• 詩天

【詩天】連繋の時

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
LV1~LV22
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/29 09:00
完成日
2016/08/06 07:20

みんなの思い出

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オープニング

●急転
「おのれ、忌々しい……!」
 暗闇の中、1つの影が苛立たしげにその場を右往左往する。
 ――現在の詩天は混乱しており、戦力も十分に揃っていないと聞いていた。
 だから、蹂躙するのも簡単であると。
 そのはずだったのに。異邦人10人にこんなに苦しめられるとは……。
 そもそも、あの異邦人は何なのだろう。
 詩天側が雇った兵なのだろうか……?
 大した戦果を挙げられぬまま、あの方に戴いた泥田坊は既に30体ほど消えた。
 あの方は冷酷だ。このままでは、自分の身が危うい――。
 何としてでも、戦果を挙げなければ……。
 唇を噛む影。月明かりの下で、泥田坊が蠢く。


●九代目詩天からの依頼
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
「はい、お蔭様で。先日も色々とお世話になりました。ありがとうございました」
「こちらこそー! 今回もぼく達を呼び出したってことは……やっぱりあの件?」
「はい。今日は、九代目詩天として正式にお願いに上がりました」
 ハンター達に、真剣な表情を向ける三条 真美(kz0198)。
 前回同様、少年から手紙を受け取り、萩野村で落ち合ったハンター達。
 手紙にはきちんと九代目詩天の名と、三条家の家紋である梅の花の印が押されていて……。
 シンと名乗っていた少年が九代目詩天であることは紛れもない事実なんだな……と、彼らは溜息をつく。
「……今回は、例の砦に行くんですね?」
「泥田坊が根城にしてるっていう砦よね」
「はい。その通りです。砦に、首謀者らしき人物がいることも確認されています」
「ああ、やっぱりあいつ、砦に逃げ込んだのね……」
 真美の言葉にぽつりと呟くハンター。
 前回、萩野村を防衛した時に、ハンターが怪しい人影を見ている。
 砦の方に向かっていったことは確認していたが、予想通りだったということか……。
「首謀者さんが砦にいるのは分かったとして……泥田坊の数がはっきりしないです。皆でわーって乗り込んだら危ないかもしれないです」
「そうだな……先手を打てるなら打ちたいところだが、用心は必要だな」
「あ、前回、砦の地形が分かると良いって仰ってましたよね。簡単な見取り図ですが入手できました」
「あら。やるじゃない!」
「いえあの。頑張ったのは私じゃなくて草の者で……」
 懐から地図を取り出して広げる真美の頭をよしよしするハンター。
 少年はぼふっと顔を赤くしてうつむく。
「えっと……。砦は大分前に打ち捨てられていて、今は使われていません。壁など、一部崩落している部分があるようです」
「ふむ。進入はし易いってことなのかね」
「見つかり易そうでもありますわね……」
「はい。どこから砦に侵入するか、どういった作戦にするのか……それによっても変わって来るとは思っています」
 こくりと頷く真美。そんな彼を、ハンターがじっと見つめる。
「ええと、首謀者の能力とかは分かるの?」
「はい。概ねですが……符術師に似た遠距離攻撃をしかけてくるそうです。泥田坊の数は少なくとも10体はいるとのことでした」
「なるほど。そこまで調べが付いているということは……俺達を呼んだのは『決着をつける為の戦力』としてだな?」
「……その通りです。詩天には今、人材不足で歪虚に対抗する力をもっていません。出来たら今回で、首謀者を討伐したいと思っています。泥田坊は最悪討ち漏らしても構いませんが……これ以上、民を傷つけられるようなことがあってはいけませんから」
「あら。随分大きく出たわねー」
「今までも皆さんは私を助けてくださいました。皆さんが一緒なら、きっと今回も上手くいくと信じています」
「そんなにあっさり信じてしまって大丈夫ですか……? いえ、勿論頑張りますけれども」
「おう。友の信頼には応えないとな!」
「はいです! 頑張るです!!」
 拳を突き上げるハンター達。
 いくつもの苦難を乗り越えてきた自分達なら、今回も手を取り合えばきっと上手く行くはず――。
 事件を通して繋がれた縁。
 ハンター達は熱い思いを胸に立ち上がった。

リプレイ本文


「さぁ、砦のお掃除と行きましょうか」
「うん! 頑張ろう! ……ノノトト君、何かガクガクしてるけど大丈夫?」
 小さな砦を見据えて言うカメリア(ka4869)に、元気に頷く龍堂 神火(ka5693)。
 隣のノノトト(ka0553)の様子がおかしいのに気付いて首を傾げる。
「こ、これは……なんだっけ、ムシャブルイだから!」
「ムシャブルイって何です?」
「心が勇み立って、身体が震えることだよ! 別に怖い訳じゃないから!」
 ムキになるノノトトにキョトンとするエステル・ソル(ka3983)。
 2人の様子が愛らしくて、ラース・フュラー(ka6332)がくすっと笑う。
「ともあれ、萩野村や、詩天の皆さんが安心して暮らせるように……終わらせましょう」
「ところであの村って何かあるのか? 繰り返し襲って来るのにも何か理由があるのかね」
「萩野村は蛍の名所である、ということくらいしか聞いたことがありませんが……」
「それはもう、直接首謀者に聞いてみればいいんじゃない? これから会いに行くんだし」
「それもそうだな」
 三条 真美(kz0198)とにこやかなアンネザリー・B・バルジーニ(ka5566)に頷くラジェンドラ(ka6353)。
 バジル・フィルビー(ka4977)がそっと真美の顔を覗き込む。
「今まで通り、シンって呼ばせてね。誰が聞いているか分からないし……僕らが、力になりたいって思ったのは、君の本当の名前を知る前だし」
「はい。呼び方は皆さんにお任せします」
 真美の笑顔から仄かに感じる信頼。バジルもそれに笑顔を返して……この信頼に応えたいと、心から思う。
「ではシン、もう一度確認しておくぞ。……首謀者を斬っていいんだな?」
 穏やかな中に真剣さが滲み出る三條 時澄(ka4759)の声。
 今回の首謀者は、三条の縁の者かもしれない、と少年が言っていた。
 それが事実であれば、真美の縁者の可能性もある。
「……はい。詩天の民の暮らしを乱す者です。誰であれ、許しておく訳にはいきません」
「了解した」
 真剣な表情の少年に頷く時澄。
 真美もまた、覚悟を決めてここに来ているのだろう。
 国の主としての責を果たそうとする少年に潔さを感じて、金鹿(ka5959)も穏やかに微笑む。
「私達が一緒なら大丈夫ですわ。……では、二手に分かれて参りましょう。皆さんは盛大に暴れてくださいませ」
「はいです! 首謀者さん懲らしめるです!!」
 ぐっと握り拳を作るエステルに頷く仲間達。
 二手に分かれて、砦へと進む。


「うわわわわ! 何でこんなにいるのおおおお!?」
「村を襲おうとして何度も私達相手に失敗しているもの。そりゃあムキになってても仕方ないんじゃない?」
 門を開けた途端にわらわらと飛び出して来た泥田坊に悲鳴を上げるノノトト。
 十体どころではない数に、銃を構えながらカメリアが肩を竦める。
 自分が首謀者だったら、相当腹が立っていると思う。
 そしてそれがその通りであると、この状況も語っている。
「もう何度も戦ってきました。泥田坊の攻撃なら大体わかります。行きますよ……! エステルさん、初撃お願いします!」
「はいです! ファイアーボール行くです!」
 今回も鎧を着こんで前に出ようとするラース。その目前に迫る泥田坊を、エステルの放った火球が飲み込む。
「エステルちゃん、さすが派手ねえ。私も負けてられないわね!」
「私達もバーンと行きましょ☆」
「無理はしちゃダメだよ……!」
 にこにこしながら光弾を放つアンネザリー。そこに、カメリアの銃撃が重なる。
 味方の隙間を縫い、気持ちいいくらいに泥田坊に吸い込まれる弾。
 それらを、バジルは門の影から確認しながら応戦していた。
 ――敵はきっとどこかから見ている。
 だから……『門の影にまだ仲間が居る』ように見せ掛けられたら……。
 次々と襲い来る泥田坊。
 響く炸裂音。
 ハンター達の思惑を乗せて、戦いは続く。


「いたか?」
「……いいえ。小動物ばかりですわね」
 時澄の問いに首を振る金鹿。
 表門で陽動班が戦っている頃。裏手の瓦礫から入り込んだハンター達は、金鹿の生命を探知する結界を用いて、首謀者の居場所を探っていた。
 首謀者がヒトなのであれば、生命探知に引っかかるはずだ。
 そう思い、建物、倉庫、見張り台と探知し続けているが、人間のように大きな生物は探知することが出来なかった。
「もう逃げちまったってことはないよな」
「……シンに頼んで、抜け道がありそうな場所は草の者に潰して貰ってる。移動するなら表を歩くしかない筈なんだが」
「もしかしたら、首謀者は歪虚なのかもしれませんわね」
「あー。それなら確かに生命探知には引っかからないよね」
 周囲を伺うラジェンドラに答える時澄。
 金鹿の声に、なるほどと神火も頷く。
 彼らがこうしている間も聞こえて来る音。表門で、仲間達が必死に泥田坊を抑えている。
 裏門から入った彼らも数体泥田坊に出会ったが、これまでの経験で強くなっているし、幾度となく戦って動きも予測出来るようになってきていて……容易く切り伏せることが出来ていた。
「しかし、こっち側にいる泥田坊の数が少なくないか?」
「その分、ほぼすべての泥田坊を表門に集めたと思っていいだろう。ここで、首謀者の狙いを考えると……」
「……私でしたら泥田坊を囮に、別な場所から脱出を図りますわね」
「首謀者は1人。僕たちの人数も知ってる……全員同時に相手にしようとは思わないはずだよね」
「ってこた、必ずこの辺にいるな。探そう」
 ラジェンドラに頷く時澄と金鹿、神火。
 敵に気付かれぬよう、極力静かに砦の中を進む。


 ――その頃、表門にいる陽動班は戦況に変化が訪れていた。
「エステルちゃん、伏せて!」
「な、なんでわたくしとノノトトさんばかり狙うです!?」
「こいつらいつもと動き違うよ!?」
 空を切るアンネザリーの光弾。泥田坊に追い回されて肩で息をしながらエステルとノノトトが叫ぶ。
「前回、エステルさんはものすごい数の泥田坊を倒してる。首謀者はそれを見ていて、集中的に狙うように命じたのかも」
 淡々と呟くバジル。
 首謀者は泥田坊を放つ際、恐らく『エステルを狙え』と命じたのだろう。
 知能のない泥田坊がそんなに複雑な命令を理解できるはずもない。
 それゆえ、大きさを指定したはずで……。
 その結果エステルと……同じくらい小さいノノトト、そして真美が狙われる結果となったのかもしれない。
「面倒なことしてくれるじゃないの……!」
「エステルさん、私の後方へ!」
「はいです!」
 泥田坊に雨のように銃弾を浴びせるカメリア。隙を見て見張り台を攻撃したいと思っていたが、手数が多すぎてその暇がない。
 ラースはエステルの前に立ちはだかると、泥田坊へと突っ込んでいく。
「ここは突破させませんよ……!」
 盾で泥田坊の腕を受け流すラース。重い一撃にふっと短く息を吐く。
 重たい鎧に、腰を入れて踏ん張る足。エステルを狙っている分、突っ込んで来てくれるからか狙いも定めやすい。
 黒い刀身のバスタードソードを、迷わず泥田坊の脇腹に叩き込む――!
「ノノトトさん! 無理です……! 下がってください! 私も前に出ます!」
「ダメだよ! ここで僕が下がったら相手の思うツボだよ!!」
「わたくし、シンさんが大怪我をしたら泣きます! だから無茶はいけません!」
 真美の悲鳴に近い声に、前を見たまま答えるノノトト。
 己の盾になってくれているラースを気遣いながら、エステルもキッと泥田坊を睨みつける。
 敵が三条の関係の人なら、この少年のことを知っているかもしれない。
 知っていたらどうなるのか……ノノトトにははっきりとは分からなかったけれど。良い事にならないことだけは理解できる。
 ……正直怖いし、身体も痛い。ちょっと逃げたい。
 でも――守らなきゃ。この子は、何があっても。僕が……!
「しっかり……!! 今傷を治すから!」
 続くバジルの短い詠唱。
 ノノトトとラースが柔らかな光に包まれ、傷が塞がっていく。
 泥田坊の手数も多く、小さい子達が集中的に狙われて、攻撃に転じている余裕がない。
 それが少し悔しいが……自分は聖導士。癒すことが本来の役目だ。
 仲間の傷を癒し続けることで、戦況は保てるはず――!
 繰り返される詠唱。たゆまぬ癒しの光が仲間たちを包み……バジルが支えてくれるという安心感が、確かな自信へと変わる。
「残念だけれど、進むのはそこまでよ!」
 ノノトトとエステル、真美を護るように出現する土の壁。
 アンネザリーが呼び出したそれに、泥田坊が突っ込みバランスを崩す。
「……! 今です! 畳みかけますよ!」
「了解! ラース、ぼっこぼこにしちゃって!」
 猛然と剣を振るうラースに、次々と銃弾を叩き込むカメリア。
 泥田坊がその数を大分減らした頃、彼らのトランシーバーに『首謀者発見』の報せが舞い込んだ。


 潜入班の面々は、倉庫に入ろうとしたところで首謀者を発見した。
「……簡単に逃げられると思うなよ。お前のような手合いの行動は概ね予測できる」
 主を護るように飛び出して来た泥田坊をいとも簡単に切り伏せた時澄。
 ハンター達を見るなり逃げだそうとした彼の足を、金鹿の自縛符が絡めとる。
「行け! ドルガ!」
「逃がすか!!」
 首謀者の鼻先を焼くように現れる神火の炎の龍。
 そして、隙をついて跳躍するラジェンドラ。
 目にもとまらぬ速さで空を駆ける銀色の疾風。
 ジェットブーツで突撃した彼が、槍で首謀者を壁に縫い付けた。
「さて、これでもう逃げられないな。あきらめて縛について貰おうか」
「泥田坊を操っていたのは貴方ですの? 何の目的でこんなこと……」
「……お前たちに話すことなど何もない。いずれあの方が到着される。泣くのはお前たちの方だ!」
 金鹿の質問に猛然と言い返した首謀者。
 対して強そうには見えないが、歪虚には違いなさそうで……神火は首を傾げる。
「……あの方? 君の上司ですか? 平和な村を襲って、大した成果も無かったのに叱られないといいですけど」
「本当に。一体どなたの悪知恵か存じませんけれど、あなたのようなものに使われていては泥田坊達が弱いのも納得ですわね」
「全くだなあ。あの方がいなきゃ俺達に反撃も出来ないんじゃなぁ」
「お前たち、その辺にしておけ。続きはシンが到着してから……」
 ちくちくと責める金鹿とラジェンドラを宥める時澄。
 その後ろを横切る影。
 不意に人影が現れて――。
「……本当に、貴方達の言う通りですよ。使えませんね」
「ラジェンドラ君、危ないっ! 守れ、瑞鳥! ……お前の攻撃は通さない!」」
 迫りくる人影。神火の短い叫び。
 彼の符が光り輝く鳥に変化すると同時に、ラジェンドラが横に飛びずさる。
 突然現れた男に頭を握りつぶされて、首謀者の歪虚は音もなく崩れ去る。
 目の前の光景に息を飲む金鹿。
 早くて、動くことも出来なかった。
 ――この男、強い……!
 時澄は刀を構えて、用心深く男との間合いを詰める。
「……こいつが際限なく泥田坊を生み出せるとは思えん。裏で糸を引いている奴がいるとは思っていたが、案の定だったか。……何の用だ。突然現れて、俺達を手伝いに来た訳でもあるまい?」
「私の部下が失礼を働いたようで始末をつけにきました。あれは無作為に周囲を騒がせるだけでしたからね。実に効率が悪い」
「……あなたがこの方を嗾けていらしたんですか? 何故こんなことを……?」
「あー。聞くばっかりじゃ悪いな。俺はラジェンドラ。お前の名前を聞かせて貰おうか」
「さて、ね。私と戦うのは止めておいた方が良いとだけ言っておきましょうか」
「……秋寿兄様……!?」
 金鹿とラジェンドラの鋭い目線を受け止めて悠然と笑う男。
 そこに駆け付けた陽動班の面々。
 真美に秋寿と呼ばれたその人物は少年の姿に驚いたように目を見開くと、酷く冷酷な笑みを浮かべて――。
「……こんなところに九代目詩天がいるとは思いませんでした。いいでしょう。今回はその子を立てて引きましょう。もうこの地に泥田坊が現れることはありません。安心なさい」
 残った泥田坊を伴い、闇に溶けるように消えて行く男を追おうとする真美。ノノトトは痛む身体を堪えて慌てて抱きとめる。
「兄様! 待ってください! 兄様……!!」
「ダメだよ、シンくん」
「ノノトトさん、どうして止めるんです!?」
「あの人がシンくんの知り合いなんだよね? 追いたい気持ちもわかる。さっきの見てたでしょ? 今の僕たちが敵うとは思えないよ……!」
 首謀者を握りつぶすような奴だ。悔しいが、勝てるとも思えない。
 悔しそうに男が消えた先を見つめる少年に、エステルがおずおずと声をかける。
「シンさん、あの人どなたです? お知り合いさんです……?」
「……三条 秋寿。先代詩天の補佐役にして、私の従兄です」
「三条 秋寿? どっかで聞いた名だな」
 真美の言葉に首を傾げるラジェンドラ。ラースがハッと息を飲んで目を伏せる。
「千石原の乱で九代目詩天の座を争った方と記憶していますが……」
「あー。そうだった。で、そいつどうなったんだっけ」
「……彼は戦いに負け、自害したって聞いてるわ」
「生きていたのか、それとも歪虚になって復活したのか……どちらにせよ厄介だな」
 続いた彼の問いに、ため息交じりに答えるカメリア。時澄が、刀を収めながら呟く。
 震える少年に気付いたのか、バジルが優しく声をかける。
「……もしかして、あの人と仲良しだったのかい?」
「はい。とても優しい人でした。それが、あんなことになってしまって……」
「何で……何で仲良しさんなのに戦ったりしたです……? そんなのおかしいです……!」
 大きな橙色の瞳を潤ませるエステル。その背を、金鹿が宥めるように撫でる。
「きっと、シンさんが詩天になってくれないと困る人がいらしたんだと思いますわ。逆に、秋寿さんが詩天にならないと困る人も……」
「……僕には政治は良く分からないけど。そういうの聞くと誰の為のものなんだろうって思うよね」
 神火の呟きに目を伏せる仲間達。
 九代目詩天の座を決める千石原の乱は詩天を二分し、結果として国の衰退を齎した。
 本当にそれは国の為と言えるのか……? ハンター達にはそう思えて。
 ずっと黙っていたアンネザリーは、少年の頭をそっと撫でる。
「……そうだったの。色々あったのね。話してくれてありがとう。今回のことも、今までも……本当に良く頑張ったわね、真美くん」
「血の繋がる人がいなくなったら悲しいです。心が痛いです……」
 凪いだ海のように穏やかなアンネザリーの青い瞳。続いたエステルの言葉に何かを言いかけて、真美は顔を歪ませる。
 大きな目に次々と溢れる涙。一国の主とはいえ、9歳の子供。立て続けに父と従兄を失ったのだ。
 一国の主として振る舞い続けることを要求されて――ずっと泣きたいのを我慢していたのかもしれない。
 己の胸に顔をうずめて泣く真美とエステルの背を、アンネザリーは母のようにずっと撫で続けていた。


「……あのさ。さっきシンくん抱き止めた時、何か、すごいいい匂いしたんだよね」
「そうなの? うーん。あの子、まだ何か隠し事があるような気がするんだけど……」
「シンさんはシンさんでしょう? もし何かあるとしても、いずれきちんと話してくれますよ」
 顔を見合わせるノノトトと神火。ラースの言葉に、それもそうかと頷く。
 感じる違和感の正体は分からないけれど。今は、無事に終わったことを喜ぼう……そう思う。
「……見苦しいところを見せてすみませんでした」
「何言ってるの。友達でしょ。気にしないの」
「そうよー。お姉さん達の前で無理することないんだから」
「そーです! 泣きたい時は泣くのがいいです! そういえば、サネヨシさんはどう書きますか?」
「シンジツと書かれますよ。……ああ。だからシンさんだったんですね」
「ああ、そうだ。さっきの彼、君を恨んで襲ってくるかもしれない。気を付けるんだよ」
「うん。君が動いてるって向こうも気付いたみたいだし、危ないからね」
「何かあったらすぐに呼べ。すぐに駆け付ける」
「何もなくてもまた会おうね。約束!」
「そうですわね。ゆびきりげんまん致しましょうか」
「お! 俺も混ぜろ!」
 小指を絡めるハンター達と真美。
 約束と友情を、指切りに願って――。


 こうして、泥田坊の事件を解決に導いたハンター達。
 謎の男……三条 秋寿の出現に、色々と思うところはあるけれど……泥田坊がこの地に現れることはもうないだろう。
 解決と同時に深まる謎。九代目詩天を悩ませるであろうそれに立ち向かおうと、ハンター達は思うのだった。

依頼結果

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MVP一覧


  • ノノトトka0553
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビーka4977
  • 優しき蒼の瞳
    アンネザリー・B・バルジーニka5566
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラka6353

重体一覧

参加者一覧


  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 美しき花の射手
    カメリア(ka4869
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 優しき蒼の瞳
    アンネザリー・B・バルジーニ(ka5566
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 内助の功
    ラース・フュラー(ka6332
    エルフ|23才|女性|闘狩人
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ラジェンドラ(ka6353
人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/07/28 20:40:27
アイコン 【相談】砦攻略!作戦テント
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/07/28 22:53:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/24 22:14:32