• 蒼乱

【蒼乱】ピースホライズン大渓谷攻略隊

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/21 22:00
完成日
2016/08/27 03:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ゾンネンシュトラール帝国のばあい
 ろくな足場もなく頼りになるのは1本のロープのみ。
 常人なら恐怖で精神が壊れるか体力が尽きて墜ちるだろう極限の状況だ。
「これよりロープを固定する」
 大男が慣れた手つきで岸壁に杭を打ち込んでいく。
 自らの自重より重い荷を背負っているのに危なっかしい雰囲気は全くない。
 数本のひびが入る。
 小さな石が垂直に近い崖を転がっていく。
 何分経っても、石が底にぶつかる音は聞こえなかった。
「副長! 右水平方向に敵影1! 鳥、全幅2メートル!」
「発砲を許可する」
「了解」
 細身の男が岸壁に張り付きながら長銃身の銃を構え、数秒狙いをつけてから引き金を引いた。
 鳥に見る何かが角度を変えて落下する。
 風が吹く。
 地表では考えられない規模の突風が鳥を骨と肉のミックスジュースに変え、帝国調査隊を支えるロープを猛烈に引っ張った。
「ぬう」
 杭を打ち終えロープを固定。
 手がかりらしい手がかりもない壁に張り付き引き離す力に耐える。
 5分後。
 調査隊は1人も欠けずに安堵の息を吐いていた。
「小休止後降下を再開する。改良型イニシャライザーは? よし、最悪の場合でもそれと情報だけは上に戻す。帝国軍人魂を世界に見せつけ……」
『見せつけるのは別の機会にしろ馬鹿者』
 トランシーバー越しに隊長の命令が届いた。
『マテリアルヒーリングの残数を言って見ろ。総数5を切っているなら撤退だ撤退」
 その声は徹底して冷静で、良くも悪くも暑苦しい男達とは正反対だった。
「しかし隊長、我々が今最も下にいます」
『小さな名誉は王国にでもくれてやれ。貴様等に貴様等の命を無駄遣いする権限は与えられていない』
「いえあの」
『貴様等のウジ虫にも劣る脳味噌でも理解出来るよう言ってやる。とっとと戻って来んか!』
 男達は突風に吹かれているときより真っ青になって、固定されたロープを伝い崖の上へ登っていった。

●グラズヘイム王国のばあい
 岩が降ってきても、浮遊する歪虚に襲われても、うっかり手を滑らせてロープで崖に叩き付けられても、ヒールで癒やせば問題ない。
「ンな訳ねぇよ」
「もうおうちかえるぅ」
 登山装備な王国騎士と聖堂戦士が涙目になっていた。
 並の鎧より頑丈だった衣装はもう襤褸切れ同然だ。
 隙間から妙に綺麗な肌が見える。
 聖堂戦士の強力なヒールの成果である。
 もちろん、肉体は癒やせても心までは癒やせない。
「もみじおろしやだぁ」
「思い出させんでくださいよ司祭様」
 20代の肉体派女性クルセイダーが幼児退行して泣いている。
 小隊長格の熟練騎士もロープ片手に頭を抱えている。
「ここで戻るわけにもな」
 ロープを含んだ装備全体が、ゾンネンシュトラール帝国ご一行と比べると少しだけ古くさい。
 帝国軍人に練度と伝統で負けるつもりは全くないけれど、進取の気風と変化の速度では分が悪いと薄々感じていた。
「む」
 直感に従い斜め下方に視線を向ける。
 鳥でもなく、記憶にある歪虚のリストにも無い何かが、微かな音をたて一定の速度で上昇している。
「戦闘準備。司祭殿の護衛は」
「あ、いえ、動揺しました。もう大丈夫です」
 聖堂戦士が精神的に復活した。
 ほんのり桜色に色づいた顔が妙に可愛らしい。
「そ、そうですか。副長、弓で狙え」
「はいはい。おー熱い」
 弓騎士は上司をからかいながら、ロープ片手の不自由な体勢でショートボウを構えた。
「あ、まず」
 放ったときにはこの後何が起きるか推測できた。
 ローター音が近づく。
 堅くそして軽い装甲に勢いの弱い矢が弾かれ、30ミリよりは小さな銃口が王国一行へ向いた。
「総員待避ぃっ!」
「荷物は捨てろ、クソ、このままじゃなぶり殺しだ」
 皆大量の汗をかいて必死に登る。
 銃弾がロープ近くの岩を削る。
 苦労して打ち込んだ杭が壊れてロープを固定する機能を失う。
 王国調査隊が崖を登り切り、正体不明のドローンが大渓谷の奥に戻っていったとき、王国騎士と聖堂戦士はスキルも体力も使い切って身動きとれなくなっていた。

●ハンターズソサエティーのばあい
「という感じでヴォイドゲート探索は失敗しました」
 職員は真面目くさった顔で事情説明を終えた。
「最初から帝国と王国が協力すればよかったのでは?」
 ハンターの1人が至極真っ当な意見を口にする。
 帝国人と王国人らしい別のハンターが、何故かそっと目を逸らしていた。
「難しいらしいですよ? 歪虚が近くにいるなら手を組む程度はするらしいですけど、平時だとほら、両国は国境を接してますから意地の張り合いも仕事のうちっぽいですし」
 双方の慣習が異なるので中途半端に混ざって行動するより別々に行動した方が効率が良いことが多い。
 柔軟さに関しては、初めで出会った別の世界出身者とも組めるハンターに比べるとだいぶん劣る。
「以上が前置きです」
 職員が咳払いをする。
 パルムが元気にハイタッチ。
 職員の手前に3Dディスプレイが現れ崖上都市ピースホライズン地下の大渓谷が映し出された。
「皆さんにお願いしたいのは大渓谷の調査です。最低限達成して頂きたいのは底までの距離の測定。出来れば達成していただきたいのが底までの進路の確保です」
 映像の2カ所が拡大される。
 1つはしっかり固定されたロープ。
 もう1つは固定は甘いが1つめよりずいぶん下まで伸びるロープだ。
 2本目の方がほんの少しだけ柔そうだ。
「これまで確認された歪虚は2種類です」
 垂直に近い崖を低速で移動する蜘蛛型歪虚、時折吹く突風には勝てず崖に叩き付けられ潰れる鳥型歪虚。
「また、未確認ながらドローン……無人の小型飛行機械の目撃情報があります。鉄鎧に盾装備なら無傷でやり過ごせる攻撃力しかないらしいですが……」
 大渓谷の地形は敵以上に脅威だ。
 敵と突風が当時に襲ってくることも考えられる。
 今回の依頼、場合によっては対上級歪虚戦並に危険度が高いかもしれない。

リプレイ本文

●崖の上で
「うーん、思っていた以上に高いね、これ……」
 灯實鶴・ネイ(ka5035)は地球にいた頃よりはるかに高い視力を得たのに底が全く見えない。
「気を引き締めていかないと、ね」
 短時間で頭に詰め込んだ懸垂下降ノウハウを思い出し、比較的慣れた手つきで装備の装着を開始する。
「まかり間違って落ちてしまえば即死は免れそうにないですね」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が正直な感想を述べると、ネイが目だけで同意した。
 ハンターとしての経験はエルバッハの方が数倍あるけれども、落ちれば地面の染みに変わるのは2人とも同じだ。
 だから打てる手は全て打つ。
「ロープの追加や護衛、いざというときの回復もお願いします」
 崖からできる限り離れている王国騎士と聖堂戦士に声をかけ、エルバッハ自身も命綱用ロープと防御用装備を身につけネイ達と相互に確認を行う。
「大渓谷調査の依頼を受けたハンターだ」
 ザレム・アズール(ka0878)は直接顔を会わせられないことを礼儀正しく謝罪して、帝国軍に対しロープの運搬と崖上ベースの維持を改めて依頼する。
 返事は素っ気ない。悪意も全く感じない。
「よろしくお願いする」
 魔導短伝話の接続を切るまで、ザレムは非の打ち所のない態度を保ち続けた。
「片方しか話さなかったのでは禍根の元になる」
 仲間にだけ聞こえる音量で、ザレムは至極真面目にコメントした。
 王国人達はネイとエルバッハからの要請を受けて既に動き始めている。
 とにかくロープが目立つ。
 1つ1つが恐ろしく頑丈な上に非常に長く、しかも3セットと予備があるのでとんでもなく嵩張る。
「未知の大渓谷に挑むか」
 口角がわずかに上向く。
 実にハンターにらしい仕事だ。
「いくぞ」
 ハンター達は危険を理解した上で躊躇わず、3本のロープに命を託し大渓谷へ乗り込んだ

●闇への降下
 全身板金鎧を着ての垂直降下は限りなく自殺に近い。
 ただし高位覚醒者であれば話は別だ。
「真司君」
 セリス・アルマーズ(ka1079)が速度をわずかに緩めて囁く。
「任せた」
 柊 真司(ka0705)が速度維持を放棄しアサルトライフルで発砲。
 かなり無理のある姿勢なのに、20メートルの距離まで近づいていた大蜘蛛の中枢を破壊する。
 速度は消えずセリスとぶつかりかける。
 だが両者阿吽の呼吸で体を触れあわせ、衝撃を限りなく0に近づけた。
「どこまで行く?」
「ランタンが必要な場所」
「了解」
 互いの体温が感じられる距離でも、2人とも顔色を一切変えずに素晴らしい連携で降りて行く。
 セリス達のロープから見て崖沿いに10と数メートル横にも、全く同じ型のロープが存在し固定されていた。
「理想のバディってとこ?」
「どっちかってーと夫……今は仕事だ仕事」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)も全身甲冑を着ているのに驚くほど身軽だ。
 新しく杭を打ってロープを完全に固定する。
 数メートル上のネイに合図を送ってからペットのカラスを自分の腕に乗せた。
 黒い翼を広げて器用に飛び立ち、上向きの風を捉えて急速に高度を上げる。
 ボルディアの額に汗が浮かぶ。
 ペットと共有した視界から得られる情報があまりに多く、そしてスリルがあり過ぎた。
 崖にへばり付くハンター以外の何かが7、否10。
 宙に浮かんでいる妙な気配が最低でも3。
「長時間の防衛は無理だよ」
 ネイは崖にフックを撃ち込み命綱を掛け、無駄のない動きで拳銃を構えて引き金を引いた。
 いきなり風が吹く。
 ボルディア・ネイ組はロープ毎揺らされただけで済んだ。だが横から接近中だった大蜘蛛は風に負けて足を滑らせた。
 その蜘蛛の影にいたやや小ぶりな個体を掠めて拳銃弾が飛んだ。
 奇跡的に回避に成功したことを理解すらできず、蜘蛛型歪虚は尖ったをネイに向け勢いよく駆ける。
 崖上にいる王国人なら必死の形相で逃げ出したかもしれない。
「うーん」
 ネイは慌てない。
 20センチ下に降りるだけで決死の突撃を回避。
 歪虚は間合いさえ詰めればネイの首を獲れるとでも考えたのしれないが……。
「すごく甘いんだよね。シミュレーション未満だ」
 彼女の銃はリボルバーであり、ライフルとは違って至近距離でも使える。
 軽い発砲音が響いて蜘蛛の腹に小さな穴が開き、反対側がより大きな穴が開き中身が飛び出す。
 大蜘蛛が安定を失い崖から離れ、すうっと薄れて消滅した。
「よし」
 ボルディアの纏う気配が変わった。
 別の世界を覗き込むような一部浮き世離れして雰囲気がなくなり、徹底して地に足付いた霊闘士の顔を見せる。
「2匹撃破か。助けられたみたいだな」
 戦闘直後なので目で見なくてもだいたいのことは気配で分かる。
「出発はちょっと待ってくれな。おーい!」
 斜め下方に向かい手を振る。恐ろしく速いので風を切る音が大きい。
 エルバッハがちらりとボルディアを見た。
「射程内に4匹いるぞ。2匹は保護色だ!」
 カラスの視点は大量かつ貴重な情報を主にもたらしていた。
 エルバッハは残像が見える速度で視線を下方に向け停止して、数秒後吹雪を放ち崖の一部を削り取る。
 崖と同色の大蜘蛛が2匹、何もさせてもらえず崖の破片ごと落ちていった。
「後はあれだ、3機」
 残像が見える速度でボルディアが宙を指さした。
 ネイが目を細めて銃を構える。
「あれがドローンか。どこから出てくるのかとか分かればいいんだけど」
 残念ながら手持ちの銃では弾が届きそうにない。
 リアルブルーのそれとは随分印象の異なる機械が機銃らしき筒を斜め下に向け、最も下にいたセリスの周囲で火花が散る。
 当然のように無傷だ。背中にマウントした盾でロープを庇う余力まである。
「平常運転だなおい」
 結果的に囮担当になった柊・セリス組を心配する必要はなさそうだ。
 ボルディアは周囲への警戒をネイに任せて小さな石を放る。
 放物線にはならない。
 風に吹かれて不規則な線を描く。崖下の闇に消えた後には何もない。
 底に衝突したとき発生した音も、風でかき消されて超聴覚を使っても聞こえなかった。
「どこか、中継地点になりそうな所さえあれば調査も出来るのに」
「だな。風と地形が邪魔でペットが戻ってこねぇからァミリアズアイも使えねぇ」
 双方軽口を叩い緊張を和らげ、油断なく降下を再開した。

●崖の攻防
 岩が凸凹している。
 潜むのも近寄るのも容易になる訳で、自身とロープを守るハンターにとって不利な戦いだった。
「敵3体が崖表面から接近中」
 味方に情報を伝える間も発砲を続ける。
 白金 綾瀬(ka0774)の腕があればアサルトライフルの射程ぎりぎりでも当てるのは容易だ。
 まるで岩の向こうが見えているかのように、凹みから現れた大蜘蛛へ的中させる。
「残数3」
 便利なスキルにも限界がある。
 直感視の場合、一度に10秒から十数秒しか効かないので節約しても長時間の使用は難しい。
「終わりが見えないのが最大の問題です」
 エルバッハは大型の盾を背負ったまま大きく息を吐いた。
 斜め左右から負のマテリアルが近づいて来る。
 術を使えば秒殺可能な相手だ。白兵戦でも確実に勝てる程度の相手ではあるのだが、今は動くのが難しい。
「節約しないと後が怖くて」
 風の刃がロープに沿って上へ飛ぶ。
 岩と酷似した色の大蜘蛛が真っ二つに切断される。
「3分だ」
 落ち着き払った声が風に乗って届く。
「ここは任せてもらおう」
 門垣 源一郎(ka6320)が命綱を外した。
 垂直の崖に垂直に立ち上がる。
 壁歩きだ。
 武侠小説おける軽功の代表例の1つが、このクリムゾンウェストで完全再現されていた。
「ああ、正体不明のドローンは任せる」
 そんな絶技を使う本人は非常に淡白である。
 同行者が得意とする分野は同行者に任せ、自分は安定した足はこびで大蜘蛛の前に回り込む。
 蜘蛛の動きは雑だった。
 8本も足があるのに源一郎と比べれば素人じみている。
 源一郎が野球のアンダースローに似た動きで鞭を一閃。先端部が大蜘蛛の上半身を打ち据え、衝撃で足が崖から離れて落ちていく。
 壁歩きというスキルは予想以上に使える。
 ロープに頼らざるを得ない同行者はもちろん、体積の割に軽く岩を掴む力が強い蜘蛛より速く崖を駆ける。
 赤い鞭に勢いをつけ打ち付ける。
 今度は落ちはしないが足の半数が折れて身動きがとれなくなる。
 垂直の斜面での戦闘は大蜘蛛にとっても無理があるため、源一郎に圧倒的な有利な戦場になっていた。
「脱帽ね」
 綾瀬が感嘆する。
 スキル1つでここまで戦況が激変するとは思いもしなかった。
 自由に崖を移動し敵の動きを牽制できる位置を確保、筋力と体重を載せた一撃を不安定な歪虚へ叩き込み、また移動を行いロープとエルバッハ達を守り位置へ走り込む。
 まさに圧倒的だ。
「援護くらいはしておきましょう」
 一方的に助けられるだけなのは趣味ではない。
 綾瀬は片手と両足をロープに絡めて体勢を安定させ、もう一方の手でライフルを構え引き金を引いた。
 不安定な体勢でもこの程度綾瀬にとってはハンデにもならない。
「ふらふらして撃ち辛いけど、文句は言ってられないか……狙い撃つわ!」
 狙いの正確な銃弾がラジコンヘリコプターもどきの鼻先を掠めた。
 ドローンは前に進むか一度撤退するか迷ってしまい、その間に源一郎から数メートルの距離まで風に流される。
 重心を下げて安定した姿勢から鞭を繰り出す。
 鉄に見える輪の内側で回転するローターに当たる。
 ローターに絡まり危うく持って行かれかけたが、源一郎は力を込めて耐えた抜いた。
「出し惜しみは出来ませんね」
 エルバッハが素早く詠唱を終えてブリザードを発動。
 射程が延長された吹雪が避けようのない広がりでドローンを襲い、各パーツを凍らせて機能を停止させた。
「機械?」
 崖下に消えていくドローンは、歪虚とは異なり壊れても消滅しなかった。

●中継拠点建設予定地
 大きな出っ張りがあった。
 CAMが数体乗っても大丈夫そうな一枚岩だ。
 そんな場所に、真新しいリュックサックから数十年前の道具入れまでいくつも転がっている。
 最も多いのは体格が良すぎて崖を登れそうになり大蜘蛛型雑魔だ。
 暗闇を破壊エネルギーが切り裂いた。
 扇状に広がることで壁近くの6、7体を焼き尽くす。
 辛うじて生き延びた一体も、頑丈な脚部パーツに踏みつぶされて汚い染みと化す。
「先に行け!」
 真司の声が上から響く。
 セリスは気合いすら入れずに平然と、くるぶしまで埋まった脚部を軽々引き抜いた。
「ヴォイドゲート……なんておぞましい名前と気配」
 兜の下で華やかで凶悪な笑みが咲いたことに、頭上十数メートルの真司だけが気づいていた。
 セリスが大口径ライフルを構える。
 聖堂戦士そのものの見た目にはあまり似合わないはずのに、重武装クルセイダーな彼女には非常に良く似合う。
 単発の銃声が定期的に響く。
 並の鎧より強靱な外皮に大きな穴が開き、乾燥しきった荷物に体液が零れる。
 大蜘蛛が恐慌に陥りセリスへ殺到する。
 ライフル持ちのセリスは接近戦で抵抗できないと考えてしまったのだ。
 実際には盾で防がれ奇跡的に当たった一撃も有効打にならず、外側の蜘蛛から少しずつ削られ真司によりまとめてとどめを刺された。
 ロープが伸びて出っ張りの地面に達する。
「大きな足場を発見した。歪虚の掃討も今終わった」
 真司はトランシーバーを作動させたままロープを固定した。
 立ち上がりセリスの肩を優しく叩く。
 さすがに呼吸が乱れている。この程度の戦闘なら10度こなしても問題ないけれども、長時間の懸垂下降で心身が疲労していた。
「お疲れ。後は帝国軍と王国騎士達が降りてくるまで確保だな」
「そうねー」
 対歪虚の強烈な戦意がセリスから抜けている。
 一度周囲を見回して真司を向いて、予想より半歩近いのに気づいて軽く咳払い。兜の下の頬が少しだけ熱かった。
「なんとかなったわねー。……んん?」
 負傷と消耗度合いをチェックするついでに降下中のイベントを思い出す。
 近かった。
 体温とほんのり匂いが感じられるレベルで。
 セリスの動きが急にぎこちなくなる。
 口笛を吹こうとして完全に失敗する。
「無事のようだな」
 ザレムが出っ張りに着地し腰から命綱を取り外した。
 疲れと動揺に襲われたセリスよりも、疲労した真司よりもずっと動きが鋭い。
 対風、対地形、対歪虚、体力維持の全てにおいて万全の準備を整えた結果、彼は最も余裕をもって目的地までたどり着いていた。
 石を放る。固い地面に当たった音がすぐに返ってくる。
 何度繰り返しても同じで確信を持てた。
「底まで約80メートルか」
 真司と手分けして出っ張りの状態を確認する。
 ひょっとしたら歴史的価値もありそうな荷もあるが全て後回しだ。
 出っ張りにぶつかり砕けたドローンを他の荷物と混ざらないようにまとめ、最低限休憩できる空間を確保し長期戦に備える。
 そうしているうちに他の5人も到達。センサーが増えた分、情報収集の速度も一気に上がった。
「あれはっ」
 闇に目が慣れてきた頃、数名同時に気づいた。
 出っ張りから見下ろせる崖下の一角に、遺跡なのに遺跡らしくない頑丈な建物がいくつも見える。
 源一郎が相変わらずの仏頂面のまま言う。
「可能性の話は裏切られるというが」
 クリムゾンウェストの建築物には見えない。
 どちらかというとリアルブルーの、それも最近建造されたものに近かった。
 おそらく、いや間違いなくこの近くにヴォイドゲートがある。
 地球に通じる確率は間違いなく高い。
「今度は少しはマシな可能性らしいな」
 実に久々に、源一郎の口の端が笑みに近い形になっていた。
「真司」
「まずいな」
 一番最初に気づいたのはリアルブルー出身の2人だった。
 綾瀬が最後に残った直感視を使う。
 相変わらず暗くて遠くはほとんど分からない。しかし、これまで戦った蜘蛛型歪虚より数倍大きく、そして全て機械で出来ているとしか思えない何かが1機見える。
「武装をしていない奴は一旦上に戻れ。そうだ、敵だ。おそらく歪虚以外のガーディアンだ」
 真司が通信機片手に銃弾をばらまく。
 出っ張り下から現れたドローンに直撃する。建物の方向へドローンが流れていき、影に入って小さな爆発音が響く。
「放棄するか?」
「魅力的な案だけどクリムゾンウェストの人類連合軍にそんな余裕はないでしょう? 元からあった荷物を並べ替えてバリケードに。増援が来るまで粘るのはどう?」
「あのロープが3つあればCAM降下もなんとかなるか」
 建物から別の兵器が姿を現す。
 崖上に大勢の人員とユニットが集まり本格的な降下が始まる。
 ハンター達と所属不明の戦力がにらみ合ったまま、緊張だけが際限なく高まっていっていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878

  • 門垣 源一郎ka6320

重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師

  • 灯實鶴・ネイ(ka5035
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 大渓谷攻略!※落下もあるよ!
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/08/21 21:39:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/19 20:40:04