• 蒼乱

【蒼乱】ブリとイカと魚人族!

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/04 19:00
完成日
2016/09/11 20:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ここまでのあらすじ
 錬魔院院長ナサニエル・カロッサ(kz0028)のお願いで西方の暗黒海域にて魔導アーマーの起動実験を行っていたブリジッタ・ビットマン(kz0119)は、海底に不思議な『影』を発見する。
 彼女が行っていた実験とは宇宙空間で魔導アーマーが活動できるかと言うもの。
 その実験は成功と言って良い成果を上げた。しかし発見した『影』の調査は気密性を上げたヘイムダル改でしか行えない。
 そこでナサニエルは追加の実験と調査をブリジッタにお願いする。
 そうして2度目となる海底調査を行ったのだが、ここで彼女たちは思わぬ生き物と遭遇することとなった――

●ギョギョギョ
「オ前タチ、誰、ダ?」
 そう言葉を発する半魚人。全身が鱗で覆われる二足歩行の生き物は、船体をよじ登る事で甲板に上ってきたらしい。
 それを目にしたブリジッタは未だ尻餅をついたままだ。
 そんな彼女に目もくれず、魚人は彼女の後ろにいるヤン=ビットマンに視点を合わせた。
「……あたしたちはゾンネンシュトラール帝国の錬魔院所属の研究者よ」
 流石は年の功。
 問いに戸惑いながらも答える彼に魚人の顔が考えるように落ちた。
「帝国、錬魔院……人間、カ?」
「ええ、人間よ。見たところあーたたち魚人族のようだけど、あたしたちに何の用かしら?」
 ヤンの記憶と知識が正しければ彼らはリザードマン等と同じ亜人の一種だ。
 魚人はヤンの言葉に数度瞬くと、本来の目的だったらしい彼の後方を指さした。そこにあるのは気密性を上げ、水抵抗に特化させたヘイムダル改2だ。
「アレ、ハ仲間、カ?」
――仲間か?
「仲間って――」
「あんたたちの質問の意図は理解したのよ……残念だけど『仲間』と呼ぶには意思が足りないのよさ」
「小サキ生物。オ前ニハ聞イテイナイ」
 ヤンを押しのけるようにして這って前に出たブリジッタに一瞥を飛ばし、魚人は再びヤンを見た。この行動にブリジッタの目が際限なく見開かれる。
「小さきもの? 小さい?」
 ぷるぷると震える姿にヤンが「あ」と漏らす。だが遅かった。

 バキッ☆

 魚人の顔が地に着きそうなほどに傾き、ブリジッタが猫の毛を逆立てたように息を荒げる。
「固い顔なのよ! じゃなくて、あたしをバカにするななの! あたしはこの子たちの生みの親にして魔導アーマーの開発の第一人者にしてうるとら美少女のブリジッタ・ビットマンなのよ!」
「……生ミノ、親? アンナ、デカイ生物ノ……?」
 頬を抑えた魚人の顔に驚愕が浮かぶ。
 それを尊敬と受け止めたのだろう。胸を張るブリジッタは尚も言う。
「そうなのよ。この子たちは魔導アーマー、あたしの大事な子供なのよ!」
 大事そうに魔導アーマーを振り返った彼女に魚人の雰囲気が曇る。
 意味が分からない。そう言外に発する彼にヤンが捕捉する。
「魔導アーマーって言うのは、人が乗り込んで操縦する機械のことを言うのよ。マテリアルで動いているんだけど……わかるかしら?」
「……ツマリ、ソノ戦士ハ、生キテイナイ?」
 驚愕とも、落胆とも取れる声で発せられた言葉にブリジッタの眉が上がる。
 それはヤンも同じで、2人に妙な違和感が訪れる。と、海の方から快活な声が響いてきた。
「ザウル。あなたは本当にダメねぇ。その巨人さんは生きていないかもしれないけれど、彼女たちがその巨人さんを動かせるはずだわ」
 可愛らしい声に甲板にいた全員が海を覗き込んだ。そこにいたのは海底神殿へ道案内してくれた人魚だ。彼女は顔を覗かせた人間を見て笑顔で手を振っている。
「ハロー♪ こうして見ると私に似ているのね。私は人魚のアラ。そこにいるのは半魚人のザウルよ。あなたたちにお願いがあってやってきたの♪」
「お願いなのよ?」
「ええ。さっきのイカを退治してくれないかしら」
「アラ! 交渉ハ、俺ガスルト」
「ザウル。こういうお願いはスマートに言うべきなの。だって私たちは困っていて、この人たちは私に希望を見せてくれたんだもの。こんな素敵な出会いを見逃すなんてできないでしょう?」
 ふふっと笑ってもう1度皆に手を振るアラにブリジッタは困惑する。
 確かに先ほどはヘイムダル改2でイカ型歪虚を追い払った。だがそれはあくまで追い払っただけ。8機の魔導アーマーでそれしかできなかったことを次も出来るのか、と問われたらいささか疑問だ。
「1つ質問なのよ。あの神殿には何があるのよさ?」
 ハンターが撮ってきた写真で確認したが、海底には確かに神殿があった。
 そして神殿へはアラが案内してくれたことも間違いない。ならば、彼女は神殿に何があるのか知っているのではないだろうか。だが、
「ごめんなさい。私も何があるか知らないの……私が生まれる前から神殿には歪虚がいたから……」
「俺タチハ、神殿ヲ、取リ戻シタイ」
 彼女たちが言うには、ハンターが発見した神殿は数百年前から歪虚のもので、幾度となく奪還を試みたが未だに出来ていないと言う。
 アラがこの海域にいたのは無謀と好奇心の賜物で、神殿奪還の糸口がないか見に来ていたのだと言う。ザウルはそんな彼女に付き合わされた形だ。
「……なるほどなのよ。確かに歪虚の退治には改2が必要なのよさ。でもこの子たちは……」
 先のイカとの戦闘で数機の魔導アーマーが破損している。
 そこまで酷い破損ではないが、海底に下りた水圧で破損が大きくなる可能性がある。出来ることなら操縦者の安全も考えて別の方法を考えたいが、
「そっちには戦闘力はないのよさ?」
「ごめんなさい。ザウルならちょびっとはいけるかもしれないけれど、私は……あ、そうだわ! これをあなたたちにあげるわ!」
 言って投げられた鉱石にブリジッタの手が伸ばされる。
「マテリアル鉱石? ううん、この純度の高さは……」
「海涙石よ。それがあれば水の中でも息をすることが出来るの」
「!? すごいのよさ! これがあれば他の魔導アーマーやCAMでも海の中に入れるのよ!」
 勿論、海水に耐えるために多少の調整は必要だが、他のユニットでも海水に入り戦闘をする事は可能だろう。ただし、
「そんなに長くは息が続かないと思うの。でも早く倒せば大丈夫なはずよ!」
「簡単に言ってくれるわね」
 苦笑するヤンにブリジッタは応えない。
 ただ海涙石を見ながらぶつぶつと呟き続け、そして彼女の中で何かの答えが出たのだろう。
「うっし! オカマ、至急ハンターソズサエティに連絡してハンターを呼ぶのよ! あと改2の修復も急ぐのよさ!」
 テキパキと指示を飛ばすブリジッタはザウルを振り返るとこう言った。
「あんたとアラにはイカをおびき寄せてもらうのよ。さあ海に入ってターゲットを探してくるのよさ!」
 当然彼の困惑と拒否の声が木霊すのだが聞いちゃいない。
 既に自身が思いついた海涙石の使い方を頭に浮かべ、更なる実験成果を得ようとブリジッタは奔走を開始した。

リプレイ本文

「詩、どうしても行くのよさ……?」
 暗い海を手摺の外で眺めていた天竜寺 詩(ka0396)へブリジッタの不安そうな声が飛ぶ。
「あの子は連れて来られなかったけど、私にしか出来ないことはあるから!」
 そう笑顔で振り返った彼女に申し訳なさそうに視線が落ちる。
 彼女の腰には船とを繋ぐロープが1本。手には海中での呼吸を可能にする海涙石が握られている。
 本来であれば彼女の隣には彼女の相棒である幻獣の姿もあるのだが、手配ミスで同行することが出来なくなってしまった。故に生身で海へ身を投じるのは彼女1人――
『まあ、いざとなれば俺が連れて帰るさ。にしても、この機体……本当に大丈夫なのか?』
 詩の体を慎重に持ち上げたザレム・アズール(ka0878)の機体を見上げる。
 彼が搭乗する機体は魔導型デュミナス。
 対VOID戦用に開発された機体は当初より気密性に優れている。その性能はヘイムダル改2と比較しても相違ないだろう。強いて言うならば今回は海中戦だ。
 海水が機体をダメにしないよう、その辺の調整がブリジッタによってなされている。
「まあ、1機調整できればあとは簡単だったのよ。それより詩には調整が施せなかったのよ……」
「施せたら問題だろ。というか、その心配する心をもう少しザウルにも分け与えて欲しかったな」
 そう若干の憐れみを含んで言葉を零したのはヘイムダル改2に乗り込んだ守原 有希遥(ka4729)だ。
 彼は一足先に海へ行った魚人の青年――ザウルを思い出し苦笑する。
 彼は生身で歪虚と対峙する。つまり詩と同じだ。
 違う点があるとすれば歪虚を誘き出すために囮となった。という事なのだが、残念なことに、ブリジッタは彼には心配の『し』の字も寄越していない。この辺りが付き合いの差だというなら、もう諦めてもらって問題ないのだろうが、人としてどうなのかという疑問が浮かぶ。
『魔導アーマーも人間も同じ扱いとは、なかなかに愉快な女子じゃな』
「いや、人間の方が扱い低い気が……」
 そう零す有希遥に関心の声を零すミグ・ロマイヤー(ka0665)は、楽し気に笑い声を零すと今回投入された機体たちを見回した。
 今回の作戦で投入された機体は魔導型デュミナスが3機、魔導型ドミニオンが2機、こちらで用意したヘイムダル改2が2機だ。
 ブリジッタ自身、純粋な魔導アーマー以外を公に弄れる絶好の機会だった訳だ。
「まあ、あとはあの敵に勝てるかどうか、だが」
『なんとかなろうて。それにしても地図にしか載って無いような海獣を実際に目にする日がこようとはやれやれ長生きはしてみるもんじゃのう』
 ふむ。と細められる目。その口調とは裏腹のロリロリしい外見のミグは、何処か楽し気な笑みを浮かべる。その声を聞き留めたアーサー・ホーガン(ka0471)が苦い声と共に通信を飛ばしてきた。
『あまり気を抜いてるとヤラレかねねぇぞ』
 前回の強烈な抱擁(と言う名の拘束)を受けた彼は、イカ歪虚に一矢報いる気満々だ。
 そんな彼にフッと笑むと、ミグは閉ざされた片目をそのままに海へと投下されるアーサーの機体を見る。
『別に侮っておるわけではない』
 単純に亀の甲より年の功、いや、落ち着いて事態に対処する予定だからこその態度でもある。
 ミグの答えに「ならいいが」と零し、アーサーの機体は海へ消えていった。
 そして次々と他の機体が海へ消える様子を声を上げて見つめる少女がいた。
 今回の実験を含め3度の起動実験に参加している沙織(ka5977)だ。
「ブリジッタさんから貸してもらった機体も素敵でしたが、今回はいろんな機体があって楽しいです! できれば話を聞かせてほしいけど……」
 今は仕事優先。そんな言葉が頭をよぎり、「はうっ」と首を横に振る。
 そんな相変わらずな彼女に笑んで瀬崎・統夜(ka5046)が自らの機体に手を添えた。
「見たところ変わったところはないな。本当に調整されてるのか?」
『そうなんですよね! どんな仕様なんでしょう! もう楽しみでっ!!』
 沙織が興奮で声を高める間、雨月彩萌(ka3925)の魔導型ドミニオンも海中へと足を踏み入れはじめていた。
 彼女の機体も、他の機体同様に水中用の改造が施されている。
 ブリジッタの話ではどの機体も元々の性能をそのままに弄ってあるので問題ないとは言っていたが、
「宇宙空間とはまた異なる感覚がしますが、いけますね」
 水に入った直後から、宇宙との相違を探しにかかる。どうやらそこまで大きな変化はないと見える。
 握り締める手はいつもと変わらないし、足の動かしてみた感覚も変ではない。
 強いて言うなら重さ、と言うか、水圧による遅さがある程度だろうか。これに慣れるのは少し大変かもしれない。
 それにしてもリアルブルーから戻ってきたと思ったら次は海中戦とも忙しい限りだ。
 だがぼやいている暇はない。
「行きますよ、アイリス・マーク1。わたしたちの正常を証明するために」
 海底に降り立つと同時に地面を踏みしめた機体。その姿を見止め、統夜の魔導型デュミナスと沙織のデュミナスも前に出る。
「どうだ? 動けそうか?」
「はい。エーデルワイスは初めての海ですが怖がってはいないようです。統夜さん、今回は宜しくお願いしますね!」
 ああ。そう短く返し前を向く。
『そろそろザウルが来るのよ。皆、よろしく頼むのよさ』
 無線を通じて放たれる声に誰もが気合を入れる。そして巨大イカ型歪虚との戦闘が開始された。

●イカvs人型魔導兵器
 無音の世界において暗闇というのは恐怖でしかない。
 ただ静かに敵の存在を待つ。たったそれだけの時間が恐怖と緊張に彩られるのが地上戦と違うところだ。
「ブリの情報だとそろそろザウルがくる頃だが……」
 作戦行動開始前、ザウルやアラと共に戦いやすい場所を割り出して戦闘場所を指定した。
 それが現在いる神殿からはやや離れた海底。
 岩などの隆起が少なく、比較的足を取る砂も少ない場所だ。
 有希遥は3度目となるヘイムダルの操縦桿を握り締めると、静かに過ぎる時へ耳を傾けた。
 そしてその時は来た。

――……、ケテ……!

 微かに聞こえた音。それが声になるのにそう時間は掛からなかった。
 つけっぱなしにしておいた魔導短電話。そこから響く雑音に彼の目が細められる。そして雑音の正体を突き止めるよりも先に、確かな声が彼らの耳を打った。

――ウァァアアアッ!! 助ケテクレーッ!!!

 猛スピードで泳ぐ魚人の後ろから、同じく猛スピードで追い上げてくる巨体がある。
 8本の足を動かして堂々と迫りくるのは彼らの目標、巨大イカ型歪虚だ。
 イカはザウルめがけて触腕を動かすと、素早い動きで絡めとろうとした。それを寸前のところで交わす動きに関心を覚えるが、それよりなのより彼を助けるのが先だ。
 アーサーは借り受けた機体に意識を寄せると「よし」と息を吐いて前に出た。
『退路を断つ! 有希遥、来い!』
 声と同時に動き出した機体。それはアーサーや有希遥だけではなく、他の機体も己が役目を果たそうと動き出している。
(みんな、無事で戻ってきて……)
 胸の前で手を組み、皆の動きを見つめる詩は、傍にあるザレムの機体を見上げて詠唱を開始した。とは言ってもここは海底。言葉を音にするのではなく、心の中で唱えながら心を込めて紡いでゆく。
 ちなみに彼女自身にはディヴァインウィルがかけられており、自らを不可視の状態に変えている。
 よって現在は安全な状態だがいつ彼女の身が危険に晒されるかわからない。
 ザレムは木槍「アテナ」に施される聖なる光を見てから彼女の前に立つと、砂を舞わせないよう気を付けながらゆっくりと移動を開始した。
 彼らが担うのはA班。腕や漏斗、目を主に狙い、4人いる班員を更にペアにして分けて行動している。
 アーサーと有希遥はB班の動きを視界に納めながら歪虚の視覚距離に入ると、これまで消灯させていたライトを点灯させた。
 ギョロリと大きな目が彼らの光を捉える。
『無事みたいだな……詩、彼を安全な場所へ』
 有希遥とアーサーが敵の気を惹きつけるその間に、ザレムが魚人の保護に向かう。
 水抵抗を極力を発生させないよう手で後ろを促してビニールに包んだ無線機を彼に放つ。そうして詩に後の事を任せると彼もまた歪虚へ視線を向けた。
 時を同じく、B班で行動中のミグも歪虚の側面を確保しにかかっていた。
『ふむ。想像以上にデカイのう』
 満足げに手に入れたばかりの試作型スラスターライフルを構える。
 話や挿絵で見かけた程度の生き物。想像では目の前にいる姿の半分――いや、もう少しだけ小さな姿を想像していたが納得の大きさだ。
 これでは幾らかの人外的戦力が必要になるのも道理。彼女は同班で共にペアを組んでいる彩萌を見やると、足をしっかり地表に付いて照準を合わす。
 話に聞く限り海中での射撃はほぼ意味がないという。だがゼロ距離ならば如何だろう。
「チャンスは逃さぬよ」
 静かに機会を見据えるミグの隣で彩萌も戦闘準備完了のようだ。
「……宇宙ともまた違った感覚ですね。知識と経験、どちらも揃わなければいい動きはできない、ですか」
 パイルバンカーを構えて有事に構える。
 移動の間に確認したが、宇宙での動きに比べたら若干の記憶修正が必要なようだ。
 意識は通常よりもやや早く。だが早すぎても敵の攻撃を止めることは愚か避けることも難しい。
「さて、定位置に到着だ。準備はどうだ?」
『大丈夫です』
 問題ありません。そう機体の首を縦に動かして表現する沙織に感心の意味を込めて口笛を零す。
 統夜や沙織はヘイムダル改2で海中の戦闘を経験済みだ。
 今回は自分の機体とはいえ、海中戦闘が初めてのメンバーよりは自由に動き回ることが出来るだろう。
『各機、定位置に入りました。これより一斉に行動を開始します……イカさんには悪いですけど、ここで仕留めさせていただきますね。いきましょう!!』
 統夜は対面にも近い場所で歪虚を挑発するようにライトを点滅させるアーサー機を視界に機体の重心を下に下げさせ、一気に地面を蹴った。
『いくぞ、黒騎士。久しぶりの出番だ。まずはちかづかねえとな』
 沙織の声を合図に飛び出した各機。
 その姿を離れた位置で確認していたザウルが目を見開いて詩を振り返る。
(大丈夫。みんな、必ず勝ってくれるから……!)
 口で言葉を紡ぎ、心で願いを込める。
 四方からイカ型歪虚を囲み、敵の「死角なし」という特徴を奪うのが作戦だ。この他に、四散している状況を作ることで敵にどこを攻撃したらいいか混乱させる、という狙いもある。
 今のところ、四方を囲むことで逃走や高速移動を防ぐ効果は出ているようだ。
 敵は繰り返されるライトの明かりに巨大な黒目を大きくさせたり小さくさせたりしている。
 ここにザレムの機体の明かりが加わると、敵の目がグルリと嫌な感じに動いた。
「気持ち悪ぃ動きしてんじゃねぇ!」
 アーサーは奇妙な動きをしたその瞬間を狙って踏み込んだ。狙うのはもちろん目だ。
「邪魔はさせんよ!」
 接近するアーサーを牽制して降ってきた腕。それを有希遥のペリトロペーが断ち切りに掛かる。
『うおおおおおおお!!!!』
 全力を込めて受け止めた腕に刃が食い込む。
 軋む音を立てながら彼の機体が押し返されそうになるが、地形が味方した。
 砂に滑った足が岩で固定されて踏ん張りがきいたのだ。再度勢いを借りて断つと、次の腕へ目を飛ばした。
「!」
(――ジャッジメント!!)
 海中を駆け抜けた光の杭。
 海中を駆け抜け、有希遥が目にした瞬間に動きを止めたそれにザレムが援護する。
 詩に強化してもらった光の刃を突き入れ、動きの鈍った敵の腕を突き破る。そうして新たな目標を捉えようとしたところで通信が入った。
『イカの目が潰れおったわ』
 遠目に確認していた味方の動き。ミグは喜々と声を上げると重心を大地に寄せる。
 視界が潰れればこちらのものだ。
 あとは逃走さえ遮って攻め続ければ勝てないはずがない。
 彼女は敵の腕を振り払っていた彩萌を振り返るとこう言った。
「付いてくれるかのう?」
『接近戦、ですか……わかりました。機体の性質を理解することが強さに繋がる、と信じましょう』
 愛機のマーク1に意識を寄せ、動き出したミグの愛機ハリケーン・バウを見る。水の抵抗を受けているためか地上よりは動きが遅いそれを、出来る限り自由に動かす彼女に食らいつく。
「これだけのデカ物ともなれば外すことなどあるまいて」
 案の定、敵は目が潰れたことで此方を把握できないのだろう。
 縦横無尽に、無作為に、腕を振るい威嚇を込めた攻撃を繰り返す敵に彼女の唇がニンマリと笑う。
 そうして構えたスラスターライフルの先を敵の胴に添えると一気に放った。
 水泡と圧が機体を大きく揺らす。
 これに食らいつく形で足を踏ん張るが、斜め前方から腕が飛んでくるのが見え体制が崩れた。
「――ぬっ!?」
『アクティブスラスター起動、エクステンド発射!』
 機動性を上げたマーク1が放った錨が敵の胴に突き刺さる。これによってミグと腕の間に割り込んだ機体は両刃の直剣を構えると防御に徹した。
「っ、ぐ……威力も削いでいない攻撃は、少し危険でしたか……ッ」
 ミシミシと軋む機体の音に眉が寄る。それでも何とか腕を振り払うと、改めてこちらに向かってくる攻撃に向き直る。
「効率的な戦い方が出来る武装ではありませんが……一撃の威力は侮れませんよ!」
『守られた恩は返さねばならぬ』
 再び起動したアクティブスラスター。そんな彼女の横に立ったハリケーン・バウに心強さから口角が上がる。
 タイミングはバッチリだ。
 勢いよく切り出した2つの攻撃。それが敵の腕を叩くのとほぼ同時期、エンペラーを切り落とした統夜は次なる攻撃を受けて後退していた。
「やると思ってたらほんとにやりやがった。お決まり過ぎるだろうが!」
 視界を断たれ、次々と腕を落とされ、今度は逃走手段の一つでもあるエンペラーを落とされた。
 これに相手も危機感を覚えたのだろう。墨を吐いて最後の抵抗を試みる姿に怒声が響く。
「統夜さん、落ち着いてください。きっと大丈夫ですから。ね、エーデルワイス。いけますよね?」
 言いながらエーデルワイスの手の圧で墨を払って前に出る。
 攻撃は全て統夜に任せ、自身は防御に専念すると決めている。その彼が攻撃できない今、前に出るのは自分だ。
「ここで決めます。いきますよ!」
 アクティブスラスターを起動させて大地を蹴る。
 水の抵抗を前面から浴びて前に出る彼女の視界が僅かにだが開けた。
「!」
 違う。開けたのは敵の腕が飛んできたからだ。
 しかし、
「エーデルワイス、そのまま突っ切って!」
 回避を無視して直進。
 機体の側面を抉る感覚に沙織の表情が険しくなる。それでも突っ切る機体は当初の予定よりも僅かにずれる形で相手の胴に突撃した。
 凄まじい衝撃に一瞬だが意識が飛ぶ。
 それでも自らを保って敵の姿を押し留めにかかる。
『統夜さん、今です! こちらは気にせずにいってください!!』
 沙織の捨て身の行動だ。ここで攻撃に出ないなどあろうはずがない。
「いくぜ黒騎士! おおおおお!!」
 自身の機体にアクティブスラスターを使って全速力で前に出る。
 これに他の機体も乗った。
「お前の相手は俺だ。殺されるのは怖いだろうが、それも時期に終わる」
 黙ってやられろ。そう囁き、動き回る腕に手を伸ばすのはザレムだ。
 彼はホーリーセイバーをかけ直して貰った槍を構えると、迫りくる腕に突き刺した。
 無言で跳ね上がる腕。それを追い掛けるように飛び上がった機体が、行き先をけん制するように射撃を打ち込む。
 大したダメージはないが怯んだ敵への妨げにはなったようだ。
 緩やかに弧を描き、まるで逃げ惑うウミヘビのように這うそれをザレムは哀れに見下ろす。
「……くたばれっ!!」
 ザンッ、と勢い良く叩き落された腕。それを見降ろすと、水を伝って大きな衝撃音が耳を突いた。
 次々と響く衝撃音の正体は統夜だ。
 彼は沙織の機体を後方に飛ばすと同時にパイルバンカーを敵の胴に密着。ミグ同様にゼロ距離からそれを打ち込むと、開けた穴めがけてガトリングの銃身を差し込んだのだ。
「水中じゃ水圧が邪魔をするが、こんなのはどうだ? 遠慮するな、全弾もっていけぇ!!」
 次々と撃ち込まれる弾に歪虚の口から奇声が上がる。
 身を捩り、残る墨を吐き出して退避を図るが逃がすわけにはいかない。
『そのまま抑えておれ』
 声と同時に吹き込んできた水圧。これに圧倒されるように目を細めるが、次の瞬間、彼の目が見開かれた。
「一刀両断、だと……っ!?」
『ほほう。まさか本当にいけるとは思わなんだ!』
 あれだけ硬かったイカの胴を横なぎに払ったミグの機体。巨大な刃が凄まじい勢いで切り取ったのは敵の胴半分だ。
 彼女はハリケーン・バウの刃を下ろさせると、実に満足そうに笑んで海中を浮遊する真っ二つのイカを見上げたのだった。
 
●一難去って――
「詩! 大丈夫なのよ?!」
 海涙石の効果が切れ、一足先に地上へ戻ってきた詩は、限界まで息を止めていた影響で青ざめた顔をしていた。
「誰か水をよこすのよ! ほら、詩」
「……ブリ、ちゃん……イカ……倒した、よ……」
「し、知っているのよさ!」
 頷きながら水を差し出す彼女に微かに笑う。そうして大きく息を吸って呼吸を整えると、地上に戻る前の出来事を思い出して安堵した。
「……これで、質問、できるかな……どうして女性は人魚で、男性は半魚人なんだろう、って……」
 クスリ。そう笑った彼女にブリジッタが答えようとした時だ。
「ブリジッタ、緊急事態よ! 急いで!!」
 ヤンの悲鳴に似た叫びにブリジッタと詩の目が振り返る。そして聞こえてきた声に、驚愕の表情を浮かべて走り出した。

「おいおいおいおい、なんだよコリャぁ!」
 冷や汗なんてものではない。悪寒が全身を駆け上がり、アーマーを操縦する手ですら震えている。
 アーサーは自分の足を下げることで機体を下げようとして苦笑する。
 そんな無意味な行動に出るほど彼は――いや、この場の皆が動揺していた。
『アーサー、何があったのよさ! 他の誰でもいいのよ! 状況を説明するのよ!』
「神殿の様子を確認しようとしたんだ。そしたら……」
「とんでもないものがいる」
 ザレムの言葉を補足するように有希遥が呟く。

――とんでもないものがいる。

『なんで……イカ型歪虚は倒したのよさ! なのに何が――』
「巨大な影じゃ。恐ろしく大きく、恐ろしく醜い影がおる」
 ミグは全員の中で唯一冷静に状況を見ていた。
 現れた影に反応して神殿には近づいてはいけないという判断をしたのも彼女だ。
 しかしどういうことだ。
 ザウルやアラの話ではイカ型歪虚の話しか出ていない。
『……とにかく、戻ってくるのよさ。特にエーデルワイスは急ぐのよ……水漏れが怖いのよさ』
 そうブリジッタが伝えた時、再び神殿の方から黒く大きな影が姿を現した。
 イカのような魚のような、何とも言えない不思議な影。
 地上の生き物で例えるなら『キメラ』だろうか。とにかく普通の生き物ではない巨大なものがそこに居る。
 アーサーはできる限りピントを絞って魔導カメラでの撮影に挑戦する。
 しかし震えた手でどれだけ頑張っても撮影できたのは、黒い影が巨大であるという事だけだ。
 それでもブリジッタは何もないよりは全然いい。と言って彼からの情報を受け取った。
「ブリちゃん、どうするの……?」
「……アラとザウルに話を聞くのよ。こんなの放っておけないのよさ……」
 彼女はそう答えると、魔導アーマーと向き合う時ぐらいに真剣な表情で海を見つめた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥ka4729
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜ka5046

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハリケーンバウユーエスエフシー
    ハリケーン・バウ・USFC(ka0665unit002
    ユニット|CAM
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(ka0878unit002
    ユニット|CAM
  • エメラルドの祈り
    雨月彩萌(ka3925
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アイリス・マークワン
    アイリス・マーク1(ka3925unit001
    ユニット|CAM
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シュバルツ
    黒騎士(ka5046unit001
    ユニット|CAM
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    エーデルワイス
    エーデルワイス(ka5977unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/03 01:24:35
アイコン 神殿奪還作戦会議!
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/09/04 19:00:03
アイコン ブリジッタへの質問所
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/09/03 10:48:15