ゲスト
(ka0000)
【HW】いなかでせんきょ
マスター:KINUTA
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2016/11/01 22:00
- 完成日
- 2016/11/10 01:18
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
小規模惑星、ジェオルジイ。
中央銀河圏内にありながら下手な辺境星団より田舎と揶揄されるこの惑星は現在、過疎化に悩んでいる。
つい先日は上位行政機関であるギャラクシーユニオンから
『このまま人が減り続けるんなら、独立行星区としての資格を取り消そうか? 近隣星団のサイターマに吸収合併された方がいいんでない?』
という提案がなされてしまった。
実のところその提案について、住民の6割は「別にそれでもいいかな」と思っている。吸収合併されたところで何かが劇的に変わるとは思えないからだ。
だが住民の4割は反対の立場である。
特にジェオルジイの議員団、並びにその長であるマリー知事は、軒並み合併に関して強硬な反対派だ。
「冗談じゃないわよ! 何が悲しくてサイターマ星団なんかに吸収合併されなきゃならないのよ!」
ジェオルジイは田舎でありながら『中央銀河民』意識が強く、周辺星団民に対する優越感情の激しい土地柄だ。
しかし、彼らが星団への吸収合併を拒むのは、そんな感情面からだけの話ではない。
現実的な危機感があるからだ。以下のような。
「吸収合併なんてされた日には私、職を失うじゃない!」
募る苛立ちからビリビリに新聞を破くマリー。
第一秘書の八橋杏子が茶を運んできた。
「背任のかどで告訴されるほうが先では?」
「……言っておくけど私が沈んだらあんたも沈むんだからね。一人だけ逃げようたってそうはさせないわよ」
「……不祥事の責任は第一義的に最高責任者が負うと思いますけど?」
目と目で牽制しあう第一秘書と政治家。
そこにノックの音。
「失礼すんで」
入ってきたのは猫人、第二秘書のスペット。手には書類の束。
「コボルド住民代表コボちゃんからな、コボルド専用の図書館を作ってほしいて嘆願来てんで。自分ら住民表ないから、公共図書館の貸し出しが出来へんからて」
「却下」
「ええんか即答して」
「いいに決まってるでしょう。大体なんなのあいつら。何の権利があって嘆願なんかしてくるわけ? この星へ勝手に来て勝手に住みついてるだけのくせに。何かしてほしいなら税を払いなさいよ税! 金! キャッシュ! 現生!」
本音を包み隠そうともせずばんばん執務机を叩くマリー。
引き気味のスペット。
「銭ゲバ丸出しやなお前……ほんならあいつらを正式な市民にすればええやん。ほしたら住民税徴収出来るで」
「冗談止めてよ。数の多いコボルドが選挙権持ったら、次の選挙で私どうなると思う?」
その質問に第一秘書と第二秘書は声をハモらせた。
「「落ちる」」
「どっちか一人は否定しなさいよ!」
「やってお前あいつらに対して、ほんまに態度悪いもんな」
「この間はシートに毛がつくから公共機関の乗り物を使うなとか何とかやらかして、ものすごい顰蹙買ったわよね」
「……あれはオフレコ発言だからいいのよ」
「……週刊誌にリークされてたわよ……」
急に入り込んできたぼそぼそ声は、壁と棚の隙間に挟まっている白ワンピースの女から発せられたもの。
彼女こそは宇宙的高次元生命体、マゴイ。
隙間に挟まる以外特に何もしない存在なので、『庁舎に住み着いた妖怪』程度に認識されている。
「リークする方が悪い! 大体私の意見に賛同する市民だって少なくは……」
と言いかけてマリーは、第三秘書のジュアンがいつもの席にいないことに気が付いた。
「ちょっと、ジュアンは?」
「あー、なんか風邪ひいたらしいで」
「ここのところ働きづめだったしね」
その時である、血相を変えたブルーチャー議員が、執務室に駆け込んできたのは。
「ち、知事、偉いことになってるぞ!」
「何なの、いきなり」
「テレビをつけてみろ、テレビを!」
執務室の壁に埋め込まれている大型スクリーンが起動された。
そこに映し出されたのは、第三秘書ジュアン。
そして、インタビュアーであるアレックス。
アレックス:『では、星庁の乱脈会計は相当以前から続いていたと?』
ジュアン:『ええ、公共工事の水増しあり、星外視察慰安旅行あり、白紙領収書ありで、僕も正直前々からやり過ぎだとは思っていたんです……』
マリーはわなわな身を震わせ、手にしていたリモコンを、スクリーンに投げ付けた。
「あの野郎裏切りやがったわね!!」
●
ジェオルジイ星庁職員であるカチャは、見渡す限りの花畑を歩いていた。
ここはベムブル農園(株)が運営する、農場の一部。
「こんにちはー」
「わし!」
「わし!」
そこここでコボルドが花を摘み、トロッコに乗せている。
トイプードルそっくりな姿形をした彼らは、最初星の基幹産業である農業の季節労働者としてやってきて、いつの間にか住み着くようになった。
それを歓迎する人もいれば煙たく思う人もいるが、とりあえずカチャは歓迎したい方の立場である。
何しろこの星、過疎化の一途を辿っているのだ。3日歩いて誰にも会わない(会えない)地域もざら。
後継者不足から放棄され森に返ろうとしている農地だって多い。
それならコボルドがわらわらしてくれているほうが、いいのではなかろうか。見た目にもかわいいし。
そんなことを思いながら歩いて行くと、コボルドに交じってせっせと花摘みに勤しむ会社社長、ベムブルの姿を見つけた。
「ベムブルさーん!」
「おや、カチャさん」
ベムブルは前掛けで手をふき、立ち上がる。
「どうしたんだい?」
「はい。この間の『コボルドに農園の一部を譲りたい』というお話についてなんですが……上に確認を取りましたところ、やはり難しいそうです。彼らには市民権がありませんので」
「そうかい。残念だねえ。僕ももう年だから、農園の規模を縮小したいと思ってたんだけど……」
残念そうなベムブルの姿に、カチャは、ちくりと胸の痛む思いをする。
携帯が鳴った。「ぴょこたれうさぎぴょこ音頭」のメロディー……上司からだ。
「はい、カチャですが何……え? 今、緊急特別議会が召集されて? 大荒れ? 知事が解散を口走ったって――マジですか!?」
突発的事態が起きたようだ。
政治の世界は一寸先が闇である。
中央銀河圏内にありながら下手な辺境星団より田舎と揶揄されるこの惑星は現在、過疎化に悩んでいる。
つい先日は上位行政機関であるギャラクシーユニオンから
『このまま人が減り続けるんなら、独立行星区としての資格を取り消そうか? 近隣星団のサイターマに吸収合併された方がいいんでない?』
という提案がなされてしまった。
実のところその提案について、住民の6割は「別にそれでもいいかな」と思っている。吸収合併されたところで何かが劇的に変わるとは思えないからだ。
だが住民の4割は反対の立場である。
特にジェオルジイの議員団、並びにその長であるマリー知事は、軒並み合併に関して強硬な反対派だ。
「冗談じゃないわよ! 何が悲しくてサイターマ星団なんかに吸収合併されなきゃならないのよ!」
ジェオルジイは田舎でありながら『中央銀河民』意識が強く、周辺星団民に対する優越感情の激しい土地柄だ。
しかし、彼らが星団への吸収合併を拒むのは、そんな感情面からだけの話ではない。
現実的な危機感があるからだ。以下のような。
「吸収合併なんてされた日には私、職を失うじゃない!」
募る苛立ちからビリビリに新聞を破くマリー。
第一秘書の八橋杏子が茶を運んできた。
「背任のかどで告訴されるほうが先では?」
「……言っておくけど私が沈んだらあんたも沈むんだからね。一人だけ逃げようたってそうはさせないわよ」
「……不祥事の責任は第一義的に最高責任者が負うと思いますけど?」
目と目で牽制しあう第一秘書と政治家。
そこにノックの音。
「失礼すんで」
入ってきたのは猫人、第二秘書のスペット。手には書類の束。
「コボルド住民代表コボちゃんからな、コボルド専用の図書館を作ってほしいて嘆願来てんで。自分ら住民表ないから、公共図書館の貸し出しが出来へんからて」
「却下」
「ええんか即答して」
「いいに決まってるでしょう。大体なんなのあいつら。何の権利があって嘆願なんかしてくるわけ? この星へ勝手に来て勝手に住みついてるだけのくせに。何かしてほしいなら税を払いなさいよ税! 金! キャッシュ! 現生!」
本音を包み隠そうともせずばんばん執務机を叩くマリー。
引き気味のスペット。
「銭ゲバ丸出しやなお前……ほんならあいつらを正式な市民にすればええやん。ほしたら住民税徴収出来るで」
「冗談止めてよ。数の多いコボルドが選挙権持ったら、次の選挙で私どうなると思う?」
その質問に第一秘書と第二秘書は声をハモらせた。
「「落ちる」」
「どっちか一人は否定しなさいよ!」
「やってお前あいつらに対して、ほんまに態度悪いもんな」
「この間はシートに毛がつくから公共機関の乗り物を使うなとか何とかやらかして、ものすごい顰蹙買ったわよね」
「……あれはオフレコ発言だからいいのよ」
「……週刊誌にリークされてたわよ……」
急に入り込んできたぼそぼそ声は、壁と棚の隙間に挟まっている白ワンピースの女から発せられたもの。
彼女こそは宇宙的高次元生命体、マゴイ。
隙間に挟まる以外特に何もしない存在なので、『庁舎に住み着いた妖怪』程度に認識されている。
「リークする方が悪い! 大体私の意見に賛同する市民だって少なくは……」
と言いかけてマリーは、第三秘書のジュアンがいつもの席にいないことに気が付いた。
「ちょっと、ジュアンは?」
「あー、なんか風邪ひいたらしいで」
「ここのところ働きづめだったしね」
その時である、血相を変えたブルーチャー議員が、執務室に駆け込んできたのは。
「ち、知事、偉いことになってるぞ!」
「何なの、いきなり」
「テレビをつけてみろ、テレビを!」
執務室の壁に埋め込まれている大型スクリーンが起動された。
そこに映し出されたのは、第三秘書ジュアン。
そして、インタビュアーであるアレックス。
アレックス:『では、星庁の乱脈会計は相当以前から続いていたと?』
ジュアン:『ええ、公共工事の水増しあり、星外視察慰安旅行あり、白紙領収書ありで、僕も正直前々からやり過ぎだとは思っていたんです……』
マリーはわなわな身を震わせ、手にしていたリモコンを、スクリーンに投げ付けた。
「あの野郎裏切りやがったわね!!」
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ジェオルジイ星庁職員であるカチャは、見渡す限りの花畑を歩いていた。
ここはベムブル農園(株)が運営する、農場の一部。
「こんにちはー」
「わし!」
「わし!」
そこここでコボルドが花を摘み、トロッコに乗せている。
トイプードルそっくりな姿形をした彼らは、最初星の基幹産業である農業の季節労働者としてやってきて、いつの間にか住み着くようになった。
それを歓迎する人もいれば煙たく思う人もいるが、とりあえずカチャは歓迎したい方の立場である。
何しろこの星、過疎化の一途を辿っているのだ。3日歩いて誰にも会わない(会えない)地域もざら。
後継者不足から放棄され森に返ろうとしている農地だって多い。
それならコボルドがわらわらしてくれているほうが、いいのではなかろうか。見た目にもかわいいし。
そんなことを思いながら歩いて行くと、コボルドに交じってせっせと花摘みに勤しむ会社社長、ベムブルの姿を見つけた。
「ベムブルさーん!」
「おや、カチャさん」
ベムブルは前掛けで手をふき、立ち上がる。
「どうしたんだい?」
「はい。この間の『コボルドに農園の一部を譲りたい』というお話についてなんですが……上に確認を取りましたところ、やはり難しいそうです。彼らには市民権がありませんので」
「そうかい。残念だねえ。僕ももう年だから、農園の規模を縮小したいと思ってたんだけど……」
残念そうなベムブルの姿に、カチャは、ちくりと胸の痛む思いをする。
携帯が鳴った。「ぴょこたれうさぎぴょこ音頭」のメロディー……上司からだ。
「はい、カチャですが何……え? 今、緊急特別議会が召集されて? 大荒れ? 知事が解散を口走ったって――マジですか!?」
突発的事態が起きたようだ。
政治の世界は一寸先が闇である。
リプレイ本文
「え……? 私を? 知事選立候補者として届け出た?」
「うん。あたしも秘書として付き合うよ♪ この人も協力してくれるって」
「初めまして、マリィア・バルデス(ka5848)です」
「嫌ですよ選挙なんて! 選挙資金持ってないですし! 取り消してきてくださいよ今すぐに!」
メイムは優しい眼差しをカチャ向けた。
「大丈夫、供託金の2百万Gは倉庫に在った純銀の錫杖を担保に保証人はマムカチャと書いたら借りられたよ♪ マリー銀行から」
「マリー銀行!? あそこが星庁の巨大不良再建って呼ばれてるの知ってるでしょー!?」
「うん、知ってる。格付B-。でもー、未成年のカチャさんに貸してくれるのはそこだけだったし?」
嫌な汗が止まらないカチャ。メイムはとことん楽しそうだ。
「公約は移民亜人の市民権確立、労働人口と税収の安定化にしよう。マスコットっぽいコボルトと花卉産業を目玉に、近隣星系グンマ―とかカナガーワからの観光客増加を目指す。観光産業の為に施設運営で人類人口も回復出来るって思うんだよね」
立て板に水とプランを語り始めるメイム。どこかの誰かに電話をし始めるマリィア。
「閣下の仰る通りだと思います。コボルドの権利擁護活動はそのままマリー陣営のイメージダウンと閣下の獲得票増大に繋がるかと。彼らが市民権を得ることで得票数も税収も増える。良いこと尽くめです……はい、彼女が当選するよう全力を尽くします……」
カチャはただ、立ち尽くすのみであった。
●
ギャラクシーユニオン中央行政官ザレム・アズール(ka0878)は、ジェオルジイに単身乗り込むことを決めた。いくら独立行星区とはいえ、ろくな事前報告もなしに選挙を始めるというのは、やり過ぎだとしか思えない。
(一体あの星はどうなっているんだ……)
ユニオンセントラル空港に向かい、定期宇宙船に乗り込む。
そこに星間開発機構のエージェント、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がやってきた。
彼女はジェオルジの農場経営者複数に請われ、現地視察に行くところ。
「前を失礼していいかの、先客さん」
「ああ、どうぞ」
ザレムの前を通過し窓側に座るレーヴェ。
船内アナウンスが聞こえて来た。
『ご乗船の皆様、毎度ご利用ありがとうございます。当船はオクターマ経由ジェオルジ行きです。大気圏離脱の際、多少のGがかかります。念のためシートベルトをお締めください……』
●
ユニオン派遣弁務官の榊 兵庫(ka0010)は、スペースフォンの画面に映し出された文字を見る。
送り手はユニオン行政官ザレム。文面は『これからそちらに向かう』の一言。
来るべきものが来た。先んじて自分がこの星に派遣されていた段階で、読めていた展開ではあるが。
恐らくこの選挙、住民が考えている以上にジェオルジの今後にとって、重大なものとなるであろう。
「……このままサイターマ星団に任せるにしてもこの星の現状を把握しておかなくてはならないからな。俺を失望させてくれるなよ」
とにかく今は行政官と情報を共有し、活動の打ち合わせをしなければならない。
思って彼は、ジェオルジイ空港へと向かう。
その後ろをリナリス・リーカノア(ka5126)が、ぶつぶつ言いながら通り過ぎた。
「もー、今時空港から市街地までの無料シャトルバスがないとか、有り得なくない? どんだけ田舎よー」
彼女はサイターマ忍者の末裔。当地の亜人排斥主義者から依頼を受け、今この星についたばかり。
「今回は、何枚毛皮がとれるかなー♪」
●
ジェオルジイ星庁舎。
庁舎前に乗りつけてきたリムジン。リポータたちが我先にと群がっていく。その中に、鳥人岩井崎 旭(ka0234)の姿もある。
「知事、多年に渡って公共工事の不正入札が行われていたそうですが!」
「支持団体と癒着があったとか!」
「白紙領収書の乱発について何か一言!」
現地時はSPに囲まれ、足早に報道陣の前を通り過ぎて行く。お愛想笑いをして。
「それらの問題については内部調査特別委員会を立ち上げておりますので……」
こんなそつのない答弁ではつまらない。もっと本気の本音、作り物ではない言葉を引き出さなくては。
そう思った旭は去って行こうとする背中に呼びかけた。
「それはそうと知事、いつまで独身を貫くおつもりですかー?」
マリー知事は足を止めた。SPの腰からガス銃を抜き取り、旭に向け発砲。
「うおおおおおお!!??」
飛んで逃げて行く旭。
SPに両脇を抱えられ、引きずるように連れていかれるマリー。
「あいつを雇っているテレビ局はどこなの! 今すぐ放送免許取り上げてやるぅぅ!」
●
急遽設置された選挙管理委員会。
上座で天竜寺 詩(ka0396)が、にこやかに挨拶。
「私がこの度選挙管理委員長に任命された天竜寺詩です。皆さん、不正の無い選挙をお願いしますね」
詩の隣に座るのは、副委員長ジェニファー・ラングストン(ka4564)。
「田舎とはいえ不正選挙は許すまじぞよ! 公正と正義はなされねばならぬからのう」
やる気満々な彼女らの前にあるのは、憂鬱そうな庁職員たちの顔、顔、顔。
「どうした皆、しっかりせんか! まだ何も始まってはおらんぞ!」
始まってなくても大変さは予想出来る。一部の都市を除き人の所在がまばらなのが常態のジェオルジ。その分多数の投票所を各方面に設置しなくてはならない。掲示板についても同様。
とても正規職員だけでは手が回らない。そこでバイトの出番。
「おうプードルども、たくさん選挙箱つくるのじゃ!!」
「わし!」「わし!」「わし!」
詩は現場を彼女らに任せ、いったん執務室に戻る。
そこには選挙Gメンの天竜寺 舞(ka0377)がいた。
「お姉ちゃん、それじゃあお仕事お願いね。違反を伺わせる動きがあったら、逐一こっちに連絡して」
「任せとけって」
「頼んだよ。お仕事が終わったら、また一緒にご飯に行こうね」
「お、いいね。次は満願全席いってみるか」
●
スペースマフィアの大幹部エルバッハ・リオン(ka2434)はタワーマンションの一室で、直属幹部たちに指示を出していた。
ジェオルジの政権上層部と癒着し営利目的の非合法活動を行っていたが、この分ではそろそろ事業も潮時。
「当惑星におけるダミー会社の事務所を逐一閉鎖していくように。分かっているとは思いますが塵一つも痕跡が残らないようにして下さい」
そう言ってエルバッハは、幹部たちを退室させた。
気分転換にテレビでも見ようと、壁のモニターを一瞥する。
それだけで画面がついた。
『マシュの!マシュマシュ~ばっちこーい!☆』
最近売り出し中のロリ系新人アナ、マシュマロ・ホイップ(ka6506)が、花畑から中継を行っている。
『今日はマシュ、ベムブル農園に来ていまーす! きゃー、コボルドがすごいいっぱいかーわーいーいー♪ ご挨拶してみましょう、わっしっしー』
『うー。わしわし。わし』
『やだー、かわいいって言われちゃったー♪』
明らかにそんなことは言ってないのだろう。コボルドが怪訝な顔をした。
そこにパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が割り込んでくる。
『ミナサンこんにチワー。パティはコボちゃんの言葉を覚えたんダヨっ。ダカラ、コボちゃん達とお話しシテ。コボちゃん達のノゾミを聞いてみるんダヨっわしっわしわしっわしっ』
『わしー。わしわしわし』
『ふん、ふん、ふん。ナルホド、ナルホド。コボちゃん達は宇宙大スターになりたいんダネ』
『わ、わし?』
『コボ数も多いカラ、歌っテ踊れル、アイドルでしょカ。農業のデキるアイドルは人気だからネ。きっと、すっごいスターになれるんダヨっ♪』
リオンの目は釘づけだった。コボルドと少女たちのの微笑ましいやり取りではなく、背景に映っているものに。
組織のペーパーカンパニー社名に続き、『貸借試験地』と書かれた看板。その区画に広がる一面の緑。
「……な……なんでタイマイマイ草が……」
タイマイマイ草――それは『栽培していることがばれたら銀河中の治安機構が捜査に乗り出すほど危険な麻薬』の原料(あまりに危険なので銀河治安機関は、草の姿形を公開していない)。
リオンは電光石火幹部たちを呼び戻した。やらかした大馬鹿野郎を今すぐ沈めるか埋めるかすることと、農園及びその関係者をまとめて処分するように命じる。
それが終わってやっとまた、一息。
「部下の管理不足とは、これではあの知事を笑えませんね」
●
【#政見放送】
人類機械化党ミグ・ロマイヤー(ka0665)。
『わがはいがー、政権を取った暁には―、身体の錬金術補完によりストレス無き社会を実現するのである。人類を全てアルケミノイド(錬金強化人間)に改造してしまえばこの世の苦しみなど忘れ去り手八ッピーは権利なバラ色人生でエンジョイ。見よ、我が機械化コボルド部隊を。彼らの目の瞬きもせず光り輝いて何と生き生きしていることか! わがはいの科学力は世界一ィィィィイイイ!』
未来を憂うジェオルジイ若者代表党フォークス(ka0570)。
『コボルド移民をこのままにしておいていいのか! 移民は若年層の労働賃金を確実に引き下げている! その上彼らはマイノリティというレッテルを利用し、数々の特権を得ている! コボルドは決して少数派ではない、むしろその影響力において多数派だ! イワツッキーもそう言ってサイターマに加わった! 移民を一掃し、主権を正当な労働者の手に取り戻すのだ!』
バブル党代表、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
『みなさーん、みんなのルンルンです……私が知事になったら、サイターマ星団に吸収なんてさせないし、星庁職員のブラック労働も改善、逆にアステロイドの辺境ターマを吸収合併して、転職自由の失業率ゼロ、住民の皆さんにはお休みとお小遣いもあげちゃいます! 私と一緒にバブルへGOです。えっ、コボルドの人権問題ですか?……有権者あっての私たち星庁だもの、まずは選挙権を手に入れてください』
●
ジェオルジ星庁から忘れ去られた、さる廃村。コボルドのコボルドによるコボルドのためのコミューンがコッソリ営まれている場所。
チベタンマスチフ顔の大型コボルド、ツルネン・ピカード(ka6273)は腕を組み、真空管テレビの画面に見入る。
「ううむ、候補者たちは、本気でこういうことを言っているのか?」
その横にはチワワ顔の標準コボルド、御酒部 千鳥(ka6405)。
「本気じゃろうとも。人間の我らに対する認識など、所詮この程度じゃ」
「そう悲観的になることもなかろう。市民権の貸与を公約に掲げてる候補者もおるぞ」
千鳥はふーとため息をつき、首を振る。
「市民権? 選挙権? まぁ得られれば多少生活は楽になるかも知れんのう。だが、どんな権利を得てもここは結局コボルトの社会ではなく、人間の為の社会じゃ。ここでは人間とコボルトの序列は永久に変わらぬのじゃ」
「どこに行くの?」
「静かな暮らしを欲しがっておる仲間を、迎えに行くのじゃよ」
●
【#政見放送】
コボル党代表、カチャ・タホ。
『私はコボルドに市民権を与え、正式な星の住民にすべきだと思います。彼らが市民権を得ることで税収が増えることは確実です。彼らの存在がなければ、若年人口の流出、少子高齢化著しいジェオルジイは、もっと早い速度で衰退していたはずです。彼らは十分この星のために尽くしてくれています。言語があり社会性があり貨幣経済への理解もある。別種族であるからと貶めることがおかしい。多様性を認めずして、恒久的な繁栄など築けません!』
現職知事、マリー・マルグリット。
『皆さん、私は他の候補者のように空論を述べることはあえてしません。口では何とでも言えます。二期6年知事を務めてきました、この実績を見てください。そして、投票先を決めてください』
●
「やだー、ここも-?」
ディーナ ウォロノフ(ka6530)はテレビリモコンを放り出した。膨れっ面で。
「やだー、もう、どこも選挙のことばっかりぃー! つまんないー!」
畳の上に転がって足をバタバタさせるディーナを曾祖父は、お行儀が悪いとたしなめる。
「わし、わしわし」
彼女の曾祖父はコボルドだ。
曾祖母が、切ったスイカを持ってきた。
「わし、わし」
「あっ、食べる食べるー」
彼女の曾祖母もコボルドだ。
一体彼女の家系に何があったのかは定かではない。
そこにドアホンが鳴った。
玄関に行ってみれば、雁久良 霧依(ka6565)。手に草津せんべいの袋を提げている。
「こんにちはーディーナちゃん。里帰りのお土産いるぅ?」
「あっ、いるいるー!」
彼女こそは異界よりの使者、兎神ぴょこに仕える大司教。
と本人は言っているが、真偽は定かでない。ディーナにとっては単に「珍しいお菓子をよく持って来てくれるお姉さん」である。
●
彗星に偽装した移動要塞コロトーン、の中。
神聖グンマー帝国皇帝オンサ・ラ・マーニョ(ka2329)はモニターに移る緑の星に、びしと指を向ける。
屈強な男達が骨製のバチでドラムを叩く。
「次なるはあのジェオルジイとかいう貧相な星じゃ♪ 暇潰しにはなるであろう」
グンマー帝国、それは他星を襲い資源と人を食いつぶしては去るという移動原始無法国家――と恐れられたのは10世紀も前のこと。今ではその危険度、宇宙盗賊団レベルにまで落ちている。
「ウラウラ!」
「「「ベッカンコ!」」」
●
「チッ、取材拒否たあ知事も器が小さすぎるぜ」
庁舎に出入り禁止を食らった旭。ぼやきつつ、次なる取材相手と定めたベムブル農園へ飛んで行く。
「おー、花が満開だなー」
きれいなものだと思いながら旋回していたところ、畑の一角にいるマリィア発見。
(あれ、カチャ候補の関係者が、何でこんなところに?)
よく見れば彼女の隣にはドワーフ。何か話し合っている。
どうも臭い。
旭は急遽取材対象を切り替え、急降下。
「これはこれは、そこにおられるのはカチャ陣営のマリィアさんじゃありませんかー? そちらの方はどなたです?」
「ああ、こちらはこの農場の持ち主、ベムブルさんですよ」
「へえ、そうなんですか。で、一体今……」
そこでコボルドたちの、けたたましく鳴き騒ぐ声が聞こえてきた。
何事かと旭は飛び上がる。
広大な花畑の端から黒い煙。
一方だけではない。四方八方から猛烈な勢いで、火が迫ってきている。
「えっ、えええ!? た、大変だ、火事だ、火事だー!!」
消防を呼びに行かねば。これだけの規模の火事が消せるかどうか疑問だが。
思って彼が翼を翻しかけたとき、急に火が消えた。まるで消しゴムで消されるように。
●
ベムブル農場での火事騒ぎは、ジェオルジ中の話題となった。
フォークスは星庁における公開討論会で、この件を早速利用する。
「これは間違いなく、コボルドによる人災だ!」
それを真っ向から受ける形になったのは、彼女と真逆の立場を表明しているカチャ。
「待ってください、この事件についてはまだ詳細が分かってないんですよ。彼らが故意に何かをしたという証拠はあるんですか?」
「まあ、あるいは故意じゃないかもしれない。だが火事が起きたとき率先して逃げ回っていただけというのは職業倫理上どうなのか?」
彼女だけでも手に負えない所、マリーが更なる暴言を吐き出す。
「確かにコボルドは、倫理感覚に疎いところがあるかもね」
負けじと他候補も身を乗り出す。
「バブルを知らないからそうなるんです。デフレが諸悪の根源なのです。皆さん、ルンルンに一票をー♪」
「愚かな……諸問題の最終解決法は機械化に決まっとる! 機械化すれば腹も減らんし眠くもならんし疲れもせんで24時間働けるまさに天国じゃ!」
コボルド代表コボちゃんは控え室で、討論の実況中継に吠えている。
メイムはそれを、しっ、とたしなめた。
「静かにしてないと聞こえないよ」
言いながらも目は、マリィアのノートパソコンから離さない。
現在の討論について飛び交っているコメント内訳は――コボルド擁護の内容が4割。コボルド非難の内容が4割、討論の迷走ぶりをただ面白がっているのが2割。
「んー、思ったより擁護が伸びないね」
「コボルドに対する偏見も、一部で根強いですからね」
廊下からざわめきが聞こえてきた。
何事かと思い顔を出せば、スーツ姿の集団。先頭にいるのは派遣弁務官の兵庫。
「ちょっと、なんですあなたがた。撮影中ですよ。関係者以外立ち入り禁止です!」
停止を呼びかけられた兵庫は、ばっと広げて見せた。
ユニオンからマリーに向けて発行された、懲戒免職令状を。
「ユニオンと選挙民への背任、並びに反社会組織からの献金……貴職らの職権をユニオンの名において停止させて頂く。残務処理については小官が責任を以て処理するので安心して謹慎して沙汰を待つが良かろう」
●
ここはジェオルジイの過疎地。
見渡す限り茫々と広がる草原。潅木も茂り始めている。
それを丘の上から見ているのは、パトリアシアと、レーヴェ。
「――選挙権が欲しいコボルドは元惑星の籍を捨て、帰属しなければなるまい。帰属もせず税も払わず選挙権を得ようなど、言語道断じゃ。ほかの惑星でも同じことを言うじゃろ……その帰属すら認めないのはフェアでないのはもちろんの話。で、これがおぬしの土地か?」
「うん。ずっと前おじいちゃんから譲られたんダケド、正直持て余しちゃッてテサー。どうかな、ここにコボドル養成所作れるかナッ」
パトシリアの問いにレーヴェは、満足げな笑みを浮かべた。
「うむ、十分いける。これだけの敷地じゃ。一大学園都市を建設することも可能じゃろ」
「ホント? やたー!」
「待て待て、喜ぶのはまだ早いぞ。何を作るにしても先立つものが入り用じゃ。おぬしその準備は出来ているのかの?」
「ウーン、そこはまだ考えてなかったヨ。どうしたらいーカナ?」
「そうじゃのう……じゃあここは一つ私に任せてみてくれんかの? おぬしがやりたいのはプロデュースであって、土地の経営ではなかろ? この先誰が知事になるとしてもわしは――」
レーヴェは口を閉じた。
キーンという鋭い音が降り注いできたのだ。見上げれば、何かが空を横切って行くところ。
「なんじゃ、ありゃ」
「ジェット機じゃナイ?」
適当に答えたパトリシアは、尻ポケットに入れていた携帯が振動し始めたので、手に取る。
「レーヴェ、速報速報! 現知事が生放送中に逮捕されちゃったッテ! それからベムブル農園の火事は、反社会組織の手によるもので、知事及び現閣僚はそのダミー団体から多額献金を受けてたんだっテ!」
●
グンマー帝国の粋を集めた無人機動鼻炎兵器『グン=マーチャン』。
どういうわけか途中で軌道が逸れ迷走、すべてが海に向かい、使命を果たせぬまま没する。
「アホー! 狙撃手どこを狙っておるのじゃ!」
怒ってみても手持ちのグン=マーチャンは全部波の下。呼び戻しにも反応しない。
「ぐぬぬ……仕方ない。とりあえずこのまま乗り込むとするぞよ! 全軍配置につくのじゃ!」
●
「コラコラコラそこー! 動くな現行犯タイーホじゃー!」
選挙掲示板にカラースプレーを吹き付けていた集団は、ジェニファーと部下の襲来により、一人残らず召し捕られた。
「お前ら公務員の癖に、コボルドの味方すんのかよ!」
「たわけ! 妾はコボルドの味方ではない、正義の味方じゃ!」
不埒ものを交番に届けてから、汚されたポスターを張り替える一同。
「今度はカチャ候補ですか。さっきはフォークス候補のポスターがビリッビリにされてましたよね」
「うむ。まことに嘆かわしい。感情的な輩が多すぎじゃ」
「しかしルンルン候補とミグ候補のは、やられてませんよね」
「まあ……あの2名はどこから見ても泡沫じゃからの……本気になって反発する人間もおらんのじゃろうて」
言いながらジェニファーは、お腹回りをこっそり撫でる。
選挙に付き物な二乗菓子箱の贈答を片っ端から摘発、胃袋に没収したせいで、心なし脂肪が増えた……ような。
(……いかんな、もっともっと動かねばのう)
内心焦る所に鳴り始める携帯。
舞からの連絡だ。
「おお、こっちは順調……なに? カチャ候補が遊説中に失踪とな! コボル党マスコットのコボちゃんも! それは一大事じゃ!」
●
廃倉庫。
「わしー! わしわしわしー!」
天井から吊るされたまま暴れまわる、コボちゃん入り布袋。
猿轡をかけられ柱に縛られているカチャ。
その前にいるのはリナリス。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったね。あたしはコボルドキラー・リナリス。カチャ候補の選挙妨害するようにさる人物から雇われててさ、離間、扇動、テロ、色々手を尽くしてるんだけど、これがどーしても妨害が入ってうまくいかないんだよね。あたしとしては、そんなことする奴を放置しておけないわけ」
特に聞かれてもいないのに動機や素性をぺらぺら喋ってしまうのは。悪党の性なのだろうか。
「だからあんたたちには、そいつをおびき寄せる餌になってもらおうと思って♪」
リナリスはカチャの服の前を裂き胸を揉んだ。カチャの胸は年の割によく発育していた。
「わー、けっこうおっきい♪」
「んー! んー!」
「そうだ、まだ時間ありそうだからー……とことんまでやっちゃおっか?」
「んん!?」
カチャの貞操あやうし。
しかしすんでのところで、正義の使者がやってきた。
「ハイヤー!」
分厚いコンクリートの壁を拳の一撃で粉砕し入ってきたのは――筋骨隆々コボルド、ピカード。
「ドーモ、コボルドキラー=サン。コボルドキングです」
リナリスはカチャの乳から手を放し、敵に向かって一礼する。
「ドーモ、コボルドキング=サン。コボルドキラーです」
お辞儀をした後彼女は、一瞬で脱衣した。サイターマ忍術は全裸でこそ最大の実力を発揮する武術なのである。
揺れる揺れる豊満なバスト。
「抵抗するな!」
跳躍し丸太のような首に手刀を叩き込む忍者。
しかしピカードは全く動じなかった。
「そんな手刀じゃ薄皮も斬れんぞ?」
そのことに衝撃を受けるリナリス。
「馬鹿な、硬化テクタイトすら切断する我が手刀が……」
その隙に空いた大穴から入ってきた霧依が、コボちゃんとカチャを救出する。
横目でそれを確認したピカードは、コボルドキングとしての封印を解いた。全身の毛が逆立つ。金色のオーラが燃え上がる。
そして、コボルド百烈拳が炸裂した。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
「グワーッ! グワーッ! グワーッ!」
あっさりKOされるリナリス。
霧依のベルトについていたアラームが、けたたましく鳴り始めた。
「ピカード、さっきのが星に接近してきているわよ。ミサイルを逸らしただけでは諦めがつかなかったみたい」
「ふーむ、それは見過ごせんな……実力で阻止するよりあるまい。とうっ!」
天井を突き破り、空高く飛んで行くピカード。
「あ、待ってー」
小わきにリナリスを抱え、それを追う霧依。
青空の見える大穴を見上げ、カチャは呟いた。
「……なんなんですかあの人たち……」
「わしわし」
「え?、あ、あのマスチフ、コボちゃんのお父さん? 似てないですねー……」
寝耳に水な事実が判明したところで、やっと来る助けの手。
「動くな、選挙管理Gメン、舞だ!」
「そして選挙管理副委員長ジェニファーじゃ! 全員手を挙げろ――って、あれ、犯人は?」
「なんだかよく分からない人たちが来て、連れて行っちゃいましたよ」
続けて入ってきたのは誰あろう、メイムとマリィア。
「もー何してるのカチャ、こんなところで胸出してる場合じゃないでしょ! 今日が選挙期間最終日なんだよ。さあ、有権者様に最後のお願いしに行くよ」
「着替えもって来ましたから急いで! この誘拐事件は奇貨です。コボルド排斥派の危険性をアピールし、無党派層を取り込みましょう」
「あの……いたわりの言葉とかないんですか?」
「そんな暇ないよ今は。そうそう、いいニュースがあるよ。フォークス候補の経歴詐称が判明したんだ」
「ジェオルジイ出身じゃなくて、サイターマのウラーワ出身だったんです。しかもサイターマの政党、宗教団体から資金援助」
「選挙法違反、資格取り消し。選管委員長直々のお達しだよ!」
カチャは素早く考えた。フォークス候補に行くはずだった層がミグ候補あるいはルンルン候補に流れる可能性はあるかと。
答えはNO。あの二人はコボルドの権利擁護を表明していない。が、排斥を表明してもいない。ならばフォークス票の受け皿にはなり得ない。
かくして彼女は眼を輝かせる。
「YES! それなら私勝てる! 確実に勝てますよアハハハハ!」
舞とジェニファーは心底思った。選挙は人を変える、と。
●
個人宇宙艇でジェオルジイを飛び出したリオンは、ほっと一息ついた。
隠蔽工作は不完全だったが、とりあえず高跳びには成功した。
そう思った直後、固まる。いきなり宇宙艇のエンジンが停止したのだ。
「な、何?」
手当たり次第操縦パネルをいじってみても、反応ゼロ。かと思ったら、通信回路が勝手に開いた。
『そのまま動くな。ユニオン警察だ。一級組織犯罪法を犯した罪によりエルバッハ・リオン、お前を逮捕する。現在位置は把握されている。抵抗しても無駄だ』
奥歯を噛み締めたリオンは数秒の沈黙の後、言った。
「……一体どこから情報が?」
『お前の部下からだよ。農場の火付け役だ。堅気に戻りたいと出頭してきた』
「……なるほど。私も人を見る目がありませんでしたね」
●
オンサはモニターにとんでもないものが映るのを見た。
真空空間を飛んでくる魔女っぽいもの(小わきに人が抱えられている)と、大きなコボルドっぽいもの。
「生身で宇宙を飛ぶなど非常識にも程が……」
彼女の言葉が終わらないうち、コボルドっぽいものが要塞に、黄金の右をたたき込む。
●
「あっ、すっごい流れ星-!」
縁側から夜空を見上げるディーナは、「明日こそ遅延になっている万歳丸のギグ放送が見られますように」との祈りを込め、星を見送った。
そこに一本の電話。出てみれば、パトリシア。
「え? 万歳丸のゲリラギグ? KB48とコラボ? 明日星庁前で? 行く行く始発で行くー!!」
●
「マシュの!マシュマシュ~ばっちこーい!☆ さてさて今日は投票日デース。星庁の前は人山の黒だかりー☆」
『フォークス候補の失格は無効だ』『コボルドの陰謀だ』というのぼりを立てたフォークス支持『在星コボルドの特権を認めない会』とコボルド擁護団体とが激しくののしり合い。
間に挟まった警察隊は揉みくちゃにされ、腹立ち紛れに両陣営を蹴飛ばし追い払いにかかる。
その後ろではゲリラギグ。コボルドたちがお揃いの衣装で踊っている。
まさに混沌。
巻き添えで何枚か羽をむしられた旭は小路のうどん屋に避難。
店内には風呂敷を背負った一群のコボルドたちが、備え付けのテレビを見ていた。
ついでだから、リポート。
「こんちはー、選挙についてどう思いますか?」
中心にいたチワワ顔のコボルドが、肩をすくめて答えた。流暢な人間語で。
「妾たちには拘わりのないことじゃな」
「そんなこたあないでしょ。今回の選挙の焦点は、コボルドへの市民権付与ですよ?」
「ここは我々の社会ではなく、人間の為の社会じゃ。誰がどう言ったところでな――ではの」
仲間を促し立ち去るチワワボルト。
旭は椅子に座り、1人ごちた。
「まあ、気の毒な扱いだとは思うぜ。俺だってバサバサのモフモフだしな」
●
意外と泡沫も健闘したが、カチャが勝利。新知事となった。
ザレムはユニオンに帰る前に、銀河法の専門家としての指導を、新知事に与えておく。
「待て。それ、星で決定可能な範囲を超えてるぞ」
「え、そうなんですか?」
「独立星も、銀河団の法に基づかねばならないんだ。可能にするには「行政特区」指定が必要でな。それには少々時間がかかる。市民権なら準ずる権利を与え、戸籍を作り納税義務を負わせるんだ。銀河団の市民権定義に非該当の種族だから準で定義づけよう。手続きは俺が教えるよ。まずは特区申請を議決してくれ。それから……」
銀河法全書を片手にレクチャーしているところ、秘書のメイムとマリィアがやってきた。
「カチャー、星間開発機構エージェントから、プラント開発、並びに学園都市開発の責任者に任命してくれって言う嘆願書来てるよ」
「KB48をジェオルジ公認のスタートして登録して欲しいという嘆願も来ています。ああ、それと面会者が」
執務室に入ってきたのは、コボちゃんを頭に乗せたピカード。並びに首輪つきのオンサとリナリスを引き連れた霧依。
「あ、その節はどうも」
頭を下げるカチャにピカードは、重々しく言った。
「なに、当然のことをしたまでだ。知事殿にはこのまま、邁進していただきたい。わしも出来ることがあれば、手伝うのでな」
霧依も言った。
「私も正義リーグの一員として手伝うわよ。ねえオンサちゃん、リナリスちゃん」
「うむ! 我が臣民たちも我同様霧依殿の下僕として邁進するのじゃ!」
「お姉様の言うことなら何でも聞いちゃう♪」
この際細かいことに拘ってはいられない。政治という戦いは、今始まったばかりなのだ。使えるものは何でも使うべし。
「ありがとうございます! すごく助かります!」
●
さる中華料理店。
ルンルン、ミグ、そしてフォークス。落選者3名が、肩を並べてひそひそ話。
「次回は組みましょう」
「わがはいは突撃部隊を貸し出そう」
「これまで以上に馬力をかけて、草の根運動を始めなくちゃね」
姉と食事を楽しみに来た詩は、彼女らの後ろを通り過ぎる際、話をもれなく耳に挟み、はあ、とため息。
(四年後も大変そう……)
「うん。あたしも秘書として付き合うよ♪ この人も協力してくれるって」
「初めまして、マリィア・バルデス(ka5848)です」
「嫌ですよ選挙なんて! 選挙資金持ってないですし! 取り消してきてくださいよ今すぐに!」
メイムは優しい眼差しをカチャ向けた。
「大丈夫、供託金の2百万Gは倉庫に在った純銀の錫杖を担保に保証人はマムカチャと書いたら借りられたよ♪ マリー銀行から」
「マリー銀行!? あそこが星庁の巨大不良再建って呼ばれてるの知ってるでしょー!?」
「うん、知ってる。格付B-。でもー、未成年のカチャさんに貸してくれるのはそこだけだったし?」
嫌な汗が止まらないカチャ。メイムはとことん楽しそうだ。
「公約は移民亜人の市民権確立、労働人口と税収の安定化にしよう。マスコットっぽいコボルトと花卉産業を目玉に、近隣星系グンマ―とかカナガーワからの観光客増加を目指す。観光産業の為に施設運営で人類人口も回復出来るって思うんだよね」
立て板に水とプランを語り始めるメイム。どこかの誰かに電話をし始めるマリィア。
「閣下の仰る通りだと思います。コボルドの権利擁護活動はそのままマリー陣営のイメージダウンと閣下の獲得票増大に繋がるかと。彼らが市民権を得ることで得票数も税収も増える。良いこと尽くめです……はい、彼女が当選するよう全力を尽くします……」
カチャはただ、立ち尽くすのみであった。
●
ギャラクシーユニオン中央行政官ザレム・アズール(ka0878)は、ジェオルジイに単身乗り込むことを決めた。いくら独立行星区とはいえ、ろくな事前報告もなしに選挙を始めるというのは、やり過ぎだとしか思えない。
(一体あの星はどうなっているんだ……)
ユニオンセントラル空港に向かい、定期宇宙船に乗り込む。
そこに星間開発機構のエージェント、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がやってきた。
彼女はジェオルジの農場経営者複数に請われ、現地視察に行くところ。
「前を失礼していいかの、先客さん」
「ああ、どうぞ」
ザレムの前を通過し窓側に座るレーヴェ。
船内アナウンスが聞こえて来た。
『ご乗船の皆様、毎度ご利用ありがとうございます。当船はオクターマ経由ジェオルジ行きです。大気圏離脱の際、多少のGがかかります。念のためシートベルトをお締めください……』
●
ユニオン派遣弁務官の榊 兵庫(ka0010)は、スペースフォンの画面に映し出された文字を見る。
送り手はユニオン行政官ザレム。文面は『これからそちらに向かう』の一言。
来るべきものが来た。先んじて自分がこの星に派遣されていた段階で、読めていた展開ではあるが。
恐らくこの選挙、住民が考えている以上にジェオルジの今後にとって、重大なものとなるであろう。
「……このままサイターマ星団に任せるにしてもこの星の現状を把握しておかなくてはならないからな。俺を失望させてくれるなよ」
とにかく今は行政官と情報を共有し、活動の打ち合わせをしなければならない。
思って彼は、ジェオルジイ空港へと向かう。
その後ろをリナリス・リーカノア(ka5126)が、ぶつぶつ言いながら通り過ぎた。
「もー、今時空港から市街地までの無料シャトルバスがないとか、有り得なくない? どんだけ田舎よー」
彼女はサイターマ忍者の末裔。当地の亜人排斥主義者から依頼を受け、今この星についたばかり。
「今回は、何枚毛皮がとれるかなー♪」
●
ジェオルジイ星庁舎。
庁舎前に乗りつけてきたリムジン。リポータたちが我先にと群がっていく。その中に、鳥人岩井崎 旭(ka0234)の姿もある。
「知事、多年に渡って公共工事の不正入札が行われていたそうですが!」
「支持団体と癒着があったとか!」
「白紙領収書の乱発について何か一言!」
現地時はSPに囲まれ、足早に報道陣の前を通り過ぎて行く。お愛想笑いをして。
「それらの問題については内部調査特別委員会を立ち上げておりますので……」
こんなそつのない答弁ではつまらない。もっと本気の本音、作り物ではない言葉を引き出さなくては。
そう思った旭は去って行こうとする背中に呼びかけた。
「それはそうと知事、いつまで独身を貫くおつもりですかー?」
マリー知事は足を止めた。SPの腰からガス銃を抜き取り、旭に向け発砲。
「うおおおおおお!!??」
飛んで逃げて行く旭。
SPに両脇を抱えられ、引きずるように連れていかれるマリー。
「あいつを雇っているテレビ局はどこなの! 今すぐ放送免許取り上げてやるぅぅ!」
●
急遽設置された選挙管理委員会。
上座で天竜寺 詩(ka0396)が、にこやかに挨拶。
「私がこの度選挙管理委員長に任命された天竜寺詩です。皆さん、不正の無い選挙をお願いしますね」
詩の隣に座るのは、副委員長ジェニファー・ラングストン(ka4564)。
「田舎とはいえ不正選挙は許すまじぞよ! 公正と正義はなされねばならぬからのう」
やる気満々な彼女らの前にあるのは、憂鬱そうな庁職員たちの顔、顔、顔。
「どうした皆、しっかりせんか! まだ何も始まってはおらんぞ!」
始まってなくても大変さは予想出来る。一部の都市を除き人の所在がまばらなのが常態のジェオルジ。その分多数の投票所を各方面に設置しなくてはならない。掲示板についても同様。
とても正規職員だけでは手が回らない。そこでバイトの出番。
「おうプードルども、たくさん選挙箱つくるのじゃ!!」
「わし!」「わし!」「わし!」
詩は現場を彼女らに任せ、いったん執務室に戻る。
そこには選挙Gメンの天竜寺 舞(ka0377)がいた。
「お姉ちゃん、それじゃあお仕事お願いね。違反を伺わせる動きがあったら、逐一こっちに連絡して」
「任せとけって」
「頼んだよ。お仕事が終わったら、また一緒にご飯に行こうね」
「お、いいね。次は満願全席いってみるか」
●
スペースマフィアの大幹部エルバッハ・リオン(ka2434)はタワーマンションの一室で、直属幹部たちに指示を出していた。
ジェオルジの政権上層部と癒着し営利目的の非合法活動を行っていたが、この分ではそろそろ事業も潮時。
「当惑星におけるダミー会社の事務所を逐一閉鎖していくように。分かっているとは思いますが塵一つも痕跡が残らないようにして下さい」
そう言ってエルバッハは、幹部たちを退室させた。
気分転換にテレビでも見ようと、壁のモニターを一瞥する。
それだけで画面がついた。
『マシュの!マシュマシュ~ばっちこーい!☆』
最近売り出し中のロリ系新人アナ、マシュマロ・ホイップ(ka6506)が、花畑から中継を行っている。
『今日はマシュ、ベムブル農園に来ていまーす! きゃー、コボルドがすごいいっぱいかーわーいーいー♪ ご挨拶してみましょう、わっしっしー』
『うー。わしわし。わし』
『やだー、かわいいって言われちゃったー♪』
明らかにそんなことは言ってないのだろう。コボルドが怪訝な顔をした。
そこにパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が割り込んでくる。
『ミナサンこんにチワー。パティはコボちゃんの言葉を覚えたんダヨっ。ダカラ、コボちゃん達とお話しシテ。コボちゃん達のノゾミを聞いてみるんダヨっわしっわしわしっわしっ』
『わしー。わしわしわし』
『ふん、ふん、ふん。ナルホド、ナルホド。コボちゃん達は宇宙大スターになりたいんダネ』
『わ、わし?』
『コボ数も多いカラ、歌っテ踊れル、アイドルでしょカ。農業のデキるアイドルは人気だからネ。きっと、すっごいスターになれるんダヨっ♪』
リオンの目は釘づけだった。コボルドと少女たちのの微笑ましいやり取りではなく、背景に映っているものに。
組織のペーパーカンパニー社名に続き、『貸借試験地』と書かれた看板。その区画に広がる一面の緑。
「……な……なんでタイマイマイ草が……」
タイマイマイ草――それは『栽培していることがばれたら銀河中の治安機構が捜査に乗り出すほど危険な麻薬』の原料(あまりに危険なので銀河治安機関は、草の姿形を公開していない)。
リオンは電光石火幹部たちを呼び戻した。やらかした大馬鹿野郎を今すぐ沈めるか埋めるかすることと、農園及びその関係者をまとめて処分するように命じる。
それが終わってやっとまた、一息。
「部下の管理不足とは、これではあの知事を笑えませんね」
●
【#政見放送】
人類機械化党ミグ・ロマイヤー(ka0665)。
『わがはいがー、政権を取った暁には―、身体の錬金術補完によりストレス無き社会を実現するのである。人類を全てアルケミノイド(錬金強化人間)に改造してしまえばこの世の苦しみなど忘れ去り手八ッピーは権利なバラ色人生でエンジョイ。見よ、我が機械化コボルド部隊を。彼らの目の瞬きもせず光り輝いて何と生き生きしていることか! わがはいの科学力は世界一ィィィィイイイ!』
未来を憂うジェオルジイ若者代表党フォークス(ka0570)。
『コボルド移民をこのままにしておいていいのか! 移民は若年層の労働賃金を確実に引き下げている! その上彼らはマイノリティというレッテルを利用し、数々の特権を得ている! コボルドは決して少数派ではない、むしろその影響力において多数派だ! イワツッキーもそう言ってサイターマに加わった! 移民を一掃し、主権を正当な労働者の手に取り戻すのだ!』
バブル党代表、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
『みなさーん、みんなのルンルンです……私が知事になったら、サイターマ星団に吸収なんてさせないし、星庁職員のブラック労働も改善、逆にアステロイドの辺境ターマを吸収合併して、転職自由の失業率ゼロ、住民の皆さんにはお休みとお小遣いもあげちゃいます! 私と一緒にバブルへGOです。えっ、コボルドの人権問題ですか?……有権者あっての私たち星庁だもの、まずは選挙権を手に入れてください』
●
ジェオルジ星庁から忘れ去られた、さる廃村。コボルドのコボルドによるコボルドのためのコミューンがコッソリ営まれている場所。
チベタンマスチフ顔の大型コボルド、ツルネン・ピカード(ka6273)は腕を組み、真空管テレビの画面に見入る。
「ううむ、候補者たちは、本気でこういうことを言っているのか?」
その横にはチワワ顔の標準コボルド、御酒部 千鳥(ka6405)。
「本気じゃろうとも。人間の我らに対する認識など、所詮この程度じゃ」
「そう悲観的になることもなかろう。市民権の貸与を公約に掲げてる候補者もおるぞ」
千鳥はふーとため息をつき、首を振る。
「市民権? 選挙権? まぁ得られれば多少生活は楽になるかも知れんのう。だが、どんな権利を得てもここは結局コボルトの社会ではなく、人間の為の社会じゃ。ここでは人間とコボルトの序列は永久に変わらぬのじゃ」
「どこに行くの?」
「静かな暮らしを欲しがっておる仲間を、迎えに行くのじゃよ」
●
【#政見放送】
コボル党代表、カチャ・タホ。
『私はコボルドに市民権を与え、正式な星の住民にすべきだと思います。彼らが市民権を得ることで税収が増えることは確実です。彼らの存在がなければ、若年人口の流出、少子高齢化著しいジェオルジイは、もっと早い速度で衰退していたはずです。彼らは十分この星のために尽くしてくれています。言語があり社会性があり貨幣経済への理解もある。別種族であるからと貶めることがおかしい。多様性を認めずして、恒久的な繁栄など築けません!』
現職知事、マリー・マルグリット。
『皆さん、私は他の候補者のように空論を述べることはあえてしません。口では何とでも言えます。二期6年知事を務めてきました、この実績を見てください。そして、投票先を決めてください』
●
「やだー、ここも-?」
ディーナ ウォロノフ(ka6530)はテレビリモコンを放り出した。膨れっ面で。
「やだー、もう、どこも選挙のことばっかりぃー! つまんないー!」
畳の上に転がって足をバタバタさせるディーナを曾祖父は、お行儀が悪いとたしなめる。
「わし、わしわし」
彼女の曾祖父はコボルドだ。
曾祖母が、切ったスイカを持ってきた。
「わし、わし」
「あっ、食べる食べるー」
彼女の曾祖母もコボルドだ。
一体彼女の家系に何があったのかは定かではない。
そこにドアホンが鳴った。
玄関に行ってみれば、雁久良 霧依(ka6565)。手に草津せんべいの袋を提げている。
「こんにちはーディーナちゃん。里帰りのお土産いるぅ?」
「あっ、いるいるー!」
彼女こそは異界よりの使者、兎神ぴょこに仕える大司教。
と本人は言っているが、真偽は定かでない。ディーナにとっては単に「珍しいお菓子をよく持って来てくれるお姉さん」である。
●
彗星に偽装した移動要塞コロトーン、の中。
神聖グンマー帝国皇帝オンサ・ラ・マーニョ(ka2329)はモニターに移る緑の星に、びしと指を向ける。
屈強な男達が骨製のバチでドラムを叩く。
「次なるはあのジェオルジイとかいう貧相な星じゃ♪ 暇潰しにはなるであろう」
グンマー帝国、それは他星を襲い資源と人を食いつぶしては去るという移動原始無法国家――と恐れられたのは10世紀も前のこと。今ではその危険度、宇宙盗賊団レベルにまで落ちている。
「ウラウラ!」
「「「ベッカンコ!」」」
●
「チッ、取材拒否たあ知事も器が小さすぎるぜ」
庁舎に出入り禁止を食らった旭。ぼやきつつ、次なる取材相手と定めたベムブル農園へ飛んで行く。
「おー、花が満開だなー」
きれいなものだと思いながら旋回していたところ、畑の一角にいるマリィア発見。
(あれ、カチャ候補の関係者が、何でこんなところに?)
よく見れば彼女の隣にはドワーフ。何か話し合っている。
どうも臭い。
旭は急遽取材対象を切り替え、急降下。
「これはこれは、そこにおられるのはカチャ陣営のマリィアさんじゃありませんかー? そちらの方はどなたです?」
「ああ、こちらはこの農場の持ち主、ベムブルさんですよ」
「へえ、そうなんですか。で、一体今……」
そこでコボルドたちの、けたたましく鳴き騒ぐ声が聞こえてきた。
何事かと旭は飛び上がる。
広大な花畑の端から黒い煙。
一方だけではない。四方八方から猛烈な勢いで、火が迫ってきている。
「えっ、えええ!? た、大変だ、火事だ、火事だー!!」
消防を呼びに行かねば。これだけの規模の火事が消せるかどうか疑問だが。
思って彼が翼を翻しかけたとき、急に火が消えた。まるで消しゴムで消されるように。
●
ベムブル農場での火事騒ぎは、ジェオルジ中の話題となった。
フォークスは星庁における公開討論会で、この件を早速利用する。
「これは間違いなく、コボルドによる人災だ!」
それを真っ向から受ける形になったのは、彼女と真逆の立場を表明しているカチャ。
「待ってください、この事件についてはまだ詳細が分かってないんですよ。彼らが故意に何かをしたという証拠はあるんですか?」
「まあ、あるいは故意じゃないかもしれない。だが火事が起きたとき率先して逃げ回っていただけというのは職業倫理上どうなのか?」
彼女だけでも手に負えない所、マリーが更なる暴言を吐き出す。
「確かにコボルドは、倫理感覚に疎いところがあるかもね」
負けじと他候補も身を乗り出す。
「バブルを知らないからそうなるんです。デフレが諸悪の根源なのです。皆さん、ルンルンに一票をー♪」
「愚かな……諸問題の最終解決法は機械化に決まっとる! 機械化すれば腹も減らんし眠くもならんし疲れもせんで24時間働けるまさに天国じゃ!」
コボルド代表コボちゃんは控え室で、討論の実況中継に吠えている。
メイムはそれを、しっ、とたしなめた。
「静かにしてないと聞こえないよ」
言いながらも目は、マリィアのノートパソコンから離さない。
現在の討論について飛び交っているコメント内訳は――コボルド擁護の内容が4割。コボルド非難の内容が4割、討論の迷走ぶりをただ面白がっているのが2割。
「んー、思ったより擁護が伸びないね」
「コボルドに対する偏見も、一部で根強いですからね」
廊下からざわめきが聞こえてきた。
何事かと思い顔を出せば、スーツ姿の集団。先頭にいるのは派遣弁務官の兵庫。
「ちょっと、なんですあなたがた。撮影中ですよ。関係者以外立ち入り禁止です!」
停止を呼びかけられた兵庫は、ばっと広げて見せた。
ユニオンからマリーに向けて発行された、懲戒免職令状を。
「ユニオンと選挙民への背任、並びに反社会組織からの献金……貴職らの職権をユニオンの名において停止させて頂く。残務処理については小官が責任を以て処理するので安心して謹慎して沙汰を待つが良かろう」
●
ここはジェオルジイの過疎地。
見渡す限り茫々と広がる草原。潅木も茂り始めている。
それを丘の上から見ているのは、パトリアシアと、レーヴェ。
「――選挙権が欲しいコボルドは元惑星の籍を捨て、帰属しなければなるまい。帰属もせず税も払わず選挙権を得ようなど、言語道断じゃ。ほかの惑星でも同じことを言うじゃろ……その帰属すら認めないのはフェアでないのはもちろんの話。で、これがおぬしの土地か?」
「うん。ずっと前おじいちゃんから譲られたんダケド、正直持て余しちゃッてテサー。どうかな、ここにコボドル養成所作れるかナッ」
パトシリアの問いにレーヴェは、満足げな笑みを浮かべた。
「うむ、十分いける。これだけの敷地じゃ。一大学園都市を建設することも可能じゃろ」
「ホント? やたー!」
「待て待て、喜ぶのはまだ早いぞ。何を作るにしても先立つものが入り用じゃ。おぬしその準備は出来ているのかの?」
「ウーン、そこはまだ考えてなかったヨ。どうしたらいーカナ?」
「そうじゃのう……じゃあここは一つ私に任せてみてくれんかの? おぬしがやりたいのはプロデュースであって、土地の経営ではなかろ? この先誰が知事になるとしてもわしは――」
レーヴェは口を閉じた。
キーンという鋭い音が降り注いできたのだ。見上げれば、何かが空を横切って行くところ。
「なんじゃ、ありゃ」
「ジェット機じゃナイ?」
適当に答えたパトリシアは、尻ポケットに入れていた携帯が振動し始めたので、手に取る。
「レーヴェ、速報速報! 現知事が生放送中に逮捕されちゃったッテ! それからベムブル農園の火事は、反社会組織の手によるもので、知事及び現閣僚はそのダミー団体から多額献金を受けてたんだっテ!」
●
グンマー帝国の粋を集めた無人機動鼻炎兵器『グン=マーチャン』。
どういうわけか途中で軌道が逸れ迷走、すべてが海に向かい、使命を果たせぬまま没する。
「アホー! 狙撃手どこを狙っておるのじゃ!」
怒ってみても手持ちのグン=マーチャンは全部波の下。呼び戻しにも反応しない。
「ぐぬぬ……仕方ない。とりあえずこのまま乗り込むとするぞよ! 全軍配置につくのじゃ!」
●
「コラコラコラそこー! 動くな現行犯タイーホじゃー!」
選挙掲示板にカラースプレーを吹き付けていた集団は、ジェニファーと部下の襲来により、一人残らず召し捕られた。
「お前ら公務員の癖に、コボルドの味方すんのかよ!」
「たわけ! 妾はコボルドの味方ではない、正義の味方じゃ!」
不埒ものを交番に届けてから、汚されたポスターを張り替える一同。
「今度はカチャ候補ですか。さっきはフォークス候補のポスターがビリッビリにされてましたよね」
「うむ。まことに嘆かわしい。感情的な輩が多すぎじゃ」
「しかしルンルン候補とミグ候補のは、やられてませんよね」
「まあ……あの2名はどこから見ても泡沫じゃからの……本気になって反発する人間もおらんのじゃろうて」
言いながらジェニファーは、お腹回りをこっそり撫でる。
選挙に付き物な二乗菓子箱の贈答を片っ端から摘発、胃袋に没収したせいで、心なし脂肪が増えた……ような。
(……いかんな、もっともっと動かねばのう)
内心焦る所に鳴り始める携帯。
舞からの連絡だ。
「おお、こっちは順調……なに? カチャ候補が遊説中に失踪とな! コボル党マスコットのコボちゃんも! それは一大事じゃ!」
●
廃倉庫。
「わしー! わしわしわしー!」
天井から吊るされたまま暴れまわる、コボちゃん入り布袋。
猿轡をかけられ柱に縛られているカチャ。
その前にいるのはリナリス。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったね。あたしはコボルドキラー・リナリス。カチャ候補の選挙妨害するようにさる人物から雇われててさ、離間、扇動、テロ、色々手を尽くしてるんだけど、これがどーしても妨害が入ってうまくいかないんだよね。あたしとしては、そんなことする奴を放置しておけないわけ」
特に聞かれてもいないのに動機や素性をぺらぺら喋ってしまうのは。悪党の性なのだろうか。
「だからあんたたちには、そいつをおびき寄せる餌になってもらおうと思って♪」
リナリスはカチャの服の前を裂き胸を揉んだ。カチャの胸は年の割によく発育していた。
「わー、けっこうおっきい♪」
「んー! んー!」
「そうだ、まだ時間ありそうだからー……とことんまでやっちゃおっか?」
「んん!?」
カチャの貞操あやうし。
しかしすんでのところで、正義の使者がやってきた。
「ハイヤー!」
分厚いコンクリートの壁を拳の一撃で粉砕し入ってきたのは――筋骨隆々コボルド、ピカード。
「ドーモ、コボルドキラー=サン。コボルドキングです」
リナリスはカチャの乳から手を放し、敵に向かって一礼する。
「ドーモ、コボルドキング=サン。コボルドキラーです」
お辞儀をした後彼女は、一瞬で脱衣した。サイターマ忍術は全裸でこそ最大の実力を発揮する武術なのである。
揺れる揺れる豊満なバスト。
「抵抗するな!」
跳躍し丸太のような首に手刀を叩き込む忍者。
しかしピカードは全く動じなかった。
「そんな手刀じゃ薄皮も斬れんぞ?」
そのことに衝撃を受けるリナリス。
「馬鹿な、硬化テクタイトすら切断する我が手刀が……」
その隙に空いた大穴から入ってきた霧依が、コボちゃんとカチャを救出する。
横目でそれを確認したピカードは、コボルドキングとしての封印を解いた。全身の毛が逆立つ。金色のオーラが燃え上がる。
そして、コボルド百烈拳が炸裂した。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
「グワーッ! グワーッ! グワーッ!」
あっさりKOされるリナリス。
霧依のベルトについていたアラームが、けたたましく鳴り始めた。
「ピカード、さっきのが星に接近してきているわよ。ミサイルを逸らしただけでは諦めがつかなかったみたい」
「ふーむ、それは見過ごせんな……実力で阻止するよりあるまい。とうっ!」
天井を突き破り、空高く飛んで行くピカード。
「あ、待ってー」
小わきにリナリスを抱え、それを追う霧依。
青空の見える大穴を見上げ、カチャは呟いた。
「……なんなんですかあの人たち……」
「わしわし」
「え?、あ、あのマスチフ、コボちゃんのお父さん? 似てないですねー……」
寝耳に水な事実が判明したところで、やっと来る助けの手。
「動くな、選挙管理Gメン、舞だ!」
「そして選挙管理副委員長ジェニファーじゃ! 全員手を挙げろ――って、あれ、犯人は?」
「なんだかよく分からない人たちが来て、連れて行っちゃいましたよ」
続けて入ってきたのは誰あろう、メイムとマリィア。
「もー何してるのカチャ、こんなところで胸出してる場合じゃないでしょ! 今日が選挙期間最終日なんだよ。さあ、有権者様に最後のお願いしに行くよ」
「着替えもって来ましたから急いで! この誘拐事件は奇貨です。コボルド排斥派の危険性をアピールし、無党派層を取り込みましょう」
「あの……いたわりの言葉とかないんですか?」
「そんな暇ないよ今は。そうそう、いいニュースがあるよ。フォークス候補の経歴詐称が判明したんだ」
「ジェオルジイ出身じゃなくて、サイターマのウラーワ出身だったんです。しかもサイターマの政党、宗教団体から資金援助」
「選挙法違反、資格取り消し。選管委員長直々のお達しだよ!」
カチャは素早く考えた。フォークス候補に行くはずだった層がミグ候補あるいはルンルン候補に流れる可能性はあるかと。
答えはNO。あの二人はコボルドの権利擁護を表明していない。が、排斥を表明してもいない。ならばフォークス票の受け皿にはなり得ない。
かくして彼女は眼を輝かせる。
「YES! それなら私勝てる! 確実に勝てますよアハハハハ!」
舞とジェニファーは心底思った。選挙は人を変える、と。
●
個人宇宙艇でジェオルジイを飛び出したリオンは、ほっと一息ついた。
隠蔽工作は不完全だったが、とりあえず高跳びには成功した。
そう思った直後、固まる。いきなり宇宙艇のエンジンが停止したのだ。
「な、何?」
手当たり次第操縦パネルをいじってみても、反応ゼロ。かと思ったら、通信回路が勝手に開いた。
『そのまま動くな。ユニオン警察だ。一級組織犯罪法を犯した罪によりエルバッハ・リオン、お前を逮捕する。現在位置は把握されている。抵抗しても無駄だ』
奥歯を噛み締めたリオンは数秒の沈黙の後、言った。
「……一体どこから情報が?」
『お前の部下からだよ。農場の火付け役だ。堅気に戻りたいと出頭してきた』
「……なるほど。私も人を見る目がありませんでしたね」
●
オンサはモニターにとんでもないものが映るのを見た。
真空空間を飛んでくる魔女っぽいもの(小わきに人が抱えられている)と、大きなコボルドっぽいもの。
「生身で宇宙を飛ぶなど非常識にも程が……」
彼女の言葉が終わらないうち、コボルドっぽいものが要塞に、黄金の右をたたき込む。
●
「あっ、すっごい流れ星-!」
縁側から夜空を見上げるディーナは、「明日こそ遅延になっている万歳丸のギグ放送が見られますように」との祈りを込め、星を見送った。
そこに一本の電話。出てみれば、パトリシア。
「え? 万歳丸のゲリラギグ? KB48とコラボ? 明日星庁前で? 行く行く始発で行くー!!」
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「マシュの!マシュマシュ~ばっちこーい!☆ さてさて今日は投票日デース。星庁の前は人山の黒だかりー☆」
『フォークス候補の失格は無効だ』『コボルドの陰謀だ』というのぼりを立てたフォークス支持『在星コボルドの特権を認めない会』とコボルド擁護団体とが激しくののしり合い。
間に挟まった警察隊は揉みくちゃにされ、腹立ち紛れに両陣営を蹴飛ばし追い払いにかかる。
その後ろではゲリラギグ。コボルドたちがお揃いの衣装で踊っている。
まさに混沌。
巻き添えで何枚か羽をむしられた旭は小路のうどん屋に避難。
店内には風呂敷を背負った一群のコボルドたちが、備え付けのテレビを見ていた。
ついでだから、リポート。
「こんちはー、選挙についてどう思いますか?」
中心にいたチワワ顔のコボルドが、肩をすくめて答えた。流暢な人間語で。
「妾たちには拘わりのないことじゃな」
「そんなこたあないでしょ。今回の選挙の焦点は、コボルドへの市民権付与ですよ?」
「ここは我々の社会ではなく、人間の為の社会じゃ。誰がどう言ったところでな――ではの」
仲間を促し立ち去るチワワボルト。
旭は椅子に座り、1人ごちた。
「まあ、気の毒な扱いだとは思うぜ。俺だってバサバサのモフモフだしな」
●
意外と泡沫も健闘したが、カチャが勝利。新知事となった。
ザレムはユニオンに帰る前に、銀河法の専門家としての指導を、新知事に与えておく。
「待て。それ、星で決定可能な範囲を超えてるぞ」
「え、そうなんですか?」
「独立星も、銀河団の法に基づかねばならないんだ。可能にするには「行政特区」指定が必要でな。それには少々時間がかかる。市民権なら準ずる権利を与え、戸籍を作り納税義務を負わせるんだ。銀河団の市民権定義に非該当の種族だから準で定義づけよう。手続きは俺が教えるよ。まずは特区申請を議決してくれ。それから……」
銀河法全書を片手にレクチャーしているところ、秘書のメイムとマリィアがやってきた。
「カチャー、星間開発機構エージェントから、プラント開発、並びに学園都市開発の責任者に任命してくれって言う嘆願書来てるよ」
「KB48をジェオルジ公認のスタートして登録して欲しいという嘆願も来ています。ああ、それと面会者が」
執務室に入ってきたのは、コボちゃんを頭に乗せたピカード。並びに首輪つきのオンサとリナリスを引き連れた霧依。
「あ、その節はどうも」
頭を下げるカチャにピカードは、重々しく言った。
「なに、当然のことをしたまでだ。知事殿にはこのまま、邁進していただきたい。わしも出来ることがあれば、手伝うのでな」
霧依も言った。
「私も正義リーグの一員として手伝うわよ。ねえオンサちゃん、リナリスちゃん」
「うむ! 我が臣民たちも我同様霧依殿の下僕として邁進するのじゃ!」
「お姉様の言うことなら何でも聞いちゃう♪」
この際細かいことに拘ってはいられない。政治という戦いは、今始まったばかりなのだ。使えるものは何でも使うべし。
「ありがとうございます! すごく助かります!」
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さる中華料理店。
ルンルン、ミグ、そしてフォークス。落選者3名が、肩を並べてひそひそ話。
「次回は組みましょう」
「わがはいは突撃部隊を貸し出そう」
「これまで以上に馬力をかけて、草の根運動を始めなくちゃね」
姉と食事を楽しみに来た詩は、彼女らの後ろを通り過ぎる際、話をもれなく耳に挟み、はあ、とため息。
(四年後も大変そう……)
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/01 19:17:48 |
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この ろくでもない ほしで 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/11/01 19:19:08 |