• 詩天

ようこそ! 詩天温泉旅行へ!!

マスター:DoLLer

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/09/13 15:00
完成日
2016/09/14 23:39

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●なんたる幸運!
 カラン カラン カララーン

 夕焼けに染まるリゼリオの街に一際大きなハンドベルの音が響き渡った。
「特賞! おめでとうございますっ。詩天温泉の旅が でましたーーーーーーぁぁぁぁ!!」
 ハンターオフィス前でハッピを着た黒髪の女の声が木霊した。
 当たったのは、商人の女の子ミネアだ。
 誘われるがままに福引を回しただけであったが。
 突然の幸運に目をぱちくりとする彼女に、胸に収まるほどの『特賞』と熨斗書きされた包みが押し付けられた。
「詩天の萩野村にあります秘湯でございますよ。詩天は名水の里。そこに涌き出た温泉は疲労回復、病気平癒、長寿。さらには温泉特別の泥風呂には美容効果も著しいとのこと。川魚をはじめとした懐石料理の数々に舌鼓をうち、清冽な空気に身も心もリフレッシュ。どうぞお楽しみくださいませ!」
 もう我が事のように喜び、まくしたてる女の勢いに若干飲まれつつも。
 へぇ。東方の詩天にそんな名所があるんだ。
 忙しい日々、変わらない日々、死線を潜り抜けた日々に、少しのんびり羽休めをするのも悪くない。
「これ一人ですか? それともペア?」
「計7名様が抽選で当たるようになってございます」
 色んな人とおしゃべりしながらの旅行かあ。
 暑い夏を頑張って仕事をして過ごしたミネアにとってはいいプレゼントだった。
 きっと他に当たった人にもいいプレゼントになるのかもしれない。

●なんたる舞台裏!
 時は遡って。
「その為にです、五条。泥田坊が占拠していた砦ですが、あれを放っておいてはまた悪用されかねません。お金がないことはよくわかっていますが、治安が悪くなれば民の心も離れ、お金以前の問題になってしまいます。あなたの力でなんとか考えてくれないでしょうか」
 詩天の当主である三条真美からそのような命が下った。
 本来の五条なら、「そんな無茶、なんで引き受けねばならんのじゃあ!!!」とちゃぶ台をひっくり返さんばかりにキレていただろうが、さすがに相手が連邦の1首長ともなればそんな無礼を働くわけにもいかない。一応血のつながりはなくもないが、相手は本家、こちらは分家のそのまた分家。
「知恵を借して、くれませんか……?」
 そんな違いをも乗り越えて、幼さ残る真美のまっすぐな瞳が五条を見据えられれば。
「ご当主様の命なればなんとかいたしましょう!」
 と、答えてしまうのは仕方ない事である。
 ……頼られれば嫌と言えない性格が災いしているとは最近よく思っている。

「ということで、泥掃除もできなけりゃ、改修もできません。ですが、りふぉーむするなら必要十分。こちらを温泉といたし、詩天の新名所として売り出します故、皆の者、全力でお手伝いくださいまし!」
 泥田坊の残した泥は一か所に集めて湯をざぶざぶ足して、泥温泉に。
 もともと崩れがちの砦は思い切って適度に破壊し、広い広い浴場に見立てて石を組めば、作業費は最低限で済む。まともに作ったのはロビーと脱衣所くらいなものだ。
 後は宿泊施設は萩野村の空き家を借り受け、ついでに村の人間に料理をお願いして。三条家からはどうせ滅多に使わない来客用高級布団を借り受け、ついでに畳とすだれ、小物類も全部持って来た。
 少人数が泊まるくらいの設備はこうしてできあがったのである。
「後は客引きでございますね」
 エトファリカの人間ならば詩天のイメージといえば辺鄙というのが根付いてしまっている。
 狙うなら西方だ。せっかく詩天とのつながりを先の歪虚討伐騒動で得たのだ。ご縁をそれで終わりにしては勿体ない。
 そして、五条はハッピを着込み、一色だけの福引を用意してリゼリオに向かったのである。

 そう、誰が引いても特賞が出ただなんて。

リプレイ本文

「すっごーーーい!」
 湯けむりの上がる温泉に一番にぴょいと飛び込んだクウ(ka3730)は歓喜の声を上げた。
 あちこちから昇る湯気、その下には様々な湯がはられているのだろうが、全部を見渡すこともできない。広々としたこの空間をたった7人で自由にできるだなんて。
「ああ、溶けるような匂い、チョコ、チョコ風呂はどこっ」
 高瀬 未悠(ka3199)はその湯の香りに混じるカカオの甘ったるい微かな匂いをかぎ分けると背中の傷もなんとやら、本能のままに走っていく。
 あ、こけた。
「未悠さぁん……大丈夫ですか?」
 馬車から降りる時も、脱衣所でも大丈夫? こけないでくださいね? って再三注意したのに。
 温泉の全景を撮ろうとしていたエステル・クレティエ(ka3783)はカメラを下ろして苦笑いすると、飛鷹 火凛(ka3710)と一緒に駆け寄って、両脇から未悠を助け起こした。
「ほら、はしゃいじゃダメですよ。私達だけと言ってもちゃーんとマナーも守らないと」
 火凛はウィンクすると、くるくるっと未悠の髪をねじり上げ、バレッタで止めて上げた。もちろん火凛自身の髪もばっちりバレッタで止めている。
「あらー、準備いいわねー。そういうマナーをしっかり守れる女の子は大好きよ♪」
 髪を束ねたユリア・クレプト(ka6255)はそんな火凛の様子になんとも嬉しくなってしまって、しんみりとそう言う。長い年月を経験しちゃっている様子が滲み出ているのはご愛敬。
「にしても、どれから入りましょうか。これだけ広いと見て回るだけでも結構時間がかかっちゃいますね」
 ルナ・レンフィールド(ka1565)はあちらこちらを見渡してふーむ、と唸った。
 広いはずの世界なのに、見通しせなくて、不安が胸から浮き上がる。
 そんな彼女にミネアが手を差し伸べてにっこりと笑った。
「一緒に入りませんか?」
 怖い時はいつも誰かがいてくれる。どうなるかはわからないけれど、そんな時は手を差し伸べてくれる人がいる。
「うん。エステルちゃんも行こう!」
 ルナの誘いにエステルも「もっちろん!」と笑って答えてくれた。
「すとーっぷ。お風呂の前にはまず体を洗ってからですよ?」


「うわー、痛そう……」
 未悠の背中を見て火凛は思わずうなった。怪我をしてしまったけど問題ない、とか言っていたが、遠目から見ても綺麗な髪や肌とは対照的な爛れた肌は痛々しかった。
「大丈夫よ。チョコレート風呂に入れば治るわ!」
「はいはい、でも手を動かすのも辛いでしょうから頭洗い終わるまではじっとしててね」
 襦袢姿のユリアが笑って、未悠の頭にヘアパックを塗り込んでいくと、早くチョコ風呂に入らせてぇぇぇと甘いモノお化けになっていた未悠の瞳がきょとんとした。
「あら、すっごいいい匂い……」
「すごいじゃない、未悠は鼻が利くのね。蜂蜜と数種のハーブから作るヘアパックよ。風呂上がりはこれでサラサラになるの、背中に髪が当たっても痛くないと思うわ」
 甘いいい香りに未悠は静かに匂いを楽しみ始める。
 良い匂いと言われれば、薬草士のエステルもやはりすごく気になって。
「え、どれどれ?」
 未悠の髪に顔を当てて。
「わっ、すごい。ユリアさん、こんないいヘアパックあるなんて」
 そうすると周りで洗っていたメンバーも気になって。
 みんなで未悠の髪に鼻をよせて、くんくんくんくん。
 湯のしっとりとした空気にふんわり広がる良い匂いはどれだけ吸い込んでも飽き足らなくて。ちょっと病みつき。
「んーと、椿と、あと3つくらい混ぜてるのはわかるんだけど。ねえ、ユリアさん、これ今度調合を教えてもらっていいですか?」
「もっちろん、いいわよー。ふふふ、みんなには特別ね。なんなら分けてあげてもいい……」
「買ったぁ!」
 得意げに微笑むユリアにまさかの五条から声が上がった。


「ああ、チョコレート風呂、最高だわ」
 未悠はチョコレートの海に顔すれすれまで沈みながら、至福の顔を浮かべた。
「あれ、これって……泥?」
 ルナはチョコレートをすくってまじまじと眺めてふと気が付いた。隣の泥風呂と同じように若干の泥が混じっている。
 少量のチョコを溶いて、泥風呂に混ぜたわけですね……。
 確かにぱっと見はわからない。香りもある。そして五条の見せたメニュー表から泥風呂が一つ消えてチョコ風呂が編入された理由もルナは推測が付いた。
「まあいっか……エステルちゃん、一緒に入ろう」
「うん……あれ、でもこれ、深さとかわからないから、結構……怖いね」
 と言った次の瞬間、足を滑らせルナは行方不明になった。
「!!!」
「ルナさん、ルナさぁん!!」
 慌てて捜索されて出て来たのは、泥人間。紫の目だけがキラキラ白い。
 …… ……。
 ちょっと面白い。
「むーーーっ!!」
 泥合戦が始まったのは言うまでもない。

「あれ、未悠は?」
 泥だらけの襦袢を一度脱いで五条に渡したユリアは首をかしげてメンバーを見回した。泥風呂を見渡しても誰もいない。
「……溶けた?」
 クウの一言に、みんな髪の毛を逆立たせた。
「死んじゃダメですよ!!!!」
 幸せのうちにチョコレート水死体になりかけていた未悠は何とか助け出された。


 紐を引っ張り、待つことしばし。天井からカタカタ音がなったと思えば、滝のように水が一気に落ちて来る。
「うひゃああ」
 あまりの水圧にミネアは慌てて飛び出して来た。首がもげそうな勢いだ。
「肩こりにきくと思ったけど、これは……キツい」
「大丈夫ですか? それじゃ私がマッサージしますね」
「うう、エステルちゃん、ありがとう~。後でちゃんとお礼するね?」
 ということでエステルは早速肩をぎゅっ、あれ? ぎゅ……。
「ゆ、指が入らない。凝りすぎ……」
 商人もやっぱり楽じゃないらしい。ばっきばきの肩が物語っていたが、それでもやっぱりほぐれているらしく。
「あ゛あ゛~。きーもーちーいーいー」
 ミネアは変な声を上げた。

 一方、ミネアが逃げ去った滝湯は火凛が使っていた。
 確かに強烈だ。頭に受け続けているとだんだん意識がぼんやりして、耐えているのか、力が抜けているのかが曖昧になってくる。
 そんな中で、微かに頭上で何か音がする。木板の音……。
「あ!」
 ルナが声を上げた瞬間、大きな桶が滝と共に降って来たではないか。どうも仕組みのどこかで問題が起こったようだ。
「……!」
 次の瞬間、火凛は拳を天に突きあげ、頭に降って来た桶を真っ二つに叩き割った。
「詩天昇竜覇……開眼しました」
 マジか。
 みんな言葉を失って、とりあえず拍手した。


「おお、流水風呂って川の流れを利用しているんだねー。川遊びしてるみたい」
 隣にある川から水を引き込み、その流れと湯を合わせて、流水風呂を作っているようであった。出口の方に行ったら自分で移動しないと元に戻れないという仕様。
「けっこう勢いありますね。こう、お腹周りにすごく、ききそう……です」
 川の流れに湯も足しているのだから、その流れはけっこうきつい。
 ルナは流れに抵抗しながら、ゆるゆると歩を進めるが、気を抜けば足を滑らせ後ろに下がってしまいそう。
「これ、腹筋にいいかも」
「確かに泳ぐとね、全身の筋肉が鍛えられていいんだよ!」
 そう言いながら、クウは頭まで一気に浸かると、そのまましなやかな身体のバネを活かして、ぴよーんと流れをジャンプして遡る。
「飛び魚たーん!」
 どばしゃああ、と着水時に水しぶきが上がり、そこにいた全員は目をぎゅうとつぶるしかなかった。
「ぷはっ、何するんですかっ」
「うぷぁ!? この、やったなぁ!!」
 クウはそう言うと再び潜水をして、一気にミネアに近づき、飛び出ると同時にミネアを下からすくいあげた。
「ひゃっ」
 慌ててミネアが近くにいた火凛に助けを求めて手を伸ばしたのを、火凛は神速の速さでそれを掴みとった。さすがは剣道娘。動体視力は半端じゃない。
 が、体重と水の流れをあわせたクウのタックルは避けきれない。一瞬堪えたもののそのまま押し倒されるように下流に押し流されていく。
 後ろにはルナが。そして手を握り合ってエステルが。
「ふぇぇ!?」
 ユリアも、そろそろとつかったばかりの未悠も巻き込んで団子になって下まで押し流されていった。


 染みわたるような熱さの湯船にそっと身体を浸して。ちょっと風化した石壁を背にして、その窪みを利用して枕にして。
 そうして眼界に広がるのは一面の山。秋近しと緑にところどころに黄色と赤が混じり始め、夕焼けの始まる空は青から薄紫に、そしてたなびく雲の白を滑らかに薄紫が走り、桃へ、茜へ、紅へ。
 百千の彩が飛び込みそれだけで埋め尽くす。
 時折吹く風がなんとも気持ちよく。
「これは……絶景ですね」
「故郷の森に似てるけど、やっぱり違ってて……うん」
 火凛もエステルも言葉をしようと呟くもやっぱり形にならなくて、そのままぼんやり眺めていた。
「温泉には絵を描いて目も癒すということもいたしますが、一枚の大きな絵としてどうぞご覧くだされば」
 壁を不自然に切り取ったような形にしているのは、この風景を額縁にかかる絵として見て欲しいという計らいなのだろう。
 そっと五条が徳利に入れた飲み物を盆に載せて、湯船に浮かせながらそう案内した。

「お、待ってましたぁ。おっさっけ♪」
「あ、杏子のジュースもあるのね。この前山を駆けまわって集めたのを思い出すわね」
「未悠さん、ホットチョコレート来ましたよー」
 ミネアの声に、やっぱり染みてうなっていた未悠は、一気に回復した。
「あああ、糸を引くようなトロットロの雫。甘く色づいた香り。はあああ、もう……死んでもいい」
 もはやマタタビか何かのレベルで蕩ける未悠。
「あ、これ冷えてるね。くぇ、けっこう辛口だけど、すっごいすっと抜けて後味がいい! これは温泉に最高!!」
「杏子と混ぜたらいいかも……」
 クウとユリアでそれぞれのオーダーした飲み物を御猪口で混ぜあいながら、新たな飲み物を開発したり。
「じゃあついでにチョコも是非!」
「味わかんなくなるって!」
 と騒ぎつつもはらりとどこからか紅葉した小さな楓が舞った。
 御猪口に浮かぶ水面も。
「綺麗だね……」
「うん」
 肩を寄せ合って空を見上げるのも。
 どちらも風雅で。もう少しこんな時間が続けばいいのになと。


 そうは言っても次第にのぼせてきて。みんな、さっさと冷やす為に足湯へと移動した。
「ああ、これ気持ちいい。風がいいね」
 ルナは風が気持ちよくて、軽く鼻歌をはさみつつ、脚をぱたぱたと動かした。そんな様子は皆も同じでしばらく涼を楽しんでいると、口数はどうしても減ってしまう。
「ということで、えーと、馬車で話してたのだけど」
 それは誰が言い出したかもう覚えていない。でもみんなやっぱり話すんだろうなぁってぼんやり思っていたから、思わず照れたり恥ずかしがった。
「憧れる人はいるけど……」
「おお、いきなり爆弾発言!」
「あ、えと、それよりミネアさんの話が聴きたいかなー?」
 真っ赤になってルナはミネアに振った。ちょっとばかり遠慮の混じってたミネアもこの辺りになると地が出て。
「えーーーっ、そこまで言って、あたしに振る!? 憧れってどんな人ですか。言わなきゃダメだよ!」
「まあまあ、ミネアさんが教えてくれたら」
 エステルにフォローされて、ミネアは恥ずかしそうに俯きながら、ぼんやりと視線だけ上に向けて空を眺める。
「うーん。やっぱりいつも笑顔の人がいいかな。あたし料理人だから、どんなでも笑顔で食べてくれると、やった! って思うんだけど。でも、旅商人だからずっと一緒にいられないしとか考えちゃうな」
「うんうん、理想は理想だったり。私はドキドキさせてくれる人ですね。面白い事楽しい事。どんな事でも良いから見てて飽きないような。でも心臓に悪いドキドキはお断りですが」
 火凛もうんうんと頷いて話すと、ルナもふと思い当たることがあって、神妙に頷いた。
「心臓に悪いドキドキはいけませんよね」
「……ですよね」
 エステルもルナの思い当たるところに行きあたったのだろう、若干眉根をひそめて頷いた。
「私もそのドキドキはわかるかな! こう好きってよくわからないけどさ、こう一緒にいたり、顔見るとドキドキしちゃうとか」
「それは……好きっていうことじゃないかしら? 付き合ったりしないの?」
 ユリアはまだまだ若いクウの一言に苦笑いをした。
「うん、その、だから付き合ってるの。それで、最近キスもして……」
 その一言の直後、みんなから勢いよく囲まれるクウ。
「キス!? キスってどんな感じ? 男性の唇も柔らかいって本当?」
 喰いつき気味に尋ねるのは未悠にクウは反撃した。
「あー……えーと、そ、そういう高瀬はどうなのさ!?」
「恋はこうスイーツのような、そうガナッシュのようで、ブラウニーみたいで、ブッシュドノエルのようで」
「全部チョコ関連ですね」
「そ、そんなことないわ。ガトーショコラなんて最高よ! 強くてほろ苦くて優しくて、でも支えたくなるような。惹きつけられて止まない……」
「随分具体的じゃないですか。もうそれって決まっているんじゃないですか?」
 火凛の一言に未悠は戸惑ったので、火凛は人差し指を立てて神妙に言った。
「私が知る相手に恋してるか判断する方法かあります!」
 その一言に全員が食いついた。視線の集まる中で火凛は指を立てたまま静かに言った。
「その人の子供を産みたいと思ったら好きって事らしいです!」
 足湯の段差からみんなして滑りこけた。


 最後は薬湯入りの内湯。カボスがぷかぷか浮かんでいる。
 汚れも全部落として、たくさんの湯巡りもここで終わりだ。
「なんか、こう静かにつかるのもいいですね」
 ミネアはほっと赤い顔で微笑んでそう言った。耳をすませば鈴虫などの鳴き声もよくよく聞こえ、窓の向こうから見える空はもう藍を越して漆黒になっている。
「この薬草知らないものばかり。東方だとやはり違うものがいっぱいあるみたい」
 首を傾げるエステルにユリアは薬袋をもみしだきながら、浮き出る薬草の姿を見て微笑んだ。
「色んなものがあるけど、胃腸回復の薬草が多いみたい。夕食を美味しく食べさせる仕掛けね」
 なるほど。
 色々勉強になるなと思い至るエステルはふとユリアに向き直って尋ねた。
「そういえばユリアさんの恋のお話聞いてませんでしたけど」
「そうだったかしら」
 視線を逸らしながら、風呂を上がる為に肌の水気を落としたユリアだったが、全員の視線が集まっているのを感じて、諦めると振り返った。
「初恋は実らなかったけど、妻として母として幸せかしら。ようは楽しみようね。さあ、君香の次の手管に乗って楽しもうじゃないの」
 さすがは最年長。
 にじむ言葉の重みにみんなぽかーんとして、とりあえず恋も旅路も同じなのだということを理解して浴場を後にした。

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重体一覧

参加者一覧

  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士

  • 飛鷹 火凛(ka3710
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 疾く強きケモノ
    クウ(ka3730
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/09 00:35:12
アイコン 萩野村までの道のり【相談卓】
ミネア(kz0106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|一般人
最終発言
2016/09/13 14:51:57