• 幻洞

【幻洞】夾雑なカケラ

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/01/18 09:00
完成日
2017/01/25 06:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境ドワーフの城『ヴェドル』へ戻っていたカペラが辺境要塞『ノアーラ・クンタウ』へ来た。
 とりあえずは、辺境要塞内にあるドワーフ工房『ド・ウェルク』へ行き、現状を伝えなければとカペラは思い立つ。
 工房管理官であるアルフェッカ・ユヴェーレンの執務室へと向かっていた。
 途中でクレムトとフェルツのそれぞれのリーダーへ声をかけると当たり前のようにシェダルとフォニケが出てくる。
 それぞれのリーダーは職人気質であり、調整役としてこういった作業を古株のシェダルとフォニケに押し付けているのだ。
「ですよね」
 カペラが乾いた笑いで言えば、二人は「いつものこと」と投げてきた。
 三人が合流してアルフェッカの執務室へと戻る。
「カペラちゃん、お帰り。なんかあったでしょ」
 入るなりアルフェッカが言えば、カペラは「空気の読みっぷりは相変わらずね」と返す。
 素直にカペラが『ヴェドル』で何が起きたかを告げると、カペラ以外の面子が頭を抱えた。
「ああああああ、あのオッサン、何てことしてくれるんだ!」
 誰もが言いたいことをアルフェッカが代弁してくれた。
 目の前に娘がいるというのに何一つとして遠慮しない物言いの方がカペラにとってありがたかった。
 正直な話、ヴェルナーからの具申とはいえ、魔導アーマーを帝国が出してくれる可能性は半々と考えていた。
 しかし、ヴェルナーは魔導アーマーの貸与許可を帝国から持ってきた。
 ヴェルナーの手腕、人格を認めている者が多い工房の者達からは大喜びだったが、その魔導アーマーは無残にも改造されていた。
 まさかとは思っていたが、帝国から貸与されたものを改造した後とは。
 ヨアキムとしては何も考えてない馬鹿であるが、仕事は早い。

 そんな折に、採掘場からカペラより連絡が入った。
「変な鉱物?」
 顔をしかめるカペラ達であるが、現場のドワーフ達は気になるばかりだという。
「頭に聞いたら、見に行けって」
「同じく」
 フォニケとシェダルがフェルツとクレムトのリーダーに話をしたら、二人とも見に行けと言われた模様。
「ま、工房の方は俺がやっとくよ。三人とも、宜しく」
 ひらひらと手を振るアルフェッカは何かを思い出す。
「もう一体、魔導アーマーあるでしょ。あれも持って行って」
 そう言って声を投げた。


 採掘場へ入ったカペラたちが見たパーツは異様なものだった。
 鉱物であるものの、形は見知ったものとは違っている。
 土は現場のドワーフ達の手で出来る限り取り除かれているが、それは掘り出される鉱物というよりも、何かの部品のようにも見える。
「大きいわね」
 カペラが告げた最初の感想は誰もが同じものだ。
 掘り当てたドワーフは「大物だ」と大喜びをしていたのだが、何か違うと分かった瞬間のしょんぼりぶりはひどかったと報告があった。
「これ、大鎌というより、虫の手みたい」
 フォニケが指をさした鉱物のようなものはまるでカマキリの手のようなもの。湾曲した部分には刃のような鋭さがある。
「こんな角っぽいのつけた虫、実家の木の周辺にいた気がする」
 もう一つの方に興味を示したのはシェダルだった。
 少し反りが入っているようなこげ茶色の棒状のようなものであり、リアルブルーのある地域の者が見たらカブトムシの角というかもしれない。
「どれも大きいわね」
「つか、この鎌っぽいの、魔導アーマーに腕に差せそうじゃね?」
 ぽそりと呟くシェダルにカペラが「いいわね」と返す。
「姫!?」
「カペラちゃん!?」
 ドワーフやフォニケが驚く中、カペラは腹を決めたような顔をする。
「だって、お父さんがやったあとだもの。思い切ってやるしかないわ」
 フンスと、手を腰に当ててカペラはやる気を見せる。
「オイマト族へ情報共有と協力要請を出したの。ハンターと一緒にやってくれるって」
 カペラの言葉に全員は納得した。
 彼らなら上手くやってくれるだろうが、不服そうなのが一人。
「オイマト族だけ、ずっるーーーい!」
 大きな不服の声を上げたフォニケが本音を叫ぶ。
 お前、いくつだ。
「ハンターはお前の遊び相手じゃねぇよ。そもそも、カペラが大首長に協力要請の手紙出しただけだろ」
「何言ってんの! ハンターの皆は頼りにしてるわ!」
 呆れるシェダルにフォニケは真面目に返す。
「ま、ま、採掘場に最近雑魔だか、獣だかわからないのがいるぽいの。実験と一緒に警備もお願いしましょ」
 軽い口調でなだめるカペラはハンターオフィスへ依頼を出した。

◆◆◆

 暗い中で声が響く。
「あぁあああああ!? なんっっだってんだよ! こんちくしょぉおおお!」
 驚きの声は誰かに聞かれるわけもなく、声の主はその状態を見て、ピーチクパーチク騒いでいた。

リプレイ本文

 ハンターオフィスの依頼に応じたハンター達は目の前にあるパーツを目の当たりにした。
「本当に昆虫だな」
 素直な感想を述べるのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だ。
 クリムゾンウェストにも昆虫はいるが、目の前のパーツはリアルブルーでいうところのカマキリやカブトムシに似ている。
「いっぺんにつけてるから、ちぐはぐだね」
 素直な時音 ざくろ(ka1250)のコメントに全員が確かにと思う。
 これで魔導アーマーが動物のような恰好をしたものであれば、まるでグリフォンやキメラのようである。
「また会えたわね」
 カペラが声をかけたのはオウガ(ka2124)だった。
「ああ、そうだったな」
 以前、要塞が歪虚に襲撃された際にファリフが守りに来てくれた時に会ったハンターの一人だ。
「妙な縁でごめんねー」
「ま、いいんじゃねぇの」
 のんびりとした様子のオウガもそこそこに、カペラの興味は一部のハンター達が連れてきた魔導アーマーにあった。
「名前とかあるの?」
「まだない。カッコいいやつつけたいんだけどな」
 愛機を見上げるオウガにカペラは「見つかるといいわね」と笑う。
 その横でシェダルと話をしていたのは久延毘 大二郎(ka1771)だ。
「ほう、リアルブルーの学者か」
「考古学を専攻していた」
 シェダルとしては大二郎のような専門分野に長けたハンターの参加は嬉しかったが、困ったような様子を見せる。
「この辺りは基本、辺境ドワーフの土地で、地質の調査結果なんかありゃしないんだ」
「そうであろう。あれば御の字程度だ」
 しかも、現在の辺境ドワーフを束ねるのはあのヨアキムだ。
「なんにせよ、地中から出てきた発掘物である事には変わらない。解明への道筋までは必ず掴んでやる。この私の考古学者としての矜持に賭けてな」
 この件は知的好奇心を満たすだろうと本能で感じ取った大二郎はにやり、と笑う。
 ラティナ・スランザール(ka3839)は見かけた顔を見つけ、声をかける。
「元気そうね。彼らも元気?」
「ああ、皆元気だ」
 フォニケが言葉を返すと、彼は頷いた。
「バグラバは食べられたのかしら?」
 小声でフォニケに問われ、ラティナは「ああ」と返す。
「そう、頑張って」
 にっこり笑うフォニケにラティナは「バレている」と心の中で警戒する。
 アティ(ka2729)がパーツを見上げる。一見化石かと思ってしまう。
「結局、これは何なのかしら……」
「これからそれを確かめるのだ」
 大二郎はちらりと、見上げて言葉を返した。


 一度、パーツを魔導アーマーより外して地面に置く。
 さて、どうしようかと悩むと、数名のハンターの視線がオウガの雷鎚「ミョルニル」へ向けられる。
「ん? 叩くか?」
「そうね」
 オウガの言葉にフォニケが同意する。
「普通の金槌からにするか」
 初めにハンターの武器を使うよりは、まずは金槌でとグリムバルドがどこにあるんだと問う。
「これを使え」
 シェダルが腰につけている工具袋から金槌を取り出して近くのグリムバルドに渡す。
「押さえてるよー」
 ざくろがカブトムシの角の端を持っていると、フォニケが皮手袋をざくろの目の前に差し出す。
「昆虫みたいなパーツだけど、金属だから振動で骨にくるわよ」
「ありがとう」
 勧められたざくろは素直に手袋を嵌める。使い慣れている皮手袋は温かくて柔らかい。その反対側をオウガが押さえている。こちらはシェダルのを借りた模様。
「いくぞ」
 グリムバルドが軽く一度叩く。
 金属音がするが、傷はついていないようだった。
「もう一度いくぞ」
「強めに叩いてくれ」
 シェダルのオーダーにグリムバルドは応じて強く叩くと、衝撃がざくろとオウガに届く。
「思いっきりやって」
 フォニケが言えば、グリムバルドは金槌を持つ腕を思いっきり振り下ろした。
 ガッっとした音がしたが、パーツには一切の傷がなかった。
 衝撃を受け止めるざくろとオウガ、金槌で叩いたグリムバルドの方が衝撃がいってしまい、痺れてしまっている。
「頑丈ね……」
 想像以上の硬度にアティが呆れたように言う。そっと、触れてみれば、確かに金属だ。
「何かの混合物なのかな……接続部分とか見れば、他の金属でメッキ加工みたいな感じでもないし……」
「メッキ加工?」
 ざくろが接続部分を持ち上げて呟けば、シェダルが反応する。グリムバルドがリアルブルーの技術であることを簡素に説明すると、シェダルは思い当る技法になるほどと頷いた。

 一方、大二郎はカペラと数人のドワーフと共に掘り出された場所へと向かっていた。
 鉱山の中の通路は人一人どころか、魔導アーマーやCAMくらいなら歩けるほどの高さがあり、でこぼこ道であるが、道も整備されている。
「鉱山の中で陥没事故が起きたという話はあるか?」
 歩きながら大二郎がカペラに問う。
「基本的には崩れたという事故はないと聞いているわ。ただ、調子に乗って掘りすぎて下の階層に落ちたという話は聞いたことがある」
「……ナシでいいであろう」
 強欲なドワーフらしいオチに大二郎は見切りをつける。
「このあたりと聞いたわ」
 カペラが言えば、大二郎は周囲を見回す。
 特に地層の分かれ目というわけではないが、かなり昔の辺りだろう。
「そういえば、この世界には古代の王国があったと聞くが」
「伝承によれば、歪虚に滅ぼされたって話だけど」
 大二郎の問いにカペラは記憶をたどる。
「辺境はいつだって戦いの最前線よ。人も、ドワーフもエルフもない。皆戦っている」
 ため息まじりに呟くカペラは坑道を見上げる。
「あの形状は現在のクリムゾンウェストの加工技術でも再現できる物なのかね?」
 大二郎はドワーフの肩を借りて立って壁を削って柔らかさを確認しだす。
「鋳型ってことならできるけど、問題は素材」
 カペラが答えると、大二郎が「そうか」と返す。
「今回見つかったパーツがどう、落とされただが……カペラ君の意見の通り戦場だった可能性が大いにあるであろう」
「古代の技術に関する資料ってないのよ」
 肩を竦めるカペラに大二郎はふむと考える。
「この世界にもオーパーツが存在するということか」
 大二郎の呟きにカペラがきょとんと、目を瞬くと、リアルブルーの知識だったことを思い出し、説明をすると納得した。

 採掘場前では、実際に使って見ることにした。
「で、他の魔導アーマーやCAMに付けられるように簡易ジョイントを作ったんだけど、つけてみたい?」
 フォニケの言葉にハンター達が反応する。
「つけてみたい!」
「まじでか!」
 くじ引きで順番を決めて取り付けた。まずはオウガからだった。
 ジョイントをつけている最中、ざくろは魔導アーマーの動かし方のレクチャーを受けていた。
 初めての操縦ともあり、緊張した様子のざくろだが、真面目な姿勢でぎこちない動きながらも、コツはなんとなく掴めたようである。
 初めて乗る魔導アーマーがヨアキムに好き放題改造されたものというので少々可哀そうではあるというのが、ドワーフ工房のメンバーの総意だ。
 レクチャーが終わると、ざくろは少し疲れたようだが、満足そうである。
「それでは、引き付けに参ります」
「魔導短伝話、かけるわねー」
 用意や休憩が終わると、アティがリーリーのモーリスに乗る。アティがモーリスの首をそっと触れると、モーリスは軽やかに駆け出した。
 フォニケが叫ぶと、オウガのヘイムダルの腕が上がる。了解という意味だろう。
 採掘場の周囲は山ともあって足場が悪いが、リーリーは健脚と足先の爪で岩山だろうとも容易く駆けていく。
 モーリスはぴたりと止まり、周囲を窺わせており、アティもモーリスの様子に気づいて周囲を見回す。
 美しい鳥は時として獣の腹を満たそうとする獲物となりえる。
 冬時期の獣の半数は冬眠の時期だが、辺境ともあってか、腹を空かせて眠れない獣もいるか、もしくは雑魔の類かもしれない。
 ゆっくりとその気配を待つアティは魔導短伝話をかける。
「かかりました」
 暫し待つと、フォニケの声が聞こえ、アティは状況を伝えた。
『了解、皆に伝えるわ』
 通話を終えると、気配が動き出す様子にモーリスが警戒の様子を見せた。
「戻ります」
 アティの言葉にモーリスは即座に対応して、くるりと踵を返して走り出す。
 振り向いたアティが見たのは、鹿が二体と、狼が二体。
 モーリスにしがみつきながら、アティは続報を入れた。
 繋ぎ役のフォニケが誘導成功の知らせを受けた残りのハンター達はそれぞれのやる気を見せている。
「よーっし、やるぞー!」
 気合十分なオウガは操縦席で会敵を待っていた。
 彼の魔導アーマーの頭部には謎パーツのカブトムシの角があった。簡易ジョイントは頭部に巻き付けるようなバンド式だ。
「緊張するな……」
 ヨアキム改造の魔導アーマーに乗ったざくろが緊張で早まる鼓動に大きく深呼吸をした。
 まず、フォニケが戻ってきた。
 彼女は乗り物には乗っていなく、全速力で走ってくる。
 それから程なくしてアティが乗っているリーリーの姿が見えた。岩を軽々と越えるリーリーが戦闘の邪魔にならないように横へ跳ぶ。
「来るな」
 グリムバルドもまた、魔導アーマーに乗って敵を待っている。
 雑魔が逃げないようにこちらのフィールドに閉じ込めるように彼の機体が動いていく。
「……思ったより足場が悪いな」
 転倒の可能性もあり得ると判断したグリムバルドは足の動きに注意を向ける。
 こんな時にジェットブーツが魔導アーマーにも使えたらいいのにと思うが、敵はもうこちらのフィールドに入ってきていた。
「お、随分肉付きのよさそうな奴だな」
 鹿が跳躍して飛び込んでくると、ラティナが食肉としていいものだとまず喜ぶ。
「まずは……って、あれか! 鹿の跳躍力じゃ、屈まないと無理か!?」
 はっと、気づいたオウガが声を上げる。
「オウガ! 頭振り下ろせ!」
 シェダルが弓でオウガの近くにいる鹿を跳躍するように矢を放っていた。
「おう!」
 タイミングを計り、跳躍した鹿に合わせてオウガが頭を振り下ろす。
 カブトムシの角パーツは鹿の頭上へ下ろされ、鹿の角ごと頭を砕き、胴体を地へ叩き落した。
 角が砕かれ、頭があらぬ方向へ折られた鹿はそのまま動かない。
「すっげぇ……」
 あまりの衝撃にグリムバルドは目を丸くするが、狼がこちらに来ていることは気づいており、ヴェルガンドが手にしているアルケミックギアブレイドで胴体を真っ二つにした。
「あんな無茶したのに、やっぱり傷ついてないよな……そのまま持って殴ったり突いたりしても問題ないんじゃないか?」
 ぽつりと呟くグリムバルドは持って戦おうと決めた。
 一方、ラティナにフォローされつつ、ざくろは操縦に集中していた。
 ハンターで魔導アーマー所有者の話を聞くと、ヨアキム改造の魔導アーマーの操縦は思ったより癖がないという感想があった。
 アクが強い話しか流れてこないヨアキムだが、操縦席は座り心地が良くて振動もあまりない。
 ペダルをもう一度踏もうとした時、がくんと、右前脚が沈む。
「わ」
 驚いて声を出したざくろは無意識に別のレバーを手でひっかけてしまうと、沈んだ足が真っすぐ伸びて、狼を蹴り上げたような形になる。
「へ」
 きょとんとしたざくろの操縦席の目線まで蹴り上げられた狼の姿があり、狼はそのまま地面に叩きつけられる。
「……すごい!」
 必殺技を言う暇はなかったが、ざくろの初搭乗は楽しいものとなった。
 その間に大二郎とカペラが戻っており、カペラはゴーグルでぼさぼさの前髪を上げて大きな瞳を見開いている。
「……いつの間にかに仕込まれた改造であろう」
 ジト目の大二郎はとりあえず察した。
「後で、どうしたのか教えてもらわなきゃ……」
 びっくり箱のような父親はカペラから見てまだまだすべてを見通せない模様。

 鹿と狼を倒した後、パーツを変える。
 角はグリムバルドの魔導アーマーヴェルガンドへ取り付けようとした工房のメンバーに待ったをかけた。
「そのまま持って戦ってみたいんだが」
 角としてつけても、対獣系雑魔相手では動きにくいとオウガが感想を言っていた。
「わかったわ。殴打しても壊れなさそうだしね」
 思いっきりやっちゃいなさいなとフォニケが笑う。
「俺のVararimにつけてくれ」
 最初はヨアキム改造魔導アーマーに乗ろうと考えていたが、何が仕込まれているのかと考えると、自分の魔導アーマーにつけた方がいいと判断したのは賢明な考えだ。
「騒ぎに気づかれた模様です」
 誘導しようとしていたアティがモーリスに乗ってすぐに戻ってきた。
「だったら、早く終わらせよう」
 グリムバルドは別の形での実験もしてみたいので、すぐに前に出る。
 機体を屈ませて、角を持った腕を低く滑らせ、熊型雑魔の足の間に滑らせて、足を引っかけて転がらせた。
 先ほどの鹿の角、屈強な熊でもあっさりと足は砕けるほどの強度を持つ金属がクリムゾンウェストに存在するとはと、ラティナはグリムバルドの方を見て目を細める。
 ラティナの魔導アーマー、Vararimの手の部分に着けられている簡易ジョイントにはカマキリの鎌がつけられていた。
 刃の部分は存在しているが、ツルハシのようにも思え、突くという用途がいいのかもしれないとラティナは思う。
 フォニケやシェダルは研いでみようかと考えているようであった。
 ラティナの方へ向かってくる獣は鹿型であった。
 これで三体目の鹿であり、この鹿も身は残したい。出来るだけ、身体を傷つけないように頭部を狙う。
 飛び込む鹿の頭を捕えたラティナはそのまま腕を振り下ろしたが、あっと思い出した。
 角と同じ金属でできているだろうならば、鎌の切っ先と魔導アーマーの荷重などを考えても、頭を砕くのではと思った。
「やはり砕いてしまいましたね」
「でも、可食部分は無事よ!」
 冷静に眺めるアティの隣で親指を立てたフォニケがいた。
 その後、手近な岩を使って鎌や角を突き立てると、容易にひびが入る。本体はやはり傷がついてない。
「あ、試してみたい奥義があるんだ」
 オウガが提案したのは霊闘士の奥義の一つ、深淵の声だ。
 人間あるいは動物の遺体より思念を読み取る技。
 オウガは膝をつき、二つのパーツそれぞれの思念を読み取ろうとするが、パーツは反応しなかった。
「無機物のようですね」
「そうみたいだな」
 アティが呟けば、オウガが立ち上がる。
「しかし、こんなもの、いつ作られたんだ……」
 ため息混じりにグリムバルドが呟いた。思案してても仕方ないと思っていると、漂う肉の焼ける匂いに空腹であることを思い出した。
 太陽はもう地平線に飛び込んでおり、空は暗くなっている。


「お肉、焼けたわよー!」
 カペラがどんどん食べてとハンター達に声をかける。
 そうでなければ、採掘場にいるドワーフ達に食べられてしまうからだ。
「グレービーソースみたいだ」
 辺境の味付けは基本塩味だが、皿の上に肉と共にかけられたソースはリアルブルーでいうところのグレービーソースのようなものだった。
「美味しい」
 野菜の優しい甘みが特徴のソースで中々に好評だった。
 どうやら、フォニケが今回の為に玉ねぎなどの材料を買いこんで持ってきていた。
「作るのはやっぱりシェダルなんだな」
「いつもの事だ」
 ラティナが言えば、シェダルはスープのなべ底をぐるぐるかき混ぜていた。
「しかし、分かったのは軽く百年は前の代物ということであるが……」
 他にもパーツが埋もれている可能性を大二郎が示唆する。
「ええ、そうですね」
 ばらばらとなったパーツだけが出てきたとなれば、その当時の戦いは敗れたものだったかもしれない。
 アティは大二郎の言葉に同意し、温かいスープを一口飲む。
「オウガさんの調べでは、無機物ということでしたが、あのパーツが動いている当時はどんな世界だったのでしょうね」
 視線の先に横たわるカブトムシとカマキリのパーツをアティは真っすぐ見つめていた。

 夕食のあと、地下の詰所でハンター達は休んでいた。
 ラティナが立ち上がり、出口の方へと歩いていく。
「見まわってくる」
「ざくろも付き合うよ」
 ぴょこっと、ざくろが座っていた椅子から跳ねるように立ち上がる。
「頼む」
「気を付けて」
 カペラが気をかけると、二人は頷いた。

 夜になれば、気温は低くなり地下とはいえ、冷える。
「寒いなぁ」
「戻ったら、温かい飲み物を貰うか」
 そうだねと二人は借り物のカンテラを掲げて周囲を窺う。
 夜の帳が落ちた空に三日月が浮かんでいた。
「マンティスサイズみたい」
「なんだそれは」
 見上げるざくろの呟きにラティナが反応する。
「謎パーツのカマキリの鎌の名前だよ。角の方はメカブトホーン!」
 いつの間につけたんだかとラティナがくつくつ笑うと、声が聞こえたような気がする。
「ラティナ?」
 ざくろがラティナの様子に気づき、声をかけた。
「何か聞こえないか」
 そう言われると音が聞こえる。
「行ってみよう!」
 二人が駆け出した先は、ハンター達が持ってきている魔導アーマーやリーリーがいる場所。
 近づくにつれて、リーリーの鳴き声が聞こえる。
 ラティナは即座に魔導短伝話でアティへかけた。
 通話の向こうのアティはすぐに向かいますと告げて通話を切った。
 鋭敏視覚をもったラティナが見慣れない影を見つける。
「何をしている!」
 ラティナが叫ぶと、その見慣れない影がハンター達の方へと向けられた。
 目の前にあるのは『魔導アーマーのようなもの』だった。ただ違うのは、それが人型のようなかたちではなく、カマキリの姿に似ていたのだ。
 その腕は先ほど、ざくろが名付けたマンティスサイズと似たものでありというか、同型ではないのかと本能で察知してしまう。
「なんでお前はマンティスサイズと同じ腕をしてるんだ!」
 ざくろが叫ぶと、カマキリ型魔導アーマーは腕をぶんぶん振っては何かをアピールしているようだった。
 アピールするとすれば……。
「怒ってるのか」
 怪訝そうな顔をしたグリムバルドが呟く。
「モーリス!」
 アティがモーリスを呼ぶと、応えるように甲高く一度鳴いた。
 モーリスへ駆け寄ったアティはそのまま乗って、カマキリ型魔導アーマーへ駆け出す。
 カマキリ型魔導アーマーはアティとモーリスの動きに誘導されるようにハンターの魔導アーマーから離れだす。
 即座に魔導アーマーに乗り出したのはオウガとラティナ。
 二人はカマキリ型魔導アーマーを両脇から取り押さえるべく、動き出す。
「あのカマキリの鎌と同型の可能性か?」
 ぽつりと可能性を示唆した大二郎がアイスボルトを発動させるが、その効果は薄かった。
「仕方あるまい」
 呟いた大二郎はワンド「アブルリー」を振るって空間に青白いガスを発動させる。
 一瞬だけ雲状に広がったガスはカマキリ型魔導アーマーを包み、一瞬だけ動きが鈍ったような様子を見せた。
 取り押さえられるかと思った瞬間、カマキリ型魔導アーマーのハッチが開かれる。
「ごぉるぁあああああああ! てめーら、ヒトのもん、勝手に取りつけてんじゃねぇよ! こぉんのっ、ばろっちきしょーめ!」
 凄まじく巻き舌の江戸っ子っぽい声が辺りに響く。

「とり……」

 誰かがそう呟いた。
 カマキリ型魔導アーマーから、メガネ付き飛行帽を付けたふわっふわ羽のラブリーな鳥が頭を出してきたのだ。
 しかし、その口調は江戸っ子。『し』と『ひ』の区別がつかない発音をしている。
「トリじゃねぇよ! こちとら、テルルってぇ、名前があるんだ! 覚えとけぇええ!」
 威勢よく叫ぶ鳥を見て、誰かが「チューダの仲間か」と呟いたが、テルルには届かなかった。
 何とかテルルを落ち着かせて、幻獣であることをハンター達は知ることになる。

依頼結果

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MVP一覧

  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎ka1771
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザールka3839

重体一覧

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    シーバ
    シーバ(ka2124unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    モーリス
    モーリス(ka2729unit001
    ユニット|幻獣
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザール(ka3839
    ドワーフ|19才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヴァラリム
    Vararim(ka3839unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヴェルガンド
    ヴェルガンド(ka4409unit001
    ユニット|魔導アーマー

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
久延毘 大二郎(ka1771
人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/01/17 08:45:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/17 08:29:23