大きな少女と小さな謀略

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/25 15:00
完成日
2016/11/01 23:20

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●残された場で
「前の祭りは大成功してしまった。最近は町人たちにも活気が戻ってきているような気もする……どうすればよいのだ!?」
 ぶくぶくと太った、町長であるその男――オイゲンは、震える声で秘書に問いかけた。
「落ち着いてください、オイゲン様。たしかに町には活気が戻ってきていますが、大丈夫でございます。あの集団にはこちら側もおりますれば」
 張り付いたような不気味な笑みを浮かべる秘書に、内心で怯えながらもつめよる。
「こちら側!? どういうことかね!?」
「ええ、そろそろ良いでしょう。ちょうど来てもらっております」
 いうや、秘書が一度、部屋を出る。少しして戻ってくると、その後ろには白髪交じりの壮年男性がいた。
「彼の名はツェザール。ユリヤと同郷の者たちの一人で、村の大人衆のまとめ役でございます」
「お、おお、そうなのか! そういえば見た顔な気もするが……」
「今も彼らは彼らだけでまとまっています。その中心は確かにユリヤでもありますが――何も彼女が長である必要はないでしょう」
 その声は、恐ろしく低い。オイゲンは止まらぬ汗に目をやられて思わず目をかきながら、続いた秘書の言葉に思わず唾をのんでいた。
「――気に食わねば、挿げ替えてしまえばよろしいのです。なぁに、狼型歪虚の調査をするのですから。犠牲者とていましょう」
「お、おお! なるほど」
「さて、ツェザール殿あなたもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
 ツェザールが初めて声を出した。低く重い声だ。ただ、どこか夢想しているようにも思える。
「では、始めましょうか、ちょっとした作戦会議にございます」
 糸目の秘書の笑みに促されて、オイゲンは頷いていた。

●赤毛の少女の決意
 ユリヤは再び、町長の住まう館を訪れていた。いつもながらやけに豪奢な調度品の数々が揃うその場所で待っていると、やがて町長はいつものように秘書を連れて現れた。
「こんにちは、ユリヤ嬢……何か御用でございますかな?」
 肉に潰れた目をカッと見開き、町長が叫ぶ。
「はい、町長さんにお願いがあってきたんです」
「はて、自分の誠意を見せるもなく、更に言い募るおつもりでございますかな?」
 ケタケタと、町長が笑う。
「このままでは町が滅びてしまうかもしれないんです!! たしかに、前回は取り逃してしまいました!! でも、だからこそ、あの狼はまだ町の近くにいるかもしれません!! だから!! ……だから、調査隊を派遣させてください」
 ユリヤは思わず声を張り上げながらそう言って、いつの間にか乗り出していた身体を再び椅子に戻す。
「調査とは、はて?」
 丸々とした腹を撫でて町長が訝し気にこちらを見る。蝦蟇のような顔を脂汗が滴っていく。
「私達が狼型歪虚を討伐したところには、明らかに人の手が加えられた何かがありました……もしかしたら、あれが他にあるかもしれないんです」
 狭く暗く、じめじめとした閉鎖空間だったあそこは、ユリヤが知っている記憶のあるモノと重なっていて、もしそうなら――想像するだけで恐ろしい事が、この町の近くで起きているかもしれなくて。ユリヤは言葉を選びながらも口を紡いでいく。
「それを調べるとおっしゃる。この町の周囲はほとんどが草原というのにですかな?」
「はい! だからハンターの皆さんに力を借りたいと思います。ただ、それでも人手が足りないかもしれないのです。だから町の人さんにもお手伝いをしていただきたいのです。何かを見たことがないかとか、聞かせてほしいのです」
 町長のややおびえたような表情の横で、秘書が不意に何かを耳打ちする。ユリヤはその様子に言い知れぬ違和感を覚えつつも二人を見つめる。
「ほっほっ、それぐらいなら、いかようにでもお聞きくだされ。私はよく分かりませんが……こちらでも少しばかり人をご用意いたしましょう」
ぽんぽんと張りつめた腹を叩いて町長が笑った。
「ありがとうございます! 早速、ハンターさんにご協力をお願いしてきます!」
 ユリヤは言うが早いか、勢いよく立ち上がって頭を下げ、その場を後にした。

●狼の謎へ
 数日後、ユリヤが集まったハンター達と、一緒にどこを調査するか話し合っていると、町長が二人の男を連れてきた。二人ともどこか怪しい光を帯びた目をしている。
「ユリヤさん、今回、この二人も一緒に連れていくといい。人は多い方がよいのでしょう?」
 いつものようにでばった腹をさすりながら町長が笑う。その後ろに着いている二人は、旅人のような衣装をしている。一人は腰に刀を差し、もう一人はナイフを二本、携えている。
「ありがとうございます!」
 ユリヤが礼を言うと、町長は人の好さそうな笑みを浮かべて幾度か頷いて立ち去って行った。残された二人の冒険者風の男はそっとユリヤの後ろに回って待機した。
「私は外の調査に行ってきます。お二人も一緒にお願いしますね!」
 嬉しそうにユリヤが笑って言う。
「何人かのハンターさんは町人の皆さんにお話を聞いてください。一緒に来てくれた村の人たちも何か気づいたことがあるかもしれません。やや広い荒野になっていたんです。町の人たちが何も気づかなかったはずはないです。どうか、お願いします!!」
 ユリヤは言って、勢いよく頭を下げた。

リプレイ本文

●町内調査
「それじゃあ、私は町の中で聞き込みをしてみるの。頑張って行ってらっしゃいなの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)はふわりと柔らかく笑って告げる。
「狼の死体を集めた地下はあたしが見つけた場所だから外も気になるけど……あたしはあたしの出来ることをするの」
 札抜 シロ(ka6328)は少し名残惜しそうにしつつも、ポケットに入れてある仕事道具のトランプに触れてグッと気合いを入れる。
「わふぅ、なんだか町の空気が重いかんじ、です。こういう雰囲気って苦手だなぁ……」
 その隣で線の細い少年、ミュオ(ka1308)は少し気重そうにしながら門を仰いだ。3人は各々が話し合いで決めた人々に声をかけるべく歩き出す。

ミュオは取り敢えず出会った人に片っ端から話しかける事にしていた。
 何となく牧羊犬を連れている男性に声をかける。
「おはようございます……お仕事ですか?」
「ん? おう、そうだが、坊主は何だ? あまり見かけねぇ顔だが」
「はぅ。ぼ……俺はミュオって言います。ちょっとお話を聞いていいですか?」
「すぐ仕事に行かなきゃなんで早めにしてくれるならいいが」
「は、はい。えっと、この町の西に荒野ってどれぐらい前からあるんですか?」
「あれか? 1年くらい前だったか? よく覚えてないが。徐々にでかくなってきたものをハンターさんに頼んで元凶らしき歪虚を排除したんじゃなかったか?」
「そうなんですか……その頃に何かありませんでしたか?」
「さぁ、どうだったかな。ああ、そういえば、町長が新しく秘書を募集してたな。直ぐに見つかったらしいが。なんでも、帝国のお上から若者たちを迎え入れるためにいろいろしろって命令で補佐が欲しかったとか何とか。まぁ、あのお馬鹿町長じゃあ出来ないことはあったんだろ」
「そうですか……」
「すまねぇが、もう行くぞ」
 言うや否や、男はすぐにその場を後にして門の外へと消えていく。ミュオはその姿を見送った後、別の人へと声をかけて行く。

 ディーナは酒場などが連なる区画に足を踏み入れていた。ユリアが普段はあまり話したりしない人々を中心に話を聞くつもりだった。
「可能性は小さいかもしれないけど、ユリアちゃんが普段あまり話をしない人の中に手がかりを知ってる人が居るかもしれないの……ユリアちゃんの年齢なら確かにこの辺りは来ないかもしれないの」
 朝が早い分、夜も速くに寝てしまうらしいユリアは、普段、夜に繁盛する酒場などには行かないらしい。
「あのぅ……お店やってますか?」
 適当に目を付けた立ち食い屋らしきお店の暖簾をくぐると、数人のお客が入っているだけで、それほど忙しくは無さそうだった。
「へい、らっしゃい……嬢ちゃんまだ酒が飲める年じゃなさそうだが?」
 カウンターの向こう側、ややガタイの良い男が肉を焼いている。
「ごめんなさいなの。外の狼の歪虚のことで困ったり気がついたことがあったり、お悩み事があったら何でも相談に乗らせてもらうの。あっ、その串くださいなの」
「外の狼の歪虚だぁ?」
「なんでぇ大将。知らねぇのかい? ここ数ヶ月で狼が腐った奴らがちらほら町の近くにいるんだぜ?」
 旅人風の寂れた服装をした男が、串を串入れに入れながら答える。
「あぁ、それで最近は肉の仕入れがいまいちだったりすんのか。んで、何で嬢ちゃんがそれで相談に乗るんだい?」
 羊肉だろうか、串を焼きながら答えた男、大将に、ディーナはやや不思議そうに小首をかしげる。
「……? 歪虚が出たら流通滞るの食糧危機が一大事かもなの。ハンターとして困ったことには何でも相談に乗るの当然なの」
 焼き上がった串を受け取りながら告げると、大将は少し目を見張った。
「ハンターさんだったのかい。そらすまんね。でもよう、うちの町は基本的に自給自足だからなぁ」
「んでも、最近は串の値段も上がって来てるし、町の衣服屋なんかは新しい布やら糸やらが入って来なくて商売しづらいって話だぜ?」
 世間話でもするように旅人風の男が返すと、ディーナはそちらを向いてふと瞬きした。
「でも不思議なの。困ってる人たちがいるなら、本来なら町長さんが率先してハンターに依頼して安全確保すべきなの……町長さんは何もしてくれないの?」
 やや険がある口調になりながらディーナが言うと、店内の人々は驚いた様子を見せた。外見のほんわかとしたディーナからすると、ややギャップのある声色であるからだ。
「さぁ、どうだろうな。あの町長は少々頭がゆるいからな……それも前までは愛嬌ぐらいに思ってたが」
「もしかして町長さんが裏で流通を滞らせようとしてるの?」
「ははっ、それはないな。臆病で頭が緩いあの町長に歪虚を利用して企むなんて出来ないだろ」
「そうなの? あっ、もう1本くださいなの」
 ぺろりと1本目を平らげたディーナは既に焼き上がっていたもう1本を受け取り、再び舌鼓を打ちながら、大将やお客から話を聞いて行く。

 シロは町の中央辺りにある広場にいた。以前に手品の見世物を開いていたこともあって、シロが町の中央辺りに行った時点で多くの住人達が集まってきた。どの住人の目にも期待が感じられる。
「さぁさぁ、ここにありますは絵が描かれたカードと、何も入ってない袋なの。そこのお姉さん、袋を触ってみてほしいの」
 一番前の席にいた女性にお願いすると、女性は恐る恐る手を袋に入れていじくりまわした後、手を抜いて行く。カードの方も観客に渡してみて貰う。
「何もなかったです」
「ありがとうなの。それじゃあ、そんな袋の中にこのカードを入れてみるの。そして!」
 指をぱちんと鳴らす。すると、唐突に袋の中で何かが蠢いた。ぎょっと観客がするのが分かった。 その直後、袋の中からカードに描かれた鳥が飛び去った。袋取り出したカードには、何もない空間が残される。
 それ以外にもいくつか手品を見せた後、シロは集まって来ていた町人たちに話しかける。
「この町に狼が襲ってきて誰か得する人っていたりするのか教えてほしいの」
「得?」
 壮年男性が不思議そうに言う。シロは少し考えてから、例えばと口を開く。
「そうなの。どんな些細なことでもいいの」
「いや、別にそう言うのはないんじゃねぇかな。というか、ド田舎のこの町に狼が出て被害が出ても、損もねぇんじゃねぇか? ちっせぇ町だからな。お上も俺達のことを把握してくれてるかどうかさえ微妙なもんだ」
「そうなのね……。じゃあ、例えば、町の外に頻繁に出入りしてる人とか」
「頻繁に出入り……そうだねぇ。そもそも羊とかを放牧もしってから割と出入りしてる町人は多いんじゃねぇか?」
「そういえば、ユリアのお嬢ちゃんと一緒に来たって言う人達が何人か頻繁に町の外に行ってるね。最近はそれこそ狼とか危ないのにねぇ」
 壮年男性の隣にいた女性が補足するように言うと、男性も思い出したようにそれに同意する。
「ユリアさんと一緒に来た人たち?」
「ええ、ここ2ヶ月くらいかねぇ。あれは羊を放してくるとかじゃあないね。羊も牧羊犬も連れてないし」
「そうなの? 教えてくれてありがとうなの! 皆さんも困ってる事があったら教えてほしいの。わたし達ハンターにドンドン相談してほしいの!」
「あっ、ああ。ありがとう」
「そういえば……皆の元気がない理由とかも教えてほしいの」
「俺達に元気がない? そりゃあまあ、楽しい事とかもこの町じゃあねぇしなぁ。ああ、そう言う意味じゃあ、町全体に損なのかもなぁ。わけぇもんは町を出ていくし、俺たちゃ動物と出来る限りかち合わねぇようにして生きてるけどよ」
 壮年男性はそう言ってごつごつとした顔を撫でさする。
「そうなの……大変なのね……」
 シロはそれに頷きながらとりあえず聞いたことを書きとめながら、まだ新しい情報がないか問いかけていく。

●町外調査
 町の外を調査する7人は地下室の手前にいた。既に周辺の調査を終えている。すぐ近くには同じような扉は隠されてなかったため、いよいよ地下に潜ろうというところだ。
「待て、この下は狭いし暗い。まとまって動いた方が良いだろう」
 ラジェンドラ(ka6353)が告げる。ハンター達が頷き合うと、それまで沈黙していた冒険者風の男2人が前に出た。
「では我々が先頭を行こう」
 冒険者風の男2人の内の片方がそう言って地下室の階段を下りていく。それ以外のハンター達5人も各々の手段で明かりをつけてその後に続いた。
 じめっとした空間をハンター達の足音と呼吸が反響する。そんな中で、ユリアは少し顔色を悪くしていた。
「大丈夫ですかユリアちゃん……」
「はい……大丈夫です……村のことを思い出してしまって」
 心配そうにユリアを見る火艶 静 (ka5731)に笑ってみせつつ、彼女が持っていた予備のLEDライトを借り受けて照らされる階段をじっと見ながら、落ちつけようと呼吸を深く歩き続ける。
 一方、ジェニファー・ラングストン(ka4564)は、前を進む冒険者風の男2人に積極的に話しかけていた。どうにも怪しいと睨んだ2人の粗を探す算段だ。
「おぬしらはどこの所属なんじゃ?」
「所属は特にないですよ」
 男たちにすりすりと近寄りながら言う。男たちはそんなジェニファーの質問に当たり障りのない風を装って返答しながらも真っ直ぐに歩き続ける。
「不思議なもんじゃの。 大規模な作戦はどこに行くんじゃ?」
「いえ、我々は参加しない方向なので、それよりあの、離れてください」
 やや線の細い方ばかりが口を割る。ジェニファーがもうひとりへの警戒を怠ることなく、進んでいるとやがて階段が終わった。
「ここからはまっすぐみたいね」
 ジェニファーの後ろを歩いていた十野間 灯(ka5632)が床を踏みしめ確かめる。
「ああ、ここを少し奥に行ったところにまで前は狼の死体があったんだが、まだ増えてないみたいだな」
 灯の後ろを歩いて来ていたラジェンドラがそう告げる。
「本当に狭いのう」
 狭い通路にジェニファーが思わずそう零した。ライトの光で照らしだされるその姿は石が積み上げられた地下通路のよう。横に広がるのは3人が精いっぱいであろう。
 一行が小規模に集まったまま、まっすぐ進んでいくと、やがて、先程までよりもやや広めではあるが行き止まりとなっている場所に辿り着いた。
「ここが行き止まりのようじゃの……さて、何かあるかの」
 言ってジェニファーが壁に向けて近づき、そこを登ろうとした時だった。壁が一瞬、ぎぃと音を立てた。
「これは……扉のようだな」
 ラジェンドラがそう言って扉の奥を覗くと、そのまま入っていく。その後ろをジェニファーと灯、ユリアと静が続く。扉の奥はそれまでとは違いかなり広い部屋になっていた。
「皆! これを見てくれ」
 やがてライトの光で周囲を見ていたラジェンドラが告げる。
「なんじゃなんじゃ? 何か見つけたんかえ?」
「こ、これは……祭壇、よね?」
 灯がぽつりと告げる。壁に張り付くように設置された2段に作られた木製の祭壇のようだ。掛けられた白布は新しい。やや縦に長く、人が横に倒れればすっぽり入ってしまうだろう。
「ああ、そうみたいだな……しかし何を」
 そう言ったラジェンドラの横で、ユリアが動いた。少女は白布をめくり、祭壇の下に潜り込んだかと思うと、何かを引っ張り出してくる。同じく木製の棺桶。しかしその中からは酷い腐乱臭がした。思わず吐きそうになりながらも、一同が目を見開く中で、ユリアが口を開いた。
「私、こんな形の棺桶……知っています。あれよりも祭壇らしさは増してますが」
 ユリアの声が震えていた。
「ユリアちゃん……?」
「なんで……なんでこれがここにあるですか……」
「ユリアの嬢ちゃん何か似たようなものを知っているのか」
 ラジェンドラの問いにユリアが頷いたその時――不意に一同の後方から悲鳴が聞こえた。
 一同が振り返ると同時、来た時に通ってきた扉が勢いよく開き、冒険者風の男2人が相次いで入ってきた。線の細い男の方は左腕を切られており、もう1人の手に握られたナイフは血に濡れていた。
「ちっ……貴様が下手をしたのだぞ? なぜ逃げる」
 殺意の籠った声がナイフを手に持つ男から聞こえた。
「ったく……暗殺の予定がおじゃんではないか」
 言うや、一気に男が走りだす。その視線の先はユリアだった。
「させないわ」
 灯が男とユリアの間に飛び込んだ。ナイフを投擲体勢に入っていた男はそれを見て持ち直し、灯へと振りぬく。灯のユナイテッド・ドライブ・ソードとナイフがぶつかり合い、金属音を立てる。
 ラジェンドラとジェニファーが加勢し、確実に抑えこもうとして行く中で、静はふと、左手を斬られた男を見た。その男の手に握られるナイフが、見えた。投擲されるナイフ。静の身体はすでに動いていた。刀でナイフを弾き飛ばす。背中でユリアが息を飲むのを感じた。
「ユリアちゃん……対人戦であっても、必ずしも殺さなければならない訳ではありません…そこで見ててください」
 駆け抜け、刀で切り裂く。相手の動きを止める事だけを念頭に置き、着実に足の腱を狙っていた。
「帝国に!!滅びを!!」
 そんな叫び声が、もう一方の男の方から聞こえた。
「まてっ!!」
 誰かの制止の声。その直後、ドサッと言う、人が倒れる音を耳に入れながら、手負いの男を縛り上げる。そこに来て振り返ると、3人と戦っていた男が地面に倒れていた。首と心臓には彼が使っていたナイフが突き立っている。とてもではないが、あれでは即死だろう。

 3人と震えながらも立ち上がったユリアは、捕えた男を取り囲んでいた。
「我らはそこの嬢ちゃんを殺すために来ただけだ。詳しくは知らない。ちんけな計画に加担させられたツケが捕縛とはな……」
 縛り上げた男は吐き捨てるように告げる。
「……ヴルツァライヒ、か」
 ラジェンドラがぽつりとその単語を零す。先程の自殺した男が最後に残した言葉からであろうか。すると、目の前の男がべぇっと舌を出した。そこに描かれた木の根のようなマークが不気味に主張する。
「こやつは捕まえて持って帰るとして、問題はあそこの死体と祭壇下から引っ張り出したあれじゃの」
 ジェニファーがふと声を上げる。それで我に返って、4人は再び動き出した。

●収穫
 町の外を調査していた4人は帰還すると、町の中を調査していたメンバーと合流した。
「両方の情報を纏めると、まず町長とその秘書が黒……といったところか」
「ヴルツァライヒと歪虚崇拝……この町を孤立させて何かするつもりなの?」
 ラジェンドラの言葉にディーナが続ける。
「敵は複雑ね」
 灯の言葉が結び、しばしの沈黙が訪れた。
「人の心は変われないのでしょうか」
 ユリアの寂寥に満ちた声が響いた。

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参加者一覧

  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • 新聞号外・犯人逮捕貢献者
    ジェニファー・ラングストン(ka4564
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 青い鳥の補給兵
    十野間 灯(ka5632
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • イッツァショータイム!
    札抜 シロ(ka6328
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/24 21:33:26
アイコン 相談卓
ディーナ・フェルミ(ka5843
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/10/25 06:36:15