魔術学院の臨時清掃

マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/16 15:00
完成日
2014/06/26 08:07

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●惨事が二つ
 一つは、とある倉庫にて。
「うわ!! 先生! 倉庫入れないっす!!」
「うえー、誰だよ保存瓶ぶちまけたやつー!」
「なんかさ、変な臭いしない?」
「……あ、これ、やばい」
「窓開けろ! って、ここ窓無いなそういえば!」
「全部閉めてひとまず退散、急げ急げ」

 一つは、とある教室にて。
「イテッ! 今の何!? ここまで飛んできたよ!!」
「やっちまったー」
「あちゃー。片付けようにもこれじゃ近付けない」
「わ、あれまだ動いてるし」
「危険地帯だなあ。先生なら何とかしてくれるかな?」
「そもそも先生が体調不良で動けない。術の行使からして無理だろうな」
「そうだったね……」
「うーん、仕方ない、事務に相談しにいこう」

●談笑
 自由都市同盟、その中心的都市『極彩色の街』ヴァリオス。この街の中心部には、三つの組織が集まっている。
 一つは、数々の都市の代表が集まって意見を交わす「自由都市評議会(コンシェル)」。
 もう一つは、この街の原動力である商魂逞しい「商工会」。
 そしてもう一つは、不思議な雰囲気を醸し出している「魔術師協会本部」。
 
 今日は、魔術師協会本部の会長室に珍しい客が来ていた。協会付属、ヴァリオス魔術学院の学院長である。魔術師の間ですら『学院の蜃気楼』とも呼ばれ、そもそも学院から出てくることが滅多に無い学院長を、会長室の主である魔術師ジルダ・アマートが笑顔で迎えた。
「いらっしゃい、久しぶりね」
「ご無沙汰しております。お変わり……無さそうで何よりです」
 そう、ジルダの奇抜な格好は今に始まったことではない。
「ありがとう。あなたも元気そうで良かったわ。今日は何の御用だったかしら」
「リアルブルーの人々が多数いらしたとか。その辺りの、協会の対応を伺っておかなくてはと思いましてお時間を頂いております」
「ああ、そうだったそうだった。あちこち顔を出しているとわからなくなっちゃうのよねえ。そこのソファ使って頂戴」
「ありがとうございます」
 
 いつの間にか用意されていた紅茶を飲みながら、今後の方針の確認を済ませていく二人。一通り話が済んで一息ついた学院長がふと笑顔で言った。
「学院を訪れる方々を、今後とも心から歓迎したいものですね」
 ジルダも頷くが、そのまま頬杖をついて困り顔で笑う。
「ただ、学院内は一度大掃除をしたほうが良さそうよ」
 この前教えに行ったときなんて魔具科の教室が惨状になってたわ、とジルダ。時折学院で教鞭を執る彼女の話に、学院長は、ふむ、と少し考える。
「いっそのこと、学院の紹介がてら掃除をお手伝いしてもらいましょうか」
 その発案にジルダはポンと手を叩いた。
「それがいいわ! この後ハンターズソサエティに用があるから、ついでに依頼してくるわね」
「お手数をおかけして申しわけありません」
「いいのいいの。あ、折角だし、駆け出しハンター全般を対象に募集しても構わないかしら?」
 色んな人に学院に興味を持ってもらえたらいいじゃない、とジルダ。
「構いません。お任せいたします」

 こうして、ハンターオフィスの依頼一覧に臨時清掃員募集の情報が並んだのだった。

リプレイ本文

●臨時清掃員、集合
 ヴァリオス魔術学院の臨時清掃員募集に応じた八人のハンターたちを、女性の担当者が迎えた。
 互いに挨拶を済ませ、必要な用具、及び倉庫の薬品一覧が使えることを確認。ハンターたちは担当者の案内で、外から見たときより随分広く長く感じる学院の廊下を進み、まず製薬科倉庫、次に魔具科教室へと向かう。道中、倉庫や教室の様子などを担当者に尋ねて情報入手に努める。その際、募集内容に倉庫の様子の詳細を記載し忘れていた、と担当者が謝罪。今も薬品が床にこぼれており、拭き掃除が必要である旨をハンターたちに伝えた。
 ちなみに八人は、二か所の清掃を四人ずつに分かれて担当し、早く終わったほうがもう片方を手伝う、と決めており、全員が両方の清掃場所を確認。最後に水拭きのため水道の場所も確認し、自分たちが使う用具と「掃除中につき立ち入り禁止」と大きく書かれた紙を手に、それぞれの持ち場へ分かれたのだった。

●まずは惨事の収束から
 製薬科の倉庫を担当するのは、クリムゾンウェストのとあるエルフの里を出自とするナキ・ムンドゥ(ka1956)と、リアルブルー出身の天央 観智(ka0896)、橘 遥(ka1390)、白水 燈夜(ka0236)の四人。遥は扉を開ける前に、近くの廊下で立ち話をしていた学生の少女たちへ、
「これから奥の製薬科倉庫の掃除をするの。換気もあるから、悪いけど離れていてもらえる?」
 と声をかけた。
 はぁい、と返事をして立ち去る少女たちを見送る遥の後で、燈夜が倉庫の脇の壁に掃除中の張り紙をする。ペン、と貼ってから腰に手を当て、
「さてと、開けよっか。換気の準備は?」
 隣で座り込み、機械と細長い袋を繋いでいる観智に尋ねる。観智は頷き、
「オーケーですよ。それにしても変わった素材ですねこれ」
 と手元の機械を見た。円形の枠の中に回転羽が入っており、形はリアルブルーに存在するサーキュレーターと似ているが、しっとりとした触り心地でひんやりしている。今はこれしか無くて、と言って担当者が渡してくれた送風機である。
「もしかしなくても冷房器具でしょうか、これ」
 呟きながら送風機を操作する彼は初め、倉庫から最寄の窓まで直接排気できるような長いホースも、今回使いたい用具として申し出ていた。だがあいにく学院側で用意できなかったため、代わりに倉庫の前の廊下を大きな衝立で区切り(倉庫辺りの廊下は狭くなっていた)、空気が散らないようにして最寄の窓までの通気経路にした。
 観智が送風機を動かし、ナキが扉を細く開ける。
 ほのかに甘い匂いのする空気が、扉の近くに居たナキの鼻をくすぐった。彼の持つ知識だけでは判断しきれない部分もあるが、ある程度、『これはやばい』ということだけはわかった様子。扉から一歩下がる。横に来ていた遥も気付いたらしく同じように一歩下がった。
 しばらくして、甘い匂いが大分薄まってきた。
「そろそろいいかしら」
 軍手装備完了。
「ですね」
 マスク代わりの布装備完了。
「じゃ、行こうかー」
 モップや箒を手に。
「何か、興味深いものが、あると良いですね」
「ここなら色々あるわよ、きっと」
 いざ往かん。

 魔具科の教室の清掃に来ているのは、リアルブルー出身の最上 風(ka0891)、クリムゾンウェスト生まれのルシン(ka0453)、弓影(ka1443)、静花(ka2085)の四人の娘たち。
 細く開けた扉から中の様子を窺うと、木製の部品が飛び散って、あちらこちらでくるくる回ったり跳ねたりしている物や、ただの木片と成り果てている物も数多いことがわかる。そんな教室を見て、ルシンは普段伏せている目を思わず見開く。そして、
「いったい何があったのか……」
 と、頭が痛そうにこめかみを押さえた。隣で腕まくりしているのは静花。
「これ程汚い状況だと、掃除のし甲斐がありますね」
 言って、先ほど借りた薄く大きい清潔な布を、三角巾やマスクとして使うよう他の三人にも配り自分もしっかり着けて準備を整えた。ルシンは静花の言葉に頷き、
「ええ。突っ立っていても仕方がありません……徹底的に、やる」
 タンッ、と箒の柄で床を打ち、見開いた目がカッと光る。普段は敢えて目を伏せて過ごす彼女の気合いの入りようが窺えた。
 教室の入口に張り紙をした風も支度を整え、
「それでは入りましょうか。負傷したら、言ってくださいね? 回復しますよ。有料で」
「怪我しないように頑張らなくてはいけませんわね」
 微笑んで頷く弓影は片手にごみ収集用の袋を握り締め、扉を開ける。四人は素早く入室し、扉を閉め、教室のあちこちで動く物の様子に注意しながら散らばった。
「乾物をひいて粉にする道具でしたか、跡形もないですね」
 先ほど風が担当者から聞き出した情報を思い出す弓影。ここでは自動粉ひき機を作ろうと学生主導で研究していたらしい。彼女は、まず動く物から、とくるくる勝手に回る大きな部品をごみバサミで捕まえて、袋を寄せるようにして回収していく。その近くでは風が、弓影の死角を埋めるよう自身の位置取りに気をつけながら回収を進めていった。時折声が飛ぶ。
「屈んでください!」
 弓影の頭があった場所を尖った部品が通過したかと思えば、
「! 足元ですわ!」
 風の背後を足元から狙ったかのような動きをする物もあり、気が抜けない作業が続いた。
 静花とルシンは、机の移動に取り掛かる。周囲を警戒しつつ、作業机を二人で教室の外へ。二人とも言葉は少ないが連携し、きびきびと運び出していくのだった。

●掃除は隅までしっかりと
 製薬科倉庫では、換気装置を動かしながら着々と清掃が進んでいた。
 燈夜はまず入手した薬品一覧を読み、名前と特徴を調べてこぼれている薬品を確認。
「そこに倒れてるのがこいつで、もうひとつがこれか」
 遥が横から一覧を覗く。
「危険?」
「危険。めっちゃ、触るな混ぜるなって書いてある」
「……モップ借りて正解だったわね」
「頼んどいて良かったー……」
 全員、まずはモップで床掃除を済ませて倉庫の中を歩ける状態にしてから、手分けして複数の薬棚の埃を濡れ雑巾でふき取り、乾拭きで仕上げる。そこからは棚の中の整頓をする燈夜と、床掃除をする遥、ナキ、観智の二手に分かれた。
「これはこっちに置いたほうが良さそうだな、っと」
 一覧と睨めっこしながら、燈夜は薬瓶を分類し、
「燈夜殿、足元失礼します。ん? また随分変わった色の薬草が………げ、動いた…」
 ナキは箒を伸ばした先に妙な植物の鉢植えを見つけて固まった。
 隣の棚の奥では遥が、
「あら可愛い小瓶…………って、中身は目玉の標本なのね……」
 と何ともいえない表情で、花を象った蓋付きの小瓶をつついている。観智はその更に奥の床を掃きながら、
「こっちは薬の材料らしき虫がたくさん干物になっていますよ」
 と、棚の下段をちらりと面白そうに眺めていた。
 そうこうしているうちに、燈夜が棚の中の薬瓶を内容毎に分けて並べ、何を仕舞った棚か判別できるよう紙に書いて棚に貼る作業を終える。
「よーっし、棚はこんなもんかな。みんなはどう?」
「大方済んだわね。あとは全体にモップ掛けして終わり」
 遥がそう言って、掃き集めたごみを袋にまとめて口を縛る。無事に倉庫の掃除を完了できそうで四人は軽く安堵の息を吐いた。

 魔具科の教室ではてきぱきと手早く作業が進んでいく。
 静花、ルシン、弓影の三人が細かい汚れを取る仕上げ担当。風は一人、集めたごみ袋の見張りと教室内の警戒である。
「死角や背中は風が護りますよ、その代わり風の分も掃除頑張って下さい」
 などと言ってはいるが、役目はしっかり果たしていた。自分の横でごみ袋が小さく揺れる。袋がそれ以上大きくは動かないか、あるいは重しが外れないか素早く確認しつつ、教室の隅々まで注意深く目をやっていた。
「重しの用意があってよかったです、風の仕事が倍増するところでした」
 真顔でそう言う風に、弓影が微笑む。
「常に先手を打つのが、掃除を含む家事の基本と言えるかもしれませんね」
 そこへ、
「新しい袋はありますか?」
 静花とルシンが掃き掃除で集めてきたごみを持ってくるのを見て、弓影はこちらにと言って用意してあった袋を渡す。受け取る二人の顔からは達成感が伝わってきた。
「隅から隅まで綺麗になりました」
「本当にもう、ひどい散らかりようでしたわね」
 静花とルシンは口々に言って、ごみをまとめて他の袋と共に積み上げた。
 そうして四人は机を戻す作業に取り掛かり、先に終わった倉庫の面々と合流して机を運び終え、無事、清掃完了となったのだった。

●おつかれさまでした
 完了を確認した担当者に案内され、八人は食堂へ移動。テーブルには菓子と飲み物類が並んでいる。また、そこで一人の魔術師が待っていた。
「初めまして、当学院で学院長をさせていただいております、チェカ・ソルジエと申します。どうぞお見知りおきください」
 簡単な挨拶の後、席についてそれぞれ好きな物に手を伸ばし始める面々。
「頭脳労働の後は糖分補給だよなー」
「仕事をやり終えた後の甘味は格別ですね」
 と焼き菓子を頬張る燈夜や、無愛想ながらも機嫌良さそうに菓子を選ぶ静花の隣で、ルシンが紅茶を飲みながら、ひとつ伺いたいのですが、と学院長に尋ねた。
「この学院は出自や種族関係なく門戸を開いているのでしょうか」
 学院長は頷く。
「ここで学びたい方は誰でも入学できます。更に言えば、ハンターの方は入学せずとも聴講が可能です」
「かなり開かれた場所なのですね」
「ええ。魔術の、ひいては魔法全般の根源に触れられる場所として、様々な方を歓迎しております」
「学院長、やはり、魔術学院なら封印された伝説の魔導書とかがゴロゴロしているんですかね?」
 そんな質問を興味津々な顔で投げかけるのは風だ。
「そこはご期待に添えないかもしれません。危ない物は隣の協会本部へ管理をお願いしておりますので」
「残念。じゃあ七不思議とかは?」
「消える教室、瞬間移動する本棚、といった噂話は学生からよく聞きますね」
 七つだったかはわかりませんが、と学院長は笑う。それを聞いて、おおー、と風は楽しげだ。本といえば、と言って燈夜が菓子を食べる手を止めた。
「ゆっくりここの魔術書とか見てみたいな。俺は王国所属だけど、また来たい」
「是非またおいでください。館外持ち出しはできませんが、資料館で色々ご覧になれますよ」
「よっしゃ、楽しみだなぁ」
 そんなやり取りの後、学院長は非礼を詫びつつ仕事に戻っていった。

 その後もハンター同士で互いの清掃場所で見た物などの話で盛り上がり、和やかに時間が過ぎていく。気が付けば、学院長の姿や声音を思い出せる者はもうそこには居ないのだった。
 ヴァリオス魔術学院の臨時清掃はこれにて終了。次に訪れるハンターを、学院はいつでも歓迎している。

依頼結果

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MVP一覧

  • お茶会の魔法使い
    白水 燈夜ka0236

重体一覧

参加者一覧

  • お茶会の魔法使い
    白水 燈夜(ka0236
    人間(蒼)|21才|男性|魔術師

  • ルシン(ka0453
    エルフ|20才|女性|魔術師

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師

  • 橘 遥(ka1390
    人間(蒼)|21才|女性|疾影士

  • 弓影(ka1443
    人間(紅)|14才|女性|魔術師

  • ナキ・ムンドゥ(ka1956
    エルフ|18才|男性|魔術師

  • 静花(ka2085
    人間(紅)|15才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/11 21:29:09
アイコン 相談卓
最上 風(ka0891
人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/06/16 06:35:47