【MN】変身アメを舐めたあなたは……

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
8日
締切
2016/08/21 12:00
完成日
2016/09/03 13:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ハンターの仕事を終えた『あなた』は、帰り道を歩きながら疲労のため息を吐く。
 連日、猛暑が続いているせいか、肉体的にも精神的にも疲れてきたのだ。
 ハンターとしての仕事は忙しかったものの、明日一日は休日となる。
 さて何をしようか――と考えていると、前から知った顔が歩いてきた。
「やあ、久し振りだね。元気……はないようだけど」
 声をかけてきたのは、発明する物は天才的な物だが、その内容は残念なことで有名な博士のハデスだ。ふとした事件がきっかけで、ハンター達と関りを持つようになった変わり者の貴族の男性である。
 『あなた』はハデス博士に、世間話の一つとして疲れがたまっていることを打ち明けた。
「――なるほど。わたしのとこの依頼内容も、『涼しく過ごせる物を開発してほしい』というのが多くてね。しかしキミの場合は、気分転換も必要なようだ。 ……そういえば、面白いものを貰ったんだった」
 そう言ってハデス博士は持っていたカバンの中から、一つのアメ玉を取り出す。
「ウィクトーリア領内にある魔術師養成学校で、ハロウィン用に秋に売り出す予定のものでね。何でも『なりたい姿を思い浮かべながらアメを舐めると、半日だけその姿になれる』という、まあいわゆる変身薬だな」
 透明なフィルムに包まれたアメは、青から赤のグラデーション色をしている。
「子供用のマジックアイテムだが、ちゃんと製品化しているから食べても安全だ。ちなみに味はこんな色をしているけれど、水飴のようなものらしい」
 不安を抱えながらも、『あなた』はハデス博士からアメ玉を受け取った。
「これでも食べて、半日だけだが今のキミではなく過ごしたら良い気分転換になるんじゃないか? 副作用は無いし、お手軽に変身できるから面白いと思う。ああ、まだ持っているから、知り合いにもあげると良い。では、わたしはこれで」
 『あなた』の両手には、ハデス博士から貰った変身アメ玉がたくさんある。

 ――さて、半日だけだが、『あなた』はどんな姿で過ごすのだろう?

リプレイ本文

○ヴァイス(ka0364)が変身! 希少な三毛猫のオス・現る!
『ふむ、四本足で歩くのはちょっと変な感じがするが、別にやりにくくはないな』
 ハデス博士から貰った変身アメを舐めたヴァイスは、三毛猫のオスになった。
 ちゃんと猫らしく四本の足で歩いており、住んでいる場所を巡っている。
『視線の角度が違うと、世界はこうも違って見えるのか。見慣れた場所のはずだが、何だか新鮮な気分になるぜ』
 人間の時は身長が185センチもあるので、ヴァイスはどちらかといえば見下ろす方だ。
 だが今や地面から10センチほどの目線となり、見上げることが多い。
『とはいえ、こうやって塀に上がればまた見下ろせるがな』
 建物の隙間を通り、低い塀をジャンプして上がる。
『確かもう少し先だったか』
 ヴァイスが猫に変身したのは、実は理由があった。
 今歩いている場所はヴァイスが住んでいる家の近所で飲食店が軒を連ねているのだが、ここ最近、店の裏口に置いといた生ゴミを野良猫達が食い漁る事件が増えている。金銭的な被害はないものの、それでも散らかされた生ゴミを片付ける苦労が増えているようだ。
 そこで飲食店の店長達がハンターに依頼をしたのだが、相手は気配を察することに長けている野良猫なので、なかなかうまくいっていないみたいだった。
『昨日、あの依頼書を見た帰り道でハデス博士に会ったのも、何かの縁だったのかもな』
 たまたま依頼書を見かけたヴァイスは事件場所が自分の家の近所だったこともあり、気になっていたのだ。
 野良猫達が集まる場所は知っており、向かっている途中である。
『おっ、いたいた』
 街外れの空き地が、野良猫達の集会所になっていた。
 野良猫達は見慣れないヴァイスに、警戒しはじめる。
『そうピリピリすんなよ。ただ俺はこの地域に住む者同士として、話し合いに来たんだ』
 ヴァイスの言葉は穏やかだが、この場にいる野良猫全員がビクッと後ろに飛び下がるほど迫力があった。
『先に言っておくが、おまえ達にとっては良い警告になるんだぜ?』
 そこでヴァイスは気配を抑えて、冷静に事情を話して聞かせる。
 最近、野良猫達が飲食店が出す生ゴミを食い散らかすせいで、店の人達がハンター達に問題を解決してほしいと依頼をしていることを――。
 だがここから少し離れた場所に住宅地があり、とある貴族の屋敷がある。そこの主人である貴族の老夫婦は数少ない使用人達と共に住んでいるのだが猫好きで有名で、毎日エサを与えてくれるらしい。
 ヴァイスは昨日ハデス博士から変身アメを貰った後、早速その屋敷へ行って話をしてきた。
 すると老夫婦は喜んで、野良猫達にエサを与える役目を引き受けてくれたのだ。
『……と言うわけで、ちょっと遠いがおまえ達はそこの屋敷でエサを食べると良い。猫好きの貴族が出してくれるエサは、きっと美味いぞ。一般人向けの飲食店の生ゴミなんかよりも、よっぽど良いモンを出してくれるぜ。だからよ、もう生ゴミを食い散らかすのは止せ』
 その言葉に野良猫達は惹かれたらしく、考え込むような仕草を見せる。
『まあ説明するよりも、実際に行って見た方が良いだろう。ついて来いよ』
 ヴァイスは貴族の老夫婦が住む屋敷へ向かい、歩き始めた。すると少しずつ、野良猫達が後をついて来る。
 住宅地は街中よりも静かで、落ち着きがあった。ここら辺は飼い猫が多いので、野良猫は少ない。
 しばらく歩いた後、目的地に到着した。
『ここら辺は治安が良いから、屋敷の門は陽が沈むまでは開いているからな。だが食いっぱぐれないように気を付けろよ』
 開いた門を通って屋敷の裏へ行くと、広い庭がある。そこにはすでに数匹の猫が、老夫婦からエサや水を貰っていた。
 老夫婦は新たにやって来た野良猫達を歓迎すると、使用人に命じて新たなエサと水を入れた皿を持ってきてくれる。
 ヴァイスは自分が連れて来た野良猫達が、先に来ていた猫達と共に大人しくエサを食べる姿を見てホッと胸を撫で下ろす。
『通い猫同士、仲良くしてくれると良いんだがな』
 猫達は食べ終えた後、庭で各々自由に過ごした。中には親しくなった猫達もいて、ケンカをする猫はいなさそうだ。
『これでとりあえず依頼は終了だ。報告は……明日でいいな。もうそろそろタイムリミットだぜ』
 朝にアメを舐めたヴァイスは、陽が傾きかけているのを見て眼を細める。
『おーいっ、今日はこの辺で帰るぞ。そろそろ門が閉まる時間だ』
 ヴァイスの一声で、野良猫達は老夫婦に笑顔で見送られながら屋敷から出た。
『悪いが俺はこの後用事があるんで、ここまでだ。俺が言ったこと、聞き入れてくれてありがとな。そんじゃあ元気で!』
 ヴァイスは野良猫達に背を向けると、街へ向かって走り出す。


○ザレム・アズール(ka0878)が変身! ペット達と共にスライムになる!
「子供用のマジックアイテム、か……。いくら製品化しているとはいえ、不安は拭いきれないな」
 ザレムは休日をペットのパルム二体と共に、街外れにある自宅で過ごしていた。
 イスに座りながら、変身アメを手の中でいじっている。
「どうせなら涼しく過ごせるモノに変身してみたい。となると水系のモノ……スライムなんてどうだろうか?」
 パルム達に尋ねてみるも、スライムになったことがないので首を横にカックンと曲げて見せられた。
「まあどうせ効果は半日しかないし、今日は人と会う予定はない。一か八かで、スライムになってみよう」
 ザレムは透明のフィルムから出した変身アメを口の中に入れて、眼を閉じるとイスに寄りかかる。
 すると興味を持ったパルム達は、テーブルの上に置かれている変身アメに手を伸ばした――。

『……んんっ。どうやら少し、眠っていたみたいだな。しかもイスから落ちて、床で寝ていたとは……おや?』
 目覚めたザレムはふと、自分の体の違和感に気付く。そもそもイスから落ちた衝撃を全く感じなかったことも、不思議だ。
 ザレムは壁際に置いてある等身大の鏡の方を振り返り、映った自分の今の姿を見て眼を見開く。
『うわぁっ!? なっ何だコレは……って、ああ、スライムだ』
 透明度のある青いスライムになったザレムは、五十センチほどの山の形をしている。
『形は変えられるのだろうか?』
 鏡の前へ移動して、ザレムはニョイーンッと縦長に伸びてみた。二メートルほど伸びて、細長くなる。
 次は横に伸びてみると、まるで横幅が二メートルもある皿のようになった。
『ははっ、なかなか面白いな。……というかスライムは顔や脳が無いのに、俺はどうやってこの出来事を認識しているんだ? 変身と言うからには本物になったワケではないだろうが……、マジックアイテム恐るべしだな。おっと、そういえば二体のパルムは……えっ?」
 振り返ったザレムは、十センチほどのライトグリーン色をした二体のスライムが交互に床で飛び跳ねているのを見て、その場で固まる。 
 そして慌ててイスを通じてテーブルの上に上がり、変身アメが二つ無くなっていることを知った。
『もしかして……お前達、パルムか?』
 ザレムの問いかけに答えるように、二体のスライムは嬉しそうに飛びかかってくる。
 スライム化した二体のパルムの勢いに押されて、ザレムはテーブルの上から落ちた。しかしブニョニョーンッと弾みながら、床に着地する。
『うわわっ!? ……床に落ちても、痛くない。それどころか、スライム達との触れ合いが素晴らしく気持ち良いっ……!』
 スライム達と触れ合うと適度に冷たく、プニ&ブニっとした感触が感動的なほど気持ち良いのだ。それはパルム達も同じのようで、喜びながらじゃれてくる。
 三体のスライムはくっついたり、重なってピラミッドの形をしたり、それぞれVの字になったりして、今の体を楽しむ。
『ふう……、満足した。だがそろそろ腹が減ったな。お昼の時間だし、何か食べるか』
 ザレムは床を這うようにウネウネしながら移動すると、パルム達も後をついて来る。
 ところが突然、玄関からエントランスベルの音が聞こえてきた。
『あっ、忘れていた! 今日は野菜を家に届けてもらう日だ!』
 ザレムは近所の農家と契約しており、家にしばらくいる時は野菜を届けてもらうことになっている。
 仕方なく、テーブルの上に置いてあった白い手袋をはめようとするも……。
『うっ!? 流石に人間の手の形にはならないな。被せるような感じになってしまう』
 手袋は指まで入らないが、何時までも待たせておくわけにはいかないので、万年筆とメモ帳を持って玄関へ向かう。
 メモ張に【風邪をひいてしまったので、会えない。荷物は外の玄関先に置いてくれ】と万年筆で書いて、扉を少しだけ開けると配達人にメモを見せる。
 配達人は野菜入りのカゴを玄関先に置くと、ザレムに受取書のサインを頼んできた。  
 ザレムは手袋をした方の手で何とか受取書にサインをするも書き終えた途端に気が緩んで、手袋と万年筆がズルッと落ちる。
 配達人は手袋の下から出てきた青いスライムを見て、絶叫を上げながら走り去った。
『……マズいな。ハンターズソサエティに駆け込みそうな勢いだ』
 ザレムはカゴを家の中に入れると、パルム達を呼ぶ。
『とりあえず山へ逃げるぞ。家にいたら、大変なことになりそうだ』
 こうして三体のスライムは、山の中へ逃げる。そして大きな湖を見つけると、その中へドボンッと入った。
『水の中でも苦しくないというのは素晴らしい。それに湖の中はとても静かで、心地良い冷たさがある。息苦しくなるまで、ここにいよう』
 ザレムはそう深くはない湖の底にいて、パルム達は気持ち良さそうに泳いだ。

 
○天央 観智(ka0896)が変身! 夢現の精霊・現る!
「ふぅふぅ……。暑さから逃れる為に……あえて動く、というのは……何だか本末転倒な気がしますねぇ」
 汗を流しながら観智は一人、山の中を歩いている。
 暑さと疲れにやられていた昨日、ハデス博士から変身アメを貰った。研究者気質がある観智は休日を寝て過ごすよりも、変身アメを使ってみることを選んだ。
「変身したいモノが新種だと……、周囲の人々に驚かれます。なので人目の少ない……ここまで来た、んですけどね」
 小高い山が連なるここは木が多く、影の下を歩いているものの、それでも熱気は観智の体にまとわりつく。
 やがて涼しい風に惹かれて、観智は湖近くまで来た。
「街から随分と離れましたし、ここら辺で良いでしょう。……と言いますか、もう歩けません」
 木陰に座り込むと、変身アメを取り出す。そして変身したいモノの姿を思い浮かべながら、アメを口の中に入れて眼を閉じる――。

『……うん、思い描いた通りの姿になりましたね』
 アメを食べ終えた後、眼を開けた観智は思い浮かべていた姿に変身していた。湖へ近付いて水面に映る自分の姿を見て、満足したように頷く。
 観智が変身したのは、契約している精霊の姿だ。しかしいろいろと動いてみた後、ガックリと肩を落とす。
『やはりしょせんは子供用のマジックアイテムです……。体は変身しても、特殊な力を使うことはできないようですね。まあ変身するだけでも、充分に凄いですけど』
 気を取り直そうとした観智の目の前で、突然湖の中から青色のスライムがザパーッと水しぶきを上げながら出てきた。
『やあ、観智。あなたも人目を避けて、ここへ来たのか?』
『えっ……? もしかして……ザレムさん? あなたも変身アメをハデス博士から貰っていたんですか?』
『ああ。昨日、仕事の帰り道でな』
 ザレムとの思わぬ出会いに、観智は眼が丸くなる。
 驚きはお互いに変身後というのもあるが、何故か意思疎通ができるのが不思議だ。
『といいますか、ザレムさんはどうやって僕に話しかけているんですか? 僕は口があるので、普通にしゃべることができるんですけど……』
『それは俺も不思議だ。心の中で思ったことが伝わるわけではなく、ちゃんと話しかけようと思っていることが相手に伝わるらしい。だがある意味、助かった。観智にハンターズソサエティへ駆け込まれずに済んだからな』
 言いつつザレムが湖から上がると、続いてライトグリーンの小さなスライムが二体、陸に上がってくる。
『ちなみに小型の二体のスライムは、俺のパルム達だ』
『ほう……、パルム達も変身することができたんですか。うちのパルム達にも、食べさせれば良かったです。スライムになった気分はどうですか?』
 観智に問いかけられたパルム達は、喜びを表すようにビヨンッビヨーンッと地面で跳ねて見せた。
 その行動を、観智は好奇心から眼を輝かせながら見つめる。
『変身後のパルム達も、人語を理解できるようですね。意外と変身アメは、なかなか興味深いアイテムです』
『観智は精霊になったんだな。感想は?』
 ザレムに変身の感想を聞かれた観智は、微妙な表情を浮かべた。
『とりあえず知っているモノの姿で、夏の暑さから解放されれば良い――との安易な考えからこの姿になったんですけど……。まあこんなもんかな、と』
『俺もだ。スライムになれば、暑さを感じなくなるんじゃないかと思ってな。だがうっかり一般人にこの姿を見られてしまって、ここまで逃げて来たんだ。ちなみにその人は驚いて走り去ったんだが、うっかりハンターズソサエティに駆け込みかねない勢いだったな』
『……その一般の方、かなーりビックリしたでしょうね。まあその場で意識を失って倒れなかっただけ、まだマシだと言えそうですけど……。僕はここへ来てから、変身したんです。精霊なら自然の中にいても、おかしくないですからね』 
 精霊の多くは自然界から発生するモノが多い。その為、こういった山の中に精霊がいるところを発見されても、大騒ぎはされないだろう。
『俺は変身が解けるまでここにいるが、観智はどうするんだ?』
『僕は人に見つからない程度に、街を見てみたいと思います。視点が変われば、いつも見ている光景が新鮮に思えるでしょうからね』
 そこで観智はザレムとパルム達と別れて、街の近くまで行く。
 その途中で住宅街を見つけて、とある立派な屋敷に数多くの猫が集まっている光景を目にする。しかしその中で、一匹の三毛猫が気になった。
『もしかして、あの三毛猫も変身したハンターですかね? 何だか気になりますし、妙に猫らしくないです。しばらく見ていることにしますか』
  

○浪風 鈴太(ka1033)が変身! 犬耳と犬の尻尾がはえた女体化!
「ハデス博士から凄いアメを貰った! 効果は説明されてもよく分かんなかったけど」
 休日の朝、鈴太は散歩をしながら貰った変身アメを持ち上げて、喜んでいる。
「家族にもあげようとしたら『胡散臭いから遠慮する』って言われて、断られちゃったんだよな。こんなに面白いモノ、滅多にないのに」
 なので鈴太は外に出て、一人で変身アメを舐めようと決めたのだ。
 朝とはいえ、夏なので徐々に気温は上がっていく。鈴太は歩いているうちに喉の渇きを感じて、近くにあった森林公園に足を踏み入れる。そこで山水を引いている水飲み場で、喉を潤した。
「ぷはぁっ、やっぱり山水は冷たくて美味しい! ……けれど今度は何か、口寂しくなったなぁ。あっ、アメがあるんだった」
 鈴太は変身アメを口の中に入れると、涼む為に公園の中を歩き出す。
「良い天気なんだけど、あまりにも暑いせいか人気が少ないなぁ。……んっ、貰ったアメが美味しい! 水飴みたいな味で、舌がだるくならない甘さがちょうど良いな♪」
 上機嫌でアメを舐めながら、どんどん鈴太は奥へ進む。
「変身と言えば、この前読んだリアルブルーのマンガ、面白かったな~」
 鈴太は先日、自分と同じくリアルブルーからの転移者の少年と知り合った。鈴太と年齢が近いその少年はリアルブルーから、マンガ本を何冊か持ち込んでいたのだ。
 その中に犬耳と犬の尻尾がはえている可愛い女の子が主人公のマンガがあり、鈴太は借りると夢中になって読む。
 ストーリーはクリムゾンウェストのようなファンタジーの世界が舞台になっており、主人公の女の子は普段は人間の姿をしているものの、実は犬神様に仕える巫女だ。いざという時は変身して犬耳と犬の尻尾をはやし、犬の能力をスキルのように発揮しながら、世界を滅ぼそうとする敵と戦うという内容だった。
「内容が何となくこっちの世界と似ているし、主人公の女の子がオレに似ているってのが良いよな~」
 鈴太が借りてきたそのマンガ本を家族も読んで見たところ、主人公の女の子の容姿や性格が鈴太に似ていると言う。
 元気に明るく楽しく活躍している主人公に似ていると言われて、鈴太は悪い気がしなかった。
「ファンタジーな世界や戦う敵がいるところは同じだけど、オレは覚醒状態になっても犬の耳と尻尾ははえないんだよね。外見もあんまり変わらないし」
 いつもは陽気な鈴太には珍しく、残念そうにため息を吐く。
「いざという時にはカッコ良く、『へーんしんっ!』とかできたら良いのに。……って言ったら家族に呆れられたけど、やっぱり憧れるなぁ」
 「その歳で夢を見過ぎだ」とまで言われたのだが、昨日、ハデス博士から夢を叶えられるアイテムを貰ったのだ。
「コレも何かの運命だよな! せっかくだから、思いっきり変身してみたい!」
 鼻歌を歌いながら歩き続けた鈴太は、自分の体に起きている変化に気付いていない――。
 
 森林公園の奥は山の中へ続いており、涼しい風を感じ取って歩いた鈴太は湖へ到着する。
 そこで鈴太は三体のスライムを見て、嬉しそうに眼を輝かせた。
「うわっー! こんな所でスライムに会えるなんて……って、アレ? オレの声、何か高くて変……」
『その顔は……もしかして鈴太か?』
「オレの頭の中に響いてくるこの声……、まさかザレムのにーちゃん?」
 お互い変身後の姿でも、正体はすぐに分かった。
『ああ。小型の二体のスライムは、俺のパルム達だ。……しかし鈴太も俺達に負けず劣らず、珍しい姿に変身したな』
「えっ?」
 鈴太は湖の近くへ行き、水面に映る自分の姿を見て流石にギョッとする。
「うっわあ!? オレ、女の体になった上に、犬の耳と尻尾がはえた!」
『鈴太も変身アメを貰って舐めたんだから、願った姿になったんだろう?』
「うんっ! オレはあのマンガに出てくる女の子になりたかったんだ!」
 マンガのことを知らないザレムとパルム達は、不思議そうに横に傾く。
 そこでふと、鈴太はあることに気付いた。
「あれれ? でもザレムのにーちゃんもハデス博士から変身アメを貰ったってことは、他の人達も今頃変身していることもあるよね?」
『そうだな。実際に先程まで、精霊に変身した観智がいたからな。街の様子を見に行ったが……』
「えーっ!? オレも観智のにーちゃんが精霊に変身した姿、見たかったよ! よぉしっ、他の人達も変身しているかもしれないし、オレも街に行こうっと!」
 言い終える前に、鈴太はとっとと走り出す。
 後に残された三体のスライムは、呆然としながら黙って見送った。
 鈴太は望み通りに変身してテンションが上がったのか、猛スピードで走る。
 そんな鈴太の姿を、三毛猫のヴァイスと精霊の観智は見かけたものの、あまりの勢いに声をかけることはできなかった。


○エルバッハ・リオン(ka2434)が変身! 氷のプリンセス・現る!
「う~ん……。私の想像力不足なのか、子供用のマジックアイテムだからなのか……。想像とちょっと違った変身を遂げてしまいました」
 自宅の等身大の鏡の前でエルバッハは複雑な表情を浮かべながら、変身後の自分の姿を確認している。

 昨日ハデス博士から変身アメを貰った後、自宅へ帰ったエルバッハはふと本棚に置いてあった古い小説が目に付いた。何気なく本を手に取って、久し振りに読んで見る。
「雪と氷の世界に住む氷のお姫様のイラスト、昔は美し過ぎてちょっと怖かったんですよね」
 小説は子供向けのストーリーで、イラストには氷の彫刻のような美しい少女――つまり氷のお姫様が描かれていた。
「内容はほのぼのしているんですけど、シリアスなイラストとのギャップに子供の頃はハマっていましたね。それにこの小説を読んだ頃は幼かったせいか、自分が氷のお姫様になった夢をよく見ていました」
 自分が氷のお姫様になった姿は印象的で、今でも思い出せるほどだ。
 そこでエルバッハは変身アメのことを思い出して、小説から視線を上げる。
「……その夢は今、実現できそうですね。明日はお休みで人と会う予定はありませんし、変な姿になっても家の中に閉じこもっていればいいだけのことです。そうと決めれば、早速明日の為に早く眠ることにしましょう♪」
 ――と、機嫌良く昨夜は眠りについた。

 そして翌朝、朝食を食べ終えたエルバッハは変身アメを舐めながら、イメージをより強く濃くする為に小説を読みながら過ごすことにしたのだ。
 変身アメを食べ終えた後、エルバッハは自分の体の異変に気付く。ウキウキしながら、等身大の鏡の前に立ったのだが……。
「氷化したのは耳と手から肘まで、髪の半分から下と膝の下まで――ですか。ほとんど生身の部分が残っちゃっていますね」
 氷のお姫様は全身が透明なのだが、何故かエルバッハは中途半端な氷化をしてしまった。
「想像力が衰えているとは思いたくないです。でもいろんな知識は取り入れていますから、そこらへんが変身が完全にならなかった原因でしょうか? はあ……。まあ服装も変わったところが、変身っぽいですね」
 今のエルバッハは頭の上にガラス細工のような美しいティアラがのっており、オーロラ色のドレスを身にまとい、ガラスの靴を履いている。
 体の一部が氷化して、いつもとは違う服装しているせいか、見た目はエルバッハなのだがどこか雰囲気が違う。
「ちょっとした舞台女優っぽいです。氷のお姫様をイメージして変身しただけに、体感温度は涼しいので良しとしますか。……ですがスキルっぽいのは使えないようなので、残念ですね」
 氷のお姫様にはあらゆるモノを氷で作る能力があったのだが、エルバッハが同じことをしようとしても出来なかった。
「変身アメにも限界があるってことですか。まあ子供向けでもなかなか楽しいですし、良い気分転換になりますね」
 エルバッハは壁にかけてある時計を見て、ふむ……と考える。
「異形と言うほどの変身ではありませんし、この姿で出歩いても平気そうです。せっかくですから、街へ出てみますか」
 そしてエルバッハは変身した姿で、街を歩くことにした。
 外へ出て数分経つと、改めて体の変化に気付く。
「真夏の昼間に外へ出ているのに、あまり暑さを感じませんね。いつもなら日傘が必要になるんですが……、でも陽射しは眩しいです」
 熱をあまり感じないのはいいのだが、太陽の眩しさは感じ取ってしまう。
「冷たい飲み物が欲しくなってきました。どこか休める場所は……」
 キョロキョロと周囲を見回したエルバッハはふと、川原に海の家のような店があるのを見つけた。
「近くに川が流れているので、涼しい風をあびることができそうです。あのお店にしましょう」
 決めたエルバッハは、早速その店へ向かう。
 店は簡易な作りになっているものの、涼みに来ている客が中には結構いる。
 若い女性スタッフに店のことを聞いてみると、どうやら夏限定の出店らしい。店は屋根付きで川の近くにあるので涼しく過ごすことができる為に、客足は途絶えないようだ。
 オススメは冷やしアメだと言われて、エルバッハは迷わず注文をする。
 冷たいグラスに入った冷やしアメは、すぐにエルバッハのテーブルに置かれた。
「――この冷やしアメ、とても飲みやすくて美味しいです。まさに夏の飲物ですね」
 木のイスに座っていると、川の音と涼しい風が店内へ流れてくる。
「氷のプリンセスになって冷やしアメを飲むなんて、普通は出来ないことです。充実した休日になりましたね」
 ご満悦の表情を浮かべるエルバッハは、まったりと過ごすことにした。
 

○鞍馬 真(ka5819)が変身! 翼がはえて、鳥人間になる!
 午後になり、昼食を食べ終えた真は変身アメを手に取った。変身するモノは決めていたので、家を出て、人目がほとんどない山の中へと移動する。夏の暑さから逃れたかった――というのもあるが、別の目的もあったのだ。
「午前中はゆっくり過ごせたし、もうそろそろ変身アメを舐めることにしよう。それにしてもアメを舐めるなんて、久し振りだな」 
 クスッと笑いながら、真はアメを口の中へ入れる。
 しばらくしてアメを舐め終えた真の背中には、大きな鷹の翼がはえていた。
「おおっ……! 空を飛んでみたいと願っていた時から、自分の背中に翼がはえる想像を何度かしてきたが、実際にはえると不思議な感覚だ。しかし流石にこの姿で、街には出られないな」
 手足を動かす感覚で、翼を動かすことができる。
「さて、飛ぶ練習をしようか」
 真はただ翼をはやしたかったわけでなく、ちゃんと飛んでみたかったのだ。
 飛ぶ練習場所としてここへ来た真は、翼を動かしながら飛び上がったり、下りたりを何度も繰り返す。
「――うん、大体コツは掴んだ。だがあまり高く飛ぶと太陽の熱に近くなるから、そこそこにしとくか」
 深呼吸をした後、真は斜面から飛んだ。
「ここは小さな山が連なっていて、自然が深いから普通の人は奥まで行かない。私のようなハンターも、用事がなければまず行かないだろうな。でも今日は奥まで飛んで行ってみよう」
 真は翼を上手く調整しながら動かして飛び、時には地面に下りて休みがてらいろいろな所を見て回る。
「この山には滝があったんだな。山水が冷たくて美味い」
 人の手が全くつけられていない自然を見て感動したり、山にいる動植物を見つけて喜んだりした。
 再び空を飛ぶ中で、湖の近くに三体のスライムがいるのを発見する。驚いてその場に下りた真に、大きな青色のスライムが近付いてきた。
『鞍馬は鳥人間になったのか。俺のことは分かるか?』
「その声はザレムさんか。では後ろのライトグリーンのスライム達は、ペットのパルム達なのか?」
『ああ、察しが良くて助かる。鞍馬は変身して、大分経つのか?』
「まあ多分……。効果が切れるのは、日付が変わる頃の予定なんだ」
『それではまだまだだな。俺とパルム達は午前中にアメを舐めたから、もうそろそろ効果が切れそうなんだ。そういえば他のハンター達もハデス博士から変身アメを貰って、変身しているようだぞ』
「へえ、それは見てみたいかも」
 自分以外のハンター達が、どんなモノに変身しているのか興味がわく。
『どうやらハンターが変身アメを舐めて変身すると、お互いに通じ合うものがあるらしい。俺は二人ほど変身した仲間と会ったが、何故だかこうして意思疎通ができるしな』
「不思議だが面白い。他の仲間達は一体どこへ行ったんだろう?」
『人外に変身した者達はこういう自然の中にいるだろうが、中には街中にいてもおかしくない姿になっている者もいるだろうな』
「そうだな。それじゃあ上からちょっと見てくる」
 真はザレムへ手を振ると、その場から飛び立った。

 山からは静かな住宅地が近くにあり、背の高い木々がある。真は一軒の屋敷の庭の木に、精霊が一体いるのを見つけた。
「もしかして、観智か?」
『おや、真さん。鳥人間とはカッコイイですね』
 見たことのない精霊の姿になった観智は、真に微笑みかける。
「ここで何を見ているんだ?」
『いえね、あそこに三毛猫がいるんですけど、何だか気になっちゃいまして。もしかしたらハンターなのかと……』
「何っ!?」
 驚いた真は観智が指さす三毛猫を見ると、こちらに気付いたらしく、ヴァイスは木の枝に飛び乗りながら上まであがってきた。
『よお、観智に真。こんな所で会うなんて、珍しいな。……いや、どちらかと言えば、全員変身していることの方が珍しいか』
『その男性の声は……』
「ヴァイス、だったのか」
 三人とも変身済みであり、何となーくお互いに微妙に視線をそらす。
『そういやぁさっき、犬の耳と尻尾をはやして女体化した鈴太が走って行ったのを見たぜ。観智と真は見たか?』
『僕も見かけましたが……、何と言いますか、変身しても彼らしいですね』
「私はまだだ。見つけられるか分からないが、とりあえず探して見る」
 真は観智とヴァイスに見送られながら、再び飛び立った。
 しかし街には背の高い木はあまりないので、人目は気にしなければならない。
「変身した仲間を街中で見つけても、空を飛びながら声をかけるのは難しそうだ。まあ見つけられるだけでも、良しとしよう」
 できるだけ人の眼に映らないように高く飛びながら街を見下ろしていた真は、ヴァイスに聞いていた通りに変身した鈴太と、まるで氷のプリンセスのような姿になったエルバッハを見つけることができた。
 しかしその頃には夕陽が沈みかけており、夜の街へと変わりつつある。
「この街は活気があって良い。こうやって見る角度を変えても、そう思える。しかしこの世界には、まだ悲劇が起こっていることも事実。明日からまたハンターとして、この世界を平和にする為に頑張ろう」
 決意も新たに、真は自分の家へ向かって飛び始めた。

<終わり>

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師

  • 浪風 鈴太(ka1033
    人間(蒼)|14才|男性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/21 09:49:51