• 万節

【万節】交易が運ぶ万霊節

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/15 07:30
完成日
2014/10/23 06:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「も、もうダメ……」
 ミネアは青い顔をして呟いた。テーブルの上には大きなの料理皿が数枚空になっている。いずれの皿も洗う手間がいらないほどに綺麗に食べたのは片付ける手間を知っている料理人ならではの性。
「あら、すごい。こんなに綺麗に食べちゃって!! 躾が行き届いているのね~。おばさん、料理を出すのが嬉しくなるわ! サービスで肉大盛りにしたからね」
 料理を運んできた女将はミネアの綺麗な食べ方に驚きの賞賛を送りつつ新たな料理をミネアの前に置いた。それを見てミネアはテーブルに突っ伏した。
 事の原因はミネアが勤めてきた料理屋が閉店したことに始まった。店主がもう歳だから続けられない、と突然切り出され、ミネアは職を失うことになった。そのストレスを発散すべく、万霊節で賑わうピースホライズンへの道中から延々ヤケ食いしてやる! と息巻いた結果。
 ポテトサラダに始まり、ガレット、芋のスープ、芋を蒸かしたの、芋を揚げたの、芋の潰したの、芋、いも、イモ、imo……。そしてメインディッシュには溢れんばかりのジンギスカン。旅行一日目にしてミネアのヤケ食いは地獄の局面を迎えていた。
 これがまだ味付けに工夫があれば食べすすめもしたのだろうが残念なことに全部味が同じなのである。今出されたジンギスカンも多分、塩でしか味付けしていない。いや、様々な工夫をこらして調理されているのだが、食材や調味料の種類が極めて少ないのがありありと判る。
 帝国はメシマズだという噂を今頃になってミネアは思い出した。リゼリオのご飯が恋しい。
「あの……イモと肉以外の料理……ないんですか? ほ、ほら、今万霊節だし、カボチャとかおやつとかあると楽しくなるかなーって」
 息も絶え絶えにミネアは女将に問いかけた。甘いものは別腹。というかそれを食べずして万霊節の気分を味わうなどできない。
「ああ、そうね。せっかくの万霊節らしいことしなきゃね。うんうん、じゃ、おやつ作ってあげるわね。子供たちがみんな大好きなヤツ!」
「ほ、ほんとですか!? やった! Trick and Treat!!」
 歓喜してお決まりの文句を叫んだミネアの前に出てきたのは……山盛りのフライドポテトだった。
 ミネアは撃沈した。

「やっぱりイモばっかりだと栄養も偏るわよね。同じものばかり食べてると外に飛び出たいって思う人もそれなりにいると思うのね。帝国の改革は食事から。なんていうのもいいんじゃないかしら。これなら兵士も民衆も分け隔てなく喜んでもらえると思うの。万霊節とかもっと華やかになると思うし、みんな喜んでくれるわ」
 ミネアは不意に飛び込んできたその言葉でテーブルから頭を上げた。どうやら話の主は隣のテーブルに座っている女性のようだ。言葉の感じは帝国らしいが、質実剛健を旨とする帝国の人間とは少し違った柔らかな印象。話の内容からしてお偉方なのだろうか。
「ですが、新たな作物を定着させるとなると10年単位の計画が必要ですぞ」
 え、この人達、種まくところから考えてる?
 ミネアはぎょっとした。普通、食材を手に入れるなら商人にあたるだろうに、よりによって作付けから考えるとは。
「そうなのよね、帝国の土にはジャガイモが一番適しているって長年の農家さんたちの経験で培われてきたようなものだし」
「うーむ、やはり現実的では……」
「あの、ピースホライズンとかにいる交易商にジャガイモを卸して、そのお金で違う食材を搬入してもらえばいいんじゃ? ジャガイモは日持ちするし、加工しやすいし、保存食加工とかにすればリゼリオとかでも売れますよ。きっと」
 なんだか考え込む女性と太った男の間にミネアは思わず口を挟んでしまった。一瞬、きょとんとした目でミネアのことを見つめた二人は、続いてお互いの顔を見合わせて頷く。
「なるほど。特産品の加工販売なら外貨を獲得できますな。イモだけでなく羊なら羊毛の加工した毛織物なら地方が強いでしょう。専門性を高めれば高く売れるかもしれません。地方の良い産業になるかもしれませんな」
「旅人さん。頭いい! 流通に詳しいのね?」
 キラキラとした瞳で手を握る女性に対して、ミネアははにかんだ笑みを浮かべた。
「ええ、まぁ。ちょっと前まで料理店で働いてたから食材の買い付けとかしてたんで……お店、閉店になっちゃったけど……」
 自分で説明しておきながら、今仕事がないという事実を思い出すことを口走ってしまい、ミネアはどんよりとした空気を作り出した。ちょっとしたトラウマだ。
 そんな様子を見て取った女性は、あのぅ、と声をかけた。
「わたし達、事情で帝国からは離れられないし、商業はあまり詳しくないのね。準備はしますからピースホライズンで買い付けしてもらってもいいですか? それで、この辺りの町村に卸してほしいの」
「は、ふぇ?」
 唐突の依頼にミネアは硬直した。
「帝国の食卓が少し寂しいのはお気づきだと思うんです。万霊節だっていうのにお菓子を作る食材もあまりなくて世界の動きから孤立している所は、王国や同盟と比べるとずっと多いと思うんです。地方にいる人達はそんなことに自分たちは置いていかれてるって不安があるんです。特に若い人は。だから地方でも希望がある。見てくれる人がいる。そんな風にする為の足がかりとして、近くの町村に交易をしてほしいんです」
「え、でも。ギルドとかあるんじゃないですか? それに専業の人の方が……」
 あたふたとするミネアに対して、太った男の方がその戸惑いに答えた。
「今は万霊節。この地域の方々に万霊節の楽しさを少しでも知ってもらい、喜びを分かち合う、またとないチャンスです。そこに専業に依頼するとなると、時間がかかって好機を逸します。関連するところには話を付けておきますので、急なことですが今回だけでもお手伝いいただけませぬかな?」
 えーーーー!?
 悲鳴をあげたくなるミネアだったが、ふと考え直した。とりあえず無職のピンチから抜け出す好機でもある。それに確かにみんなの喜ぶ顔は見てみたい。あわあわと混乱していたミネアは、少し深呼吸をして努めて冷静に、はた目にはやせ我慢しているのはバレバレだろうが、二人に告げた。
「わ、わわ、わかりました。や、やるだけやってみますよ? ででも一人じゃ自信ないししし。あ、あー、そっそうだ。ハンターさんとかにお、お手伝いしてもらえたらととか、思うんですけど?」
 情けないことに声が震えてる。
 しかし、女性はにっこりとほほ笑んでくれただけでなく、そんなミネアにしっかりと頭を下げて、是非お願いします。と言ったのであった。

 その後でようやく女性がクリームヒルト・モンドシャッテ(kz0054)という帝国選挙に出ていた旧帝国の皇族だということを知り、ミネアは後でさらにワタワタとするのであった。

リプレイ本文


「うぅむ。なかなかいいお味……」
 ユーノ・ユティラ(ka0997)はもぐもぐと口を動かしながら、ピースホライズンの料理を堪能していた。王国の料理もイマイチ、帝国は元よりメシマズだと言われているのに、なぜかその境界に位置する都市ピースホライズンの料理だけはどこも絶品という不思議な現象。
 一方、ユーノの向かい側に座る天央 観智(ka0896)はユーノの食べる料理をまるで成分研究する学者のような目つきで観察しながら、何やらノートに書き収めていく。
「煮込み、かな。味は塩とソース……。ふむ、やはり調理法が発展する余地はまだまだありそうだね」
「そうだねっ、こうやって座って食べるならとっても良いけど、せっかく外で色んなイベントやってるんだし、持ち運んで食べる方がいいかな」
 ティアナ・アナスタシア(ka0546)もテーブルに空になった皿を置いてそう言った。
「はぁ、満足。前の依頼でさ、お酒の匂いだけでちょっと気持ち悪くなってたけど、食べたらスッキリしちゃった!」
「む、迎え酒ならぬ、迎えメシですか……」
 ミネアは資金にと渡された財布を持ってふるふると震えながら、ぎこちない笑みを浮かべた。お金、足りるだろうか……?
「ははは、クリームヒルトに豪語した辣腕ぶりはどこにいったのかな?」
 そんな様子を見てシルヴェイラ(ka0726)はくすくすと笑って言った。そう言われるとますますミネアは泣きそうになって、ああ、やっぱり不敬罪で抹殺されるのかな! などと錯乱を始めた。いじりがいのある子である。
 そんな彼女を尻目に、ティアナはバックパックからポテトチップスを取り出して広げる。
「とりあえず、露店で出すアイテムはやっぱりこれがいいかなって思うの。作るの簡単だし」
「あら。……そうですね。種々のイベントを見て回るのに手軽さは重要でしょうね」
 摩耶(ka0362)は一瞬だけ懐かしむような瞳をポテトチップスに向けた後、賑やかにイベントが行われているのであろう広場に目を移し、そう述べた。
「確かにポテトチップスっていう調理法はまだ浸透してないようですし、こういうお祭りのイベントには最適かもですね。ですが、もうひとひねり欲しいような……コンテストもするとすれば、目を引く料理も欲しいですし、利益率の違うアイテムを用意しておかないと、商談の見通しが厳しくなるかもですよ」
 ユーノの言葉に摩耶がそれなら、と声を上げた。
「ポテトチップスは後から様々な味を付加できます。チョコレートをかけたり……コンソメを煮詰めたものに浸すのもいいでしょう」
 リアルブルーのことを少しだけ思い出す摩耶の意見に、なるほど、そういう手があったか。と頷いた。こうしたアイデアがでれば次の意見も出やすい。ユリアン(ka1664)が少し身を乗り出した。
「調理のオリジナリティを出すなら、クレープやカルトフェルトルテなんかもどうかな」
「そうだね、露店はコンテストに結びつける突端ともなる仕掛けですから、手の込んだ品物もあるべきだ。後は客寄せとして香りの良い飲み物などもあればと思うのだがどうだろう」
 シルヴェイラに不意に意見を求められたミネアは少し考えて頷いた。
「飲み物は一番渡しやすくていいかも。そこにポテトチップスを売れば……。ポテトチップスを食べている人がいれば、それを見た人も欲しくなると思うし、良い連鎖はできるよ。もっとガッツリ食べたい人やコンテストに興味ある人にカルトフェルトルテとクレープも用意すればいいんじゃないかな」
「異なる色合いを出し合う事で良い結果を生み出せそうです。さて、この案を誰に託すか、ですが……」
 観智は目を細めて料理店の中を見渡した。料理の傾向や分析をするのは得意だが、風体から目的の人物を探すのは慣れていない。
「そういう時はですね、こうすればいいんですよ」
 ユーノは二度、手を叩き、用命をうかがいにきたウェイターに仰々しく言った。
「君、店長を呼びたまえ」



「ジャガイモなぁ? まあどこでも掃けるから引き取るけど……」
 商人は荷馬車のジャガイモを見てうーん、と唸りつつ、買い取り価格を示した。
 安い。ハンター達の協力を得て、思い切って商談の口火をきったミネアは二の句を告げずに押し黙ってしまった。
「けっこう、足元見てますよね?」
 にこり、と笑ってジュード・エアハート(ka0410)は自身の作った資料をくるりと裏返して、商人に見せて示した。資料にはピースホライズンでのジャガイモの店頭価格から仕入れ価格、まとめ売りでの量と割引額まで詳細に記載されている。
 それを商人がマジマジと見つめるのを確認するとソフィア =リリィホルム(ka2383)はすっとジュードの手を押して、それを隠させる。証拠は示してもそれをつぶさに見られては彼に情報をタダでやることになる。そんなことはしない、させない。
「あはは、まあジャガイモを売るだけなら、確かにこんなものですよねー。でもね、ここだけの話ですよ? ジャガイモ人気、ここ数日で少しあがるかもって聞いているんですよ」
 ジュードの詳細なデータをチラ見せした上で、商人の耳元で囁く『ここだけ』の話。ソフィアの商人のとしての話の巧さが光っていた。商人も多少警戒はしているものの、商機と聞いて先ほどまでは斜に構えていた姿勢が真っ直ぐ向き直っているのを、エアルドフリス(ka1856)は見逃さず、チョココ(ka2449)に視線で合図をした。
「街をあげての大企画イベント、その名もジャガイモ創作コンテストが市長のレオーナ様が近々開催するかもっていうんですの! ジャガイモは身近な食材でしょう? これを機にピースホライズンに近い帝国地域との関係を強化し、町にも人にも和を生み出すのですわっ」
「それは本当かい!?」
 目を丸くする商人に、すかさずエアルドフリスが言葉をつなげる。
「ああ、本当だとも。帝国では旧皇族のクリームヒルト様が、大衆の食事に革命を起こすべく行動なさっている。それに市長が応える形になるがね。コンテストはまだ先だが、明日にはもう企画の発端としてジャガイモ料理の露店を出店することになっている」
 真偽とハッタリを織り交ぜながらエアルドフリスは話す。市長にそんな許可を正式にもらっているわけではないが、露店営業の許可は既に取得しているし、コンテストもやりたいという事は伝えていた。許可されるかどうかはわからないが、はっきり言って、この商談の上では少々誇張を混ぜた方が効果的だ。しかし嘘はつかない。だからチョココは「開催するかも」と言っているし、エアルドフリスもわざと確定の話にはしていない。そんな駆け引きをハンターができるとは思っていない商人は、その言葉にみるみると顔が真面目になっていく。
「創作ですからレシピ開発も盛んになるかなーって、ジャガイモはこれからがシーズンだしぃ、クリームヒルト様も喜んでくれるよね?」
 ソフィアは少々あざといような猫なで声で話す。相手が疑惑を持っている時には反発される可能性もあるが、後ひと押し、という時には割と有効な手だ。耳に優しい声でゆっくり話すことで、相手に想像力を発揮させるのだ。
 商人の顔はどうあしらうか、よりも、いくらで買うかに移行しているのがありありと判る。後はどう落としどころをつけるかだ。
「じゃあ……これでどうだ?」
 商人が提示した数字は最初のそれよりほぼ倍以上に跳ね上がっていた。不作時で高騰している時並の値段だ。ミネアは目を丸くして、即座に頷こうとしたところを、ソフィアがさりげなく「わぁ、嬉しい」と声をあげて商人の視線をミネアから移動させた。
「こんなに高く買ってくれるなら、あの話もしていいんじゃないかな? チョココちゃん」
「あ、そうですねっ。わたくし達も露店を計画していますのよ。でも『ハンター達の屋台』じゃ、どんなに良い料理でもなかなか広まってくれないと悩んでおりましたの。看板を挙げさせてくれるところはないかしらー、って話していましたのよ」
「こちらとしては大歓迎だが……いいのか?」
 商人があまりの好条件に驚いた様子を見せるが、そこはジュードが資料をめくりつつ述べた。
「俺たちはこの町で一旗揚げるつもりじゃないしね。……えーと、あった。これは露店の計画書ね。機材とか広告に協力してくれるなら看板代もこのくらいで出そうかなと思ってるよ」
 ジュードが見せた計画書の概要を貪るように読む商人。一見しただけでも、どんな露店なのかはすぐわかるのだろう。商人は何度もうなずき快諾の意を表した。
「それはありがたいな。ま、その代わりと言っては何だが、こちらは帝国の地方の人々にも喜びを持って帰ってやりたいんだ。少し仕入れに色を付けてくれないかな?」
「良いだろう、うちの商会で取り扱っている物で欲しいものがあれば言ってくれ」
「ありがとうございますっ」
 ソフィアは強く商人と握手を交わした後で、あ、と気づいて、ミネアにその場を交代した。
「よ、よろしくお願いします!」
 ミネアは商人顔負けのハンターによる売り込みぶりに、完全に取り残された感を覚えつつ、商人と固い握手を交わした。
 取引は大成功の裡に終わった。


「おかえりさない!!」
 ピースホライズンに一番近い町の入り口でクリームヒルトをはじめ村の人々は皆の帰りを待っていた。まるで選挙の時とは別人のよう、これが本来の彼女なんだ、と皆気づいた。
「わざわざのお出迎え、痛み入ります。向こうで少しお話を聞きました、選挙、残念でしたね」
 摩耶はクリームヒルトに礼儀正しく一礼した後そう告げた。少し悲しい顔をするかしら。そう少し思ってはいたが、クリームヒルトはニコニコと笑っていた。
「ああ、いいのよ。わたしがいるって事を知ってくれるだけでいいの。地方の実情をちゃんと見ているの。ってメッセージにはなれたと思うし。これで何も変わらなければ、黙っていない人もきっとでてくるから。ね、ね。それよりどうだった? ジャガイモ、売れたかしら?」
「おうよ、ばっちりだぜ」
 クリームヒルトの問いかけに、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)がにっと笑って荷馬車の幌を取り外すと同時に、見守る村人からどよめきが走った。
 今、馬車に積載されているのは、赤、オレンジ、緑と鮮やかな色合いのカボチャ。そして色とりどりの飴細工。砂糖などの調味料や香辛料。季節の果物である葡萄、洋ナシ。ドライフルーツなども各種ある。
「はぁ……ジャガイモと交換でこんなのが手に入るんだべ? こりゃおったまげるなぁ……」
「資金もそれなりに使っちゃったけどね、ミネアさんがこれからの交易に使う分は残してあるし、けっこう成功だったと思うよ」
 ジュードが伝票を繰りながらの発言にクリームヒルトは飛び跳ねて喜んでくれた。あまりのはしゃぎっぷりように、皆もなんだか嬉しくなる。
「そこまで喜んでくれると僭越至極です。せっかくの万霊節を皆で一緒に楽しみましょうか」
 クリームヒルトだって様々な気苦労はあっただろう。それをこうして待ち続けてくれたのだ。エアルドフリスは少しだけでも彼女を労りたいという思いを込めてクリームヒルトの手を差し出して優しくそう告げた。
 どかっ。
「あ、ごめーん。荷物で前見えなかったやー」
 背中を思いっきり木箱で突き飛ばされた後、ジュードのひっくーい声が聞こえる。
 ジュードは一瞥すると、木箱をそのまま別の場所へと運んでいく。エアルドフリスはあまりに動転して、咥えていたパイプを落としそうになっていた。クリームヒルトも何かを悟ったらしく、笑顔のまま、つつーっと後ろに下がっていく。
「にしても……これ、どうやって調理するんだ?」
 場を凍らせたのはエアルドフリスとジュードだけでなく、村人もそうであった。ディスプレイ用のカボチャに包丁を当てている。
「この瓶の粉は、小麦粉?」
「それは粉砂糖!」
 ティアナが驚いて、慌てて説明する。
 そう。ジャガイモと塩だけで生活するこの村には、ハンター達が持ち寄った食材や調味料各種は扱い切れないほど、未知の存在であった。
 若干の焦りで皆が沈黙する中、エリオット・ウェスト(ka3219)が口を開いた。
「みんなが驚く顔を見たくて本場の万霊節を持って来たんだよ。調理法ならここにいる人達があっと言わせるからまぁ見てなよ」
 エリオットはまるで商人の売り口上のような喋りで沈黙を破り、耳目を集めた。ピースホライズンでじっと他のメンバーの企画をあげているところから実際の売り込みを見ていたのをそのまま実践しているのだ。
「ほら、何やってるのさ。料理。まずは身近なものに一品加えるなんてどうかな?」
 エリオットは言葉を続けつつ、ユリアンを肘でつついた。それに我に返ったユリアンは、ああ、と納得した。
「それじゃジャガイモをケーキにするものを。卵はあったよな? それにこの砂糖を混ぜて作るんだ。ほら、おばちゃん達、向こうの酒場でやり方教えるよ」
 ユリアンは手近な調味料を各種空き箱に詰めるとそのまま、酒場へと向かう。村人もいつもと違った万霊節を教えてくれるんだと理解して、皆大喜びになった。
 その勢いに任せてエリオットは続ける。
「見た目も大事だよね? これはね、ランタンにするんだ」
「おう、お菓子も買ってきてやったぞ! ランタンづくりを手伝ったら、やるから、みんな来いよ!」
 エヴァンスがすかさず目星をつけて仕入れておいた飴を取り出して子供たちをけん引する。
「おーかーしー! やるやる、なんでもやるから頂戴っ!!」
 さすがにお菓子はみんなの注目の的だ。なんだかんだと勢い
「こちらは珍しい飲み物を用意したよ。料理の後でみんなで一服しようか。いかがかな?」
 シルヴェイラは珈琲豆の袋を取り出して、少しだけ封を開ける。途端に周囲に漂う珈琲の香りに村人は思わず目を閉じて香りに酔いしれる。
 さあ、村で初めての万霊節が始まる。


 村ではいつもと違った万霊節に人々は酔いしれていた。そんな様子をクリームヒルトは輪の中心でニコニコとしていた。
「万霊節はいかがですか?」
 摩耶が、そんな彼女にジャック・ランタンのぬいぐみるみを差し出した。
「万霊節って昔は怖かっただけなのになぁ、って思ってね」
「そうなのですか? 子供の時に怖い思い出が?」
「革命が起こってお城かに出た後ね。帝国軍が動いているってわかったら夜中でも着の身着のままで逃げたりとか。だから夜中とか眠れなくて……それに、万霊節ってオバケでるじゃない? わたしには旧帝国の人々が思いを寄せてくれている人がオバケになって出てくるんじゃないか、って思ってたわ」
 今は可憐な少女。だが、その横顔は少しだけ違っているように見えた。そんな彼女は摩耶に笑って見せた。
「今はオバケも好きよ?」
 オバケに例えているが、きっとそれは今の帝国の人間にもなぞらえているのだろう、と摩耶は直感した。
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。


 一方、輪の外ではミネアがランタンの明かりの元、一生懸命に収支の計算をしていた。
「今やらなくてもいいだろうがよ」
 ふらりとやってきたエヴァンスは、シルヴェイラの淹れた珈琲を差し出した。
「あ、ありがと。依頼は今日で終わりだから、ちゃんとみんなに報告したいし……その祭りとか、実は輪の中に入るのヘタクソだから」
 そっか。エヴァンスは小さくそういうと、少し周りを見て、ふとミネアの傍に書物が置いてあるのを見つけた。まだ表紙は新しそうだが、何枚も栞を挟み、折り目をつけているあたり、読み込んでいるのが窺えた。
「……やっぱダメだ。仕事はダラダラやるもんじゃねぇ。きっちりケジメつけねぇとな! 今の仕事はこっちだろ?」
 そう言うとエヴァンスは帳簿をひょいっと取り上げると、代わりに浴衣を一着差し出した。
「今回は俺もいい経験になったんだ。その礼だよ。羽織るだけも祭り気分味わえるだろ」
 !
 ミネアはしばしエヴァンスを見上げて、口をパクパクとさせた。そしてはにかんだ笑顔を浮かべた。
「ありがとう!」
「おう、明日からまた商人、頑張りな!」
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。

「お酒飲むなら、こっちのも飲むかい? ちょっともらったのがあるんだけどさ」
「あ、本当ですか? いただきまーす♪」
「このお酒……前のアレですか?」
「うん、余ってたから料理酒にしたんだけど、余っててさ」
「……あそこのお酒、お店で見たら一本2万くらいだったんですよ」
「!!!」
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。

「お腹痛い……でもユリアンさんのケーキも食べたい……」
「もう、食べ過ぎですの! シルヴェイラ様から珈琲貰ってきますの」
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。

「ふふふ、色々勉強になったな。お姉さん、料理上手だね、この成分バランスが凄いよねって言えばさ」
「同窓の士として言いますが、学者がナンパを覚えるとロクなことになりませんよ」
「そういう時は静かにほほ笑むほうが効果的だね」
「……(ため息)」
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。

「あ、あのな、ジュード……」
「なんだよ」
 各々の気持ちを交錯し、万霊節の夜は過ぎていく。

依頼結果

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MVP一覧

  • 大工房
    ソフィア =リリィホルムka2383

重体一覧

参加者一覧

  • 光の水晶
    摩耶(ka0362
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ホワイト・ライト
    ティアナ・アナスタシア(ka0546
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 行商エルフは緊張屋
    ユーノ・ユティラ(ka0997
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 可愛い坊や♪
    エリオット・ウェスト(ka3219
    人間(蒼)|13才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン じゃがいも売るよ!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/10/15 07:07:05
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/12 09:07:43