地の泪、死の光

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/06 07:30
完成日
2016/09/11 19:49

みんなの思い出

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オープニング

私を殺して。
私を殺して。
命が欲しければ全てを上げる。

だから殺して。
だから殺して。
命をないがしろにした全てを壊して。

「わ、歪虚だ……!」
 外でその一声があがると、大した人数もいない村なのに、まるで蜂をつついたような阿鼻叫喚が広がる。
 それを聞いて座敷牢に横たわる女は重たそうにその上体を起こした。
 身体はやせほそり、骨が浮かんでいた。あちこちに刻まれた傷跡。バサバサになった髪はいったいいつ以来梳いていないのか。そんな身体では身動きするのもつらいだろうが、彼女は悲鳴を聞くと、まるで審判の時がきた死者のように今までの静けさとは打って変わって、勢いよく格子を掴み、その隙間から少しでもその様子を知るべく頭をつけ、そしてガタガタと揺らした。
「ここよ、ここよ」
 かすれた声。
 水分を失って張り付いた喉はまともに声も出ない。だがそれも気にせず女は繰り返した。
 やがて視界がグラリと歪み、格子を手にしてもじっともしていられないような強烈な目眩が襲う。腐臭が漂い始め、女はからっぽの胃がぎゅうと握りしめられたようになって嗚咽した。
 そんな中、衣擦れの音が響いた。鈴の鳴るような涼やかな音が大きくなると、女には殊更大きく、救世主の来臨を感じさせた。
 あれが、この目眩と悪臭の元凶なのか。足元まで届くような長い金髪、抜けるような生の感じられない白い肌。辺境のいずこかを思わせる様式の簡素ながら神秘的な衣装。
「呼んだのは、其方か」
「そうよ。歪虚よ。死の住人よ。生けとし生けるものの仇敵よ。私のこのかすれた生を差し上げます」
 そうして女は格子の隙間から腕を伸ばした。その腕もアザやらなにやらでひどい色をしていた。
「北の地に追いやられた大切な想い人はただ私の元に帰るためにゾンビになって戻って来た。想いの果ての彼は討ち取られ、私は畏怖され人として扱われなくなった。私が何をした? 彼が何をしたの?」
 それでも生きよう。
 そう願っていた彼女の意志は無残にも砕かれた。寝起きする場所は家畜部屋にすげかわり、理不尽な罵倒と暴力にさらされた。飯など腐っていないものを与えられる方が珍しいくらいだった。
 命が削られ、死を隣にする感覚が明朗になると、彼女に残された希望は最早、元の生活を送ることではなく、死の果てにある復讐でしかなかった。
「命が欲しければ全てを上げる。命をないがしろにした全てを壊して。そして虚無の陣営に私を……」
 血で濁った眼から澄んだ涙が溢れ出て、それは頬を流れ肩へ。そしてボロボロの腕を伝った。
「怯弱な他力本願で、何が成就しようものか」
 歪虚は無碍にいったものの、その言葉とは裏腹に突き出した女の手をそっと取ってくれた。
「だが、想いとやらは大地に還り、大海に溶けても、消えぬもの。深淵まだ響いたその憎悪、しかと受け止めよう」
 涙が伝う腕から蒸気が立ち上ったかと思うと、赤や青、紫のだんだらに染まった腕は全て土気色に変わり、更に細くなっていく。
「ありが と、う……」
 呟いた唇は萎れて顎の骨にはりついた。頬も枯れ果て、奥歯が浮き出て見え、鼻も同様に。そして最後まで潤っていた瞳もついに黒くしぼんで、そのまま眼下の奥にことりと落ちた。
 そしてもうしばらくすると骨も砂のように細切れになり、全てが、全てが、すうと呼吸をする歪虚の鼻から口に消えて行った。
 遺ったのは外界からの光を僅かに返す一粒の泪のみ。


「社会という名の病は劫罰に等しき。慙愧に堪えぬ」
 牢から出て来た歪虚の姿を見た人間達はまるで我先にと逃げ始めた。
 細い畑道を押し合い、転んだ人間の背中を踏みつけ、泣き叫ぶ子供を泥田の中に押しのけて。腹の大きな女など置いてきぼりにされて、その女も怒りで澄ました仮面を脱ぎ去って口汚く先に行った男を罵っていた。
「逃げろ、逃げろ。おい邪魔だっ。どけどけっ」
「ハンターはまだかよ、ハンター!」
 醜い。
 歪虚は担いでいた大弓を引き絞り、青空の広がる天に向かって光の矢を撃ち放った。
「天譴の雨に打ちひしがれよ」
 そして広がる陽光をも引き裂く死の光が降り注いだ。

リプレイ本文

「あなたの命を、自然を愛する人だったんでしょ?」
 風を突き破るような勢いでスィアリの真上に跳んだ岩井崎 メル(ka0520)は紫電輝く光を指先に作り出しながら問いかけた後、俯瞰していたメルの視界は逆転していた。落下する勢いをそのまま利用して投げ飛ばされたと思い至る頃にはスィアリは既に先へと進んでいた。
 ほぼ同時に飛びかかったユリアン(ka1664)の攻撃もスィアリの髪を切ったが髪とは思えない強靭さに阻まれ、彼女の腕によって運動の指向を転換され地面に埋もれた。
「スィアリ様……!」
 アーシュラ・クリオール(ka0226)は願うようにしてデルタレイの力を込めた。照準器の先に見えるのは……ちらりと一瞥するスィアリ。
 次の瞬間、スィアリが動いたかと思えば、飛び込んできたリュー・グランフェスト(ka2419)とぶつかり合った。
「てめぇの相手は、俺だ!!」
 距離を一気に詰めて覚醒の焔を立ち上らせる竜貫。真後ろからはアーシュラのデルタレイとエアルドフリス(ka1856)の氷咬蛇が同時に襲い掛かる。
「本来、死が全てである。一切空とも渾沌とも言う。生などそこに漂う浮沼に過ぎぬ」
 リューの視界からスィアリが消えた。アーシュラの照準からも。
「遠離せよ」
 リューが振り返る前に、槍の一撃によってリューの胸から真っ赤な血が滝のように噴き出したのを見て、今度は惑うことなくアーシュラは大弓に髪に、そしてリューとスィアリをつなぐ槍持つ手にデルタレイを叩きこみ、それぞれを焼き焦がした。
 だが多少炭塊となったところで、まったくスィアリはひるまない。
「マジでバケモノっすね」
 無限 馨(ka0544)が反撃をワイヤーウィップをはためかせて阻止しながらそう言った。
 波状攻撃をいなしながらスィアリは突き進んでいく。特殊能力を使用しないだけでも僥倖なのであろう。
「それだけの力を持て余し巫女殿はたいそう御暇を持て余しているようだ。お節介が過ぎますな」
 エアルドフリスは苦々しい顔をしてそう言った。
「人間の本性が碌な物でないことなど知っているさ。だがね、過ちを正すのは人間でなくちゃならんのだ。あんたのような歪虚に正されるなど真っ平ごめんだ!」
 先制の一撃で、エアルドフリスは拳をスィアリに叩きつけたが痛みに耐えかねて沈んだのは自分の方だった。
 腹の古傷の辺りがざわめき、燃え盛る怒りが、身体を支えるマテリアルが、消え去っていく。
「歪虚もまた、理中。あらゆる命にも欠片が住まう。其方にも」
 生命還流……。
 スィアリの髪がいっそう艶やかさを増した。
「技は同時使用できないんじゃない……吸い出した生命力を、力に変えているんだ」
 大弓を掲げるスィアリを、その真下で見つめたアーシュラは得心した。髪の輝きが手に伝わり、そして弓の先へ。
 デルタレイは間に合わない。


「伏せてぇぇぇっ!!」
 空が裂けるような光で覆われた瞬間、エステル・クレティエ(ka3783)は叫んだが、人々は天を仰ぎ見たままだった。
「あああ、うわぁぁぁ」
 子供が泣く声がして、ルフィリア・M・アマレット(ka1544)が慌ててそちらに走ると、真っ赤に爛れた背中に包まれるようにして、子供が泣きじゃくっていた。先程親に見捨てられ泥田で泣いていた子だ。ではそれを庇ったのは……?
「高瀬様!!」
「ぅぐ……大丈夫、よ」
 慌ててヒールが施される中、高瀬 未悠(ka3199)は泣きはらした子供の目から涙を拭きとって微笑んだ。
「大丈夫、お姉ちゃんたちが守ってあげるからね?」
 精いっぱいの笑顔を作って子供の髪を優しく撫でると、未悠はそのままエステルが運んできた荷車に子供を預けた。
「怪我人はこちらへ、癒します」
 荷台に乗ったセレスティア(ka2691)が子供を引き取った後、天に手をかざすと桜色の光が荷台を覆う。その温かな光に絶望に染まりながらもまだ生きている人間たちがそぞろと集まる。
「私は提案する。傷は癒えれば走るのが上策である。行きつく先は集う地である。森は命の傘となり死の雨から救ってくれるであろう」
 天譴の雨で傷ついた頭を大きな帽子の陰に隠した雨を告げる鳥(ka6258)はそう告げると、馬車に、そしてそれを曳くエステルのバイクにウォーターウォークをかける。
「水の上であれど、道となる。選択肢は広がり、豊穣の巫女の狙いは分散する」
「ありがとう。残った人間の先導は務めよう」
 リュカ(ka3828)はこくりと頷くと、ゴースロンの馬首を巡らせてヤドリギで作られた槍を天に指し示した。
「後ろより来るは生を刈り取る者だ。誰かが犠牲になる度、力を強める。手を取り合え!」
 リュカの姿に王国に流れる良き羊飼いの寓話をふと思い出しながら、雨を告げる鳥はそれを見送った。
「死んじゃダメよ」
「元気な姿をお待ちしておりますからね」
「皆さんならきっと。信頼しています」
 それぞれに仲間達が雨を告げる鳥の横を、未悠の横を走り抜けていく。
「私は心配する。折れた骨が内臓に刺さっているようだ。ヒールといえども傷ついた内臓や、それを庇って損耗するマテリアルの減少は止められぬ」
「見抜き見通しってわけね。でも人の事……言えないんじゃない?」
 雨を告げる鳥の淡々とした言葉に未悠は苦笑いをした。
「……その通りである」
「でもやらなくちゃ」
 歪虚の産む腐臭に満ちた風が渦巻く。仲間の猛攻を弾き飛ばしながらスィアリがこちらにゆっくりと近づいていた。
「人は高瀬を称するであろう。誰よりも優しく、誰よりも強い、と。私たちの攻撃では巫女を防ぐのは難しい。故に私は試みる。説得を」
「任せたわ。思いの丈をぶつけて。その言霊が消えないように、私は守ってみせる」


「私は告げる。スィアリ。闇の裡の放浪者よ。自らの過去を女に重ねたか」
 雨を告げる鳥の一言で、スィアリの足はようやく止まった。
「それは我欲に他ならぬ。無痴を知る機会すら虚無へと飲み込めば、次代に伝わることあたわず 。人理もまた摂理」
「人理は社会の熱病が見せる幻と後悔。人が文明を持ちて幾星霜。咎人は減ったか? 理想とやらは近づいたか?」
 その言葉に雨を告げる鳥は押し黙った。スィアリの言葉は外れではない。自分の言葉も。
「オレ思うんすけど、文明社会の廃絶だけが目的じゃないっすよね。あんたの出現場所はおかしすぎる」
 スローイングカードが陽光を反射して光った瞬間に、スィアリはそれを腕で受け止めていた。痛みに顔を歪めることもないのは想定済みだ。
「ボラ族はなんで狙わないんすか? 記憶を歪められたか……」
 次の言葉を紡ぐよりも早くスィアリの槍で無限は胸を貫かれた。
 その苛烈な勢いは間違いなく触れられたくない言葉なのだ。と確信する。
「裏があるな……リュカの持つ霊闘士の奥義なら、記憶を取り出せるかもしれん」
「歪虚の記憶なんて読めるのかしら」
 エアルドフリスの言葉に未悠は少し首を傾げたが、静かにユリアンが言葉を返した。
「歪虚そのものは無理だろうけど、遺品ならできるだろう。髪なら……もしくは」
 そっと目を閉じて思い浮かぶのは、リボンの括られたゾンビの遺髪。
 髪は最後までこの世に残り、想いを受け継ぐものだ。
「スィアリもまだ歪虚になって数年だから、きっと髪の毛は切り取っても残るはずだよ。俺がやる」
「……わかった、じゃあ、俺が引きつける」
 リューは剣を構えなおすと、全身に炎をかけ巡らせた。
「スィアリ、お前の相手は……俺だ!!」
「あのような醜きを守るのがお前の剣か?」
 リューは大地を蹴った。
 炎がそれにあわせて変貌し、巨大な竜頭となって牙をスィアリに向けてぶつかった。
「生きようとするのが醜いというなら、お前は何だ!! 一番醜いのは、てめぇだろ!!」
 すり抜けるようなスィアリの回避を炎で包み込み、そのまま押し砕いた。身体を押し付けるような一撃だからこそ、ぽそりと呟いたスィアリの一言がリューの耳に届いた。
「否定はせぬよ」
 同時に急激な脱力感がリューを襲った。生命還流だ。
「均衡の裡に理よ路を還せ。本来あるべき姿のまま一切を留めよ!」
 エアルドフリスのカウンターマジックがその瞬間を狙って飛ばす。一瞬、七色の光が溢れでマテリアルが混濁したが、それも一瞬の事でリューの身体はみるみると干からび炎は消えていく。
 それでもなお。リューは最後まで立ったまま気を失っていた。
「負の奔流の方が強すぎるか!」
「こんな程度で負けねぇぞ……この剣は命を護るためにある。決して地に着くものか!」
 吼えたてるリューの焔に包まれるようにしていたはずのスィアリの金髪がその結界を打ち破っていた。今や包み込んでいるのは炎ではなく、その髪が炎を抱きかかえているようだ。
「ネルさんも、あそこか」
 ユリアンが助走をつけた。
「痛い思いをさせて命を賭けた願いを潰すのだから。その代償は命一つで足りるかな。ネルさん……」
 風がスィアリに向かって吹き始める中、嵐の奔流に吸い込まれるようにして兎のトランプが一枚流れていくのが見えた。道を指し示してくれるように。
 走った。暴風で歪む世界の中はまるで走馬灯の様だった。そんな中で弟が皮肉な笑いを見せてどんなに千変万化する髪の中でも、全く変わらない銀色の一房を指し示して見せた。
 師匠、隊長 エシィ、テオ 皆。
 ごめん、それから
「均衡の裡に理よ路を変えよ。生命識る円環の智者、汝が牙もて氷毒を巡らせよ」
 師匠の詠唱が風の雑音の中で聞こえてくる。スィアリが槍を構えていた。
 弱点は自分が一番よく知っているらしいが、それでもユリアンは速度を一切落とすことなく飛び込み。剣を振るおうとした瞬間、花びらが乱気流を貫いた穴から氷蛇がスィアリの腕を噛みついた。
 蛇と花びらがふわりと舞うと同時に、スィアリの髪が、そしてユリアンの鮮血がそれを覆い隠した。

 ユリアンの一撃でスィアリから真っ黒なヘドロが切れた髪から噴き出した。
「そういえ下水の流れにヘドロをはって抵抗してたっすね。歪虚ってのは……」
「ツィカーデもブリュンヒルデもあんな風にならないよ! それこそ『腐』を自分で溜めこむようなことをしなければ、ならないはず」
 無限の言葉にメルはそう答えてはっとした。
「スィアリ。あなたは……やっぱり自然を愛する人。だから汚染をその身に吸っているのよね。ボラ族に近づかないのは愛しい我が子を傷つけない為に」
「歪んだ社会の泥をすすってたってことっすか。自然とか裏切った仲間や子供を守るためにっすか?」
 二人の言葉にしばらくスィアリは黙っていた。
「スィアリ様が歪虚レーヴァと戦って戻って来た時には腐っていたって言ってた。じゃあ……」
 アーシュラは目を細め、そして口を覆った。
 スィアリが実力で勝てなかったわけじゃない。きっと子供を盾に取られたのだ。
 そして命じられたことは、腐をすすること。腐った泥水か死骸か糞尿か。呪いの言葉を吐き続け心まで腐らされて。死んだ今でもそれをずっと続けている。
「下水でマテリアルを吸いあげていたのは汚れた水で浄め、施療院で汚れと死体と歪虚を食らい、この村で怨嗟に塗れた言葉と想いを引き継いで。それが死の直前にスィアリがやらされていた……VOIDになった後もそれを続けたんすね。あんたはVOIDっていうより、歪虚って言葉が合ってるっすね。歪んだ虚ろな……存在」
 それでも彼女は美しい。
 高邁な精神がどこかに残っているから。歪みきっていても、どことなく気高く見えてしまう。
「もう、大丈夫だよ。スィアリ様。あたしが解放して見せる。背後にいる歪虚、ぶち殺すから!!」
「実力を見せよ。ボラの戦士として」
 その言葉にスィアリはぐいと顔を上げると、貫かれたままのユリアンを掴んでそのマテリアルを奪っていく。
「だからもう、やめて!!!」
 アーシュラが叫び、もう一度デルタレイを撃ち放ち、弓に叩きこまれるとそれは雷に触れたようにして粉々に砕け散った。
 そしてそれと同時に、光線よりも高く跳んだ高瀬が一気にユリアンを奪い返す。
「大事な仲間の命を貴女にくれてやるつもりはないわ。生きる。貴女は夢幻のように言うけれど、だから宝石のように大切なことなの。命をかけて守る価値のあること!」
 それでも腕を伸ばすスィアリの手を優しく取ったのはエアルドフリスだった。そしてその指に、己の指をかけてゆっくり重ねる。
「人間ってのは、におうでしょう。それでもあんたの姿で自分の汚れってもんに気がつき始めたんだ。後はそれぞれで最善を模索する過程がある。ご教授感謝いたしますと同時に、お引き取り願いましょうか」
 ぎりり。
 そのまま指をへしおるほどに力を込め、スィアリに口づけするほどの眼前に顔を寄せてそう言うと、エアルドフリスは思いっきり頭をスィアリの額に叩きつけた。

 吹き飛んで仰向けに倒れたスィアリにすっと影がよぎる。雨が告げる鳥の大きな帽子が作る影であった。
 彼女はそっと屈むとスィアリに囁いた。
「咎人の断罪に森までも焼き尽くすは、まさしく独善 。ここは境界。故に。貴方が受容した想いは、私たちが受け継ごう」
「自然は虐げぬ。記憶の連ね手、紡ぎ手として賢明な判断だ。賞賛しよう」
 地面に散らばった髪を一房拾い上げると、雨を告げる鳥はそっと立ち上がった。


 森の中。
「均衡の裡に理よ路を示せ。我が呼びかけに応えて、理に非ず冥途を逝く者に正しき路を示せ」
 鈴の音と薬煙の臭いが広がる中、エアルドフリスは冥途に旅立とうとしている弟子の前で祈祷を捧げていた。
 その前ではルフェリアとセレスティアが交互にヒールを使い、目を瞑ったままのユリアンの傷を回復させていた。
「兄さん、兄さん!!」
 エステルの悲痛な声が響く中、メルがそっと近くに合った墓前にかけてあったリボンを取り外し自らの胸に当てた。
「ブリュンヒルデ。私達にできる事は、独りにしない事なんじゃないかな……ネルさんにはエインさんがいる。冥途の騎士はエインさんが務めてくれるよ。だから、ユリアンさんは……返してくれないかな。こんなに待っている人がいるんだから」
 風化の進んだリボンはそのままボロボロになって風に舞った。
 そんなボロボロの布がユリアンの頬にかかり、エステルがそっとぬぐった瞬間、ユリアンはわずかに頬を動かした。
「兄さん!」
 喜びに沸き上がる森の中で、精魂尽き果てた様子で座り込んだエアルドフリスは笑った後、身体を樹に預けた。生命還流を受けた時点で古傷をえぐられ、骨髄辺りまで疲弊が達していたのだ。恐らくしばらくは自分も起きれまい。
「何もかも自分の責と思うのは、時に人の選択を蔑ろにする行為だぞ……」
 エアルドフリスの言葉に不知文目の相手が空から微笑むのを見て、彼はそのままずるりと地に伏した。

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MVP一覧

  • 「ししょー」
    岩井崎 メルka0520
  • スピードスター
    無限 馨ka0544
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856

重体一覧

  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • シグルドと共に
    未悠ka3199

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師

サポート一覧

  • ルフィリア・M・アマレット(ka1544)
  • セレスティア(ka2691)
  • エステル・クレティエ(ka3783)
  • リュカ(ka3828)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質疑応答
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/09/02 00:54:23
アイコン 対・豊穣の巫女【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/09/06 07:24:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/06 00:52:25