紅茶と怪魚と銀林檎館

マスター:紡花雪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/25 09:00
完成日
2016/09/02 03:26

みんなの思い出

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オープニング

●銀林檎館と香辛料店
 極彩色の街『ヴァリオス』の一角、貴族風の館を模した喫茶室がある。
 喫茶室『銀林檎館』――異国での買い付けが趣味の女主人が、貴族的な憩いの場として経営している。従業員をウェイトレスではなく『メイド』と呼称し、客に礼節を持って接するのが習わしだ。
 銀林檎館のメイド、レイメ・ルアンスール(kz0151)は、この喫茶室の看板メイドである。買い付けのために留守がちな女主人に代わり、店の切り回しを任されている。
 今日は、週に一度の香辛料店の配達日。レイメや厨房長が注文したものがしっかり納品されているか、確認しなければならない。
「配達お疲れさまでございます、グレッジョさん」
「……やあ、レイメさん」
 銀林檎館が契約をしているのは、港湾都市『ポルトワール』の郊外に小さな店を構える『グレッジョ香辛料店』である。小さいながら香辛料だけでなく茶葉の貿易ルートを持っていることもあり、銀林檎館としてはとても助かっている。
 香辛料店の配達担当は、グレッジョ家の次男、ニコーロである。いつも明るく営業向きな彼だが、今日はその表情が暗い。
「どうかなさっったのですか?」
「ええ、実は……ご注文いただいた紅茶の茶葉の荷下しができない状態になっていまして……」
「荷下しが? どなたか、お怪我でもされてしまったのですか?」
「いえいえ! そういうわけでは……。うちの店が荷下しに使っている船着場は、ポルトワールの外れの少々不便な奥まった場所にあるんですが……今朝船着場に行ったところ、何者かに桟橋の先が壊されてしまっていまして……それだけならいいんですが、ちょうど戻ってきた船が、謎の渦に阻まれて近付くことも逃げることもできなくなってしまったのです」
「それは……もしかしたら、歪虚でしょうか? 海軍やハンターオフィスに相談はされていますか?」
「いえ、なにぶん、海軍に来てもらうには奥まった場所でして……。ハンターオフィスも、レイメさんに相談してからにしようかと。これでは、納品はおろか店の経営が……船に取り残されている弟のことも心配です」
「弟さんが……。商品はもちろんですが、弟さんをいち早く助け出さなければなりませんね」
「はい、そう言っていただけると助かります」
「わかりました。わたしからハンターオフィスに相談してみます。それから、来ていただくハンターの方々に不便がないよう、わたしは事前調査に向かいたいと思います」
 自らも新人ハンターであるレイメの仕事は、銀林檎館のメイド。そして、銀林檎館を訪れるさまざまなひとたちを、ハンターの救いの手へと橋渡しをすること。
 レイメはニコーロと共に、ハンターオフィス、そして事態の現場へと急ぐのであった――。

リプレイ本文

●小さな桟橋の荒れ模様
 潮の香りが濃くなってきた――。
 港湾都市『ポルトワール』の郊外にある、小さな船着場。ここは、主に地域の個人商店が仕入れと荷下ろしに使っている。『グレッジョ香辛料店』もそのひとつである。
「――青い空、蒼い海、そして銀色の怪魚……やれやれ」
 眠たげな目で気怠く呟いたのは、エアルドフリス(ka1856)である。彼は以前に銀林檎館を訪れたことがあり、メイドのレイメ・ルアンスール(kz0151)とも挨拶を交わしていた。
「ポルトワールの善良な商人の敵は俺の敵! 絶対許さないんだから!」
 海と風を愛するポルトワール出身のジュード・エアハート(ka0410)は、少し語気を強めて言った。海商としての成功を夢見る彼の強い意志が感じられる。
 黙々と準備に勤しんでいるのは、神代 誠一(ka2086)である。自分の腰をロープで結んで命綱を作り、それを桟橋の橋脚に取り付けるのだ。水しぶき対策にゴーグルを装着し、前線で戦う用意も万全だ。
 魔導バイクで現れたのは、マリィア・バルデス(ka5848)である。バイクのエンジン音を海中に響き渡らせるためのトランシーバーの用意もしていた。
「まだ10台以上は持ってるわ。歪虚が誘導に引っかからなければ回収するけど、成功して壊れる分には全然惜しくないわ」
「この魚、何か桟橋に恨みでもあるのか? 元気に破壊活動しているところ悪いけど、すごい迷惑だから退いてもらうぜ」
 明るい声で飄々と言ったのは、テオバルト・グリム(ka1824)だ。海上の渦の向こうのグレッジョ家の船を見ながら、太く丈夫な鞭をしならせている。
「うちも何かお手伝いになるよぉ、気張りますな。お魚さん、暴れたままやと危ないしねぇ」
 周りをうっとりとさせる優しく明るい声で話すのは、春日(ka5987)だ。レイメとも面識があるため、気遣わしげな言葉をかけていた。
「――皆さま、駆けつけていただき、ありがとうございます。今回は人命もかかっておりますので、何卒よろしくお願いいたします」
 レイメがハンターたちに深々と頭を下げた。戦闘は不慣れな彼女だが、できる限りの援助をするとのことだ。
 今また、桟橋に波が打ち上がる。怪魚の雑魔が起こした波だ。水中での戦いは不利が予想される。そのため、エアルドフリスが誠一とテオバルト、そして希望した春日に、水の精霊力の魔法――ウォーターウォークを施す。
 さあ、戦いのときだ――。

●海の荒くれもの
 グレッジョ香辛料店の三男ダミアーノの身の安全を最優先とし、ハンターたちの行動は早かった。
 怪魚は、桟橋付近の狭い海中をぐるりを泳ぎながら、わずかに陸地から遠ざかっている。それを見たジュードは、マテリアルを視力と感覚に集中させ、怪魚に狙いをつける。微動だにせず集中した彼の足元には、落ちた椿の花の幻影が現われていた。
 ジュードからの目配せで合図を受け、エアルドフリスが動く。グレッジョ家の船から怪魚を引き離すため、陸地へとおびき寄せる作戦だ。
「さて、どの手に引っかかってくれるかな、と」
 彼は石つぶてを出現させて、波の上から怪魚の腹のあたりを打つ。それに気付いた怪魚は離れかけた桟橋のほうへと頭を反転させた。
 マリィアもまた、自分の魔導バイクを使った誘導の仕掛けを用意していた。密封した袋に受信側のトランシーバーを入れて海中に投げ、送信側のトランシーバーからバイクのエンジン音を流すのだ。伝導された音の振動がに、更に怪魚の意識がこちらへと近付く。
「暴れん坊なんでしょう……こっちにいらっしゃい、歪虚ちゃん」
 怪魚を引き付けるときは、桟橋から離して陸地側へと引っ張る。そのことを意識しながら、春日は優雅な白銀の扇符を開き、符から蝶に似た光弾を呼び出して怪魚の頭へとぶつけた。怪魚がこちらを向けば、作戦のとおりだ。
 怪魚が大きく体を揺らして水中深くに潜ったかと思うと波を切るようにして跳ね上がり、ハンターたちの攻撃をかわそうと突き出た顎を振り下ろす。
「――今です!」
 誠一が合図の声を上げ、黒色の鞭を振るう。まるでチェーンソーのチェーンのようなそれは、水しぶきに荒い刃を隠すようにして怪魚の顎をがっちりと掴み巻きついた。
 テオバルトもまた、鋼のごとく丈夫に編み込まれた太い鞭で怪魚の顎を捕らえた。
「一本釣りだー! ……あれ、鞭二本あるな。神代さん、この場合、二本釣りですかね?」
「網を用いない漁法ですから、一本釣りで問題ないのでは?」
 天性の明るさで場を盛り立てるテオバルトに、青の世界で高校教諭だった誠一が律儀に返す。
 少しでも怪魚の力を削ぐべく、ハンターたちの背後からレイメがダーツを投げ放った。二本の鞭に捕らわれた怪魚はヒレをばたつかせ、陸地へ上がるのを拒むように身をよじっていた。

●獰猛な怪魚と制する者たち
 まだ陸地にまでは上がってこない怪魚は、桟橋の橋脚に尾をぶつけて暴れている。ばたばたと足掻くたびに、白波の雫がハンターたちに降りかかった。
 装填された符を切った春日は、占いで吉凶を感知して仲間たちを好機へと導こうとする。自身もまた回避力を上昇させ、次の攻撃に備えていた。
 これ以上、桟橋を壊されるわけにはいかない。エアルドフリスは怪魚への拘束力を高めるために氷の矢を放ち、冷気で凍りつかせて行動を阻害する。
 そこにタイミングを合わせて、ジュードもまた冷気を纏った射撃を浴びせ、傷ついた怪魚はその動きを鈍くさせていく。これで渦の勢いが弱まれば、船は少しでも安全になるだろう。
 バイクのエンジン音による誘引、そして仲間の攻撃によって怪魚の動きが制限されていることを確認したマリィアは、暴れ馬のように高威力の機関銃をバイクに載せて構え、マテリアルで加速させた銃弾を撃ち込んだ。
 顎を捕らわれた怪魚は胸ビレを大きく広げて水を掻き、海中へと潜ろうと繋がれた鞭を強く引く。
 ウォーターウォークの効果で水面に立っていられるものの、大きく波立つ海面では足元は不安定である。怪魚が誠一とテオバルトを巻き込んで海に沈もうをする動きに合わせ、誠一は大きく跳び上がるようにして回避し、一番効率よく怪魚を引き上げる力がかかる位置取りへと調整して力を込めた。
 テオバルトもくるりと方向を変えるようにして一本釣りの姿勢を崩さないように走り、更に力を込める。
「テオバルトさん、いきますよ!」
「よし!」
 誠一の掛け声に合わせ、二人の力が相乗効果を生む。ぐいっと引き上げられた怪魚の頭側半分が、陸地へと躍り出た。レイメがまたダーツを放ち、それが怪魚の腹に突き刺さる。
――ギチィィィィィーッ!
 ハンターの猛攻にさらされ、怪魚は声にならない音を響かせた。そして最後の力を振り絞り二本の鞭から逃れようと、怪魚は突き出た顎をハンマーのようにハンターに向かって叩きつける。
 誠一は打ち下ろされた顎を鞭で引き回して軽やかにかわし、刀を煌めかせた。刃の先端から放射される微量なレーザーが、切れ味を増して怪魚の腹を引き裂いた。
 バイクを銃架代わりにするマリィアも、同時に怪魚の頭部を狙い撃ちして仲間をハンマー攻撃から守る。もはや怪魚の顎は、ハンマー攻撃を仕掛けるだけの強度はないだろう。
 そして春日は、符を光り輝く鳥の姿に変えて投げつけて怪魚の打撃を受け止め、光の鳥は霧のようにかき消えた。
 海に逃さず始末をつける。その思いで、エアルドフリスは再び氷の矢で怪魚の足掻きを制圧する。凍りついた怪魚は乗り上げた陸地で無様にビチビチとヒレを動かしている。
 ヒレを振り回しているうちは、怪魚に近付くのは危ない。だがそれを無能化してしまえば、攻撃もできず海に戻って泳ぎ逃げることもできないだろう。そう考えたジュードは、桃の花を象った紋様が刻まれた白色の和弓で胸ビレを集中的に射て貫いた。立ち籠める潮の香りに、放たれた矢のほの甘い香りが混じる。
 怪魚の胸ビレが動きを止めた。テオバルトは身体にマテリアルを潤滑させ、軽やかに洗練された動きで怪魚との距離を詰める。そしてすかさず解いたウィップ「ヴィリーニュ」で重く確実な一撃を叩きこんだ。
 怪魚の絶命の声は聴こえなかった。突然動きを止めたかと思うと、どろりとゼリー状に溶けて波間に落ちていった。
 怪魚が消滅したことで海はいつもの平穏を取り戻しつつあった――。

●釣りと紅茶と商売を
 怪魚が巻き起こしていた回遊の渦が消え、間もなくグレッジョ家の船は陸地に接岸することができた。グレッジョ家の三男ダミアーノは恐怖のあまりおいおいと泣いていたが、駆けつけた次男ニコーロと抱き合って無事を喜んでいた。
「本当に皆さまのおかげです。わたしひとりの力ではどうにもならないことでした。皆さまのおかげで尊い人命が護られたこと、そして大事な紅茶を取り戻してくださったことを銀林檎館のメイドとして深く感謝申し上げます」
 レイメが深々を頭を下げ、ハンターたちに改めて感謝の言葉を述べた。貴族風のもてなしが売りの喫茶室である銀林檎館において、紅茶は欠かすことのできない大事な要素である。グレッジョ香辛料店は家族経営だからこその身軽さで多種多彩な茶葉を少量からでも取り寄せてくれることもあり、銀林檎館にとってはただの商売相手というだけでなく大事な友人のような存在なのだ。
「――皆さま、お疲れのことと思います。グレッジョ香辛料店が仕入れた自慢の紅茶を振るわませていただきます。他にも、ご希望の方にはニコーロさんが釣り竿と釣り餌を用意しておりますので、どうぞご利用ください」
 海水浴のできる海岸ではないものの、陸地にパラソルを立てて机と椅子を並べ、即席の露天喫茶で紅茶が振るまわれる。
「ジュード、冷たいものばかり口にするのはお勧めせんが……ま、今はいいか」
 種類や温冷様々な紅茶が運ばれてくるや否や、嬉しそうにアイスティーを取りに来たジュードに、エアルドフリスがぼそりと呟いた。だが彼の額にも小さな汗の粒が浮いており、ジュードと同じくアイスティーを手に取った。
「せっかくの海辺だし、一緒に夏の海を眺めようよ、エアさん」
 楽しそうに海辺に向かうジュードは、黄色いリボンが添えられた麦わら帽子と涼しげなレースサマードレスという夏らしい装いである。
「紅茶か……お勧めを、お願いします」
 誠一は、レイメに紅茶のお勧めを頼んでいた。爽やかな柑橘系の香りが広がるアイスティーを飲みながら仲間たちの輪に加わり、足元のヤドカリをつつきながら楽しげに笑っている。
「軍にいた頃、こういう小型艇への積み下ろしは経験したもの。サービスよ……早く紅茶も楽しみたいし」
 元軍人であるマリィアは、荷下ろしをしているダミアーノの手伝いをしていた。大変な目に遭った彼らを気遣ってのことかもしれない。
「今日はでかい魚を釣ったけど、歪虚じゃ食べられないからなぁ。今晩のおかず、何か釣れそうかな」
 同じく荷下ろしを手伝っていたテオバルトは、お茶も釣りも楽しむつもりで呟いた。それを聞いたニコーロが、釣れる魚について説明をしていた。
「うちにもお魚釣り、上手に出来るやろか?」
 ふふ、と穏やかに微笑みながら、春日は魚釣りに挑戦している。釣り餌のつけ方や竿の振り方は、ニコーロの手ほどきである。ゆったり紅茶を飲みながら、穏やかな釣りの時間を楽しんでいた。
 怪魚が消滅した後の海は穏やかで、ちゃぷちゃぷとかすかに波の音が聴こえくる。桟橋の修繕は、明日にも手配ができるとのことだ。
 流通――港湾都市「ポルトワール」においては海運、そして商船を守ることは、人々の生活の根幹を守ることに繋がる。それは、小さな香辛料店の船でも同じである。ハンターたちによって救われたのはひとりの人命と商品の茶葉だけではない。グレッジョ香辛料店と銀林檎館をはじめとして、その先に多くの人々の生活が繋がっている。
 繋がり、広がるこの世界の中で、このハンターたちが更に活躍してくれることを、レイメは強く願っていた――。

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 太陽を写す瞳
    春日(ka5987
    人間(紅)|17才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/08/25 02:13:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/21 13:25:12