• 蒼乱

【蒼乱】ドラグーン・ブルース2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/23 19:00
完成日
2016/10/06 19:04

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「みんな……一体どうしたっていうんだ!?」
 南方の乾いた大地は砂漠を超えるとやがてゴツゴツとした黒岩の世界に変わる。
 マグマ滾る火山地帯はあらゆる生命を拒絶する場所だ。かつてそこには多くの強欲竜が眠っていた。
 六大龍の一柱である赤龍の眷属たちは、ここで王の不在を守り、長い長い年月を過ごしてきた。
 この南の世界は何もかもが滅んでいる。とうに人類の姿など見当たらなくなって久しい。
 闘うべき、襲うべき者すらなくした彼らは、膨大な時を、しかし安らかに過ごしていた筈だった……。
 だが、戦場から戻ったエジュダハが見たのは、猛り狂う同朋の姿。
 眠りから目覚めた竜達は、守るべき王の城を留守にし、どこかへ飛び出していく。
「誰が出陣を許可した! 僕は一言も命令を下してはいないぞ! 皆戻るんだ!」
『ほう……オマエがこいつらの指揮官か?』
 振り返ると、溶岩が作ったいびつな岩山の上に一人の男が腰掛けている。
 長大な剣を纏った黒装の騎士。感じられる負の力は歪虚のモノ……だが、こんな歪虚は何百年も見た覚えがない。
「君は一体……? 君が同胞たちをそそのかしたのか?」
『オレは黙示騎士マクスウェル、深淵に仕える者よ』
 ゆっくりと立ち上がるマクスウェルの姿にエジュダハは額を抑える。
 ズキズキと痛む頭の奥。そこで彼は、自身がまだ“龍”であった頃の記憶を垣間見る。
「君は……まさか……」
『そう。オレはこの狂った世界の外側より来た。“オマエらを滅ぼした者と同じく”な』
 圧倒的な力を誇る、星の防衛装置である赤龍ですら屠った外敵――。
 その滅びを前に、生前のエジュダハは成すすべなく倒された。その記憶に思わず拳が震える。
『フン。この地の強欲はどうなっている? まるでやる気が感じられん』
「当然だ。僕らは王の留守を預かった者、簡単に聖地を離れるわけにはいかない。君はどうやって同朋を動かしたんだ!?」
『簡単なことよ。オレの力でほんの少し後押ししたまで。フン、何が留守を預かるだ? 馬鹿馬鹿しい! 歪虚に後退などあり得ん! 突き進み全てを滅ぼす宿命よ! モノに執着する強欲と言えども行き過ぎているぞ、オマエ』
「黙れ! 別世界の歪虚の話など聞いていられるか! 僕は皆を止める! 戦いはもう終わってるんだ!」
『はあ? 見ろ、この世界はまだ生きているではないか。“終わっている”のはオマエのほうだ』
「黙れええええええっ!!」
 光の槍を構築し襲いかかるエジュダハ。しかしマクスウェルはその一撃を軽々と受け止める。
『いつまで生物気取りだ? 歪虚の面汚しめ……オレの前から消え失せろ!』
 紅い光を纏った大剣の一撃はオーラを伴ってエジュダハを襲う。
 膨大な赤い光はエジュダハの身体を飲み込み、吹き飛ばしていった。

「やはり、共には来ないのだな」
 随分と昔の事だ。北へ飛び去る同朋を見送りながらエジュダハは頷いた。
「僕はやっぱり、ここが好きなんだ。皆で暮らしたこの場所が……。嫌なこともあったし、ここにはもう何も無いけれど、僕は皆の帰ってくる場所を守りたい」
「やれやれ……そんなだから臆病者だと言われるのだ。ヒトを滅ぼさぬ限り王の痛みは癒えぬというのに」
「本当に……そうなのかな?」
 強欲王は寡黙で、心を他人に明かしたりはしなかった。
 それは彼が星の防衛装置としての自負に誇りを持ち、弱さを許さなかったからだ。
 どんな時もその背中で龍の規範を示した王が、ヒトや世界を恨んで最期を迎えたとは、エジュダハには思えなかった。
「確かに王のお心はわからぬ。だからこそ、私達は憤るのだ。狂った世界の運命が王を殺したのは事実。そしてそれはやがてこの星そのものを滅ぼすだろう。誰かが止めねばならん」
「まるでまだ守護龍をやってるみたいな口ぶりだね、ザッハーク」
「ぬ……? ふん、まったく。貴様は口だけは達者よな」
 友は光の翼を広げ、空へ舞い上がる。
「去らばだ、我が友。きっと全てを終わらせ、私達は帰ってくる」
「うん。さよならだ、僕の友達。きっとまた会おう。この世界の終わりを、一緒に見るために」
 約束だと言って、友は飛び立った。
 それから何日も、何年も、何十年も、何百年も時が過ぎた。
 ずっとずっと帰りを待ちわびていたから、この地に異物が入り込んだ事にも直ぐに気づけた。
 そして向かった戦場で、エジュダハは王の真実を知ったのだった……。

「砂漠の中に遺跡……これって、元々南方にも人類が暮らしてたって事なんでしょうか?」
 篠原神薙はそう言って珍しげに砂に沈んだ石造りの建造物に触れた。
 砂漠の中にある小さなオアシス。その周囲には崩れた幾つかの建造物が並んでいた。
「龍ってそこまで器用じゃないから、リグ・サンガマでも神殿とかは全部人間が作ったそうです。これはリグ・サンガマともデザインが違うし、この南方独自のものですね」
 手帳に遺跡の様子を書き込む神薙。
 ゲート探索のためにこの砂漠を徘徊し始めてそれなりの日数が経つ。
 拠点の作成は完了しているが、あまりにも広大すぎる砂漠の調査は難航し、未だゲートに辿りつけずにいた。
「やっぱり闇雲に探して見つかるものじゃないのかなあ……」
 その時だ。砂漠を覗く双眼鏡の視界の中に、倒れた人影を見つけたのは。
 慌てて確認に行くと、そこには胸に大きな傷を負ったエジュダハの姿があった。
「エジュダハ!」
「君達は……良かった、また会えて。謝りたかったんだ……僕は……約束を果たせなかった」
「どういう事? 何があったんだ!?」
「君達の拠点に、僕の同朋が向かってる……。頼む、彼らを止めてくれ……彼らは無理矢理戦わされているんだ」
 なんとか立ち上がり、エジュダハは翼を広げる。
「僕も一緒に行く」
「その傷じゃ無理だよ!」
「いや、これは僕の使命なんだ。最後まで役目を成し遂げたザッハークに恥じぬよう、僕も行かなきゃ」
「……わかった。でも、俺達も一緒だ」
 エジュダハはハンターらにゆっくりと頭を下げた。
 こうして急ぎ、ハンターらは来た道を引き返し、拠点を目指すのであった。

リプレイ本文

「くそ、やっぱりもう戦闘中か!」
 イェジドのルドラに跨がり、テオバルト・グリム(ka1824)が舌打ちする。
 キャンプには既にロードランナーが多数入り込み、応戦する人類軍との戦闘が始まっていた。
「間に合わなかったのか……僕は」
「こちらも友軍の命がかかっている。必要以上の情けはかけられぬが、無理矢理戦場に駆り立てる狂化は気に入らぬ」
 飛行しながら悔しそうなエジュダハへ、神薙を戦馬の後ろに乗せた銀 真白(ka4128)は手綱を強く引く。
「斬れば思惑通り、それも業腹……出来る限りの努力はしよう」
「よし、このまま拠点に突っ込むぞ!」
 近衛 惣助(ka0510)は魔導トライクを更に加速させ、砂を巻き上げながらキャンプへ突入する。
 そのサイドカーから飛び出したのはレイア・アローネ(ka4082)。
 すぐ近くで襲われていた兵士を庇い、ロードランナーの牙に魔剣を咬ませる。
「近衛、ここまでの足、感謝する!」
「お安い御用だ。竜の相手は俺達がやる、急げ!」
 倒れていた兵士が惣助の声に弾かれるように走り出す。
 威嚇射撃で走竜らの動きを封じようとする惣助だが、竜はひたすらに暴れ続け、あまり効果が感じられない。
 それどころか、竜は人間以外、つまり攻撃してもさして意味のないキャンプの建造物まで執拗に攻撃し続けている。その様子はとても理性的な襲撃には見えなかった。
「エジュダハ、彼らの暴走を止められないのか!?」
「皆、僕の声を聞いてくれ!」
 レイアに言われるまでもなく呼びかけを行うエジュダハ。しかし、そのエジュダハに対しても竜は牙を剥く。
「馬鹿な、僕に攻撃するなんて……!?」
 腕を噛まれたエジュダハだが、直ぐに真白がその竜を振動刀で斬りつける。
「エジュダハには悪いが、どうやらそう安々と目を覚ます類の呪いではなさそうだ」
「狂奔の竜族か……歪虚になっても何かと苦労してるよな。なるべく穏便にやりたいとは思うけど、結構厳しそうだな!」
 テオバルトは闇雲な敵の攻撃をかわしつつ、足などの部位を狙っていく。
 特に足を負傷すれば普通は動きが鈍る。だが、走竜らは砂を這ってでも襲いかかろうという様子だ。
「まいったな。何がこいつらをそうまでさせるんだ?」
「ともかく今は避難が優先だ。敵を惹きつけなければ」
「はいよ。ま、やるだけやってみるさ!」
 真白とテオバルトはそれぞれソウルトーチを発動。すると、竜達は露骨に反応を示す。
 理性的に攻撃目標を定めているわけではない彼らにとって、このスキルの効果は想像以上だ。
「よし……今の内にこの場を離れろ!」
 声掛けしながら戦うレイア。惣助は倒れていた兵士を助け起こし、トライクのサイドカーに載せる。
「トライクのキーだ。あんた運転できるか? 俺は残って戦うから、こいつは好きに使ってくれ」
 兵士の一人に運搬係としてトライクを任せると、惣助も銃を構え仲間の所へ戻っていった。

 拠点へと向かうのはロードランナーだけではない。やや遅れ、飛翔する炎竜と大地を走る岩竜も雪崩込もうとしていた。
 強力な力を持つ大型竜種が何体も突っ込んでくれば、もう救助どころではない。なんとか直近で足止めする必要があった。
「そっちには行かせない! 皆が頑張ってるんだから!」
 レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)のドミニオンMk.IV改のスラスターライフルは、遠距離から炎竜を射程に捕らえていた。
 轟音と共に弾丸を連射するチェーンガンの攻撃は、距離もあいまって炎竜に直撃はしなかったが、注意を引くことはできた。
 巨大な薬莢が降り注ぐ合間を潜り抜け、アルファス(ka3312)のイェジド、グラニがぐんと加速する。
「狂化による強化、あの巨体……手加減は厳しいか」
 疾走するグラニの背で陰陽符を引き抜き、術を発動する。
 発射された三つの三鈷剣の幻影が飛翔する翼を狙う……が、炎竜は翼を畳んで急降下でこれを躱すと、そのままアルファスへ突っ込んでくる。
 大量の砂と共に空に投げ出されたアルファスとグラニ。砂の中に敵を探せば、口を開いてブレスの体勢に入るのが見えた。
 火炎の奔流が二人の影を容易にかき消す。だが、獣盾を纏ったグラニは炎からアルファスを庇い、そのアルファスは炎を超えて青竜による雷撃を放った。
 吼える炎竜、そこへレホスの銃撃が届く。今度は着弾するが、頑強な竜の鱗を貫くには至らない。
「チェーンガンで貫けないって、硬すぎだよ!」
「グラニ、大丈夫かい?」
 まだ燃えている身体を砂にこすりつけ、健在を誇示するように吼えるグラニ。
「この間の竜よりかなり高位らしい。これは思ったより時間がかかるかもね……」

 一方、砂丘を疾走する二体の岩竜。それぞれにHolmes(ka3813)と岩井崎 旭(ka0234)が対応する算段だ。
「エジュダハ君の思いは尤もだけど、平和的に解決する為には優先順位を違えぬようにしなければね」
「ああ! エジュダハは努力をした。今度は俺が努力する番だ! 止めるぜ、ここで!」
「その意気だ。そちらは任せたよ、旭君。そしてこちらは任せてくれたまえ」
「応よッ! い、く、ぜぇえええっ!!」
 二人を乗せたイェジドがそれぞれ正反対の方向へ別れる。
「難しい注文だ。厄介な依頼だ。それでも頼まれたからには叶えないとね」
 Holmesは全身にマテリアルを巡らせ、霊呪の力を高める。
「霊呪の深淵よ、この身に宿る真実を成せ。奥義――!」
 現界せしものを発動し大きな幻影を纏ったHolmesは、イェジドのВасилийに運ばれ岩竜へ迫る。
 大鎌を振るい、獣の咆哮で威圧するも、岩竜に反応はない。
「ふむ、正気に戻る気配はなしか。それどころか眼中になし。仕方あるまい、少しキツめの目覚ましだ」
 力いっぱい足を斬りつけると、流石に無視できなくなったのか岩竜が体当たりを仕掛けてくる。
 一方、旭もイェジドのウォルドーフで並走しつつ足にハルバードを叩き込むが、岩竜は停止に至らない。
「暴走で身体のタガが外れてるってのか? 痛覚もないみてーだし、力もトンでもねーことになってそーだ」
 旭の言う通り、以前にも増して岩竜は決死の疾走を続けている。
 それは襲う為のものなのか、それとも何かから逃れる為のものなのか……。
「これからテメーをぶっ飛ばしてでも止める! 痛ェだろーけど、我慢しろ! 正気に戻ったんなら、文句はいくらでも聞いてやるからさ!」

 キャンプではテオバルトと真白が走竜の注意を引き続けていた。
 ハンターらは可能な限り敵を殺さず部位攻撃などで戦闘力を削ぐ戦いを心がけていたが、効果は芳しくない。
 狂乱する竜たちは、何が何でも戦いを止めようとはしなかった。それこそ、身体の一部を失ってもだ。
「いいぞルドラ、押さえ込むんだ!」
 ルドラが走竜を押し倒す。それをロープで縛りたいテオバルトだが、敵に狙われ自衛が忙しい。
「そもそもこりゃ、ロープでどうにかなるのか~……!?」
 凍結弾で撃ち抜き行動阻害を与えていく惣助だが、やはり完全に動きを止める事は難しい。
「くそ、だめか……」
「皆がここまでしてくれているというのに……何故だ。そこまでニンゲンが憎いのか?」
 ままならない現実に打ちひしがれるエジュダハ。
 襲いかかる走竜を最初に切り捨てたのは、真白だった。
「各々力は尽くした。その上でどうにもならぬというのなら、切り捨てるも已む無し」
 元々既に弱っていた走竜達だ。真白の刀の一振りに耐えられるはずもなく、即座に絶命する。
 それは難しい判断だ。薄々誰もが“そう”感づいてはいた。この場で最もそれができたのが、真白だっただけのこと。
「うう……。すまない、みんな……すまない」
 そう言ってエジュダハも光の槍を作り、走竜の首を貫く。
 自らがそうする事が、これまで努力したハンターへの義理でもあった。
 テオバルドは悲しげに眉を潜め、素早く刃を連続で奔らせる。
 苦しめたかったわけではない。彼らを救いたかった。だが結果として力を削ぐために長く傷つけてしまった彼らを救うには、なるべく痛みなく急所を狙うしかなかった。
「守らなきゃいけないものがあるんだ……だから、ごめんな」
 頭を振り、惣助も狙いを新たにする。もう足や腕を狙ったりはしない。
 凍結弾の一撃は走竜の胸を、そして頭部を貫き、塵へと還していく。
「戦意なき者達を斬らせるなど……非道な……!」
 悔しげに、しかし渾身の一撃で走竜の首を斬り落とすレイア。
 元々、走竜達はさほど強い歪虚ではない。ハンターらの効果的な作戦もあり、弱りきっている。
 それに止めをさしていくだけならば既に戦いではなく、作業に近い。
 一通りの敵を塵に還しても、ハンターらの胸には虚しさだけが残っていた。

 巨体でありながら大きく力強く、そして疾く飛翔するフレイムドラゴンは、アルファスの頭上を抜けてレホスへ向かう。
 上空から連続で発射される火炎弾はCAMシールドを構えてもかなりの爆発力で、コクピット内のレホスを揺らす。
「エジュダハの希望には沿いたいけど……あんな相手に手加減なんてしてたら、あっという間にやられる!」
 ダメージを知らせるアラートを耳にすると鼓動が高鳴る。
 気分はいつも最悪だ。あの日からずっと頭にこびり着いた悲鳴が消えない。
 スラスターライフルの照準を合わせ、引き金を引く。敵は素早く、中々攻撃は当たらない。
(これまで沢山のものを取りこぼしてきた。そんな私が誰かの為に戦おうなんて……誰かの分まで生きようなんて。そんなの相応しくないってことは、わかってる)
 まばゆい太陽の光に目を細める。銃声で耳鳴りがする。
 ここはとにかく暑い。滝のような汗は頬を流れ、喉を伝う。
(でも、イヤなんだ。何もできずに止まっているのは……だから……)
「力を貸して……ドミニオン!」
 チェーンガンの軌跡が炎竜を捕らえ、その影が失速する。
 地を駆けそれを追っていたアルファスは、高度を下げる竜を狙い三鈷剣を放つ。
 次々に竜の身体に突き刺さる三鈷剣の威力は高く、ついには翼を食い破るにも及んだ。
 片翼を失い不時着した赤竜だが、未だ正気を取り戻す気配はなく、火炎で迎撃してくる。
「やめるんだ! 僕達は君達を止めに来ただけだ! 命まで取るつもりはない!」
 叫びながらアルファスは冷静に、過去の体験から理解していた。
 あの赤龍、強欲王メイルストロムでさえ、狂化に抗う事はできなかった。
 発生源を倒さない限り、解除は困難である事、そして恐らく目の前の竜は救えない事も、わかっていた。
 その上で声を掛け続ける。僅かな可能性を信じて……しかし、この炎竜は非常に強力だ。
 この戦場における最強の敵を相手に、できる加減も限られていた。
 未だ健在の敵に対し、三鈷剣を放つ手を緩めるわけにはいかなかったし、レホスもチェーンガンのトリガーを引き続けた。
 それでも止まらず、炎竜はその爪で襲いかかる。幸い雑な攻撃に対処はできているが、大人しくさせるためには、相応の攻撃が必要とされたし、この場を離れることは極めて困難であった。

 並走する岩竜の幅寄せによる追突は、質量差もありかなりの威力だ。
 悲鳴をあげるВасилийに、心を痛めながら、Holmesは攻撃を続ける。
「申し訳ないが、意地を張らせて貰うよ。付き合って欲しい、Василий」
 最初から全力で当たったHolmesの判断は正しく、敵は早い段階から失速を開始。
 完全停止には至っていないが、拠点まではまだ距離的に余裕があった。
 自らの傷は自己再生しつつ、足へ続けた攻撃が功を奏し、岩竜の動きが鈍る。
 岩竜は炎竜ほど強くはなく、機動力も足に完全に依存。反対側の足も破壊すれば、前進を止められる算段だ。
 一方、旭もハルバードによる足の破壊に乗り出していた。順調に片方の足を破壊し、反対側へ回り込む。
「意地でも止まらねーってか!? その根性は別の所で使えよな!」
 もうキャンプは目と鼻の先だ。あまりもたもたしている時間はない。
 ウォルドーフで並走しながら両方の前足を破壊した旭だったが、それでも這うようにして岩竜は前進を続ける。
「いい加減に……目を覚ましやがれ!」
 進行方向に回り込んだ旭はウォルドーフから飛び降りると奥義を発動。
 現界せしもので巨大化した腕に炎のようなマテリアルを纏い、その拳で岩竜の顔面を殴り飛ばした。
 これに堪らず悲鳴を上げて動きを止める岩竜。それを確認し、旭はまだ動いているもう片方の岩竜を手伝おうと、Holmesと合流した。

 結論を言えば、まともに生け捕りにできたのは二体の岩竜だけであった。
 強力な炎竜を二人で対処したアルファスとレホスは大金星と言えたが、相手の凶暴性と機動力から生け捕りは非常に困難だった。
 結果として人手不足も相まって撃破するしかなく、キャンプに向かったハンターらと合流したのは、事が片付いた後だった。
 岩竜だけは足を破壊されると自重で機動性が極めて低くなるという性質が功を奏し、二体仲良く砂漠で立ち往生していた。
「やれやれ……中々の長丁場だった。無理をさせたね、Василий」
 イェジドの身体を撫でながら溜息を零すHolmes。旭はエジュダハと共に岩竜に呼びかけ続けるが、反応はない。
「くそ、何度やってもダメか……! おい、いい加減に目を覚ませよ!」
「無駄だよ、旭君。私も試したが、そもそも彼らは今、恐怖を感じていない。と言うより、心そのものが壊れてしまっているのかもしれないね」
「キャンプを襲撃してきた竜らも同じだ。痛みや恐怖と言った生物らしい感情は持ち合わせていなかった」
 Holmesに続き、レイアが首を横に振る。
「エジュダハ、彼らを狂わせた相手は……?」
「マクスウェル……とか言っていたかな。ここらでは見ない歪虚だった」
「マクスウェル……あの時の。狂気には赤龍でも抗えなかった。だからザッハークは人間と共に王を救い、未来を僕らに託した。彼は言っていた。『我々では掴めなかった“明日”を。ほんの少しでも……愛のある結末を……』と」
 アルファスの言葉に驚いた様子で、エジュダハは僅かに笑う。
「はは……彼がそんな事を」
「ザッハークは『生きていた』よ。彼には魂があって、意思と心があった。身体は歪虚でも、彼は誇り高き龍だった。だから、今ここにも救える命があるなら少しでも……そう思っていたけど」
「ちげーだろ。お前ら強欲は、赤龍の眷属ってのは、凶暴だけどもっと真っ直ぐで誇り高い戦士みてーなのだったろ。狂ったように突き進むだけの、心が負けちまったよーな、それでいいヤツらじゃねーだろ!」
 旭の叫びが虚しく響く。だがどんなに声をかけても、岩竜が正気を取り戻す事はなかった。
 とうに答えは出ていた。操られた竜族を救う為に出来るのは、その存在を断つ事だけなのだと。
 砂に突き立てていたハルバードを引き抜き、旭は両手で身構える。
 既に動かぬ岩竜の眉間に眉間に突き立てた刃は、その願いの通り、竜を苦痛から開放したのだった。

「済まない……私達の力不足だ。恨んでくれて構わない」
「恨むなんてまさか。むしろ、僕の我儘に全力で答えてくれて、本当に嬉しかったよ」
 キャンプの被害はそう多くはなかった。しかしだからこそ、エジュダハは長居できない。
 少し離れた場所で身体にマントを巻いたエジュダハは、ハンターらにだけ別れを告げていた。
「ごめん。なんか、連合軍の人に説明するのも難しくてさ」
 神薙の言葉に首を横に振り、エジュダハはレイアの肩を叩く。
「ヒトに謝られるのはすごく久しぶりだ。ごめんね、レイア。君達もごめんよ。手加減しなければ傷も少なかったろうに」
「傷の一つや二つ、気に病み他者を詰るような鍛え方はしていない。心配は無用だ」
「ああ。なんていうか……悪かったな。あんまり力になれなかったみたいだ」
「その気持ちだけで十分だよ、テオバルト」
 毅然とした様子の真白。テオバルトは頬を掻き申し訳なさそうにしていたが、その言葉に苦笑を浮かべた。
「なんだか変だね。エジュダハはすごくいいヒトだよ。友達になれるんじゃないかなって思う。私の仲間は複雑な顔をすると思うけど……」
 そう言ってレホスは自らの胸に手を当ててみる。
 苦しみも後悔も消えない。だが願いはハッキリしている。
「私は、私が信じるものの為に戦うよ」
「僕も、君達と友達になりたい。本当はずっとニンゲンと友達になりたかったんだ。きっと、ザッハークや王様も……」
 ハンターひとりひとりの顔を確認し、エジュダハは光の翼を広げる。
「そろそろ行くよ」
「エジュダハ、傷はもういいの?」
「よくはないね。だから暫く身を隠すつもりだ。君達には話して置くよ。探し求めるものがどこにあるのか」
 そして、エジュダハは自分たちの拠点がとある火山地帯に存在する事を語った。
 北の星の傷跡と丁度遂になるような、地下奥底まで続く膨大なマテリアルを抱く、南の星の傷跡、その場所を。
「そこにマクスウェルが……。貴様だけは、必ず……!」
 握り拳を作るアルファスへ、エジュダハは頭を下げる。
「僕では勝てなかった。足手まといにならぬよう、今は傷を癒やすよ。また会える時には、僕の知る限りの王様の事を伝えるから」
「約束だよ。君も無茶して死んだら赦さないからね」
「あんたは約束を果たそうと努力してくれた! だから、マクスウェルの事は俺達に任せろ!」
 旭の叫び声に頷き、エジュダハは飛び立った。
「平和的解決か……。ブラストエッジの時は上手く行ったが、コボルドと竜じゃ危険度は段違いだ。ましてや相手が歪虚だってんだからな」
「まさしく難題だね。でも、見てご覧よ。それは思ったより単純な事かもしれないよ?」
 少し後ろで見守っていた惣助に、Holmesが声をかける。
 飛び去った竜が作った光のアーチはまるで虹のようだ。それを見送るハンターたちとの間には、確かな絆が感じられた。
 敵の本丸は明らかになった。そこがどのような場所かも、ある程度は聞く事ができた。
 短い時間の中で伝えられた手がかりを手に、ハンターらは決戦の地を目指す……。

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MVP一覧

  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリムka1824
  • 唯一つ、その名を
    Holmeska3813

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ウォルドーフ
    ウォルドーフ(ka0234unit001
    ユニット|幻獣
  • 理由のその先へ
    レホス・エテルノ・リベルター(ka0498
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ランチャードミニオン
    射撃支援型ドミニオンMk.IV(ka0498unit001
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ルドラ
    ルドラ(ka1824unit001
    ユニット|幻獣
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    グラニ
    グラニ(ka3312unit002
    ユニット|幻獣
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ヴァシーリー
    Василий(ka3813unit001
    ユニット|幻獣
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
アルファス(ka3312
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/09/20 21:43:11
アイコン 相談卓
アルファス(ka3312
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/09/23 11:25:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/18 23:06:39