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【CF】キラキラ輝く愛の手を

マスター:狐野径

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/12/13 15:00
完成日
2016/12/21 19:32

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●年に何度かの苦行
 ルゥルはリゼリオにやってきた。
 本当なら楽しいはずの外出だ。
 父親と兄に会わないということが入っていなければ。
「どうして、時々あって一緒にお食事するですか! ルゥル、嫌ですぅうううう、父上も兄上も大嫌いでーす」
 家を出るとき、隣家のエクラ教司祭に泣きついてなだめて送り出されたのだった。母親に会えるのは楽しみなのであるが、それ以外が非常につらい。
 転移門をくぐると母親アンジェが待っていた。
「母上」
「ルゥル、久しぶりね。マークのいうことを聞いてちゃんとやっているかしら?」
「はいです」
 本来、保護者代わりの魔術師ではなく、その隣の家の司祭の名前を出す。
「では、行きますよ。キュールもケントも待っているし」
 抱っこされたままルゥルは硬直する。母親の豊かな胸に顔をうずめる。
「いやいやいわないの」
「だって、父上も兄上もルゥルのこと嫌いなのです」
 アンジェは困ったように首をかしげる。
「さて行くわよ」
 待ち合わせはモノトーン教会の前。カップルやら不穏な人やら、聖輝節も近いとあって観光スポットとなっているために人が多い。
 ルゥルはアンジェから降ろされるが、後ろに隠れる。
「あなた、久しぶり」
「ハンターである君を許しているわけだが、もう少し家に帰ってほしい」
「あなただっていないでしょ?」
「君よりはいる」
 ルゥルはアンジェの後ろに隠れて父キュールをじっと見る。
(父上はルゥルがいるから母上を独り占めにできなくてルゥルが嫌いなのです)
 ルゥルはむすっとした顔になる。
「耳隠したところでバレバレだって」
「みぎゃあああああ」
 兄ケントがルゥルの後ろに回ってヘアバンドを外し、耳を引っ張る。
「うるさい」
「みぎゃあああああ」
 困ったようなアンジェと眉間にしわを寄せるキュール。
 ルゥルは戦った。肩に乗っているフェレットと頭の上に載っていたパルムも応戦する。ルゥルはケントの手をはたいて逃げる。
「もういやです。ごはんなんていりません。ルゥルは……ルゥルはいらない子なんです!」
「何を言い出すんだ」
 キュールがさすがに慌ててルゥルに声を掛ける。
「兄ううはルゥルのお耳引っ張っていつもいじめます。父ううはルゥルが母ううを独り占めしたいのですぅ。だからルゥルが邪魔なんですぅうううう。みがっあああああああああ」
 大泣きして人ごみに消えていく。念のため言うが、舌が回っていないから「上」が「うう」になっているのである。
 視線が痛いくらいに残された大人たちに注がれる。
 ニコニコ顔のアンジェは夫と長男に向かう。この状態でもニコニコ顔なのが逆に恐ろしい。
「探しに行かないんですか? ケントさんも何歳になったのですか? いい加減にしないと、ルゥルとの関係、本当に取り返し付きませんよ? あなたもです。可愛いなら可愛いと抱きしめればいいだけですよ! いつあなた方が気づくか待っていましたけどね……」
 アンジェは溜息を洩らした。笑みが消える。
「こんな鈍い夫と義理の息子は最悪ですね……」
「……」
 男たちはさすがに探しに少しずつ歩き始める。
「レストランで待っていますね」
 アンジェはいつもの表情に戻った。

●雑貨屋
 ルゥルは泣きながら走って迷子となった。
「うわっ」
「みぎゃ」
「きゅきゅきゅきゅ!」
「しゃあああ」
 ルゥルは角を曲がったところで、荷物を持った少年とぶつかった。ぶつかったところでルゥルのペットたちは威嚇する。
「ああ、ごめんよ。そっちもごめんね。ほら、痛くない痛くない」
「きゅう」
「ククク」
 少年は荷物を置いて、パルムとフェレットをなだめる。キョトンとしているルゥルに微笑む。
「どうしたんだい?」
「みぎゃあああ」
「髪の毛ぼさぼさだね。直してあげようか? 僕の勤めるお店そこだから、一緒に来る?」
「……知らない人について行っちゃいけないです」
「そうか。でも、お店なら入っていいでしょ?」
 指さす先にあるお店には「雑貨屋喫茶」と書いてあった。
「……えと、雑貨屋の喫茶、何ですか?」
 ルゥルは目を丸くする。
「うん『喫茶』が店名。うちのオーナーの趣味。でもわかりやすいし、泣いていた女の子も笑ったし、いい名前だよ」
「……みぎゃ」
「ふふっ。僕はシールっていうんだ。ブラシもあるからおいで?」
 警戒しているルゥルはシールが歩き出すと後ろをついていく。ペットたちはじっとして状況を見ている。
 お店の確認をしてから考えればいいのだ。
「戻ったよ、ああっ、何やってんだ、ライル!」
「おやおや、おかえりなさい、シール君。いやー、俺だってやればできるということで……」
「店番だけでいいよ! 大体、お前、不器用すぎ!」
 モミの木と飾りの残骸そこにはある。もったいないどころの問題ではない。
「シール君、後ろのあれは何です?」
「あ、おいで。こんなお店だよ」
 ルゥルは中に入る。
 棚には小物がたくさん置いてあり、可愛いものからきれいなアクセサリーまである。窓辺にはテーブルがありちょっとだけカフェ風だ。
 ルゥルはキラキラする髪留めを見つけ鏡で見てみる。
「似合うよ? さ、髪の毛ちゃんとしようかな」
 自分でしようとしたが、シールはちゃっちゃとやってします。ヘアバンドをしない耳が出ているとルゥルは気づいて慌てるが、何もされない。
 ハンターもエルフだからってルゥルの耳を引っ張たりはしない。エルフの女の子も以前出会っているし、彼女たちはキラキラして輝いていた。
「みぎゃああああああああああああ」
 突然泣き出したルゥルにシールは驚いたようだが、優しく髪の毛を撫で落ち着くのを待っていた。
「何があったのかわからないけれど、ここにいたいだけいればいいよ?」
「でもでも、みぎゃぎゃぎゃ」
「聖輝節……クリスマスって知っているかい?」
「知っているです! リアルブルーのイベントなのです」
「そうなんだよ。その飾りつけもしたいから……手伝ってくれるかい」
 ルゥルはうなずいた。
「おやおや、そんなちびっこをナンパですか」
「うるさい、お前、黙れ! おとなしく、レシピ通りにクッキー作れ! あっ! モミの木取りに行かないと……」
 シールは同僚の青年に怒鳴り返したのだった。

リプレイ本文

●教会の前から
 マリィア・バルデス(ka5848)はモノトーン教会の前を愛犬たちと散歩をしていた。
 夏に出会ったルゥル(kz0210)の姿が見え、近づいたときに聞こえた言葉にハッとなる。どうやら家族間の問題が横たわっているという叫び声。
「嫌なの見ちゃったわ……α、γ……覚えていないわよね。ここにいたエルフの女の子の匂いはわかる?」
 答えるよりも早く、二匹の犬は走り出す。走り去ったルゥルが気になったのだろう。

 ヴァージル・シャーマン(ka6585)は幼馴染のニーナ・フォーレルトゥン(ka6657)と待ち合わせている場所に向かう際、モノトーン教会の前を通った。
 鳴き声と怒鳴り声の先を見ると、女の子が走り去り、父と兄らしい人物がおろおろと追いかけて行った。
 母親らしい女性が残っているため話しかけようとしたが、ニコニコしているが威圧感があり少し勇気がいる。
「あの、どうかした……のですか」
 なんとなく敬語が出てくる。
 女性――アンジェはヴァージルの説明に理解を示し、事情を軽く話してくれた。
「あの二人はルゥルを見失うでしょうね」
 アンジェは溜息を洩らしたのだった。

●お店の中
 エファ(ka6071)は雑貨屋喫茶の喫茶コーナーでのんびりと茶を飲んでいた。日向であり、人の行き来も見え穏やかな場所。
 聖輝節を見ると歪虚との戦いがあることが嘘のように思える。
「にぎやかなことはいいことです」
 飛び込んできたルゥルには驚いたが、事情もあろうと穏やかに受け止める。解決されない事件もないだろう、と。

 南護 炎(ka6651)は以前の依頼で世話になったハンターへのプレゼントを探してあちこち回っていた。そしてこの雑貨と喫茶のある店にやってきていた。名前はふざけているが中は一般的に想像しうる雑貨屋であり、カフェである。何かあればいいなと眺めていた。
 何があったのかとうかがう。漏れ聞こえる言葉から店員が見つけて連れてきたのが分かる。
「初めまして。どうして一人でいるの? 迷子?」
 しゃがんで問いかけるとルゥルは耳を両手で隠したのだった。

 ニーナは待ち人のヴァージルからの魔導短伝話の連絡を受ける。遅れるという連絡であり、迷子になっているかもしれない子が気になるという言葉に優しさを垣間見る。だから「分かった」と返答して連絡を切ろうとしてとどまる。
 店内にヴァージルが言っている特徴の女の子がいる。名前はルゥルと聞こえた。
「ヴァージル、その子ならここにいるよ」
「偶然とはいえ……」
 ホッと息を吐く。
「うん、気になったから話を聞いてみるね。違う子だったらすぐに連絡入れるね」
 ニーナは魔導短伝話の通信を切ると女の子の方に近寄る。
「こんにちは。耳がどうかしたんですか?」
「みぎゃああ」
 ルゥルがじりじりと逃げ始めるのが分かった。

 エルバッハ・リオン(ka2434)は散策途中、新しめの店に気づいて覗く。カフェでくつろぐ人や雑貨の売り場が見える。
「名前の通り雑貨屋と喫茶なのですね」
 雑貨売り場のほうにおろおろする人たちと見覚えのある顔があった。そのため、店に急いで入る。
「ルゥルさんですか?」
 声をかけると、泣きながらも返答がある。
「知り合い、良かったです」
「耳隠して泣いているし、気になって」
 ニーナと炎がそれぞれホッと息を吐いた。

●散策ついでに
 ルーン・ルン(ka6243)は妹のルーネ・ルナ(ka6244)が聖輝節で華やかになる町に楽しんでいるのを見て微笑する。
「そんなに楽しいものかしら」
 とはいえ、ルーンにとって妹が喜ぶ姿は好きである。
「はい、姉さま、聖輝節はうきうきです!」
 ルーネのつれているパルムや猫も楽しそうである。
「あそこの雑貨屋に寄って行きましょう?」
 ルーンの腕をぐいぐい引っ張り中に入っていく。
「……モミの木の残骸?」
 ルーンは入り口の脇にある物体を見て眉を寄せる。モミの木に事件があったようだ。
「いらっしゃいませ。喫茶ご利用の際はお申し付けください」
 シールがちらちら中と新たな客を見る。
「女の子が泣いているのですか?」
 ルーネは心配になる。
「ところで、飾りつけしていそうなのにないのは?」
「お客様、勘がいいですね。うちの店員の一人が何をやらかしたかあのざまです」
「あはは……」
 厨房から笑い声が聞こえるとシールはぎろりとにらみつけたのだった。
「レティ、ちょっと用を思い出した、ここで待っていてくれるかな?」
「はい、姉さま?」
 ルーンはウインク一つ残して、出ていく。ルーネは必要なことがあると理解し、ルゥルの話を聞き待つことにした。

 テオバルト・グリム(ka1824)と柄永 和沙(ka6481)は手をつなぎ、雑貨屋喫茶に入ってきた。
 テオバルトは恋人・和沙への贈り物を買いたいと思う。何がいいのか悩む中、店の雰囲気で女の子が好きそうなものがありそうな気がした。
「どんなのがいい?」
 女の子が喜ぶもの、それは何か悩ましい。
 口に出したというより、漏れた言葉に和沙はあいまいに微笑む。
 テオバルトが悩みながら陳列棚を見始めた。ちらりちらりと隣に和沙の反応をうかがう。
(あまり見ない方がいいかな……あたしのためのプレゼントみたいだし。うーん、小腹すいたような……)
 和沙は一緒に回るとテオバルトの邪魔になるような気もし、喫茶スペースをちらちらとみる。そこで待っているべきだろうか、と。

●それは虐待だよ?
「にぎやか……と言うわけではないのですか」
 雪ノ下正太郎(ka0539)はひょこりと入り口から顔をのぞかせる。
 泣いている女の子にハンターらしい集団。
「兄上はルゥルの耳を引っ張るんです」
「それは大変でしたね」
 エルバッハは溜息を洩らしつつ、ルゥルの頭をなでる。パルムの行動で悩んだりしているルゥルなりに家族の問題があると知る。
「うふふ、私も姉さまにいたずらしちゃいます?」
 ルーネの言葉にルゥルは首をかしげる。ルーンがすぐに外に出てしまったため、ルーネの姉の記憶がない。ルーネの耳は人間のそれであるため、ルゥルには意味が分からなかった。
「話を聞いていると、児童虐待や家庭内暴力ですね」
 正太郎は眉を吊り上げる。
「もし、そんな家族がここに来るなら、俺が君を守るよ」
 ルゥルはびっくりして正太郎を見る。
「……ありがとうございます」
 ルゥルは自分の悩みが受け入れられている為、不思議に思えてきた。
「それにしてもヴァージル遅い。ルゥルちゃん、お茶でもしてゆっくりしましょう?」
 ニーナは待ち合わせ人を思い出す。
 居合わせた人たちから彼女の提案に異論は出ない。ルゥルに必要なのは話を聞く人とゆっくりとかみ砕く時間なのだ。
「……いことです」
 エファは少しずつ緊張が解ける空気に目を細めた。

●合流
 ルーンはモミの木を伐り出してきた業者を発見する。
「すまない、それは売ってもらえるものだろうか?」
「もちろんだよ」
「それなら『雑貨屋喫茶』に運べるかな?」
「お安い御用だ……ってあそこに一本売った記憶があるんだが」
 ルーンは苦笑する。
「理由は分からないが、入り口に薪一歩手前のモミの木らしいものを見たよ」
「何があったんだか」
 業者とともにルーンは雑貨屋喫茶に戻る。

「α、γ、ちょっと待ってね」
 マリィアは犬を止め、かわいらしい棒付きキャンディーを買う。子供が見ると喜ぶ大きなもの。
「食べづらいのよね」
 それでも子供は喜ぶ。
「行くわよ」
 犬たちはふと前を足早に行く青年を追いかけ始めた。
「うわっ!?」
 ヴァージルは足を止める。
「ごめんなさい」
「いや、いいんだけど……モノトーン教会の前で見たような……」
「奇遇ね、そっちから来たわ」
「そうだな。じゃあ」
 犬の頭を撫でてからヴァージルは走り始めた。
「行く方向が同じような……」
 マリィアの視線の先にうごくモミの木があった。

 モミの木業者とともにルーンは店に入る。
「店主、モミの木を手配してみたわよ」
 カウンターにいたシールはキョトンとなった直後、慌ててやってきてルーンと業者を見る。
「え、わざわざ!? お客様なのに」
「まあ成り行きかな。妹が気に入って入って、店見て、聖輝節の飾りがないのも不自然だなと」
「そ、そこまで考えていただき、ありがとうございます!」
 シールは頭を下げる。
 カウンター後ろの厨房があるほうから黒い煙が現れ、青年ライルのヘラッとした顔がのぞく。
「すみませんね、お客様に気を遣わせて」
 ライルの言葉に、顔をあげたシールの表情は怒り一色だ。
「お前がいけないんだろう! モミの木をあんなに……その上、何焦がしているんだ!」
「ジンジャークッキー」
「普通に答えるな!」
「お客様の前で、シール君はなっていませんねぇ。すみませんね、うちの若い店長がこのありさまで」
 わざとらしく言うライルにシールは余計に怒るが、相手は全く堪える様子はない。
 モミの木の搬入と合わせ、窓を開けて換気やらなんやらにシールは追われた。
 二人のやり取りを見ていたルーンは腐アンテナという謎の器官に響くことがあり、「眼福だわ」とにやりとつぶやいた。

●飾りつけ
「姉さま! 素敵です」
「うん、なんとなく必要そうだなと」
 入ってきたモミの木をルーネに褒められる。
「本当です、ルーネさんのお姉さんはエルフです」
「ん?」
 事情の説明を受けてルーンは納得した。ルゥルはエルフ、兄は人間。そして、なぜか耳を引っ張る兄。
「これでよし。道具はこれで」
 シールがモミの木をカフェスペースの隅に置いた。
「短冊を書くのですー」
 ルゥルはシールがおいていった道具を手にはしゃぎ始めたが、クリスマスが何かを知る者は驚く。
「クリスマスツリーにはお願い事を書いて飾るのです」
「……七夕だと思うんだ……が」
「ほしいものを書くとも聞きました。そして靴下に入れるです」
 炎はそれならあるのかとうなずいた。
 正太郎はルゥルが作っている物が短冊の形状なのでやはり七夕と混ざり気味だとは思ったが、楽しそうなので良かった。

「ヴァージル遅い!」
 ニーナは怒ったふりだ。
「ごめん。あ、この子だ」
「うん、今は落ち着いたみたい。これから飾りつけしようということになったの」
「そうか、良かった」
 ヴァージルはニーナと情報交換をしてから、この後どうするか考える。
 入口が開いたため、ヴァージルは横によけるとき来店者と目が合った。
「あれ、さっきの人」
「途中で行先同じかなって思ったのよ? ああ、いたいた。幸い、泣き止んではいるのね」
 マリィアは優しく笑ってルゥルのほうに行く。
「はい、泣き虫お姫様に聖輝節のプレゼント。ひどいお兄ちゃんだったわね」
「ありがとうございます」
 ルゥルはマリィアのくれた棒付きキャンディーに喜びつつ、知り合いに見られていた恥ずかしさや、兄の仕打ちに腹が立つやらで唇を尖らせてもじもじする。

 エルバッハは一通り話を聞き、シールのそばにやってくる。
「ルゥルさんがここにいることをご家族に教えておいた方がいいのかもしれませんよ?」
「……そうですよね。ルゥルちゃんを追いかけてきたハンターの人はたどり着きましたが、土地勘のない一般の方はなかなか……」
「先ほど来た方がお母様の居場所は知っていると言っていましたよ」
「……わかりました。ご心配おかけしてすみません」
「いえ、知り合いだったし、放っておけなくて」
「そうなんですか? お客様方の親切に本当助けられています……彼女のことはひとまず安心ですよ」
 ニコリとシールは笑った。
「お互い様です。しばらく、一緒に飾りつけしています」
「助かります。あっ、その場合、うちの店員近づけないでください」
「……よく、わかりませんがわかりました」
 エルバッハは柱の影にいるライルを見てうなずいておいた。

 和沙はテオバルトが声をかけてグッズを見る。どれもこれも可愛らしい。どれでも嬉しいのだが、できればと複雑な乙女心。
「テオが選んでくれたものなら何でも嬉しいよ?」
 アクセサリーの中に気に入ったものはある。しかし、それは値段が高そうだ。
「なんでもいいのか? あー、そうだな、俺の好きなので……」
 テオバルトは和沙がある一点をよく見ていることに気づいた。
「カフェの席あるかな? 先に行ってとっていてくれるか?」
 テオバルトはそれに決めた。

 飾りつけを始めた人たちをみて、エファは平和だと眺める。
 ハンターの中でいると種族は意識しないが、世間だと壁があることもあるのはわかる。彼自身、鬼である。
「平和でいいですね」
 この店で流れているのは穏やかな時間。
 ふと、コップの中の茶がないことに気づいた。
「ふむ。これにしてみよう……」
 店員に頼む。本来、飲み物を作ってくれるはずのシールはいない。妙に笑顔なライルが引き受けた。
 そして、出てきた物体は得体のしれないものであり、飲むや否やエファは意識がどこか飛んでいった。

●和解へ
「ジンジャークッキー……オーナメントクッキー……いい匂い」
 ニーナはテーブルに並んだものを見てつい食べたくなる。
「おいしそうですね」
 ルーナもそわそわ見る。
「こちらならいくらでも食べてもいいですよ?」
 ライルが置いたのは半ば黒いクッキーと炭化したクッキーだった。
「これは品物になりませんからねぇ」
 つぶやきながら厨房に戻っていく。
「普通、店に出しちゃいけないたぐいだな」
 ヴァージルは苦笑する。
「飾りを紙で作るなら……サンタクロースですか」
 正太郎が絵を描いて色を塗ってみる。どうにかそれらしいものにはなった。
「サンタクロースと言うのはそういう人なんですか」
 ルゥルは目を丸くする。
「そうですよ? こんな雰囲気です」
「そういえば、いい子ならプレゼントをくれるんですよね! 悪い子だ黒サンタと言うのが来ると聞きました!」
 正太郎はルゥルがマネしてサンタを描き、黒く塗るのを見ている。
「それはそれでかっこよいかも」
 炎はルゥルの絵を見て言う。
「本当は怖いものよね? サンタの二面性と言う話もあるし」
 マリィアはサンタクロースにまつわる話題を引っ張り出す。
「……兄上には黒サンタが行くのです……でもルゥルが悪い子なのですか?」
 ルゥルのジワリと涙がたまる。
「ルゥルさんはいたずらしてもいい子ですよ? きちんと悪いということは認められるじゃないですか」
 エルバッハは慰める。
「ルゥルが何かしたというならわかるけど、耳引っ張っているのあっちでしょ?」
 マリィアの問いにルゥルはうなずく。
「では、黒サンタではないですが、これで説教すればいいのですね」
 正太郎がマテリアルを解放すると、ライオン人間と言うような姿となる。
「う、うわああ、図鑑で見たことはあるです」
 ルゥルは鬣に手を伸ばすため、正太郎は触らせておく。
「……ルゥル……俺は君のお兄さんと年齢近いから、考えてみたんだ。ルゥルは悪くない……引っ張ったほうが悪いんだし。でも、話も聞いてみたい、お兄さんの」
 炎はぽつりぽつりとしゃべる。
「きっとお父さんだって家族で仲良くしたいはずだし」
「……そうですか?」
「うん。本当に嫌いなら、一緒にご飯食べたりしないんじゃない?」
「……」
 ルゥルは困った顔になる。
「帰るときは一緒に行ってあげるよ。一緒に話をしてあげるよ」
「……お母さんは達観していたが、お父さんとお兄さんはかなり動揺していた……のを俺は見てきたぞ? 彼もいうように、話をしてみていいかもしれないぜ?」
 炎にヴァージルが続けた。
「ルゥルちゃんの一歩はきっと変化ある未来への一歩です」
 ニーナは占いとしてカードをピッ取り出した。
「みぎゃ」
「きょうだいはついて回るからね。なら、ルゥルは兄とどうなりたい?」
「……耳引っ張らないでほしいです」
「うん、ならいいだろう」
 ルーンはルゥルの頭をなでる。
「そうですよ。別に姉さまの耳ひっぱりたくはないですもの」
 ルーネは「いたずらする」と言ったが、わざわざしない。
「またやるようなら、ズボン脱がして尻ひっぱたいてやれば、どれだけひどいことしたかわかるわよね」
 マリィアが過激なことを言う。
「それは!?」
 男性陣が一斉に怯える。
「ただいま……お客様!?」
 シールが帰ってきて最初に目に入ったのは、ライルの得体のしれぬ物体を飲んで伏せていたエファだった。
「いや、なかなか刺激的な味でした」
「作り直しますっ!」
 シールの言葉は丁寧だが視線の先にライルが写った瞬間、視線で殺せそうな殺意がにじんだ。

 シールはいない間にライルが包みかけていた物を取り返す。箱と包紙を取り換え、きちんと整えた。
「彼は店員ではないのか?」
 テオバルトは恐る恐る尋ねる。気に入って、奮発したプレゼントが駄目になる寸前だったのかと想像してしまうほどシールが怒っている。
「いえ、店員です。ただ、不器用の極み……なのかさっぱりわかりませんが、任せるのは恐ろしいのです」
 モミの木の残骸をシールは指さした。
「レシピ通りは作れるので、クッキーやパンなどは作っているんですよ? 僕を怒らせるんじゃないかと言うくらいのことをしでかすのです」
「仲がいいんだ」
「仲が良いっていうんですかね?」
 溜息をもらすシール。テオバルトが見ている間に可愛い贈り物の形になる。
「あと、何か食べたいけど」
「軽食もあります」
「なら……」
 テオバルトは選んで和沙がいる席を見た。お盆に注文したものを載せてもらい移動する。

 この会話の間、ルーンの耳が象のようになっていたのは、誰も知らない。

●完成
「みぎゃぎゃ」
「これは、すごいです! ありがとうございます、皆さま」
 ルゥルはピカピカ光るモミの木を見てテーブルを揺らして跳ね、シールはお礼にそれぞれが食べたいもの飲みたいものの注文を取る。
「コーヒー系のこれを。レティはこれかな?」
「はい。聖輝節バージョンホットミルクデラックス」
 ルーンはルーネが読み上げた名前から誰が考えたのか想像の翼を広げる。
 各人注文して、品物が来るまでは一仕事終えた安堵に包まれる。
「写真でも撮りますか?」
 これまでじっと店内で見ていたエファがキラキラ輝くモミの木を見る。薄暗くなってきた外が窓を鏡のようにしているため、余計にキラキラしている。
 魔導カメラも出回り、手軽に画像で記録が残るようになっている。
「なんか、あっちの行事みたいになってきたわね」
「記念に、おいしそうだからと、撮りますね」
 マリィアと正太郎は笑う。
「リアルブルーだとそういうことをするですか」
「するよ? 早速、お願いしようか?」
 ルゥルは炎の言葉に目が輝く。
「さっきの続きですが、ルゥルちゃんの前途を占ってみると、素直もキーワードですよ」
「ルゥルも兄の方も素直になれば、良いものだな」
「そうですね。ルゥルちゃんの方は素直ですけど」
「兄の方が素直じゃない」
 ヴァージルとニーナにルゥルが難しい顔をする。
「ルゥルさん、眉間にしわが寄ったままになっちゃいますよ」
 エルバッハが眉間をつつく。
「こうやってみんなで作れました。ルゥルさんのおかげです。あと少し……聖輝節……奇跡起こせますよ」
 この奇跡は人の手で起こせるものだから。

 飾りつけをしていた者たちは三々五々別れる。ルゥルを送り届ける者とそれ以外と。
 店内は急に静かになる。
 和沙は食事だと思ってもなんとなく気恥ずかしい。プレゼントを選んでいたと知っているし、自分のためと思うとどんなものか――気になって仕方がない。
 軽食の味はおいしいとしても味が分からない。
「これ、気に入ってくれるといいな」
 白と黒のヘッドのペンダント一対。二人で持つためのものであり、一つずつでもデザインは完結するが二つで一つ。
「で、でも、これ、高っ」
 テオバルトはじっと見てにこりとする。値段は言わないこと。
「い、いいの?」
「いいからあげるんだ」
 和沙は嬉しさのあまりに涙をこぼし笑った。

 ルゥルの家族の予約の時間はもう終わっている。どういう対応をしたのか不明だが、アンジェは座って待っていた。
 ルゥルを見つけられなかった夫キュールと義理の息子ケントがしおれて入ってきた。
「お前は心配じゃないのか?」
「居場所知っているわよ?」
「なんだって!」
 キュールは怒鳴りかけて、周囲の視線を感じ座る。
「あの子、味方がいるみたいだから、ケントさんは特に心構えいるわ」
「へっ!?」
 アンジェが指さすとルゥルはハンターとやってくる。挨拶もそこそこに本題に入る。
「いじめるほうっていじめられないと分からないのかしら?」
 マリィアの言葉にケントは息をのむ。
「お兄さんはルゥルちゃんのことはどう思っているのかな?」
「虐待とか暴力なら、訴えるべきところもあるはずですよね」
 炎と正太郎の言葉。後者は父親たるキュールにも向かう。
「……ルゥル、おいで」
 キュールは淡々と硬い表情で言う。彼自身、わかっていたが、タイミングを逃しそのままになっていた。今を逃せば、ルゥルは離れてしまう。
 ルゥルはエルバッハの手を握り、どうしようと見上げる。
「みんな味方ですよ」
 何もないとエルバッハは感じているため、ルゥルの背中を押した。
 キュールはぎこちないがルゥルを抱きしめる。
「みぎゃ」
「たまには帰っておいで、あの家はお前の家でもあるんだ。出て行ったあとも部屋はあるから。王都に来るなら……」
「みぎゃぎゃ?」
 ルゥルは目を白黒させる。
「……わかった、もう耳引っ張らない」
 ケントがむすっとした顔で言う。
「それ以外もだめだぜ?」
「分かってる! 大体……その……言えるか!」
「言わないと駄目ってこともある」
 炎に諭され、ケントは逃げ道がない。顔が真っ赤だ。
「悪かった。本当は、自慢したかった……でも、ほら、妹できて喜んだらシスコンとか言われそうじゃん!」
 ルゥルは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしてケントを見上げた。
「さあ、夕食ね」
 アンジェの言葉にハンターは別れを告げる。
 店の外で振り返ると、ルゥルが両手をあげて笑顔で振っているのが見えたのだった。

依頼結果

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MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

  • ルーン・ルンka6243
  • 整備士
    ヴァージル・シャーマンka6585
  • 覚悟の漢
    南護 炎ka6651

重体一覧

参加者一覧

  • 人と鬼の共存を見る者
    雪ノ下正太郎(ka0539
    人間(蒼)|16才|男性|霊闘士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 鬼さん、こちら
    エファ(ka6071
    鬼|20才|男性|聖導士

  • ルーン・ルン(ka6243
    エルフ|26才|女性|符術師

  • ルーネ・ルナ(ka6244
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 《大切》な者を支える為に
    和沙・E・グリム(ka6481
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 整備士
    ヴァージル・シャーマン(ka6585
    人間(紅)|22才|男性|機導師
  • 覚悟の漢
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