たとえ、何もない日でも

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/24 22:00
完成日
2016/10/31 06:21

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 だれだって生まれて生きているわけならば誕生日というものがあるわけで。
 それはどんな生き物にも等しく与えられた、お祝いの日。



 大霊堂の中で、素っ頓狂で奇妙奇天烈な叫び声が上がった。
 声の主は言わずと知れた、と言うべきか、あの自称幻獣王のチューダであるわけなのだが、なにやらいつもよりもテンションが低い。
「どうしたんだいチューダ。あんたらしくもない声なんて上げて」
 大霊堂の大巫女がそう言ってチューダに声をかけると、チューダは目をうるうると潤ませて大巫女を見つめている。
 そうやっていると本当に人畜無害そうなのだが、その後に続くことばが果たして人畜無害なのか――それは各人の判断にゆだねよう。
「気がついたのであります! 我輩! 誕生日を迎えたのに! だれにも祝ってもらっていなかったであります!!」
 そう言いながら大巫女の足元にすがりついて泣きじゃくる幻獣王――それにはまったく、これっぽっちも、ひとかけらも、威厳というものが感じられなかった。
 おばけクルミの里の騒動で、なあなあになってしまっていたことを、本人もさっぱりと忘れていて、ついさっき思い出したのだ。

「――で、チューダ。遅れても誕生祝いをしたいというのは結構な話なんだけれどね、いったいだれを呼ぶって言うんだい。相変わらずハンターも忙しいと聞いているけれど?」
 大巫女が呆れたように呟くと、チューダなりの考えでもあるのだろうか、ふふんとひげをそよがせる。
「だからこそ、でありますよ、大巫女殿! この忙しい時期、だれもが癒しを求めているであります! そして我輩は見ての通り、癒やしそのもの! このもふもふの毛皮をなでさすりしたいひとは山のようにいるであります! 問題はナッシング、でありますよ!」
「なるほどねぇ……あんたがもてなす側なのかい?」
 大巫女の問いには、チューダは首をふるふると横に振った。
「まさか! 我輩は主役であります! それも忘れられてしまった可哀想な誕生日であります! それならば我輩の心を癒やしてくれる人もいなければならないのであります!」
 チューダの力説に、うーん、と唸る大巫女。
「……わかったよ。あんたの言うことももっともだしね。とりあえずリゼリオのハンターオフィスに今回の件を簡単に伝えておくけれど、人が来るかどうかは判らないよ?」
 しかしそれだけでも、チューダにとっては嬉しいらしい。
 笑顔を見せながら、チューダはさっそく誕生日イベントの計画を考えはじめていたのであった。

リプレイ本文


(チューダ様の誕生日……八月、って……え、よく見たら、もう二ヶ月も過ぎているじゃないですかぁ!?)
 この募集を見たときの、アシェ-ル(ka2983)の素直な感想である。確かに今はカレンダーを見てもわかるとおり、秋も更けてくるという頃合いなのだから、二ヶ月遅れの誕生日――というのは、非常にふしぎな感じがした。でも同時に思う。あの幻獣王なら言い出しかねないなぁ、とも。
 そしてべつの一人、グルナ・グレーリス(ka5914)の率直な感想はと言えば、
(これは……誕生日のお祝い……と言うことですから、プレゼントはお菓子などでいいのでしょうか?)
 という、これまた分かりやすいものである。食べること、とくに甘いものを食べるのを好むチューダへの贈りものともなれば、たしかにそれが相応しいと言えるかも知れない。むむむ、とグルナは唸りながら、それでも幻獣王に近づいてもふもふできるというのであれば――ということで、気付けば参加手続きを完了させていた。


 さて、その誕生祝いなのだが――。
 まず、ぶっちゃけた話をしよう。
 チューダの呼びかけとほぼ同時期に、再び大規模な作戦が展開されることになり、結果として――チューダにまで気を回せる人が少なかったようなのだが、チューダはそんな戦いのことなんて当然というか、頭の片隅にもおいていないような幻獣王なのだ(何しろ自分が世界の中心――とまではいかないが、なにかと自分中心の考えになりがちなのは否めない)。
 むしろ、そんな大規模な戦闘が発生していることにも気付かないくらいにのほほんとするきらいもあるチューダである。恐らく、いまも気付いていない可能性が、非常に高い。いや、多分本当に、気付いていない。
 なにしろチューダの知る世界情勢は、おおよそサルヴァトーレ・ロッソの転移実験付近で止まってしまっているのだから。
 そんなわけで我らが自称幻獣王は、参加者が想定よりも少なかったことにちょっとだけ頬袋を膨らましていた。
 まあそれでも、参加者が誰もいない、なんてことにならなかっただけ、へそ曲がり具合はましなのだろう。たしかにほっぺを膨らませてはいるのだが、ぼりぼりばりばりといった咀嚼音がきこえる、と言うことは既に何かを口にしていると言うことだからだ。
 基本的に、チューダという存在は色んな意味でわかりやすい。
 感情を素直すぎるほどにさらけ出すことが多い、という表現が正しいのだろうか、まあどちらにしても見覚えのあるハンターたちを前にして、チューダは嬉しそうに小さな手をぶんぶんと振った。そう、参加者の多くはチューダに一度は会ったことがあるという面々だったのである。
 ただ、その姿を見て、チューダはわずかに首をひねる。
「みんな、久しぶりであります! 我輩の誕生日パーティに来てくれてうれしいであります……が、結構な重装備でありますな?」
 前述の通り、チューダはいま発生している戦闘を、知らない。
「実は、チューダさま……」
 参加者の一人でもある明王院 雫(ka5738)が、申し訳なさそうに眉根を寄せて微笑み、クリムゾンウェストの現状を伝える。
 ほぼ二ヶ月の間『おばけクルミの里』にかかわる騒動に巻き込まれていたチューダとしては最近の情勢について知らぬことも数多く、懇切丁寧な説明に、何度も耳やひげをぴくぴくと動かして反応する。
「なるほどなるほど、そうでありましたか……」
「ですので、お祝いに適した格好……というわけにも、なかなかいかなくて。そこまで手が回らなくて、ごめんなさいね」
 見れば、他にもそれなりに重武装したハンターの姿がちらほらと。まあ、ハンターの本分は戦うこと、というものも多いのが現実なので、それ自体には特に違和感は感じない。それに、本当のところ、チューダとてまるきり道理が判っていないわけではないのだ。いまがいろいろな意味で正念場だと言うことくらい、ハンターたちの目を見ればわかる。
 腐っても大幻獣であり、幻獣王を名乗るチューダである。ふだんはどこか頼りないところも多いが、理解力がないわけでもないし、事態を把握するだけの能力もきちんと持っている。……それを存分に発揮することがあまりないだけで。
「でも、それでも我輩のパーティに来てくれてうれしいのであります!」
 幻獣王はそう言ってとんと胸を叩く。
「それにしても、チューダ様も誕生日だったんだな。二ヶ月も前だったなんて、色々と大変な事態つづきだったとはいえ気付かなくて申し訳ない」
 そう言って、申し訳なさそうにそうぺこっと頭を下げるのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)、体格のいい青年だが特技はお菓子作りという、ちょっとしたギャップもそなえている。しかもその菓子作りに関しては既に玄人はだしだというのだから、チューダも自然と期待してしまう。
 いや、料理作り、菓子作りを得手としているのはグリムバルドだけではない。大きな手押し車を押しながら現れたのは、ザレム・アズール(ka0878)。こちらも料理にはかなりの自信を持っている青年で、その手押し車に恐らく誕生祝いのなにかがのっているのは想像に難くなかった。
「おお、ザレムも来てくれたのでありますか!」
 なにかとチューダに縁のあるザレム、チューダのほうも名前を覚えているようである。名を呼ばれ、ザレムもまんざらではない、という顔で照れくさそうに笑った。
「たしかに……疲れているときには甘いものが一番、ですよね」
 そうそっと目を細めているのは、天央 観智(ka0896)。日々の疲れをねぎらいたいという思いで、今回参加している。彼の用意してきたのは市販のケーキプディングだが、彼の知りうる限りで一番おいしい店の、特注サイズだ。
 何しろ、チューダは甘い物好きで有名である。
 それに加えてバースディパーティとくれば、持ってくる差し入れもしぜんと甘いものが中心となる。
 エルバッハ・リオン(ka2434)も、そんなひとり。持参したのは、『揚げ林檎豚のクレープ』だ。以前料理コンテストでも好評を博したこの料理は、甘味としてももちろんだが、食事としても十分なボリュームをそなえている。エルバッハも鎧はしっかり着込んでいるが、それは詰まるところいまの戦況の厳しさも物語っているとも言えた。
「お久しぶりです、チューダ様。こちらが、お祝いの品になりますので、是非受け取ってください」
 エルバッハがそう言ってクレープを差し出すと、チューダは目を輝かせて受け取る。そしてさっそく一口それを口に頬張ると、嬉しそうに目尻を下げた。……ハムスターに似た姿で目尻をさげる、というのが今ひとつ理解の難しいところかも知れないが、まあうれしそうにしていると思ってくれればそれでいい。
 いっぽうアシェールは、幼い頃に家族と死別したなどの過去を持つため、ひとと関わりを持つのが決して得意な方ではない。それでも、いつかの目標とする『友だち百人』に一番近づけるのはハンターである、という認識もしている。まだ幼さの残る顔立ちをした桃色の髪の少女は、チューダのそばにちょこん、と座ると、わずかに顔を赤らめて、そして微笑んだ。
「平民の私には、幻獣王にお渡しできるほどの品を持っていません……なので、」
 そういうと、自分の腿をぽんと叩いてみせる。
「なので、膝枕などで、どうでしょうか!」
 意外なる宣言に、そこにいたハンターたちは一瞬目をぎょっと見開く。それでも少女が彼女なりに考えた結果だと理解すると、すぐに複雑そうな笑顔に変わった。なにしろ、膝枕といっても、いまのアシェールはというと実のところ和装甲冑に身を包んだ姿。正直な話、上手く寝っ転がらないとすぐに首や頭を痛めてしまいそうなものだ。が、アシェールの顔は真面目そのもので、それが逆に滑稽さも生みだしている。
「さぁ。遠慮なさらずにどうぞ! ふかふかしていなくて、ゴリゴリしていますが!」
 そんな宣言に、つい吹き出したのは以前からの知人でもあるザレムである。彼女からすれば、お菓子作りの師匠にもあたるザレムであるが、そのきまじめさと寂しがり屋な性格がゆえ、逆に彼女に奇妙不可思議な事態を起こしていることに、彼女自身が気付いていないという状態になおのこと吹き出しそうになってしまうのを懸命にこらえている。
 ちなみに果敢にも挑戦したチューダは――というと、後頭部がとても残念なことになってしまっていた。仕方のないことであるが。
 そんなアシェールの膝枕(?)も、甘いものさえあれば何の其の、な幻獣王である。鼠に似た幻獣なのだからやはりナッツ系が多い方が喜ばれるかしら、とナッツやドライフルーツをふんだんに使ったパウンドケーキを持ち込んだマリィア・バルデス(ka5848)は、それを切り分けてチューダの口に運んでやる。
 途端、がつがつとそれを食べ尽くしてけろりと立ち上がるチューダ。やはり転んでもただでは起きないというか、流石大幻獣というか。
「チョコとココナツのパウンドケーキも持ってきているから、皆さんで分けましょう?」
 そう提案すると、だれもががさごそと持ち込んできている菓子類やらなにやらをがさごそと取りだし、チューダを中心にするようにして、輪になって座ってみる。
 そして改めて、グルナが控えめに、声を上げた。
「二ヶ月ほど遅れてしまいましたが……お誕生日おめでとうございます、チューダ様」
 にこ、と軽く微笑んでみせれば、だれもがそれに応じるように、にこにこと笑う。チューダも、
「改めて、ありがとうなのであります!」
 と言って嬉しそうに頷いて見せた。


 さて。
 そんなせわしない情勢の中でも誕生日を祝いに来てくれたなかには、
「むしろ自分が癒されたい、チューダと(あるいは『で』)遊びたい」
 なんて者もいるわけである。その筆頭が、アルスレーテ・フュラー(ka6148)。ふだんはどちらかというとけだるげな女性だが、ことチューダについてはずいぶんと目を輝かせていた。
「何でもない日でも、とりあえずなにか理由をつけて遊びたい……その気持ちはよく分かるわ。だって私も、遊ぶか惰眠を貪るかしていたいもの」
 ハンターになるまえはニート生活を満喫していたというアルスレーテ、チューダの発想に共感できてしまうらしい。しかし彼女自身の目的はと言えば、
「公太郎(彼女曰くチューダのことらしい)を弄って遊びたい」
 なので、チューダとどっこいどっこい、なのかも知れない。やはり。それでもちゃんと『献上品』と称してチョコレートやマカロンと言った菓子類を持ってくるあたりはわきまえている。
「お誕生日おめでとうございます、公太郎様」
「公太郎? 我輩にではないのでありますか?」
 チューダはよく分からない名前で呼ばれ、首をひねる。アルスレーテはというと、
(チューダなんて名前知らないっつってんでしょ、公太郎でいいってば)
 そんなことを胸の中で思いながらなので、ややため息交じり。
「まあ、名前なんて飾りなのであります。我輩にこうやってプレゼントをくれる、それがありがたいのでありますよ」
「ありがたいお言葉、ありがとうございます。では――」
 彼女はそういうと、そっとチューダに近づく。そして、

 むに。

 おもむろにチューダのほっぺたをつまんで、むにむにむにむにとし始めた。ちょうど冬毛に生え替わる季節で、さわりごこちはふっかふか。
(幻獣王だかなんだか知らないけれど、小動物には変わりないから……和むわねぇ……)
 もっとも、そのサイズは人間の赤ん坊よりも一回り小さいくらいなので、大きさだけでいえばかなりのサイズなのだが、まあそんなことは気にしない。むしろボリューム感たっぷりなおかげでふかふかっぷりも抜群なのである。
 そんなチューダを見ていたエルバッハは、そっとチューダに近づき、
「少しよろしいでしょうか?」
 そう声をかける。
「ふむ、なんでありますか?」
 チューダはむにむにされながらそう尋ね返すと、エルバッハは静かに、しかし優しい声で、
「いえ、その。チューダ様は偉大な幻獣王でございますが、それもチューダ様の威厳があればこそ、と思います。出過ぎたこととは思いますが、その威厳を失わないためにも、チューダさまにはいまのお身体を保たれるよう、お願いしたく思うのです」
 そう言って、小さく微笑む。彼女の言いたいのは詰まるところ、普段の生活態度も鑑みた上で、食べ過ぎて太るな――と言うことなのだが、礼儀正しい美少女がそう言って微笑んでいる、それはチューダとしても嬉しい話に違いない。手についていたケーキの屑を舐めそうになっていたのを慌ててはたき落とすと、
「そ、そうでありますな!」
 といって頷くチューダ。正直、結構チョロい。まあチューダがおだてに弱くチョロいのは今に始まったことでもなし、結構皆が知っていることではあるのだが――。
「まあ、でも今日は誕生祝いだし無礼講ってことで。ま、こいつを見て喜んでくれれば嬉しいんだが」
 グリムバルドが勿体ぶってさしだしたのは、チューダの顔がチョコソースでデコレーションされている、クリームとフルーツをふんだんに使ったケーキだ。
「あと、こいつは……一応食える奴なんだが」
 一緒に差し出されたのは、花束と菓子。どうやらその花が、食用のものであるらしい。チューダも嬉しそうに目を輝かせている。
「それなら、こちらも!」
 マリィアが取り出したのは、アーモンドプードルと粉砂糖で作り上げたチューダっぽい飾り、それに大きめのクッキーにチョコペンで『お誕生日おめでとうチューダ』と書かれたもの。これもこれで、ずいぶんとテンションの上がるものになっている。
「あと、こんなものも作ったのだけど」
 マリィアが続けて差しだしたのは、なんとチューダサイズの専用回し車だ。きれいにリボンで飾られていて、いかにも特製、というかんじがする。
「車輪や車軸の再利用さえ思い付けば、材料集めもそれほど難しくなかったのよ……それこそ、体型維持にもぴったりでしょう?」
 にこりと笑ってみせると、チューダは歓びのあまりほろり、と涙。たしかに最近は構ってくれる者も多く、本人(?)もやや気にしていたようなので、これはこれでずいぶんとありがたいプレゼントには違いなかった。
「……あの」
 後ろから、小さく声を上げたのは、まだハンターになって間もないクレーヴェル・アティライナ(ka6536)。ほんのりと緊張しているのだろう、声が少しうわずっているが、それでもにっこりと笑って一礼をした。
「お誕生日、おめでとうございます、チューダさん。はじめてお会いする、クレーヴェルと申します」
「おお、初めましてなのです! まだ新米さんのようでありますな? これからがんばるのでありますよ!」
 丁寧な挨拶に、チューダも嬉しそうだ。そんなチューダを愛らしい、と眺めながら、そっと差しだしたのはコデマリとニリンソウを中心にこしらえたブーケである。
「はい。まだ日も浅くて、こんなものしか用意できなかったんですけれど……でもお花って、素敵ね? 華やかで、明るい気分になることができて……それに香りも心地よくて。そういえばチューダさんは花言葉というものはご存じですか?」
 花言葉、という単語は知ってはいるが具体的な内容については知識の足りないチューダ、首を軽くかしげる。
「……たとえば、このコデマリ。これには「優雅」「上品」「友情」なんて意味があるみたいだし、ニリンソウのほうには、「ずっと離れない」って意味があるのですって。優雅で上品なんて、まるでチューダさんみたいって思って……そしてずっと離れない友情。もしできることなら、私と、お友達になって貰えたら、嬉しい、です」
 優雅で上品か、というと若干の疑問が残るが、クレーヴェルはとても真剣な瞳をしている。チューダはその花束をそっと受け取ると、
「もちろんでありますよ! 我輩、クレーヴェルと友だちになりたいと思ったであります!」
 新たな友人、新たな仲間。
 その優しさに、クレーヴェルも、周囲の者も破顔する。
「ケーキを食べて、その祝いとするでありますよ!」
 

 しかし、その前に。
「おっと、チューダ様。その前に、こいつを見てもらいたいな」
 ザレムがふふんと鼻を鳴らす。そういえば彼は、えらく大きな手押し車持参でやってきたのだったか。勿体ぶりながら、その上を空け、壁を前に倒すと――
「おおおおおお!!」
 思わずだれもが息をのんだ。
 そこには、チューダサイズのドールハウスがあったのだ。た納屋机、壁には絵も飾られているし、ふわふわのベッドにソファーはいかにも心地よさそうだ。毛足の長い絨毯が敷かれており、いかにも暖かそうに見える。
「ザレム、これはすごいでありますな! 手作りでありますか?」
「ああ。どうぞ、召し上がれ」
 ザレムはそう言ってにっこり笑う。
 ――召し上がれ?
 そう言われて、チューダも、他の仲間たちも、一瞬なにを言われたかわからない――というふうに瞬きをする。しかし、
「なにを、って顔してるけど、これだよ、これこれ。このドールハウス……ふふ、実は絨毯以外全部お菓子で作ったんだ」
「な、なんですと!」
 チューダの声がひっくり返る。無理もない、そのくらい精巧に作られていたのだから。しかしたしかによくよく見てみると、壁はウェハースだし、机はチョコ。引き出しのなかにはドライフルーツがしっかりはいっているし、クッションなどはマカロンで作られている。
 まさしく、『お菓子の家』という表現がしっくりくる代物だ。
 しかもそれとは別に作ってある梨のタルトまであるわけで、もうチューダにとっては万々歳な結果になっている。
 しっかり用意されていた紅茶に口をつけ、みんなで乾杯。
 それから、雫はそっとブラシを取り出して、それでチューダの毛足の長い冬毛を丁寧に梳いてやる。丁寧に丁寧に梳いてやると、ふわふわのもこもこな上に、毛づやも良くなったように感じられて、チューダもずいぶん満足そう。
 ほかにも、グルナやグリムバルドといった面々が、ふかふかのチューダをなでも伏して、お互いに癒されまくる。
 観智はというと、そんな様子を眺めて笑顔を作りながら、「疲れを癒すのならやはり甘いものでしょう」とみんなが用意したお菓子(無論チューダへの贈り物に手をつけることはしない)を、のんびりと食べている。
 ふだんからなにかと疲労の溜りやすいハンターにとっても、甘味というのは疲れを癒すのにぴったりな代物なのは同じことだ。じっさい、甘党のハンターもなにかと多い。観智も持参したケーキプディングを口に入れながら、そんな様子をゆっくりと眺めている。
 見れば、チューダとハンターたちのやりとりは、いつもながら見ているだけでほっこりとした気分になれて、心がそれだけでも癒される。
 たまには戦いを忘れ、こうやってのんびりするのも悪くない――観智はそんなことを思いながら、にっこり笑う。

 どうかこの幸せが、また来年も訪れますように――、だれもがそう祈りながら。

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重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 撫子の花
    明王院 雫(ka5738
    人間(蒼)|34才|女性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

  • グルナ・グレーリス(ka5914
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

  • クレーヴェル・アティライナ(ka6536
    人間(紅)|23才|女性|聖導士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/24 18:45:15