• 詩天

【詩天】水の戯れ

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/05 19:00
完成日
2016/08/11 17:53

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 詩天の警備を任せられている大川真次郎匡彦は目の前にいる楠木家が当主、楠木香の出現に困惑していた。
 大川はかねてから交流のある楠木家に兵を出してほしいと打診していたものの、楠木家が統治する千早城でも歪虚の攻撃を受けており、兵の支援は半ば諦めていた。
 言葉を切り出したのは香からだ。
「大川殿。申し訳ないが、今の千早城には兵は出せぬ」
「わざわざそれを言いに詩天まで……?」
 断るのであれば、手紙で十分だ。香一人が詩天に現れる現状に意味を見いだせない。
「私もまた、民を守る立場の者。このような状態を放っておくわけにはいかぬ。微力ながら、私も手伝わせてもらえないだろうか」
 思いがけない香の言葉に大川は目を見張った。
「先日、私は詩天に到着したところ、商家の丁稚少年が使いで渡すための薬を浪人に奪われたところを遭遇した。町の人と、即疾隊で取り戻したが、複数の浪人の一人が歪虚に身体を侵されていた」
 香が告げた言葉は大川も聞いたばかりだ。
 即疾隊の局長達より、隊士が街の者と楠木香と名乗った剣士と共に歪虚化した浪人を討伐した報告を受けた。
 隊士より本物だと進言はあれど、情報の真贋を正すようにと指示をだしたところ。
「現在は風待という渡世人の家に身を寄せております。彼らのところにいれば、何かと情報が入ってきますゆえ」
 渡世人の風待の名は知っている。
 復興中の詩天で悪行が行われないために目を光らせている渡世人一家と大川は聞いていた。
 渡世人のところに他州の一城の主が身を寄せるのは少々抵抗はあれど、幕府への警戒を持つ者がいるここよりはマシだろうと大川は思案する。
 それよりも、大川には香に頼みたいことがあった。
「楠木殿に頼みが……」
 身を屈める大川に香は自然と上体を前に屈ませる。

 大川との対面を終えた香は逗留先の風待一家へと戻る。
 途中、甘味屋で菓子を買って帰った。
「遅かったな。心配してたぞ」
 風待が家の前で香を心配してうろうろ歩いていたが、女房に「香ちゃんは子供じゃないんだよ」と怒られているところに香が帰宅した。
「姐さん、お土産だ。皆で食べよう」
「ありがとうね。お茶入れるよ」
 姐さんが勝手の方へと向かうと、香は風待に話があると言った。
「なんでぇ、改まって」
 居間で子分達も交えておやつを食べていると、香が口にしたのは即疾隊の事。
 詩天警備隊の名を冠する即疾隊は名ばかりの荒くれ者達であり、仕事にあぶれた浪人や田舎剣士の集まりである。
 最初の印象は警備隊の威を借りる粗暴者という最悪のものであり、今はそこそこ印象はよくなってきている。
「あいつ、壬生和彦!」
 子分の一人が思い出したように手を打つ。
「あー、どんな顔だっけ」
 名前は出てくるが、顔は思い出せない模様の子分たち。
「有名なのか?」
 香の問いに子分たちはこくこく頷く。
「滅法強い奴っす」
「この間も歪虚を倒しやしたね」
 歪虚を倒せるとなれば、覚醒者だろうかと香は話を聞きつつ思案する。
「髪で顔を隠しているからあまり印象にないんだろうね。かなり控えめなお人と聞いているよ。」
 姐さんの言葉に風待はため息を吐く。
「実力があるやつは何かと気を大きく持つ奴はいるが、奴はそうでねぇんだ。あんな所にいるんだから、色々とあるんだろうよ」
「……そう、ですね」
 茶を啜る香に子分が思い出したように顔を上げる。
「香さんはなんで即疾隊の事を知りたがるんで?」
「ああ、彼らに実戦指南を依頼された故、知りたかったのです」
 しれっと答える香に一家の皆はなるほどと素直に頷く。
「大変っすね」
「頑張るんだよ」
 などと返して一呼吸置いた後、全員が一斉に香の方を向く。
「なんだってーーーーーー!」
 風待一家に大きな声が響き、近隣まで聞こえていた。

 即疾隊の屯所の一角で顔を突き合わせた局長と副局長は肩を落としていた。
「これであの調査が出来るな……」
 ぽつりと呟いたのは局長の江邨。
「受けて下さってよかったですね」
 安堵のため息をつく、副局長の前沢だ。
 この二人が頭を悩ましたのは隊士達の事。
 実を言うと、即疾隊である問題がひっそりと浮上していた。
 一部隊士の実戦経験だ。
 即疾隊は浪人や田舎剣士の集まり。その中で、入隊したものの、刀を持って実戦したことはないという隊士が数名現れた。
 先日街中で隊士達が退治した歪虚がとれた場所の調査があった。
 普段は人の出入りがない川辺で魚や海老を取ったら、歪虚が中に入っていたという。
 運搬していた桶の中で歪虚は魚やエビを捕食し、肥大化したようだった。
 ちょうどよくいた隊士の壬生和彦が仕事帰りのハンター達と一緒に討伐したとのこと。
 その後、ハンター達が聞き取りを行って、即疾隊の隊士が後日いったところ、歪虚がいたが、隊士は逃げ出してしまって、実戦したことがないと告白を受けた。
 稽古と喧嘩くらいしか経験がなく、刀を持つこともなかったとのこと。
 正直、そんなんじゃ話にならないので、実戦経験を積むべく、その教官になれそうな頼れる者は忙しく、どうしたものかと大川に相談していたのだ。
 そんな折に現れたのが楠木家の当主、香が詩天に現れたという話。
 若き当主の実力は噂であるが、かねてより聞いている。
 一城の主たる武将にこのようなことは申し訳なくも思えるが、今はそれどころではない。
 溺れる者は藁にもつかむ勢いである。
 そんな時に現れた香姫は正にうってつけの人材だ。
 兵を連れ、実戦訓練と称して周辺の雑魔狩りをするような武将がどのような人物が楽しみでもある。

リプレイ本文

 ハンターと共に即疾隊屯所に現れた楠木家当主の姿を一目見ようと野次馬に出迎えた隊士たちは騒然となった。
 年若く愛らしいのに……と訝しる者も居たりするのだが、一緒に現れた閏(ka5673)にこっそり問いた隊士達に彼は穏やかにほほ笑む。
「噂通りの武将ですよ。私も共に戦いました」
 肯定の言葉に隊士達は納得せざるを得ない。
 ハンター達もまた、細身や小柄で整った顔立ちをしているが、その強さは隊士も理解している。
 局長達も香の外見に少々面食らったものの、その佇まいに納得し、本題へと入る。
「実戦経験ならば、戦場に放り込めば何とかなりますが」
 そう呟いたのは連城 壮介(ka4765)。局長達も同じことを考えていたようであり、同意するように頷く。
「治安部隊ならば、離れるのは難しいですね」
「恥ずかしい話ではあるが、頼み申す」
 頭を下げる副局長の前沢の言葉をハンター達が受け止める。

 件の隊士達は魚型歪虚をハンター達と調査ということで屯所を出た。
「とりあえず、どこかのお店に入ってお話しましょ」
「個室がある店かな」
 優夜(ka6215)の提案に、如月樹(ka5926)が配慮する。
「そうねぇ、そうなると値が張りそうだけど」
 おっとりと返したのは守原 由有(ka2577)だ。
「一般隊士とハンターと旅の者が入るには少々物々しいか」
 世間へにいらぬ心配をかける可能性をルイトガルト・レーデル(ka6356)は思案する。
 悩んでいた一同だったが、香がいい所があると提案した。

 連れて行かれた場所の主こと、風待はどうしてくれようという顔をしていた。
 十人強の客が来ても対応出る家なので、何とかなるのだが、どうしてこうなった。
 隊士達も入るまでは横柄な態度をとっていたものの、入った途端、一気に縮こまってしまっている。
「申し訳ない」
「世話になる」
 いつもの横柄な様子はどうしたとばかりに頭を下げる隊士達に面食らうハンター達。
「局長達より話を聞いていると思うが、我々には実戦経験がない」
 そう言いだしたのは箕郷。
「いつも稽古や喧嘩に明け暮れていても、手にしていたのは木刀や竹刀だ。実際に刀を持った時の高揚感はあったが、その刀で人を斬るともあれば、話は別だ」
 試したい者がいるが、そうではない者もいるということの模様。
「俺は、実戦経験もなければ、嘘をつく度胸もない。大きな態度をして、煙に巻くしかない」
 四人の隊士の中で一番大柄で一番年若い諏訪。大きな体躯を丸めてしょんぼりとしている姿はなんだか、年齢相応に見える。
 嘘は言えないが、仲間に馬鹿にされるのも嫌というところだろうと察した閏は香を見やった。
「我々の考えは、実戦経験がなければ、積むことである。一度積めば回数は気にするな。
この件はあくまでも、魚型歪虚の調査とし、私は箕郷殿達の事については他の隊士には話すことはない」
 堂々と言い切った香に隊士達は安堵の表情を見せる。
 最後の部分が隊士達にとって気にしているようだった。

 リアルブルーでいうところの梅雨も明けており、詩天の地域も一気に気温が上がっている。
 湿気すらも蒸発してしまいそうな熱気の中、現場に到着した。
 川の流れは早く、水が流れる音が土手のところまで聞こえるほど。
「あんな川の流れでよく魚がとれたね」
 樹が川を眺めつつ、呆れていた声をだす。
 話によると、捕る為のポイントがあるようで、そこの流れは比較的に緩やかと捕ってきた漁師が言っていた。
「水辺だけあって、涼しいわねぇ」
 日差しを手でかざして由有が川辺を眺める。
 川にはまだ歪虚の姿はなく、壮介と隊士達が協力し合って網をかけていた。
 偉そうな様子はなく、年齢相応で素直な様子を閏は見つめていたが、じっと香に見上げられていたことに気づく。
「何か」
「口元が緩んでいた」
 目を瞬きつつ、香に尋ねた閏だが、帰ってきたのはルイトガルトの声。彼女の言葉に香も同意だった。
「微笑ましいわよね」
 くすくすと笑う由有であったが、隊士が助平心を起こして触ろうとしたら香に勘付かれ、かなりの使い手だと釘刺され、隊士達は鉄拳制裁を免れていた模様。
「力というものは、大なり小なりと人を変える。剣術が人より使えるという自信が増長すれば、時として他者を威圧するものとなる」
 香の視線は隊士達へと向けられる。
「壁に当たっても自尊心が強ければ、こじれて横柄な態度となる……か」
 じっとルイトガルトが壮介達の方を見れば、網の仕掛けは完了していた。
「悩ましいもんだね」
 樹がそっとため息をついた。

 網掛けを完了し、隊士達に一通りの型を見せてもらう。
 壮介は川の様子を見ていた。
「中にはいるみたいですね」
 作業中に見えた影は大きかった模様。
 釣りをしつつ、歪虚の動きを待つ事にしたのだが……敵とでも思われたのか、川の流れに反したかのような激しい水しぶきが起こる。
「下がっていてください」
 符を手にした閏が前に出る。
 正直、前回のあの歪虚は心的外傷になりかねないほどの風貌であったものの、今は実戦経験のない隊士の指導役。
 泣くところは見せられない。
 ひらりと、符を中空に放り投げると、符より紫電が走り、稲妻が川辺に落ちては水面に反射するよう輝く。
 水が静かになると、水面下で何かが揺らめいた。
 一際大きな音を立てて、大きな水しぶきがハンター達へと飛んでいった。
 思い切り水を浴びたハンターと即疾隊であったが、浅瀬に乗り込んだ水しぶきに紛れて魚型歪虚が長いヒレを即疾隊士へと伸ばしてきた。
「ひっ!」
 短い悲鳴を上げたのは真っ先に狙われた諏訪だ。
 黒い影が視界の下に現れたと認識した瞬間、ヒレは諏訪を攻撃することなく引っ込めた。
 諏訪の前にいたのは香であり、彼女は刀でヒレを斬り落としており、その証拠にヒレの先が足元に落ちている。
「目を瞑るな! しっかり敵を見ろ!」
 香が叱咤すると、諏訪は震えながらも刀を構え、敵を見る。
「楠木の言う通りだ。敵を侮るな、その動きを見て斬れ」
 静かに、しっかりと告げるルイトガルトに大宮は「はい!」と叫ぶ。
 もしかしたら、命を落とすかもしれないという状況下である、緊張と要らぬ力で身体が震えるのは無理もない話である。
 それでも前に出たのは箕郷だ。
 隊士の中で一番年長にあたるのもあるのだろうか、いつもの威勢はきえていた。
 隙を見ていたかのように歪虚が尾びれを高く上げて思いっきり振り下ろす。尾ひれの衝撃で水しぶきが上がり、隊士やハンター達に水がかかる。
 追い打ちのように尾ひれが即疾隊の方へと向けられて、箕郷の方へと飛んでいく。
「うわっ」
 びくりと、肩を震わせた箕郷が後退る。眼前に迫る尾びれに肩を竦めて槍を振ろうとしたが、それは蝶に似た姿の光弾が尾びれを弾いた。
「勇気を出して前に出たのは一歩前進だ」
 そう褒めたのは樹だ。
「君の槍や、奴らの武器……ヒレもまた射程が長い。だが、奴らは水より出てきてはいない」
 樹の言葉に箕郷は確かにと頷く。
「一人で戦っているのであれば、前に出ないとならない時もある。しかし、即疾隊であれば、複数の仲間と戦う時がある。君は一人じゃない」
 神妙にな表情で真面目に聞いてくれている箕郷に樹がそう締めると、彼は「承知した」と素直にうなずく。ふと、視線を上げた箕郷の顔は蒼白になっており、様子に気づいた樹もその方向を振り向いた。

 その向こうでは、大宮が魚型歪虚に付け狙われていた。
「うぁあああああ!」
 長いヒレに狙われいた大宮は悲鳴を上げて逃げている。
「おお、思った以上に速いですね」
 呑気に褒めるのは壮介だ。
 ヒレは投げっぱなしではなく、魚の意志か、ヒレが自在に近い状態で動いていた。
 そんなヒレに追い回される大宮は多少コケたりしているものの、見事に逃げ回っている。
「錯乱における、回避を行おうとする本能だな」
 冷静に分析するのはルイトガルトだ。
「誘い出して来る」
 ルイトガルトが前に出ると、壮介は大宮を追った。
「逃げっぷりはいいですが、もう少し、敵を見ましょう」
 大宮を狙うヒレを切り裂いて一度引かせたのは壮介の一撃。
「え、や……しかし……」
 おろおろとする大宮に壮介が「見てください」と視線を促せると、水辺でルイトガルトが大宮を狙っていた歪虚を誘い出していた。
「今、ルイトガルトさんが歪虚と戦ってますよ。歪虚がルイトガルトさんへ注意を向いているのはわかりますか?」
 壮介が言えば、大宮は頷いた。
「大宮さんはかなり動きが速いことが分かりました。今、歪虚は貴方を見てません」
「攻撃の隙……」
 はっとなった大宮に壮介が「あっち側から向かってきてください」と指示をすると、壮介はルイトガルトの応援に入る。
 歪虚と戦っているルイトガルトは思ったより、ヒレが重たいと思いながら戦っていた。
 壮介が加勢すると、更に歪虚はハンター達の方へと向かう。
 先ほどまでの速さはどこへやら、大宮の動きが慎重になっている。
「怯むな、黙って進め」
 ルイトガルトが言ったあと、彼女は剣を持っていた手ごと、ヒレに巻き付けられていた。
 魚とルイトガルトの引き合う力が拮抗し、ヒレが張っている。
「危ない!」
 はっとなった大宮は一気に駆けだして、思い切り刀を振り上げ、ヒレを思い切り両断にした。
 いきなり自由になったルイトガルトはよろめいてしまったものの、転ぶことなく、態勢を整える。
「今の調子ですよ」
 良かった事を壮介が声をかけると、自分が与えた一撃で仲間の危機が救えたという事に大宮は緊張と嬉びでいびつな笑顔を見せた。
「まだ奴は生きている。しっかり仕留めるぞ」
 ルイトガルトが大宮に声をかけると、やる気が出たのか、しっかり歪虚を見つめて刀を構えた。

 秋間は青ざめた顔のまま、頑張って戦闘に参加していた。
 今まで彼が相手をしていたのは人間であり、今目の前にいるのは人間とはかけ離れた存在、歪虚である。
 力の差は誰だってわかっている。
 人の命を一瞬に奪うことができるのだから。
 集中しようにも戦いに集中できてない秋間の肩に細い手がかけられる。
「落ち着いて、必要以上に恐れることはないから」
 そう言ってきたのは優夜だ。
 肩に手を置かれて、びくっとなった秋間であるが、優夜は気にせずに言葉を続ける。
「けど、相手は私達の想像を軽く超えるの。その為に観察し常に考えて」
 視線が定まらない秋間であったが、水しぶきの音に気づいてその方向を見やれば、歪虚の動きを誘導していた由有がジャンプしていた。
 ジェットブーツを使用してのジャンプは滞空時間が長く、歪虚は尾びれを水面に叩きつけるしかなかった。
「ほら、まだいるわよ!」
 歪虚の眼前まで飛んだ由有は片手に装着した鬼爪で魚のエラをひっかけて固定し、純白の杖で魚の鼻目掛けて杖を捻じり込む。
 鬼爪を離す際、エラを一気に引っ張り上げると、エラを剥がされた歪虚は身体を水に打ち付けて痙攣の様に身体を跳ねる。
 追い打ちをかけるべく、秋間が駆けだすと、歪虚は身を捻じって尾びれを振って秋間へ襲う。
「うわ!」
 肩を竦めて上体を仰け反らす秋間を守ったのは由有が放ったデルタレイの光線。
「死にかけの奴ほど攻撃的よ! 緩まない!」
 厳しい叱咤の由有の声が響く。
 更に足掻こうとする歪虚はボロボロとなっても射程距離と判断したのだろうか、ヒレを秋間へ伸ばす。
 刀を構える秋間とヒレの間に光輝く小鳥が飛んでいき、秋間を守るように小鳥がヒレと打ち合い、その姿を消した。
「……正直、私も怖いよ」
 もう一度符を取り出した優夜は禹歩を発動していた。
「まだまだ足りないことが多いから、あなたとと一緒に学びたいの」
 秋間の方を向いて告げる優夜は笑顔を向けていた。
「左からくる」
 優夜が言えば、由有が水中拳銃を構える。
 魚の動きは鈍く、標準を定めるのは比較的容易と由有は感じる。二発打ち込むと、一発が魚の目に命中した。
 動きを止めた歪虚を見た優夜は秋間へと声をかける。
「今よ!」
 優夜の声に応えるべく、秋間が浅瀬に入り、魚の身体へ深く斬り入れた。
 一度離れ、歪虚の動きが完全に止まった瞬間を見た秋間はじっと、歪虚を見ていた。

 カードバインダー「ゲヴェルクシャフト」を手にしていた閏は、諏訪の動きを観察している。
「鳥海さん。諏訪さんを助けるため、宜しくお願いします!」
 主たる閏の呼びかけに答えるように鳥海さんが歪虚の方へと飛び出した。
 飛び出してきたヒレが諏訪を守る。
 諏訪は歪虚の攻撃に驚いては尻もちをついていた。
「やはり敵を目の前にして少し怖気づいている所が見受けられます」
 閏が静かに告げると、押し黙った諏訪が声を上げる。
「俺は覚醒者じゃねぇよ! 怖気ついて何が悪い!」
 自分がうまく立ち回れないことによる癇癪を起こした諏訪が閏に叫ぶ。
「怖いのは非覚醒者だけではありません。覚醒者……俺もまた、怖いのです」
 諏訪の癇癪を真っ向から受け止める閏が静かに言葉を返す。
「俺も最初はあの魚型歪虚が怖くて逃げようと思ってました」
「ハンターなのにか?」
 覚醒者にも様々あるが、ハンターになるというのも一つの道である。即疾隊とは違い、様々な強敵と相対するハンターの活躍はこの東方にも響いてきている。
「ハンターにも勇ましい者がいれば、俺のように泣き虫もいます。しかし、目の前の敵を倒さないとなりません。それはハンターも即疾隊も同じです」
 歪虚の方を見やれば、香が魚型歪虚をいなしている。
「貴方がうまく動けなくても、補ってくれる仲間がいます。いずれ、補ってくれた仲間を助けられるように強くなりましょう」
 差し伸べた閏の手をとった諏訪が立ち上がる。
 目の前で戦っている香が振り向き、諏訪を見た。
「諏訪殿、力を貸してくれ」
 真っすぐな香の言葉に諏訪は閏の方を見る。「自分でいいのか」と問うように。
 閏は迷わずに頷く。
「貴方の力が必要です」
 その言葉に諏訪が駆けだした。
「楠木殿、閏殿! 俺がひきつける! 倒してくれ!」
 刀を振り上げる諏訪は魚型歪虚の前に躍り出る。
 歪虚の口先を切り裂き、注意を引く。
「香さん、一気に行きましょう」
「ああ、彼の心構えを無駄にする気はない」
 閏が香を促していると、諏訪がヒレでベシッと、叩かれている。
 折角の勇気を無駄にする気はなく、閏は風雷陣で動きを止め、香が一撃を加え、最後は香と諏訪で止めを刺した。

 最後の一匹は隊士達に任せてハンター達は完全に補助に入る。
 基本的な陣であったが、連携して討伐を完了した。
 ハンター達はそれぞれ隊士達へ賛辞をおくり、隊士達はそれぞれ嬉しそうであり、感謝の言葉を述べていた。
 屯所に戻った隊士達を見て、ほんの少し顔つきが変わったと局長達は感じていたようだ。
 そして、局長達はあることを決めた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 銀紫の蜘蛛
    守原 由有(ka2577
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士
  • 招雷鬼
    閏(ka5673
    鬼|34才|男性|符術師

  • 如月樹(ka5926
    人間(蒼)|20才|女性|符術師
  • 即疾隊仮隊士
    優夜(ka6215
    人間(紅)|21才|女性|符術師
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデル(ka6356
    人間(紅)|21才|女性|舞刀士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/03 23:54:18
アイコン 相談場所
閏(ka5673
鬼|34才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/08/05 18:24:21