ゲスト
(ka0000)
急募、Cool★Guy
マスター:奈華里
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/07/23 19:00
- 完成日
- 2016/08/02 17:49
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
間違っていただろうかと彼は思う。
室内型水泳場――蒼の世界で言うところの『プール』というやつを作ってはみたのだが、知名度が低過ぎるのか全くもって客が来ない。雨の日でも楽しめる利点はある。クラゲや海洋生物を恐れずに存分に泳ぐ事が出来るこの場所は絶対に当たると信じていた。しかし、出来てみれば閑古鳥…。
無理もない。海が近くにあるのだからわざわざお金を払ってまで行こうとは思わないのかもしれない。
けれど、彼は諦めなかった。
(きっかけさえあれば絶対にいける。季節さえ気にせず泳げる場所は当たる筈だ)
そう信じて、きっかけ探しに街に繰り出して目にしたのは少し変わった光景――。
いかにもな筋骨隆々のハンターが何故だかうら若き乙女達に呼び止められているではないか。
その事に気が付いてじっと観察すれば、そのハンターの肩にはハムスターが乗っていたりする。
「キャー、可愛いっ! ハム君飼ってるんですねー。なんか意外―♪」
「そんなに筋肉ムキムキなのに小動物に優しいとかびっくりー♪」
乙女達から零れるこの言葉に彼も思わずくすりと笑う。
(確かにあの身体で小動物を連れているのは笑えるな……っとこれだ!)
そこで彼は閃いた。まずは客の目を引く催しをするのはどうだろうか。
しかも、ただのよくある催しではなく、誰も見た事のないような催し。意外性を持たせたものなら尚いい。
(幸い施設には食事が出来る場所も完備している。ならば、そこでやれば食事代も稼げる事になる)
「よし、ギャップだ! あの人のようにギャップを売りにしていこう」
さっきのハンターからヒントを得て彼は早速募集を開始する。
『Cool★Guyコンテスト開催! 出場者募集中!
集え、野郎共! 心身ともにクールな男性を求む。ギャップがある人程高得点!
優勝者には年間パス進呈。優秀者には施設の広告塔として活躍頂きます』
ハンターオフィスの許可を貰って、彼はそのポスターを一番目立つ所に貼らせて貰う。
そしてそのコンテスト開催日は一日限り、女性客を審査員として入場無料とする事を大々的に宣伝して回る。
「屋内水泳場にぜひお越しくださーい!」
彼が道行く人に呼びかける。但し、まだ参加者は決まっていない。
(これだけやってるんだ。どうか出場者が集まりますように!)
変わった内容だけに不安はある。けれど、もう後には引けないのだ。
「女性にキャーキャー言われた男子はコンテスト参加、宜しくお願いしまーーす!」
彼が叫ぶ。果たして、彼の思惑通り事が運ぶのか否か…それは参加するハンター達にかかっていた。
室内型水泳場――蒼の世界で言うところの『プール』というやつを作ってはみたのだが、知名度が低過ぎるのか全くもって客が来ない。雨の日でも楽しめる利点はある。クラゲや海洋生物を恐れずに存分に泳ぐ事が出来るこの場所は絶対に当たると信じていた。しかし、出来てみれば閑古鳥…。
無理もない。海が近くにあるのだからわざわざお金を払ってまで行こうとは思わないのかもしれない。
けれど、彼は諦めなかった。
(きっかけさえあれば絶対にいける。季節さえ気にせず泳げる場所は当たる筈だ)
そう信じて、きっかけ探しに街に繰り出して目にしたのは少し変わった光景――。
いかにもな筋骨隆々のハンターが何故だかうら若き乙女達に呼び止められているではないか。
その事に気が付いてじっと観察すれば、そのハンターの肩にはハムスターが乗っていたりする。
「キャー、可愛いっ! ハム君飼ってるんですねー。なんか意外―♪」
「そんなに筋肉ムキムキなのに小動物に優しいとかびっくりー♪」
乙女達から零れるこの言葉に彼も思わずくすりと笑う。
(確かにあの身体で小動物を連れているのは笑えるな……っとこれだ!)
そこで彼は閃いた。まずは客の目を引く催しをするのはどうだろうか。
しかも、ただのよくある催しではなく、誰も見た事のないような催し。意外性を持たせたものなら尚いい。
(幸い施設には食事が出来る場所も完備している。ならば、そこでやれば食事代も稼げる事になる)
「よし、ギャップだ! あの人のようにギャップを売りにしていこう」
さっきのハンターからヒントを得て彼は早速募集を開始する。
『Cool★Guyコンテスト開催! 出場者募集中!
集え、野郎共! 心身ともにクールな男性を求む。ギャップがある人程高得点!
優勝者には年間パス進呈。優秀者には施設の広告塔として活躍頂きます』
ハンターオフィスの許可を貰って、彼はそのポスターを一番目立つ所に貼らせて貰う。
そしてそのコンテスト開催日は一日限り、女性客を審査員として入場無料とする事を大々的に宣伝して回る。
「屋内水泳場にぜひお越しくださーい!」
彼が道行く人に呼びかける。但し、まだ参加者は決まっていない。
(これだけやってるんだ。どうか出場者が集まりますように!)
変わった内容だけに不安はある。けれど、もう後には引けないのだ。
「女性にキャーキャー言われた男子はコンテスト参加、宜しくお願いしまーーす!」
彼が叫ぶ。果たして、彼の思惑通り事が運ぶのか否か…それは参加するハンター達にかかっていた。
リプレイ本文
●入場
(来た、来た、来たぁ――! やっぱりギャップ萌えは有りなんだっ!)
開業から未だかつてない人の入りに、経営者の彼から涙が止まらない。
それが例え無料招待のお客ばかりだとしても掴みは上々。
館内に入ればイートインが併設されているし、館内の良さを見て貰えればきっとリピーターがつくと信じている。
(これで…これで今月分の光熱費が返せるかもしれない…)
貯金は底を尽き、今月も閑古鳥だったら危なかったけれど、これならばひとまず危機は回避できる。
そんな確信を抱いて、彼は拡声器を握る。
「お集まりの皆様、お待たせいたしました! これより第一回クールガイコンテストを開始します!」
派手にそうアナウンスして、彼自ら舞台の司会を務めるようだ。
「まずはこの方! 彼こそ正真正銘のタフガイ、伊藤 毅(ka0110)ーーー!」
スポットライトを一身に浴びで登場したのは屈強な筋肉の持ち主だ。
「元航空自衛隊イーグルドライバー、伊藤 毅です。自衛隊とは日本国の防衛組織で、イーグルドライバーとは選ばれた飛行機乗りの事です」
軽くそう自己紹介をして彼はひとまず舞台の隅に立つ。
「うわっ、ちょっと怖そう…」
それが彼に対する第一印象…無理もない。彼はゴーグルに近いタイプのサングラスを着用していて表情が読みにくいのだ。
「続いてエントリーナンバー二番。埴輪の事なら彼に聞け、アルト・ハーニー(ka0113)ーーー!」
拍手の渦の中、アルトは爽やかな笑顔で手を上げる。とそこには小さな埴輪が乗っていたりして…。
「やあ、どうも。這い寄る埴輪伝道師ことアルトだ。よろしく」
何故そこまで好きになったのかの経緯は判らないが、彼はとことん埴輪推し。水着の柄まで埴輪である。
「やんっ、何あの埴輪~ちょっと可愛いかもー」
「愛嬌のある顔してるよねー」
そんな声が聞こえればしめたものだ。
(ここには埴輪の良さを判る子がいるのか! だったら人類皆、埴輪好きになるのも時間の問題だなっ)
などと意気込み新たに、この勝負を勝ちより埴輪に捧げるつもりの彼がいる。
「続いてエントリーナンバー三番。無表情がクールと言うのならば彼の右に出るものはいない? キャリコ・ビューイ(ka5044)ーーー!」
紹介と共に真面目な表情で出てくるキャリコ。
彼は赤の出身であるが幼い頃SOT所属のハンターに助けられ訓練を受けていた身であるから何処か表情が堅い。しかし、このコンテストへの出場を決めた理由は『面白そうだったから』という単純なもので、決して笑わない訳ではない。
「宜しくお願いする」
そう律儀にぺこりと頭を下げれば、
「あらあら、好青年ね」
と少し年のいった奥様方に人気のもよう。
ちなみに来場した女性の半分以上は二十代~三十代であるが、一部娘と共に来た奥様方やシニア世代の淑女も存在する。
「さて、次は東方からの刺客。今日は非隠密、ガルフ・ガルグウォード(ka5527)ーーー!」
仰々しく紹介されて慌てて姿勢を正す彼。実は彼この告知のポスターを眺めていただけだったのであるが、丁度そこに経営者が通りかかって…あれよあれよの間にエントリーされてしまった一人である。
(うわー、人いっぱいいるなぁ……流れで出る事になったけど、これも何かの縁だしいっちょ頑張るか)
彼はそんな経緯とて嫌な顔一つせず、賑やかしのつもりでこの戦いに挑む。
「わっ、ちょっと…僕はちが…」
そんな中、もう一人――半ば巻き込まれる形で参加する事になったハンターがいた。そのハンターとは――。
「今回最年少、若さが武器だ! レイ・アレス(ka4097)ーーー!」
ガルフと比べると随分小さい。それもその筈、彼はまだ十代に入ったばかりであるし、身長も百三十に僅かに満たない。
「あ、あうぅ…どうしてこんな事に……」
大食いに自信など無い彼であるが、どうにか笑顔を作って指定された場所へ移動する。
(ああ、何でこんな…)
隣りに並ぶ屈強な男達と同じ土俵なんて…しかし、上がった以上はやるしかない。
「それではクールガイコンテスト、四十五分勝負! ここに開幕ですっ!!」
『ワーーッ』
その喚声と同時にハンターらの長い戦いが始まった。
●全力
(バンデット、かき氷、交戦規定、特になし、作戦時間、四十五分、交戦開始!)
きらりと装着したサングラスを光らせて、毅がスプーンを豪快に氷の山へと突っ込む。
ちなみにかけるシロップはお好みであるのだが、彼にとってはどれがかかっていようと関係ない。ただ目の前にある氷を殲滅せんと序盤から物凄いスピードでかき込んでゆく。
(見た目だ、何だというのはあまり得意ではないからな。ここは体力勝負しかない)
僅か数秒で一杯平らげて次をオーダー。次の氷が来るまでの間に米神にやってくるアレと闘う。
(これしきの事、戦場のそれに比べれば何の事はない)
サングラスの下の瞳は僅かに揺れていたが、それを見せないのはやはり男だ。
次々と器を重ねてゆく彼を余所に、他の参加者は割と自分のペースを保っている。
「うん、甘くて美味ぇッ♪」
嬉々とした表情でミルク味の氷をシャリシャリするのはガルフさん。
温和な顔立ちをしているものの、歴戦の傷が刻まれたしなやかな肉体は筋肉好きとギャップ好きには眼福だ。
そんな彼を横目にキャリコはかき氷を食べるの自体が初めてらしく、褌姿で興味深げにかき氷を眺めてのまずは一口。ここの氷はプールサイドにあるという事もあり粗削りだった。かち割とまではいかないが、削られ方には多少のムラがあって、すぐに溶けるものと口に残るものが混在する。
「これが、東方で熱い時に食べられるかき氷と言う物か…確かに涼しくなるな」
初めての味に感想を述べながら、彼は定番の苺を食べ進める。
他の参加者も序盤は口に広がる甘さと涼を楽しんではお替りを重ねていく。
がそれが続くのは精々三杯までだった。キャリコの手が四杯目に差し掛かりぴたりと止まる。
(何だ、この感覚は…)
口に運んだと同時に走り抜けていく未知の感覚――それは米神を走り抜け何とも言えぬ痛みの様なものを残してゆく。
(ま…まさか、毒か!?)
あり得ない。そう思うも、初体験の彼はそれが何なのか断定できず心中で困惑する。
そして、他の参加者に視線を走らせて…彼は理解した。
「くぅ~、これはキツイ。でも俺の埴輪愛の前にはこんな頭痛は大したことないんだぞ」
眉をしかめながらもアルトは手前に置いた小さな埴輪を撫でてはそれをやり過ごしている。隣のガルフは覚醒したのだろう。登場した時にはなかった栗鼠耳と尻尾を出現させて、口に運ぶごとに尻尾をたわしの様に逆立てながらそれを耐え忍んでいる。
(な、成程…これがこの勝負の肝か)
ただ食べるだけでなく、いかにこれを攻略するか。この勝負、実に奥が深い。
「くっ!?」
もう一口口に入れて、彼は慣れない感覚と対峙する。
(思い出せ…この位、どうという事はない。師匠に放り込まれた寒冷地でのサバイバル訓練に比べれば…)
そう言い聞かせるが、彼の身体は既に僅かに震え始めていた。
一方、レイは痛み以前に色々なものと戦っていた。
というのも彼の家は礼儀作法に厳しい家だった。加えて男としての心構えをもしっかりと彼は叩き込まれており、それが彼をその場に縛りつけているのだ。食事中は歩いてはいけないし、お残しはもっての外。弱音を吐いたら男じゃない。そう教わり育った彼は、体温が下がっても動けない。
「ねぇ、あの子大丈夫かなぁ…」
青褪めたレイを見兼ねて心配の声が囁かれる。
しかし、ドクターストップがかかるほどではないようで、ここは見守るしかない。
「でも、ある意味けなげよね。あんな小さな体で立ち向かうなんて…」
「ギャップと言う意味では得点高いかも」
採点シートを手に観客達が思案する。だが、魅せる部分においてはやはりこの二人に勝るものはいないだろう。
●ギャップ
食べ始めた当初から出現した栗鼠の耳と尻尾――それは彼が覚醒状態にある事を意味する。
栗鼠の精霊・雛二華…それが彼に憑く事で彼をそんな姿にしてしまうらしい。初めは叱っていた彼であったが、ギャップと言う点ではこれもありかもと思い直して、そのままの状態を継続しているようだ。
「『しろくま』ってのは流石にないよな? だったら次はおススメでお願いします」
次のかき氷をオーダーして彼は次を待つ。
ちなみにしろくまと言うのは蒼の世界にあるかき氷の名称だ。何でも普通のかき氷にフルーツを沢山乗せて、干しブドウやサクランボを配置する事で見た目が白熊の顔に見える事からその名がついたのだとか。シロップに練乳もかかっている為、かなり甘く思われがちだが、フルーツと相まってそれが絶品へと変化するから驚きだ。
そんな余談はさておき彼自身はミルク味が好みのようだが、このプールの宣伝も兼ねて色々な味を試している。
「わっ、これ珍しい…トマトシロップだぁ…」
届いた真っ赤なかき氷に必死で目を輝かせつつ言葉する。が、彼とて既に五杯目だ。棒読みにもなろう。
そして、しゃぐしゃぐかき混ぜでぱくりといって、再び逆立つ尻尾と耳。一瞬涙が零れそうになっていたが、辛うじて踏み止まる。
(シロップが、果肉入りだから…その辺から、攻めれば…少しはマシ、かも…)
味は確かに美味しいのであるが、身体が寒さでそれを受け付けない。そんな狭間でも笑う事を忘れないのは天晴ものだ。が、どう足掻いてもこの勝負筋肉が多ければ多い程不利なのは言うまでもなかった。
(くっ、かなり冷えてきた…だが、まだ…まだいけるか?)
スイムスーツで全身を覆う作戦で来た毅であっても、この内臓からくる冷えからは逃れられない。
すでに他の選手より倍を食べている彼にとっては尚更だ。だが、彼はあえて何もしようとはしなかった。
身体を温める為に体操や行進を始めるキャリコを余所に、彼はただひたすら食べる事を止めない。
「ちょっと、あの人凄いよー! もう、断トツ一位じゃん♪」
その驚異のハイペースに喚声が上がる。その声に励まされて、彼は再びスプーンを口へ。
(んー、あれの何処にギャップがあるのか判らないけど、俺も注目を浴びる為負けてられないな)
そんな毅を見てアルトも動いた。彼は食べる事でではなく、文字通り『動く』事で皆の視線を集めにかかる。
「こういうのはやっても問題ないのかね」
そう言ってちょこんと肩に埴輪を乗せたまま、巨大なハンマーの素振りを開始。
場所がプールである事を考慮したのか、手にしているのはアンカーハンマーで…錨に持ち手を付けたそれの全長は何と百五十センチ。彼の身長より少し短い位のそれを華奢に見える顔立ちの彼が軽々と振り回して見せるのだから、来場の女性達の視線は自ずと彼に惹きつけられてしまう。おまけに、
「しかしクールに振舞わないでもこれだけ食えば、身体は十分クールだねぇ」
と…些か残念な駄洒落もギャップになってポイント獲得。肩の埴輪も何となく喜んでいる様に見える。
だが、彼以上に度肝を抜いた人物がいた。
真っ黒な瞳が濁り始めたのはいつ頃の事だったろうか。突然かき氷の中央にスプーンをぶっ刺して、くつくつと笑い出したかと思うと次の瞬間目の色を変えて、かき氷を毅のそれに匹敵するほどの速さでかき込み始める。
「何で、何で…これも全てヴォイドのせいだ!」
左目を赤に、右目を青に変化させて…レイも覚醒してしまったらしい。
抑圧された環境と、理不尽に参加させられてしまったこの状況…その中で彼の内にあったモノが露になる。
「まずは、この、冷たいヴォイドを殲滅してくれるわっ――!!」
さっきまで穏やかで可愛かった彼がもはや別人。
どうやらかき氷をヴォイドと見立てて、八つ当たり殲滅作戦開始だ。
「さぁ、早く次をもってきてよね!」
氷を差し出す手に噛みつく勢いでそう言って、彼は氷からの反撃をものともせず食べ進める。
「す、すごいな…」
「はははっ、大穴の登場だな」
キャリコとアルトから言葉が零れる。
「こっこれは……負けてられないっ。俺もまだいけますっ! まだいけますから―!」
ガルフもそれに刺激を受けて、ガクガクと身を震わせながらもオーダーする。
そんな中、彼だけはもう限界で…。
(い、いかん…これ以上は、腹が…しかし、時計は後、数秒……)
迫上がってくる冷気と下る冷気、それを必死に抑えていたが、もう感覚もままならない。
喚声が響く中、彼はゆっくり意識を飛ばして…毅は眼前の氷に顔を埋めるのであった。
●勝者
かくて、毅はギリギリリタイアは免れたものの、あの後こっそりリバースし健闘虚しく三位に終わる。
そして、レイの猛追は一歩及ばず、その結果一位に輝いたのは――。
「こちらのお二方でーす!」
同率一位で表彰台に上がったのはアルトとガルフ。アルトは心技体のどの部門においても一定の票を集めていたし、ガルフは技こそなかったものの、量と我慢するその姿が票に結びついたようだ。
「有難う、有難う。俺が勝てたのも皆とそして、何よりこの埴輪達のおかげだ!」
黄色い声援が飛ぶ中でも、彼の心はやはり埴輪からは離れられない様で…愛おし気に肩の埴輪を撫でてみせる。
「勝てるとは思ったなかったし…えと、その、この後もこのプールをよろしくな」
そういうのはガルフだ。元々宣伝もするつもりであったから、コメントもこっちに転んでゆく。
「ふむ、まだまだ修行が足りなかったか…」
そんな二人の声を聞きながら、キャリコの呟き。しかし、彼の口元は僅かに微笑んでいる。
(もし次があれば決して負けない…)
かき氷のデータも取れたしなと彼は思う。
かくてコンテストは無事終了し、その後は自由に施設をPR。
スライダーの列の整理をしてみたり、館内を案内したり…プールを楽しみながら日が暮れるまでのお仕事となる。
そんな中、一位の二人は経営者に呼ばれて――持ち掛けられるままに作り上げたのは奇妙な形のマスコット。
「えと、俺こういうのよく判んないんだけど、大丈夫かな?」
出来上がったそれを見てガルフが言う。
「大丈夫、この埴輪はとびきりキュートだからな。きっと愛される存在になるさね」
そういうのは造形を担当したアルト本人。土を捏ねて作ったのは、ひと呼んで『リス埴輪』だ。
経営者は今日のこれを期にギャップあるマスコットとして、この施設の顔にするつもりらしい。
「次の企画がうまくいけばスライダーやモニュメントにも取り入れて、大々的に推していきますよ!」
彼が言う。このリス埴輪が可愛いかどうかはさておいても、次がまた重要になってきそうだ。
「まあ、頑張ってください」
「埴輪の加護があらんことを」
二人が言う。果たして、次のそれがうまくいくかどうかは、また別のお話…。
(来た、来た、来たぁ――! やっぱりギャップ萌えは有りなんだっ!)
開業から未だかつてない人の入りに、経営者の彼から涙が止まらない。
それが例え無料招待のお客ばかりだとしても掴みは上々。
館内に入ればイートインが併設されているし、館内の良さを見て貰えればきっとリピーターがつくと信じている。
(これで…これで今月分の光熱費が返せるかもしれない…)
貯金は底を尽き、今月も閑古鳥だったら危なかったけれど、これならばひとまず危機は回避できる。
そんな確信を抱いて、彼は拡声器を握る。
「お集まりの皆様、お待たせいたしました! これより第一回クールガイコンテストを開始します!」
派手にそうアナウンスして、彼自ら舞台の司会を務めるようだ。
「まずはこの方! 彼こそ正真正銘のタフガイ、伊藤 毅(ka0110)ーーー!」
スポットライトを一身に浴びで登場したのは屈強な筋肉の持ち主だ。
「元航空自衛隊イーグルドライバー、伊藤 毅です。自衛隊とは日本国の防衛組織で、イーグルドライバーとは選ばれた飛行機乗りの事です」
軽くそう自己紹介をして彼はひとまず舞台の隅に立つ。
「うわっ、ちょっと怖そう…」
それが彼に対する第一印象…無理もない。彼はゴーグルに近いタイプのサングラスを着用していて表情が読みにくいのだ。
「続いてエントリーナンバー二番。埴輪の事なら彼に聞け、アルト・ハーニー(ka0113)ーーー!」
拍手の渦の中、アルトは爽やかな笑顔で手を上げる。とそこには小さな埴輪が乗っていたりして…。
「やあ、どうも。這い寄る埴輪伝道師ことアルトだ。よろしく」
何故そこまで好きになったのかの経緯は判らないが、彼はとことん埴輪推し。水着の柄まで埴輪である。
「やんっ、何あの埴輪~ちょっと可愛いかもー」
「愛嬌のある顔してるよねー」
そんな声が聞こえればしめたものだ。
(ここには埴輪の良さを判る子がいるのか! だったら人類皆、埴輪好きになるのも時間の問題だなっ)
などと意気込み新たに、この勝負を勝ちより埴輪に捧げるつもりの彼がいる。
「続いてエントリーナンバー三番。無表情がクールと言うのならば彼の右に出るものはいない? キャリコ・ビューイ(ka5044)ーーー!」
紹介と共に真面目な表情で出てくるキャリコ。
彼は赤の出身であるが幼い頃SOT所属のハンターに助けられ訓練を受けていた身であるから何処か表情が堅い。しかし、このコンテストへの出場を決めた理由は『面白そうだったから』という単純なもので、決して笑わない訳ではない。
「宜しくお願いする」
そう律儀にぺこりと頭を下げれば、
「あらあら、好青年ね」
と少し年のいった奥様方に人気のもよう。
ちなみに来場した女性の半分以上は二十代~三十代であるが、一部娘と共に来た奥様方やシニア世代の淑女も存在する。
「さて、次は東方からの刺客。今日は非隠密、ガルフ・ガルグウォード(ka5527)ーーー!」
仰々しく紹介されて慌てて姿勢を正す彼。実は彼この告知のポスターを眺めていただけだったのであるが、丁度そこに経営者が通りかかって…あれよあれよの間にエントリーされてしまった一人である。
(うわー、人いっぱいいるなぁ……流れで出る事になったけど、これも何かの縁だしいっちょ頑張るか)
彼はそんな経緯とて嫌な顔一つせず、賑やかしのつもりでこの戦いに挑む。
「わっ、ちょっと…僕はちが…」
そんな中、もう一人――半ば巻き込まれる形で参加する事になったハンターがいた。そのハンターとは――。
「今回最年少、若さが武器だ! レイ・アレス(ka4097)ーーー!」
ガルフと比べると随分小さい。それもその筈、彼はまだ十代に入ったばかりであるし、身長も百三十に僅かに満たない。
「あ、あうぅ…どうしてこんな事に……」
大食いに自信など無い彼であるが、どうにか笑顔を作って指定された場所へ移動する。
(ああ、何でこんな…)
隣りに並ぶ屈強な男達と同じ土俵なんて…しかし、上がった以上はやるしかない。
「それではクールガイコンテスト、四十五分勝負! ここに開幕ですっ!!」
『ワーーッ』
その喚声と同時にハンターらの長い戦いが始まった。
●全力
(バンデット、かき氷、交戦規定、特になし、作戦時間、四十五分、交戦開始!)
きらりと装着したサングラスを光らせて、毅がスプーンを豪快に氷の山へと突っ込む。
ちなみにかけるシロップはお好みであるのだが、彼にとってはどれがかかっていようと関係ない。ただ目の前にある氷を殲滅せんと序盤から物凄いスピードでかき込んでゆく。
(見た目だ、何だというのはあまり得意ではないからな。ここは体力勝負しかない)
僅か数秒で一杯平らげて次をオーダー。次の氷が来るまでの間に米神にやってくるアレと闘う。
(これしきの事、戦場のそれに比べれば何の事はない)
サングラスの下の瞳は僅かに揺れていたが、それを見せないのはやはり男だ。
次々と器を重ねてゆく彼を余所に、他の参加者は割と自分のペースを保っている。
「うん、甘くて美味ぇッ♪」
嬉々とした表情でミルク味の氷をシャリシャリするのはガルフさん。
温和な顔立ちをしているものの、歴戦の傷が刻まれたしなやかな肉体は筋肉好きとギャップ好きには眼福だ。
そんな彼を横目にキャリコはかき氷を食べるの自体が初めてらしく、褌姿で興味深げにかき氷を眺めてのまずは一口。ここの氷はプールサイドにあるという事もあり粗削りだった。かち割とまではいかないが、削られ方には多少のムラがあって、すぐに溶けるものと口に残るものが混在する。
「これが、東方で熱い時に食べられるかき氷と言う物か…確かに涼しくなるな」
初めての味に感想を述べながら、彼は定番の苺を食べ進める。
他の参加者も序盤は口に広がる甘さと涼を楽しんではお替りを重ねていく。
がそれが続くのは精々三杯までだった。キャリコの手が四杯目に差し掛かりぴたりと止まる。
(何だ、この感覚は…)
口に運んだと同時に走り抜けていく未知の感覚――それは米神を走り抜け何とも言えぬ痛みの様なものを残してゆく。
(ま…まさか、毒か!?)
あり得ない。そう思うも、初体験の彼はそれが何なのか断定できず心中で困惑する。
そして、他の参加者に視線を走らせて…彼は理解した。
「くぅ~、これはキツイ。でも俺の埴輪愛の前にはこんな頭痛は大したことないんだぞ」
眉をしかめながらもアルトは手前に置いた小さな埴輪を撫でてはそれをやり過ごしている。隣のガルフは覚醒したのだろう。登場した時にはなかった栗鼠耳と尻尾を出現させて、口に運ぶごとに尻尾をたわしの様に逆立てながらそれを耐え忍んでいる。
(な、成程…これがこの勝負の肝か)
ただ食べるだけでなく、いかにこれを攻略するか。この勝負、実に奥が深い。
「くっ!?」
もう一口口に入れて、彼は慣れない感覚と対峙する。
(思い出せ…この位、どうという事はない。師匠に放り込まれた寒冷地でのサバイバル訓練に比べれば…)
そう言い聞かせるが、彼の身体は既に僅かに震え始めていた。
一方、レイは痛み以前に色々なものと戦っていた。
というのも彼の家は礼儀作法に厳しい家だった。加えて男としての心構えをもしっかりと彼は叩き込まれており、それが彼をその場に縛りつけているのだ。食事中は歩いてはいけないし、お残しはもっての外。弱音を吐いたら男じゃない。そう教わり育った彼は、体温が下がっても動けない。
「ねぇ、あの子大丈夫かなぁ…」
青褪めたレイを見兼ねて心配の声が囁かれる。
しかし、ドクターストップがかかるほどではないようで、ここは見守るしかない。
「でも、ある意味けなげよね。あんな小さな体で立ち向かうなんて…」
「ギャップと言う意味では得点高いかも」
採点シートを手に観客達が思案する。だが、魅せる部分においてはやはりこの二人に勝るものはいないだろう。
●ギャップ
食べ始めた当初から出現した栗鼠の耳と尻尾――それは彼が覚醒状態にある事を意味する。
栗鼠の精霊・雛二華…それが彼に憑く事で彼をそんな姿にしてしまうらしい。初めは叱っていた彼であったが、ギャップと言う点ではこれもありかもと思い直して、そのままの状態を継続しているようだ。
「『しろくま』ってのは流石にないよな? だったら次はおススメでお願いします」
次のかき氷をオーダーして彼は次を待つ。
ちなみにしろくまと言うのは蒼の世界にあるかき氷の名称だ。何でも普通のかき氷にフルーツを沢山乗せて、干しブドウやサクランボを配置する事で見た目が白熊の顔に見える事からその名がついたのだとか。シロップに練乳もかかっている為、かなり甘く思われがちだが、フルーツと相まってそれが絶品へと変化するから驚きだ。
そんな余談はさておき彼自身はミルク味が好みのようだが、このプールの宣伝も兼ねて色々な味を試している。
「わっ、これ珍しい…トマトシロップだぁ…」
届いた真っ赤なかき氷に必死で目を輝かせつつ言葉する。が、彼とて既に五杯目だ。棒読みにもなろう。
そして、しゃぐしゃぐかき混ぜでぱくりといって、再び逆立つ尻尾と耳。一瞬涙が零れそうになっていたが、辛うじて踏み止まる。
(シロップが、果肉入りだから…その辺から、攻めれば…少しはマシ、かも…)
味は確かに美味しいのであるが、身体が寒さでそれを受け付けない。そんな狭間でも笑う事を忘れないのは天晴ものだ。が、どう足掻いてもこの勝負筋肉が多ければ多い程不利なのは言うまでもなかった。
(くっ、かなり冷えてきた…だが、まだ…まだいけるか?)
スイムスーツで全身を覆う作戦で来た毅であっても、この内臓からくる冷えからは逃れられない。
すでに他の選手より倍を食べている彼にとっては尚更だ。だが、彼はあえて何もしようとはしなかった。
身体を温める為に体操や行進を始めるキャリコを余所に、彼はただひたすら食べる事を止めない。
「ちょっと、あの人凄いよー! もう、断トツ一位じゃん♪」
その驚異のハイペースに喚声が上がる。その声に励まされて、彼は再びスプーンを口へ。
(んー、あれの何処にギャップがあるのか判らないけど、俺も注目を浴びる為負けてられないな)
そんな毅を見てアルトも動いた。彼は食べる事でではなく、文字通り『動く』事で皆の視線を集めにかかる。
「こういうのはやっても問題ないのかね」
そう言ってちょこんと肩に埴輪を乗せたまま、巨大なハンマーの素振りを開始。
場所がプールである事を考慮したのか、手にしているのはアンカーハンマーで…錨に持ち手を付けたそれの全長は何と百五十センチ。彼の身長より少し短い位のそれを華奢に見える顔立ちの彼が軽々と振り回して見せるのだから、来場の女性達の視線は自ずと彼に惹きつけられてしまう。おまけに、
「しかしクールに振舞わないでもこれだけ食えば、身体は十分クールだねぇ」
と…些か残念な駄洒落もギャップになってポイント獲得。肩の埴輪も何となく喜んでいる様に見える。
だが、彼以上に度肝を抜いた人物がいた。
真っ黒な瞳が濁り始めたのはいつ頃の事だったろうか。突然かき氷の中央にスプーンをぶっ刺して、くつくつと笑い出したかと思うと次の瞬間目の色を変えて、かき氷を毅のそれに匹敵するほどの速さでかき込み始める。
「何で、何で…これも全てヴォイドのせいだ!」
左目を赤に、右目を青に変化させて…レイも覚醒してしまったらしい。
抑圧された環境と、理不尽に参加させられてしまったこの状況…その中で彼の内にあったモノが露になる。
「まずは、この、冷たいヴォイドを殲滅してくれるわっ――!!」
さっきまで穏やかで可愛かった彼がもはや別人。
どうやらかき氷をヴォイドと見立てて、八つ当たり殲滅作戦開始だ。
「さぁ、早く次をもってきてよね!」
氷を差し出す手に噛みつく勢いでそう言って、彼は氷からの反撃をものともせず食べ進める。
「す、すごいな…」
「はははっ、大穴の登場だな」
キャリコとアルトから言葉が零れる。
「こっこれは……負けてられないっ。俺もまだいけますっ! まだいけますから―!」
ガルフもそれに刺激を受けて、ガクガクと身を震わせながらもオーダーする。
そんな中、彼だけはもう限界で…。
(い、いかん…これ以上は、腹が…しかし、時計は後、数秒……)
迫上がってくる冷気と下る冷気、それを必死に抑えていたが、もう感覚もままならない。
喚声が響く中、彼はゆっくり意識を飛ばして…毅は眼前の氷に顔を埋めるのであった。
●勝者
かくて、毅はギリギリリタイアは免れたものの、あの後こっそりリバースし健闘虚しく三位に終わる。
そして、レイの猛追は一歩及ばず、その結果一位に輝いたのは――。
「こちらのお二方でーす!」
同率一位で表彰台に上がったのはアルトとガルフ。アルトは心技体のどの部門においても一定の票を集めていたし、ガルフは技こそなかったものの、量と我慢するその姿が票に結びついたようだ。
「有難う、有難う。俺が勝てたのも皆とそして、何よりこの埴輪達のおかげだ!」
黄色い声援が飛ぶ中でも、彼の心はやはり埴輪からは離れられない様で…愛おし気に肩の埴輪を撫でてみせる。
「勝てるとは思ったなかったし…えと、その、この後もこのプールをよろしくな」
そういうのはガルフだ。元々宣伝もするつもりであったから、コメントもこっちに転んでゆく。
「ふむ、まだまだ修行が足りなかったか…」
そんな二人の声を聞きながら、キャリコの呟き。しかし、彼の口元は僅かに微笑んでいる。
(もし次があれば決して負けない…)
かき氷のデータも取れたしなと彼は思う。
かくてコンテストは無事終了し、その後は自由に施設をPR。
スライダーの列の整理をしてみたり、館内を案内したり…プールを楽しみながら日が暮れるまでのお仕事となる。
そんな中、一位の二人は経営者に呼ばれて――持ち掛けられるままに作り上げたのは奇妙な形のマスコット。
「えと、俺こういうのよく判んないんだけど、大丈夫かな?」
出来上がったそれを見てガルフが言う。
「大丈夫、この埴輪はとびきりキュートだからな。きっと愛される存在になるさね」
そういうのは造形を担当したアルト本人。土を捏ねて作ったのは、ひと呼んで『リス埴輪』だ。
経営者は今日のこれを期にギャップあるマスコットとして、この施設の顔にするつもりらしい。
「次の企画がうまくいけばスライダーやモニュメントにも取り入れて、大々的に推していきますよ!」
彼が言う。このリス埴輪が可愛いかどうかはさておいても、次がまた重要になってきそうだ。
「まあ、頑張ってください」
「埴輪の加護があらんことを」
二人が言う。果たして、次のそれがうまくいくかどうかは、また別のお話…。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/23 03:11:07 |