想いの花を届けに

マスター:STANZA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/16 12:00
完成日
2014/06/22 06:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 自由都市同盟の沿岸に位置する、蒸気工場都市フマーレ。
 沿岸の工場地帯から内陸の住宅街へと続く一帯には、様々な店が軒を連ねる商店街がある。
 利用者の殆どが工場労働者である為、そこには極彩色の街ヴァリオスの様な高級品を扱う店は殆どない。
 代わりに庶民が気軽に利用出来る様な、気取らない雰囲気の店が揃っていた。

 その一角に、猫雑貨と花の店「フロル」がある。
 お世辞にも広いとは言えない店内に、猫をモチーフにした様々な雑貨がひしめき、その隙間に季節の花が飾られている——そんな雰囲気の可愛らしい店だ。
 店主はフロリアス・カヴァーリオ、通称フロル。
 店の名と同じというのが紛らわしいと感じるか、それとも覚えやすいと感じるかは人それぞれだ。
 とにかく、店はそのフロルという青年が一人で切り盛りしていた。

 普段の売り上げは、猫雑貨と花が半々くらい——嘘です、ごめんなさい。
 猫雑貨、殆ど売れてません。
 それでも雑貨の売り場を縮小しようと考えないのは、フロル自身が無類の猫好きである為だ。
 この店は殆ど趣味でやっていると言って良い。
 と言うか実際に殆ど利益は出ていないので、その意味でも趣味の領域だろう。
 その中で辛うじて生活費を稼いでくれる、それが生花の販売だった。

 何かの記念日や特別な日に花束を贈る習慣は、この世界にもある。
 花を貰って渋い顔になる人は、どこの世界にもまずいないだろう。
 それが豪華な花束でも、たった一輪の野に咲く花でさえ、受け取った人を幸せな気分にしてくれる。
 そこに何か特別な想いが込められているとしたら尚更だ。

 客の注文に応じて、特別な日の特別な想いが込められた花束を用意するのも花屋の仕事だった。

 ところが、その日。


「……え、街道が通れないのですか……?」
 店に設置された魔法伝話の受話器を取ったフロルは、そこから聞こえる声に表情を曇らせた。
「それは困りましたね〜」
 間延びした話し方のせいか、余り真剣に困っている様には聞こえない。
 しかし実際は、店の信用にも関わる大問題だった。

 その日、店には一件の注文が入っていた。
「今日の夕方までに、想花がどうしても必要なのですよー」
 想花(おもいばな)は、別名ハーティクル・フラワーとも言う。
 ハート型をした淡いピンクの小花がスプレー状に群れ咲く可愛らしい花だ。
 リアルブルーの花に例えるなら、かすみ草の花がハート型になった様なものだと言えば良いだろうか。
 その花の形ゆえか、この世界では告白の際に添える花として有名だった。
 ただし、その生産量は少なく、必要な時にタイミング良く手に入る事は滅多にない。
 想花が手に入っただけで、その告白は成功したも同然——そう言われる程のラッキーアイテムなのだ。

 フロルは事前に生産者に確認し、この日に入荷が可能であるとの確約を得ていた。
 生産者の方でも約束通りに出荷し、今まさにフロルの店に向けて、荷馬車で街道をゴトゴトやって来るところだったのだ。
 しかし運の悪いことに、そこにヴォイドが現れてしまった。
 生産者はいったん街道を離れ、近くの魔法伝話を借りてフロルに連絡を入れて来た——という訳だ。

「現れたヴォイドは、どんな奴でしょう?」
『ゴブリンの群れだ、20匹くらいだったな』
 フロルの問いに、伝話の声が答える。
「わかりました、ではこちらからハンターオフィスに救援を依頼しますねー」
 その程度なら街道警備の陸軍に頼むまでもない——と言うか、はっきり言ってヘタレな陸軍よりもハンター達の方がよほど頼りになるだろう。
「今、伝話をお借りしている場所は……はい、そうですかー」
 ふむふむ。
「では、そこから動かずに待っていて下さいね〜」

 通話を切ったフロルは、今度はハンターオフィスに連絡を入れた。
 ゴブリンさえ片付けてしまえば、今日の夕方には店に着く筈だ。
 ハンター達にはそのまま護衛について貰えば、残りの道中も安心だろう。
 お客さんが花束を取りに来るのは、工場の勤務時間が終わった後だから——

 急げば間に合う。
 でも慌てず慎重に。

「無事に済んだら、ハンターの皆さんにはお茶でもご馳走しましょうか〜」
 可愛い猫柄の缶に入ったお茶があった筈だ。
 売り物だけど、まあいいや!

リプレイ本文

「へえー、ここがハンターオフィスかー!」
 アシャラ・シ・タルパ(ka1733)は、物珍しそうにオフィスの中を見回していた。
「故郷にはないもんばっかりだなー…故郷じゃ俺一番背が高かったから、人を見上げるのも新鮮だー…」
 やがて依頼が並ぶ一角に辿り着き――
「よし、これに決めた!」
 頷いたアシャラの前に、ひょいっと現れた黄色い頭。
「ちょっと邪魔するぜ! なになに、生花と猫雑貨…か。何か応援したくなる雑貨屋だな!」
 そう言って振り向いた威勢の良い元気少女は、メリル・フロレンス(ka0999)と名乗った。
「ゴブリン退治で済む程度ならいくらでもやってやるぜ!」
 どうやら彼女も同じ依頼を受ける様だ。
 そしてもう一人。
「想いを届ける花か…ふ、確かにそれは届けねばなるまいな」
 現れたのは金髪翠眼の青年、リュグナート・ヴェクサシオン(ka1449)だ。
「…あ」
 聞き覚えのある声に、メリルが顔を上げる。
「メリル殿か」
「よー、鯱の兄ちゃんじゃん!」
 どうやら二人は顔見知りの様だ。
「やっぱり知ってる奴いると安心するな!」
 集まった仲間は全部で8人、いずれもこれが初仕事となる駆け出しハンターだ。
「ガッハッハ!!」
 孫六 兼元(ka0256)が豪快な笑い声を響かせる。
「なに気負うことは無い! 己が技を信じ、全力を尽くせば自ずと結果が付いてくる!」
「そうですわね!」
 ニト・コンテスティ(ka0664)が、元気に頷いた。
「緊張も致しますが、それ以上にわくわくですわ! 力を合わせ解決いたしましょう!」
「ヴォイドがどのような方かは存じませんけれど――」
 摩耶(ka0362)が、静かに微笑む。
「無粋な方にはご退場頂くと致しましょう」
「初めての依頼、よろしくお願いしますね」
 如月 鉄兵(ka1142)は丁寧な口調で言い、軽く会釈をした。
 彼はその坊主頭と鋭い眼光故に怖い人だと思われがちだが、根は温厚で誠実な紳士なのだ――それに値すると判断した相手に対しては。
「無事に依頼を達成した後は、店で買い物をしたいですね」
「きっと可愛い小物とか一杯、なのよ、なのよっ」
 カワイイモノスキーのモニカ(ka1736)が目を輝かせた。
 期限は今日の夕方。
 それまでに、何としても邪魔者を撃退しなくては。
「時間内に想花を届けるために、モニカはできることをする、なのよっ」
 歪虚は嫌いだけれど、依頼のほうが大切だ。
 それに困っている人がいて、その為に出来る事があるなら。
「兎に角、その花を待つ者が居るのなら、必ず間に合わせよう!」
 孫六が再び吠え、それを合図に皆が転移装置に飛び込んで行く。


「おぉぉ、転移ってすごいなー! 便利だ!」
 アシャラはここでも物珍しそうに目をキラキラ。
「おっ、貸し馬屋はっけーん!」
 足があれば何かと便利だろうと、早速飛び込んで行く。
「現場はこの街道を真っ直ぐ行った所ですわね」
 借りて来た地図と照らし合わせ、ニトが北へ延びる街道を指差した。
 このまま行けば、荷馬車と合流する前に敵と鉢合わせする事になりそうだ。
「全部片付けて、安全を確認したら荷馬車を迎えに行くなのよっ」
 そう言ったモニカの足元から風がふわりと吹き上がり、色とりどりの花びらがその周囲を舞う。
「どこで待ち伏せされてても大丈夫な様に、覚醒しておく、なのよ」
「そうか、先に覚醒しておけば何があっても安心だな!」
 メリル覚醒!
「キラキラバシューン!」
 そして隣のリュグナートを見た。
「やっぱ鯱かっけえな!」
「…おや、メリル殿に其処まで『彼』を誉めて頂けるとは僥倖」
 リュグナートの守り神は、覚醒時に鯱の姿で彼に寄り添う。
「5年後の君を口説く事、予約させて貰っても良いだろうか?」
 片目を瞑って見せた色男に、メリルは鼻を鳴らして首を振った。
「5年? めんどくせーな、ナンパするならすぐじゃないとつまらねえよ、兄ちゃん」
 と言いつつ、そこまで悪い気はしないのも確かだけれど。

 一行は街道を急ぐ。
 その後ろから馬に跨がったアシャラが追い着いて来た。
 馬や馬車は本来なら依頼人が手配しておくか、或いは自腹で借りるものだが、今回は初仕事という事でタダで貸して貰えた様だ。
 とは言うものの。
「あれ、馬って乗れたっけ俺っ」
 懸命に手綱を引いてみるが、馬は勝手に走って仲間を追い越していく。
「あっ、ごめん、先走った!」
 止まれ、止まって!
「うぅ、初依頼だからって舞い上がるなー、落ち着け俺っ」
 馬も落ち着けっ!

 アシャラがどうにか手綱を制御し、皆と足並みを揃え始めた頃。
「そろそろ警戒しておいた方が良さそうだな」
 襲撃ポイントまであと少しという地点でリュグナートが注意を促す。
 周辺は待ち伏せに適した地形ではない様だが、まさかゴブリン達は堂々と道の真ん中に座り込みでもしているのだろうか。
 その、まさかだった。
「おー、敵さんはっけーん! なのよ」
 鋭敏視覚で遠くに黒いシミの様な姿を捉えたモニカが、ひそひそ声で仲間に知らせる。

 気楽な旅人を装いつつ、一行はそのまま歩き続ける。
「相手が雑魚とはいえ油断せずに行きましょう」
 皆に注意を促しつつ、鉄兵は慎重にダガーを構えた。
「我等が守り神の目もある事だ、無様な戦は出来ないな」
 リュグナートは戦闘力を底上げし、後ろ手に隠したロッドを握り締める。
 どうやらあのゴブリン達はごく普通のモンスター、歪虚に浸食されたものではない様だ。
 だが一般人にとってはどちらも脅威である事に変わりはない。
「彼等がどのような反応を示すかは不透明な部分が多いですけれど、反撃して来るようならそのまま撃破を狙いましょう」
 摩耶がゆっくりとショートソードを抜き放った。
「初めての依頼、腕がなるな! 気合いれて頑張るぞ!」
 アシャラは馬を引いて道の脇に寄せる。
「良い子だから、ここで少し待っててね」
 首筋を軽く叩いて戦列へ。
「この距離でしたら、私も先制の一撃を狙えそうですわね」
 ニトがワンドを構え、精神を集中する。
「早いところ排除せねば、荷物を届けるのが間に合わなくなる! ここは速攻で行くしか有るまい!」
「モニカの遠射と一緒に突撃だな!」
 孫六とメリルが前に出たところで、ゴブリン達が彼等の存在に気付いた。
 だが腰を上げる隙さえ与えず、モニカは弓弦を引き絞る。
「悪い歪虚は、モニカがお仕置き、なのよ」
 放たれた矢は当たりこそしなかったが、威嚇にはそれで充分だった。
 殆ど同時に、ニトのマジックアローが足元で炸裂する。
「逃げるなら今のうち、なのよ。……次は、当てる」
 モニカは次の矢を番え、一匹に狙いを定めた。
 だが、敵に選択の余地はない。
「てめぇら吹っ飛ばされたくなければ退けぇ!」
 ウォーハンマーを軽々と振り回し、アシャラが突っ込んで行く。
 それはまるで鬼の形相で――あ、もちろん作戦だよ?
 普段はこんなに怖くないよー本当ダヨー闘心昂揚の効果で漲ってるだけダヨー。
 攻撃の精度よりも、今はとにかく恐怖心を植え付ける事だ。
 後は皆が頑張ってくれるって信じてる!
「ワシの杖術で、戦いの流れを初手で此方に持ってくる! 我が右手に鬼は宿れり!!」
 一気に踏み込んで間合いを詰めた孫六が吠え、手にした杖でゴブリンの腹を強かに打った。
「ェイイ~ッ!! ハアァッ!!」
 気合一閃!
 それだけでもう、残りは尻込みを始めている。
「サァ!!」
 身体をくの字に折り曲げて倒れたその前に残心をとり、孫六は杖を構え直した。
 二人の暴れっぷりに怖れをなしたのか、敵はじりじりと後退を始める。
 しかし、このままヤラレっ放しになるのは悔しいと感じる程度の知恵はある様だ。
 素直に逃げれば良いものを、他の仲間達に突っかかって行ったのが運の尽き。
「甘く見られたものですね」
 摩耶は棍棒を振りかざして向かって来るゴブリンに、スラッシュエッジの鋭い一撃を叩き込む。
「痛い目見てえ奴からかかってこい!」
 メリルのお言葉に甘えて遠慮なく突っ込んで来たものは、もれなくロッドで返り討ち。
 手痛い一撃を食らった相手はしかし、それでも逃げずに距離をとって石を投げて来た。
 だが、投石ごとき盾で防げば痛くも痒くもない。
「その程度の攻撃しかできねえんじゃ無駄だぜ!」
 背中を狙う卑怯者はリュグナートにぶん殴られて逃げて行く。
 前衛狙いを諦めたものが後方に抜けようとするが、その目の前に素早く回り込んだ鉄兵が行く手を塞いだ。
「どこに行くつもりだ」
 答える暇さえ与えずに、ダガーを一閃。
「弱いものほど群れたがりますわね! 烏合の衆に変わりありませんわよ?」
 ニトは適度に距離を取りつつ魔法を連発、逃げる様子を見せない敵から潰していった。
「私の魔法はちょっぴりチクリとしますのよ!」
 背中を見せたものは深追いしないが、向かって来るなら容赦はしない。
「くらいやがれですわ!」
 最後方からはモニカの放つ強弾が次々に飛ぶ。
「近付けさせない、なのよ」
 前衛の壁を抜けて来るものは一匹もいなかった。

「それでも攻撃の心算か? 効かんな!」
 棍棒の一撃を杖で受け止め、孫六は返す手で打つと見せて突き、更に突くと見せて引き、引くと見せて――下から一気に打ち上げる。
「杖術とは電光石火の打ち込み、千変万化の技だ!」
 残心をとって、残った敵に視線を据えた。
「さて、打ち倒されるか、突き倒されるか、読み切ってみろ!!」
 だが、敵もここに来て漸く悟った様だ――こいつらヤバすぎる、と。
「さっさと帰りやがれ、そっちが痛い思いするだけだぞ!」
 メリルに言われるまでもなく一目散。
「ふふん、今日はこんくらいにしといてやるよっ!」
 その背中にアシャラが叫ぶ。
 振り向いた一匹が何か喚いていた様だが、恐らく「覚えてやがれ!」とでも言っていたのだろう。
「一昨日いらっしゃいませ、ですわね」
 にっこり、ニトが微笑んだ。

「よく逃げないで頑張ったねー」
 周囲の安全を確認し、アシャラは待たせておいた馬の所へ駆け戻る。
「帰るまでもうちょっとよろしくね」
 大事な花、できる限り早く届けてあげないと。
「後は馬車を迎えに行って、花を無事にフロル殿の下まで届けるだけだな」
 とは言え、油断は禁物だとリュグナートが気を引き締める。
「追撃の可能性も有るからな、目的地で安全が確保されるまで気は抜けん!」
「お陰で速く片付いたとは言え、殲滅しきれませんでしたからね」
 孫六の言葉に摩耶が頷く。
「勿論、警戒は怠らないぜ!」
 胸を張って答えたメリルを先頭に、一行は再び先を急いだ。


 そして数刻後。
 ゴトゴトガタガタ、荷馬車は揺れる。
 ちょっとスピードを上げているから、いつもよりも激しく揺れていた。
 でも大丈夫、荷台の上ではメリルとニトがバケツをしっかりと抱えている。
 これも立派な護衛だった。
「いやー、助かったよ。この分ならきっと大丈夫だ!」
 手綱を取るおじさんが御者台から振り返り、皆を労う。
 万が一、悪路で車輪に異変が起きた時には――恐らく修理していたのでは間に合わない。
「その時は、誰かに抱えて走って貰わにゃいかんがな!」
 だが、心配した様な事故も起こらず、邪魔者が道を塞ぐ事もなく、荷馬車は順調に街道を走る。
「想花…可愛い花だね」
 隣で馬を進めるアシャラが言った。
「おっちゃんが大事に育ててるからこそこんなに綺麗な花になるんだろうね」
 その言葉に、おじさんは照れた様に頭を掻く。
「俺も好きな人ができた時に贈りたいな…」
 しかし、今はとりあえず色気より食い気。
「運動したあとのパンは美味しい、なのよーっ」
 パンとジュースを取り出してガブリと行ったモニカのお相伴に与り、皆で腹拵えだ。

 ゴトゴトガタガタ、荷馬車は揺れて――


「お届け物だよー!」
 工場から聞こえる終業のベルやチャイムを聞きながら、荷馬車はフロルの店の前へ。
 中から飛び出して来た店主は、想花を受け取ると急いで店の中に引っ込んだ。
「先に準備を済ませてしまいますから、皆さんは店の中でお待ち下さいー」
 おじさんも入れて9人も入るとかなり手狭だけれど。
「あ、中は自由に見て構いませんからー」

 という訳で。
「おー、これ結構かわいいじゃん!」
 メリルは言われた通り、遠慮なく店の中を見て回る。
「これなんか本物そっくり……って本物か!」
 置物かと思った黒猫が動いた。
 他にも色々、日用品から少し値が張りそうなものまで猫モノだらけ。
「これはこれで珍しいな。何か買って帰るか…」
「自分も何か部屋に飾る飾る小物や花瓶、それに花も欲しいですね」
 鉄兵も何か気に入ったものを見付けた様だ。

「想花とはロマンチックですわね」
「ええ、クリムゾンウェストにも素敵な花があるのですね」
 摩耶とニトは告白の行方に思いを馳せる。
 と、店のチャイムが鳴って、いかにも労働者風の実直そうな若者が顔を出した。
 どうやら無事に間に合った様だ。
「うまくいくことを願っておりますわ」
 店の奥から、ニトがこっそりとエールを贈る。


「今日は本当にありがとうございました~」
 一段落したところで改めて礼を言うフロルに、摩耶は名家の令嬢らしく優雅にご挨拶。
 やがて倉庫を兼ねた店の事務室に、紅茶の良い香りが漂って来る。
「折角ですから早めの夕食もいかがでしょうか」
 ニトがランチボックスを広げると、その場はパーティの様な雰囲気になった。
 商品を見ていたリュグナートは、その香りに誘われる様に席に着く――とは言っても椅子が足りない為に、男性陣は立食形式だが。
「…いや然し、見事な猫屋敷だ」
 笑みを浮かべ、お茶を一口。
「此処まで揃えるのも容易ではなかったろうに」
「趣味で集めていたら、いつの間にか売るほど増えていましたー」
 なるほど、それはいかにも猫好きが陥りそうな罠だ。
「お茶も美味しいし、この缶もとっても可愛い、なのよっ」
 モニカが感嘆の声を上げると、気を良くしたフロルは大盤振る舞い。
「よかったら、お土産にどうぞー」
 皆にひとつずつプレゼント――って、こんな具合だから売り上げが伸びないのかも?
「折角のご縁だ、俺も一つ買い求めさせて貰おうか」
 リュグナートは自分の買い物の他に、髪留めを5個と生花を買い、その場で手早くコサージュを作り上げた。
「器用ですねぇー」
 フロルが真剣な眼差しを注ぐ中、それを髪留めに纏わせれば、猫が花束を抱えた髪飾りの出来上がりだ。
 早速メリルの髪にそれを留めてみる。
「おぉ、似合うか!?」
「…うむ、矢張り麗しき方々の元に在ってこそ、どちらも輝くというもの」
「ありがとうな、鯱の兄ちゃん!」
 他はそれぞれ、女性陣にプレゼントだ。
「男性陣は後で酒でも、な?」
 ついでにフロルは商売のヒントを得た、かも?

 そうして和気藹々と時は過ぎ――



 後日、あの想花を求めた若者が、再びフロルの店を訊ねて来たそうだ。
 勿論今度は、彼女と一緒に。

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参加者一覧

  • 豪快な刀士
    孫六 兼元(ka0256
    人間(蒼)|40才|男性|闘狩人
  • 光の水晶
    摩耶(ka0362
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士

  • ニト・コンテスティ(ka0664
    エルフ|14才|女性|魔術師

  • メリル・フロレンス(ka0999
    人間(紅)|10才|女性|聖導士

  • 如月 鉄兵(ka1142
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士

  • リュグナート・ヴェクサシオン(ka1449
    人間(紅)|21才|男性|聖導士

  • アシャラ・シ・タルパ(ka1733
    ドワーフ|16才|女性|霊闘士
  • 【騎突】芽出射手
    モニカ(ka1736
    エルフ|12才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
モニカ(ka1736
エルフ|12才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/06/16 02:24:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/10 23:01:12