• 猫譚

【猫譚】三匹の放浪猫

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/03 19:00
完成日
2016/10/14 05:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●割愛された大道芸
 彼らの預かり知らぬ所ではあったが、その日は縁日であった。往来には出店が並び、平時以上の活気を誇っている。広場やそこにつながる往来は人で溢れ、食欲をそそる香りで満ち満ちている。
 その只中に、いっとう濃い人だかりがあった。その中心で繰り広げられるのは――世にも珍しい、ユグディラ達の響宴である。
『ぬぁぁん!』
 豊満な体のユグディラが、気合を放ちながら片足立ちをしている。猫とは一味ちがう肩関節の可動域で、両の腕を斜めに突き上げるその姿はさながら鷹のよう。その頭にノッポを載せたまま、巧みなバランス感覚を示して、不動。
 デブの頭で、こちらも片足立ちをしているノッポが、冷然と告げる。
『来たまえ』
『にゃ!』
 言葉に、陸上に在るチビは頷いた。眼の前には、チビの背よりも高く積み上げられた、荷物の数々。四つん這いになった姿勢から――一気に、加速した!
『にゃにゃ!』
 ダッ、と両手両足を使って地を蹴った瞬間が最も早い。身を起こし、ドタドタと二本足で走り出すとすぐさま失速した。その瞬間、往来では喝采が上がった。チビが器用に積み上げられた荷物に飛び乗るにいたり、喝采が高まる。そして――静まり返った。
『にゃにゃにゃ……!』
 チビの眼前には、ノッポの背。目指すは、その両肩。そこを見据えながら、(彼にとっては)最大の速度を得た状態で、走る。
『ゴハーーーーーン!!!』
 声と共に、大跳躍!! チビは全力で荷物を蹴り出すと、その身が宙を舞った。グングンと迫るノッポの肩をきりっとした眼差しで睨みつけるチビであったが――思っていたよりも、視線の高さが、低い。
『にゃ!?』
 悲鳴とも歓声ともつかぬ人間達の声が響く中、チビは真っ直ぐにノッポの背に激突した。
『ぐわーーー!?』
『ぶにゃ!?』
 雄々しく悲鳴を上げるノッポ。唐突な挙動に、姿勢を保てないデブ。3匹は仲良く顔面から転倒した。



 最後の芸には失敗したが、バカ受けである。三匹はご満悦であった。
 彼らを囲む人間たちもだ。彼ら三匹の挙動を和やかに談笑しながら見つめている。
『さすが、知恵者だにゃ。狩りは下手だが』
『…………ぬぅ』
 両手で腹を揺するデブに他意はにゃいのだが、ノッポは小さく呻いた。
『次は! 次はニャするニャ!?』
 尾と耳を立てて嬉しげなチビに、ノッポは得意げに鼻をならし、髭を揺らした。やはり、同胞たちには、元気が似合う。
『おひねりは食べ物ゲンブツでどうぞ』
 と、ノッポが居住まいを正して告げるが、さっぱり通じない。凄まじい量の銭が投げつけられるが、腹の足しにはナリはしない。
 三匹は顔を見合わせた。
 ――そうだ、幻術でイメージを伝えればいい。
 三匹は同時に思い、同時にそれを行使した。

 ――ユグディラ三人組の前に置かれた銭は、その使いみちさえ覚えれば十分に腹などみたせようが、そんなこと、彼らには知りようもなかった。ガンナ・エントラータの町民達ですら、どこかに飼い主がいるものだと思っていた節がある。
 兎角、彼らは自らの欲す所を果たすべく、幻術を紡いだ。
 とはいえ、食べ物の持ち合わせがない者もいるだろう。今はこの、謎のおひねりを拾うことに集中する。

 三匹がおひねりを拾い終え、群衆を見回す。
 そこには――波のようなうねりが待っていた。


『ニャんじゃこりゃァ!?』
 デブの声が響いた。
『落ち着き給え。これは……』
『ニャニャニャ、ニャニこれ……!?』
 なんとか落ち着きを取り戻したノッポが言うが、チビもデブもそれどころではない。慌てふためく二匹を背に、思考する。周囲はあれよあれよという間に変じていく。波間の向こうに、大地が見える。気づけば周囲は森になり、静かな洞に変じる。
 それが、彼ら自身が辿ってきた道、そして、これから再び歩むであろう道と気づき、驚嘆した。
『自らの欲する所を為(ニャ)す……ニャるほど』
『ニャ、ニャニか解ったにゃ!?』
 独り、合点がいった。頷くノッポに、チビが尋ねると、
『これは、我らが真実願っていることが映し出されているらしい』
 ノッポは、この事態が強い願いによって幻術が暴走した、あるいは、増幅したのではないか、と見ていた。
『…………??』
『我らが忠臣である、ということだよ』
 理解が出来ない様子のチビに苦笑しつつ告げると、デブは、
『飯は……どうニャるというのだ……』
『……は』
 実に暗澹たる調子で、そう言ったのだった。そうだった。余りの事態に忘れていたが。
『――空腹、だった……ニャ……我らは……』
 冷静をもって口調を取り繕うことすらも忘れるほどの、空腹の波。はたり、とノッポは座り込んだ。元々低血圧、低血糖気味なのである。
『……無念』
『ニャ!?』
 そのまま壁にもたれ込むように、倒れ込んだ。慌てふためくチビだが、その横でデブも静かに昏倒している。『ニャニャ……ッ!? そんニャに蓄えてるのに……!?』
 このままでは、餓死してしまう。チビの生存本能が、かつて無いほどに刺激される。

 使命があるのに!!!
 強く、そう思った。だから。

『ふ、ふ、ふ』
 だから!

『ふにゃぁぁぁん……にゃぁぁぁぁん……』
 チビは、泣いた。どうしようもない事態を前に、号泣した。



 王国一の港町、ガンナ・エントラータの縁日と聞いて遊んでいたハンター達は、周囲の異変がまやかしの類であることに気づいた。長い間を経ても一切の危害が及ぶことはなかったからだ。

 困惑する人々が往来を動き回る。幻術の影響で、建物にぶつかったりするなどで、混乱も見受けられるが――祭りの運営をする第六商会の面々が駆けつけ、避難路の誘導をし始めている。

 その時だ。
 遠くに、猫の鳴き声が聞こえた。あまりにも哀切が滲んだ、泣き声のような。

 ――あなたは、そちらに歩を向けた。
 その理由は定かではないが、兎角、そうなった。



 ユグディラと、王国。
 後に明らかになったことだが、この騒乱の中で、少なくとも四つの集団が動いていた。
 黒大公ベリアル。
 グラズヘイム王国。
 ハンター達。
 そして――ユグディラ。

 『三匹の放浪猫』が港町を訪れているこの時はまだ、『何が起こっているのか』という全容を理解している者は、誰一人として、居なかったのである。
 そう。この時は、まだ。

リプレイ本文


「オヤオヤ、楽しいお祭見物だと思ったラ」
「リッチー、泣いてるにゃんこがいるよ! 助けなきゃ!!」
 突然の変容に混乱するただ中で、笑みを深めて動じずに居たアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)。一方で、ジュード・エアハート(ka0410)はすでに臨戦態勢である。
「賛成だケド、どうやッテ探そっか」
「……頑張る!」
 言い切って走ったそばから悲鳴があがり、アルヴィンはくつくつと笑いながら歩を進めた。

「っと、すまねえ!」
 ケイジ・フィーリ(ka1199)は、衝突をすんでのところで回避しつつ、叫んだ。しかし、疾走の足は止まらない。どこかで、猫の鳴き声が響いている。核心めいた響き。故に、走る。
「や、こっちこそ」
 ケイジをやり過ごしたラスティ(ka1400)はその背に呟くと、同じ声を聞いて軽く頭を掻いた。
(どうにも、猫に縁がある、な)
 ユグディラに縁が在る様子の彼の知人たちを想い、過去を想起した。黒いチビた猫と、銀色の老猫。
 隔たりの深さが、懐かしく、もどかしい。だから、ラスティは歩きだした。


 声の主の元に最初にたどり着いたのは連城 壮介(ka4765)。東方風の出で立ちの少年は、ナァナァと『泣き』続ける猫に気づき、すぐさま寄って行った。
「どうしたの?」
 荷を解きつつ言うが、一向に気づいた様子も無い。野生の猫ではこうも行くまい。それとも、『西方』ではこんなものなのか。お腹が空いているのかな、と。荷から食べれそうなものを取り出した、その時だ。
「こんな大規模な幻術が見れたと思ったら……」
 その背に、声が落ちた。振り返ると女性の姿が目に入った。ケイ(ka4032)という名である。どこか掴みどころの無い立ち居振る舞いの彼女はそのまま眼を細めると、
「どうしたの、猫ちゃん。ニャンニャン泣いちゃって……」
 いっそ、妖艶に、こう言った。
「可愛いわよ?」
「可愛いんだ……」
 思わず、胸中で人非人ですか、とツッコミをいれた。
「ええと……」
 気を取り直した壮介が猫の眼前に食料を適当においていくと、
「ナァン!」
 次の瞬間には、素早い動きで両の手で適当なおかずをつまみ、口元に運んでいた。ピンと背を伸ばしてはいるが、両手で器用におかずをひっつかんで食に没頭している。
「……君、随分器用だね」
 こっちでは色々な非常識ばかり目にするものだ、と壮介が思っていると、
「大変だリッチー、鳴き声がやんじゃったよ!」
「これだけの幻覚だし、さては死んじゃったカモ?」
「えー! 縁起でもない……って、あ! 居た!」
 声と共に、二人――長身の男性と、髪の長い、小柄な女性(?)が駆け寄ってくる。彼らの名がアルヴィンとジュードだと、後に知ることになる。

「ずあっ!?」

 何者かが、盛大にすっ転んだ気配に、一同の視線が集うた。とは言え、声の主は気にもとめずに、足元のそれに注視していた。
「……泣いてたの、コイツか!? ケガは……してねぇな。よし」
 転倒した青年ケイジが振り返った先に、『猫』がもう一匹、居た。巨体である。更に、
「や、もう一匹いるみたいだ」
 もう一人の青年、ラスティが、ひょろ長い猫の首をひっつかみながら、近づいてきた。どうやら、『猫』はもう一匹――いや、二匹居たらしい。さすがに騒がしくなってきたからだろう。周囲の状況に気づいた『猫』はハッと食事から我に返ると、周囲の人間たちを見て――。
「ナ、ナァァァン!」
 泣いた。


「おいチビ、泣いてちゃわかんねーだろ……」
 目の前で泣き叫ぶ様に、ラスティは頬を掻きながら、がさごそと荷を漁った。たしか、魚の干物と猫餌があった筈だ。
 どうやら、他の面々もその腹積もりらしく、あれこれと準備をしていた。一帯に、渾然一体となった食材の香りが満ちてくる。
「大丈夫だよ、ね? ……ん?」
 『チビ』を後ろ抱きにしたジュードは、鼻腔を擽る香りに気がついた。
 ――濃密な、潮の香り。港町のそれよりも濃い、外洋の香りだ。
「ヨシヨシ、怖かったネ。大丈夫ダヨー、僕達全然怖くナーイ♪」
 怪訝げなジュードをよそに、膝を曲げたアルヴィンが首元の鈴を鳴らすと、ピクピクとチビの耳が動く。恐る恐る顔を上げた所に、ずずい、と差し出されたのは、一本の串焼き。ケイジだ。
「解るか? コイツを――」
 目を丸くするチビの前で勿体ぶるように串焼きを揺らすと、「こうだ!」と、食いついた。伸びる尾を確認しつつ、串焼きを咀嚼すると、さらにもう一本を差し出し、揺らす。
「ほら、食べられるか?」
「ナァァン!」「うわっ?!」
 両手が飛び出してきた。抱えていたジュードが驚嘆するほどだから、その勢いたるや凄まじい。
「……大道芸の最中、だったのかしらね。その途中で行き倒れたのかしら」
「大道芸って……コイツらが、か。まぁ、怪我はなさそうだしな……」
 路地に散っていた硬貨を眺めたケイに、ラスティが応じる。二人は言いつつも、食事代わりになりそうなものを残る2匹の前においていった。
「水でもかけたら起きるかしら? ミルクは切れてたけど、ミネラルウォーターならあるの」
「……起きるまで、待ちましょうか」
 水を置きながら告げるケイの一言に、壮介は頭を振りつつ応えたのだった。
「しかし……こちらは、凄いですね。猫も、2本足で立ったり、手を使って食べたり……」
 言外にケイのことを含めつつ、言うと。
「……猫?」
 一同から、そんな疑問の気配が返ってきた。



「なるほど、ユグディラ……」
 妖精の類であるなら、この器用さもうなずけるもの、と壮介。
「それにしても、僕もよく食べる方だけど、君たちもよく食べるね」
 その眼前で、景色が外洋へと切り替わった。海上に、何事もなく腰掛けているハンター六名と、ユグディラ三匹。中々面妖な光景である。
「ユグディラって、確か幻術を使うんだよな……って、まさか!」
 同じものを眺めたケイジが、驚嘆しつつ言う姿に、ジュードは頷いた。先程の香りに、この幻術。ユグディラ達にも制御は出来ていないようだが、恐らくは――。
「この光景、君たちが見せてるんだよね……?」
 言葉に、一同の視線が『チビ』に集まる。猫餌を頬張っていた『チビ』は小首を傾げたまま、ジュードを見つめる。

 ――?

 という、気配を感じた。
「ついこないだ会ったユグディラは、何か目的があったみたいだが……」
 ノッポとデブから、チビへと視線を移したラスティは、ジュードの膝上で食事に耽りつつ怪訝そうな顔をするチビに目線を合わせた。
「お前らは、どうして、こんな所まで、来たんだ?」
 言葉が通じないことは承知していたから、手振りを交えて、言う。

 ――?!

 動揺を孕んだ気配が、ラスティ達の脳裏に響いた。
 シュバッ! とジュードの膝上に立ち上がったチビが、驚愕の眼差しと共に彼方を指差す。
 すると、そこには。

 巨大な。

 あまりにも巨大な。

 ユグ――

「あ、ドーモ、ユグディラだヨー★ かわいいヨー★」
 まるごとユグディラを着込んだ何者かが、ご満悦な表情で両手を振っていた。
 ――……!
 驚嘆したまま絶句し、震えるチビをよそに。
「リッチー……」
 ジュードはどこか、冷めた眼差しで、ただその名を呼んだのだった。

「ニャァ!?」
 ――!
「ヌアァ!?」
 ――!?
 朗報、というべきかはさておき、チビの思念は良い方に働いたのだろう。危機を感じたか、『ノッポ』と『デブ』の二匹が目を覚ましたのは、余談である。


 すぐさま食事を始めたユグディラ達がひと心地付くまでは会話どころではなく、ハンター達は一時待機を余儀なくされた。
 アルヴィンは手近な雑貨屋で調達してきた紙とペンに何事か書き込んでいる様子だが、その他の面々は、というと――。
「……随分と色々な景色があるようね」
 ケイはその光景を記憶に留めるべく、見渡す。手元にパルムも据えているが、パルムは困惑した様子でケイを見上げて首を振っている。なにごとか、とケイが疑問を感じた所で、
「撮影は……どうも、できないようですね」
「撮れたらだいぶ楽なんだがなぁ……」
 魔導カメラを手にとった壮介が残念そうに呟いた声に、ケイジが応じた。マテリアルの影響か、乱雑な映像だけしかおさめられない。
 ――高く売れそうなのに、残念。
 少しばかりの落胆を抱きつつ、ケイは続けた。手持ち無沙汰なため、彼女は彼女でノッポの耳を撫でつつ、
「こういう幻術って、その人の経験や予知夢を表してるっていうけど、これがこの子達が見た光景や予知なら……」
「伝えたいこと、この幻術の『理由』とも一致するかもしれない、か」
 その言葉を、ラスティが継いだ。
「最近ゆぐにゃんたちをよく見かけるけど、辺境の幻獣たちみたいに何か困っているのかも……?」
 チビを抱えたまま、ジュードは言う。地面に猫の漫画を描いて、その額に王冠を描き加えた。
 とんとん、と指しながら、「大幻獣にあたる特別な子がいたら、事情、聞けそうだけど」。
 そう言った、その時だ。

「にゃ!」
 納得、共感、感嘆――そういった気配と共に、ノッポなユグディラが立ち上がった。
 次いで、何かを伝えようとするような、そんな意志をハンター達は感じた。チビはノッポの動きに興味津々。デブは、というと、依然として食事に夢中。
「……君は本当によく食べるなあ」
 何かが始まる、そんな予感を抱きつつも、壮介は思わず、そうこぼしてしまったのだった。



 暫く周囲の景色を眺めたり、どこからか取り出した棒を手にしたりとウンウン唸っていたノッポだが、最終的に、『コツ』を掴んだらしい。
「ナ!」
 自分たちを指差す。そうして、うぬぬ、と唸ったのち、
「ンナァ!」
 周囲の景色が、一転した。

 ――そこは、浜辺だった。
 海面は遥か遠くに、陸地が見える。霞がかる程の距離の向こうには。
「……あれは」
 ラスティは目を凝らした。遠景に、『光』が見える。煌々と立ち上がる、光。
「ヘェ、ナルホド」
 絵をしたためていたアルヴィンは顔を上げると、ラスティを横目に見た。きぐるみを着込んだまま。ドヤ顔で。
「王国、カナ?」
「だろうな」
 ラスティは苦い表情と声を隠さずに、応じた。

 次いで先程まで幾度となく見ていた、大海原が映る。遠景には先程の陸地とよく似たものが見える。違うのは、眼前に二匹のユグディラの背が見えること。加えて、
「と、いうことは……」
 ケイの声。女の動きの気配を感じて一同が振り返る。反対側に、
「……島、ね」
「こいつら、此処から来た、ってこと……うわっ!?」
 ケイが告げた言葉に、ケイジが頷こうとした、その時のことだった。周囲の景色が、歪み始めた。見ると、ノッポがふらつきながら頭をおさえている。
「大丈夫か!?」
 ケイジが駆け寄り、その身体を支える間も、周囲の幻影は変じ続けていた。以降は、瞬くうちに幻影が切り替わっていく。

 森の中、号泣するユグディラたち。

 転じて、旅立つユグディラたち。意気揚々と両手を掲げたり、飛び跳ねたりしつつ海へと向かっていく。

 転じて、森の中、歩んでいくチビとデブを追う視線。

 転じて、森の奥に、柔らかな光が見えた。鬱蒼と茂る木々や草花の中を、燐光が意志あるもののように飛び回る。種々の明滅する光が集う先には、一匹の。

「……ユグディラ」
 誰ともなく、呟いた。

 そこで、幻術が途絶えた。



 不意に戻った景観に、ハンター達やユグディラ達よりも、周囲の人々の騒乱ぶりが高まる。だが、一同は沈思にしずんでいた。
「……ぶみゃぁ」
「――っと」
 卒倒したノッポを、予期していたケイジが支えて道に横たえさせる中、視線が絡む。
「今の……女の子、かな」
 ジュードは言いながら膝上のチビの顔を覗き込むと、険しい表情で彼方を見つめている。目にしたものに、決意を新たにしているかのように。
「……なんとなく、そう見えましたが」
 見たものを反芻しつつ、壮介が応じる。如何せん、猫に似た生き物の性別に、自信は持てない。
 ただ、一つ、感じたのは。
「苦しんでいるように、見えました」
「そうだね……」
 額を撫でるが、チビは甘える仕草を見せることはなかった。
 ただ。
「にゃぁ」
 と、立ち上がり、ジュードや壮介の手を握る。そうして、何処かに歩いて行こうとして――。

「申し訳ありませんが、そこまでで」
「……っ?」
 突如湧いた気配と声に、ハンター一同が驚嘆する事となった。振り返った視線の先に、二人の中年が立っていたのだ。
「そちらの方々は、我々の方で身柄を預からせて頂きます」
 一見して、商人のような装いであるが、唐突な事態にハンター達は一瞬だけ視線を交わした。
「こいつら、腹減らして動けなかったんだ。悪事のために幻術だせるような状態じゃなかったんだよ」
「迷子が泣いていたようなものだから、さ」
 見た目は兎も角、その立ち位置は官憲の類に似ると知り、ケイジとジュードが取りなすように、言う。
「あまり、手荒な真似はしないで。もし、事情を調査するなら、俺たちも――」
「事情は、『我々』も了解しております。ある程度は、ね」
 言い募ろうとしたジュードを遮るように、中年は言った。
「時期がくれば、『第六商会』か、はたまた『然るべき所』から依頼させていただきますので、ここは、これで。
 ……今は人目を避けたいのです」
 ――どこまでかは兎も角、見ていた、ということね。
 彼らのためにも、と添えられた声に、ケイは独り頷いた。動勢を見て動くほうが吉と見たのもあるが――差し出された金子は、手打ちの意図が見えた。ひと目につかせるのも本意ではない、のだろう。
「その子タチの金だヨ」
 アルヴィンはそう言って、『第六商会』を名乗った人間へと、集めていた硬貨を手渡した。きぐるみを、着込んだまま。そうして、「アトで見とくんだヨ?」と、何事か書き込んでいた紙をデブの荷物の中に押し入れる。
「リッチー……」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
 不安と不満が入り混じったジュードに軽妙に笑うと、
「……身柄、ちゃんと扱えよ」「それは、勿論」
「ご縁があれば、また会いましょうね」
 言外の意図を滲ませながら言うラスティに、壮介。相応の待遇というのならば、壮介にも言える義理はない。食料をユグディラ達の荷に入れ込みながら、一時の別れを告げた。

 そうして、中年達は音もなくノッポを担ぎあげ、チビとデブを――如何なる手管か――誘導して、何処かへと消えた。
 すぐに、騒音が路地に満ちてきた。かつての聴衆が、珍妙なユグディラ達を探しにきたのかもしれない。
「……あいつら、大丈夫かな」
 ケイジはそんな往来を眺めながら、ぽつ、と呟いた。


 ユグディラ達の昨今の行動には、明確な意図がある。それに、どのような形で臨むことになるのかは、誰一人としてわからなかったが――じきに、時は来る。その核心だけは、その場にいる誰しもが抱いたのであった。

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参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 鉄の決意
    ケイジ・フィーリ(ka1199
    人間(蒼)|15才|男性|機導師
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士

  • ホリィ・S・グリーヴ(ka3205
    人間(紅)|41才|女性|機導師
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談という名の雑談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/10/02 02:53:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/29 06:48:57