私を戦場に連れ出して

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/12/27 19:00
完成日
2017/01/03 17:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 その一報が王宮の一部を恐慌状態に陥らせた。

「大公派貴族が連合して兵を動かしただと?」
「部下を現地に向かわせろ。今すぐにだ!」

 複数の諸侯が、同時に、連動して、領内の歪虚討伐を開始した。
 政治に疎い聖職者であれば無邪気に勝利を祈っていたかもしれない。
 中央に対する示威行為、内乱の予行演習にすら見える行動だが。

「何が起こっている」

 酷い顔色で備え付けの椅子に座る。
 水差しから水を飲もうとして、己の手が恐怖で揺れているのに気づく。

 正確な情報が届く翌朝まで、官僚達は胃痛に耐えながら眠れぬ一夜を過ごすことになる。


●司祭のたくらみ
「一度に動けば経費削減できますよ、という話を領内の教会にしてもらっただけなんですけどね」

 イコニア・カーナボン(kz0040)は久々の外の空気を満足そうに吸って、広々とした土地を改めて見渡した。

 ここは複数の貴族領が境界を接する係争地、ということになっている。
 実際は誰も管理していない無人地帯だ。
 面子があるので引き下がれないだけで、どの貴族も全く重要視していない。

「司祭! 伯爵の私兵団から通信です。目標の歪虚を撃退。うち2体がこちらに向かって撤退中とのことです」
「男爵の執事からの書状です。これを」

 通信機を手にした聖堂戦士が報告し。
 騎馬の聖堂戦士が蜜蝋で封をされたものを渡す。
 イコニアは軽く頭を下げて受け取って、慣れた手つきで封を切り中身を確かめた。

「こちらは8メートル級が3体ですね。えっと……全てあわせると7体?」

 どの貴族も己の戦力を傷つけたくない。
 なので当然のように、隣接領地に押しつけるためこの土地に追い込んだ。

 騎馬の聖堂戦士が敵に気づいて生唾を飲み込む。
 歪虚化し異形に変じた大木が、枯れた根を足のように動かしてこちらに向かって来る。
 鉄色の翼を伸ばした大型ガーゴイルが、何度も地面を蹴って高速で別方向から接近する。

「これでは逃げられませんね」

 困ったと言うイコニアの目はきらきらと輝いている。
 ようやく、待ち望んだ、戦闘だ。
 小ぶりだが強固なメイスを慣れた手つきで構え、ふん、と可愛らしく鼻から息を吐いた。


●1日前。ハンターオフィス

「聖堂教会からの依頼です」

 そう言い切った職員の袖を、机の上のパルムがくいくいと引いた。

「どうかしましたか?」

 ハンターに目礼して振り返る。
 しゃがんで目線をあわせると、パルムが全身を使ったボディランゲージで何かを主張する。

「分かりました。……聖堂教会の方(ほう)からの依頼です」

 一気に胡散臭い雰囲気になる。
 ハンターのじっとりした視線に気づかないふりをして手元の端末を操作。
 3Dディスプレイが投影され、2つの歪虚が映し出された。

「現在、王国の地方で歪虚討伐作戦が行われています」

 右側は緑が濃い大木だ。
 遠方から撃ち出される矢を歯で柔らかく受け止めながら前進。
 逃げ遅れた徒歩の兵を、複数の枝で囲んで押し潰そうとした。

『同朋を見捨てるな。突っ込めぃ!』

 やや古びた装備の覚醒者複数が突撃。
 棘つきの枝を血だらけになって引っ張り、半死半生の仲間を引きずり出して全員で逃げ出す。

 左側はガーゴイル。大きさはCAMの半分程度だ。
 こちらは恐ろしく速い。
 滑空するガーゴイルを騎馬が追うが全く追いつけない。
 回避と防御の技は雑なようで、矢による攻撃が何本も当たって一見金属風の肌にめり込む。

『糞っ』

 しかし逃げ足が速い。
 精鋭弓兵の猛攻で撃墜一歩手前まで追い込まれたものの、最終的には生き延び逃げ伸びてしまう。

「今回の目標はこの2種の歪虚です。具体的には、貴族の私兵が倒しきれなかったものを相手にすることになります」

 歪虚が追い込まれる予定なのは平坦な無人地帯。
 地面が固いので罠を仕掛けるのは困難。ユニット運用にはおそらく適している。

「現地には聖堂戦士団が先行しています。半数がクルセイダー、残り半数も覚醒者ではありませんが騎馬技術持ちです。巧く連携すれば……」

 職員の発言が唐突に止まる。
 数秒視線を彷徨わせ、こほんと咳払いして声を潜めた。

「とても面倒な方が1人いるので無視して戦った方がいいかもしれません。臨機応変でお願いします」

 クルセイダーが使うヒールはユニットにも効く。
 聖堂戦士団の有効利用が必要かもしれない。

リプレイ本文

●乙女心のかたち
 空気が凍っている。
 虫も鳥も動物も、戦の気配にあてられて遠くに逃げてしまった。
「あら、なかなか素敵な戦場ですわね。ドキドキしてしまいますわ♪」
 ミルヒ・リンデ(ka6634)があくまで礼儀正しう。
 冷たい風が愛機の背中に遮られて弱まり、艶のある青髪が微かに揺れた。
「ふ、ふふ」
 含み笑いが聞こえる。
 搭乗口に腰掛けたまま見下ろすと、イコニア・カーナボン(kz0040)が本来白い肌を桜色に染めていた。
「イコニアさんも大変ですわね。立場のある聖職者の……貴族の暮らしは窮屈ですもの」
 ミルヒはいたずらっぽく目で合図。
 イコニアも上品な表情に切り替えてにこりと答えた。
「実家にいた頃と同じような仕事をしてますからね。貴族と言われても反論しにくいです」
 私は一介の司祭なのですが……と白々しく語るイコニア。
 楽しんでいるのでしょうと目だけで伝えるミルヒ。
 そして、2人ともだたの少女のように噴き出した。
「人間社会から遠く離れた場所で」
 ゆっくりと、しかも優美に手を伸ばす。
 手のはるか先には歪虚が多数。
 土煙と共に接近する大木型歪虚と、サイズは劣るが高速で滑空して来るワイバーン型歪虚。
 魔導型デュミナス搭乗前なら軍が必要だった大戦力だ。
「自らと仲間の力だけを頼りに正面から戦う! 本当に……」
 さいこうです。
 少女司祭の瞳は夢見るようで、吐息は場違いなほど甘かった。
「やる気は十分ですね」
 うんうんとうなずいてからイコニアの背後を見る。
 なんとか止めてくれないなー、と表情の聖堂戦士が複数、ミルヒを無言で拝んでいた。
「私の膝の上でよろしければ、滑り込んで頂いても構わないのですけれど」
 イコニアが瞬きする。
 彼女もハンターとCAMの活躍はよく知っている。
 とても魅力的な誘いに聞こえた。
「いえ、駄目ですわね」
 ミルヒは心から残念そうな表情をつくって息を吐く。
 気合いを空振りさせられたイコニアが、なんで? と目で尋ねた。
「奥行きが私よりあるので空間が足らないようです」
 司祭の顔と体が固まった。
 身長は同程度でも体重が10キロ以上違う。しかもイコニアは最近運動不足気味で筋肉が落ちている。
「いいから後ろに下がってろ」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)が面倒具さそうにイコニアを追い立てた。
 悪意と暴力はないが遠慮も一切無い。
「どうしてっ」
 司祭が猫かぶりで再起動。薄幸の少女のようにも見える。
 護衛戦士とついでに紅のイェジドも少しは手加減をという目をボルディアにちらりと向けた。
「いや、普通に邪魔だからだけど」
 実に率直だった。
「文句があンなら俺を力づくで黙らせろ。そしたら連れてってやるよ」
 イコニア必死の抵抗は一切ボルディアに通じず、まるで子猫の如く首筋を摘まれ後ろに放り投げられた。
「暴力はんたいっ!」
 地面との激突による衝撃は受け身で受けながし、残った速度で立ち上がって抗議したときには幻獣とその主は敵の迎撃に向かっていた。
「司祭殿にも困ったものだ」
 長大なスナイパーライフルを構えた機体の操縦席。
 大量の情報がうずまく場所で榊 兵庫(ka0010)が軽く溜息をついた。
「前線で身体を張るのが俺達の役目で、司祭殿には課せられた責務があるというのに、な」
 責務とは即ち直接戦闘以外の面倒ごと全般だ。
 それをこなせるから聖堂戦士団から護衛が派遣されている。
 HMD経由で複数の警告が届く。
 ワイバーンがスナイパーライフルの射程内に入ったのだ。
「頼むぜ。【雷電】。お前の助力が必要だ」
 2本のスティックと複数のボタンで高速入力。
 例えるなら囲碁の超高速対局中のAIに指示を与えるよう。
 膨大な実戦経験と鋭敏な勘に導かれて8メートルの巨人が姿勢を微修正。
 105ミリ口径の弾が1つの重い音を追い越し空を貫く。
 ガーゴイル型歪虚は十分に警戒していた。
 音が届く前に殺気に気づき横へすべるように回避行動を開始。
 しかし避けた場所こそが兵庫が狙って【雷電】が届かせた場所だ。
 弾頭が岩状の肌にめり込み歪虚の両翼が乱れた。
「……多少は動かしやすくなったか」
 ユニット強化により、己とCAMの距離が縮まった実感がある。
 ガーゴイルの足が地面に触れる。
 強靱な足により固い地面が削られ土煙が発生。
 土埃に汚れた顔が憎悪の形に歪む
 第2射。
 わざと別のガーゴイルを狙って、予想通りに外れた。
 そして、これも予想通りに、兵庫と【雷電】目がけて加速を始める。
「まずは引きつけないとな」
 ハンターの目的は撃退ではなく殲滅だ。
 まずは相手が逃げられない距離まで引きつける必要が有った。
 滑空するガーゴイルの高度が落ちていく。
 その速度はイェジドすら上回る。1度で倒さねば突破されて追いつけない。
 つまり相棒の出番だ。
 幻獣ヴァーミリオンが燃えさかる殺気を剥き出しにする。
 空気が重く冷えていき、ガーゴイルの速度が鈍ってヴァーミリオンの足に追いつけなくなる。
「よくやった」
 飛行歪虚の高度は対地で8メートル。ボルディアの間合いの内側だ。
 高密度のマテリアルが現実を歪ませる。
 馬上の戦士の姿が一瞬膨れあがり、幻だったかのように消え去った。
 残されたのは両断されたガーゴイルと鞍上で得物を振り切った体勢のボルディアのみ。
 巨大な刃先を彩る赤が、微かに濃さと範囲を増していた。

●それゆけゴーレム!
「目標、木製歪虚。前進」
 鳳城 錬介(ka6053)の指示は必要十分で素早い。
 刻令ゴーレムの無限軌道が回転する。
 大地を力強く踏み締め、遠くからでも目立つ大木へ直進する。
「【ゴーレム君】!」
 もう1機のゴーレムに気合が入る。
 No.0(ka4640)に似た三角兜がきらりと光を反射。任せろと言いたげに手を振り上げ、恐るべき敵とやり合うために錬介機と並んで加速した。
 複数種類の轟音が戦場を満たしている。
 今もミルヒのCAMがカノン砲による対空射撃を敢行。
 見事ガーゴイルの右足首に当て吹き飛ばす。
 再発砲。
 半壊した右足を壊すが狙って壊した訳ではない。
 歪虚に当たればどこでも構わないつもりで狙って撃っただけだ。
「部位狙いには足りないものが多いですわ」
 再装填の優先度を下げて機関銃に持ち替える。
 ガーゴイルの速度は圧倒的で、いつ近接戦闘を仕掛けられてもおかしくない。
 歪虚が高度を落とす。
 高度が下がった分速度が増して、聖堂戦士もイコニアも反応しきれない。
 歪虚の顔に嘲笑が浮かぶ。
 正マテリアル保持量の割にずいぶん弱い者を食らえば、成り上がりからの逆転も可能だ。
 ハンターがこの場にいなければ、実際それは十分あり得る未来だった。
 ミルヒの銃弾がガーゴイルを削る。小柄の歪虚なら十分削りきれる威力があるのだが、全長4メートル近いガーゴイルは削り切られる前にイコニアまで十数メートルに迫った。
 鋭く白い牙を剥き出しにした若き鬼が跳躍する。
 黒髪が後ろに流れ、尖った角が聖堂戦士の視線に晒される。
「させるものか」
 分厚い鎧とガーゴイルが衝突。その際に生じた音は大く、歪虚に生じたひび割れが広がり、鳳城 錬介(ka6053)の髪が激しく揺れた。
 ガーゴイルの口端か吊り上がる。
 少女司祭を刺し貫くはずだった爪が、鎧の隙間から入って錬介の腹を切り裂いていた。
「イコニアさんと会うのもお久しぶりですね」
 視線はガーゴイルに向けたまま、杖にマテリアルを込めて振り下ろす。
 歪虚の脇にめり込む。
 ガーゴイルの巨体がずれて爪も抜かれて血が噴き出す。
「あの頃に比べれば今はそれなりに鍛えられたんじゃないかなと思いますが。参りましたね」
「我が同胞に光を」
 イコニアの返事は法術の詠唱だ。
 暖かな光が装甲の下の傷口に集まり、欠けた血と肉と内臓の代わりをつくって置き換える。
「見事!」
 聖堂戦士達が興奮している。
 長く戦えば急所への命中は避けられない。
 だからこそ、咄嗟に法術で防壁をつくり、致命傷を単なる深手に変えた錬介の判断と技術を心から賞賛している。
「わたしもっ」
 イコニアの瞳は憧憬に似た光できらきらと輝いている。
 メイスを片手にガーゴイルに、先程の強力ヒールと比べると拙いにもほどがある動きで飛び出そうとして、護衛の戦士にその場に押し倒された。
 その直後、目を血走らせたガーゴイルがイコニアの頭があった場所を通過した。
 そのまま空へ逃げようとして、歪虚とは別方向の異形に行く手を遮られた。
 三角だ。
 頭部の三角錐型のクローズヘルムと鍛え抜かれた長身の組み合わせが、純度が高すぎ虚無的にも見える力を感じさせる。
 無音のまま巨大ハンマーを振るう。
 高位ハンターのような非常識な威力はないけれど、息もつかせぬ連撃にはガーゴイルが無視できない迫力があった。
 岩に似た皮膚が欠け、No.0の革鎧に傷が増えていく。
 メイスが岩の胸を凹ませかぎ爪がNo.0の肩を裂く。
 歪虚は恐怖に負けて数歩後ずさり、三角頭の戦士は恐怖のない瞳で勇気をもって間合いを詰めようとした。
 岩の翼が広がる。
 存在する力を燃やす勢いで羽ばたく。
 ミルヒが……正確には魔導型デュミナス【ヤクトファルク】から射撃するにはイコニアが邪魔だった。
 時間を有効に使うため再装填を実行。
 イコニアが失態に気づいて横に飛びのいたタイミングで、戦場が新たな段階に入る。
 ガーゴイルが飛ぶ。
 数秒で地表から10メートルに達し、速度も最大に。
 徒歩の錬介とNo.0では届かない距離まで瞬く間に到達。
 【ヤクトファルク】の機銃の届かない場所に辿り着いてしまう。
 これが飛行可能歪虚の脅威だ。どれほど強い覚醒者でも、飛行可能歪虚に空へ逃げられ倒しきれないことがよくあった。
「逃げたのはあなたです」
 ミルヒが手を伸ばす。
 砲門がガーゴイルの逃げる先を指向する。
「まさか卑怯とは言いませんよね
 発砲。
 振動。
 圧壊音。
 ガーゴイルの残骸が地面に激突、消滅した。

●ガーゴイル対空戦
「で、いつの間にあんなでかいのが出歩く世の中になったんすか……?」
 仙石 春樹(ka6003)が半眼になっている。
 ハンター登録後にオフィスで聞いた説明と現実が違いすぎる。もっと牧歌的だった気がする。
「これ使っていいバイトならまあまあ歓迎っすけどね」
 魔導型デュミナスが滑るように前に出る。
 大型火器3つに追加の装甲を装備しても速度は十分にある。
 歪虚3体を押さえ込む程度のことは十分可能に思えた。
「って、飛んでるだけあって案外早い……?」
 地上の8メートル級歪虚はほとんど動いていないのに、ずっと遠くにいたはずのガーゴイルがかなり近づいている。
 それでもまだ距離がある。
 反対側の戦場に適量の意識を向けながら、春樹は対空戦に備えて意識を研ぎ澄ませていた。
 美亜・エルミナール(ka4055)が独特の形状の操縦桿を握る。
 ヘイムダルをベースにした重量級機体が、腕部2つと脚部2つと尾部1つを地面に触れさせる。
 とても安定している。
 肩部にマウントされた対空砲は非常に力強く見える。
「高い照準器付けてるんだから、ちゃんと仕事してよねー……っと。ああもう」
 もっとも、その力強い機体の主は満足できていない。
 操縦席に集まる情報は魔導アーマーとしては大したものなのだが、リアルブルーにある類似品と比べるとあまりよろしくない。
「スティンガーかミサイルランチャーでもあればすぐに片付くのに」
 発射の反動は0に近い。
 重量と速度を兼ね備えた弾が140メートルを飛び越え、10メートルの高さを飛ぶガーゴイルに正面からぶつかった。
「ぎりっぎりね」
 翼を狙う余裕なんて全くない。
 少し風向きが変化しただけで外れてしまうだろう。
 単発の対空砲に再装填。
 同じ目標を狙おうとすると、距離は100メートルを大きく割り込んでいた。
「ひどい速さっすね」
 春樹がカノン砲を選択する。
 不気味な発砲音と共に砲弾が飛び、飛行する歪虚の頭を打ち砕こうとする。
 ガーゴイルの翼がぎしりと悲鳴をあげた。
 無理矢理な急減速と急降下で負荷かがかかりすぎている。
「はずれっるすか……」
 弾はガーゴイルの頭上を越えていった。
 歪虚は嘲笑しようとするが恐怖で顔が引きつっている。
 今の回避成功は単なる偶然だ。
 次成功する可能性は低いし、1発でも当たれば大打撃だ。
「現代の戦いの割には単純な戦場っすけど、面倒っす」
 戦闘開始直後と変わらず声に感情による起伏がない。
 ひたすら冷静に位置を変えつつ対空射撃を続行。
 上空の2体の狙いを冷たい瞳で探る。
「お披露目で2度しか打てないとかっ」
 美亜は距離20メートルで対空砲第2射。
 今度は危なげ無くガーゴイルの腹に当てた。
 2度当たった腹は大きく凹んで無惨な有様だ。
 けれどガーゴイルは止まらない。高度を落としながら近づく速度を増し、盾も持たない美亜機を後ろから攻めようと急角度で旋回した。
 かぎ爪が伸びる。
 速度と重さを一点に集中して分厚い装甲を貫こうとする。
 美亜機が尾部を大きく振った。
 反動で向きを変えてガーゴイルに向き直り、美亜が予め交差させていた腕部を少しだけずらせた。
 かぎ爪と装甲の接触点から激しく火花が散った。
 歪虚の顔に歓喜の形になってすぐに元に戻り、浅い傷しかない装甲見て絶望する。
「射撃しか出来ないと思った?」
 美亜機の右腕にはユニット基準では小振りなメイス。
 防御から攻撃へ滑らかに移行して、外見通りのパワフルな腕で振り下ろす。
 ガーゴイルの肩に埋まって胸までめり込んだ。
 岩の翼が痙攣。だが歪虚は無理矢理翼を動かしメイスから飛び離れ、振り返らずに必死に距離をとる。
「結局乱戦っすか」
 別方向から弾幕が広がり、背を見せたガーゴイルを絡め取る。
 翼を含む全身に亀裂が入って小さな破片が落ちる。
「射撃戦で圧倒したからこうなるのは分かる、っすが」
 人間基準で死角の方向から、もう1体の歪虚が急降下。
 無論、春樹機のセンサーはガーゴイルの奇襲を捉えている。
 それ以前に春樹自身が敵の動きを読んでいた。
「危ない」
 本体を敵の進路から逃がすことには軽々成功。
 大きなカノン砲を掠めかけて少し焦ったくらいしか問題が無い。
 そう。シールドも近接用も持たないのに問題がない。
「半端な知性が邪魔になったっすね」
 敵に機体の正面を向け続ける。
 装甲の隙間から覗く銃口が砲火を吐き続け、ガーゴイルが近づこうが一旦距離をとろうが必ず弾を届ける。
 もちろん回避されることもある。当たってもカノン砲ほどの威力はない。ガーゴイルの攻撃に装甲が削られることもある。
 だがガーゴイルの方が明らかに被害が大きい。
 圧倒的な速度で最も有利な場所に移っても、近接戦闘を仕掛ける限りマシンガン「ディプラ」の射程内であり春樹に有利な距離なのだ。
 ガーゴイルが抗戦を断念して始めに逃げた同属の後を追おうとしたとき、春樹機のカノン砲が火を噴き核の部分を押し潰した。
 残ったガーゴイルは必死の形相で逃げた。
 春樹機の射程は少し足りない。他の面々は反対側で戦っているので援護は無し。
「冷静に撤退されていたら、危なかったかもね」
 対空砲による対空砲撃。
 いくら高速でも回避しなければ巨大な的に等しい。
 砲弾が岩の肌を貫き、内側から首も羽も弾けさせて爆散させた。
「うん、動きはそれほど早くもなし……ただのカカシですな」
 美亜は最後に残った歪虚に1発を当てる。
 老木型の木は動きが鈍く、回避を試みても見事に失敗。
 強靱な枝と葉っぱによる受け防御に切り替え、なんと砲弾を受け止めて見せた。
 注視する。
 歪虚の枝と幹に、非常に小さい傷が残って回復しない。
 後は射程と速度を活かせば完全勝利だ。
 ただ、どれだけ時間がかかるか少し気になった。

●司祭を背に庇い
 反対側の戦場も乱戦だった。
 イェジドのブロッキングとボルディアの大破壊力は、ガーゴイルの乏しい知性でも分かるほど強力過ぎた。
 だから生き残りはボルディアから離れる形で人間を襲おうとした。
 つまりイコニアとその護衛が狙われたのだ。
「援護する、あまり無茶はしないでくれよ?」
 霧島 キララ(ka2263)が己の四肢に意識を集中する。
 無骨な機体が驚くほど滑らかに前へ進み、イコニアに向け降下してくる歪虚の前に割り込んだ。
「えっ?」
 盾を構え、万一の際はいつでも跳んで避けられる体勢で、イコニアは目を見開いて魔導アーマーを凝視した。
 一見武器には見えないただの棒から何の予兆もなく刃が伸びた。
 魔導アーマー【野槌】は素早い踏み込みで突きを放ち、マテリアルの刃は形を失う前にガーゴイルの脇から背中まで刺し貫く。
 ガーゴイルが悲鳴をあげて横転。
 地面と翼を傷だらけにしながら必死に立ち上がる。
「最近の技術って……すごい」
 刃が消えて棒に戻る。
 イコニアはまだ驚いている。
 【野槌】が距離を詰めてただの棒で斜めに切り下ろし、接触の瞬間刃がうまれて岩の肌にめり込む。
「弱くはないが」
 消えた刃を再生成。
 向かってきた4メートル級岩歪虚を受け、機体への被害を減らす。
 マテリアルソードの残マテリアル量がかなり減ってしまっていた。
「使い勝手がな」
 突く。
 ガーゴイルが飛び立つ。
 【野槌】の装備では攻撃できない位置に到達するが、真横からの銃撃が側面に突き刺さりって多数の穴が開く。
「木の歪虚の迎撃に」
 銃を構えた魔導型デュミナスの中。兵庫の台詞が不自然に止まった。
「またか」
 トランシーバーの調子が悪い。
 歪虚のいる場所ではしばしば起こることだ。
 機体に直接装備すれば被害が軽減されるとはいえ、追加装甲や射撃戦闘補正装置の代わりにトランシーバーというのもためらってしまう。
 だから兵庫は【雷電】の身振りで指示を飛ばした。
 イコニアと聖堂戦士団が南に走り出す。
 ボルディアが後をゴーレムに任せて西へ走る。
「射程距離内だ」
 ワイバーンが北へ。
 【野槌】が長砲身のライフルを構え、ワイバーンの集中が落ちた一瞬に弾を送り出す。
 その弾は形のない正マテリアルで出来ていた。
 負のマテリアルで出来た歪虚にとっては猛毒に等しく、右肩を壊して前面から抜けた。
 右翼が垂れる。
 そのまま落下しかけたころで本体の負マテリアルを削り強引に右翼を固定し滑空する。
 続けて第二射。
 ガーゴイルとの距離が100メートルを越えた。
 マテリアルの弾丸が空を貫き、ガキ爪の先を掠めて空に溶けた。
「火器管制システムか」
 【雷電】がスナイパーライフルを構え、撃つ。
 長距離戦闘ではFCSの効果は絶大だ。
 実にあっさり脊椎部分を核ごと抜いて105ミリの穴を開ける。
 歪虚が落ちて砕ける様に、聖堂戦士たちが歓声をあげた。

●巨大歪虚の脅威
「手も足も出ない……か」
 No.0が空を見上げる。
 白兵戦用装備なので、距離をとられると戦闘自体が不可能だ。
「後は大丈夫でしょう。イコニアさんも決して弱い訳では」
 1年前に共に戦ったときのことを思いだし、錬介が困惑に似た曖昧な表情になる。
「防御はできるはずです。後は木を防げば死にはしません」
 身も蓋もなくいうと、防御だけは平均的な腕で後の戦闘技術は並以下だ。
「……ああ」
 両者同時にうなずき駆け出す。
 行き先はゴーレムと歪虚の決戦場だ。
 【ゴーレム君】が木槌で叩く。
 歪虚は茂った枝を掲げて防御。
 1メートル強押し込んだ時点で力が拮抗し、ぽん、と妙に軽い音をたてて木槌が跳ね返された。
 枝が波打つ。
 墜ちた木が左右から枝を伸ばしてゴーレムを押しつぶそうとする。
「【ゴーレム君】、パターンB」
 三角頭部がきらりと光る。
 信地旋回で方向転換の後即加速。
 無人の地には不似合いな壁の蔭に突っ込んだ。
 枝が渦を巻く。
 堅い壁が轟音をともに削られる。
 貫通した枝がゴーレムに当たる直前に、機体から噴出したマテリアルが防壁になって枝を止めた。
 2つの枝が引き戻される。
 ゴーレムの意外な強さに気づいて数メートル下がり、歪虚はボクシングに似た構えをとり仕切り直しを葉kル。
「【ゴーレム君】」
 無限軌道は反対向きに全力回転。
 機体全体からきしむ音を響かせ、No.0を掠めるように後ろへ全速前進だ。
 錬介が誇らしげに微笑んだ。
「よくやりました」
 賛辞に癒やしの力を乗せる。
 派手に割れた部位が少しだけひっつく。
 大木を食い止め【ゴーレム君】並にぼろぼろだったもう1機のゴーレムが、前回一歩手前から大破同然程度まで持ち直した。
「イコニアさんは」
 木歪虚の警戒はゴーレムに任せてちらり目を向ける。
 残るゴーレム1つはゴーレム以上にぼろぼろだ。猛烈な対空射撃を突破しようとすれば、9割9分途中で討ち取られる。
「安全のようですね」
 だったら好きなように戦える。
 獰猛に笑い、杖に攻性のマテリアルを込めて突撃。
 ゴーレムが腕を振り回す。紐の先の刃がぐるりとまわり、予想外の向きから墜ちた木を襲う。
 2つの枝が迎撃する。木槌を防いだときのように刃を跳ね返す。
 鋭いかけ声。重量と速度以上に重い杖が、茂みの薄い箇所を突破し乾いた幹に当たる。
「飛び道具にすれば良かったかな」
 力任せに引き抜く。
 木屑が舞い、枝の緑の葉が見る見る枯れていく。
「でも叩き壊すならこっちですよね」
 2本の枝だけでなく細い枝まで伸びてくる。
 足や目などに当たりそうなものだけ弾いて防ぎ、笑った。
 殺気が溢れる。
 最初は木に見えた歪虚が、今ではホラーに登場する魔物の如く歪んだ本性を現す。
 緑が腐り溶け錬介に向かって雪崩れ込むより速く、別方向から三角頭の巨漢が音もなく跳びかかる。
 枝から滲んだ瘴気がNo.0に向かい、冷たく澄んだマテリアルとぶつかって反発する。
 爆発を伴う光が三角兜に異様な迫力を与え、大木槌を神々しく照らし出す。
 当たった箇所から幹が弾け、中程まで抉れて腐り果てた中身が見えた。

●止めの一撃
「短期決戦しかできないな」
 キララが軽く息を吐く。
 【野槌】の武器からマテリアルが抜けかけている。
 もちろん補充手段は用意しているが、1度剣と銃に補充したら次の補充手段はない。
 いつでも銃撃を浴びせられる体勢で微速前進。
 半死半生のガーゴイルが剣も銃も届かない距離に潜り込むがそれはキララの狙い通り。
 待ち構えていた【雷電】が弾幕で出迎えを行い、拳銃弾1発で落ちるレベルまでガーゴイルの体力が落ちきった。
 ガーゴイルの士気が砕けた。
 緩い弧を描いて逃げることでイコニア一行を盾にすることに成功。
 脇目も振らず逃げる歪虚には、イコニア一行がトランシーバーで指示を受けていることに気づいていなかった。
『右に跳びます』
 8騎がひょいと一歩、一斉に斜め右に跳ぶ。
 最後のマテリアルを銃口へ。
 通常の弾とは異なる気配の弾を地面と水平に。
 一瞬にも満たない時間遅れて土煙がうまれ、イコニアの髪を揺らした上で、前のめりのガーゴイルの背中から頭を抜いてこの世から消滅させた。
「脚も遅くて、近接攻撃しかできない相手に近接戦闘など愚の骨頂。敵が一種になった以上、一方的に蹂躙することこそが最適解だろうが」
 兵庫の105ミリ弾が溶けかけの木を狙う。
「通ったな。こちらは問題ない」
 葉と枝で防がれても微量ではあるがダメージが通ったのを確認した後、キララはマテリアルカートリッジで銃に充填して銃口を北に向ける。
「やれやれ、タフな相手はあまり好きではないんだがな」
 撃つ。
 撃つ。
 とにかく撃つ。
 半分撃ち尽くしても2割ほどしか削れていない気がする。
 紅の獣が歪虚の反対側から現れる。大きく迂回して退路を断った上での登場だ。
 ぺしりぺしりと枝を叩いて時折噛みついて小振りな枝を引き千切る。
 サイズを無視すれば犬が玩具にじゃれつくの似ていないこともない。
「ヴァン、そこまでだ」
 見物していたボルディアが巨大斧を構えた。
 この歪虚は回避と防御の練習台にしては弱すぎ、試し打ちの相手としては固すぎる。
 だから主が片付けをする。
 一呼吸で戦斧を振るう。
 桁外れの威力は太枝を切り裂き、幹に深い傷をつける。
 それが上下に2連撃。恐るべき技と濃厚なマテリアルの残滓が、炎の幻を形作った。

 機械系ユニット全機による射撃で最後の1体吹き飛ばされた直後から説教会が始まった。
「悪いこた言わねえから大人しく後ろで支援しとけ、な?」
「頑張るのはいいけど、無理はいけない……。今の自分自身をよく知って、足りないところを鍛えれば、イコニアがやりたいこともやれるようになると思う……」
 真心からの忠告を拒絶するほど腐ってはいないので、イコニアは涙を飲んで受け入れ、戦勝報告と消耗品補給申請の文面案考え始めるのだった。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ライデン
    雷電(ka0010unit002
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • 愛憐の明断
    霧島 キララ(ka2263
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ノヅチ
    野槌(ka2263unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 能力者
    美亜・エルミナール(ka4055
    人間(蒼)|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヘイムダル ジーカスタム
    ヘイムダル GーCustom(ka4055unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 兜の奥の、青い光
    No.0(ka4640
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ゴーレムクン
    ゴーレム君(ka4640unit001
    ユニット|ゴーレム
  • 時軸の仕置き人
    仙石 春樹(ka6003
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(ka6003unit001
    ユニット|CAM
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    カケヤオニロク
    掛矢鬼六(ka6053unit002
    ユニット|ゴーレム
  • 撃退士
    ミルヒ・リンデ(ka6634
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    オフィウクス/ヤクトファルク
    【Oph】ヤクトファルク(ka6634unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 『相談卓』
霧島 キララ(ka2263
人間(リアルブルー)|26才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/12/27 11:15:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/12/23 07:45:46