけ?」
「うう……存在感薄いなあ……私……所詮裏方は表には出れないんですね~」
「宝って何ですか?」
「そうねえ……ザレムさんみたいな人の事かしら」
「はあ? 良く分からないんですけど……何の話ですか?」
「あなたはこれから先、どこへ向かうの? リアルブルーへ帰るの?」
「俺はクリムゾン生まれですからねえ……良く分からないな」
「リンスさんみっけ!」
 メイム(ka2290)であった。
「やあメイム。その節は世話になったね」
「んもう~、リンスさん~! ブラフマー! 最後の最後はとんずらするんだから~! どうしちゃったの?」
「いや……ちょっとな。沿岸地域に羊の歪虚が急速に群れているとか何とか……緊急事態が入ったものでな」
「羊の歪虚って?」
「羊頭の、歪虚兵士たちだ。いや、それがな、文字通り動物の羊の頭なんだが、甲冑装備で武器も持っていて、ちょっと大変だったのだ」
「え~? 忙しかったんだ~」
「ああ……きちんと仕事はしていたぞ」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は、のんびりとやってくると、「今日は護衛を務めさせていただきます。よろしくお願いします」と頭を下げた。
「エル、お久しぶり」
 カレンが言うと、リンスファーサも笑顔を向けた。
「エル、ブラフマー戦ではお疲れ様だった」
「いえいえ。私など大したことはしていませんから。今日はお招きいただき光栄です。嬉しかったです。この依頼を見た時。何だか、とても不思議な感じがして」
「エルは不思議よねえ……。どこでそれだけの魔術の才を磨いたの?」
「歴史がありますので……」
 エルは謎めいた微笑を浮かべる。ところで、とエルは話題を転じる。
「東方の動きをご存知ですか?」
「東……は良く知らないわね。王国専門なの私。伯爵だからね」
「東方では、武門……西方に例えれば有力諸侯の四十八家が存在し、今、復興の最中なのです」
「へえ……彼らは貴族なの?」
「こちらのとは少し違いますが……。政をつかさどる貴族連のような人々がいますね。雰囲気は全然違いますよ。大名諸侯が割拠し、侍と呼ばれる人種が立ちあがり、今、また混乱が起きつつあります」
「ふうん……。何だかややこしいわね。民は無事なの?」
「民は……必死です。これはご存知でしょう? 九尾の歪虚王のことは」
「それくらいは知ってるけど。黒竜の力で浄化したのよね」
「ええ……」
 エルの形の良い眉が軽くひそむ。
 ガンスミス、マリィア・バルデス(ka5848)が湖から上がって来た。ウェットスーツを着て、水中拳銃を装備している。
「お楽しみのようですね、カレン伯」
「マリィア、楽しんでる?」
「ええ……。こんなところへ護衛以外で来たら何をしていいのか分かりませんね」
「何しなくて良いのよ。ただ、空気を吸って、のんびりするだけ。それだけで落ち着くでしょう? 自然があって、人がいて、声がして、食べ物もあって、リラックスしていればいいのよ」
「私は……長いこと緊張の中にいたせいか、こういう場を楽しむのに、違和感があって。胸がざわめきますね」
「あらマリィア。可愛いこと言うのね。私だってね、パーレルクラウツにいたら、ざわめくことばかりなのよ。イルダーナって、王宮って、ストレスのど真ん中じゃない? 今、陛下が生きておられたら……何て仰るかしらね」
「グラハム王ですか……」
「システィーナ王女殿下の父上。あの時、歪虚の軍に敗退してしまった……もし、王が御存命なら、いえ……言っても仕方なきことね。亡くなった方を呼び出したところで、何が変わるわけでもないわ」
「ふむ……」
 マリィアは言った。
「殿下は父上に似ておられますか?」
「面影は似ておられる。ですが、優しい王女だから。覚醒者ではないし。軍を率いて戦を起こすというわけにはいかないでしょうね」
「そうですね」
 星野 ハナ(ka5852)はお弁当を広げて、ザレムを呼んでいた。
「ザレムくん、ザレムくん~。こっち来てよ~。お弁当食べようよ~」
「ん? ああ……いや、まあ」
「どうしたのザレムくん」
 なぜか躊躇しているザレム。
「まあ、おいしそうなお弁当ねえ」
 カレンが立ちあがり、星野のもとに近づいて行った。ザレムがそれにつられて歩き出す。無意識に護衛の勘が働く。
「カレン伯」
 ザレムが止めようとした時、カレンが、星野の横に腰かけた。
「頑張ってるわね」
「なんですかぁ~?」
「お弁当は美味しそうね。私も食べて良い?」
「いいですよ~」
 星野はにこにこしていた。
「まあ、ザレムくんのために作って来たお弁当ですけどぉ~。依頼人の言葉を断るわけにも行きませんし~」
「そりゃそうよね。ザレム。あなたもいらっしゃいよ。このサンドイッチ、美味しいわよ」
「サンドイッチにはうるさいんですよ俺は」
 ザレムは星野のお弁当に手を伸ばした。星野は、わくわくしながら、ザレムが食べるのを見守った。
「ん……」
 ザレムはじっくり味見した。
「ふーむ……」
「ザレムくん、おいしいですかぁ~?」
「惜しい! 八十点!」
「八十点もくれるんですかぁ~! 嬉しいですぅ~!」
 星野はザレムの腕に抱きついた。
「やっぱり七十点かな」
「え~。意地悪~」
 むうっ、と頬を膨らませ、ザレムを見上げる星野。
 ザレムはぽんぽんと彼女の頭を叩き、
「俺をうならせる料理を作るまでには、まだまだ修行が足りないようだな」
「うう……そんなあ……ザレムシェフ厳しいなあ……」
「そりゃそうだぜ。飴の次は鞭だよ」
「きゃ~」
「ほらごらん星野。俺の弁当」
 ザレムが取りだしたのは、特上幕の内弁当。
「何ですかこれ~?」
「いいから食べてみ」
 ザレムに勧められるままに、星野は一口。
「!? おいしい☆」
 そして、星野は箸を置いた。
「……あのう、ザレムくん」
「何だい」
「また一緒におでかけとかしてくれますかあ?」
「そりゃいいよ。星野は心の友だもんな」
 はっはっはと笑うザレム。星野は、それでも顔に太陽が輝いた。
「やった!」
 星野、ガッツポーズ。簡単にはくじけないのだ。
 オシェル・ツェーント(ka5906)は、森から歩いてきた。
「こんにちは、カレンさん」
「あら、オシェル。楽しんでる?」
「ええ。ユグディラに会えました」
「ゆ、ユグディラ?」
 カレンがびっくりする。
「ここに」
 オシェルが足元をどけると、青いユグディラがオシェルの足元に隠れていた。
「まあ」
「この子、ボクになついちゃって。最初は怖がっていたんですけど……。お菓子を上げたら、とても気に入ってくれたみたいで」
 オシェルはきらきらした笑顔で、ユグディラの頭を撫でてやる。
「なあ、可愛い妖精さん。ボクのこと、好きかい?」
「にゃああああ」
「お腹すいた?」
「にゃああああ」
「何か食べたい?」
「にゃああああ」
「だそうです」
「きゃあああああああああ!」
 星野が絶叫した。
「ユグディラかわいい~! おいでおいで~」
「行きたいかい妖精さん」
 オシェルが言うと、ユグディラはオシェルの足を引っ張った。
「一緒に来いって? いいよ。行ってあげる。宜しくお願いします。はい、星野さん」
「肉巻きサンドは自信作ですからあ~。食べるかな~」
 星野は肉巻きサンドをユグディラに差し出した。
「にゃああああああ」
 ユグディラは、サンドをむしゃむしゃ食べて、満足そうだった。
「にゃああああああ」
 またとことこ歩き出すユグディラ。オシェルを引っ張ると、あっちへ行こうと誘う。
「え? あっちですか? 落ち着きのない子だなあ」
「にゃああああああ」
 ユグディラは、木陰に入ると、オシェルの肩に上って、そのまま陽光の中で眠りこけてしまった。オシェルもその姿を見ていると、眠気がして来て、うたたねしてしまった。
「ふわあああああ……ボクも、眠くなってきちゃった……ふふ……妖精さんのせいかな」
 月・芙舞(ka6049)は、桜型妖精「アリス」と一緒に、水遊びに興じていた。
「月さん、やっほ」
 カレンは声をかけた。
「こんにちは」
「平和よねえ」
「平和ですねえ……こんなところに来たら、何もかも忘れちゃいそうですね」
 アリスが月の周りを飛び回り、はしゃいでいる。
「ユグディラが出るとは思わなかったわ~」
「え? 私のところにもさっきからいますよ」
「ほんとに? どうなってるのかしら」
「ほら、おいで」
 月が手招きすると、水辺からユグディラが元気に駆け寄ってきた。
「ほ、ほんとだわ……」
「ユグディラって不思議ですよね。何のためにこんなふうに王国に生息しているんでしょう」
「そうねえ」
「でも、そんなことどうでもよくなるくらい、可愛いですっ!」
 月は童心に返ってユグディラにダイブした。草原を転げまわる月。ユグディラが嬉しそうに月に抱きついてくる。
「にゃああああああ」
「にゃんにゃん♪ ユグディラにゃ、何が言いたいのかにゃ?」
 月が猫パンチを繰り出すと、ユグディラも猫パンチを繰り出してきた。猫パンチの応酬を繰り返す月とユグディラ。
「にゃあああああ」
「にゃん、にゃん、お名前はなんでしゅか?」
「にゃああああ♪」
 月が微笑んでユグディラを抱きしめると、アリス達がやって来て、くるくると飛び回った。
 アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)と花(ka6246)もまた、ユグディラと戯れていた。
「はぁちゃんはぁちゃん♪ ユグディラなのにゃ♪ ここにもここにもいるのにゃ♪」
 アルスはユグディラと手をつないで、草原を転がりまわっていた。
(ユグディラ)「にゃああああ♪」
(アルス)「にゃ、にゃ、にゃにゃああああああ♪」
(ユグディラ)「にゃにゃああああ?」
(アルス)「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃにゃ♪」
(ユグディラ)「にゃああああ!」
(アルス)「にゃにゃああああああ!」
(ユグディラ)「にゃああああ♪」
(アルス)「にゃにゃああああああ♪」
(ユグディラ)「にゃああああん!」
(アルス)「にゃにゃああああああん♪」
「…………」
 花は微笑んでいた。
「ねえ……アルスちゃんは、ユグディラとコミュニケーションがとれるのかしら?」
 カレンの問いに、花は肩をすくめる。
「さあ……私にも分かりませんねえ。はっはっは」
 と言いつつ、花は、カレンの水着姿を至近距離から堪能していた。
「いや~。良い日和ですなあ……。リンス卿だけならまだしも、カレン伯とも御一緒出来るとは……」
「あら、何かしら」
「いえいえ、こちらの事情です」
「わ!」
 メイムがファミリアアタック。
「花さん~? さっきかから、ガン見してなかった~?」
「はっはっは。ガン見はしてませんねえ~。人聞きの悪いですよメイム君。紳士たるもの、ガン見など」
 そこへリンスファーサがやってくる。
「花……すまなかったな。ブラフマーの件。力を貸してもらったようだ」
「いえいえ……。まあ……よくよく考えると、我ながら無茶をしたものですね」
 肩をすくめる花の肩を、リンスファーサは叩いた。
「感謝してる。私としても、あれを放置しているのは心残りであったのだ。尤も、こうも事態が急転するとは予想外ではあったが」
「確かに、ね」
 花は微笑した。左にカレン、右にリンスファーサを置いて、二人から手を掛けられ、花は微笑んでいた。
「チェスでもいかがでしょうかな?」
「いいな」
 リンスファーサは花と一緒に歩いて行って、水辺でチェスを始めた。
「チェスとは興味深いゲームだ。キングがいて、クイーンがいて、ナイトがいて、ビショップがいて、毎回が、ゲーム盤の戦場だ」
「そうですな」
 言って、花はポーンを前進させた。
「あのアルスは、お前に随分なついているな」
「まあ……私の心の平和ですよ。あの子はね」
「そうか」
「ところでリンス卿」
「ん?」
「私の愛犬に名前を賜れないでしょうか?」
「愛犬に? 名付けろと?」
「ええ」
「いや……それは、すまん。止めておこう」
「なぜですか?」
「いや~、待ってほしい。私の名付けた犬が、あなたの周りに常になついていると思うと、ちょっと微妙だ」
 リンスファーサは言って笑った。
「と、いうのは冗談だが。まあ、何にしても、私がハンターのペットに名づけるのは止めた方が良かろう」
「では仕方ありませんな」
 花は微笑して、駒を動かした。
 ハクラス・ヴァニーユ(ka6350)は、ユグディラと戯れていた。
「はあい♪ ハクラス」
 カレンが歩み寄って来た。
「こんにちは。カレン伯」
「もう驚かないわよ」
「何ですか」
「ユグディラよ」
「ああ……可愛いでしょう? ユグディラ」
 ハクラスは言って、ユグディラを抱き上げて、撫で撫でした。
「にゃああああああ♪」
「伯もいかがですか?」
「ちょっ! 待って! 胸が!」
「はっはっは」
 ハクラスは笑って、ユグディラを引き寄せると、妖精をまた撫で撫でした。
「にゃああああああ♪」
「君はどこから来たのかな」
「にゃあ」
 ユグディラは、南の方角を指差した。
「南には何があるのかな」
「にゃあ」
「教えてくれるかな?」
「にゃあ」
「にゃあ……だよね?」
 ハクラス微笑。
「にゃ♪」
 ユグディラはすりすり。
「それにしても、立派な場所をお持ちですね、伯。この間、サーラトリアに行ってきましたが、そこでもユグディラの集団と出くわしましてね」
「サーラトリア……て言うと、フレデリック・ゴールド伯爵?」
「ええ」
「そう……そこでもユグディラが……。何なのかしらね」
 カレンが思案する前を、アルスがユグディラと追いかけっこしながら駆け抜けていく。
 星野とザレムは、和気あいあいとお弁当を囲んでいる。

 岩場――。
 メイムは、岩場で釣りを始めた。
 ぼのぼの~。
「兎美味しかったねあの山で~釣られた小鮒に耳を傾けよう~♪」
 ぼのぼの~。
 悠久の時が流れていく。清流のせせらぎと川鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「にゃあ」
「ん?」
 見ると、藁帽子を被ったユグディラがなぜかメイムの隣で釣りをしている。
「君も一緒に釣る?」
「にゃああ♪」
「そっか。負けないぞ♪」

 再び湖。
 エルとマリィアは、巡回していた。
「ユグディラ可愛いわねえ……でも、妖精って……どうなのかしら? 精霊の類?」
「妖精は精霊ではありませんが……。実際どうなんでしょうか。これだけ急に発生し始めるのを見ると……何かの兆し……異変……が起きようとしているのかも。不思議ではありませんね」
「ん~。銃の出番がなさそうねえ……。ユグディラが相手じゃね。羊の歪虚がどうのこうのって言ってたけど、そっちの方ならやりがいがあるのよねえ」
「私は両方行けますけどね」
「大魔術師極まれり、ですものね」
「ガンスミスも、極めているんじゃないですか?」
「極めたら普通は平和になるはずなんだけど……私何で異世界に飛ばされたのかしらね……ロッソの罠か、東国なら孔明の罠って奴よね」
「何ですかそれ……こうめい?」
「まあ……大昔の軍師ね。私も良く知らない。でも、その道ではレジェンドだから」
「へえ……」
 エルは目を丸くした。
 歩いていると、目を覚ましたオシェルがユグディラと戯れていた。
「御機嫌そうね。オシェル」
 マリィアが声をかけると、オシェルは笑った。
「やあ、美女二人、世界は平和かい」
「やあねえ。あなたが平和でしょ」
「はは……エルさん、ユグディラ触ります?」
「ユグディラですか。可愛いですね♪」
 三人は、ユグディラを囲んで雑談に興じた。
「平和が一番ですねえ……」
 オシェルがのんびり言うと、エルは笑った。
「でも、まだ、戦いは続きますよ」
「それは……リアルブルーでしょう? 異世界転移。信じられないなあ……。理解不能のマシンテクノロジー、マテリアル、別世界の狂気……。まだまだ戦うんですか? どこまで行くんでしょう」
「どこまでも」
「はっはっは」
 オシェルは笑って肩をすくめると、ユグディラを抱き上げた。

 月とハクラスは、湖のほとりで、ユグディラと一緒に水遊びに興じていた。
「月さんはリアルブルーから来たんだよね」
「ええ」
「やっぱり……帰りたい……?」
「そりゃ……帰りたくない……て行ったら嘘になるわよね。リアルに考えたら、やっぱりリアルブルーが一番だって思うもの。私らにしてみたらね。ん……でも、こっちの世界にも馴染んでしまったし……。リアルブルーが、どうなってるか、想像もつかないのよね……ロッソに乗れるのは嬉しいけど」
「そうなんだ……。でも、寂しいなあ……。ハンターのみんなが、いなくなるかもしれないんだよね」
「そうよね……。それもリアルよね……。みんな、戦ってきた、仲間だもんね」
 二人のハンターは、寂寥感に一瞬包まれた。一瞬ではあったが。
 ユグディラがそれを打ち破ってくれた。
「にゃああああああ♪」
「にゃああああああ♪」
「にゃああああん!」
 ユグディラたちは、二人の周りを駆け回った。

 再び岩場。
 アルスが出掛けると、メイムが釣りをしていた。
「メイムちゃん。釣りなの~?」
「そうだよ。この子とね」
「にゃああああああ! ここにもユグディラにゃあああああ!」
 アルスは大はしゃぎ。
「釣りするの~」
「どれどれ……」
 メイムが手伝ってあげる。
「えい!」
 糸を垂らす。
 …………。アルス、焦れて来た。
「やっぱり駄目にゃ! あたしは手づかみにゃ!」
 アルスはデールを脱いで水着で川に飛び込んだ。
 ユグディラも我慢できずにダイブ。アルスとユグディラは川で魚を探す。
 メイムのアイスボックスには、きっちりと小鮒をゲット。

 夜……。
 キャンプファイヤーに皆が集っていた。カレンも、リンスファーサも、ソフィアも、シャツにスカートに着替えていた。
 メイムが釣って来た小鮒を串を打ってたれにつけてスズメ焼きという料理に加工する。ザレムがそれに特製のたれを付けて、焼き魚に仕立て上げていた。
「ザレムくん、炎がきれいだね」
 星野がスズメ焼きを頬張りながら言うと、ザレムは笑った。
「今日の星野は綺麗だよ」
「ありがと……。♪ スズメ焼きおいしいな」
 ザレムくんのやる気スイッチは……料理と見たぞ……これは……ほんとなのか!? 星野、大発見!
「カレンさん」
 メイムが言った。
「こうして会うのは初めてだったけど、楽しかったよ。炎が、幻みたい……」
「みんな……炎を見るとそう言うのよね……」
 エルは、それに応じて、呟いた。
「炎ですね……命か……魂か……言霊か……生きとし生ける者を燃やす神の火」
「あなたの心は、まだ燃えてる?」
「はい♪」
 エルは笑った。
 マリィアは、銃を手に、カレンに歩み寄った。軽くお辞儀する。
「今回はどうもありがとうございました、またのご用命を是非お待ちしております」
「では、ガンスミスに敬意を表して、乾杯しましょうか。いつか、ガンスミスと腕を競いたいわね」
 カレンはワイングラスでマリィアと乾杯した。
 オシェルと月は、ユグディラを伴って、炎を見ていた。
「炎が綺麗だ」
「にゃああああ」
「君も綺麗だよオシェルさん」
 月の言葉に、オシェルは肩をすくめた。
「本当に綺麗なのは、月さんの方だよ♪」
「まあ、あなたが私をからかうの?」
 月はくすくすと笑った。オシェルも笑った。
 ユグディラは不思議そうだった。
「にゃあああ……」
 花は、ハクラスと、ユグディラを抱いて寝るアルスとともに、炎を見つめていた。
「ユグディラ……猫……にゃんこ……♪ うふふ……」
 アルスは、寝言を言って、花の膝枕で眠っていた。力尽きたようだ。
「アルスさんは可愛いですねえ」
 ハクラスが微笑むと、花は微笑した。
「この小さいのには振りまわっされぱなしでね」
「案外、楽しそうにしているじゃないか花さん」
「そう見えるかい? なら嬉しいね。この子は、大事な子なんだ」
 花は笑って、炎に目をやる。人々がヴァイオリンとフルートの音色に合わせて踊っている。カレンとリンス、ソフィアもその中にいた。
「私は……ユグディラにまた会えて楽しかったよ。この炎は、美しい」
「このシャッターチャンスを逃してはならないね」
 花はPDAを取り出した。
 アルスを撮影する。
 そして、炎の周りで踊る人々を撮影した。
 今宵はワンダーキャンプ。だが、この休息がひとときであることを、みな分かっている。また、帰らなくてはならない。時の傍観者から見れば、人は生まれた瞬間に死んでいるのかもしれない。だが、ともあれ、今を生きる人々に、明日はまた来る。明日は死なない。みな、生きて行くから。
 そして、最前線ではあるいはロッソが星々の大海へと飛び立とうとしているのかもしれないこの異世界で、ハンター達は、生きて行くのだ。

 …………。

 帰路――。
 カレン伯は、疲れて眠っているソフィアの顔を眺め、また窓の外に目を向けた。馬車は王都へ向かって進んでいた。
「良い旅だったわね」
 カレン・ブラックホーク伯爵は、束の間の旅を終え、王都イルダーナへと帰還した。

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参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

  • オシェル・ツェーント(ka5906
    人間(紅)|19才|男性|符術師
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師
  • 魅惑のぷにぷにほっぺ
    アルス・テオ・ルシフィール(ka6245
    エルフ|10才|女性|霊闘士
  • 仕事が丁寧
    花(ka6246
    鬼|42才|男性|疾影士

  • ハクラス・ヴァニーユ(ka6350
    人間(紅)|24才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/14 20:36:15
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花(ka6246
鬼|42才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/07/14 15:37:34