【初夢】チューダ大量発生?!

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/01/03 12:00
完成日
2017/01/13 22:32

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ――その日、目を開けたら、チューダが増えていた。

 よく分からないけど、そうらしい。チューダ曰く、
「さすがハンターの人気ナンバーワンの我輩でありますな!」
 と笑っていたが、とりあえずこのままチューダが何匹も固まっていても何にもならないのは多分に予想がついてしまう。聖地の面々はすぐにチューダにそれぞれ別行動してもらうように頼み込んだ。
「我輩が沢山いると迷惑でありますか?」
「むしろ我輩の可愛らしさに惚れ直す面々も多いかも知れないでありますね!」
「それならいっそ、リゼリオでこの可愛さを売りに出してみるでありますか?!」
「それはいいアイデアなのであります!」
※以上、全て増殖したチューダの発言である。


「そんなわけで!」
 チューダはハンターオフィスでふんぞり返る。
「我輩の可愛らしさを世間にあまねく知らしめるべく、こうやってやってきたのであります!」
「あります!」
「あります!」
「あります!」
 厳密には、ふんぞり返っているのはチューダ十匹。
 今日一日、ハンターにそれぞれ付き従い、市井の暮らしを体験したいと言うことらしい。
 なるほど、チューダのファン(?)はそれなりの数がいるし、チューダを一日独占する代わりに一般的なハンターの生活を体験させるというのはなかなかに面白いかも知れない。
 ――たとえ、これが夢だと知れない、としても。

リプレイ本文


 チューダが大量にリゼリオに現れた――その知らせはよく分からないうちにハンターたちの中を駆け巡った。
 もふもふで触りごこちも良いと言われ、その人気もハンターたちのなかでだいぶん不動のものとなったチューダという存在。その正体は皆が知っているとおり大幻獣、自称幻獣王だ。……もっとも、見た目はやたらでかいジャンガリアンハムスター、という感じなのだが。
「そんなわけで、我輩が巷でも人気の幻獣王、チューダなのであります!」
「あります!」
「あります!」
「あります!」
「「「あります!!!」」」
 チューダの予想よりは少なかったものの、それでも結構な人数が集まったと言える。今、仁王立ちをしてふんぞり返っているチューダたちの目の前には、七人のハンターが興味深そうに、チューダを見つめ返していた。
 その中のひとり、ヴァイス(ka0364)は、そんなチューダの前で内心悶えていた。
(あれが噂に聞く幻獣王・チューダ……く、なんていう可愛さだ……!)
 というのも、彼はその実もふもふしたモノが大好きな、いわゆるモフリストという存在なのである。ペットの柴犬も良い毛づやを保っているのは、ひとえにヴァイスの細やかなケアゆえのものである。
 その隣でザレム・アズール(ka0878)は目をらんらんと輝かせていた。今までにも何度かチューダに会う機会もあり、得意の料理の腕を振るって食べてもらったこともある。先だっての聖輝節でチューダが持ちかけた「おかしのおうちパーティ」のそもそもの切っ掛けを作ったのは彼なのだから、それなりにチューダも彼のことは認めているようでもある。
(……おれはかわいい物が好きだ。かわいい物が好きだ……大事なことなので二度言ったがそのくらいに好きだ)
 どこかで聞いたことのあるようなフレーズを脳内でリフレインさせているザレム。たくさんのチューダがわちゃわちゃと短い手足を動かしているさまは、たしかに見ているだけでも癒されるというか……ザレムの顔が少しにやけているのはもう仕方のないことなのかも知れない。
(……柔らかい毛並みが好きだ、愛くるしいくりくりとした目が好きだ、ちょっと(?)偉そうな口調も好きだ……我儘さにいたっては食らって嬉しいご褒美のようなモノだ)
 目尻がやに下がっている。口元が少し緩んでいる。嬉しさを全身で表わしたいのを必死にこらえてはいるが、身体がどうしても喜びに打ち震えてしまう。
(これで俺のスイーツにおかわりを求められたりしたときなどは本当に心が躍るんだよな……! なんていうか、夢でも嬉しい、嬉しすぎて足がまともに地面につかない……!)
 ザレムの心の声が口に出ていないだけ、まだましというものか。
 ――これなんて幸せの大洪水?
 思わず口をついて出そうになるのをおさえる。既に心ここにあらず、幸せすぎてどこかべつの場所に飛んで言っていったようだ。
 いっぽう、その対をなすかのように、横でチューダに冷ややかな視線を送っているのは、エルバッハ・リオン(ka2434)。笑みを浮かべているのは浮かべているのだが、目の奥が笑っていませんエルバッハさん。……もっともそのことに、他の面々は誰一人気付いていなかったりするのだが。それも結局他の面々がほぼほぼ『チューダ様あああああ!』と、チューダに対して理由はともかく好意的な感情を抱いているからで、つまりは気付けないと言うべきなのかも知れない。
 もともと、大幻獣と接する機会なんてそうそうあるモノではない。チューダがかなり例外的な存在で、人間との接触をよくとっているが、他の大幻獣と呼ばれる存在たちはめったに自分たちのすまいから離れることもなく、土地、あるいは特定の人間に寄り添うようにして暮らしていることが多いのだ。
 だからこそ、フットワークも軽く気軽に接触できるチューダは、本当に例外的な存在なのだが、本人も周囲も余りそのことを重視していないらしく、だからこそこれがいかに稀少な機会であるかというのも誰も認識していない。
 ……いや、認識しているものはゼロではない。
 ノワ(ka3572)はトレードマークでもある白衣を翻らせて、眼をきらきらと輝かせていた――知的好奇心に輝く、緑の瞳で。
 ノワはこう見えて、鉱物学と医学の融合を目指している科学者見習いだ。この分野はまだまだ不安定な部分も多い為、様々な実験をためしてみたい、というのが彼女の脳内を大きく占めていたりするのだが――
(以前から、幻獣にもわたしの薬が効くのかどうか、投与したときにどういった効果が出るのか、気になっていたところにこの依頼……これはまさしく、チャンス到来ですね♪)
 そう、彼女がチューダに向ける眼差しというのは、実験動物にたいするそれに限りなく近いもので。詰まるところ、彼女がやりたいことは――まあ、予想がつくと思われる。
 そんな風に意気揚々としているノアの横で、異なる理由ではあるがそわそわしているのが雪都(ka6604)だ。端整な顔立ちはリアルブルーの有名アーティストとうり二つだが、それをずっとコンプレックスにしていた雪都にとって、可愛さを売りにしているとしか思えないチューダという存在は謎でしかなかった。
 しかし、聖輝節のパーティでチューダから言われたこと――自分を持っていればそれでいい、と言った内容に、雪都は目から鱗が落ちた気分になったのだ。今までの価値観を、それは覆してくれたのだから。
 だからこそ、彼はチューダをもっと知りたいと思って今回志願したのだ。
 もしかしたら、チューダのような生き方こそ、素晴らしいのではないのだろうかー―そう思ったのだ。
 実のところ、チューダ自身はそれほどそのことについて深い考えを持っている方ではない。チューダは良くも悪くもゴーイングマイウェイ、なのだ。しかしそれを押しつけるわけでもない。彼は彼なりに、自分のやりたいことをすれば良い、と本気で考えてもいるのだから。
 しかし雪都からすれば、そんな生き方は本当に目から鱗だったわけで、だからこそ彼はチューダをこう呼びたいと思っている。『先生』と。

(それにしてもなんで一人につき一体しか貸してくれないのかしら……幻獣なのよ、しかも十体もいるのよ? 全部独り占めして愛でたいじゃない……)
 なかなかにハードなことを考えているのは、マリィア・バルデス(ka5848)。ちょっとばかり行きすぎた愛情をチューダに向ける一人だ。でもそういう熱狂的チューダファンはけっこういるらしく、チューダの貸し出しは実際それなりに話題になっていたらしい。
 まあ、実際方向性はそれぞれだが、チューダを愛でる機会と言うことでここに集まっている面々がいるわけでもあるのだし、そんなものなのかも知れない。じっさい、頬を赤らめて
「チューダ様がきたのー!」
 と思わず声に出してしまっているのはディーナ・フェルミ(ka5843)、今までにも何度かチューダとは遭遇しているがすっかりそのもふもふの虜になってしまっているらしい。もともとふわも粉物が好きな少女ではあるが、チューダはその最高の存在、といえるのかも知れない。彼女にとって。だから、彼女はチューダをとにかく愛で倒したい、というのが目的だ。その気持ちはとても分かるので、まあ否定するわけもなく。
 そんな感じで、集った七人はそれぞれ野望(?)をもって、チューダを一体ずつ引き取っていった。残った三体は、この機会にリゼリオ観光としゃれ込むつもり、らしい。
 まあ、それもひとつの選択肢だろう。


「それにしても聞きしにまさるもふもふだな……」
 ヴァイスが楽しそうに、そう声を出す。もふもふと言われて、チューダはえへん、と咳払いをした。
「そうでありましょう! 我輩のもふもふは、皆の愛してやまないところでありますから、手入れは入念に行っているのであります!!」
 けっこう身だしなみには気を使うタイプらしい。
「そうか、それなら折角だし、そのもふもふを堪能させてもらうとするか」
 もふもふもふもふもふ。
 骨張った男らしい手ながらも、そのもふりっぷりはなかなかのテクニシャン(※チューダ的認識)で、チューダはあっという間にころころころころとあたりを転がってしまう。こそばゆさや気持ちよさが、圧倒的に勝っている証拠だ。ふくよかな毛並みと、その下の脂肪が、なんともさわりごこちのよいものになっている。
「本当に、下手な犬猫よりも触っていて気持ちいいな……ところで」
 ヴァイスはそういうと、にやりと笑った。
「俺はこれから歪虚討伐の依頼の予定があるんだ。うちのグレン……イェジドをつれていくんだが、一緒に行ってみないか? ハンターの生活というのも見せたいとおもうしな」
「ふむ……それは面白そうでありますな。ところで、我輩はどこにいれば良いのでありますか?」
「ああ、それなら」
 ヴァイスが指さしたのはイェジドの頭部。なかなかシュールな光景になりそうな予感がひしひしとするが、ヴァイス本人は気付いていないようだ。
「ふむふむ。我輩も連れて行くであります!」
 こちらも深く考えていないのかも知れないチューダが、どんと胸を叩く。
「よし。そういうことなら、さあ行くぜ、グレン……それに、チューダ!」
 彼はイェジドに騎乗し、チューダはその頭部に騎乗(?)し、さっそく出発したのである。同行のハンター仲間たちも、まさかここに幻獣王がいるとは思わなかったのだろう、驚いてはいるが、しかし同時によろこんでもいて、それだけで顔が緩む。チューダ自身も悪い気はしないようで、にまにまと笑っている。いわゆるwinwinの関係、と言う奴かも知れない。
 結果、ともに戦場を駆け抜け、戦うチューダという、非常に珍しい光景を拝むことになる。これはこれで面白いものだ。そして討伐に成功した暁には、参加したハンターたちにたっぷりともふられるチューダ。これはこれで大成功、なのだろう。
 やがてヴァイスは自宅に戻ると、幻獣たちの毛並みを整え始めた。
「二人とも今日はお疲れさまだ。チューダ、戦場はどうだったか?」
「そうでありますな……歪虚の存在はまだまだ残っているので、なんとかせねばならないでありますな。それまではハンターにも手伝ってもらうと思うでありますが、よろしく頼むであります!」
「ああ、喜んで」
 男二人はにやりと笑い、うなずき合った。

 ――一方、エルバッハとザレムの、チューダに対する扱いはまるっきり正反対だった。
 毛並みを丁寧にブラッシングし、ふかふかのおなかをマッサージするザレム。
(嗚呼、なんて愛くるしい……!)
 今にも吐血しそうな勢いで、ザレムはこれでもか、と言わんばかりに愛でまくる。うっとりと目を細めているチューダ。更に空腹をチューダが訴えてみれば、お手製スイーツをこれでもか、と言わんばかりに振る舞う、チューダ馬鹿、という言葉がしっくりきそうなザレム。
 なお、本日の目玉スイーツはフォンデュとレシピを手に入れた「月餅」なるリアルブルーのお菓子だそうで。そんなモノを目の前に並べられたチューダは、もう目をきらっきらに輝かせてそれらを眺めている。その腕前は流石チューダのお墨付き、というべきか。
 それに対し、チューダのふくよかな体躯にため息をつき、進言をしようとするエルバッハ。
 ちなみにその進言の内容は、こうだ。
「チューダ様は素晴らしいお方と思いますが、同じチューダ様が他におられる今、ここは個性を出すべきと思います。たとえば、痩せるとか、痩せるとか、痩せるとか」
 ぶっちゃけ痩せる一択である。
「劇的なビフォー・アフターとでも言わんばかりにスリムな体型になりましょう」
 自堕落という言葉がぴったりなチューダに対し、堪忍袋の緒が切れた、という表現がしっくりするそのエルバッハの表情。冷静を保ってはいるが、どう見てもいつもより表情が険しい。
「だ、ダイエット……で、ありますか……?」
 冷や汗を零しながら、僅かにふるえるチューダ。しかしそんな表情の変化など意に介さず、エルバッハは言葉を続けた。
「……ところでチューダ様。他にもチューダ様がおられるのなら、ここでお一人くらいいなくなっても問題はないですよね……?」
 目が笑っていない。氷のような眼差し。そして――殺気。
「ひいっ! わかったであります、やるであります……!」
 死の恐怖が勝ったらしいチューダ、ぶるぶる震えながら首を縦に振った。
 エルバッハはある程度のプログラムを想定していたらしく、そのメインはランニングだ。ちゃんとチューダのペースに合わせられるように、休憩なども挟むあたり、チューダを憎んでいるというわけではないのは伝わってくる。幻獣王たる存在の自堕落ぶりに呆れてしまっているという感じなのだ。
 だから、今日のカリキュラムが終わったあとにはちゃんとご褒美を用意している。ローカロリーのお菓子や飲み物だ。何しろ、ダイエットは一朝一夕で仕上がるものではない。ゆっくりでも、確実に続けられるペースで行うのが大事なのだから。
「エルバッハはちゃんと心得ているのでありますな!」
 チューダがそういうと、彼女は不敵な笑みを浮かべ、
「……チューダ様、あしたはもっと、厳しくしますからね?」
 そんなことを言うものだから、やはりチューダはぶるりと震えた。
 ちょうどその頃、ザレムのところにいたチューダは、というと。
「うはー! 満腹であります……って、ザレム、その胸はどうしたでありますか!?」
 見ればザレムの胸部は女性特有の膨らみが。
(これは夢だ、なら夢だからこそ……!)
 そう思ったザレム、気が付いたら女体化したというわけで。
「実は俺、女だったみたいです」
 とさらりというと、チューダにその胸を触れさせ、ついでに膝枕もさせて。
(嗚呼、幸せすぎてナニガナンダカワカラナイ……)
 恍惚の表情を浮かべているザレムなのであった。


 ディーナは、チューダが増えたことを純粋に喜んでいた。
「チューダ様なの、チューダ様がいっぱいなのー!」
 もふもふが好きなティーナ、一度思ったらその勢いは止まらない。帰り道も、チューダを掬い上げてポケットに入れてしまうという有り様である。
 そして、ひたすら、ただひたすら、チューダをもふもふぷにぷにして、更に丁寧にブラッシングして、愛でる。
 更に、チューダが摩擦熱で熱いと思ったり、体力もどん底になるくらいにまで、とにかく鬼気迫る笑顔を浮かべてブラッシングしているのだから、けっこうやばい。けっこうどころでなく、ヤバい。
「ちょ、ちょっと、く、くるしいであります……」
 チューダがそう言うと、ディーナも慌てて手を止める。
「……! やだ、ごめんなさいなの、最近幻獣成分の補給が余りにも足りなくて、ついうっかりなの……!」
 幻獣成分とはなにか、とか、そういうことを深く突っ込んではいけない。とりあえずディーナからしてみれば、欲求不満気味だった、と言うことを言いたいのだから。
 ティーナはお詫びとばかりに紅茶やナッツ、ケーキといったチューダの好物を大盤振る舞いしてご機嫌取り。そしてそれに嬉しそうにぱくついているチューダに対し、
「ところで、チューダ様は普段何をしているのか知りたいの。加護を与える仕事とか、しているの?」
 と、素朴な疑問を投げかける。するとチューダは小さい腕を組み、うーんと唸った。
「我輩は基本的に、他の幻獣たちの状態を知ることが出来るようにしたいと思っているでありますな。もっとも、最近の情勢もあってなかなか思うように行かないこともおおいのでありますが」
 チューダとて曲がりなりにも幻獣王を名乗るくらいだから、それなりに独自に動いてはいるのだろう、結果に結びつかないこともままありそうだが。そしてそれを、ディーナは興味深そうにきいている。
「……でも、もふぷにって言うのは正義なの、かわいいのも正義なの。だから、チューダ様はひたすら愛でられるのが正義だと思うの……!」
 ディーナの三段論法。そしてそう言う言葉にすぐ調子に乗ってしまうのも、チューダという存在で。
「そうでありますな! はっはっは!」
 大きく笑って、気持ちよさそうにディーナの膝の上で丸くなった。


 マリィアはチューダに話しかけていた。
「十体のチューダを独り占めして愛でたいって思うのはごく普通のことよね。だから、私は他のチューダを手に入れたハンターに後ろから近づいて撃ち殺したの。そしてその人が持っていたチューダの一体を捕まえようとしたら、消えちゃったわ。……しょうがないから、他の全員も撃ち殺して、全部のチューダを回収することにしたの」
 随分物騒な話である。チューダはぶるぶる震えながら、その話を聞いていた。
「……でも駄目。全員撃ち殺したら、他のチューダも全部消えて、わたしのチューダだけになっちゃった。それで思ったのよ、なんだ、他のチューダは全部幻だったのね、って。それじゃあしょうがないから諦めたの。だって、幻をありがたがって殺されるなんて馬鹿みたいじゃない?」
 マリィアはそう言いながら苦笑した。一歩間違えれば、自分が被害者でもおかしくない――そんな夢なのだから。
「……まあそんな、とんでもなくダークな夢を見たのよ。幻獣成分が不足しすぎたからだと思うわ、はぁぁ」
 こちらも幻獣成分の不足で禁断症状が出ていた模様である。そうでもなければ、そんな物騒な夢を見るわけもない。思わずそんな自分に呆れてため息が出る。まあ、夢見の悪さで、きょうは普通のハンター稼業は休憩。チューダの面倒を見る方が、うんと癒されるのだから。
「それは災難でありましたな……とりあえず我輩を愛でて、少し休憩するといいのであります」
 既にハニーナッツという甘い餌(物理)につられて、薄気味の悪い話を聞かせてもらっていたわけだし、そんな精神状態の人間をほうっておくわけにもいかない。それが、幻獣王の役目のひとつであるとも言えるのだから。
「嗚呼、でも折角遊びに来てくれたのに、一日私のため息をきかせてばっかでいてもしょうがないわよね。……それじゃあ、チューダの可愛さ布教の行脚でも始めましょうか」
「我輩の可愛さ、でありますか?」
 マリィアに言われ、首をひねるチューダ。まあ、かんたんに言えば外出してチューダの存在を示す、というのが主な目的だ。気分転換も兼ねて、お気に入りの喫茶店に入ると、ミルクティとサンドイッチを注文する。チューダもご相伴にあずかっていると、年若い少女達が興味深そうに近づいてきた。どうやら、ここにチューダがいることを喧伝してもらっていたらしい。幻獣なんて見慣れないリゼリオの一般市民は、愛くるしいチューダの見た目に思わず胸をわしづかみされたような気分にもなる。そしてそうやって可愛がられるチューダを見て、マリィアも笑みを浮かべるのだ。
「幻獣がこんなに身近にいて、自分たちを受け入れてくれて、同時に受け入れられて……。そう言う循環が都市部では不足していたと思うの。そう言う点で、チューダは今、相互理解の為の立派な広告塔になってるわ。頑張って」
 そう言ってまたナッツをくれるマリィア。子どもたちも興味深げにチューダとやりとりしている。それがなんだか楽しくて、チューダもにこにこ笑っていた。


 その頃ノワは。
「まずは健康診断ですよー!」
 そう言って、様々な検査機材を用意していた。ふだんから不摂生だったり運動不足だったりというのが心配だ、というハンター仲間の声もきいている。ハンターからの人気ナンバーワンでもあるチューダに万が一のことが会ったらきっと悲しむ者も多いに違いない。
「健康診断……でありますか……」
 気乗りしないような声を出すチューダ。
「でも、ここで健康と言うことがはっきり判れば、今まで以上に美味しいものが食べ放題で来ちゃいますよ!」
 ノワ、おだてるのも上手い。その言葉を信じ切ったチューダ。俄然やる気になっているのが見え見えだった。
 健康診断の項目は、人間のそれとほとんど大差がない。
 身長、体重はもちろんのこと、血圧や視力、肺など、かなり細かい項目を調べていく。途中でだれてしまわないように、終わったらおいしいと評判のお菓子をあげる、という餌をつけているあたりも、策士のにおいがぷんぷんである。
「もちろん、食べる前には特製の胃に優しいお薬もどうぞ! 副作用はありませんよ、安心して下さい」
 ノワの渡した薬は、なるほど、人間には副作用のない物だろう。ただし、げんじゅうにたいしてのじっけんはおこなっていないので、結果がどうなるかは分かった物ではない。
 そして健康診断も一通り終わってホット休憩タイム……なのだが。
「あ、いけない! 採血検査を忘れていました!」
 そう言ってノワが取り出したのは――まるでコントのようなでっかい注射器。そんなものをまのあたりにしたチューダは、当然かも知れないが、硬直してしまう。
「の、ノワ……それでなにをするでありますか……?」
 声が震えるチューダに、ノワはにっこりと笑って、
「採血だよ」
 大事なことなのでもう一回言った。
「まずは腕の消毒しないと……アルコールのアレルギーとか、ないですよね? ちょっとちくっとしますけど、いいですかー?」
 がたっと大きな音を立てて、チューダは逃げ出した。
「……逃げちゃ駄目です、チューダ様!! チューダさまー!?」
 この状況で逃げるなと言われて逃げない方が難しい。
 ある意味正しい選択なのだが……ノワは急いで追いかける。それはもう、嬉しそうに、目を輝かせて。


「ねえ……先生。何処へ行きましょうか」
 雪都にそう呼ばれ、チューダは一瞬目をぱちくりさせた。
 幻獣王を名乗りはするものの、誰かの師となった記憶はとりあえずない。しかし雪都はチューダのことを尊敬の籠もった瞳で見つめている……気がする。
「そうでありますなぁ……とりあえずは街をぶらついてみたいのであります」
 チューダはまあ特に気にもしていない、という顔でてってこと歩き出す。雪都はその様子を、まぶしそうに眺めながら、追いかけるのだった。
「それにしても、先生と呼ばれるのはくすぐったいのであります」
「俺は先生をそう認識しているから、それでいいんです」
「ま、まあ、呼ぶだけならかまわないでありますが……」
 単純なチューダである、そう言われて嬉しくないわけがない。
「嗚呼、先生、俺がだっこしましょうか」
 雪都がそっとチューダを抱きかかえると、ふわっと柔らかな温もり。こういう特徴が「かわいい」と呼ばれる由縁なのだろう、と、雪都も理解できる。かわいいは正義、なんて言葉もあるが、どちらかというとチューダは癒やし系の要素も混じっているのだ。
(先生についての情報は、事前に調べておいたんだけれど……)
 それによれば、膝枕や食べものを口に運んでもらっている……らしい。どれもハードルが高い気もするが、ためしてみる価値はありそうだ。雪都は手近にあったクッキーをチューダの前に差し出すと、チューダは喜んでそれを口に含んだ。チューダは嬉しそうにそれを口に含むと、あっという間にクッキーは姿を消していた。流石食欲旺盛と言うだけある。
「……そういえばどうしたでありますか? さっきから、我輩をえらく見つめておりますが」
「いいえ。ちょっと考え事をしていただけです」
 いいながら、チューダの一挙手一投足で気になったことはメモ書きしていく。どんな些細なことでも、気になることは記録しておきたいと思うから。
「さっきは、そういえば、お菓子を三口で食べていた。先生の食欲が旺盛なのは、それだけでも推測できます。平均してだいたい四.五口……しかも瞬く間に平らげていた……いや、先生の自分を持ったまま気ままに生きるその生き方が、俺のこれからのヒントになるかも知れないって思ったんで……」
 照れくさそうに答える雪都。するとチューダもどこか嬉しそうに、
「我輩を目標にして、がんばるでありますよ……!」
 そう言って、雪都の肩を軽く撫でた。こう見えて、気配りを忘れないタイプなのだ。
(ああ、でもきっと)
 雪都はぼんやりと思う。
(こういう心がけがあるから、先生は誰からも好かれる……ポジティブ、なんだ)
 その真相は定かでないが。雪都の結論は、だいぶ固まったようだ。


 そんなこんなで、チューダと一日すごしたハンターたち。
 それぞれの胸には、チューダとの楽しくて愉快で、そして夢のような思い出が残ったことだろう。
 ――目が覚めても、ずっとずっと。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ドキドキ実験わんこ
    ノワ(ka3572
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • チューダの弟子
    雪都(ka6604
    人間(蒼)|19才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/03 09:19:35