【禁断】腐海と虫と謎の手紙

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/09 22:00
完成日
2016/09/17 08:02

みんなの思い出

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オープニング

●初めての手紙
 日の光の一切入り込まない真っ暗な部屋で、小さな蝋燭に火が灯された。
 光に照らされた部屋の中は、置いてある家具はベッドと小さなテーブルと椅子が一組だけと何とも簡素なものだった。
 その部屋の主らしき少女は、少し大きめな椅子を引いてテーブルに向かって腰掛けた。そのテーブルの上には、筆ペンとインク壺、そして数枚の白紙が並んでいる。
「――ニィ」
 少女が筆ペンへ手を伸ばそうとしたところで、その足元で白い猫が小さく鳴いた。少女は筆ペンを取るのを止めて、椅子に座ったまま少し屈んで白猫を抱き上げる。そして白猫をテーブルの上に下ろすと、白猫は白紙の束の横で丸まった。
 少女はそんな白猫を一瞥すると、今度こそ筆ペンを手に取って白紙に向かってそっと優しく文字を綴っていく。
 その手紙の始まりはこう書かれていた――
『ごめんなさい――』
 謝罪の言葉から始まるその手紙を、少女は書き上げるまで筆を一切止めずに書き上げていった。

●疑惑は確信へと
 冒険都市「リゼリオ」にて頻発しているマテリアル喪失による意識不明者続出の事件。その対策本部にてとある会議が行われていた。
「よもや、彼がこの事件に関与していることは疑いようがないでしょう」
 会議の出席者の1人がそう声を上げた。その手にはとある報告書が握られている。
 それは2ヵ月ほど前の依頼にて、毒煙の充満する島からハンター達が回収してきた文献や実験記録を精査した結果、まとめられたものだ。
 その中でマテリアル学者であるスカイ・ナチュレが行っていた研究していた1つの技術が、今回の事件と大いに関係ある。いや、事件の根幹であることが分かった。
 『マテリアル抽入出技術』と仮称されたその技術は、生物・非生物問わずそこに宿るマテリアルを抽出し、それを別の存在に抽入する技術である。
 マテリアルとはとても複雑なエネルギーで人で言えばDNAや血液型のようなものを持っており、植物から動物への受け渡しは勿論、同じ人同士の間でも純粋なマテリアルの移動は困難とされている。
 しかし、もしこの技術が確立できれば、例えばマテリアルの潤沢な地から枯れ果てた地へとマテリアルを移動して死んだ大地を蘇らせることも可能になる。
 そういった考えから、学者スカイはこの技術の研究を行っていたようだ。
 だがこの技術は悪用されれば非常に危険であり、またある意味で歪虚のやっていることと同じ行為であるとも捉えられる為、禁術の1つと考えられその研究は打ち切られることとなった。
 しかし、学者スカイは打ち切られた研究を1人で続けていたようだ。
「彼は元は魔術師協会の人間だろう。このことは把握していなかったのか?」
「当時は将来を有望視され散々注目されていた人物だからな。協会としてもこんな研究をしている者がいると吹聴したがるはずがあるまい」
「臭い物には蓋を……どこも同じか」
 だれかが呟いたその台詞に、会議の場に一瞬の静寂が訪れる。
「ともかく、だ。今はこの問題を解決することのみを考えよう。今、その学者スカイはどこにいる?」
 会議参加者の1人が眉間を指先でほぐしながら話を進めようと、情報分析官の1人に質問を投げる。
「はい。各国で調査を進めた結果、どうやら辺境のとある森に逃げ込んだことが分かりました」
 そう言って分析官は大型のホログラムウィンドウに辺境の地図を表示させる。その辺境の東部にあたる一点に赤い印が灯る。
「なんと、インスカラの腐海に逃げ込んだのか」
 そこで驚きの声を上げたのは、辺境の部族会議から参加していた長老の1人だった。
「なんですか? その、腐海というのは」
 聞き慣れない言葉にリゼリオ出身の人間が疑問符を投げかける。それには分析官が答えた。
「インスカラの腐海は、鬱蒼と木々の生い茂る森であるのに合わせ大量の菌類が繁殖しキノコやカビなどに覆われています。森の中はその菌類の放出する毒素で汚染されており、通常の生物は生息していません」
「通常の生物、というと。特殊な生物がいるということか。何だ?」
「虫です。それも巨大な」
 分析官がそう言うと、ウィンドウの画像が切り替わる。画面を四分割して表示されたのは、カブトムシとクワガタムシを足して割ったような甲虫、トンボのような羽の生えた蜘蛛、全ての足が刃物のように鋭い蟻の群れ、そして全身棘だらけのムカデだった。
 それぞれ全長1mを超える巨大さで、ムカデは10mに届くだろうと分析官は続ける。
「何だこの生物は……歪虚では、ないのか?」
「いいえ、違います。列記としたこの世界の生物です」
 リアルブルー出身の人間には理解できない生態系だ。幸いにも、この虫達はこの森を覆う毒素の中でないと生きられないので森の外には出てこないそうだ。
「しかし、スカイはこんな危険な森に一体何故? 森の奥に何かあるというのか?」
「それは不明です。この森が調査された記録はなく、もしあったとしても北狄の南下の際に失われたのでしょう」
 報告は以上、ということか。分析官はそう言い終わると一歩後ろへと下がった。
「……スカイが何を企んでこの事件を引き起こしたのかはまだ不明だ。だが、善からぬことを考えているのは間違いないだろう」
「では、今すぐハンター達を派遣し、森に入ったスカイの痕跡を探してその目的と隠れ家を見つけだしましょう」
 次の方針は決まった。そして舞台は会議室から現場へと移ることとなる。

●間に合わなかった配達
「ハンターオフィスへようこそ!」
 リゼリオのハンターオフィスの受付で、職員の1人が笑顔でカウンター前にやってきた男性に笑顔で挨拶をする。
「どういったご用件ですか?」
「ああ、実は手紙を届けにね。全員ハンター宛てなんだけど、相手の住所が分からないもんで」
「なるほど。宛先になっているハンターさんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「ああ」
 男は手紙の宛先者をメモした紙をオフィス職員に手渡す。職員は手慣れた様子でコンソールを叩くと、それぞれのハンターの情報が手元のウィンドウに表示された。
「えーっと、あら。この人達はお仕事に出発したばかりですね」
「おや、そうなのかい?」
「ええ、本当につい今さっきです」
「あちゃー、急ぎの手紙だったんだけど」
 苦笑いをしながら頬を掻く男性に、オフィス職員もつられるようにして苦笑を浮かべる。
「うーん、追いかけて渡すってわけにもいかないし。ハンター達が戻ってきたら渡してくれないかな?」
「ええ、それじゃあ彼方のお名前を」
「ああいや、違うんだ。差出人は私じゃない。私は配達を頼まれただけでね」
 手を横にひらひらと振った男に、それではその依頼者の名前を教えてくれるように職員は頼んだ。
「ああ、シャルって言ってたかな。褐色の肌をした、赤い髪の少女だったよ」

リプレイ本文

●読まれていない手紙/腐海
『ごめんなさい――悪い事をした時は謝らないといけない。そう教えられていたらしい』
 謝罪の言葉から始まった手紙。文字を書き慣れていないのかやけに角ばった文字に、どこか違和感を感じる文章が綴られている。
『何を書けばいいのか分からない。だから、全部書く』
 そして手紙の2行目にはそんな言葉が続き、シャルの告白が始まった。
『私は数年前に死んでいる』

 インスカラの腐海に入ったハンター達は、毒素を無効化する為にすぐさま覚醒し探索を開始した。
「これが腐海ですか……なんていうか、見るからにって感じー?」
 葛音 水月(ka1895)は周囲にそびえる大樹や、地面が菌類に覆われたその腐海を見て目を輝かせていた。
「凄いわね。あんな大きなキノコ、初めて見たわ」
 リアリュール(ka2003)の視線の先には、自分の背よりも高いキノコが生えている。森に生きるエルフと言えどもこの腐海の生態系の姿に驚きを隠せないようだ。
「そうですか……以前はそんなことがあったんですね」
「うん。シャル、大丈夫かな……」
 一方、鳳城 錬介(ka6053)は前回の孤島での事件についてを、ネムリア・ガウラ(ka4615)に教えて貰っていた。
「お母さんの為、ですか。それを理由に誰かに迷惑をかけてよい訳ではありませんが……」
 錬介は暫し考え、1つ頷く。
「そうまでしても助けたい家族がいる……それは、とても良いですね」
「てか、そうなるとシャルとスカイってどーゆー関係なんだ? 親子にしては似てなかったけどよ」
 その話にふと疑問に思った凰牙(ka5701)が疑問を口にする。
「塔の中で見つけた写真の女の子――ミラとシャルは同じ子なのかな?」
「でも写真の奴は青髪だし、肌も褐色じゃなかったぜ」
 ネムリアの言葉を、凰牙は自分がこれまで何度かあったシャルと写真のミラという少女は似ても似つかないと否定する。
「それじゃあ、シャルの言うお母さんと、スカイの奥さんは別の人なのかな……」
「それだと何故シャルさんとスカイ博士が一緒にいるのかは謎のままですね」
 考えてみるが、どうも今ある情報だけでは答えがでそうにない。
「止まってください」
 それに、考え事ばかりをしていられる状況でもなくなってきたようだ。ナタナエル(ka3884)の言葉でハンター達はすぐに近くの物影に隠れる。
 ケイ(ka4032)は物陰からそっと視線を進行方向に向けると、1匹の蟻が巨大キノコの上に登って周囲を見渡していた。
「あれがアンティスね。情報通りにとんでもない大きさね」
 立ち上がればその鋭い顎がケイの首元にまでは届くだろうか。虫としてはとんでもなく破格の、歪虚でないのが不思議なくらいの巨大さだ。
「1匹だけのようですね。どうしますか?」
 始末するか、迂回するか。ナタナエルは仲間達に視線を送る。
「避けた方が無難だな。戦闘音を聞きつけて集まってこないとも限らない」
 そう提案したのはデルフィーノ(ka1548)だ。そもそもこの腐海での目的は、あくまでスカイの行方を調査することだ。無駄な戦闘は避けたほうがいいだろうという判断だった。
 他のハンター達もその案に賛同し、アンティスに見つからぬように大樹やキノコの影に隠れながら森の奥へと進んでいった。

●まだ知らない事実/原生生物
『私は死んでしまったらしい。お母さんと一緒に実験の事故に巻き込まれて』
 伝え聞いたような言い回しで、シャルの手紙にはそう書かれている。
『でも、やっぱり生きていたみたい。だから私は目が覚めて、でもお母さんはまで眠ったまま』
 詳細は書かれていないので推測するしかない。事故に巻き込まれたが一命を取り止めた、ということなのだろうか。だが、それなら最初に死んでしまったと言う必要はない気もする。
『お母さんを助けるには沢山のマテリアルが必要。だから集めていた。色んな物を盗んでいたのは私。幻獣や人を襲って奪っていたのも私』
 シャルの罪がつらつらと語られていく。そこに慚愧の念などは感じられず、ただただ自分のしたことを箇条書きにして並べてあった。
『でも、もうしない。もう必要ないから。マテリアルは集まったから、もう大丈夫。お父さんがお母さんを起こしてくれる』
 お父さんとはスカイのことなのだろうか。ではお母さんはスカイの妻で、やはりシャルは2人の娘ミラなのだろうか。
『今度は失敗しない。私みたいに』
 真相は、まだ遠い。

 森に入ってそろそろ半時が経とうかという時、ハンター達は思わぬ襲撃を受けていた。
「これも修行の1つだぜ!」
 地面を踏みしめた凰牙の拳が、黒々とした光沢をもつ甲殻を殴りつける。だがまるで大岩でも殴ったかのように、凰牙の拳は弾き返されてしまう。
「しゃらくせぇ!」
 だが凰牙はそれでも負けじともう片方の拳を握り、目の前の甲殻に向かって拳を叩きつける。
「さあさあ、走って走って。追いつかれるわよ!」
「退きやがれこのトンボか蜘蛛かよくわからん奴め!」
 ケイの飛輪とデルフィーノのデルタレイが周囲に飛び交うドライダーを叩き落していく。
 数分前、ハンター達はこれまで追ってきた馬車の車輪の跡が忽然と消えてしまい、他の痕跡がないか周囲を探索していた。
 その時である。運が悪くドライダーに遭遇してしまい、戦闘が始まってしまった。するとその音を聞きつけたのか、あちこちから腹を空かせたドライダーが集まってきて、十数匹まで数えたところでハンター達は逃げることを選択した。
 が、そこでさらに運の悪い事に逃げた先でスタットルの巣になっている木に近づいてしまい、またまた襲撃を受けてしまう羽目になったのだ。
「あっ、この仄かな甘い香り。スタットルが樹液の出てる木を巣にしているって情報は本当だったみたいね」
「そいつはありがたい情報だな。ちと今は役に立ちそうにないがな」
 ケイが腐海の傍にある村で聞いた眉唾情報だったのだが、巨大で異形になっていようと虫は虫だったようだ。そんな情報を聞き流しながら、デルフィーノは目の前に落ちてきた羽根を失ったドライダーを飛び越え、腐海の中を一直線にひた走る。
「うーん、どこまでも追ってきそうですねー」
 目の前に回り込んできた数匹のドライダーを駆け抜けざまに切り捨てた水月は、ちらりと後ろに視線をやる。すると宙を舞うドライダーと一緒に、スタットルも周囲のキノコを弾き飛ばしながら追ってきていた。
「こうなれば、全滅させるか……?」
 ナタナエルは何時でもいけると言わんばかりに白い手袋の手首部分を軽く引く。
「あっ、えっと、それならその前に1つ試したいことがあるんだけど……」
 そう言ってネムリアが荷物から取り出したのは小さな瓶だ。中には琥珀色の透明な液体が入っている。
「それは……?」
「えっと、蜂蜜だよ」
 錬介の問いに、ネムリアは少し自信なさげに答えた。虫ならば甘い蜂蜜に気を取られるんじゃないかという考えだ。
 とは言え、今追ってきている虫達に効果があるかは正直分からない。
「うーん、でも物は試しですし。やってみましょうか」
「それで虫達の気を逸らせれば御の字。駄目ならその時はその時だ」
 水月とナタナエルはゴーサインを出す。
「では、俺が隙を作るのでその間に――行きますよ!」
 錬介は声を上げると共に振り返り、手にした聖機剣にマテリアルを流し込む。すると刀身から光が溢れ、虫達の目をくらませると同時にその動きを鈍らせる。
「それっ」
 その隙にネムリアが蜂蜜の入った小瓶を近くにあった大樹に向けて投げつけた。ガラスが割れる音と共に中身が飛び散り、どこか甘い匂いが毒素の舞う腐海の中に漂い始める。
 そして、その効果はすぐに現れた。スタットルはその香りに誘われて突進の向きを蜂蜜がかかった大樹へと変更する。
 ただ、ドライダーは蜂蜜には興味がないのか相変わらずハンター達を追ってきていた。
「よし、あのデカブツさえいなくなら十分だ。よくやった、ネムリア」
「うん、効果あって良かった」
 ハンター達は追撃してくるドライダーを迎撃しつつ、何とか窮地を脱したのだった。

●届かなかった言葉/謎の少女
「何だ、こりゃ?」
 ハンター達が森の奥で見つけたのは、目を疑うような光景だった。
 最初に遠くから見えた時は丘か何かだと思っていたが、近づいて確認してみればそれは確かに人の手が加えられた建造物だと分かった。
「石で出来たドーム? 遺跡なのかしら」
 ケイが見上げたその遺跡は、曲線状の壁一面を菌類で覆われているがところどころに紋様のようなものが彫り込まれており、その劣化具合からもかなり古いもののように見えた。
「人の立ち入れない毒素が舞う腐海の奥に建つ遺跡……怪しすぎるな」
「隠れ家にはもってこいな感じですよねー」
 デルフィーノと水月は周囲を見渡すが、どうやら近くに虫の姿はない。
 その時、ドームの壁面の一角が音を立て始めた。ハンター達が警戒していると、鈍い音と共にドームの壁面がせり上がり始めた。
 そして、そこから小さな人影が姿を現した。
「シャルか?」
「……ん」
 デルフィーノの問いかけに、ドームの外へと出てきた茜髪の少女シャルは頷いて見せた。
 ただ今日のシャルは変だった。何時もの気を張った覇気はなく、その表情はどこか悲し気と言うべき色が見えた。
「……シャル? 大丈夫?」
「…………」
 それを感じとったネムリアは心配になりシャルに声を掛けるが、シャルは反応を示さない。
「それよりシャル、スカイはここにいるのか?」
「……いる」
 シャルは僅かに迷ったが、凰牙の問いに頷いて返した。
「スカイは、やはり君の父親なのか?」
「……そう。けど、違う」
 続くナタナエルの問いには一度肯定し、その後否定した。
「それはどういう意味だ?」
「……お父さんに、何の用?」
 そして今度は答えず、逆にシャルからそんな質問をしてきた。
「少し話があるだけよ。大事なね。会わせてくれないかしら?」
 ケイはさらりとそう言ってのける。嘘は言っていないが、肝心な事は言っていない。
「駄目、今は誰にも会えない」
 それにシャルは首を横に振った。心なしか、ここから先には誰も通さないとばかりに警戒を顕わにする。
「それはマテリアルを注ぐ実験をしているからですか? シャルさんのお母さんに」
「……まだ、時間が掛かる」
 錬介の言葉をシャルは否定しなかった。先に知ったマテリアル抽入出技術を使い、何かをしているのは確かなようだ。
「なあ、シャル」
 そこでデルフィーノがシャルに向かって歩み寄っていく、ただ自然体で近所の子供に接するような態度でだ。シャルもそれに対して身構えたりすることもせず、デルフィーノはそのままシャルの目の前に立つ。
「あんまり1人で抱え込むな。俺様達にも一枚噛ませてみな。悪いようにはしないからよ。なっ?」
 そう言いながらデルフィーノはぽんとシャルの頭の上に手を置き、その髪をくしゃりと撫でた。
 それに対してシャルの身体は微動だにしない。だが、その金色の瞳が大きく揺れ動いたのがデルフィーノには見えていた。
「……帰って」
「シャル……」
 シャルの拒絶ととれる言葉に、デルフィーノがまた言葉を紡ごうとする。だが、その前にシャルはデルフィーノの身体を思いっきり突き飛ばした。
「デルフィーノさん、下がって!」
 それとほぼ同時に水月が声を上げる。瞬間、シャルとデルフィーノとの間に壁が走り抜けた。少なくともデルフィーノの目にはそう見えた。
「……そろそろ帰らないと、ここは危ない」
「だから、お前はその手の言うのがいつも遅くないかっ」
 シャルの警告に臨戦態勢に入った凰牙がつっこむ。そしてその視線が捉えているのはシャルではなく――
「こいつがセンティドルか!」
 デルフィーノが壁と見間違えたのは、大ムカデの身体の一部であった。先ほどシャルがデルフィーノを突き飛ばしたのはこのデカブツの突進から守る為だったのだ。
「何を食べたらこんなに大きくなるのかしら」
「そりゃあ、他の巨大昆虫達をでしょうねー」
 ケイの言葉に水月は身も蓋もない答えを返す。そんな冗談を交えながらもそれぞれの武器を振るうが、センティドルの体に傷は与えるものの、その巨体さ故にかすり傷程度にしかなっていない。
「シャル、これだけは教えろ。『マテリアル喪失による意識不明者』。彼らを救う方法はあるのか?」
「……ある」
 センティドルが暴れまわる中で、これだけは聞かなくてはならないとナタナエルはシャルからその答えを聞きだした。
「それなら、それを――ちっ!」
 その方法を追求しようとしたところで、センティドルはナタナエルに標的を変えて襲い掛かってきたために応戦を余儀なくされる。
「……退きましょう」
「えっ、ここまできてか?」
 錬介の言葉に凰牙が思わず声を上げる。折角面白くなってきたと思ったところなのでなおさらだ。
「依頼の目的は果たしましたし、何より帰りの時間的にそろそろ不味いですからね」
「あっ、そう言えば……」
 この森に入って既に一時間弱。帰り道をまっすぐ走り抜けたとしても、ハンター達の中には覚醒時間がギリギリなメンバーが数人いる。
 ハンター達が撤退を決意した時、シャルが名前を呼んだ。
「……ネムリア」
「えっ? わわっ!」
 名前を呼ばれたネムリアに向けて、シャルが何かを放り投げた。ネムリアはそれを慌てながらも掴むと、それは小さな白い結晶を紐で結んだペンダントだった。
「……シャル、これは?」
「……バイバイ」
 シャルは不器用に手を振り、身をひるがえしてドームの中へと姿を消す。
「ネムリアさん、急いで! これだけ五月蠅くしていれば他の虫まで集まってきます」
「あっ、うん。分かった!」
 こうしてハンター達は大急ぎで撤退し、無事に腐海から脱出した。
 そして――

『お母さんが目を覚ましたら、お父さんと一緒に謝りに行く。そう約束した。だから、もう少しだけ時間が欲しい』
 それは不器用な少女からの、ハンター達に向けた精一杯の言葉。
『お父さんに、お母さんを助けさせてあげて。お願い』
 その言葉は、まだ届いていない。

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MVP一覧

  • 誘惑者
    デルフィーノka1548
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイka4032
  • 希望の火を灯す者
    ネムリア・ガウラka4615

重体一覧

参加者一覧

  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 希望の火を灯す者
    ネムリア・ガウラ(ka4615
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 全身全霊の熱血漢
    凰牙(ka5701
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/08 01:58:58
アイコン インスカラの腐海へ
鳳城 錬介(ka6053
鬼|19才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/09/09 21:39:22