• 詩天

【詩天】交流、時々売り込み

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/18 15:00
完成日
2016/07/26 20:00

みんなの思い出

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オープニング

「へえ、西から来たのかい。遠いところからよう来たね」
 詩天というエトファリカ連邦に属する国の中央都市『若峰』にたどり着いたミネアが挨拶すると、町人はまだ幼さの残る彼女の姿と、海を渡って来たという事実との相反ぶりに驚いているようであった。
「エトファリカには色んな縁がありまして。まだ右も左もわかりませんけれど、よろしくお願いいたします」
 お辞儀するミネアに興味を持ってくれた町人は、まあまあと相好を崩した。
 が。そんな笑顔が少しばかり強張る。
 何か失礼なことをしてしまっただろうか、と肝を冷やしたミネアであったが、町人の視線はミネアではなく、その背後にあるとすぐ気付いた。
 視線を追って振り返ってみれば、羽織袴に刀を二本挿した男が歩いていた。暑さの為か気崩した格好に、鋭い目つきをして周りをうかがっている。
「あれは即疾隊っていうのよ。一応詩天の首都警備隊として発足したっていうけど……あの雰囲気じゃねえ。余計に治安を悪くしてるんじゃないかしら」
「確かに、ちょっと雰囲気怖いですね」
 お仕事できるかなぁ。
 ミネアは商人。先日は山の方で詩天の果物などをいただいたので、そのお礼と思ってこちらに来たのだけれど。
「何をおっしゃいますか。詩天の兵は、歪虚の手に落ちた城を取り戻す為に躍起になっております。農村部では泥田坊という雑魔を筆頭に、カニだ、カエルだ、クモだと色んな雑魔が跋扈する始末。ここで志を持つ人間がいなければ当主様も本格的な詩天復興活動を展開できませぬ。あらゆる脅威に即時対応できる即疾隊はこのご時世には必ず必要なものでございましょう!」
 !?
 いきなり立て板に水を流すような勢いでまくしたてられ、ミネアも町人も目を丸くした。
 話すのはそのどちらでもなく、真横から割り込んできた薄墨の衣を見に纏った女であり、ミネアも町人もよく知った顔であった。この詩天の勘定方、ようするに財務を司るところで役人をしている女、五条君香だ。
「ご、ご、五条さん?」
「不安もよくわかります。ちょっと粗野であるとか、コミュ障気味であるとか、だいたい前のお家騒動であぶれた浪人共の寄せ集め、何の役に立つのって思われるのも当然の事。しかし、彼らは詩天を心から良くしたいと自ら立ち上がった者達。その志の高さたるや峰より高し。飯は食わねど高楊枝なのであります。今日とて先日山登りして手に入れた山菜各種の飯の種をみんなで分け合って、ご飯粒の数まで均等に分け合っていたなど涙無くして語れませぬ」
 五条は拳をぎゅっと握り締めて、涙を浮かべつつそう語ると、訝しんでいた町人もさすがにため息を漏らした。
「そんな人達だったんだねぇ。単に飯にありつくためだけに寄り集まって、御大層なことを言っている連中だと思ってたよ」
「即疾隊の良さを知ってもらえないのは、1ふぁんとしても大変残念なところ。特に最近入隊された壬生殿の颯爽たるお姿たるや……局長も捨てがたきところでございますが」
 だんだん、ノロケかボヤキかよくわからない状態に、ミネアはくすりと笑った。
 五条はお金稼ぎにはとにかく辣腕を振り回すような人間で、先日ミネアも友達のハンターも随分振り回されたが、故郷の為に全身全霊を傾けている様子は良くわかるし、おそらく眉目秀麗であろう彼らに思いを寄せるような純情さも持ち合わせているのだと、ミネアは思い直した。
 愁いを帯びた眼で即疾隊の後ろ姿を見送る五条に対して、ミネアは自分の馬車に積んでいた木箱を下ろして彼女に呼びかけた。
「それなら。町の人と一緒にお食事とかいいと思いますよ。ご飯を食べながらみんなでお話したりとかすれば、お友達になれる機会とか、相手のことを良く知る機会っ絶対できますから」
「残念ながら、即疾隊には振る舞うような飯もない有様で……」
 と振り返った五条に、ミネアは笑顔で箱の中につまったジャガイモを見せた。
「先日の果物狩りのお礼です。詩天ではどこもご飯に困っているっていうから。これ、帝国では主食なんですよ」
 そんな笑顔のミネアに、五条は目をぱちくりとさせた。
「ミネア殿、それでは貴女様の儲けは……前回はこちらの無理を飲んでくださったばかりか、雑魔退治まで手伝ってくださったというのに……」
「困っている時はお互いさまですから。みんなに幸せを運ぶのが商人としての私の仕事ですからね! それにジャガイモは安くて保存もきいて大量ですから、詩天の人にもその良さをわかってもらえたらなって……って、わぁ、五条さん。いきなりどうしたんですか。ハンカチハンカチ!」

 そういうわけで、若峰の住人と即疾隊の間を結ぶキューピッド兼お食事会運営メンバーの募集が始まった。

リプレイ本文

「さあ、飯だ。飯だ。みんなで食べよう」
 即疾隊の羽織を着た人間が太鼓をででんと鳴らし、声を張り上げた。
 見た目はともかく雰囲気はチンドン屋なそれであり。元々戦いに命を賭ける戦士であった彼らにはもう顔から火が出そうな仕事だったに違いない。
「赤くなることもないでしょ。もう、こういうのは楽しませるのを楽しむくらいにならないと」
 ユリア・クレプト(ka6255)はノボリを軸に螺旋を描くように空を舞い、その頂点で倒立していた。そんな彼女が目立たないはずがない。あちらこちらから拍手が飛び交う。
「即疾隊のいいところ、ちょっと見たいと思いませんか。お兄さんたちの剣捌き、ご覧あれ」
「ミネアのジャガイモ、ちょっと食べたいと思いませんか。お昼から寺のお堂にて。炊き出しですよー」
 フリルのいっぱいついたワンピース姿のリラ(ka5679)と着物の柄に桜が咲きこぼれる愛梨(ka5827)が、つないだ手に持つバスケットを大きく上に掲げて、声を合わせる。東西の少女が声を揃える様子は、ああ、今日は何かしらの橋渡しが行われる日なのかと観客たちの心を引きつける。
「しかし、いきなりなんでまた我らと町人との交流など……即疾隊の仕事に情は禁物……」
「そーゆーこと言うところが間違ってるの。そもそも食べられなかったら身体は動かないし、餓えれば尖った空気は隠せなくなるの。そんな人に何かを相談したり、情報をもちかけたりすると思う? 貴方たちはまずちゃんと食い扶持を稼ぐべきなの」
 やっぱり誇りが取り切れない即疾隊の面々が思わず口をとがらせることに、リュートを鳴らしながら歩いていたディーナ・フェルミ(ka5843)がぴしゃりと言い放った。
「いや、でもこの前山菜摘んだし」
「その後はそれを消費するだけの生活はいいとはいえないの。応援している人がいるんだから、それに応えるべきなのよ」
 ディーナの言葉に即疾隊は何とか言い返そうとして……折れた。
「ごもっともです……米粒数えているだけの生活はもう嫌だよな」
「それでは、まずは即疾隊の方々の剣捌き。さあ、ご覧あれー」
 ユリアはそう言うと、失敗したチラシを数枚天高く放り投げた。風に乗ってたゆとう紙がゆらゆら、目線の辺りに落ちて来た瞬間、即疾隊の面々の眼光が鋭く光った。
 !!
 次の瞬間、紙が空中で四散した。
「うわぁ、すごいね。おっ母、見たいよ」
 拍手しながら、少年が母親らしき女性の袖を引いてそう言う姿を捉えた愛梨はバスケットからジャガイモを一つ取り出すと、ニコニコと差し出した。
「こんな食べ物も配ってるからね! お母さんも是非どうぞ」
「へぇ、変わった芋だね。いいの?」
 芸を見せてもらえて、しかも食べ物までいただけるなんて。そんなに良い事づくめあっていいものかと母親はかえって逡巡しているようであったが。
「町の人と即疾隊と。東と西と。公と民が。みーんなが仲良くすることで、さらにいいことも生まれるからです。つながって欲しいから」
 リラのキラキラとした目が少年の目、母親の目をつなぐ。
 間にジャガイモの上に乗っかった蕩けたバターが日の光にキラキラ輝きながら。

「やっぱりこれが一番」
 キラキラ輝くバターをのせたジャガイモをナツキ(ka2481)は眺めていた。
「それは、もっと後でも良かったと思いますよぉ?」
 焼いて、バターを載せるだけ。
 美味しいのは星野 ハナ(ka5852)も認めるところではあるが、下ごしらえが必要なものから始めてほしいところだ。
「といっても、わたし、料理はあまり得意じゃない」
 師匠との生活で料理は一通りやってはいたものの、とりあえず食べられさえすれば武器を振るうことに支障はない、という結論に至ってしまったナツキにとっては、基本下準備とかは大変な作業であった。
 ましてや食品商ミネアが作る量といえば。山と積まれた木箱を振り返ってナツキは途方に暮れた。
「ここを頑張ることで味が変わってくるんですってばあ。あ、でも、ジャガイモを伝えるなら、食べ方も注意しないといけませんよねぇ」
 ハナにとっては勝負所。美味しい料理に感激してもらえるのは色々チャンスなのだ。胃袋を握ってしまえば的な。
「五条さんなら、うまいことやりそうですが、芽が生えてしまっていたりとか……ありそうですね」
 天央 観智(ka0896)はジャガイモ箱をいくつか開けて確認をした。ミネアのことだからうっかりなんてありそうなものだが……。ほら、リンゴが混ざってたりするし。
「おや、芽が出てないですね……?」
「リンゴを置いておくと、発芽が遅くなるんですよ。湯通しもばっちりです。帝国はほらエルフハイムもあるからリンゴも結構採れるんですよ。作物のバランスもよく考えられていますよね」
「さすがミネア殿だな。食材や料理に関してはよく知っている」
 手早くナイフを動かして、皮をさくさく剥く手を休めずにシャーリーン・クリオール(ka0184)の言葉に、観智はなるほど。と頷いた。
「あはは、ありがとうございます。ところでシャーリーンさん、さっき買って来た果物は何に使うんですか?」
「え、あ、あーー。あれはね。五条さん、あれなんだっけ」
 シャーリーンは思わず目を泳がせて、たまたま買い物したものの整理をしている五条に話を放り投げた。
「えっ、それって、そう。ジャガイモスープの材料でございます!! でございますねっ」
 目を白黒する五条は今度はニケ(ka3871)にパス。知恵と口はよく働く五条でも不意打ちはあまり強くないらしい。
「そうですよお。ジャガイモはどんなものにもよく合う。絵の具で言うなら白のようなもの。色んな味を試してほしいと思いましてえ」
 その点ニケはさっくりと嘘を吐き通して、微笑んだ。心に一物抱える彼女ならでは。
「でもジャガイモスープに杏子って……さっき塩コショウしてましたよね」
 ニケが煮込んでいたスープの鍋を覗き込んでミネアは首を傾げた。
「ミネアさん……意外と勘が鋭いですね……」
「天然なんだよ……」
 観智とシャーリーンは本人に聞こえないように囁き合う中、味見しようとニケのジャガイモスープに手を伸ばす。
 ダメだ、バレる!!?
「あっ、お汁が飛んじゃったじゃないですかあ」
 ニケの顔付きふと変わって、ローブの胸元についたスープを見下ろした。
「男性がいる中で……恥ずかしいですよぉ。ふふふっ」
 そうって脱ぐニケ。ローブの真下は、調理の熱に煽られしっとりと濡れた乙女の柔肌が。
「えええっ、ニケさん、なんで下何もきてないんですかぁぁァ!?」
「ああ、そう。イイ!! その言葉っ。もっと」
 ドン引きするミネアにニケはそのままするするとローブを……。
「こぉら、不審者!」
 ニケは十野間 灯(ka5632)にどつき倒されたが、ニケの性癖によりサプライズは守られたのであった。

●主に美食会の昼の部
「おお、これはまた……不思議な」
「うまーい」
 まずは出だしの一品目。シャーリーンの肉じゃがに人々はまさしく唸りを上げていた。ジャガイモを初めて食べる人も多いのだが、芋自体は決して珍しいわけでもない。しかしこのジャガイモときたら実が詰まっており、食べごたえも抜群。しかし固くもなく、箸を入れるだけですっと通っていくではないか。
 味付けも抜群だ。醤油に砂糖に魚の出汁。詩天でよく使われる調味料の微妙なバランスがとれており、そしてジャガイモの淡白な味わいにもぴったり合うではないか。
「ビーフシチューを元にね、東方の皆に合うようにアレンジしてみたんだよ」
「…… ……」
 自慢げに語るシャーリーンだが、反応がない。
 みんな口は喋るより、目の前の料理を平らげるのに忙しいご様子。
「……えーと。交流会なんだし、しゃべらないかい?」
 美味しすぎるのも問題であったとシャーリーンはひたすら静かな光景は続いた。
「おかわりはないのー?」
「家で主人にも食べさせてやりたいんだけど」
「あっこら、即疾隊のあんちゃん、がっつかない!!」
 弱った。
 そもそもジャガイモの量もそれほど確保できていないのだ。肉じゃがもお代わりや持ち帰りに対応するほどの量はない。シャーリーンがもごもごしていると、観智がさっとフライドポテトの山盛り皿を手に声をかけた。
「ジャガイモの味わいを知りえたところで……今度は揚げて塩を振るだけの素材の味を楽しんでみては……どうでしょう」
 手軽につまめるポテトになると、これはまた雰囲気ががらりと変わる。
「あ、煎餅みたいだね。これなら子供のおやつにいいかもね」
「おかき的な? でもやわらかいところもあるよね」
「この部分、美味しそうですよ。お焦げみたいな」
 あれほど静かだった会場があれやこれやと賑やかになった。これはいい感触! 観智はにこりと微笑んだ。
「でも、ご飯しかみんな見てないの……即疾隊もがんばるの!」
 ディーナはぐぐぐっと手を握りしめながら、即疾隊に念波を送り飛ばした。
 だが、即疾隊ときたら。
「これは酒が進むだろうな」
「夜は酒も解禁らしいぜ」
 隊内で話を完結してどうする。
 ディーナは思いっきり普段の愛らしい目に、不動明王もかくやという眼力を込めた。
「そうなんですよぉ、お酒にもばっちりの料理もあるんですよぉ。ジャガイモってなんにでもあいますよねぇ」
 そんな即疾隊の元に、すいっと割り込んで笑顔を振りまくのはハナだ。
 蒸かした芋に塩辛を載せた簡単酒のつまみを手渡しして、笑顔を振りまく。
「痩せた土地でたくさん作れますし、これ、海も渡って来るくらいに保存が利いちゃうんですよ。どんな色にも染まれるって大切なことだと思いますぅ。詩天の土地でも十分に育つ穀物分類の作物ですからぁ、これからたくさんお目にかかるかも! 即疾隊の皆さんにもぉ、きっと育てることができますよぉ」
 さりげなく白いエプロン姿の自分をアピールするハナ。
 どんな色にも染まれるとか。即疾隊にも目にかかることがあるとか。もうさりげなく自分をアピールしまくっているのは、同ハンター女性陣からはひしひしと伝わってくるのだが、根は朴訥な彼らはあまりそれに気づかず、ハナに興味をそそられていく。
「でも、ジャガイモの芽や緑色になった部分には毒があるんですぅ。ちゃーんと取り除けば大丈夫ですよぉ」
「あらぁ、あんた凄いわねぇ。いいお嫁さんになるんじゃないの」
「やあだぁ♪」
 おばさま方や農家の方々もハナの話にぐいぐいと引き寄せられて、そこに小さな輪ができる。
「今がチャンスじゃないかしら。いい距離よ」
 ユリアは身を乗り出すと、ディーナに合図をした。
「さあ、美味しいお料理を堪能したら、ちょっと身体を動かさない?」
「皆さんが知っている歌、勉強してきましたの。よろしければ歌でご一緒にどうぞなの♪」
 ディーナはリュートをかき鳴らした後、軽いリズムで詩天で子供時分から自然と覚える祭の小唄を歌い始めた。
「♪詩天いいとこ一度はおいで はーちょいなちょいな」
「それ、わたしの呟き……!」
 虎猫さんに肉じゃがを上げていたナツキが、愕然とした声を上げた。



「折角の凛々しいお顔立ちも、無精ひげや乱れた髪では魅力半減。勿体ないじゃない」
 そう言いくるめて灯がお世話した即疾隊の凛々しい事。羽織りも着物もきちりと折り目正しくすれば、粗野な雰囲気もすっかり失せて、むしろ初々しさすら感じられる。
「なんかこう……着物に着られている感が……」
 隊士たちはどことなく収まりが悪いご様子。多分普段から洗濯とかおざなりにしているのだろうことはすぐわかった。
「はい、でも今日は即疾隊の為、そして詩天の人々のため、それから橋渡しを企画してくれた女の子の為。男として頑張ってね」
 灯がくすくすと笑って彼らを会場に送り出した途端、おおーっという歓迎の声と拍手が届く。
「ね、見た目は重要ってことよ」
 普段の剣呑な雰囲気はどこへやら、照れる隊士達、飛び交う酒の雫に、どこに座ればいいのかもわからぬ始末の彼らは、芋煮の大なべまで行きつくと、刀の代わりにひしゃくを抜き放った。
「それでは芋煮にまいる!! 食う気概のある奴はどんとこい!」
 誰だ、そんな台詞考えたヤツ。
 みんなが笑いを漏らして、そのまま器を持っての食事会が始まる。
 今度は即疾隊が給仕としてあちこちに出歩いているので、内輪で収まらずちゃんと交流しているようである。そんな様子を確認した後、リラが声を上げる。
「即疾隊の人の良さもご理解いただけたことだと思います。さあ、宴もたけなわのところで……今度は即疾隊の皆さんの強さ、見てみたいと思いませんか?」
 湧き上がる歓声。そしてリラの透き通る声で即疾隊の名前が呼びあげられる。
「対するは『にゃんこは友達』東方武芸者、ナツキちゃんでーす」
「演舞するとは言ったけど、なんか違うことになってる……でもいい。強さを確かめるいい機会」
 拍手と歓声に包まれ、六尺棒の上に虎猫を乗せたナツキは困ったような声を上げた。が、元々からジト目のせいで本当に困っているかはわからない。
「勝っちゃダメだからね? まあややこしい時はフォローするから」
 ユリアがくすりと笑って背中をポンと叩いた。それが戦いの合図。
「――真垣四爪流は東方の国士、真柄の家より分かれた真垣の血にて継がれし武術。
剣、槍、薙刀、弓の夫々を四つの爪と称し、柔剛一体を神髄とする流派也。
此れより御覧に入れますは、その一爪。薙刀術に御座います。どうか御照覧あれ」
 ナツキは高らかにそう名のりあげ、隊士の元へ棒高跳びの要領で真上から飛びかかる。
「なんの、一歩踏み出せば、身も心も疾風の如く。切り裂いてみせる!!」
 隊士が居合いの一閃でナツキを迎え撃った。しかしナツキならそれを紙一重でかわせそうだ。いけるっ。
 その瞬間。
「おー。元気なこったねぇ」
 刃と棒の間をくぐりぬけた即疾隊の一人が二人を押し留めていた。
「む」
 潜り込んだ速さ。押し留める力。尋常じゃない。ナツキは間に入った男を見つめた。
 それは筋者といってもいいような。ヒゲもなければ服もきっちりとはしているが、そこはかとない人相の悪さをうかがえる。笑顔は素敵だが、やっぱりコワイ人系。
「あれ誰?」
 愛梨がこっそりと尋ねると、それが即疾隊局長、江邨雄介だと答えられた。
「見回りの時間を忘れねぇようにな。こっちは片付けとくからよ」
 その言葉に慌てて出ていく隊士たちに皆はなかなかの統率力を感じた。といっても皿に残った芋煮をつまみ食いしているのだが。
「すいやせんね。気ぃ使っていただいたのに。お、こりゃイケる。変わった芋だねぇ」
「ほーんと、食事会の名目なくなっちゃったじゃないの」
 はふはふと芋煮を頬張る江邨に愛梨は意地悪そうにそう言うと、にっと笑みを見せた。
「それじゃ、次の名目であるサプライズパーティー。一緒に祝ってよね?」

●サプライズ
 芋煮係として料理していたミネアは気が付けば上座にて、目を真ん丸にしていた。
 目の前にはジャガイモのクレープを重ねて作ったミルフィーユケーキ。なかなか簡単にはできないジャガイモの冷製スープ。オーブン絶対必要のシェパーズパイ。そして準備しなければできないアーモンドを粉にして作るバーデムエズメシィ。
「新作レシピ、とか……」
「こんな大舞台の真ん中でそんなのやると思う?」
 愛梨はきょとんとしたままのミネアの言葉に苦笑いを浮かべた。
「それでは、せーのっ」

 愛梨とリラは声を揃えると、ディーナがリュートでメロディーラインをつける。それはみんなが知っている歌。
「はっぴばーすでー とぅ ゆー」
「はっぴばーすでー とぅ ゆー」
「ハッピーバースデー ディア ミネアさーん」
 ユリアが音に乗ってゆらりとケープをはためかせて舞った後、そのケープをケーキの上にふわりと被せる。宝石が輝いたかと思うとそれはケーキの上に立てられたろうそくの炎。
「ジャガイモを運んできたこの子が今日は誕生日なのでーす」
「おお、おめでとう。詩天のジャガイモ記念日と誕生日が一緒なんて素敵じゃないか」
 どこが素敵かわからないフォローに笑いが飛びつつ。
「はい、ミネア。私達からのお祝いよ」
 ディーナがミネアの胸に猫の帯どめをブローチとしてシャツに繋ぎ止める。
「帯に通して使うものだけど飾りボタンにもなるの。詩天と西とをつなぎとめた記念として、ね。おめでとう、ミネア」
「わたしからは、これ。この子とも友達になれる」
 ナツキからは肉球グローブのプレゼント。虎猫さんがナツキの肩でそわそわしているのはきっと早く付けて欲しいと言っているはず。
 そんなプレゼントと温かい眼差しに囲まれて。ミネアは目をウルウルとさせた。
「誕生日……すっかり忘れてた。みんなありががとうございます!!」
「それじゃあらためて」
 即疾隊も町の人も、五条もハンターも。みんな揃って声を合わせて。
「ハッピーバースデー トゥ ユー!!!」
 みんなの心が一つになった瞬間。
 それを作ったのは頑張った一人の女の子をお祝いしてあげよう。そんな気持ちであった。

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MVP一覧

  • 青い鳥の補給兵
    十野間 灯ka5632
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • にゃんこはともだち
    ナツキ(ka2481
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人

  • ニケ(ka3871
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 青い鳥の補給兵
    十野間 灯(ka5632
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • アヴィドの友達
    愛梨(ka5827
    人間(紅)|18才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ミネアに質問
ナツキ(ka2481
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/07/16 09:35:58
アイコン 食事会支度・お世話
シャーリーン・クリオール(ka0184
人間(リアルブルー)|22才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/07/18 14:09:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/18 07:35:23