終夏の戦い ~騎士アーリア~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/09/06 12:00
完成日
2016/09/13 22:56

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国の南部に伯爵地【ニュー・ウォルター】は存在する。
 領主が住まう城塞都市の名は『マール』。マールから海岸まで自然の川を整備した十kmに渡る運河が流れていた。そのおかげで内陸部にも関わらず海上の帆船で直接乗りつけることができる。
 もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』まで。それ以降の水上航路は手こぎのゴンドラを利用しなければならない。
 升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やかだ。各地からやってきた行商もゴンドラに乗って売り買いの声を張り上げている。
 橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少なかった。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
 この地を治めるのはアリーア・エルブン伯爵。ニュー・ウォルターを守護するオリナニア騎士団長を兼任する十七歳になったばかりの銀髪の青年だ。
 前領主ダリーア・エルブン伯爵が次男である彼に家督を譲ったのは十四歳のとき。それからわずかな期間で亡くなっている。闘病の日々で死期を予感していたのだろうと当時は市井の者の間でも囁かれていた。
 長男ドネア・エルブンも事故で亡くなっていたが、妹のミリア・エルブンは健在。幼い頃から秀才ぶりを発揮し、弱冠十五歳ながらも内政を担う。アーリアにとっては心強い片腕であった。
 マール内で発生した偽金事件は想像し得ない様相を見せる。
 偽の聖堂教会に残されていた暗号は『アスタロト』『闇の支配』『ドネア』と読み解けた。ドネアとはアーリアとミリアの死んだはずの長兄であった。
 世間には事故と発表されたドネアの死因だが、現実には謀反に失敗して命を落としている。
 ドネアが本当に死んだのか、真相を暴くべくハンター達が動く。謀反に加担した行方不明のバーンズを探しだす過程においてそれは白日の下に晒された。ドネアだけでなく、謀反に関与していた元ドネア親衛隊の女性ロランナ・ベヒも歪虚になっていた。
 ドネアは歪虚軍長アスタロト。そしてロランナはネビロスを名乗った。
 後日、マールにおいて武器防具を積んだゴンドラの沈没事件が頻繁に発生する。ハンター達が水中に潜んでいた雑魔を退治。これによって歪虚崇拝者達の手に武器防具が渡る手段を潰すことができた。
 別の機会には町村巡回中のアーリア一行が罠にはめられてしまう。窮地に陥ったものの、火の手に囲まれた状態からの脱出に成功。この件においてもハンター達の貢献は大きかった。
 ネビロスが企んだ穀倉地帯における蝗雑魔をも排除したハンター達だが、心中には疑問が残る。彼女が残した一言『堰の小さなひび割れ』が気になったからであった。
 ネビロスの奥の手はマールの水没。これまでの作戦は搦め手の表の顔だった。運河の底にある湧水個所を破壊することで、それが達成される寸前にまで至っていたのである。
 ハンター達が看破した直後に焦ったネビロスが突如の襲撃を開始した。アーリア側もこれに応戦。湧水個所を守りきったのだった。


 内陸のニュー港と南部の海岸線を繋ぐ運河沿いでは、厳重な警戒体制が敷かれていた。
 見張り用の塔以外にも約一kmごとに屯所を設置。約十kmに及ぶすべてで衛兵やオリナニア騎士団が巡回警備中だ。
 運河の底に潜んでいた湧水個所の整備は急ピッチで行われている。行き場を失った地下水を噴きださせるためにネビロスが用意した多数の井戸も埋め立て中である。
 もしもアスタロト側が作戦を成功させていたのなら、升目のように水路が整理された美しき城塞都市マールは水浸しの惨状に陥ったに違いない。最悪、運河も堰き止められて凄まじい被害を被ったことだろう。
 ハンター一行の機転と行動によって、それは阻止された。だが安心してはいられなかった。
「ここしばらく、まったくアスタロト側の動きがないのが気にかかる」
「街中がとても穏やかですの。まるで不穏分子が一人もいなくなったような……。理想的ではありますが、ある意味で不自然な状況になっていますの」
 領主アーリアと、その妹ミリアはマール城の一室にて言葉を交わす。
「井戸の埋め立てはもうすぐ終わるが、運河底の湧水補修はもう一ヶ月はかかる。周囲に城塞を建てての常時警戒体制を敷くには、もう半年。その間、アスタロト側が黙って眺めているはずがない。湧水個所が塞がれたのなら、マールは酷い惨状となるはずだ」
 アーリアが手にしたカップを揺らし、紅茶に映った自らの顔を歪ませる。
「アスタロト側が井戸を掘っての被害拡大を狙わず、こちらが気づかぬ間に湧水個所を破壊したなら大変なところだったのですの」
 ミリアは最後のスコーンを口に運んだ。
「欲がでたのだろう。不遜な態度のアイテルカイトらしいといえばらしいな」
「……昔からそういうところがありましたの。ドネア兄様は」
 アーリアとの会話にミリアは敢えてアスタロトが人だった頃の名『ドネア』をだす。ミリアも歪虚となってしまったドネアのことを兄とは考えていない。だがわずかな情が残っているのも確かなことだ。果たしてアーリアもそうなのかと確かめようとしたのである。
 アーリアは何も語らずに紅茶を飲み干していた。

 不穏な空気の淀みはマール全体を包み込む。
 アーリアはハンターズソサエティー支部に応援を要請。ハンターの一チームが転移門を通じてマールの地へと降り立ったのだった。

リプレイ本文


 月光が照らす夜。昨日のうちに城塞都市マールへと降り立ったハンター一行は湧水個所の警備に就いていた。

 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は愛馬ゴースロンに跨がって、騎士団の小隊と運河沿いを巡回する。
「こっちは大丈夫。むしろ大将首を獲るチャンスが来て最高のタイミングだと思っているぜ」
 彼が無線連絡していた相手は騎士団副長のミリオド。湧水個所を守りきるには騎士団との連携が不可欠だと考えていた。

「頑丈そう。ここがあれば安心だよ」
「急いで建てているが完成するのは半年後らしい。大きな戦いは避けられないだろうな」
 弓月 幸子(ka1749)と鳳凰院ひりょ(ka3744)は運河両岸で建築中の城塞を歩いて回る。
 屯所へ戻った鳳凰院は無線にてアーリアに報告。戦端が拓かれていないかを現状を確かめた。

「あの街は壊させない……たとえ何が来ようとも……!!」
 運河に浮かぶ御座船のマスト上から街の灯を眺めていたのはジョージ・ユニクス(ka0442)だ。ふり向いた先は下流。六kmも進めば海へと辿り着く。

「これだけあれば大丈夫ですよね」
「一時的なら充分なバリケードになるだろう」
 防衛船上のミオレスカ(ka3496)と鞍馬 真(ka5819)が見つめたのは、運河両脇に接岸された無人船だった。「それでは」と鞍馬真が船縁の手すりに片足をかけて無人船へと飛び移る。

「この塔がよさそうです」
 アメリア・フォーサイス(ka4111)が塔内の螺旋階段を登っていく。屋上で見張っていた衛兵に事情を説明して狙撃場所を確保。湧水個所周辺は充分にスナイパーライフルの射程距離内である。

 ディーナ・フェルミ(ka5843)はアーリアが待機する御座船にいた。
「街が水底に沈むのも、アーリアが倒されるのも、どちらも私たちの負けになるもの。だから、アーリアにはここでずっと指揮を執って欲しいと思ってるの……。だめかな? そうすればネビロスはそこを狙うかなって思ったの。相手の狙う場所を誘導したいの」
「なるほど……」
 思案の末、アーリアはディーナの提案を受け入れる。

 戦いの火蓋は各所から一斉に切って落とされる。
 運河口の沖にて未確認武装帆船複数と騎士団帆船四隻が砲火を交えた。また歪虚崇拝を叫ぶ複数の武装集団が湧水個所を目指す事態も発生する。
 ハンター達も無線連絡を密に取りつつ動きだす。ある者は走り、ある者は構え、ある者は目と耳を凝らすのだった。


 騎士団側と歪虚側の海上戦を明示させる砲撃音が運河口方面から響き渡った。
 運河を境にしての東側丘陵地。月光で闇から浮かび上がる土煙。多数の蹄の音が大地を轟かせる。
「見つけたぜ。次の連絡は奴らを片付けてからだ」
 無線を懐に仕舞った馬上のエヴァンスは瞳を琥珀色に輝かせる。覚醒後の沸きあがる力を示すが如く、彼はグレートソードを天へと掲げた。
「気合を入れろ! 勝って俺達の大勝利といこうぜ騎士団諸君!」
 敵集団を発見したエヴァンスと騎士団小隊が突撃を開始。敵側から弓撃しにくいよう丘陵地特有の高低差を盾にする。丘を迂回しつつわずかに駆けあがり、下り坂の勢いを借りて一気に攻め込んだ。
「乱戦はむしろ俺らの十八番だぜ! 全員その首おいてけやぁ!」
 エヴァンスは一所に固まっている敵馬群に対して薙ぎ払いの衝撃波を巻き起こす。弾かれた敵は落馬して大地へと叩きつけられた。構わずに馬蹄で踏みつけて進む。
 騎士達が敵覚醒者が放った術の強風に煽られて、立ち往生を余儀なくされていた。
「手に負えないなら俺に任せろ。向かうまで時間を稼げ!」
 エヴァンスは覚醒者らしき敵に定めて琥珀色のマテリアルを散らす残火衝天を放つ。
 敵覚醒者も馬上で大剣を握っていた。すれ違う際に刃が触れて、凄まじい火花と衝突音が放たれる。
 反転したエヴァンスが歯を剥きだしにして笑みを浮かべた。雑魚敵は薙ぎ払い、もう一度剣を相まみえる。
 エヴァンスの剣に敵覚醒者が姿勢を崩す。彼が敵馬の腹を蹴りとばして剣戟を食らわせると、敵覚醒者の手から大剣が零れて大地へと刺さる。
「次はどいつだ!!」
 躊躇なく斬りつけて敵覚醒者を処断。エヴァンスは次の強敵を探した。

 運河西側の地で待機していた弓月幸子はエヴァンスとは違う戦いを展開する。
 西側に丘陵はわずかで見透しがよい。敵集団は当初、弓撃を仕掛けてきた。それに騎士団側も弓で対抗する。
 敵集団の目的は湧水個所の破壊なので睨み合う状況は意味を成さない。業を煮やした敵集団側から特攻を仕掛けてきた。
 銃撃の準備を整えていた騎士団小隊だったが、弓月幸子は少しだけ待ってもらう。
「普通の人なら大抵寝ちゃうんじゃないかな」
 彼女が広げた両手から青白いガスが出現して一瞬のうちに広がった。
 それに包まれた敵集団の大半は大地に両膝を落として寝入ってしまう。草地に落馬してもなお、高いびきをかく者までいた。
 その後の騎士団小隊は優位に駒を運んだ。後は任せられると感じた弓月幸子はウォーターウォークを自らに付与。仲間達の元へはせ参じべく、運河の水上を駆けだした。

 ここはニュー港。
「ついに来たか」
 砲撃音を耳にしたとき、鳳凰院は接岸中の船を調べていた。
 こんなときのためにと事前準備されていた高速ボートへと乗り込んで、湧水個所へ戻ろうとする。その途中、水面を走っていた弓月幸子を拾う。
「助かったんだよ」
「速度をあげるぞ」
 高速ボートが水飛沫をあげながら駆け抜ける。アーリア乗船中の御座船の横をすり抜けて湧水個所の下流付近へ。付近に待機していた帆船甲板には仲間の姿があった。
「水の上を歩きたいなら呼んでね。無線でもいいよ」
「状況に変化は?」
 弓月幸子と鳳凰院が船上のジョージとミオレスカを見あげる。
「たった今、連絡がありました」
「運河口が突破されたようです」
 ジョージとミオレスカによると、歪虚側と思しき敵帆船がまもなく襲来するとのことだった。

 その頃、無人船で待機していた鞍馬真は綱の一部を外した。すると鎖で繋がれた無人船の連なりが弧を描くようにして展開する。運河口方面を下にしたU字型を成し、両岸と下流を遮る防壁代わりと化す。
 防壁に気づいた敵帆船三隻が弓撃や投石による遠隔攻撃を展開し始めた。
(何としても、守り切るぞ……!)
 敵帆船の甲板に設置された大砲が放たれようとしたとき、鞍馬真が短弓の弦を撓らせて矢を射る。無人船貨物の隙間から離れたそれは、敵帆船砲手の右腕前腕を貫いた。それでも撃たれた敵砲弾だが、大きく逸れて枯れた茎葉すらない畑へと落下していく。
 敵帆船三隻が迫り続ける。
「無人船が邪魔をしてくれているうちに」
 鳳凰院が高速ボートを停めてリカーブボウを構えた。
 射った貫徹の矢が敵帆船甲板上の火薬樽を貫通。次々と膨らんだ炎によって輝きが満ち、一呼吸してから爆風も届く。他の火薬樽に誘爆して広がったのである。
「運河に飛びこんだ影が見えたよ」
 そう鳳凰院に報告した弓月幸子はウォーターウォークで水面上を走りだす。やがて月明かりに照らされた水面間近を泳ぐ火薬樽を抱える水棲雑魔の群れを発見した。
「ターボしていくんだよ、ドロー!!」
 弓月幸子は味方の位置を把握しつつ、ワンドを掲げてファイアーボールを放つ。
 爆炎の光球は膨らみながら水面の一部を押しのけて水棲雑魔等を焦がす。時間差を置いて水面に浮かんだ火薬樽が一斉に十数個爆発。湧水個所周辺は度重なる霧状の水煙に包まれて、双方とも膠着状態に陥った。
 このような状況下でも確実に攻撃をこなしていた者がいた。運河沿いの塔天辺で狙撃していたアメリアである。
「ここから先は通行止めですよっと」
 敵帆船一隻は大破したものの、残り二隻。
 アメリアはスナイパーライフルで敵帆船の甲板を狙う。歪虚崇拝者の船員等、または火薬樽を。手足を撃って負傷者をだすことで敵側の足手まといを増やしていく。
 はじめ火薬樽は一つずつ狙う。混乱が広まったところで連鎖爆発させて炎で甲板上を満たした。
 負傷者の救出を優先しない敵側の様子を目の当たりにして、アメリアは標的を切り替える。水面へ逃げ込んだ敵をヘッドショットで沈めていった。
 煙が晴れかけた頃、火炎に包まれた二隻を敵帆船一隻が掻き分ける。無人船の連なりに衝突しても構わずに湧水個所へと迫ってきた。
「砲撃をお願いしますの!」
 ディーナが神罰銃で敵船の砲手を撃った後で叫ぶ。御座船からの砲撃一発目はすでに外していたが、それは距離を測るためだ。本番は二発目といってよかった。
 騎士の砲手が照準を微調整して撃つ。船首に大穴が空いた敵帆船は浸水によって立ち往生する。
 これまでの間、ジョージは撃砲、ミオレスカは強弓にて歪虚崇拝の船員を倒してきた。
 距離が縮まったところで、ミオレスカが弓から銃へと持ち替える。そしてフォールシュートで敵帆船の甲板に銃弾の雨を降らした。彼女の露払いに続いてジョージが敵帆船へと乗り込んだ。もしや首魁のアスタロトかネビロスがいるかも知れないと考えながら。しか二人の姿はどこにも見当たらなかった。
「すいませんが、破壊させてもらいます……。引き揚げれればいいけど」
 ジョージは残っていた敵船員を薙ぎ払いながら船底へ。確実に沈むよう斧で大穴を開けてから甲板に戻った。そのとき、ミオレスカの叫び声が耳に届く。「まだ後方に敵船が待機していたようです!」と。


 月明かりだけでなく燃えさかる敵帆船三隻が夜の暗闇を照らした。穏やかな運河の水底が見通せるほどに。
 現在でも両岸の地上戦は続く。第二弾、第三弾の敵集団が襲ってきてからだが、味方の奮闘で抑えられている。
「しつけぇぜ!!」
 特にエヴァンスは近寄るすべての敵をなぎ倒す勇猛果敢な活躍をしていた。

 砲弾が着水していくつもの水柱があがる。味方帆船へ落ちようとした砲弾を砕いたのは鳳凰院の貫徹の矢だ。
 新たな敵帆船三隻は先程と違って一定の距離を保ちつつ、遠隔攻撃を仕掛けてきた。
「これはどう考えてもおかしいですの。湧水個所を破壊してこそ、敵にとっての作戦成功ですの」
 ディーナがアーリアに進言。
「……確かに攻めあぐねている現状は敵側にとって負けに等しいな」
「ネビロスは何度も水棲歪虚を連れて来たの。だから今度も絶対あると思う。呼吸が要らなくて、相手の独壇場だったとしても……水中戦は、しなきゃならないの」
 戦いの最終段階だと踏んだディーナはアーリアの元を離れて最前線に向かう。水着をすでに着込んでいた彼女は上着を這いで水中へと飛びこんだ。仲間達の多くも弓月幸子のウォーターウォークによって湧水個所の水面上に集まっていた。
 やがて下流の水面下に浮かび上がるいくつもの黒い影。それが水棲雑魔だとハンター達は察した。
「火薬樽は仕掛けさせないんだよ!」
 弓月幸子が放ったファイアーボールが水面すれすれで炸裂。それによって一部の水棲雑魔や火薬樽が岸や近くの畑へと吹き飛ばされる。
 駆けて距離を縮めたジョージが薙ぎ払いで水面の一部を削いだ。浮き上がった水塊に見知った顔が。水棲雑魔に掴まっていたネビロスである。いつものドレスではなく漆黒の水着姿だ。
「貴様等!」
 ネビロスの形相は狂気と怒りに満ちていた。担いでいた大鎌を手に取り、水面上を泳ぐ水棲雑魔の背中の上に立つ。
 湧水個所へ迫ろうとしていたネビロスだが動きに迷いが生じていた。アメリアの銃撃が届いていたからだ。ついにレイターコールドショットが命中。ネビロスが乗っていた水棲雑魔が勢いを失う。
 ネビロスは別の水棲雑魔へ飛び移る。今度はミオレスカのレイターコールドショットによって氷化。仕方なく水中へ飛びこむしかなくなった。
「そろそろお終いだね。ネビロス」
 鳳凰院は武器を弓から刀へと持ち替えた。水棲雑魔が放った弓月幸子への水撃を盾で防いでから水中へ。潜水したネビロスを追いかける。
 鞍馬真は二刀流にて水上に刃を走らせて水棲雑魔を倒していった。影を見つけた「あれか?」と呟きつつ水底へ向けて刺突一閃を放つ。その刃はネビロスの背中へと届いて黒い血のようなものを流させる。
 水棲雑魔が抱えていた火薬樽が次々と爆発。予定していたよりも時間が経過してしまい、樽内部の導火線が費やされたと思われた。
 いくつかの火薬樽は湧水個所へと設置されたものの、それによって崩壊には至らない。一定の爆発力がなければ、無意味だったからである。
 水中で奮闘していたネビロスの尽力もまさに水泡に帰す。
 鳳凰院は月光が照らす水中で作戦失敗を実感したネビロスを目の当たりにした。真っ赤な顔で髪を逆立たせ、目は血走り、口元からは黒い何かを流す姿を。
(逃がさないの!)
 水中に沈みながら輝いたのはディーナ。セイクリッドフラッシュによる聖なる輝きがネビロスをも包み込んだ。口元から泡を吐きだしながら、ネビロスがもだえ苦しむ。
 足掻いたネビロスが勢いよく水面へと飛びだす。ちょうど落下の水面近くに立っていたジョージへと大鎌を振り下ろそうとする。
「例えどんな理由でも……人を傷つけていい理由にはならないんだよ!! お前達が良くても、『俺』が許さない!!」
 ジョージの肩口にネビロスの大鎌が食い込んだ。しかし怯むことなく、ジョージは迎賓の帝剣を繰りだした。刹那、水平に投げた小石のようにネビロスの身体が水面を跳ねていく。
「逆恨みで、アーリアさんや、街の人に害をなすのは、もう止めてください」
 ミオレスカが放った高加速射撃が止めとなった。かつてロランナと呼ばれた、歪虚ネビロスは黒い塵となって無へと還る。
「ドネア、いえアスタロトは一体どこに? ネビロスも、まさか使い捨てにされたのでしょうか」
 ミオレスカは戦いの間、アスタロトがいないか気にしていた。しかしその気配はまったく感じられなかった。
 一段落した頃、エヴァンスから無線が届く。弓月幸子がやり取りしたところ、数人の捕虜を捕まえたとのことだった。


 翌朝から湧水個所周辺の片付けが行われる。
 まだ浮かんでいる帆船は曳航してひとまず沖へ。沈没した帆船全部を引き揚げるのには丸六日を要す。
「おかげでネビロスを倒すことができた。アスタロトはこれで片腕を失ったも同然だろう。感謝に堪えない。深く感謝する」
 滞在最終の前日にマール城の大広間にて宴が開かれる。乾杯の音頭をとったアーリアは言葉とは反対にどこか寂しげだ。
 飲めるハンターは勝利の美酒に酔う。そうでない者はたらふくご馳走を頂いたのだった。

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参加者一覧

  • カコとミライの狭間
    ジョージ・ユニクス(ka0442
    人間(紅)|13才|男性|闘狩人
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

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エヴァンス・カルヴィ(ka0639
人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/09/05 17:01:55
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/09/06 11:15:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/05 09:47:43