• 蒼乱

【蒼乱】ブリの海底大捜索!

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/19 22:00
完成日
2016/08/27 14:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 これはヘイムダル改の海底起動実験より2日後の事である。
 いつものように錬魔院の研究室で魔導アーマーの開発に勤しんでいたブリジッタ・ビットマン(kz0119)は、自分を訪ねてきたヤン・ビットマンを見てこう言った。
「ヘイムダル改2の設計図ができあがったのよさ。これで海底調査もすこしはスムーズにいくようになるのよ」
「改2? 前から思ってたけど、あんた本当にセンスないわね」
「うっさいオカマ! それよりも見るのよさ! このぱーぺきなるフォルムをっ!!」
 ずばーっと差し出した設計図は確かにヘイムダルの物だ。
 気密性は以前の『改』をベースに更に安全性を確保するよう設計されている他、全体に丸かった機体を更に丸く設計して水抵抗をより少なくしたらしい。
「うちゅーでもきっと抵抗はあるのよさ! それに備えた万全の体勢なのよ!」
 真空である宇宙に抵抗はないのだが、ブリジッタは宇宙をよくわかっていなかった。
 本当はもっと丸くしたかった。との補足もあったがそこはナサニエルなどと相談していく必要があるだろう。
 今は次の起動実験に向けての準備が最優先なのである。
「試作機製作開始まであと1日。院長の無茶ぶりも凄いけど、それに応えるあんたも凄いわね……」
 2日前の起動実験はほぼ成功に終わった。
 当初の目的である歪虚の基地発見は出来なかったが、それに近いものは見つけた。しかも戦闘データーも取れると言うおまけ付きだ。
 そのお陰でブリジッタがこうして『改2』の製作に入れるわけだが、何とも今回は時間がない。
「海産物ならもっと早いのよ……あたしに頼むのは……まあ、いろいろあるのよさ!」
「魔導アーマーは元々あんたの分野だものね」
 複雑そうに微笑むヤンに「ふんっ」と返して設計図を見る。
 彼女の言うようにナサニエルならもっと早く、より精度の高い機体が作れるだろう。
 それでも彼がブリジッタに頼むのは彼女に期待しているから、そして単純に自分が忙しいからだ。
 その辺は彼女の理解しているらしい。一瞬複雑そうな表情を見せたが任された責任感はあるのだろう。浮かぶ感情を呑み込んで話を続ける。
「それで、明日から改2の製作に入れるのよ?」
「その辺は問題ないわ。それよりも起動実験の方が問題ね」
「問題? なんなのよさ?」
 今回の起動実験は前回と同じポイントで行うことになっている。
 目的は前回起動実験の最後に見えた黒い影の正体を突き止めること。それが生き物であれ建物であれ調べる必要があると上が判断したのだ。
「内容も場所も決まってるのよ。それなのに何が問題なのよさ!」
 早く説明しろ! そう地団太を踏むブリジッタにヤンは咳払いする。
 そうして現在の状態をブリジッタにわかるように説明し始めた。
「ふぅん。つまり前回の調査場所がソサエティ側の調査したい場所とかぶった……そういうことなのよ?」
 前回ブリジッタが実験を行ったのはナサニエルの指示で西方の暗黒海域だ。
 その暗黒界域にヴォイドゲートがあり、それを探し出し確保したいと言うのがソサエティの言い分らしい。
「院長の宇宙関連も世界規模だけど、こっちもそうだからどうしようかしら、ってところね。場所を変えて起動実験だけっていうのもアリだけど……」
「問題ないのよ」
 思案するヤンを他所にブリジッタは得意げに口角を釣り上げて笑う。
「あたしが前に見つけた影がヴォイドゲートなのよ! そうに違いなのよさ!」
「はあ!?」
「確かにあの辺りは島も点在するはずなのよ。でも、海産物が言ってたのよ。あの辺りには歪虚の基地があるはずだって!」
 つ・ま・り!
「あたしのヘイムダル改2が一番のりでゲートをゲットするのよさ!!」
 突拍子もない考えだがあり得なくはない辺りが怖い。
「ちなみに、違ってたらどうするわけ?」
「そんなの可能性の1つをつぶせて大ラッキーって思えばいいのよ。なんでもものは考えよう! あそこがゲートかもしれないからあそこで起動実験をする! 見つかればラッキー、見つからなくてもあたしはラッキー! ほら、問題ないのよさ!」
「そんなガキ大将みたいな言い分……」
 それでもブリジッタの言うとおりだ。
 もし海底にヴォイドゲートがあったら如何する? 現状海底に行って調査する方法をソサエティ側は持っていない。
 いや、もしかしたらブリジッタが託されているヘイムダル改以外にはいないかもしれない。
 そもそも、まさか暗黒海域の海底を調査しようなどという発想自体、ソサエティにはないはずだ。
 となれば多少突飛なくとも乗る価値はあるのかもしれない。
「……わかったわ。ソサエティと院長にはこっちから言っておくから、あんたは改2を完成させてちょうだい。必ずあんたの実験が出来るように交渉してきてあげるわ」
「うっし、頼むのよオカマァ!」

●第2回海底調査兼起動実験当日
「前回はなかった敵の反応があるわね。戦闘準備は出来てるかしら?」
「問題ないのよ!」
 船の上でブリジッタと共に最終調整をするヤンは声を上げるとブリジッタを見やった。
 彼女は甲板上を元気に走り回りながら作業しているのだが、ふとある事に気付き漏らしてしまう。
「あの子、いつの間に乗り物大丈夫になったのかしら……」
「ああ、そう言えば以前魔道トラックに乗って吐いてましたね。まさかとは思いますけど、船を乗り物と認識してないとか?」
「いくらあの子でもそんなバカな――」
「うおえぇぇええええ!!!」
「「はい!?」」
 聞こえた声にヤンと調査員が振り返る。
 そこにあったのはこれからヘイムダル改2が潜る海に向けて嘔吐するブリジッタの姿だ。
「っちょ、ヤンさん! 今の聞こえちゃったんじゃないですか?!」
「聞こえただけで吐くって、どんななのよっ!!」
「どーでもいいですけど、ブリジッタさんこのままだとヘイムダル改に――ああああああああ!!!!」
 壮絶な光景が繰り出される中、準備は着々と進んでいく。
 そしてすべての準備が終わるころ、吐くものがなくなったブリジッタは蒼白の表情でハンターたちの前に立った。
「あ、あんたたち……今度はさいごまで、うぷっ……調査、するの……よさぁ、げふっ!?」
「紙袋! 紙袋持ってこい!!」
 紙袋を口に当てられて、それでもハンター達を激励しようとする姿に彼らの目が逸らされる。
 そこにヤンの声が降って来た。
「コホン。敵は前回発見した黒い影の周辺に展開しているわ。それを蹴散らして影の正体を突き止めるのが今回の任務よ。ブリジッタはこんな調子だけど、起動実験が始まれば大丈夫だと思うから」
 敵の正体は不明。正確な数も不明。
 それでも前回の起動実験から多少の数では負けないであろう自信がある。
「さあ乗り込みなさい! あーたたちの執念を見せてちょうだい!」
 ヤンはそう言うと、吐き続けるブリジッタを背にヘイムダル改2を指さした。

リプレイ本文

 深い、深い、海の底。
 どこまでも続きそうな泡の中を沈んでゆくヘイムダル改2の中で、天竜寺 詩(ka0396)は出発前に言葉を交わしたブリジッタを思う。
「やっぱりブリちゃん乗り物は駄目だったね……」
「あんた知ってたのか?」
「前にちょっと」
 そう溜息を吐く詩は通信で声を飛ばしてきた瀬崎・統夜(ka5046)の機体を見る。
 彼の乗り込んだ機体は詩と同じヘイムダル改2だ。今回実験に参加してくれたハンターは皆このヘイムダル改2の使用を申し出てきた。
 ブリジッタとしては自前の機体が実験に使用できるのは大いに有難い。
「欲を言えば他の機体の実験データがあっても良かったかもな」
 そう零す守原 有希遥(ka4729)もまた皆と同じ機体だ。
 違うものがあるとすれば各人が持ち込んできたアーマー用装備だろうか。
「わ、あの人の武器すごいっ!」
 ヘッドライトを点灯させた瞬間に見えた斬龍斧「マサークル」に興奮の声を上げた沙織(ka5977)は前回同様に興味津々にこの任務に挑んでいる。一先ず海底に着くまでは各人が持ち込んだ武器に目を輝かせている、と言ったところか。
 そしてそんな彼女と同じく改2の中から斬龍斧を見ていたヒース・R・ウォーカー(ka0145)が零す。
「結局持ってこれなかったみたいだねぇ……って、大丈夫かい?」
 先ほどから応答のない機体――南條 真水(ka2377)の乗り込む機体に声を掛ける。
 彼女の持つ武器が斬龍斧で本来ならばクレーン「サルキナエ」を持ち込みたかったのだが生身で持ち歩くことが出来なかったために断念した。
 結局持ち込んだのは斬龍斧のみ。しかし実のところ、彼女には別の悩みがあった。
「ふふ、ふふふふふ……酔い止め飲んだから大丈夫、南條さんは酔ってない、酔い止め飲んだから大丈夫……」
 そう、それは乗り物酔いだ。
 まるで怨念のように呟く声が周囲に届かないのは幸いか否か。通信機器を持ち込んでいなかったのはむしろこの為だったのかもしれない。
 ともあれ彼女はヒースとペアを組んでいる。それさえわかっていれば行動に然程制限はないと見て問題はないだろう。
 あとはヒースがこの状況にどれだけ早く気付くか、だが……。
『そろそろ海底のはずなのよ。何が出るかわからないから気を付けるのよさ』
 響く無線にアーサー・ホーガン(ka0471)の表情が引き締められる。
 どうやら出発前に詩がかけたキュアが効いたらしい。平然とした声を発するブリジッタに頼もしさを覚えながら魔道短電話を起動させる。
 これは有希遥の提案で、負のマテリアルの雑音を聞き取って敵の発見に役立てる為の準備である。
「さて、何が出るか」
『本当に何が出るんでしょう。前回の影がなんなのか……私も知りたいです。本当にヴォイドゲートかもしれないですしね!』
「そりゃ、ロマンのある話だな」
 クッと口角を上げたアーサーに音声を受信した沙織が瞳を輝かせる。
 そして彼女と同じく瞳を輝かせていた御酒部 千鳥(ka6405)の機体が海底に到達した。
「ほっほっほっ、海中じゃ♪」
 大好きな酒を手放しての今回の作戦。一応誤作動や思わぬ事故を防ぐために魔道バイク同様にブリジッタに阻止されてしまったそれを思い憂い気な息を吐く。それでも今回は酒には劣るが魅力あふれる物が複数ある。
 その1つがヘイムダル改2だ。
「うむ、実に雅なカラクリじゃ。このように海中に来れようとは……鬼が出るか蛇が出るか。少なくとも状況的に歪虚との遭遇は確実じゃ」
 心してかかるかの。そう零し操縦桿に手を伸ばす。
 これより2回目の海底調査が開始される。目標は前回見つけた影の正体を突き止めること。そして起動実験データを持ち帰ること。
『無事帰ってくるのよさ!』
 そう響く無線の声に頷き、各人は海の中を動き始めた。

●海底調査開始
「思った以上に視界が悪いな」
 そう零すアーサーの隣には沙織の改2がいる。2人はA班とB班に分けた内のA班に所属。
 そこから更にペアを組んで行動することになっており、現在その状態をキープしたまま海底調査を行っている最中である。
『今のところ短電話からのノイズもありませんし、注意しながら進むで良いでしょうか?』
「おう、問題ないだろうよ」
 ここは前回の調査で『影』が見つかった場所から僅かに離れた場所。
 ブリジッタの予想ではそろそろ目的のものが見える筈なのだが、
「まだ見えないな」
 零す真水の言うように『影』の存在は見えてこない。それどころか歪虚の姿も見えない。
「魔導アーマーヘイムダルの改良型かぁ……ボクとしてはスマートな機体の方が好みなんだけど、試作型と言うのはなかなかどうして興味深いねぇ」
 現在の所動作に問題はない。
 ヒースは乗り物酔いで支障が出ているかもしれない真水の機体を見やると、少し考えるように眉を寄せた。
「連絡手段がないのなら目を離さなければいい……っかく出来た恋人を失いたくもないし、ねぇ」
 誰に聞かせるでもなく呟いて前を向く。
 海には4機の魔導アーマーのライトの他に、別の個所からも4つの光の線が伸びている。そちらの光はB班の物だろう。
 彼らも着実に目的地に向かって進んでいると見て間違いない。
「海中は人の手が及ばなかったところだ。だから北狄みたいになっていてもおかしくないって、南條さんはそう考えてたけど……」
 何だろう。そう周囲を伺う。
 どうにも先程から嫌な予感がする。もっと面倒で扱いに困るもの、そんな気がする。
「気のせいだといいんだけれどね」
 言いながら更に細心の注意を払って前へ進む。
 幸いなことに改2は角を削った効果もあり前よりも水の抵抗が少なくなっている。そのお陰か進行速度も悪くないのだが、唐突にB班の足が止まった。
『どうした? っと、御酒部。いったんストップだ』
 B班を先導するように歩いていた有希遥の機体が止まった。これに統夜や詩、千鳥の機体も足を止める。
「ふむ。やはり通信機がないと言うのは不便じゃな」
 てっきり魔導アーマーに通信機器があると思い用意を忘れていた。そんな彼女は皆の動きを見て合わせるしかないのだが、そこら辺は前回にも起動実験でヘイムダルに搭乗した3人がきっちりフォローしている。
「この岩……何かおかしくないか?」
 有希遥が見詰めるのは隆起した岩だ。
「ほう。これはまた面妖な形の岩じゃな」
『なんだろう……スラッとしてて……あ、これ頭かな?』
 声を弾ませた詩にポンッと手を叩く音が響く。
「人の像か。だが何かおかしくないか? 足の部分が妙に――」
『巨大な生物を発見しました! これは――イカ?!』
 通信の利きが悪かったのだろう。ノイズ交じりに響いてきた沙織の声にB班全体が振り返る。
 乱れる光の線と奇妙な影。そこに流れる絹のような白い線は軟体動物特有のうねりを持った胴体に繋がっている。
「これは想定外の敵だねぇ」
 咄嗟に構えた盾に絡まる無数の腕を見ながらヒースの口角が上がる。
 物凄い力で引き寄せられるのを感じながら尻尾状の大型スタビライザーを海底に突き刺す。そうする事で敵の力に抗おうと言うのだ。
 ギチギチと嫌な音を立てて吸盤を動かすイカ。このままでは相手の動きに負けて体勢を崩してしまう。そうなる前に腕を斬り落とせれば。そう思った時だ。
「ヒースさんが守りに徹しているときは、南條さんが!」
 抵抗の泡を放ちながら黒い斧が振り下ろされる。と、悲鳴ともつかない唸りを上げてイカの腕が緩んだ。
『今だ! そのまま退け!』
 高速回転する刃を携えアーサーがイカに斬り掛かる。
 狙うのは斬撃ではなく突き。出来る限り水の抵抗を低くして思うとおりのダメージを敵に与えようと言うのだ。
 しかし、
「っ、なんだこの腕!!」
 ひと際長い2本の腕がアーサーの機体と武器を掴んできた。これに彼の機体が揺らぐが沙織がこれを引き止めた。
『触腕ですね! この腕なら攻撃で切り離せるかもしれません!』
 アーサー機を背後から抱くようにして支えて叫ぶ沙織。その声は急いで駆け付けようとするB班へと向かっていた。
「なんだってこんなに大々的な戦闘に……っ!」
 急いで合流を果たそうとするが疑問は尽きない。
 当初の予定では戦闘は出来る限り回避のはずだった。にも拘わらず目の前で繰り広げられているのは大々的な戦闘。
 それこそ近くの魚が慌てて逃げだす始末だ。
『さっき人間みたいなのがいてねぇ。それを逃すために、ってやつだねぇ』
「人間みたいなの?」
 何だそれ。そう有希遥が零した直後、彼らは目撃する。
 海中を素早い動きで泳いでくる存在。人のようなシルエットだが尾ひれを持つ不思議な生き物。あの手の生き物をリアルブルーでは確か、
「嘘っ、人魚?!」
「おお、さっきの像にそっくりじゃな♪」
 驚く詩に嬉々とする千鳥。だが各人の感想はここで終了だ。
 人魚が逃げてきた場所では仲間が戦闘を繰り広げている。防御重視の装備で集まった仲間が多い中、この手の戦闘に苦戦するのは必須。
 現に今はアーサーが武器と胴を掴まれて動けずにいる。
「うちは敵の注意を掃うから、その隙に攻撃できそうな人は攻撃へ。防御できそうな人は防御へ回って」
 敵の腕は残り9本。内2本は沙織の言う触腕だが、それはアーサーに固定されている。つまり健在なのは7本と言うことになる。
「多いな」
 全部の腕を斬り落とせば勝利は確定だろう。とは言え、それはかなり骨が折れる。他に何か良い案があればいいのだが、
『聞こえるのよさー?』
 突然響いたブリジッタの声に統夜の眉が上がる。
『イカには盲点がないのよさ! つまり目をねらって視覚さえうばってしまえば勝機が見えるのよ!』
 目潰し作戦始動! そう叫ぶ声が最後に聞こえたがそこはスルーだ。
「視覚か……」
『うちに案がある』
 統夜の前を攫うように進み出た有希遥が一気に加速する。海流の流れを上手く使って動く彼に口笛を吹き、統夜や詩、千鳥も機体を加速させた。

 戦場は思った以上に混戦していた。
「そっちはやらせないよぉ、っ!」
 イカの動きを固定するアーサーと沙織。そんな彼らを補助するように他の腕の動きを遮るヒースと真水。
 はっきり言って現状は平行線。しかし有希遥や統夜、B班が合流したことで戦場が大きく動き出す。
『ブリ、多少の外傷は許してくれ!』
 アーサーとイカに接近した有希遥。そこに飛んでくる腕を千鳥のアーマーシールドが受け止める。
 ぬるぬると絡みつく腕に僅かな不快感を示した瞬間、彼女の背後で細かな石と砂が巻き上がるのがわかった。
 海水を纏っているため地上のように礫によるダメージはないが、砂が舞ったことで砂塵のような効果は得られた。
 有希遥は水の抵抗によって緩くなった動きにじれったさを感じながら、海底に突き刺した魔導鋸「ペリトロペー」を引き抜く。そうして敵に向き直ると、
『攻撃への防御完了です! いっちゃってください!』
 改2にプロテクションを掛け、詩がアーサーと沙織の機体に近付く。そして彼女らへの誤爆を防ぐために立ち塞がると、砂の幕から複数の攻撃が降り注いだ。

――――!!!!

 唸りを上げてよじれる体。それに合わせてアーサーと沙織の機体から圧が消えた。
「敵が逃げよるぞ」
 千鳥の言葉通り、2本の腕を残して歪虚が撤退を開始する。
 本来であればもう一押しで完全勝利も得られたかもしれない。しかし彼らは深追いすることを避けた。
 それはブリジッタとの約束もあるが、彼らの背にある別の存在にも理由があった。

●人魚のお礼
 イカ型歪虚に追われていたのは紛れもない人魚だった。
 白銀の髪と緑の鱗を尾に持つ存在は、魔導アーマーの周囲をゆっくり確認するように周回すると何かを考え込むようにして首をひねった。
『なんだか手招いているみたいだねぇ』
 如何する? そんな問いを言外に置いて声を飛ばすヒースに、頬を紅潮させた詩が身を乗り出す。
『もしかしてどこかに案内してくれるの? だとしたらついて行くっていうのはどうかな?』
『そりゃ、ちっとばかし無防備なんじゃないかね。もし行った先が罠だったらどうする?』
 アーサーの言うことも尤もだ。
 この段階で予想外のことが2つも起きている以上、これ以上のイレギュラーは勘弁してほしいのが正直なところだ。しかし、
『まだ調査時間には余裕があるのよ。影の正体も突き止めてないし、行くのよさ!』
「……完全に思い付きだろ」
 そう零したのは有希遥だが、彼がブリジッタの意見に反対する素振りは見えない。
 その理由は彼が事前に調べていた伝承にある。
「どこまで事実かわからないが亜人の中には彼らのような種族もいるらしい」
 具体的にどんな種族がいて、友好関係にあるのか否かまではわかっていない。わかっているのはあくまで『そういう存在がいるらしい』と言うこと。
 それでも何の情報もなしについて行くよりは良い。
『で、行くのか?』
『私は行ってみても良いかなと思います。私たちが知らない場所を知っているのは確実でしょうし。何かわかる事があるかもしれないですから』
 統夜の問いに答えたのは沙織だ。
 彼女は当初の予定通り無理はせず調査を続行することを提案する。
 そうして議論を交わすこと僅か。最終的にはブリジッタの指示に従って海底を進むことにした一行は、人魚が泳ぐのをやめた場所を見て言葉を失っていた。
「これは想像以上の産物ですね」
 乗り物酔いに顔を青くさせた真水が呟く。それに続いて「竜宮城のようじゃな」とは千鳥の声だ。
 彼らの前に現れたのは海底神殿と呼ぶに相応しい建物だ。
 入り口らしき場所には門番のような魚人が立ち、人魚は彼らを振り返ると中へ招こうと手招きした。だがここでヘイムダル改2の限界が来た。
『残念だけど撤収なのよ』
 無常に響く声にアーサーが舌打ちを零す。
 しかし彼は去り際に海底神殿と魚人、そして人魚の姿を魔道カメラで捉えてることに成功していた。
 勿論画像はコックピットからの物なので悪いが状況証拠としては十分な代物だ。

「完璧、なのよっ! これで海産物の鼻を――うおおおお!?」
 回収されたヘイムダル改2とハンターから告げられる報告の数々に鼻息を荒くしたブリジッタだったが、突然彼女の口から女の子とは思えない悲鳴が上がった。
「な、なななななっ!?!?!」
 わなわなと唇を震わせて座り込んだブリジッタの前に現れたのは海底神殿の前に居た魚人だ。
 どうやら回収される改2に付いて来たらしい。
 彼はブリジッタを守るように前に出たハンターを見ると、不思議そうに首を傾げこう言った。
「オ前タチ、誰、ダ?」

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MVP一覧

  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥ka4729

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 喧嘩と酒とモフモフと
    御酒部 千鳥(ka6405
    人間(紅)|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/19 09:21:24
アイコン ブリジッタへの質問室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/08/18 23:33:56
アイコン 海底探査試験相談室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/08/19 21:24:54