【機創】機械仕掛けのナイチンゲール3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/28 19:00
完成日
2016/08/03 01:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 帝都バルトアンデルスにレンタルした小さな工房は、爆発によって黒煙に包まれた。
 ハイデマリーの工房が爆発するのはこれで三度目。その内一回は実験機材の不始末によるもので、残り二回は他人からの妨害工作。
 今回のケースは後者。夜更けに突然部屋が爆発したのだ。決して実験の結果ではない。
「げほごほ……ちょっと、いきなりなんなのよ……」
 椅子から転げ落ちた身体を持ち上げようとすると、太腿に鋭く痛みが走る。
 視界不良だが、足に何かが刺さっているのがわかった。木片の類だろうか。
 非覚醒状態で油断したところに爆破されてこの程度で済んだのだから、ある意味御の字か。
 一先ず部屋から逃げ出そうと考えた時だ。目の前に煙を突き抜け、銀色に鈍く光る短剣が現れた。
 驚きに硬直した次の瞬間、その刃は弾かれて天井に刺さっていた。
 同室にいた浄化の器が刺客の剣を蹴り上げ、顎を殴り飛ばしたのだ。
「ハイデマリー、生きてる?」
「助かったわ。全く……なんだって言うのよ!」
 落ちていた魔導銃を手に取りファイアスローワーで部屋を薙ぎ払うと、器と共に飛び出した。
 裏通りにあるとは言え、帝国の首都のど真ん中だ。爆発音に何事かと人が集まりつつある。
 その野次馬の中から飛び出してきたローブ姿の人影が放ったのは攻撃魔法だ。
 着弾点を中心に爆散する魔法、ファイアーボール。器だけならば避けられるが、側にはハイデマリーが居た。
 爆発音と共に悲鳴が上がる中、器はハイデマリーを抱えるようにして跳び、炎から庇って道端に転がる。
「あんた……私を庇って……?」
「一宿一飯の恩」
「もっと泊めてやってるだろ」
 二人が振り返ると、別の刺客が細身の剣を左右の手にそれぞれ握り、素早く襲いかかるところだった。
 そこへ真上から落ちてきた人影が蹴りを入れる。男の格好はいかにも帝国人らしいが、身のこなしはまるで違う。
「ハジャ……?」
「すまねぇ、護衛してたんだが……敵の数が多くて間に合わんかった! 二人共無事か!?」
「生きてるけど、まるでヒロインばりに足に怪我して文字通りの足手まといだわ」
「とりあえず、バルトアンデルス城に移動しろ! 師団駐屯地に近づけば追ってこねぇはずだ!」
 新たな刺客三人と闘いながら叫ぶハジャに頷き、器はしっかりとハイデマリーの手をつかむ。
「いこう、ハイデマリー」
 いつも通りの淡々とした言葉。しかしそこには、確かな熱があった。

「あいつらに心当たりはないの?」
『錬金教団って知ってるか? 最近台頭してきた反政府組織の一つだ。まあヴルツァライヒに比べりゃチャチなもんだが、連中はずっとハイデマリーを狙ってた。俺はその襲撃をもう5回は阻止してるぜ』
 機導浄化術を人々に伝えようとするハイデマリーは、様々な勢力に狙われると予想されていた。
 だからこそ彼女は活動拠点を帝都とした。ここには第一師団が駐屯しているし、組合の拠点もある。
 そしてエルフハイム長老のヨハネは、護衛としてハジャをハイデマリーにつけていた。それは合意の上での事で、だから二人は短伝で連絡をとりあえた。
『連中、襲撃がどうしても失敗すると理解したのか、最近は動きがなかったんだけど……なっ!』
「あいつら魔術を使ったわよ。本当に教団なの?」
 組合が“錬金術はすべての人に等しく恩恵を与えるべき安全な力”を主張するなら、教団はその真逆。
 “錬金術は選ばれた人間だけが振るうべき、支配を伴う力”それは一種の選民思想であり、排他的であるべきだろう。
「つまり、普通に考えたら奴らは機導術以外は使わない……使いたがらないはずよ」
『さっき倒した連中に教団らしい奴がいたのは事実だが、それだけじゃねぇな』
「エルフハイムだよ。森都の執行者だと思う」
「執行者ってあんなに数いるの?」
『ガチのやつは少ないはずだが、あー、そのー、浄化術の輸出に伴い、組織が強化されてたはずだ。新顔かもしれん』
 伝話口から爆発音が響き、ハイデマリーは顔を顰める。
『結構つええのが混じってる! 俺も流石に通話しながらは無理だ! すまんが切るぞ!』
「あ、ちょっと……もう、なんなのよ!?」
「ヨハネやジエルデとは別の長老の差金かも。少なくとも執行者は長老級の命令しか受け付けないから」
「厄日だわ……ていうかこれ国際問題じゃないの……」

「そっちの状況はどう~?」
『苦戦中……。半端な刺客じゃ全然相手にならない。でもあれ、多分執行者でしょ?』
『ヨハネの飼い犬だなァ。噂に聞いたことあるぜ。執行者でイチバン強いんだって……ホントか試してみてェ~』
「お前バカ? そんなん相手にしたって時間の無駄じゃん。適当に相手して逃げちゃってよ。師団に捕まるとメンドーだし」
 イルリ河にかかる大橋は、バルトアンデルス城を含む行政区に向かう最短ルートだ。
 その付近の三階建てのアパートメントの上で双眼鏡を覗き込み、少女は楽しそうに笑みを浮かべる。
「人間の道具っておもしれー。このデンワってのも、この遠見筒も。クズでゴミの劣等種族のくせに、頑張るよねぇ」
「そろそろ獲物が来ますよ」
 背の高い男の言葉に舌打ちし、少女は杖を手に取る。
 眼下には大通りを手を繋いで走る器とハイデマリーの姿があった。そこ目掛け、少女は魔法を放つ。
 大通りを凍結させる冷気の嵐。隣の男が放った矢は、ハイデマリーを庇った器の腕を貫いた。
「今の反応するんだ! やるじゃん! あ~もう……ウジャウジャと人間が邪魔! 全部ミンチにしちゃいたいな~!」
「これ以上騒ぎを大きくするのは得策ではありません」
「ねーねー、殺したりはしないからさー。避けないでくんなーい!? じゃないと、次は関係ない人間狙うけどー!?」
 少女が大声でそう叫ぶと、器の足が止まった。
「マジで止まったけど」
「人間はそういう生き物ですから」
「いや、器でしょ? 生き物ですらないのに……人間のフリしてんの?」
 舌打ちし、振りかざした杖から火炎を放つ。
「気持ち悪いんだよ、お人形さん!」
 爆発は器を吹き飛ばし、壁に激突させた。気絶してしまったのか、動きがない。
「張り合いないな~……あれ? 町中の騒ぎ収まってきてる?」
「帝都には腕利きも多いと聞きます。我々も急がないと介入を受ける可能性が……」
「もう遅いんじゃない?」
 こちらへ向かってくる人影が見える。非覚醒者にしては早過ぎる。
「狩人(ハンター)です」
 男は無言で弓を構え、近づく人物に狙いを定める。
 邪魔者は始末してもいい。それは段取りに、最初から組み込まれた事だった。

リプレイ本文

 ハンターらは市街地方面から大通りをバイクで急行する。
「あそこにいるのホリィとハイデマリーさん!?」
 倒れている器とハイデマリー、そしてそれを見下ろす二つの人影にキヅカ・リク(ka0038)はアクセルを捻る。
「ハンターだかなんだか知らないけど!」
 接近するハンターらに対し、魔術師は火球で、弓使いはそれに合わせ矢を上空へ放った。
 一般人を巻き込むことを全くなんとも思わない二人が重ねた範囲攻撃は、人混みもあり、バイクに騎乗した状態でとてもかわせるものではなかった。
「ぬお……っくそ、バイクは降りた方がいいぜ。爆破されても厄介だ!」
 春日 啓一(ka1621)の言葉に従い、ハンターらはバイクを降りざるを得なかった。
 高い移動力で素早く駆け付けられはしたが、降りるのが遅く先手を打たれ、その隙に敵は次の行動に移る。
 弓使いは気絶している器の太腿を矢で貫いた。器は痛みで目を覚ました様子だったが、更にファイアーボールが着弾し爆発すると、ハイデマリーと共に火炎に姿が呑まれる。
「ホリィ、ハイデマリーさん!」
 青ざめた表情で叫び、走り出すエイル・メヌエット(ka2807)。
 敵の攻撃能力はかなりのもので、更に直撃を受けた二人が未だ無事かどうかは解らない。
「こんな人が多くゴミゴミした場所で騎馬戦とは……平地育ちの考えは理解に苦しみますね」
「アハハハハァ! 燃えろ燃えろ、下等種族!!」
 魔術師は高笑いをしながら再び魔法を唱える。あろうことか、狙いは全く関係のない、腰を抜かした通行人だ。
「だめっ!」
 通行人へ放たれた火球を盾を聖剣で受けるエイルだが、爆発の威力は高く、それでも尚壁に叩きつけられる。
「もー……ドカンドカンと撃ってくれちゃって! リク、凄い威力だよ! こんなの一般人が浴びたら死んじゃう!」
 リサ=メテオール(ka3520)の言う通り、敵の攻撃力はかなり高い。
 エイルとて歴戦の戦士。防御能力はかなりのものだ。それでもあの攻撃には何度も耐えられない。
 道端には攻撃の余波を受けた人々で阿鼻叫喚の様となっている。皆、何がどうなっているのかわからず混乱しているのだ。
 キヅカは走りながら発煙筒に着火し、煙を放ちながら叫ぶ。
「テロだーーー! 皆、煙から離れろ! 巻き込まれるぞ! ここから逃げるんだ!!」
 逃げ出す人々を襲撃者は相反する様相で眺めている。
 呆れていた弓使いも、一般人の子供に狙いを定めた。リサはそこへ割り込んで盾で受けるが、ダメージは免れられない。
「君、早く逃げて!」
「え? あ……あ……」
 しかし子供は身動きが取れない。リサはその子供を抱えるようにして走りだす。
「ごめん、先に避難させないとまともに動けない!」
「わかった。奴らの相手は、こっちでする!」
 啓一はマンションの下まで駆けつけると、拳から衝撃波を放つ。
 近づけば相手をリーチ内に収める事ができるが、建物の角度の問題もあり、下からは狙いがつけづらい。
「どこ狙ってんだよ、間抜け!」
「うるせぇ。御託並べてねぇで撃って来いよ!」
 啓一が遠距離攻撃を撃ち合いをするのを横目に、キヅカはホリィとハイデマリーへ走っていた。
 二人は共に大きなダメージを受け、身動きが取れない。ハイデマリーは気絶しており、器も立ち上がる力が残っていない。
「ホリィ、ハイデマリーさん!」
「う……。ハイデマリーは……無事……?」
「息はあるよ、大丈夫。でも、軽い怪我じゃない……手当しないと……」
 しかし、そこへ三人の錬金術師が迫ってくる。
 足取りからして目的は明らかにハイデマリーか器だろう。
 可能なら二人にも援護を頼みたかったが、追撃を受けて今直ぐに戦える状態ではない。
(だめだ……二人は頼れない。こいつらは、とりあえず僕一人で相手をしなきゃ……!)
 放たれる弓矢の一撃を盾で受け、その衝撃でたたらを踏む啓一。
 敵は同じ覚醒者。だが、明らかに殺人を前提とした鍛え方をしている。
「大した事ないねぇ、狩人!」
「……いえ、どうやら策のようです」
 男が振り返り矢を放つ。その先、マンションの路地から飛び出してきたのはシュネー・シュヴァルツ(ka0352)だ。
 シュネーはバイクで先行したハンターとは別行動で裏路地を移動し、このマンションの壁を駆け上がってきたのだ。
 矢をかわしたシュネーはワイヤーを男の弓に絡める。弓は繊細な武器だ。ワイヤーが絡んだ状態では万全に能力を発揮できない。
 故に男は直ぐに弓を手放し、マントの内側から投げナイフを取り出した。
 投擲されるナイフ、しかしこれもかわしてシュネーは接近、剣で男を斬りつける。
「はあ? 何遊んでるわけ?」
「いえ。人間にしてはかなり動きますよ」
 屋上でシュネーが二人と交戦開始したのを確認し、啓一がアパート内へ踏み込もうと走り出す。
 一方、エイルは傷ついた器とハイデマリーに接近。目の前ではキヅカが機導師三人へ突っ込んでいく。
「リクくん!」
「大丈夫だから! エイル姉さんは二人の治療を!」
 確かに今必要なのは回復で、それが出来るのはキヅカではなくエイルだ。
「少し乱暴になるけど、許してね……っ」
 二人を建物の影、射線の通らない路地まで引きずって移動すると、エイルはヒーリングスフィアを発動する。
 ダメージは大きいが重体ではない。魔法を連続してかけつづければ、傷は癒せるはずだ。
「背信者ハイデマリーと浄化の器はいただいていく!」
「すべては錬金術師による未来のために!!」
「ざけんじゃねぇ! 二人はモノじゃねぇんだ! テメエらなんかに渡すかよ!」
 機導師三人が放つ機導砲の集中砲火を盾で受け、デルタレイを放つ。
 それぞれの光が三人の術者を攻撃すると、更に接近。魔導銃で一人を撃ち抜き、反撃の機導砲を受け、攻性防壁で攻撃を跳ね返す。
「ひいいっ!?」
 衝撃で吹っ飛んだ機導師がイルリ河に転落。しかし残った一人が背後からキヅカに襲いかかる。
 振り下ろされた剣はしかし届かない。駆けつけたリサがジャッジメントで動きを止めたのだ。
 その隙にキヅカは至近距離からデルタレイを放ち、三人目の機導師をノックダウンさせる。
「サンキュー、リサ!」
「近場の人はみんな避難させたよ!」
「ハイデマリーさんとホリィのダメージが大きいんだ。ヒールを手伝ってあげて!」
 屋上で弓使いと闘うシュネーは接近戦で善戦している。
 この二人の敵は共に後衛タイプ。距離を詰められるのが苦手なのだ。しかし……。
「ったく、しょうがないなぁ……!」
 魔術師は男もろとも魔法を放つ。しかし放たれたのは敵味方を識別できる貫通式魔法、ライトニングボルト。
 弓使いを素通りした雷撃はシュネーだけを襲う。これは咄嗟に距離を離して回避するも、重ねて投げられたナイフが腹に突き刺さった。
「身軽ですが、頑強さには欠けるようですね」
「ファイアーボールでもいいんだけど~?」
「それでは私は困ります」
 腹に刺さったナイフを抜き、次の攻撃に備えるシュネー。次の瞬間、場に割って入る者の姿があった。
 隣のマンションの屋上から飛び移ってきた紅薔薇(ka4766)だ。
「すまぬ、遅くなったのじゃ!」
 そのまま魔術師へと跳びかかった紅薔薇が放ったのは刃ではなく蹴り。
 しかし蹴りでも十分な威力があり、杖で受けた魔術師は大きく背後へよろけた。
「よっと……ん? 紅薔薇……なんで素手で戦ってんだ?」
「祢々切丸がアパートの階段を通らぬでな……にっちもさっちも行かぬので、引っ掛けたまま駆けつけたのじゃ!」
 屋上へ駆け上がった啓一が首を傾げるのも当然である。
 出発した時は背中に刀を背負っていたのだ。刀と呼ぶには大きすぎる、340cmの得物を。
 当然、雑多としたこのエリアを走るには邪魔で、階段の折り返しに対応できなかった。
 一応階段そのものや天井を叩き斬ればイケそうな気がしたが、住人もいるので断念した次第である。
 ちなみに啓一も邪魔になると判断してガータル・ゾアをおいてきていた。
「色々と言いたい事はあるのじゃが……とりあえずぶん殴るのじゃ。歯を食いしばるがよい!」
 拳で紅薔薇が魔術師を襲うと、啓一は弓使いへと駆け寄る。
 こちらの男の方が出方が読めず、危険だと判断したのだ。
 予想通りというべきか、男はあっさりと屋上から飛び降りる事を選んだ。
 退却か、罠か。その判断を置き去りに、啓一は迷わず屋上を飛び降りる。
「逃がすかよ! 俺らの大事なモノを傷つけたてめえらを、絶対に許さねえ!」
 拳からの衝撃波を男の腹に打ち込むと、反撃のナイフを胸に受けながらも、お構いなしに顔面に聖拳をめり込ませた。
 雄叫びと共に拳を振りぬくと、男は地面へと叩きつけられた。
「人間風情が、図に乗ってんじゃねぇ!」
 魔術師は至近距離でファイアーボールを放ち、屋上全体を爆発に巻き込む。
 シュネーも紅薔薇もダメージを受けたが、直撃ではない。シュネーはワイヤーで今度は魔術師の杖を絡めとり動きを止める。
 しかし、魔術師もまた杖を直ぐに手放した。その掌にはマテリアルが雷へと変質する。
 身体のどこかに発動体があれば、魔法はまだ使える。
 繰り出される雷撃を、しかし回避した紅薔薇は懐へ飛び込み、アッパーで魔術師の顎を殴りあげる。
「何……ぐあっ!?」
「シュネー殿、縛り上げるのじゃ!」
 よろけたところを組み伏せた紅薔薇の要請に応じ、シュネーはウィップで魔術師の身体を拘束する。
 地上では啓一が倒れた男を組み伏せていた。これにより、騒動は一応の終息を見るのだった。

「ホリィ……しっかりして」
 回復を終えたエイルの呼び声に応じ、器は目を覚ました。
 身体の傷は粗方治癒している。頭を振って立ち上がると、側にはハイデマリーの姿もあった。
「エイル……。そっか、皆が助けてくれたんだね」
「あなたもハイデマリーさんを守ったのよ。それに……今回は暴走しなかった。よく頑張ったわね」
 器は自らの掌を見つめ、小さく頷く。
「抑えるので精一杯で、目覚められなかったけど……」
 帝国兵が現場に駆けつけたのは、事が済んだ後だった。
 今は周辺が封鎖され、民間人も入り込めないようになっている。
 テロリストは全員拿捕され、二人のエルフもハンターらに取り囲まれていた。
「襲われたのはホリィ殿達だからのう。お主らの処遇を妾が決めるつもりは無い。二人が許すなら許すし、許さんのなら許さんのじゃ」
 階段に挟まっていた祢々切丸を回収した紅薔薇が見下ろしながらそう言うと、少女は唾を吐き。
「許すも許さないもあるか。敵なんだから、さっさと殺せばいい」
「あのねぇ、どうしてそう極端なわけ? テロなんかで世界が変えられるわけないでしょ? 殺すとか殺されるとか、非効率にも程があるよ」
「そりゃ人間の言い分だろ? あたし達から全てを奪った、侵略者の台詞だ。あたしらはあたしらの領分を守る為にやってる事だ。そもそも、浄化の器はエルフハイムの所有物だ。お前らが介入する事自体おかしな話でしょ」
 目を細め、キヅカは少女の胸ぐらを掴んで強引に立ち上がらせる。
 そして繰りだそうとした拳は、しかしリサに止められていた。
「リク、やめて!」
「彼女は無抵抗よ。それを傷めつけるようじゃ、話が違うでしょう?」
 諭すようなエイルの言葉に歯ぎしりし、リクは少女から手を離した。
「ホリィはお前らの道具じゃないし、人形でもない。二度とそんな事言うな」
「キヅカさん……」
 呟きながらうつむくシュネーも、気持ちは同じだった。
 目の前の“敵”を許せない。それは皆同じだ。啓一も、紅薔薇も、怒りは抱えている。
「こやつらには色々と尋問せねばならぬ事もあろう? 口は効けるようにしとかねばな、リク殿?」
「うん……ごめん、紅薔薇さん」
「謝る事じゃねぇよ。リクがキレなきゃ俺がキレてた。そんだけの話だ」
 肩を叩く啓一の言葉に頷くキヅカ。しかし、少女は堪えきれなくなったかのように笑い出す。
「本当におめでたい連中だね!」
 次の瞬間、“二人のエルフもろとも”魔法が放たれた、
 二方向から同時に放たれた火球が爆発する。それに常時、数名のフードの人影が突っ込んでくる。
「よぉ! 迎えにきてやったぜぇ!」
「世話が焼けるわね……次はないわよ」
 高位の覚醒者、執行者と思しき人影が五人。それらは魔法で負傷した魔術師と弓使いを連れ、走り去っていく。
「口封じ……いや、救援。そうか、他にも敵はいたのじゃったな……!」
「テメェらは絶対にあたしが殺す! あたし達……“掟の森(ヤルン・ヴィド)”が! 必ず、必ずだ!!」
 人混み、入り組んだ地形は相手のほうが機動力が高い。追跡は困難だった。
「そういえば、ここ以外の場所でも騒ぎが起きているんでしたね……失念していました」
「ま、ご丁寧に名乗っていったんだ。収穫は一応あったろ」
 シュネーの言葉に呆れたように頬を掻きながら啓一が呟く。
 すると、そこへ兵士らが道を作り、背の高い老人が歩いてくる。
「お前らが鎮圧してくれたハンターか。礼を言うぜ」
「第一師団長、オズワルドさん!?」
「キヅカか。どうも見知った顔が多いな……何があった?」
「あの~、っていうか、後ろで捕まってるヤツも知り合いなんですけど~」
「あら、ハジャさん? 無事だったのね」
 リサが指差す先、ハジャが帝国兵に拿捕されていた。流石にエイルも苦笑いである。
 色々と説明して開放してもらうと、ハジャは疲れた様子で膝を抱える。
「俺、民間人守って頑張ったのに、動きが敵と同じだという理由だけで逮捕されたんだぜ……」
「よしよし、えらいえらい」
 ハジャの頭を撫でるリサ。一方、状況説明を受けたオズワルドは腕を組み。
「話はわかった。だが、今エルフハイムと帝国の関係は微妙な時期でな。お前らの中には事情を知っている者もいるだろうが……一先ずこの件は俺が与ろう。器とハイデマリー女史は、バルトアンデルス城で匿う」
「信じて……いいんですよね?」
 事情を知るからこそ、エイルは不安げに問いただす。
 しかしオズワルドは真っ直ぐにその瞳を見つめ返し、力強く頷いた。
「ああ。第一師団長の名に賭けて、この子を守ろう。だが、帝国として出来る事には限度がある。近々、お前たちの力も借りる事になるだろう」
 器はオズワルドの側に移動し、ハンターらへ振り返る。
「とりあえず、行くよ。私がいると、関係ない人に迷惑がかかるから」
「そんな……」
「ありがとう。でも、わかってるから」
 しゅんとした様子のエイルの肩を叩き、ハジャが前に出る。
「俺もついてって様子を見とく。大丈夫だ、この爺さんは信頼できるってアイリスも言ってたしな。何かわかったら、また連絡するよ」
 こうして器とハイデマリーはバルトアンデルス城へと姿を消した。
 ハンターらは一抹の不安を抱えたまま、未だ騒動冷めやらぬ街を後にした。

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  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエットka2807
  • 運命の回答者
    リサ=メテオールka3520

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 運命の回答者
    リサ=メテオール(ka3520
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/07/28 15:49:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/25 02:16:42
アイコン 質問卓
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/07/28 00:11:16