アイスワイバーン対空戦

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/02 12:00
完成日
2016/09/06 06:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●森と空との決戦
 飛行中のワイバーンが大きく息を吸った。
 漏れ出す負のマテリアルが温度を下げ、開きっぱなしの口から肩まで薄い氷が張り付いた。
 分厚い筋肉が躍動し胸部が凹む。
 凍えた空気が下方に向かって打ち出され、発生した突風により氷が剥がれて飛んでいく。
 着弾。
 大木の生い茂る葉が一瞬で凍りつく。
 こうなると夏の暑さで溶けても枯れた木が残るだけだ。
 弓を引き絞る音が微かに響いた。
 ワイバーンが慌ててその場所から飛び去ろうとする。
「あっ」
 メーガン(kz0098)のくちから間の抜けた音が漏れた。指を離すタイミングがずれたのだ。
 威力だけなら銃以上の矢が、明後日の方向に飛んでいく。
 それが竜型歪虚の進行方向だったのは単なる偶然である。
 ワイバーンの目が見開かれる。
 今にもこぼれ落ちそうな瞳に、重そうな鏃が映って急激に大きくなった。
 ぽとり、と。
 矢が勢いを無くして森の中に落ちていく。
 弓の射程外だ。
 竜種歪虚の口から安堵のため息が漏れ、己が安堵してしまったことに気づいて怒り狂う。
「よし」
 メーガンが走る。
 体力だけは有り余った彼女は地を這う根を飛び越え密集した茂みを突破し距離を稼ぐ。
 空から冷たい気配が迫る。
 動物的勘だけを頼りに回避しようと向きを変え、人型サイズの歪虚に真正面からぶつかった。
「すまない、ぶつかっ……歪虚か」
 弓から剣に持ち替え勢いよく振り抜く。
 騎士とはとても思えない雑な技だ。刃筋が立たないのは当然で、相手の歪虚……人間サイズの蝙蝠人間の動きが鈍いのにほとんど外れかけた。
 ぽこんと間抜けな音が響く。
 大型剣の端っこが歪虚に当たり、運動エネルギーの一部を渡して蝙蝠の頭部を破裂させた。
 アイスブレスが地表に到達する。
 頭上を覆う木々が凍り付きメーガンの鎧も冷たくなる。
「馬を連れてくるべきだったか? いやしかし馬がいても手数は増えないからな」
 剣を振るう。
 頭上からまた冷たい気配が迫る。
 新手の蝙蝠人間を砕いてダッシュ。
 森の一角が凍りづけになり、夏の日差しを美しく反射した。
「そこのキノコ殿! 手間をかけるがハンターオフィスに助けを求めに向かってほしい。戦闘後甘い物をおごるので何卒っ」
 着弾するアイスブレス。
 足止めしようとする蝙蝠人間。
 攻撃を外して罪もない大木を再起不能にする女騎士。
 戦闘開始から今まで何の進歩もなく繰り返されてきた光景であった。
「みゅ」
 野生のパルムが仕方が無いなぁと足を止めて回れ右をして、最寄りのオフィス支部を目指し駆けだした。

●ブリーフィング
 現場に急行中のあなたの耳に、オフィス職員の声が通信機越しに届いた。
『敵はアイスブレスを吐く竜種歪虚です。サイズは2以上3以下の……ワイバーンより少し強い程度の個体が3つです』
 少し戸惑ってしまう。
 ワイバーンなら単身で倒してしまうハンターも少なくないはずだ。
 CAMを初めとするユニット使用の許可が出たのは何故だろう?
『敵は弓の射程外からの攻撃に徹しています。アイスブレスは狙いが甘い分射程が長く、現地で引きつけている騎士は手も足も出ないようなのです』
 歪虚は意地になって戦闘を継続し、メーガンも退却するタイミングと退却という概念を見失い千日手に陥っている。
 この時点でメーガンの生命力は3分の1を切っていた。
『現場は森林地帯です。しかも人間大の歪虚まで出没しています』
 幻獣イェジドやリーリーなら森の奥まで入り込めるがCAMや魔導アーマーでは無理だ。
 戦闘の際人型ユニットは、開けた場所で歪虚待ち受けるか射撃攻撃を行うことになるだろう。
『囮担当騎士もそろそろ体力がつきるはずです。出来れば生きているうちに回収してあげてください』
 空を見上げると、遠くの碧の上に目障りなトカゲ3匹が飛んでいた。

リプレイ本文

●戦場へ駆ける
 森の中に真っ直ぐ道が続いていた。
 高速を出しているのに緑の匂いが強い。
 石畳故の振動もむしろ心地よい。
 このまま地平線まで走り続けたらどれだけ気持ちが良いだろうか。
「みゅ」
 パルムが精一杯の大声を出す。
 風に負けて自分自身にも聞こえないので、魔導バイクの荷物入れから身を乗り出て柊 真司(ka0705)へ伝えようとした。
 顔を出した時点で風に負けた。
 時速数十キロで後ろへ吹き飛ばされる直前に、真司へひょいと荷物入れに戻される。
「そろそろなんだろう?」
 任せておけと口元だけで微笑んで、真司はハンドルを大きく左へ切った。
 緑が急接近する。
 無数の葉と枝が危険な障害物と化し真司を襲う。
 パルムは両手で目を覆って荷物入れの中で縮こまった。
「一気に駆け抜けるぜ!」
 予想以上によく手入れされた森だ。
 空飛ぶワイバーン3体がいなければ、理想的なピクニックコースになり得たはずだ。
「みゅうっ」
 パルムが負の気配を感じて起き上がろうとして失敗する。
 木々の間をバイクが駆けている。
 蛇行運転しているのに速度は全く変わらない。
「ようやく気付いたか」
 不敵に笑う。
 空を飛ぶワイバーンが1体、慌てて真司に向き直ろうとしてバイクの速度を読み切れずに見失う。
 微かに、全身金属鎧のパーツ同士がこすれる音が近づいてきていた。
「こっちはまだ気付いていないのか」
 メーガン(kz0098)が救援に気付かず明後日の方向へ移動中だ。
 追いすがる歪虚と切り結んでいるので、もう少し放置しても大丈夫そうだ。
「また重い鎧を着やがって。援護する。南へ……フォークを持つ手の側へ走れ!」
 全身金属鎧が一瞬真司を見る。
 コウモリ人間型歪虚はその隙を見逃さず、ハンマーより硬そうな拳でメーガンの頭部を乱打する。
 彼女は、殴られたことに気付きもせずに南へ走っていった。
「メーガンの体力が尽きる前にワイバーンを倒して助けてやらないとな」
 魔導エンジンを逆回転させる。
 記憶力と気配感知能力を頼りに木々の間を通って10メートル下がった直後、アイスブレスが上空から飛来しコウモリ人間を凍り付かせた。
「今からワイバーンを誘導する。指示を頼むぜ」
 濃密な破壊エネルギーを噴射する。
 木々には焦げ跡ひとつつけずに氷付け歪虚を燃やし尽くした。
「そのまま引きつけて」
 白金 綾瀬(ka0774)の周囲は無音に近い。
 歪虚がまき散らす殺気と、歪虚より強い何かが秘める気配に怯え、大小の動物から昆虫までもが息を細めている。
 空には3体のワイバーン。
 CAMと同じかやや小さい程度の巨体が空を飛ぶのは脅威であり、地方の練度未熟な部隊が遭遇すれば全滅しかない難敵だ。
「追いかけっこしてる所悪いけど」
 極限の集中が体感時間を遅くする。
 真司の圧倒的な回避能力に翻弄されて頭に血が上ったワイバーンが、地上から10メートルの距離にまで迂闊にも近づいた。
「狙い撃つわ!」
 いつもと同じに引き金を引く。
 よく整備された「狂乱せしアルコル」改から弾が1発放たれて、枝と葉の間を擦り抜け、無防備な横っ腹にめり込み鱗と筋を破壊した。
 悲鳴が轟く。
 動物と昆虫が逃げる気配が森のあちこちで生じる。
「意外ね」
 魔導エンジンに火を入れる。
 レーシングタイプとして製造されたバイクではあるが、綾瀬ほどの腕があれば射撃の片手間に森の中を走らせる程度容易い。
「脆いわ」
 あくまで綾瀬の目から見ての話だ。
 第二射は分厚い鱗と皮膚で防御された肩を貫通。悲鳴をあげながらワイバーンが逃げ出した。
 必死に翼を動かしようやく安全圏まで逃げ延びたと思った瞬間に、胸に痛みが生じて肺から口へ大量の血が駆け上がる。
 第三射が胸に当たって肺を貫き逆に抜けたのだ。
 綾瀬が進路を変える。
 コウモリ人間型歪虚が上位存在を逃がそうと足止めのため突進してくる。
 しかし真司によりあっさり駆逐された。
 ワイバーンは部下の犠牲を気にもせず、稼いだわずかな時間を使って今度こそ安全圏である高空に逃げようとした。
「逃すわけには、いかないのよ」
 第四射が翼の先端を掠める。
 ダメージが皆無だ。逃げる術が失われる恐怖がワイバーンの動きを鈍らせる。
 そこから綾瀬の銃弾が2発、真司の銃弾が1発胴へ撃ち込まれ、本来なら1つの地域を恐怖に陥れるはずだった個体があっさりとこの世から退場した。

●人と竜との力比べ
 空気が揺らめいた。
 ワイバーンの巨体が空気を押しのけ強い風の流れをつくっている。
「気づいたか」
 女騎士を思わせる機体が対空砲を抱え上げた。
 砲身が非常に長い。扱いが酷く難しそうだ。
「『テールスタビライザーB』モードに移行」
 両手で砲身を支え、両足と尻尾状スタビライザーで機体のバランスを維持。
 機体全体で対空砲の狙いを微修正した。
「安全確認完了、砲撃開始!」
 自機周辺に味方がいないのを一瞬で確認してから、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は裂帛の気合いと共に引き金を引いた。
 衝撃の半瞬後に音を感じた。
 耳が麻痺しかねない大音量だが気にしている暇はない。
「どうだ!」
 射撃体勢の解除と回避の指示は既に出している。
 レオーネは、空をいくワイバーンとそれに急接近する砲弾をにらみつけていた。
 歪虚の翼が不格好かつ必死に上下するが回避には間に合わない。
 だがワイバーンはたまたま風の通り道に突っ込んでいた。
 巨体の割には軽い体が2メートルほど流されて、当たれば血反吐を吐かされたはずの砲弾が背後に消えていく。
「風かっ」
 恐怖と安堵で竜の顔が奇妙な形に歪んだ。
 その場で旋回しつつ大きく息を吸い、射撃体勢解除がまだの機体めがけて極太のブリザードを吐き出した。
「え」
 新進気鋭の切れ者発明家でもベテランハンターでもなく、年相応の少年の顔で瞬きする。
 当たれば足の1本は覚悟するしかなかったブレスは、青い機体の前方5メートルの石畳を無意味に凍り付かせていた。
 単純な話だ。
 射程内でも距離100メートル強あると、余程の腕か性能がなければ命中率は5割を切って当然だ。
 ワイバーンが必死に息を吸って第二射の準備を行う。
 だが、レオーネ機が次弾を装填して引き金を引く法がずっと早い。
「こいつでどうだ!」
 心地よい衝撃が機体とレオーネを突き抜ける。
 初撃以上の精度で砲弾を放たれる。
 が、今度はワイバーンも警戒しており、高度を速度に変換し砲弾をくぐるように回避、そのまま降下を続けて対空砲の射程外まで逃れた。
「射程を見抜いた? かなり戦い慣れてやがるな……」
 出来れば森に踏み込み対空戦闘を継続したい。
 だが木々の間隔はヘイムダル型が通れるほどの余裕はなく、コウモリ人間が己の有利な地形に潜んで待ち受けているため踏み込むのは危険すぎる。
 彼等を蹂躙できるのは真司のような高位覚醒者だけであり、残念ながらレオーネ機は彼等に匹敵するほどには仕上がっていなかった。
「まあ、予定通りだな」
 レオーネはトランシーバーを使って作戦続行を仲間に伝え、対空砲から刃に持ち替え工作を開始した。
 人対竜の砲撃戦が行われていた頃、1体のイェジドが濃い緑の中にいた。
 丁寧にカットされた黒い毛並みがとても美しい。
 それ以上に、凜とした佇まいと見事な体重移動が名刀に似た迫力を黒い幻獣に持たせていた。
「さて、それじゃあ少しばかり散歩と洒落込もう、Василий(ヴァシーリー)」
 Holmes(ka3813)が促す。
 手綱や轡などという無粋なものは使っていない。
 鞍に腰掛け楽しげにイェジド見守っている。
 黒曜石の刃を思わせる目付きは全く変わらず、しかし艶のある尻尾が機嫌良く揺れた。
 加速はしない。
 攻撃に移る余裕を確保したまま緑の障害物を擦り抜ける。
 ほとんど足音も聞こえなかった。
『人ゲン来なイカ?』
 人間大のコウモリの頭が、木の陰から不用心に突き出された。
 Василийの強靱な後ろ脚が地面を蹴る。
 細い体が優雅にうねり、前の手のひらがコウモリの頭頂を抑えて極短時間力をかける。
 頸骨の折れる音は枯れ木が折れる音に似ていた。
 歪虚が崩れ落ち下草に埋まって消滅していく。
「おっと失礼、急いでいるんだ。ダンスのお誘いはまた今度」
 Holmesが大鎌を振るう。
 物騒な形状の刃が半円を描き、隠れていたコウモリの頭を茂みごと切り裂いた。
『そちらにワイバーンが1体向かっていますっ』
「助かるよ沙織君」
 魔導短伝話を片手にほんのわずかに体を傾かせる。
 たったそれだけで主の意図を悟り、Василийが森の木と新手のコウモリ人間の間を駆け抜けた。
 気温の急速低下と風の刃が同時に地面に到達する。
 凍り付いた雑魔が砕けて汚らしい破片に変わる。
「熱い視線をくれる割には冷たい返事だね。Василий、アレは参考にしないように」
 Holmesは、血走った竜の目へ揶揄の視線を向けた。
 イェジドが木を掠めて歩む。へばり付いていた保護色雑魔が腹を切り裂かれて悲鳴をあげ、Holmesの刃で止めを刺される。
「まだ行けるかい、Василий?」
 返事は言葉では無く軽やかな足取りだ。
 ワイバーンに意図を気付かせない進路で街道に近づくと同時に雑魔を掠めるように移動。
 近づくたびに異形の刃が一閃し、随伴歩兵に相当する雑魔が瞬く間に数を減らした。
 Василийが振り返る。
 地上の雑魔と空のワイバーンが、戦闘中なのにあまりに静かなHolmesを見て体を震わせる。
「そうか、それじゃあ楽しもう」
 ワイバーンだけが恐怖を振り払い、生涯最高の気合いを込め大きく息を吸った。
「参ったな」
 マリィア・バルデス(ka5848)は真上を見上げている。
 そこにあるのはワイバーンの腹だ。これまで空から一方的に攻めて勝ちを得てきたせいか、鍛え方が全く足りない。
「ここまでお膳立てされてはな」
 得物の引き金を引いた。
 高性能なスナイパーライフルにとっては距離30メートルは至近距離に等しい。
 鱗と皮膚と薄い筋を抜いて弾丸が内蔵で止まった。
 空の歪虚が咆哮する。
 随伴するコウモリ人間がマリィアを止めようと向かって来るたびに、Василийに吹き飛ばされHolmesの本気の威圧に負けて動けなくなる。
 彼らは今まで手の内を隠す余裕すらあったのだ。
「そう。生き延びるつもりなら逃げるのが正しい」
 ワイバーンが急旋回してマリィアに背を向けた。
 マリィアは旋回途中に発砲する。
 高速移動中の歪虚に回避を許さず当てはしたが、たまたま鱗が厚い箇所に当たって弾丸が筋肉で止まる。
「スナイパーライフルは軽いからな……サブマシンガンが届く距離なら間違いなく殲滅できたが……まぁいい」
 マリィアの声はどこまでも冷静で、そして危機感がない。油断ではなく余裕だ。
 ワイバーンの口から不規則な息が漏れた。
 安堵と怒りと恐怖が入り混じって不安定な、率直に表現するとみっともない声が戦場に流れた。
 翼が勢いよく上下する。
 自身を構成する負のマテリアルを使い尽くすつもりで限界まで加速する。
 発砲音が異様に近くで聞こえた。秒もかからず真新しい痛みが下腹に生じる。
「この距離で、高速のバイクを使って、追い切れないと思ったか?」
 マリィアは足だけで魔導バイクを前進させている。
 両手で銃を構えているので速度はそれほど出てはいない。ワイバーンとの距離も開くばかりだ。
「こちらマリィア。ワイバーン1体は仕留める。戻るのに時間がかかる可能性が大きい」
『了解』
 トランシーバーからの返答を確認して斜め上へ発砲。
 今度はぎりぎりで回避されて20メートル近く離れることに成功する。
 ワイバーンの翼に力が籠もる。筋が一部断裂しワイバーンの口元に血の泡が増える。
「これが最後」
 腹から背中に弾が抜けて肺を傷つける。
 己の生存を確信しワイバーンの顔に壮絶な笑みが浮かぶ。
「と思ったか?」
 スキルで射程が伸びた銃から最後の弾が放たれ、撃ち抜かれたワイバーンが失速して地面に突っ込んだ。

●孤軍奮闘
 2体目のワイバーンが滅ぶ数分前、西側の戦場で魔導型デュミナス対アイスワイバーンの1対1の戦いが始まった。
「注意を引くくらいなら……エーデルワイスがいれば」
 左右の手にそれぞれ操縦桿を握りしめ、沙織(ka5977)は実戦では一度も使ったことのないコマンドを入力した。
 魔導型デュミナスが見事なフォームで駆けた。
 手足の振りも機体の安定も見事ではあるのだけれど、美しいだけで戦闘には全く向いていないデモンストレーション用動作だ。
 西の端にいたワイバーンが大きく向きを変えた。
 30mmアサルトライフルの届かない距離で悠々飛んでいたのに、沙織の機体へ直線的に近づいて来る。
 修理未完了な沙織機の状態に気づいたのだ。
「エーデルワイス、嘗められた分はしっかりお返ししましょう」
 声は朗らかなのに異様な迫力があった。
 ワイバーンの速度が下がる。沙織機……エーデルワイスに対して直進し、距離110メートルでアイスブレスを解き放つ。
 沙織の中で高速の計算が行われる。
 現装備では回避成功確率は小さい。
 ならば最善な行動は1つだ。
「シールド!」
 エーデルワイスを立ち止まらせ大型シールドを歪虚に向ける。
 ブレスが表面にぶつかり冷気の3、4割が吸収される。追加装甲と通常装甲があわせて4割強をさらに吸収し、機体に届いた威力は2割を切っていた。
 ワイバーンが次回攻撃のため雑な動きで前進、獲物の状態を確かめようとして30ミリ口径の銃口に気づく。
「アイスワイバーン1体との交戦を開始しました。可能な限り時間を稼ぎます」
 通信機で報告を送る。
 残念だが彼女とエーデルワイスでは撃破困難だ。
 今の距離でなら2体相手でも十分勝ち目はある。
 曳光弾による光の線が飛行歪虚で遮られ、続く数発の通常団が鱗を凹ませ筋と内蔵を傷つける。
 だが彼女とエーデルワイスとの攻撃はそこまでだ。
 ワイバーンは無様なほど慌てて必死に斜め上方へ逃げ、30mmアサルトライフルの射程外に逃れた。
 沙織は落胆も焦りもしない。
 耳を澄まし首と目を高速で動かし、自機と周囲状況について情報を集めて決断を下す。
「そちらにワイバーンが1体向かっていますっ」
 別の1体が東に向かっていた。
『助かるよ沙織君』
 通信相手の声は非常に落ち着いている。
 微かに混じった悲鳴はコウモリ人間型歪虚の悲鳴だろう。
「来る」
 怒り狂ったワイバーンからのアイスブレス。
 エーデルワイスが実戦用の走りに切り替えぎりぎりで回避。
 ワイバーンが旋回する。
 明らかな隙だがアサルトライフルでは届かない。
 再度ワイバーンの口が凍り付き、強烈な冷気がエーデルワイスへ打ち出された。
 それからの展開は一方的だった。
 沙織はひたすら防いで交代し、その分ワイバーンが前に出て一方的に攻撃する。
 つまり沙織の計画通りだった。
『いくぜ!』
 草の山から対空砲が生えた。
 よく見れば草刈りした草をかぶったレオーネ機であることが分かったろうが、少なくともワイバーンが気づくことは最後までなかった。
 竜は沙織の狙い通りに調子に乗っていた。
 回避も防御もせず不用意に対空砲の射程に入り込み、一方的に、アイスブレスよりも高精度の攻撃を浴びることになる。
「エーデルワイス! スラスター最大出力!」
 傷ついた機体の背後から光が伸びる。
 驚き戸惑うワイバーンの下方へ滑り込み、地面に垂直にアサルトライフルを構え全力射撃を開始した。
 歪虚の翼に穴が開く。
 正気を取り戻し逃げだそうとしたころに砲弾が飛来し回避を強いられる。
「届いて!!」
 機体の操作を万全に行った上で祈る。
 30ミリ弾が腹を掠め、足の先に当たり、ついに喉元に的中して上顎を撃ち抜いた。
 目鼻からどす黒い体液が噴き出し、ワイバーンの死骸は瞬く間に速度を失い墜落していった。

 ワイバーン完全討伐の報が届くと、周辺から大勢の兵士が派遣されコウモリ人間の排除と街道補修が進められた。
 兵士達は戦いの跡を見て、歪虚の強さとそれを倒したハンターと相棒の力に驚いていたらしい。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヘイムダルヒソウカイ・タシギ
    ヘイムダル飛装改『タシギ』(ka1441unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ヴァシーリー
    Василий(ka3813unit001
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    エーデルワイス
    エーデルワイス(ka5977unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Holmes(ka3813
ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/08/29 17:22:01
アイコン 相談卓
Holmes(ka3813
ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/09/02 02:08:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/30 12:54:41