羊の婿入り

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/11 07:30
完成日
2014/09/16 08:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ゾンネンシュトラール帝国の主要産業と言えば、羊の放牧である。
 そして、秋と言えば羊の交配の季節である。
 普段は放牧されて自由に草を食べている羊達も、この時ばかりは厳重に管理されることが多い。この冬や春に生まれたばかりの若い羊は、まだ仔を為すには早すぎるからと雌雄別に隔離され、特に美味しい肉を、もしくは品質のいい毛を産出する血統の羊は、やはり優れた性質を持つ羊と掛け合わされる。
 そして、時には優れた形質を持つ羊同士が、離れた村まで『嫁入り』もしくは『婿入り』することもある。
「いやぁ、以前も思ったけれど、やっぱりいい毛じゃなあ!」
 3日ほど離れたミレーの村から、このレベルクの村までやって来た老人は、嬉しそうに目を細めた。
「毛織物も見せてもらったが、いいものだった。温かさも染色の具合も、軍用のコートに……いや、師団長のコートにしたって恥ずかしくないだろうさ」
「そりゃあ光栄だ。それに、この村にいてもやっぱり、帝套(テイトウ)のせっかくの素晴らしい毛を生かしきれないからな……」
 少し寂しげに言ったのは、レベルクの村の村長であり、帝套と呼ばれた羊の飼い主だ。
 皇帝の外套、そう名付けられた羊は、確かに他の羊より一回り、いや二回りほども大きかった。一回りは体の大きさだが、もう一回りは毛の豊富さだ。
 放牧によって少し汚れているが、それでもつやのある質の良い羊毛だと、羊飼いが見ればわかる。しかも密度が高くてとても温かく、染めれば綺麗な色となって、目をも楽しませてくれる。
 先祖から何十代にも渡って掛け合わせてきた良き毛の血が、ついに今代にて大きな実を結んだ、そんな努力の結晶たる名羊。
 しかし、このレベルクの村には、その素晴らしい毛を生かすだけの環境が足りない。羊毛の加工の規模も小さく、また今の代の雌羊には、この帝套と掛け合わせることができるだけの品質の毛を生み出せる者はいないのだ。
 レベルクよりも大きいミレーの村ならば、もっと大々的に羊毛の生産を行っている。帝套と掛け合わせられるほどに素晴らしい雌羊もいるようだし、羊毛の毛織物への加工も大規模に行っているし、その品質を買われて高級洋服店や、あるいは帝国軍への出荷も行われていた。
「せっかくこれだけ素晴らしい毛を作ってくれるんだ。ミレーの村に行った方が、幸せってもんさ」
 そう老人――ミレーの村長に言うレベルクの村長の顔は寂しげだが、その表情に悲痛なものはない。
 帝套がミレーの村でも大切にされるだろうとはわかっている。ミレーの村長は羊を愛する温厚な人間だ。
 そして、毛織物産業によって、彼の家もミレーの村も、非常に豊かでもある。帝套の『婿入り』の礼として、かなりの額の金貨がレベルクの村に渡されていた。これがあれば、毛織物を作るための織り機や糸紡ぎ車を増やすこともできるし、羊以外の家畜を飼うこともできるだろう。それに今年の冬は、レベルクの村では全ての家が、全ての村人が、凍えも飢えもせずに暮らすことができるだろう。
 さらに、帝套が仔を為せる限りは1年に1頭、帝套の仔を譲ってくれるという。1頭の羊の代価としては、この上ない条件であった。
「向こうでも元気でな、ミレーの村でもみんな大切にしてくれるからな」
「おう、よろしくの。仲間と別れるのは辛いかもしれんが、またうちの村でも仲間ができるさ」
 レベルクの村長が名残惜しげに、ミレーの村長が親しげに帝套の頭を撫でれば、まるで言葉を解したかのようにメェと人懐っこく帝套が鳴いた。
「さて、明日の朝には護衛してくれるハンター達も到着するな。今日はうちに泊まって、ゆっくりして行ってくれ」
「おお、嬉しいのう。お前さんとこの塩漬けマトン、レシピはもらったんじゃがやっぱりお前さんの作ったのが一番じゃ」
「ははは、うちは肉の美味い羊も育ててるからね」
 なんとも和やかな、愛羊の婿入り前夜の風景であった。

 翌朝、到着したハンター達を迎え、幌馬車に帝套を乗せたレベルクの村長は、ぽんぽん、と二度その毛並みを軽く叩いて。
「達者でな」
 僅かに潤んだ瞳をけれど笑みの形に細め、そしてハンター達に深く頭を下げ、帝套の旅を守ってくれるよう頼み込んだのだった。

リプレイ本文

 幌馬車に乗り込んだ羊の帝套は、おっとりとした瞳でレベルクとミレーの村長、そしてハンター達を見つめていた。
(皇帝の外套で帝套ね……安直だけれどなるほどね……)
 そう思ったエルティア・ホープナー(ka0727)も、思わず頷くほどの見事な毛並みであった。
「もふもふさんの護衛って聞いて来たんだけど……確かに、この羊さんすっごくもふもふ……!」
 もふっても良いかしら、と尋ねて、もらった快い了承に、ミリア・アンドレッティ(ka1467)はすぐさま荷台に飛び乗ってその毛並みを、もふもふを楽しむ。
「こんな立派な羊、初めて! 私ももふもふしたくなっちゃいます!」
 目を輝かせたシェール・L・アヴァロン(ka1386)にも、どうぞどうぞ、とレベルクの村長は嬉しそうに頷く。
「もしよければ、どんなにいい毛並みだったか話を広めてもらえると嬉しいですのう」
 抜け目なく、けれど羊への愛情たっぷりの様子で、ミレーの村長はにっこり微笑む。
「ミィリアでござる! 旅の間どーぞよろしくねっ!」
 さらに帝套に向かってにっこり笑うのは、サムライ目指す少女ミィリア(ka2689)。
「羊さん、お婿さんに行くのですね。無事に婿入りできるよう、護衛の仕事をしっかり務めてあげなければ、です」
 ふぅわりと、コーネリア・デュラン(ka0504)が目を細めて微笑んだ。ミリアやシェールが思う存分、といっても帝套にストレスをかけない程度にもふもふを楽しんでいる様子に、そっと手を伸ばせば温かで優しい弾力が返ってくる。柔らかなのに手を押し返す、ボリュームのある毛だ。
(コートですか――アイドルの子に渡したなら。これからの時期、役に立つでしょうね)
 そんな仲間達と愛らしい羊の様子を眺め、ふと馴染みの少女へと思いを馳せてから、アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)はレベルクの村長へと向き直る。
「動物を育てる事を生業とする人にとり、育てたものは、資産であり、誇りであり、家族であると聞きました」
「そうですな。単なる資産とは言えませんが、資産としてもこれだけの価値ある羊を育てられたことは確かに誇り。そして、大切な家族にも違いない」
 アナスタシアの言葉は正しいと、レベルクの村長は寂しそうながらも幸せそうに頷く。
 表情を変えぬまま、けれどアナスタシアは深く頷いた。
「帝套の旅。この身の及ぶ限りお助け致します」
「よろしくお願いいたします」
 レベルクの、そしてミレーの村長が、揃って頭を下げる。
 そして――住み慣れたレベルクの村を後にして、帝套の旅は始まったのだった。

 かたかたと景気のいい音を立てる幌馬車の屋根の端に、エルティアは心地良さげに座っていた。
 周囲に何か危険がないか見張るという実利もあるが、秋色に染まりつつある景色を楽しむのも乙なもの。すぐ隣では梟のフォグが、うとうとと羽毛に頭をうずめていた。
 まだ雑魔の目撃証言がない場所ということで、今はレベルクの村長が御者を務めていた。適切なスピードや馬を御すコツを聞いて、午後からはハンター達と交代する予定である。
「このくらいの速さだとね、羊も嫌がらないんですよ。あとは、わだちを外れてしまうとひどく揺れるので、外れないよう気を付けることかな」
「なるほど、気を付けます」
 レベルク村長の説明に、アナスタシアが頷く。これから御者を務めるためでもあったが、純粋に興味もあった。
「手綱でこれだけの人数が乗れるものを動かせる――機導とは異なる神秘です」
「ははは、わしらにとっては機導術の方が不思議に見えますがねぇ。けど、確かに上手い人が馬を操る様子は、魔法みたいにも見えますな」
 そう笑う村長だが、彼自身の手綱捌きもなかなかのものだ。
 アナスタシアと反対側に座ったコーネリアも頷く。見聞を広めるためにエルフの里から出てきた彼女には、まだまだ全てが珍しい。
 一方幌馬車の中では、ミリアが幸せそうに帝套をもふっていた。明かり取りの窓から日の入る場所を選んで、帝套はぽけっとした様子で撫でられるままになっている。時折ミリアの方を見るが、嫌がっている風ではない。
 帝套は、のんびりと岩塩の塊を舐めていることが多かった。揺れる馬車に体調を崩さないようにと餌は控えめにされていたが、羊が好み不足しがちな栄養素も補給できる塩ならば、胃腸を刺激することもない。
 反対側では、ミィリアがミリアよりも少しおずおずと、帝套の毛並みを撫でている。ミリアの遠慮のなさは、もふもふ愛と経験から来る、慎重な相手の気持ちや体調の見極めから来るのだから、真似するのは難しいかもしれない。
「ミリアのように帝套といっぱい仲良くするには、どうしたらいいでござるかね?」
 そう尋ねたミィリアに、瞳を輝かせるミリア。
「まず、目と態度を見て嫌がっていないか確認してね、見分けるコツは……」
 もふもふしながらのミリアの話は、昼休憩のために馬車が止まるまで続きそうであった。
 その様子に目を細めてから、シェールはちらりと幌を開き、後方に馬車を狙う者がいないか確かめる。雑魔の目撃は森の中でしかないとは聞いているが、念のためだ。
 怪しい動きがないことを確かめて、ほっと一息。そしてシェールは、手元のキャンバスに目を落とした。依頼の中でも、持ち運びが苦にならないような大きさのものだ。
 温かで、大きくて、ふわふわもこもこの毛並みも。のんびりとした様子も。優しくおっとりした瞳も。画布の中に、そっと思い出として織り込みたくて。
 疲れたら休憩だ。もふもふしてみたいのは、シェールも同じ。
「気持ちいい……やめられなくなりそうです」
 癒されたら再び、名残を惜しみつつ見張りと共に絵筆を。きっとこの依頼が終わるまでには、美しい絵が出来上がるだろう。

 太陽が西に傾けば、馬車を止めて夜営の準備を始める時間。
 エルティアがロープに鳴子を通し、夜営地を取り巻くように張り巡らせる。
「フォグ、行って。何かあればすぐ帰っていらっしゃい」
 その言葉に頷くように一声鳴いて、ばさりと翼を広げたフォグは上空へと飛んで行く。その頃には火が熾され、肉の焼けるいい香りも漂い始めていた。
 念のため縄で繋いではいるが、馬車から出してもらった帝套は、外の風に目を細め、心地よさげに街道脇の草を食んだ。野営の準備はしっかり手伝ってから、肉が焼けるまではとやっぱりもふりに行くミリアである。
 焚き火を囲んでの食事には、土産にともらった塩漬けマトンの包みを開く者も多い。昼間から上手く塩抜きをしておいた者もいれば、塩の風味を生かすべく薄切りにして焼く者もいる。
「少し赤みがかっているのも、それはそれで美味しいものでしてね」
 にこにことレベルクの村長が言い、ミレーの村長がそれに頷く。羊の肉は完全に焼かなくても心配なく食べられるのだ。
 ならばと大きく切った塊肉を火が通り過ぎないうちに引き上げて、ナイフで切って頬張ったミィリアの頬が、見る見るうちに落っこちそうにほころぶ。
「おいしいでござるるる! お肉が長持ちするだけじゃなく美味しくなる……すごい!!」
 少女の素直な感動ぶりと、嬉しそうに微笑む村長達に、旅の仲間の期待も高まる。薄めに切った肉をパンに挟み、砕いたナッツを振りかけてマトンサンドにしたエルティアが、一口食べてぱちりと目を瞬かせ、深く頷いた。
「絶品ね。明日の夕食も、これにしようかしら」
「これは……美味しい、です――これまでに味わったものよりもなお……!」
 ゆっくりと肉を焼いていたアナスタシアも、一口食べた瞬間目を見張る。じゅわりと広がる肉汁は、岩塩の優しい塩味と香辛料の香ばしさを存分にまとい、マトン特有のクセを和らげるだけでなく、それを旨みへと引き上げていた。
「帰ったらほかの人にも差し上げなくては」
 そう言って、肉が万が一にも傷まないよう、残った分をしっかりと包み直すアナスタシア。一方ミィリアは、勇気を出して尋ねてみる。
「れ、レシピとか教えてもらえないでござるかな?」
 帰ってからこの感動を友人に広めたいでござる、とのその思いに、快く村長は頷いた。
「ハンターの方でしたら、香辛料も手に入りやすくて作りやすいかもしれませんな。羊肉はどこでも手に入りますが、もちろんレベルクの羊肉を使うのがオススメで、部位は……」
 ぱぁっと顔を輝かせ、急いでメモを取るミィリア。シェールやコーネリアも、貴重なレシピの話に、耳を傾ける。
「名産品の作り方、教えていただいてよろしいのですか?」
「ははは、作って大々的に売り出されては困りますが、個人的に作って広めてもらうのは幸せなこと。自慢のレシピですからな」
 誇らしげな村長の言葉にほっとして、コーネリアはそっと作り方を書いたメモをしまいこむのだった。

 交代で火の番と見張りを行ったハンター達は無事に朝を迎え――少しゆっくりと進んだ2日目の道中も、森の入り口が見えたところで終了だ。
「森を抜けるのは明日にしましょう。今から森は危険だもの」
 フォグを空へと放ってエルティアが言えば、仲間達もそれに頷いた。ここまで少しゆっくりと旅をしてきたのは、森に入らず夜営をするため。
 言い換えるならば、明日の昼のうちに森を通り抜けるためだ。
「暗くなっちゃったらいろいろ不利だもんね。森攻略は明日がんばろー!」
 元気に拳を突き上げて、ミィリアがアナスタシアやコーネリアと一緒に薪を探しに向かう。その間にエルティアが用心のための鳴子を仕掛け、シェールとミリアが食事の下ごしらえなどを始める。連携にも慣れて、準備が整うのは昨日より早い。
 やがて焚き火が赤々と燃え上がり、一向は楽しく旅の食卓を囲む。
 草を食べ終え、うとうとと眠そうな帝套は、ミリアが誘導して再び馬車へとお戻り願う。仲間と離れて寂しいだろう帝套が良く眠れるように、さらに自分も幸せになれるように、見張りをしない間は休みながらももふもふしちゃう所存だ。
 最初の見張りに入るため、火を絶やさないよう薪を足すコーネリア。エルティアとシェールは寝袋にくるまり、ミィリアが森の方に、アナスタシアが反対側に目を凝らし――夜は、更けていく。

 幸いにして、交代前もその後も、雑魔が森から出て来る事はなかった。
 朝日が昇り切ってから一同は幌馬車を進める。御者を務めるのは、主にアナスタシアとシェールだ。
 2人のうち御者をしていない方とコーネリアが前方と側方の警戒を行い、エルティアが馬車の上で、ミィリアが荷台の後ろに座って後方などの警戒を行う。昨日よりも速度を上げて走る馬車に帝套がストレスを溜めないよう、ミリアは村長を手伝ってのケア係だ。
 朝食をしっかり取ったから、昼を過ぎても馬車は止めず――太陽が中天を過ぎた頃、はっとミィリアが声を上げた。
「来たでござるよ! 後ろから、数は……4匹でござる!」
 その声に、手綱を取っていたシェールがさっと馬車を止める。衝撃が来ないよう、けれど急いで。
 アナスタシアとコーネリアが、さっと御者台から左右に飛び降りる。
「すとーっぷ! ここでミィリアと御手合わせ願おう、でござる!」
「やっぱり野良じゃ毛並みが悪いわね……帝套とは大違いだわ」
 エルティアが屋根から、ミィリアが荷台の後ろから飛び出し、得物を手に敵を抑えに向かう。ぐっと腕まくりしたミリアの腕には折鶴の模様、それが露わになると同時に、桜吹雪の幻影が勢いよく舞い上がる。
「村長さん、帝套を守るのは任せてね!」
 ミリアが青い宝玉を持つワンドを手に、荷台の後ろに立った。エルティアとミィリアが駆ける間に、2人にウィンドガスト、風の守りの魔法をかける。
 その2人の間を縫うように、馬車の後ろまで来ていたコーネリアがさっとチャクラムを投げた。漆黒の雑魔はさっと飛びのいたが、コーネリアはその間にランアウトで一気に距離を詰めていた。ミリアの風の守りが、コーネリアにも加護をもたらす。
「ふふ、躾のなっていない駄犬ね……物語のスパイスにもならないわ」
 エルティアに噛み付こうとした雑魔の前で、アナスタシアが咄嗟に作った光の防壁がパァンと爆ぜた。すっと踏み込んだエルティアが、槍にマテリアルを込めて振り抜いた。雑魔の身体ががっとのけぞったところで、さらに石突が顎に強烈な一撃を決める。
 黒き蛇の幻影が彼女の腕の上で威嚇するように揺らめき、蒼い瞳を眇めた。
「後ろに行ったら、めっ! でござる!」
 迂回しようとした雑魔の前に、さっとミィリアは躍り出る。進路をばしんと巨大な盾で防いで、そこにドリルナックルの強力な一撃!
「雑魔には、容赦致しません」
 アナスタシアがアルケミストタクトを操作し、それでも抜けてきた一匹にエレクトリックショックを解き放つ。雷撃が漆黒の身体を撃ち抜き、動きが鈍ったところをコーネリアが仕込み杖をすらりと抜いて脚を狙い斬り捨てる。
 何とか回り込もうとする雑魔を、ミィリアは食い止めつづけていた。じれて食いかかってきたそれを、巨盾で受け止める。牙が滑ってついた傷は、待機していたシェールがすぐに癒しを送る。
 役目を果たし通すのも、また侍道――たぶん!
「今日はこの子の未来を綴る為の物語なの。貴方達の出る幕はないわ」
 あらかた片付いた戦場の中で、最後まであがく雑魔に槍の穂先を打ち降ろし、そのまま踏みつけ槍を突き立てる。
 断末魔の悲鳴は、雑魔の姿と共に消えて行った。

 ――再び、幌馬車は皆を乗せて動き出す。
「もふもふ……? い、いえ。これはケア、です。誤解なさらないでください」
 ちょっと視線を逸らしながらも、アナスタシアが戦闘の物音で緊張したであろう帝套のことを、第一に考え落ち着かせてあげようとしたのは事実。
 そんな彼らが無事に森を抜け、ミレーの村に着いたのは、4日目の昼頃であった。

「帝套……レベルクの想いを抱いてミレーに嫁ぐ貴方に、素敵な物語が続きますように」
 新たな群れに合流し、安堵した表情の帝套の頭を、エルディアが願いと共に撫でる。メェ、と頷くように帝套は声を上げる。
 とても名残惜しげなミリアを先頭に、みんなで最後に撫でさせてもらったり、もふもふしたり――そんな中で、シェールはそっと完成した絵を、レベルクの村長に渡した。
「本物の帝套には全然及ばないけれど……。よかったら、もらってください」
 驚いた様子で受け取った村長は、はっとした後幸せそうに顔を綻ばせる。
 画布に丁寧に描かれたのは、ふかふかの帝套と、その横で佇む村長自身の姿。
「ありがとうございます……皆さんの、そしてこの絵のおかげで、この旅は悲しいだけじゃなく、素晴らしい思い出になった」
 物語は紡がれる。ミレーの村に住む帝套にも、レベルクに戻る村長にも。
 けれど、道が分かたれても――きっとどこかに繋がりを感じながら、どちらも歩いて行けることだろう。

依頼結果

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MVP一覧

  • 不動の癒し手
    シェール・L・アヴァロンka1386

重体一覧

参加者一覧

  • ピュアアルケミーピュア蒼
    アナスタシア・B・ボードレール(ka0125
    人間(紅)|14才|女性|機導師
  • 戦場に咲く白い花
    コーネリア・デュラン(ka0504
    エルフ|16才|女性|疾影士
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 不動の癒し手
    シェール・L・アヴァロン(ka1386
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • もふもふを愛しもふる者
    ミリア・アンドレッティ(ka1467
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 羊を届けに
エルティア・ホープナー(ka0727
エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/09/11 01:39:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/06 23:45:19