• 剣機

【剣機】初陣の用心棒

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/27 12:00
完成日
2014/10/05 07:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 一応、それなりには憎んだ相手の筈だった。
 きっと手の届かない場所に生きる人。一度も会った事の無かった、夢の先に立つ人。騎士皇ヴィルヘルミナ・ウランゲルと帝国軍第一師団三等兵のシュシュ・アルミラの出会いは、少女が想定していた物よりも大幅に前倒しでやってきた。
 帝都防衛を主任務とする帝国軍第一師団シルバリーヴァントは治安維持部隊としての側面も持つエリート集団だ。剣機騒動で近辺の町村から避難にやってきた民衆の誘導管理もお手の物で、当然人々からの信頼も厚い。
 そんな中、完全に独りで浮いてしまっていたのがシュシュだ。彼女は帝都の地理にも明るくないし、民衆を誘導できる余裕もない。
 次々に不安を口にする人々を諌める事など出来ないし、気の利いた励ましの言葉も出てこない。シュシュは帝国という国が嫌いで、この国に暮らす人々が苦手だった。同僚からもほったらかされ特に仕事もなく暇そうに魔導トラックのボンネットに胡坐をかいていた時、ヴィルヘルミナは颯爽と民衆の前に姿を現したのだ。
「陛下! ヴィルヘルミナ皇帝陛下だ!」
 誰かが叫ぶと同時に陰鬱な雰囲気が一気に晴れやかに変わる。その人がいる、ただそれだけで誰もが安堵していた。
「皆、暫しの間不自由を強いる事を許してほしい。だが安心したまえ。私がこうして帝都に居る限り、守りは盤石である」
「そうだ、陛下は既に剣機を倒した経験がおありだ。今回も大丈夫に決まっている!」
 賑やかな声に囲まれ笑顔で手を振るヴィルヘルミナ。むすっとした様子で遠巻きに眺めていたシュシュだが、何故か二人の視線はばっちりと合ってしまった。
 皇帝は部下にあれこれ指示をするとゆっくり近づいてくる。シュシュは咄嗟に車から飛び降りて身構えるが、相手はあくまで自然体だ。
「シュシュ・アルミラだね? 私はヴィルヘルミナ・ウランゲル。この国の皇帝をやっている」
「そ、それくらい知ってるだよ……です」
「楽にして良い。私は個人的に君と話をしに来ているのだからね」
 そうは言われても、ついこの間試験になんとか合格し、訓練階級である三等兵になったばかりのシュシュだ。帝国と言う国家の頂点相手に緊張しないわけがない。
「オズワルドから聞いたよ。帝国を変える為に師団長を目指していると」
 びくりと背筋を震わせ、顔を真っ赤にするシュシュ。その夢は真剣な物だが、現実のトップに知られるには気恥ずかしかったのだ。しかしヴィルヘルミナは笑顔を作り。
「素晴らしい事だ。決して楽な道ではないだろうが、諦めなければ状況はきっと良い方向に転がってゆくだろう。切磋琢磨したまえ」
 ポンと頭を撫でられ目を丸くするシュシュ。なんというか、こう、色々想像と噛みあっていない。
「ダンチョーにちゃんと話聞いたべか? シュシュ、帝国は嫌いだべよ?」
「知っているよ。だから嫌いな所を正当な手段で改善したいのだろう? 実に前向きじゃあないか」
「当たり前だけんど、ヘーカの事も嫌いだ。そんなシュシュがダンチョーを目指していいのん?」
「全く構わないよ。現在の師団長クラスにだって、ちらほら私の首を狙ってるような不届き者はいるからね。はっはっは」
 キョトンとするシュシュを余所に皇帝は楽しげに笑って見せる。そうして優しく目を細め。
「辺境移民である君がそうやって帝国を変えようと志し、戦ってくれる事を私は心から嬉しく思う。ありがとう、シュシュ」
「どうして、お礼なんか……」
「“あきらめ”が人を殺す。諦めない限り可能性は無限に続く。ゼロではないという希望……それを私は信じている。君が諦めない限り、何もかも終わったりはしない。君のその命の灯が消えるまで、君の物語は語られ続けるだろう」
 トンと、シュシュの胸を軽く拳で叩いて女は目を瞑る。そうしてマントを翻し背を向けた。
「考え得る全ての努力を引っ提げて昇ってこい。誰にも許されず、誰にも追いつかれず、ただ私は頂点で君の未来を待つ」
 遠ざかる背中を呆然と見つめ、その場にへたりこんだ。なんだろう、あれは。どういう生き物なのだろうか。
 とても同じ人間とは思えない。人は弱い。だから迷ったり不安になったりする。眼を見ればわかる。人の弱さは瞳に宿るから。
 しかしあの眼差しからはただ強さしか感じられなかった。そんな人間居る筈がない。もしも実在するのなら、それはもう、バケモノの類だ。
「どうだ、本物の騎士皇は。悪名高きヴィルヘルミナ・ウランゲルの姿はよ」
「ダ、ダンチョー……」
 いつの間にか背後に立っていたオズワルドが差し伸べた手を取り立ち上がる。
「強い人だべな……びっくりするくらい」
「間違いなく最強だろうな。戦闘能力が、じゃねェ。あいつが真に人間離れしてるのは、その精神力だ」
 思わず俯いてしまう。自分の目はどうだろうか。きっと弱さしか映し出していない。あんな強さなんて……。
「俺はもうあいつがおまえさんよりチビっ子だった頃からずっとあいつを見てるが、あいつはいつもそうだ。ニコニコ穏やかに笑ってやがる。どんな困難も敵も、そいつでなんとなく乗り越えちまう。残酷な決断でさえも、な」
 呆けるシュシュの頭をわしわしと撫で回し、オズワルドはその肩をそっと叩いた。
「頂きは見えたか? おまえさんが目指すのはあの麓だ。へこたれている時間はないぜ?」
 オズワルドはニヤリと笑い、シュシュに新たな任務を言い渡した。


 故郷を失い、言われるがままにこの国へやってきた。
 帝国は嫌いだ。帝国に住む人たちも、嫌いだった。けれど、今はそれだけではないと感じている。
 今正に剣機という脅威にさらされ、当たり前にあった日常を奪われかけている彼らの悲しみを。大切な物を自分の力で守れずに逃げ出すしかなかった苦しみを、誰よりも理解出来るから。
「考えるのは苦手だ。シュシュ、頭いくないかんな。だから……どうするのが一番いいのかなんて、わかんないけど」
 効率よくやろうなんて思わなくていい。愚直に、ただ目の前にある問題に全力でぶつかっていけばいい。
 街道を進む避難民、その傍に落とされた剣機のコンテナ。放出されたゾンビに街道を警備する帝国兵が応戦する。
 シュシュはまだどの小隊にも配属されていない。だからこそフットワーク軽く、駆けつける事が出来る。
 非覚醒者の警備兵は強力なゾンビを相手に立ち向かう。それは背後に守るべき物があるから。命を賭けるに値する物、それが自分にもあるかはわからないけれど。
 飛び込んで、兵士を庇って盾を振るう。巨体相手でも受け流せば耐えられる。防ぐのは苦手だ。それでもこの盾はきっとその為にあるから。
「帝国軍第一師団、小隊未所属シュシュ・アルミラ三等兵! 師団長オズワルド様の命により、助太刀する!」
 想いのままに突き進もう。迷いも決意もないまぜでいい。今はまだ遠すぎるあの背中に、自分の気持ちをぶつけるまでは――。

リプレイ本文

 街道は逃げ惑う避難民が乱した列がまだ延々と続き、歪虚と戦う帝国兵の銃声が響く戦場と化していた。
「アレが噂の剣機……の落とし物か」
「何と醜悪な……あれではただの腐った肉塊だな。どの辺りに“機”の要素があるのだ……?」
 額に手を翳しトラックの荷台から目標を捕捉するレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)。ずるずると蠢く怪物の姿にアルルベル・ベルベット(ka2730)は僅かに眉を潜める。
「力なく逃げ惑うを襲うとは……許し難し。早々に討滅しなければ」
 静かに闘志を燃やすレオン・イスルギ(ka3168)。しかし猫実 慧(ka0393)は纏まりなく逃げるだけの民衆に違う印象を抱いていた。
「それにしても、もう少し冷静に逃げられない物でしょうか。一端避難を中断して場を離れる等、対処法はある筈ですがね」
 眼鏡のブリッジを押し上げながら見渡せば、兵士は良く歪虚を食い止めている。が、民衆は散り散りに逃げ惑い、まるで崩れた蟻の行列のようだ。
「仕方ないさ。皆生きる為に必死なんだよ」
「……そうでしょうか? なら、大きな荷物は捨てて走ればいいと思うのですがね」
 ザレム・アズール(ka0878)も慧の意見には一理あると感じる。命を最優先に冷静に民衆が離脱してくれれば、それだけで解決すると言えない事もない。
「確かにそうかもな。だとしても、俺は目の前の誰かの死を見過ごすのはごめんだ」
 決意を秘めたザレムの横顔に慧は腕を組み敵に視線を移す。そんなザレムに同調し立ち上がったのはメリエ・フリョーシカ(ka1991)だ。
「力を持たない人の為に盾となり戦う事こそ私達の使命です! 行きましょう、シュシュさま!」
 頷くシュシュと共に一足先に走行中のトラックの荷台から飛び降りるメリエとシュシュ。雲類鷲 伊路葉 (ka2718)はその様子に小さく息を吐く。
「二人共、威勢がいいわね。熱意や理想を持って戦う……それは確かに素敵な事だけれど……」
 それが良い方向に転がれば良いが、そうでない場合も考えるのが大人の役割という物だ。気を引き締め、トラック停止の指示を出す。
「まぁ、まずは調査と救出だよな。なんでまたこんな事するんだか」
「所詮は怪物、考えるだけの頭があるかは怪しいところね。私達にとってあれは敵で、倒すべき標的……今はそれだけで十分よ」
 レオーネの呟きに冷静に返す關 湊文(ka2354)。慧は頷き。
「あれが大人しくしていてくれるのならじっくり調査も出来ますが、今は戦いながら観察するしかないでしょうね」
「だな。どうせ近づくのはあぶねーんだ、せいぜいじっくり眺めさせてもらうとするさ」

「APV所属! ハンターのメリエ・フリョーシカ! 第一師団の依頼により、助太刀します!」
「ハンターの援軍か……助かる!」
 シュシュと共に駆けつけたメリエは銃撃する兵士を追い越しヴェル・ヴェルスと対峙する。腐臭を撒き散らす醜悪な怪物はのろのろと近づいてくる。
「帝国を脅かす存在は、如何なるモノであろうと! 滅ぼす!」
 メリエとシュシュが勢い良く襲い掛かると、そこへやや遅れてハンター達が追い付いてくる。
「聞いての通りハンターだ。奴は我々で相手をしよう。代わりにあなた達には誘導を願いたい」
「誘導するのは構わないが、奴は手強い。君達だけに任せるわけにはいかんぞ」
「勿論手は貸してもらうが、矢面には俺達が立つ。避難誘導をしつつ援護だけしてくれればいい」
 アルルベルに続き説明するザレム。隊長と思しき熟練兵は僅かに逡巡した後に頷く。
「了解した。適材適所という事だな。オズワルド様の寄越した使いだ、君達を信用しよう」
 こうしてまずは兵士の中から二人、槍と盾を持った者を誘導につかせる事になった。アルルベルも同行し、兵士の一人にトランシーバーを投げ渡し銃を握る。
「話す時はボタンを押す、聞く時はボタンを離す……それだけだ。問題があれば連絡しろ」
 アルルベルは避難民側につき、フォローに当たる。残りの兵士四名は歪虚殲滅の支援に、そしてメリエ、シュシュ、レオン以外のハンターは遠距離攻撃で攻める布陣だ。
 しばらくメリエとシュシュの攻撃にさえ無反応だった相手だが、漸く間近な二人を標的と捉えたのか、無数の淀んだ瞳がメリエを捉える。
「彼の剛腕、当たれば無事では済まないでしょう……ご武運を」
 レオンはまずストーンアーマーをシュシュへ施す。メリエは機動力も高いので、残りは自分にかければ事足りる。
「よし、攻撃開始!」
 ザレムの合図で慧、伊路葉、湊文、兵士は銃にて、レオーネは機導砲で攻撃を開始する。
 この相手には機導や魔法的な攻撃の方が効き目があるように見えるが、どちらにせよ攻撃への反応は薄い。砲火を浴びせられても敵は悠々と長い腕を振り上げる。
 振り下ろされた腕をメリエは横に跳んで回避するが、直撃すれば大ダメージは免れないだろう。
「魔法の方が効いているようですが……そもそも愚鈍なようですね」
 分析する慧。湊文、伊路葉、ザレムは道沿いにある石塀から銃を出すように構え、狙撃体制に入る。
「あの大仰な剛腕、一つ潰えれば楽になるでしょうか」
 刀を抜いてレオンが狙うのは敵の四つの長い腕。飛びかかるようにして刃を振るうが、腕は頑丈で容易には破壊出来ない。
 メリエ、シュシュも同じく腕に狙いを集中する。長い腕を一本ずつ使い振り叩き潰すような動きだけ繰り返していた敵も、漸く戦いに本腰を入れたのか、動きが変化する。
「ん……? 気を付けてください、何かこれまでと違う動きです!」
 慧が叫んだ直後、肉塊は地べたに四つの腕をつき、巨体を高速で回転させる。そのまま腕を目いっぱい伸ばすと、勢いよく振り回したのだ。
 シュシュは盾で受け、メリエも避けきれず盾を使う。レオンは側面に攻撃が直撃、間に武器を噛ませても大打撃は免れられない。
「レオン!」
 その時、レオンのすぐ傍に光の障壁が展開された。障壁を突き破った攻撃で吹っ飛んだレオンだが、受け身をとって立ち上がる。
「感謝します、ザレム様……!」
「気を抜かないで下さい、次が来ます!」
 慧の言う通り前衛が大勢を建て直し切らぬ間に敵は四本の腕を大地につくと高速で突進を繰り出してくる。
「うぉっ!? なんだあの動き!?」
「あの速力では瞬く間に避難民の列にも突っ込むぞ。出来るだけ街道の外側に誘導しろ!」
 目を丸くするレオーネ。アルルベルは避難誘導を中断し、走りながら声をかける。今街道側から攻撃してはこちらに突進する可能性がある。
 突進の標的となったメリエは横に大きく飛び回避。すぐさま鞭を振るい打ち付けるが、止まらずそのままシュシュへと突っ込んでいく。そのまま一本の腕を伸ばしシュシュを捕える狙いだ。
「……あの子、まともに突っ込む気?」
 慌てて狙いを定める伊路葉。走行するヴェル・ヴェルスの前腕を狙い、シュシュに腕を伸ばそうとした瞬間、引き金を引く。
 マテリアルの光を帯びた弾丸が腕を貫くと僅かに敵の体が傾いた。それはわずかな物だがシュシュが身をかわすには十分で、のばされた腕をカウンターで切り付ける事に成功する。
「危なっかしいわね……」
「まず削ぐのは機動力から。戦いの基本は相手が嫌なことをすることよ」
 安堵したような伊路葉の隣で湊文が目を細める。相手の動きは直線的で、湊文が狙いを外す要素は存在しない。狙うは前衛が攻撃を集中させている前腕だ。
 走る敵を遠距離攻撃が襲うが、それでも腕の破壊には至らない。すると相手は移動を停止、体を震わせるようにして全身の顔を開く。
「また新しい動きだぜ!」
 レオーネの言葉の直後、敵の全身から毒ガスが噴射された。緑の煙が周囲を覆うが、近接三名は予備動作に気付けたので距離を取っている。
「離れるだけではダメです! 風の動きを計算してください! 風上に立って戦闘を!」
 大声で指示を飛ばす慧の言う通り、煙は移動する。風はさほど強くはないが、しばらく残留するようだ。そして慧の目に映ったのは風下を逃げる子供の姿であった。
「……ってオィイ!? 行くなっつってんだろうが!」
 先の駆け回る動きに追い立てられたのか、子供は泣きながら逃げ惑っている。そこへ銃を背負ったアルルベルが駆け寄り、子供を救い上げて走り去る。
「余所見しちゃダメだぜ! 次来るぞ!」
 煙を迂回するメリエへ煙の中から闇雲に拳が繰り出される。煙を突き抜けた巨体が四本腕を同時に叩き下ろす。
「さっきからこいつ、隙がないべ!」
「攻撃してもろくに怯みませんから……!」
 シュシュに同調し歯噛みするレオン。前衛が突進や薙ぎ払いを受ける間、レオーネは機導砲で攻撃しつつ声を上げる。
「大体動きは分かったぜ! 次のガス攻撃で隙を作る!」
「腕が減るまで注意を分散するぞ! 風下に入らないようにしつつ、ある程度敵の注意を前衛から逸らすんだ!」
 塀を飛び出し帝国兵に声をかけるザレム。レオーネ、慧とは別方向から銃撃を行い、四本の腕すべてが前衛を襲わないように仕向ける。
「こいつ、前後がないのか!?」
 背後と思しき方向から銃撃する兵士だが、敵は全身に目があり四方に腕がある。振り下ろされる腕をザレムは飛び込み、盾で振り払うようにして受ける。
「ヒットアンドアウェイだ。敵の前でぼんやりするな! だが、攻撃を誘発すれば頼りになる後衛がいる!」
 ぶらんと空いた腕は伊路葉と湊文の格好の的だ。一発、また一発と銃弾が食い込んでいく。
「猫実さん、次のタイミングでオレと一緒に飛び込めるか!?」
「ええ。こちらも元よりそのつもりです!」
 慧は自身とレオーネに強化を施しつつその時を待つ。狙うは動きを止め、ガスを放出しようとしたその時だ。
 二人は同時に駈け出した。そして同時にタクトを腐った体に突き刺し、機導の電流を流し込む。
 一人では阻止出来なかったかもしれないが、二人ならば効果は十分。感電した敵が動きを止める瞬間を前衛は待っていたのだ。
「……好機! 無辜の民へ振り上げた拳、この場で切り落とさせていただきます!」
「これで遠慮なく、全力で打ち込める!」
 レオンが刀で、メリエが鞭で、シュシュが斧で前腕に全力攻撃を仕掛けるといよいよ破壊された腕が大地へ落ちて消えていく。
 再始動した敵に慧とレオーネは距離を取る。敵は三本腕で走り出し、同時に周囲に毒液をばら撒き始める。
「我が物顔もここまで。いい加減、暴食にも節制をあげましょうか」
 非常に広く読めない攻撃範囲に逃げる前衛、そこへ伊路葉が残った前腕を再び狙撃し姿勢を崩すと、レオンがすれ違いざまに手の中に作った魔法の矢を投げつけ、移動中の腕を破壊、転倒させる事に成功する。
「シュシュさま!」
 目の前に倒れた敵に体を捻り全力の鞭を打ち込むメリエ。続けシュシュが空中を回転し、落下しつつ斧を叩き込む。
「まだ死なないんか!?」
 慌てて離れる二人。敵は毒ガスを放とうとするが、入れ替わりに慧とレオーネが駆け寄り電撃で動きを止める。
「やらせねーよ!」
「おかわりだ、クサレ饅頭がァッ!」
 電流に仰け反る怪物。湊文は停止した後ろ足の一本へ狙撃を行い、ダメージの蓄積からここで破壊に成功する。
「残り一本だ! 集中攻撃!」
 ザレムは帝国兵と共に最後の足を銃撃する。敵がゆっくりと動き出そうとしたその時、強化し肥大化させた機導剣を手にしたアルルベルが飛び込み最後の腕を切断した。
「避難は大凡完了した。……すまないな、おいしいところを貰ってしまった。剣の方が、切断には適すだろう?」
 背後に跳んだアルルベルは銃を構え直す。機動力が削がれた今、無暗に距離を詰める必要はない。
「毒液の射程範囲外から一斉射撃で殲滅するぞ! 前衛の皆は下がっててくれ!」
 ザレムが合図をし、四方八方から巨体へ遠距離攻撃が行われる。それでも敵はタフで中々倒れない。
「いい加減黙れよ、クソヤロウ!」
 何度も何度も銃弾と機導の光を浴び、やがて泥のように体を沈めると、緑色の煙となって霧散していった。



「機導部品も残さずか」
 煙となって消えた敵。銃を肩にかけアルルベルは消失地点に膝を着く。
「これまでの剣機系とは異なり、純粋なゾンビとしての能力を強化したような相手でしたね」
「興味を惹かれぬ筈だ。ただの腐った肉ではな」
 フンと鼻を鳴らすアルルベル。慧は楽しげに今日の戦闘をメモに纏めている。
「俺に出来るのは応急処置までだから、帝都に戻ったらちゃんと医者に診てもらうといい」
 シュシュの腕の傷に包帯を巻いたザレム。二人が目を向けたのは背を向け膝を抱えているメリエだ。
「ふ、ふ……シュシュさま、貴女は怖ろしい人だ。一足先に正規兵になり……オズワルド様に遇され、あまつさえ陛下と未来について語り合うだなんて……っ!」
「何で急に“さま”になっただ?」
「夢への距離感です。わたしは未だ陛下に拝謁賜る事すら叶わず、夢へのスタートラインにすら立てていない……! なんて不甲斐無い!」
「陛下とか、その辺ぷらぷらしてるからすぐ会えるだよ。げんきだせ? な?」
 メリエの頭をてしてしするシュシュ。そこへ腕を組み伊路葉が歩み寄る。
「夢にひたむきであるのは良い事だわ。熱を持った『人』は『人』を動かす【力】を持っている。けれど……もう少し考えなさい。頭を使う【努力】を諦めている訳じゃないんでしょう?」
「さっき助けてくれた人だべね」
「功を焦っても理想は近づかないわ。着実に力をつけ、まずは自分を守りなさい」
 それはシュシュにもメリエにも言える事だ。掛け替えのない夢だからこそ、その前に多少の傷は霞んでしまう。
「ま、とりあえず動く、でいいと思うぜ。情報が出そろえば考えるなんて自然にできるもんだ。尤も、死んじまったらそれまでだけどな?」
 頭の後ろで手を組みながら笑うレオーネ。レオンは姿勢よく胸に手を当て。
「私も辺境を出たばかりの身で、実は周りの事がよく見えません。だから……シュシュ様の様に目の前へまっすぐ歩くことから始めようかと思います」
 遠巻きに眺めくすりと笑う湊文。伊路葉は眉を顰め、しかし優しく微笑む。
「……頑張ってほしいものね」
 似た境遇からか打ち解けた様子で談笑するシュシュとレオン。メリエも気を取り直したのかその輪に加わる。その様子を眺めるザレムへ兵士が声をかけた。
「協力に感謝する。我々は念の為コンテナ投下地点を調査し、続きの誘導を開始するよ」
「ああ。1日も早い平和の為に各々の戦場で頑張ろう」
 立ち去る兵士とすれ違いやってきた慧はメモの束を手に声をかける。
「では早速夢への一歩という事で、報告に戻りますよ。シュシュ、オズワルドに成果を見せるチャンスです」
 頷くシュシュ。こうして歪虚は撃退された。
 次の戦いに備える為、ハンター達は情報を手に帝都へと引き返して行った。

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  • 求道者
    猫実 慧ka0393
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベットka2730

重体一覧

参加者一覧

  • 求道者
    猫実 慧(ka0393
    人間(蒼)|23才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • あふれ出る色気
    關 湊文(ka2354
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レオン・イスルギ(ka3168
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/09/26 20:48:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/23 00:55:44