• 蒼乱
  • 詩天

【蒼乱】【詩天】漂う暗雲

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/15 07:30
完成日
2016/09/23 07:23

みんなの思い出

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オープニング

●暗雲
 仄暗い部屋。蝋燭の灯りが風に揺れる。
 金髪に赤い瞳の男が、片腕の赤い鬼を一瞥する。
 赤鬼は長い黒い髪を揺らして、言葉にならぬ言葉を、金髪の男に投げかけていた。
「……そーか、橋姫。ハンターにやられたか。で、腕一本取られたんだな」
「―――」
「うんうん。分かった。お前が心配するようなことじゃねえよ。何故かって? ……お前はもう用済みだからな」
 怯える橋姫。逃げる暇もなく金髪の男に首を潰されて消えて行く。
 その様子に、紺色の衣を着た優男が眉根を寄せる。
「やっとの思いで戻って来たというのに、秋寿さんったら随分可哀想なことをなさるんですね」
「あ? こいつの代わりなんざいくらだって生み出せるからいいんだよ。てか、弟を協力の見返りに差し出すようなやつに言われたかないぞ。そういや、あの青木って男はどうしたんだよ」
「準備を手伝って貰っていますよ。そんなことより……巫女と符術師の集まりが悪いようですね」
「……うるせえな。分かってるよ。九代目詩天が色々動き回って妨害してきやがって思うように進んでねえ」
「おや。秋寿さんを困らせるなんて随分優秀なのですね、現当主は」
「おうよ。そりゃあ俺の子孫だからな! って喜んでる場合じゃねえ。ハンター達が嗅ぎ回ってる。俺が出て行くのは得策じゃねえな」
「その優秀な現当主様も符術師なのでしょう? 協力を仰いではいかがですか? 元々あなたの成そうとしている『もの』です。持ちうる力も性質も最適でしょう」
「あー……。そうだな。その手で行くか。素直に協力するとも思えねえが、奥の手もあるしな」
 優男に頷く秋寿。彼が合図すると、奥から数体の橋姫が現れる。
「お前達。九代目詩天、三条 真美をここまで連れて来い。くれぐれも殺すなよ」
 頷く橋姫達。微かな衣擦れの音を残して、闇に消えて行く。


●詩天の成り立ち
 詩天の中心地、若峰の黒狗城。
 その一室で、九代目詩天、三条 真美(kz0198)と三条家軍師、水野 武徳(kz0196)が膝を突き合わせて難しい顔をしていた。
「……詩天には、そんな歴史があったんですか」
「左様にございます。詩天が詩天となる前の、忌まわしき記憶。禁忌とされた術……忘れてはならぬ歴史でございます」
「そのような大事な話を、何故父上は教えて下さらなかったのでしょう……」
「この伝承については、本来『詩天』の座と同時に継ぐべきものと聞き及んでおります。先代様は急に身罷られたゆえ、真美様にお話しする機会がなかったのでございましょうな」
 武徳の言葉に目を伏せる真美。
 己の自出は、決して褒められたものではないと知ってはいたけれど。
 それは想像以上に、罪深いものだったのかもしれない――。
「……武徳。その知識を、秋寿兄様が持っている可能性はありますか?」
「禁忌とされた術については、過ちを繰り返さぬ為敢えて遺さなかったという話を聞いたことがございますが……。あのお方も詩天候補で、先代様の補佐役の立場にあった者。何らかの知識を得ていてもなんの不思議もございませんな」
「そうですか……。分かりました。引き続き、国内にいる巫女と符術師の保護を進めてください。私は秋寿兄様を探します」
「承知つかまつりました。なれど、あと残っているのは先の戦で秋寿様に付いて戦った家の者。いわば、真美様は怨敵でございます。秋寿様が関わっているとなれば、喜んで力を貸すものもおりましょう」
「それでも、このまま見過ごす訳にはいきません。出来る範囲で構いません。説得を続けてください」
「御意」
 きっぱりと断じた真美に、深く頭を下げる武徳。
 ――ハンター達の助言の通りに、巫女と符術師の保護に乗り出したけれど。
 こうしている間にも、1人、また1人と消え続けている。
 一枚岩ではいかぬ詩天の国の歪みが、こんなところで形となって見えている。


●少年を狙うもの
 ハッハッハッハッ……。
 呼吸が浅い。走り続けて心臓が破れそうだ。
 でも、足を止める訳にはいかない――。
 依頼を受けてくれたハンターに逢う為、待ち合わせ場所に向かっていた真美は赤い肌の鬼――橋姫に追い掛けられていた。

 ――いいか、シン。無理はするな。

 頭を過るハンターの声。
 気を付けていたつもりだったのに。
 応戦しようかとも思ったが、この数には到底太刀打ちできない……。
 ――こんなことになって、叱られるだろうか……。
 もつれる足。少年の速度が落ちたのを見逃さず、橋姫の腕が振るわれる。
「つっ……」
 鋭い爪に服ごとえぐられる腕。噴出する赤いもの。
 痛みは感じない。熱いだけ……。
 早く逃げなきゃ。このままでは――。
 真美が再び走り出そうとしたその時、目の前に一陣の風がよぎった。
「……えっ?」
「……シン!? 大丈夫か!?」
「あっ。皆さん……」
「皆さん、じゃないですよ! 怪我してるじゃないですか! こいつら一体何なんです?!」
「皆さんに会いに行こうと思ったら急に襲って来て……」
「そうか。分かった。もう大丈夫だぞ」
 真美と橋姫の間に割って入ったハンター達。武器を構えて、注意深く歪虚と距離を取る。
「……貴方達、この子をどうしようっていうの?」
「―――」
 ハンターの声に、言葉にならぬ言葉を出す橋姫。
 見覚えのある姿に、ハンターがため息をつく。
「赤い肌に角のある歪虚……以前撃退した歪虚が仲間を連れて戻って来た、というところでしょうか」
「シン自身が目的なのか、ただ単に符術師が欲しいだけなのか、どっちなのかはっきりしないが……」
「見逃す訳にはいかないわよね!」
「あ、あの、私……皆さんに、詩天についてお話しないと……」
「シンさん、詳しいお話はこの者達を撃退してからにしましょうか」
 肩で息をする真美。
 ハンター達は、歪虚達と睨み合い――。

 そして、戦端が開かれる。

リプレイ本文

「やっぱり舞い戻って来ましたね」
「シンさん……! 大丈夫ですか!?」
 三条 真美(kz0198)を追う橋姫の前に不敵な笑みを浮かべて立ち塞がるユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)。
 肩で息をする少年を、ラース・フュラー(ka6332)が慌てて受け止める。
 突然現れたハンター達を見定めるように距離を取る橋姫に、輝羽・零次(ka5974)が射貫くような鋭い眼光を向ける。
「何だ? こいつら。歪虚のくせに誘拐か……?」
「どうでしょうね。この子を狙っていることなのは確かなようですけど」
「こんなちびっこ追い回すなんざ、どっちにしろ許容はできねーな」
「同感じゃ。ともあれ、まずはこやつらを何とかしてからかの」
 歪虚から目線を外さず言う花厳 刹那(ka3984)に、頷く零次とフラメディア・イリジア(ka2604)。
 三條 時澄(ka4759)は、真美の腕の傷を見て……端正な顔が般若面のように鋭く尖る。
「シン、よく耐えた。後は任せろ。……すまんが、この子を頼む」
「承りました。まずは手当てをしましょうね」
「私も手伝うよ!」
「待ってください。私も戦わないと……!」
「支援も勿論大事ですが、怪我をしておられるのを放ってはおけませんよ」
「そうよ。戦う気があるのならなおのこと備えなきゃ!」
 頷き、鞄から薬を取り出すメトロノーム・ソングライト(ka1267)。
 前に出ようとする真美を、シェルミア・クリスティア(ka5955)が問答無用とばかりに連れて行き――。


 ――あの時現れた歪虚に間違いないわね。……といっても別個体かしら。私が腕を斬り落とした奴はいないみたいだし。
 とはいえ、仲間を連れて戻ってきたのならある意味狙い通りね……。
「手筈通り行きましょう!」
「さあ、一気に倒させてもらおうか! 征くぞ!」
「了解しました。援護します」
 そんなことを考えながら抜刀し、先頭に立つ橋姫に狙いを定めるユーリ。
 走り出したフラメディアに合わせて、刹那も歪虚を囲い込む。
「ちょっと染みるかもしれませんけど、我慢してくださいね」
 その後方。確認しつつ、テキパキとヒーリングポーションで真美の抉られた腕の手当てをするメトロノーム。
 シェルミアが出してきたのは愛らしいフリルリボン。それで己の傷を押さえようとしているのを見て、少年が慌てる。
「あの、折角のリボンに血がついてしまいますから……!」
「いいの! 気にしないで! 間に合わせの簡単な処置だけどしないよりはマシだと思うから、後でちゃんと診てもらってね」
「……すみません。ありがとうございます」
「いいえ。当たり前のことをしただけですよ。……動けますか?」
「はい」
「じゃあわたし達も行こう。皆頑張ってるみたい……というか、一部怖いし」
 メトロノームの穏やかな声にこくりと頷く真美。
 シェルミアの目線の先には、仲間達をすり抜けてこちらに向かおうとしている橋姫と、剣呑な雰囲気を漂わせる時澄とラースの姿があった。
「……今の俺は殊更機嫌が悪い。生きて帰れると思うな」
「ええ。友を傷付けたというなら、容赦はできないわ。覚悟なさい!」
 ――歪虚はここで全て食い止める。
 そんな気迫を感じる2人。
 2体はユーリとフラメディアが引きつけている。が、残りが一気に押し寄せる……!
 1体づつ引きつける時澄とラース。
 残りの1体がすり抜けようとしたところを、零次が横から殴りつけた。
「そうはさせるかよ! お前の相手はこの俺だ!!」
 零次の叫び。歪虚の身体にめり込む拳。
 感じた手ごたえ。飛翔撃を間違いなく当てたはずなのに、さほど吹き飛んでいない。
 ――こいつ、強ぇな!
 彼がそう思った途端。橋姫からこの世のものとは思えない絶叫が上がる。
「な、なにこの声……!」
「うんざりする煩さじゃな……!」
 思わず耳を押さえたくなる声に顔を顰めるユーリ。
 ぐっと堪えて、フラメディアが巨大な斧で橋姫の爪を何とか受け止める。
 重い一撃。何とか弾き返したが、身体が傾ぎそうだ。
 現状は1対1を保ち、戦況は均衡している。
 遊撃として動き回っている刹那もまた酷い顔をしていた。
 今のところ酷い行動阻害を受けているものはいないようだが、この絶叫が続けばどうなるか分からない。
 一刻も早く、このけたたましい叫びを何とかしなければ……。
 刀を収めたまま、距離を詰める時澄。
 閃く刀。素早く踏み出し、敵の逃げ道を断ちながら与えた一撃は、橋姫の喉を一文字に切り裂く――!
「……叫び声が鬱陶しいなら、声を出せなくしてしまえばいいだけのことだ」
「うわ。時澄さんえげつない……!」
「俺は今機嫌が悪いと言っただろう」
「そうでした。でもそれ正解です!」
 苦笑するラース。
 喉を切られ、橋姫は悲鳴をあげることも出来ずに腕を滅茶苦茶に振り回す。
「……手負いの獣とは良く言ったものじゃな。ああいう状態が一番危険じゃ。気を抜くな!」
「分かっている」
 フラメディアの鋭い声に頷く時澄。
 1体でも沈めてしまえば均衡は崩れる。そうなればこちらのものだ……!
 そして、メトロノームは聞くに堪えない叫び声に可愛らしい顔を歪めていた。
 叫び声は魔法によるものではないらしく、カウンターマジックが効かない。
 それゆえにイライラも急上昇である。
「……黙りなさい!」
 思わず出た呟き。彼女の歌に喚び出され、傍に控える雷纏う双角虎。そこから放たれる白雷は真っ直ぐに橋姫に伸びて……。
「――ァア!」
 橋姫の絶叫ではない、短い叫び。
「貰いました……!」
 その隙を逃さず、風のように疾る刹那。横に薙ぐ剣。すれ違いざまに歪虚を切り裂く。
「ユーリさん! お願いします!」
「任せて! 今回は狩らせてもらうわよ! あんた達のご主人様を引きずりだす為にね……!」
 刹那の声に応えるように踏み込むユーリ。同時に身体を落とし、その反動で一閃する――!
 崩れ落ちる橋姫。
 時を同じくして、フラメディアの渾身の一撃が、歪虚を肩からばっさりと両断。
 2体目の橋姫が悲鳴をあげて消えていく。
「さすが! 支援の必要なかったですね!」
「そうでもないぞ、刹那殿。歪虚はまだ残っておる……!」
「行かせるものですか! これ以上シンさんは傷つけさせない……!」
「妙な声あげやがってうるせえんだよ!」
 均衡が崩れ、ハンター優勢となった戦況。
 刹那とフラメディアの目線の先では、真っ直ぐに真美を目指す歪虚と、足止めをしようと食らいつくラースと零次の熾烈な争いが繰り広げられていた。
「ラースさん達が……!」
「うん、助けないとね。怖かったりすると思うけど、大丈夫。わたし達が居るから、やってみよう?」
「はい……!」
「落ち着いてやれば大丈夫。符に力を込めて……」
 シェルミアの声に頷く真美。
 ――初めて戦った時もそうだった。
 ハンター達が支えてくれて……今もこうして守ってくれようとしている。
 私はそれに、応えなければ――!
 真美とシェルミアから放たれる符。
 橋姫の視界を桜の花びらが覆い、咆哮をあげようとした橋姫。
 そこに、シェルミアが張った結界が発動し、眩い光が歪虚を焼く。
「うおおおおお!!」
「迷わずに逝きなさい……!!」
 そこに決まる零次の一撃。吹き飛んだ橋姫は避けることも叶わず、ラースの剣に真っ二つにされて消えていく。
「シン! 怪我はねえか!?」
「はい! 大丈夫です!」
「いい返事だ!」
 真美の声にニヤリと笑う零次。
 その短い間。風を切る音。閃く刀。
「消えろ……!」
「相手が悪かったですね。さようなら」
 時澄と刹那の一閃が叩き込まれて……4体目の橋姫が崩れ落ちて、消えた。
「……勝負あった。これ以上やっても無駄じゃ。去ね!」
「死にたいなら相手をしてやってもいいがな」
「私達はそれでも構わないですよ?」
 残った橋姫を睨みつけるフラメディア。
 既に最後の1体。満身創痍で、戦うことは出来まい……。
 凄む時澄と刹那。
 目的は果たせぬと覚ったか、歪虚はじりじりと後退を始める。
「帰るの? じゃああんたのご主人に伝えなさい。……隠れても無駄よ、必ず見つけ出すってね」
「あー! 待って! これ持ってって!」
「シェルミアさん、それ何です?」
「えへへ。わたしも犯人さんに伝言頼もうと思って」
「あらあら。大丈夫ですか? それ……」
 走り去る橋姫に声をかけるユーリ。シェルミアは慌てて手紙を押し付ける。
 その背を見送りつつ、メトロノームは冷や汗を流した。


 橋姫達を撃退したハンター達は、真美の希望で城には戻らず茶屋に移り、一室を貸し切って顔を突き合わせていた。
「周囲を探ってきたけど、橋姫らしき姿は見えねえ。あいつら以外はいないようだな」
「そうか。……シン、怪我の具合はどうだ」
「大丈夫です。時澄兄様もご無事で良かったです」
「あら。時澄さん、いつの間にシンさんのお兄さんになったんです?」
「ああ、先日な」
 戻って来た零次に頷く時澄。彼の言葉に、真美は素直に頷く。
 その様子に目を丸くしていたラースは、思い出したように少年に向き直る。
「シンさん、私達に話したいことがあるそうですね」
「はい。この詩天の国の成り立ちについて……。あと、巫女と符術師が消えている理由について、皆様にお話ししないといけません」
「ほう。誘拐事件の理由が分かったのじゃな?」
「憶測でしかありませんが……」
 目を見開くフラメディアにこくりと頷く真美。零次が恐る恐る口を開く。
「……あのさ。それって難しい話か?」
「聞かなければ先には進めないことは確かですね」
 難しい話は苦手だとボヤく零次にピシャリと言い返すユーリ。
 彼女に目線で促されて、真美はゆっくりと語り出す。
「……この詩天は、かつて『死天』と呼ばれ忌み嫌われていました。理由は、龍脈から力を取り出して様々な物に転用した陰陽師がいたからなのですが……」
「ん? ちょっと待って。龍脈の力を使うのは別に間違いじゃないよね。だって、天ノ都だって黒龍と龍脈の力を使って守ってたんだから」
「それは、まさに正しく……『正のマテリアル』の力として使われていたからですね」
 そう。エトファリカの天ノ都。そこでスメラギは御柱として黒龍と龍脈の力を使っていた。
 それ自体は禁忌ではないはずなのに――。
 シェルミアの問いに、真美は悲しげに眉根を寄せて……メトロノームは察したように息を飲む。
「その陰陽師は龍脈の力を正しく使わなかった……そういうことですね……?」
「そうです。初代詩天は龍脈の力を『負のマテリアル』に変換して、利用したんです」
「……それで、この国は『死を齎すものが住まう土地』と呼ばれたのか」
 時澄の呟きに真美は目を伏せたまま続ける。
「最初は、正しく……歪虚から国を守る為に編み出した技術だったと聞いています。強い力を持つ兵器は近隣諸国からも持て囃されたそうです。それは国を豊かにし、国の祖を作り上げるまでになりました」
 そして、初代詩天はその研究に傾倒し、更に強力な兵器を作り上げようとした。
 その果てに、ヒトが手を出してはいけないところまで到達してしまった……。
「……それが『死転の儀式』。龍脈に流れる力を負のマテリアルに変換する儀式です。具体的にどういったことが出来るのかまでは伝承では伏せられていましたが、巫女、もしくは符術師の力を必要とするとありました」
「巫女や符術師達が消えているのも、その『死転の儀式』の為と考えられる訳ですね……」
「橋姫とかもその力を使って生み出したのかな」
 何てこと、と首を振るメトロノームにうーんと考え込むシェルミア。それまで黙っていた零次が口を開く。
「なあ。その敵の大将は、巫女や符術師を大量に集めてんだよな? ……それで一体、何しようってんだ?」
「その行動に出るということは、主犯……秋寿さんでしたっけ。その人にはその儀式について知識があるんですよね。そこも気になりますね……」
「そこは私にも分かりません。どうやって秋寿兄様が『死転の儀式』について知ったのか。歴代の詩天達は過ちを繰り返さぬ為に、詳細は敢えて遺さなかった筈なのに……」
 刹那の呟きに、ため息をつく真美。
 出ない答えに続く沈黙。
 それを破ったのはフラメディアだった。
「そもそも犯人は『秋寿』ではない何者か、という可能性はないのかえ?」
「……私もそれは考えていました。秋寿さんは千石原の乱で亡くなられて……利用されているのではないかと」
 躊躇いがちに言うラース。
 真美は、秋寿の生存に希望を抱いている。
 それを打ち砕くようなことを言いたくはなかったけれど、でも……。
 『秋寿』が『秋寿』ではない、というのなら。雰囲気が変わったというのも説明がつく。
「秋寿が歪虚であろうが、生きた人間であろうが……秋寿派の者達には既に協力している者もいると考えるのが妥当だ。あの容姿はかなり目立つ。ここまで長期に潜むというのは、協力者無しには難しいだろう」
「うむ。その儀式とやらを成す為に、今後もシン殿が狙われる可能性が高いじゃろうな」
 気遣いながらも断言した時澄とフラメディアに、真美はそうですね……と小さく頷く。
 その表情は、どこか思いつめていて……。
「……シンさん。念のために初代詩天の名をお伺いしてもいいですか?」
「はい。初代の詩天は三条 仙秋と言います」
「さんじょう、せんしゅう……」
 その名を噛み締めるように繰り返すユーリ。その横でメトロノームが顔を曇らせる。
「お家騒動の果てに……ですか。組織というものはどこもかしこも、このような話ばかりですわね」
「うーん。皆好きでそうなってる訳じゃないと思うけど……色々な人が絡むと難しいよね」
「そうですね……。私は詩天の血を引くものとしての責任があります。民の安寧を守る義務もあ……」
 肩を竦めるシェルミアに頷く少年。刹那に抱き寄せられて言葉が続かない。
「シンちゃん、今日は良く頑張りました! 頑張る子はお姉さん大好きよ!」
「わ、ぷ……!」
「刹那さん、胸でシンさんが窒息しちゃいますよ……! シンさん、色々お話しして下さってありがとうございました。困ったことがあったらいつでも呼んでください」
「うん。お姉さんも協力しますよ!」
「おう。良く分かんねーけど、ちびっこを狙うのはロクなもんじゃねーからな。ぶっ飛ばす!」
「いいか、くれぐれも一人になるんじゃないぞ」
「うむ。あまり無理はするでないぞ?」
 優しいラースと刹那の声と、元気が有り余る零次の声。
 心配そうな時澄とフラメディアに、少年はようやく笑顔を見せた。


 橋姫を撃退し、死天の意味を知ったハンター達。
 道中を心配した彼らに送られて城に戻った真美は、暫くしてとある人物から手紙を受け取り――。
 事件は、一気に動き始める。

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MVP一覧

  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那ka3984

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • 内助の功
    ラース・フュラー(ka6332
    エルフ|23才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/12 01:31:35
アイコン 真美を守る為に相談
シェルミア・クリスティア(ka5955
人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/09/14 10:24:28
アイコン 質問卓
シェルミア・クリスティア(ka5955
人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/09/14 19:59:33