ゲスト
(ka0000)
鳥人ジョット
マスター:雪村彩人
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/18 12:00
- 完成日
- 2016/09/01 00:12
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ゾンネンシュトラール帝国辺境。
その街は中規模の大きさをもっていた。そして街の東部。幾つもの破壊された建物があった。
先日のことだ。突如、街に歪虚が現れた。巨人の吸血鬼である。建物はその吸血鬼が破壊したものであった。
その吸血鬼は七人のハンターの手により殲滅されている。が、それは数日前のことであったから、街にはいぜんとして爪痕が残されているのだった。そして――。
街の西の辺り。人々の営みは絶えることなく続き、街路は行き交う者たちの姿で溢れていた。
ひゅん、と。
風が鳴った。そのこと気づいた数人が怪訝そうに足をとめた。そして、気づいた。異様な現実に。
街路に不気味なものが立っている。手足を備えた人間のようなもの。しかし、それには頭がなかった。
刹那である。首の切断面から血がしぶいた。顔を血で真っ赤に染めた女が悲鳴をあげる。
いや、悲鳴はすぐにやんだ。女の頭部が吹き飛んだからである。何が起こったのか、わからない。
人々が一斉に逃げ出した。その様を笑う声は空にある。
それは人間のようであった。が、断じて人間ではない。それの背には蝙蝠の翼があった。
「……これで二人」
ニヤリとすると、男は手を上げた。その手は男の首をしっかりと掴んでいる。頭部を切り裂いて持ち去ったのは男であったのだ。
「さあて。次の獲物は――」
舌なめずりすると、男は下界を見下ろした。
●
「……結局、マティス何人殺ったんだ?」
可愛らしい顔の少年が口を開いた。街を見下ろす丘の上である。
「どうでもいい」
冷たくこたえたのは陽光に浮かび上がった輝く美貌の少年だ。
「奴は死んだからな。失格だ」
「ジョットは何人殺れるかな」
ケケケ、と男が笑った。狂犬の目をしている。すると優美な女が眉をひそめた。
「マティスを殺った奴、また出てくるんじゃないかしら?」
「心配はいらん」
五つめの声。老人であった。
「あの街の自警団がどれほどの力をもっているのか知らんが、鳥のごとくに空翔けるジョットを捉えることなどできようはずもない」
くつくつと老人は嗤った。
●
逃げてみせろ。
街路を逃げ惑う人々を見下ろし、ジョットは思った。
彼もかつては逃げていた。暴力から。が、暴力は彼を逃がさなかった。そしてジョットは殺された。
「今度は俺が追いつく番だ」
獲物を定めると、彼は急降下した。
ゾンネンシュトラール帝国辺境。
その街は中規模の大きさをもっていた。そして街の東部。幾つもの破壊された建物があった。
先日のことだ。突如、街に歪虚が現れた。巨人の吸血鬼である。建物はその吸血鬼が破壊したものであった。
その吸血鬼は七人のハンターの手により殲滅されている。が、それは数日前のことであったから、街にはいぜんとして爪痕が残されているのだった。そして――。
街の西の辺り。人々の営みは絶えることなく続き、街路は行き交う者たちの姿で溢れていた。
ひゅん、と。
風が鳴った。そのこと気づいた数人が怪訝そうに足をとめた。そして、気づいた。異様な現実に。
街路に不気味なものが立っている。手足を備えた人間のようなもの。しかし、それには頭がなかった。
刹那である。首の切断面から血がしぶいた。顔を血で真っ赤に染めた女が悲鳴をあげる。
いや、悲鳴はすぐにやんだ。女の頭部が吹き飛んだからである。何が起こったのか、わからない。
人々が一斉に逃げ出した。その様を笑う声は空にある。
それは人間のようであった。が、断じて人間ではない。それの背には蝙蝠の翼があった。
「……これで二人」
ニヤリとすると、男は手を上げた。その手は男の首をしっかりと掴んでいる。頭部を切り裂いて持ち去ったのは男であったのだ。
「さあて。次の獲物は――」
舌なめずりすると、男は下界を見下ろした。
●
「……結局、マティス何人殺ったんだ?」
可愛らしい顔の少年が口を開いた。街を見下ろす丘の上である。
「どうでもいい」
冷たくこたえたのは陽光に浮かび上がった輝く美貌の少年だ。
「奴は死んだからな。失格だ」
「ジョットは何人殺れるかな」
ケケケ、と男が笑った。狂犬の目をしている。すると優美な女が眉をひそめた。
「マティスを殺った奴、また出てくるんじゃないかしら?」
「心配はいらん」
五つめの声。老人であった。
「あの街の自警団がどれほどの力をもっているのか知らんが、鳥のごとくに空翔けるジョットを捉えることなどできようはずもない」
くつくつと老人は嗤った。
●
逃げてみせろ。
街路を逃げ惑う人々を見下ろし、ジョットは思った。
彼もかつては逃げていた。暴力から。が、暴力は彼を逃がさなかった。そしてジョットは殺された。
「今度は俺が追いつく番だ」
獲物を定めると、彼は急降下した。
リプレイ本文
●
鐘楼はそびえていた。深い夜の闇の中に。
毎日、夜の訪れを報せるために鳴らされていた鐘は、その日、鳴ることはなかった。
闇に沈む街道をゆく影があった。
数は八。ある者は騎馬であり、ある者はバイクを駆っていた。
「また 薄汚い歪虚がでたのね?」
全身を白銀の鎧――ヘパイストスで包んだ娘が整った顔をしかめて、吐き捨てた。エクラ教の敬虔な信徒である娘は歪虚の存在を見逃すことはできないのだ。
彼女の名はセリス・アルマーズ(ka1079)。ハンターであった。
すると静かな物腰の少年が首を傾げた。連城 壮介(ka4765)という名のハンターである。
「……また、ですか? 同じ町ばかり狙われていますが……何かあるのでしょうか。それとも偶然が続いただけか……よく分かりませんね」
壮介はいった。町が歪虚に襲われたのは、これで二度目であったからだ。
「そうですね……」
うなずいたのは優雅な雰囲気を漂わせた娘であった。闇の中でも輝く金髪と蒼瞳か美しい。――アメリア・フォーサイス(ka4111)は次いで眉をひそめた。
「数日でまた襲われるなんて……運が悪いのは狙われているのか」
アメリアは独語した。
歪虚が跳梁跋扈する帝国において、ひとつの町に歪虚が数度出現することは珍しくない。が、数日の間に現れることはさすがに希であった。何らかの意図があるとしか思えない。
すると快活そうな少年がぎりっと歯を噛んだ。
「これから復興が始まるだろーっつー街に、なんでまた仕掛けてきやがる。まとめて来なかったのは偶然か? 分っかんねー。けど一個だけ確かなことがあるぜ。さっさと街に行ってヴォイドを倒さねーといけねーってことだ!」
少年――岩井崎 旭(ka0234)はースロン)は愛馬であるシーザーの脇腹を蹴った。
●
「……あれか」
旭がいった。ミミズクの精霊と契約をかわした彼は夜目が効くのである。
「なるほど」
ナグルファル――搭乗者のマテリアルを使用した魔導機械式エンジンにより駆動する魔導バイクをとめると、若者は金色の目を上げた。
鐘楼の屋根。そこで横たわる人影があった。
「今度は空飛ぶ奴か。被害を増やさない為にもとっとと倒してやるぜ!」
柊 真司(ka0705)というなの若者はバイクからひらりと飛び降りた。重力を感じさせない身軽さである。
その時だ。むくりと人影が身を起こした。バイクのエンジン音に気づいたのであろう。
見つめる美少女の蒼の瞳に強い光がよぎった。それは決意の光である。必ず今夜中に仕留めてみせるという。
彼女の名はエルバッハ・リオン(ka2434)。端正美麗なエルフの少女であった。
その時である。闇に薄黄色い光が揺れた。ランタンの明かりである。もっているのは冷然たる相貌の若者だ。
「獲物はここにいるぞ。さあ、やって来い」
若者――ザレム・アズール(ka0878)は誘うようにいった。その首には防護のためにマフラーが結ばれている。夜風にマフラーがなびいた。
と、暗天に人影が舞い上がった。どうやらそのモノは巨大な蝙蝠の羽根に似た翼を備えているようである。
「……なんだ、お前たちは?」
人影が問うた。月明かりに浮かび上がったのは痩せた男の姿である。無論、人間ではない。歪虚であった。
「そういうお前こそ何者だ?」
真司が問い返した。
「この前斃したでか物の仲間か? 何故こんな事をする?」
「でか物を斃しただと?」
闇の中に二つの赤光が閃いた。懶と光る男の双眸である。
「ほほう。ならば、貴様達がマティスを斃した奴らか。――自警団ではないな」
男は眉を怪訝そうにひそめた。自警団ならすでに何人も屠った。たいして強い者たちではない。
比して、見下ろす奴らは違った。肌が灼けるような殺気を放っている。
「ハンターです」
エルバッハが告げた。
「ハンター?」
男は首を傾げた。ハンターという存在に覚えはなかった。
「が、殺る。マティスを殺った奴ら。このジョットが始末してやる」
ジョットはいった。その胸の内がざわついている。
マティスの復讐、などではない。仲間意識などというものと彼らは無縁であったからだ。が、殺さねばならぬと何かがジョットに告げていた。
「ジョットか」
挑発するように真司は笑った。
「話しは終わりか?なら、お前もマティスと同じく刀の錆びにしてやるよ」
「前の飛び跳ねるしか能のないバカの同類のようね……どうせ羽が生えてるだけのゴミなんでしょう?」
セリスもまた嘲弄するように叫んだ。その身の鎧が白銀に煌く。
「ぬうっ」
カッとしたか、ジョットは獲物を定めるべく旋回し、徐々にその高度を落としていった。その様をポイントしている者がいる。やや離れた位置で銃をかまえているアメリアであった。ポジションはプローンだ。
アメリアの指がルーナマーレ――スナイパーライフルのトリガーにかかった。さすがのジョットもアメリアの存在は感知できていないようだ。
アメリアの瞳が金色に輝き、その指がトリガーをひいた。さすがに躱しえず、ルーナマーレから吐き出された熱弾がジョットの身体を穿つ。
「がっ」
たまらずジョットは呻いた。バランスを崩して落下――いや、むしろジョットは急降下した。狙いはエルバッハだ。
恐るべき速さで迫った鉤爪を、咄嗟にエルバッハは盾でいなした。防ぎ得たのはハンターなればこそだ。
再び飛び立とうとするジョットに生まれた一瞬の隙をつき、ザレムは死角より矢を放った。矢には強靭なワイヤーが結びつけてある。
が、矢は空しく夜空に流れすぎた。一瞬、ザレムの瞳とジョットのそれが合った。
「ふんっ」
壮介がかまえをとった。その手にはオートマチック拳銃――チェイサーが握られている。
壮介が撃った。闇をマズルフラッシュが灼く。が、熱弾はジョットをかすめたにすぎない。黒い風を巻き起こし、ジョットは再び空へと昇っていった。
「うーん」
壮介は首を唸った。
「……銃は、苦手です」
「なら」
エルバッハは慌てる素振りを見せず、呪分を詠唱した。すると彼女の胸元に薔薇の花を模した赤色の紋様が浮かび上がった。さらに、その紋様を起点にして、棘を模した同色の紋様が六本、両腕と両脚の先まで、それと両頬のあたりまで、体に巻きついているかのように浮かび上がる。
刹那である。彼女の眼前に現出した氷の矢が飛んだ。そして空を舞うジョットを容赦なく貫いた。
のみならず、氷の矢はジョットの身体をわすかであるが凍てつかせた。わずかに自由を奪われ、ついにジョットはその身を地へと落とす。
「蝙蝠ヤロウ、許さねえぜ。同じ鳥人間としちゃーよォ! この翼と嘴にかけて、テメーはここでブッ倒すッ!」
石畳に叩きつけられたジョットに、機を窺っていた旭が突撃した。その上半身は羽毛に覆われ、頭部がミミズクの様な姿になっている。
旭の手の戦槍――ボロフグイの穂先が、地上でもたつくジョットの横腹へ深々と突き立った。突撃の勢いで石畳に激しく擦られながら、ジョットが苦痛を孕んだ悲鳴をあげた。が――。
悲鳴は怒号に変わった。ジョットの口から不可視の衝撃波が噴出し、旭の首を切り裂いた。咄嗟に躱さねば首を両断されていたところだ。
鮮血をしぶかせ、旭ががくりと膝を折った。流血とともに力とと意識が抜け落ちていく。
「そんな超音波じゃ俺は倒せないぜ? もっと攻めてこいよ」
真司がアサルトライフルをかまえた。
P5。水中での使用を目的に作られた特殊な小銃だ。
ジョットの翼をポイント。P5の銃口が炎を吐き、熱弾がジョットの翼を撃ち抜いた。
「回復は任せて」
セリスが精霊に祈りを捧げた。すると柔らかな光が旭を包み込み、傷を癒しはじめた。
と、ジョットが激しく翼を羽ばたかせた。
「こんなことで、俺を堕とせると思ったか」
ジョットの身がふわりと空にういた。同時に超音波を吐く。
反射的にセリスはガラハド――聖なる盾をかまえた。凄まじい衝撃にセリスの身が仰け反る。
「もう空には戻しません」
アメリアが銃口を空へ向けた。ジョットをポイント。撃つ。
「馬鹿め」
ジョットはひらりと空を舞った。空しく弾丸が闇天に流れすぎていく。
すでにジョットはアメリアの狙撃位置を把握していた。躱すのは難しいことではない。
「なら、これはどうだ」
マテリアルを凝縮。それを破壊エネルギーを変換し、ザレムは放った。
「何っ」
ジョットは慌てた。さすがにこれは躱しきれない。炎にジョットは包まれた。
「くっ。こんなもの」
ジョットは蝙蝠の翼を羽ばたかせた。炎を吹き散らす。が――。
ジョットの背後で爆発が起こった。紅蓮の爆炎と爆風に吹きくるまれ、ジョットが空でバランスを崩した。
落下。見上げるエルバッハの口元に会心の笑みがういた。炎球を放ったのは彼女であったのだ。
一瞬で壮介は落下地点を推測した。石畳をすべるように馳せる。
ジョットはむしろ羽ばたいた。疾風の速さをともなって急降下する。猛追した壮介が日本刀――骨喰を切り上げた。
重なる二影。閃く白光もまた二。
「ぬっ」
抜刀の姿勢のまま、壮介は片膝ついた。その身は鋭い爪で引き裂かれている。
そしてジョットは地に叩きつけられた。石畳の上を成すすべも無く滑っていく。
おびただしい黒血が、闇の石畳をさらに黒々と染めた。が、同情する者などどこにもいない。敵は無辜の民に手をかけた殺戮者であったからだ。
セリスは雪豹のように襲った。その身から放つ白光がジョットの魔性の肉体を灼く。
「ただ藁のように滅びなさい、存在している価値も無い歪虚風情め」
セリスがいった。普段の優しく豪快なセリスからは想像もできぬほどの辛辣な台詞である。
その時、旭が地を蹴った。空を舞うその姿はあたかも夜空に疾る一羽の猛禽を思わせる。
旭はエクスプロイト――銀色の斧刃と黒色の柄を持つハルバードの刃をジョットに叩きつけた。凄まじい衝撃にジョットの身が石畳を割り、めり込む。
「ぎゃあああああ」
ジョットの口を割り、悲鳴が迸りでた。耳を塞ぎたくなるほどの不気味な絶叫だ。
「お前もマティスと同じく刀の錆びにしてやるよ」
するするとジョットに迫る真司の横顔は、どこか戦いを楽しんでいる風に見えた。流れるような動きで日本刀をかまえる。
試作光斬刀、MURASAMEブレイド。柄に特殊装置を搭載した日本刀で、先端から微量なレーザーを放射して切れ味を増し、敵を切り裂くという代物だ。
真司は起き上がらんとしていたジョットと相対した。深まった夜はさらに闇の色を濃くしている。終わりの時は近づいているのだった。
その時、ジョットの口が開いた。超音波だ。が、不可視の衝撃は光を散らして分散された。真司が展開した障壁によって。
「そうくると思ったぜ」
真司が跳んだ。何の予備動作もみせず、一気に数メートルの距離を。マテリアルを靴底から噴出させ、飛翔したのだった。
「ぬうん」
馬鹿げた大きさに変化したMURASAMEブレイドを、真司は水平に閃かせた。咆哮にも似た風切りの音と共に血風が散る。
黒血をしぶかせたまま、ジョットは空に舞い上がった。すでにその半身はない。真司により切断されたのだ。
が、落ちない。半身を失ってもなお、ジョットは在ることを放棄するつもりはなかった。
「ぬううう。まだだ。ここは逃げ延び、必ず身体を修復してやる」
歯噛みすると、ジョットは黒翼を羽ばたかせた。ひとまずは敵の攻撃範囲から逃れなければならない。
ちらりとジョットは眼下の人間たちを見下ろした。
マティスを殺ったことから只者ではないと思った。が、まさかこれほどとは……。ここは何としても生き延び、仲間に知らせなければならなかった。そう仲間に――。
仲間?
ジョットは苦笑した。今まで一度も他の者たちわ仲間だと思ったことはなかった。それなのに――。
「逃がさない」
闇に溶けつつある黒影を、この時、アメリアはスナイパーライフルでポイントした。マテリアルで増幅させた彼女の視力はジョットを捉えて離さない。猛禽のようにアメリアの双眸が金色に煌き――。
銃声。そして鳥人は堕ちた。
●
それは何度めのセイクリッドフラッシュであったろうか。
完全にジョットを滅殺し終えたセリスは会心の笑みをうかべた。
「今回も灰すら残さず浄化し尽くしたわ。これで、この街の人も世界も一先ずは安心ね」
安堵の吐息をついてセリスであるが。突如、彼女は苦悶し始めた。「どうかしたのですか」
慌てて駆け寄るエルバッハである。が、セリスのこたえを聞いて呆れた。
「こ、紅茶を……。一仕事のあとは一服しておかないと、禁断症状が――」
セリスはいった。
「……偶然か、それとも」
鐘楼の上。壮介は街を見渡していた。夜明けの光が差し始めているとはいえ、まだ夜だ。昏い。何者の姿も見えなかった。
「まぁ、良いです。理由はどうあれ、町の人に手を出したのならば切り捨てるのみ。何度、何者が来ようとね」
壮介は小さく欠伸を噛み殺した。
鐘楼はそびえていた。深い夜の闇の中に。
毎日、夜の訪れを報せるために鳴らされていた鐘は、その日、鳴ることはなかった。
闇に沈む街道をゆく影があった。
数は八。ある者は騎馬であり、ある者はバイクを駆っていた。
「また 薄汚い歪虚がでたのね?」
全身を白銀の鎧――ヘパイストスで包んだ娘が整った顔をしかめて、吐き捨てた。エクラ教の敬虔な信徒である娘は歪虚の存在を見逃すことはできないのだ。
彼女の名はセリス・アルマーズ(ka1079)。ハンターであった。
すると静かな物腰の少年が首を傾げた。連城 壮介(ka4765)という名のハンターである。
「……また、ですか? 同じ町ばかり狙われていますが……何かあるのでしょうか。それとも偶然が続いただけか……よく分かりませんね」
壮介はいった。町が歪虚に襲われたのは、これで二度目であったからだ。
「そうですね……」
うなずいたのは優雅な雰囲気を漂わせた娘であった。闇の中でも輝く金髪と蒼瞳か美しい。――アメリア・フォーサイス(ka4111)は次いで眉をひそめた。
「数日でまた襲われるなんて……運が悪いのは狙われているのか」
アメリアは独語した。
歪虚が跳梁跋扈する帝国において、ひとつの町に歪虚が数度出現することは珍しくない。が、数日の間に現れることはさすがに希であった。何らかの意図があるとしか思えない。
すると快活そうな少年がぎりっと歯を噛んだ。
「これから復興が始まるだろーっつー街に、なんでまた仕掛けてきやがる。まとめて来なかったのは偶然か? 分っかんねー。けど一個だけ確かなことがあるぜ。さっさと街に行ってヴォイドを倒さねーといけねーってことだ!」
少年――岩井崎 旭(ka0234)はースロン)は愛馬であるシーザーの脇腹を蹴った。
●
「……あれか」
旭がいった。ミミズクの精霊と契約をかわした彼は夜目が効くのである。
「なるほど」
ナグルファル――搭乗者のマテリアルを使用した魔導機械式エンジンにより駆動する魔導バイクをとめると、若者は金色の目を上げた。
鐘楼の屋根。そこで横たわる人影があった。
「今度は空飛ぶ奴か。被害を増やさない為にもとっとと倒してやるぜ!」
柊 真司(ka0705)というなの若者はバイクからひらりと飛び降りた。重力を感じさせない身軽さである。
その時だ。むくりと人影が身を起こした。バイクのエンジン音に気づいたのであろう。
見つめる美少女の蒼の瞳に強い光がよぎった。それは決意の光である。必ず今夜中に仕留めてみせるという。
彼女の名はエルバッハ・リオン(ka2434)。端正美麗なエルフの少女であった。
その時である。闇に薄黄色い光が揺れた。ランタンの明かりである。もっているのは冷然たる相貌の若者だ。
「獲物はここにいるぞ。さあ、やって来い」
若者――ザレム・アズール(ka0878)は誘うようにいった。その首には防護のためにマフラーが結ばれている。夜風にマフラーがなびいた。
と、暗天に人影が舞い上がった。どうやらそのモノは巨大な蝙蝠の羽根に似た翼を備えているようである。
「……なんだ、お前たちは?」
人影が問うた。月明かりに浮かび上がったのは痩せた男の姿である。無論、人間ではない。歪虚であった。
「そういうお前こそ何者だ?」
真司が問い返した。
「この前斃したでか物の仲間か? 何故こんな事をする?」
「でか物を斃しただと?」
闇の中に二つの赤光が閃いた。懶と光る男の双眸である。
「ほほう。ならば、貴様達がマティスを斃した奴らか。――自警団ではないな」
男は眉を怪訝そうにひそめた。自警団ならすでに何人も屠った。たいして強い者たちではない。
比して、見下ろす奴らは違った。肌が灼けるような殺気を放っている。
「ハンターです」
エルバッハが告げた。
「ハンター?」
男は首を傾げた。ハンターという存在に覚えはなかった。
「が、殺る。マティスを殺った奴ら。このジョットが始末してやる」
ジョットはいった。その胸の内がざわついている。
マティスの復讐、などではない。仲間意識などというものと彼らは無縁であったからだ。が、殺さねばならぬと何かがジョットに告げていた。
「ジョットか」
挑発するように真司は笑った。
「話しは終わりか?なら、お前もマティスと同じく刀の錆びにしてやるよ」
「前の飛び跳ねるしか能のないバカの同類のようね……どうせ羽が生えてるだけのゴミなんでしょう?」
セリスもまた嘲弄するように叫んだ。その身の鎧が白銀に煌く。
「ぬうっ」
カッとしたか、ジョットは獲物を定めるべく旋回し、徐々にその高度を落としていった。その様をポイントしている者がいる。やや離れた位置で銃をかまえているアメリアであった。ポジションはプローンだ。
アメリアの指がルーナマーレ――スナイパーライフルのトリガーにかかった。さすがのジョットもアメリアの存在は感知できていないようだ。
アメリアの瞳が金色に輝き、その指がトリガーをひいた。さすがに躱しえず、ルーナマーレから吐き出された熱弾がジョットの身体を穿つ。
「がっ」
たまらずジョットは呻いた。バランスを崩して落下――いや、むしろジョットは急降下した。狙いはエルバッハだ。
恐るべき速さで迫った鉤爪を、咄嗟にエルバッハは盾でいなした。防ぎ得たのはハンターなればこそだ。
再び飛び立とうとするジョットに生まれた一瞬の隙をつき、ザレムは死角より矢を放った。矢には強靭なワイヤーが結びつけてある。
が、矢は空しく夜空に流れすぎた。一瞬、ザレムの瞳とジョットのそれが合った。
「ふんっ」
壮介がかまえをとった。その手にはオートマチック拳銃――チェイサーが握られている。
壮介が撃った。闇をマズルフラッシュが灼く。が、熱弾はジョットをかすめたにすぎない。黒い風を巻き起こし、ジョットは再び空へと昇っていった。
「うーん」
壮介は首を唸った。
「……銃は、苦手です」
「なら」
エルバッハは慌てる素振りを見せず、呪分を詠唱した。すると彼女の胸元に薔薇の花を模した赤色の紋様が浮かび上がった。さらに、その紋様を起点にして、棘を模した同色の紋様が六本、両腕と両脚の先まで、それと両頬のあたりまで、体に巻きついているかのように浮かび上がる。
刹那である。彼女の眼前に現出した氷の矢が飛んだ。そして空を舞うジョットを容赦なく貫いた。
のみならず、氷の矢はジョットの身体をわすかであるが凍てつかせた。わずかに自由を奪われ、ついにジョットはその身を地へと落とす。
「蝙蝠ヤロウ、許さねえぜ。同じ鳥人間としちゃーよォ! この翼と嘴にかけて、テメーはここでブッ倒すッ!」
石畳に叩きつけられたジョットに、機を窺っていた旭が突撃した。その上半身は羽毛に覆われ、頭部がミミズクの様な姿になっている。
旭の手の戦槍――ボロフグイの穂先が、地上でもたつくジョットの横腹へ深々と突き立った。突撃の勢いで石畳に激しく擦られながら、ジョットが苦痛を孕んだ悲鳴をあげた。が――。
悲鳴は怒号に変わった。ジョットの口から不可視の衝撃波が噴出し、旭の首を切り裂いた。咄嗟に躱さねば首を両断されていたところだ。
鮮血をしぶかせ、旭ががくりと膝を折った。流血とともに力とと意識が抜け落ちていく。
「そんな超音波じゃ俺は倒せないぜ? もっと攻めてこいよ」
真司がアサルトライフルをかまえた。
P5。水中での使用を目的に作られた特殊な小銃だ。
ジョットの翼をポイント。P5の銃口が炎を吐き、熱弾がジョットの翼を撃ち抜いた。
「回復は任せて」
セリスが精霊に祈りを捧げた。すると柔らかな光が旭を包み込み、傷を癒しはじめた。
と、ジョットが激しく翼を羽ばたかせた。
「こんなことで、俺を堕とせると思ったか」
ジョットの身がふわりと空にういた。同時に超音波を吐く。
反射的にセリスはガラハド――聖なる盾をかまえた。凄まじい衝撃にセリスの身が仰け反る。
「もう空には戻しません」
アメリアが銃口を空へ向けた。ジョットをポイント。撃つ。
「馬鹿め」
ジョットはひらりと空を舞った。空しく弾丸が闇天に流れすぎていく。
すでにジョットはアメリアの狙撃位置を把握していた。躱すのは難しいことではない。
「なら、これはどうだ」
マテリアルを凝縮。それを破壊エネルギーを変換し、ザレムは放った。
「何っ」
ジョットは慌てた。さすがにこれは躱しきれない。炎にジョットは包まれた。
「くっ。こんなもの」
ジョットは蝙蝠の翼を羽ばたかせた。炎を吹き散らす。が――。
ジョットの背後で爆発が起こった。紅蓮の爆炎と爆風に吹きくるまれ、ジョットが空でバランスを崩した。
落下。見上げるエルバッハの口元に会心の笑みがういた。炎球を放ったのは彼女であったのだ。
一瞬で壮介は落下地点を推測した。石畳をすべるように馳せる。
ジョットはむしろ羽ばたいた。疾風の速さをともなって急降下する。猛追した壮介が日本刀――骨喰を切り上げた。
重なる二影。閃く白光もまた二。
「ぬっ」
抜刀の姿勢のまま、壮介は片膝ついた。その身は鋭い爪で引き裂かれている。
そしてジョットは地に叩きつけられた。石畳の上を成すすべも無く滑っていく。
おびただしい黒血が、闇の石畳をさらに黒々と染めた。が、同情する者などどこにもいない。敵は無辜の民に手をかけた殺戮者であったからだ。
セリスは雪豹のように襲った。その身から放つ白光がジョットの魔性の肉体を灼く。
「ただ藁のように滅びなさい、存在している価値も無い歪虚風情め」
セリスがいった。普段の優しく豪快なセリスからは想像もできぬほどの辛辣な台詞である。
その時、旭が地を蹴った。空を舞うその姿はあたかも夜空に疾る一羽の猛禽を思わせる。
旭はエクスプロイト――銀色の斧刃と黒色の柄を持つハルバードの刃をジョットに叩きつけた。凄まじい衝撃にジョットの身が石畳を割り、めり込む。
「ぎゃあああああ」
ジョットの口を割り、悲鳴が迸りでた。耳を塞ぎたくなるほどの不気味な絶叫だ。
「お前もマティスと同じく刀の錆びにしてやるよ」
するするとジョットに迫る真司の横顔は、どこか戦いを楽しんでいる風に見えた。流れるような動きで日本刀をかまえる。
試作光斬刀、MURASAMEブレイド。柄に特殊装置を搭載した日本刀で、先端から微量なレーザーを放射して切れ味を増し、敵を切り裂くという代物だ。
真司は起き上がらんとしていたジョットと相対した。深まった夜はさらに闇の色を濃くしている。終わりの時は近づいているのだった。
その時、ジョットの口が開いた。超音波だ。が、不可視の衝撃は光を散らして分散された。真司が展開した障壁によって。
「そうくると思ったぜ」
真司が跳んだ。何の予備動作もみせず、一気に数メートルの距離を。マテリアルを靴底から噴出させ、飛翔したのだった。
「ぬうん」
馬鹿げた大きさに変化したMURASAMEブレイドを、真司は水平に閃かせた。咆哮にも似た風切りの音と共に血風が散る。
黒血をしぶかせたまま、ジョットは空に舞い上がった。すでにその半身はない。真司により切断されたのだ。
が、落ちない。半身を失ってもなお、ジョットは在ることを放棄するつもりはなかった。
「ぬううう。まだだ。ここは逃げ延び、必ず身体を修復してやる」
歯噛みすると、ジョットは黒翼を羽ばたかせた。ひとまずは敵の攻撃範囲から逃れなければならない。
ちらりとジョットは眼下の人間たちを見下ろした。
マティスを殺ったことから只者ではないと思った。が、まさかこれほどとは……。ここは何としても生き延び、仲間に知らせなければならなかった。そう仲間に――。
仲間?
ジョットは苦笑した。今まで一度も他の者たちわ仲間だと思ったことはなかった。それなのに――。
「逃がさない」
闇に溶けつつある黒影を、この時、アメリアはスナイパーライフルでポイントした。マテリアルで増幅させた彼女の視力はジョットを捉えて離さない。猛禽のようにアメリアの双眸が金色に煌き――。
銃声。そして鳥人は堕ちた。
●
それは何度めのセイクリッドフラッシュであったろうか。
完全にジョットを滅殺し終えたセリスは会心の笑みをうかべた。
「今回も灰すら残さず浄化し尽くしたわ。これで、この街の人も世界も一先ずは安心ね」
安堵の吐息をついてセリスであるが。突如、彼女は苦悶し始めた。「どうかしたのですか」
慌てて駆け寄るエルバッハである。が、セリスのこたえを聞いて呆れた。
「こ、紅茶を……。一仕事のあとは一服しておかないと、禁断症状が――」
セリスはいった。
「……偶然か、それとも」
鐘楼の上。壮介は街を見渡していた。夜明けの光が差し始めているとはいえ、まだ夜だ。昏い。何者の姿も見えなかった。
「まぁ、良いです。理由はどうあれ、町の人に手を出したのならば切り捨てるのみ。何度、何者が来ようとね」
壮介は小さく欠伸を噛み殺した。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/08/19 14:20:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/16 00:54:07 |